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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1327596
審判番号 不服2015-6666  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-08 
確定日 2017-03-13 
事件の表示 特願2012- 56031「溶融エステル交換法によるポリカーボネートの連続製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月26日出願公開、特開2012-140632〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、国際出願日である平成14年4月23日(パリ条約による優先権主張 2001年4月24日 (DE)ドイツ連邦共和国)にされたとみなされる特許出願(特願2002-583493号)の一部を新たに特許出願したものであって、平成24年4月11日に手続補正書と上申書が提出され、平成26年2月25日付けで拒絶理由が通知され、同年9月2日に手続補正書と意見書が提出されたが、同年12月4日付けで拒絶査定された。これに対して、平成27年4月8日に審判請求書が提出され、審判請求の日から30日以内である同年5月15日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2.本願発明
平成26年9月2日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された明細書(以下、「本願明細書」という。)及び図面の記載からみて、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
環状の穿孔ディスクを含む反応器が使用される、ジアリールカーボネートとジフェノールとの触媒存在下でのエステル交換法によって得られるオリゴカーボネートからのポリカーボネートの製造方法であって、
該ディスクの穴の寸法Aが、式:
【数1】


(式中、xは、2×10^(-3)?3×10^(-2)Kg^(-2/3)m^(5/3)s^(2/3)の間であり、
ηは、溶融動粘性率であり、Aは、同一面積の円形の穴とした場合の穴の直径である)
を満たし、
該ディスクが、該ディスクの全表面積(ただし、中央部の穴の面積は含まず、ディスク周辺部の穴の面積は含む)と、ウェブの面積との比が2.2?6.5である、
方法。 」

第3.原査定の理由の概要
平成26年12月4日付けでされた拒絶査定の概要は、「この出願については、平成26年2月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由2.によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、平成26年2月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由2.は、「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」というものである。

第4.当審の判断
上記第3.の査定の理由が、妥当なものであるかどうかについて以下に検討する。

4-1.本願発明
本願発明は、上記第2.において認定したとおりのものであって、ジアリールカーボネートとジフェノールとの触媒存在下でのエステル交換法によって得られるオリゴカーボネートからのポリカーボネートの製造方法において使用される環状の穿孔ディスクを含む反応器が、
「該ディスクの穴の寸法Aが、式:
【数1】


(式中、xは、2×10^(-3)?3×10^(-2)Kg^(-2/3)m^(5/3)s^(2/3)の間であり、
ηは、溶融動粘性率であり、Aは、同一面積の円形の穴とした場合の穴の直径である)
を満たし」なる事項(以下、「穴寸法事項」という。)及び
「該ディスクが、該ディスクの全表面積(ただし、中央部の穴の面積は含まず、ディスク周辺部の穴の面積は含む)と、ウェブの面積との比が2.2?6.5である」なる事項(以下、「穴面積比事項」という。)を発明を特定するために必要な事項として備えるものである。

4-2.本願明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、穴寸法事項及び穴面積比事項に関して、次の記載(以下、「摘示a」のようにいう。)がある。

a.「本発明は、特定の反応器を用いたエステル交換法による、オリゴカーボネートからのポリカーボネートの連続製造方法に関する。」(段落【0001】)

b.「すなわち、本発明の目的は、一方では、大きな溶融物表面を生成することによって、フェノールおよび場合によりジアリールカーボネートの特に良好な蒸発を可能にし、そして他方では、大規模でも経済的に操作できる反応器デザインを見つけ出すことであった。」(段落【0014】)

c.「したがって、本発明の目的は、重力の影響下で自由フィルムを連続的に形成しかつ高いフィルム形成速度を有する反応装置によって達成された。これは、環の全面積と穴の間のウェブが占める面積との比が2.2?6.5、好ましくは2.5?5である、環状の回転式穿孔ディスクによって達成される。フィルムの落下長さは、粘度と共に増加させることが有利であることが分かった。式:
【数1】


に従って、等価の穴直径を選択することが特に有利である。等価の穴直径Aは、同一面積の円の直径として定義される。無次元の係数xは、0.002?0.030の間、好ましくは0.004?0.016の間であってよい。xについての種々の値は、粘度を変化させながら、反応装置における様々な場所で同時に想定されてよい。ηは、溶融動粘性率(kinematic melt viscosity)(Pa・秒)である。」(段落【0015】)

d.「【0055】
実施例
ビスフェノールAとジフェニルカーボネートとからテトラフェニルホスホニウムフェノラート触媒を用いて製造されたオリゴカーボネート溶融物、相対粘度1.081、OH末端基含量0.55%および温度270℃を、前述のように、圧力保持装置を介して反応器に供給する。反応器を270℃まで加熱して、7.3mbarの真空とする。ローター速度は2.5rpmである。平均滞留時間45分。反応器からギヤーポンプによって連続して取り出される生成物は、相対粘度1.171、OH末端基含量0.13%であり、これは、より高い溶融粘度のために装備されたものであること以外は前述と同様に、熱媒介油で295℃に加熱された熱交換器を介して別の反応器に搬送される。蒸気流は、部分的に濃縮して、残りは真空ステーションに戻す。
【0056】
第二の反応器を295℃に調節して、1.3mbarの真空とする。ローター速度は0.8rpmである。平均滞留時間130分。蒸気は、真空ステーションに迂回させる。ギヤーポンプを用いて連続的に取り出したポリカーボネートは、相対粘度1.287およびOH末端基含量290ppmを有する。YI値は、ポリカーボネートについて求めたところ、1.42である。 【0057】
YIは、ASTM E313に従って、厚さ4mmの射出成形試料について求めた。射出成形温度は300℃であった。」(段落【0055】-【0057】)

4-3.判断
本願発明の課題の解決は、本願発明の目的の達成によりなされるところ、上記摘示a.及びb.からみて、本願発明の目的は「特定の反応器」あるいは「反応器デザイン」を用いることにより達成されるものであり、摘示c.には、本発明の目的は、「重力の影響下で自由にフィルムを連続的に形成しかつ高いフィルム形成速度を有する」反応装置によって達成されるものであり、具体的には、穴面積比事項を満足する環状の回転式穿孔ディスクによって本願発明の目的は達成されると記載されている。そして、穴寸法事項に関しては、かかる事項を満足することが「特に有利である」と記載されている。
しかしながら、穴面積比事項を満足する環状の回転式穿孔ディスクを使用することと本願発明の目的を達成することとの関係についての技術的な説明はなく、穴面積比事項を満足する環状の回転式穿孔ディスクを使用することで、摘示c.における「重力の影響下で自由にフィルムを連続的に形成しかつ高いフィルム形成速度を有する」反応装置が得られるとする技術的根拠も示されていない。また、穴寸法事項に関しては、上記のとおり、かかる事項を満足することが「特に有利である」と記載されているだけであって、穴寸法事項を満たすことが本願発明においてどのような意味を有するのかについての技術的説明がないため、穴寸法事項が本願発明の目的を達成するために欠かすことができない事項であるのか、それとも本願発明の有利な態様を示すものであるのかも不明である。
結局、穴寸法事項及び穴面積比事項に規定する数値範囲が本願発明の目的を達成するための反応器あるいは反応装置においてどのような技術的意義を持ち、どのように定められたものであるのかについての技術的根拠について全く記載がない。
さらに、摘示d.における「実施例」の記載をみるに、穴寸法事項及び穴面積比事項としてどのような数値を採用した反応器を用いたのか全く記載がないことから、実施例において使用された反応器が穴寸法事項及び穴面積比事項をどのように満足するものであるのか確認できず、また、具体的な構造も何ら記載されていないことから、どのような反応器を用いれば本願発明の目的が達成できるものであるのか想定することができない。とりわけ、実施例においては、摘示d.のとおり、段落【0055】に記載された「反応器」と段落【0056】に記載された「第二の反応器」とを用いているところ、穴寸法事項及び穴面積比事項を満足する環状の回転式穿孔ディスクを複数の反応器にいかに配置すれば本願発明の目的が達成されるものであるのか、すなわち、それぞれの反応器に当該ディスクを何枚ずつどのように配置することにより本願発明の効果が達成できるのかについて、全く記載も示唆もない。そして、本願出願時において、穴寸法事項及び穴面積比事項を備えた反応器であれば本願発明の目的を達成できるとする技術常識が存在していたとも認められない。
よって、本願出願時の技術常識に照らしても、本願発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が、発明の詳細な説明の記載に基づき、穴寸法事項及び穴面積比事項を備えた環状の穿孔ディスクを含む反応器を用いた場合に、本願発明の課題を解決できると認識できるとはいえない。
したがって、穴寸法事項及び穴面積比事項を発明特定事項として備える本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものということはできない。

4-4.請求人の主張
請求人は、平成27年5月15日提出の手続補正書(方式)において、「本発明者らは、物質移動係数の関数である物質移動の効率に関して広範囲に研究することによって、実験的に上記『x』値の好ましい範囲を見出した。具体的には、本発明者らは、所望の粘度に対して上記穴の直径『A』を変化させ、各『A』値に対する物質移動係数『b』を決定した。従って、それにより物質移動係数『b』に対して最大可能値を決定することができ、以下の表に示すように、上記『x』値が本願請求項1に記載の2×10^(-3)?3×10^(-2)(Kg^(-2/3)m^(5/3)s^(2/3))の間である場合、物質移動効率は上記最大可能値の80%を超えることを見出した。」「上記『x』値が小さ過ぎるかまたは大き過ぎると、上記引き延ばし効果が有効にならず、物質移動が低下して反応が不十分となり、より長い滞留時間が必要となり、品質が低下し、更に所定の反応器に対するスループット(処理量)が低下する。」と穴寸法事項に関与する『x』の技術的意義および技術的根拠について主張するものの、本願の特定の反応器は、蒸発、拡散に関し、単純な静止気液2相系のものとは異なり、液相の移送・変動、化学反応を伴う複雑な系のものであるから、上記「表」に示される物質移動効率の算出、測定については、その導出、条件が重要であるところ、本願の明細書には、物質移動効率および前記重要な事項については記載や示唆がないことから、上記主張は本願の明細書の記載に基づいたものではなく、また、本願出願時における技術常識に照らして自明の事項とも認められない。
また、請求人は「上記比が2.2より小さくなり過ぎると、ウェブの面積が小さくなり、溶融物の膜を移動するために用いることができるディスクの表面が小さくなり過ぎて、物質移動の低下を招き、上記比が6.5より大きくなり過ぎると、ウェブの面積が大きくなり過ぎて、上記ディスクによって移動する溶融物の膜が多くなり過ぎて、溶融物の膜において落下するのに用いることができる材料の量が少なくなる。」と穴面積比事項に関する技術的意義および技術的根拠についても主張するが、この主張についても本願の明細書の記載に基づいたものではなく、また、本願出願時における技術常識に照らして自明の事項とも認められない。
さらに、「実際に使用した本願発明の反応器は、以下の表に示す『環状の穿孔ディスク』を含み、いずれも本願請求項1に定義の式を満たすものである。」と主張するが、実施例の記載において穴寸法事項及び穴面積比事項に関して何ら具体的な記載がないことは上記のとおりであり、本願の明細書の記載からは、かかる表に示された「環状の穿孔ディスク」が本願発明の実施例で実際に使用したディスクであるとする根拠は見いだせず、また、かかる表に示された「環状の穿孔ディスク」が本願発明の実施例に実際に使用されたディスクであるとする本願出願時における技術常識があるとも認められない。
したがって、穴寸法事項及び穴面積比事項に関する請求人の主張は採用できない。

4-5.まとめ
以上のとおり、本願発明は明細書の発明の詳細な説明に記載したものということはできないから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、上記第3.の原査定の理由は、依然として妥当なものである。

第5.むすび
以上のとおりであるから、本願は、原査定の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-14 
結審通知日 2016-10-18 
審決日 2016-10-31 
出願番号 特願2012-56031(P2012-56031)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 繁田 えい子  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 藤原 浩子
上坊寺 宏枝
発明の名称 溶融エステル交換法によるポリカーボネートの連続製造方法  
代理人 永井 浩之  
代理人 末盛 崇明  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 浅野 真理  
代理人 朝倉 悟  
代理人 中村 行孝  
代理人 反町 洋  

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