• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12Q
管理番号 1327681
審判番号 不服2016-93  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-04 
確定日 2017-04-25 
事件の表示 特願2012-511069「癌を診断および治療するためのALKの融合に関する方法および組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月18日国際公開、WO2010/132888、平成24年11月 1日国内公表、特表2012-526563〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年5月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年5月15日 米国)を国際出願日とする出願であって、以降の手続は次のとおりである。

平成26年 9月 2日付け 拒絶理由通知書
平成27年 3月 9日 意見書・手続補正書
平成27年 8月26日付け 拒絶査定
平成28年 1月 4日 審判請求書・手続補正書
平成28年 2月17日 手続補正書(方式)
平成28年 9月23日 上申書

第2 本願発明の認定
本願の請求項1?40に係る発明は、平成28年1月4日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?40に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
癌組織サンプルにおいて未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)キナーゼドメインの存在を検出するかまたはその量を測定する方法であって、対象由来の癌組織サンプルにおいて、核酸増幅プロセスを行うこと、並びに前記癌組織サンプル中のALKキナーゼドメインの存在を検出するかまたはその量を測定することを含み、前記増幅プロセスにおいて使用されるプライマーが、ALKのキナーゼドメインをコードする核酸に特異的にハイブリダイズするプライマー対を含み、ALKキナーゼドメインの存在がALK融合に関連する癌の存在を示唆するものである、前記方法。」

第3 引用刊行物に記載された事項
1 刊行物1に記載された事項
原査定の引用文献1であるInt. J. Cancer, (2002), 100, [1], p.49-56(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
なお、原文は英語であるので当審にて翻訳した訳文を記載する。

(刊1-1)「RT-PCR strategy and sensitivity
Because of the involvement of the complete intracellular kinase domain of ALK in the variant translocation partners (for a review, see reference 27) in ALCL or IMT malignancies, we initially started a screening for the presence of mRNA encoding the ALK cytoplasmatic region. Upon positive amplification using primers encompassing the kinase domain (ALK III), we tried to detect extracellular ALK mRNA sequences or chimeric mRNAs of already known translocation partner DNAs in a second step (Fig. 1). In order to assess the sensitivity of primer pairs able to detect even low level mRNA of ALK or for detection of a very few ALK-positive cells within primary tumor material, we stably transfected the human embryonal kidney cell line 293 with full length ALK or an artificial chimeric FAS-ALK construct and prepared dilutions of 293^(Control) and 293^(ALK) cells as depicted in Figure 2. As a result, primer pair ALK-I failed to indicate ALK-positive cells below dilutions of 10?5, while the other ALK primers were able to detect ALK-expressing cells at a level of at least 10?6, indicating sufficient sensitivity of the chosen primers with an optimal signal to noise ratio. ・・・

RT-PCR analysis for the presence of ALK kinase domain sequences

Positive amplification of the cytoplasmatic kinase domain using primer pair III was detected in both control cells 293^(FAS-ALK) and 293^(ALK), while the primer pairs I, II, IV and V, all encompassing extracellular portions of the ALK receptor, could be shown in the 293^(ALK) only (Fig. 3).」(第51ページ右欄第22?51行)
(訳文)「RT-PCRストラテジー及び感受性
ALCL又はIMT悪性腫瘍において変異転座パートナーにおけるALKの完全な細胞内キナーゼドメインの関与のために(レビューへ、参考27参照)、我々はまずALK細胞質領域をコードするmRNAの存在のスクリーニングを始めた。キナーゼドメインを含むプライマー(ALK III)を用い、陽性増幅の場合、我々は第二段階で細胞外ALKmRNA配列又は既知の転座パートナーDNAのキメラmRNAの検出を試みた(図1)。ALKの低レベルのmRNAさえ検出できる、すなわち、原発腫瘍材料のうちの非常に少ないALK陽性細胞の検出のためのプライマー対の感受性を評価するために、我々はヒト胚性腎細胞ライン293を完全長ALK又は人工キメラFAS-ALK構築物で安定にトランスフェクトし、図2に描かれるように293^(Control) and 293^(ALK) の希釈物を用意した。その結果、プライマー対10^(-5)未満の希釈のALK-陽性細胞を示せなかったが、一方、その他のALKプライマー対は少なくとも10^(-6)レベルでALK発現細胞を検出でき、ノイズに対する最適なシグナルの比を持つ選択されたプライマーの十分な感受性を示している。・・・(途中省略)・・・

ALKキナーゼドメインの存在に対するRT-PCR分析
細胞質キナーゼドメインの陽性の増幅は、プライマー対IIIを用いて、対照細胞293^(FAS-ALK) 及び293^(ALK)の両方において検出され、一方、全てALK受容体の細胞外部分を含むプライマー対I,II,IV及びVを用いて、293^(ALK) のみで示されることができた(図3)。」

(刊1-2)「These findings have lead to the assumption that the ALK promoter is silent in non-neuronal adult tissues, especially within the hematopoietic system.
Our results show the frequent expression of ALK in human cell lines established from tumors of ectodermal origin.」(第53ページ右欄最終行?第54ページ左欄第5行)
(訳文)「これらの知見は、ALKのプロモーターは、成人非神経組織において、特に造血系においてサイレントであるという前提につながった。
我々の結果は外胚葉起源の腫瘍から確立されたヒト細胞ラインにおけるALKの多い発現を示した。」

第4 刊行物1に記載された発明
刊行物1(刊1-1)には、キナーゼドメインに対するプライマーであるALK IIIを用いて、転座パートナーDNAのキメラmRNAの検出を試みたことが記載されており、細胞質キナーゼドメインの陽性の増幅が、プライマー対IIIを用いて、対照細胞293^(FAS-ALK) 及び 293^(ALK)の両方において検出されたことが、記載されている。
ここで、細胞質キナーゼドメインの陽性の増幅とは、正確には、細胞質キナーゼドメインのmRNAの増幅である。
そして、プライマー対IIIを用いて、細胞質キナーゼドメインの陽性の増幅が対照細胞293^(FAS-ALK) において検出されたということは、プライマー対IIIが転座パートナーであるFASを有する人工キメラALK構築物である人工キメラFAS-ALK構築物からのmRNA、すなわち、転座パートナーDNAのキメラmRNAを検出したことを意味することは明らかである。
してみると、刊行物1には、「原発腫瘍材料において、ALK IIIを用いて、ALK細胞質キナーゼドメインのmRNAを増幅し、ALKのmRNAを検出し、転座パートナーDNAのキメラmRNAの検出をする方法。」(以下、これを「引用発明」という。)が記載されている。

第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の「原発腫瘍材料」、「ALK細胞質キナーゼドメインのmRNAを増幅」、「ALKのmRNAを検出」は、それぞれ本願発明の「癌組織サンプル」、「核酸増幅プロセスを行うこと」、「未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)キナーゼドメインの存在を検出」に相当する。
また、引用発明の「ALK III」は、キナーゼドメインに対するプライマー対であり、正確には、ALKのキナーゼドメインをコードする核酸に特異的にハイブリダイズするプライマー対であることから、本願発明の「ALKのキナーゼドメインをコードする核酸に特異的にハイブリダイズするプライマー対」に相当する。

本願発明と引用発明とを対比すると、次の点で一致している。
「癌組織サンプルにおいて未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)キナーゼドメインの存在を検出する方法であって、対象由来の癌組織サンプルにおいて、核酸増幅プロセスを行うこと、並びに前記癌組織サンプル中のALKキナーゼドメインの存在を検出することを含み、前記増幅プロセスにおいて使用されるプライマーが、ALKのキナーゼドメインをコードする核酸に特異的にハイブリダイズするプライマー対を含む、前記方法。」

そして、次の点で相違している。
本願発明では、ALKキナーゼドメインの存在がALK融合に関連する癌の存在を示唆する方法であるのに対して、引用発明では、転座パートナーDNAのキメラmRNAの検出をする方法である点(以下、「相違点」という。)

第6 判断
1 上記相違点について
刊行物1(刊1-2)に記載されるとおり、ALKのプロモーターは成人非神経組織においてサイレントであり、すなわち、成人非神経組織においてALKは成人非神経組織において発現されておらず、また、刊行物1(刊1-2)に記載されるとおり、腫瘍細胞においてALKが多く発現していることから、引用発明における転座パートナーDNAのキメラmRNAの検出は、癌組織の検出という前提であることは明らかである。
そして、引用発明におけるようにALKのmRNAを検出し、転座パートナーDNAのキメラmRNAが検出されれば、その癌組織はALK融合に関連する癌のものであることは、明らかである。
してみると、引用発明において転座パートナーDNAのキメラmRNAを検出する方法をALKキナーゼドメインの存在がALK融合に関連する癌の存在を示唆する方法とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

2 本願発明の効果
本願明細書の記載を参酌しても、本願発明が刊行物1の記載との比較において格別に優れた効果を奏するものとも認められない。

第7 審判請求人の主張
審判請求人は、平成28年2月17日付け審判請求書の手続補正書(方式)において、「引用文献1には、ALK核酸の検出とともに、転座パートナー核酸の検出を利用して、ALK融合の存在を検出することが開示されています。従って、引用文献1に記載の発明により解決されるべきALK融合の検出に関する技術的課題に対する解決策は、ALK融合の融合部を横断した増幅を行うプライマーを利用することであり、そのため融合パートナーに関する知識が必要とされます。
これに対して、本願発明においては、融合部の増幅ではなく、単にALKキナーゼドメイン、又はALKキナーゼドメイン及び野生型ALKを検出します。言い換えれば、本願発明では、ALKキナーゼのみの検出、又はALKキナーゼと野生型ALKのアンプリコンを検出して、ALK融合の存在を測定します。引用文献1には、このようなALKプライマーのみを用いることは開示も示唆もされていません。引用文献1に基づいて当業者が作成することを動機付けられる方法は、融合部を横断した増幅を行うプライマーに類似するプライマーを必要とするはずであろうと考えられるため、当業者は、引用文献1に記載の発明におけるALK融合を検出する方法に追随すれば、本発明の方法及びキットとは全く異なるものを開発することになります。
また、引用文献1に記載の方法は、ALKと転座パートナーの両方を増幅するため、この方法を実施するためには既知の転座パートナーを用いる必要があり、未知の融合は検出できません。一方、本願発明における技術的課題に対する解決策は、ALK融合の検出のために、ALKキナーゼと野生型ALK、又はALKキナーゼのみを標的とするプライマーを用いて核酸増幅反応を行うということです。引用文献1には、このような方法でALK融合の検出を行うことを当業者に動機付けるような開示や示唆は存在しません。」(主張1)及び
「引用文献1に記載の実験は、実験室レベルのものに過ぎません。本来は、ALKは、融合が起こらない限り、癌細胞中に存在しません。しかしながら、ALKは、融合の起こっていない癌細胞中に存在しなかったという事実は、本願の出願前には明らかにされていたことではありません。従って、引用文献1と同様、全ての先行技術は、ALK融合の融合部を横断した増幅を行うプライマーを使用してALK融合を検出することを試みており、そのため融合パートナーに関する知識が必要とされます。
先行技術において利用できるALK融合の検出方法が、ALKに対する融合パートナーの知識と融合部を横断する増幅を必要としていたことを考えれば、本願発明の方法及びキットが機能することは当業者にとって驚くべきことであったと考えられます。更に驚くべきことは、本願発明の方法及びキットを用いることにより、単に一つの試験された融合を検出することができるだけでなく、既知であるか未知であるかに関わらずALK融合を検出することができるという利益がもたらされることです。先行技術では未知の融合を検出することは不可能だったため、これは先行技術に対して著しい利点を影響するものです。また、単に既知のALK融合のみを先行技術の方法を使用して検出するには、全ての可能性のあるALK融合を捕らえるために可能性のある全ての融合パートナーのためのプライマーの使用を必要とします。これに対して、本願発明の方法では、ALKに関するプライマーのみの使用を必要とするに過ぎません。」(主張2)、と主張している。
以下、上記主張について検討する。
主張1について、刊行物1(引用文献1)には、ALKのキナーゼドメインをコードする核酸に特異的にハイブリダイズするプライマーであるALK IIIは、ALK部分のみを増幅し、転座パートナー部分を増幅するものではない。そして、そのALK IIIが転座パートナーであるFASを有する人工キメラALK構築物である人工キメラFAS-ALK構築物からのmRNAを検出できているのであるから、刊行物1に記載のプライマーが全て転座パートナー部分も増幅するものであるという前提の主張1には理由がない。
主張2について、請求人は、ALKは、融合が起こらない限り、癌細胞中に存在していないという事実を前提に、本願発明の方法を用いることにより、融合パートナーが既知であるか未知であるかに関わらずALK融合を検出することができるという利益がもたらされることを主張しているが、そのような発明特定事項は本件請求項1に記載されておらず、ALKは融合が起こらない限り、癌細胞中に存在していないという事実が明細書にも記載されていない以上、主張2は特許請求の範囲の記載にも明細書の記載にも基づくものではないので、理由がない。
したがって、請求人の主張には理由がない。

なお、審判請求人は、平成28年9月23日付けの上申書の中で、補正案を提示し、補正の機会を与えるよう主張している。
しかしながら、もとよりそのような補正の機会を与える義務が審判合議体にないことは特許法の各規定に照らし明らかであるし、知的財産高等裁判所においても認められているところである(例えば、平成20年(行ケ)第10275号判決、平成22年(行ケ)第10190号判決、平成19年(行ケ)第10274号判決参照)。
仮に、補正の機会を与えたとしても、刊行物1(刊1-1)においても、「核酸増幅プロセス」は「RT-PCR]であり、「癌組織サンプル」は、「未分化大細胞リンパ腫」(ALCL)及び「炎症性筋線維芽細胞性腫瘍」(IMT)を含むから、その点は相違点とはならず、結論に影響はない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願に係る他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-21 
結審通知日 2016-11-28 
審決日 2016-12-09 
出願番号 特願2012-511069(P2012-511069)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柴原 直司  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 松田 芳子
瀬下 浩一
発明の名称 癌を診断および治療するためのALKの融合に関する方法および組成物  
代理人 弟子丸 健  
代理人 箱田 篤  
代理人 志村 将  
代理人 浅井 賢治  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 西島 孝喜  
代理人 市川 さつき  
代理人 山崎 一夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ