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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05K
管理番号 1327708
審判番号 不服2016-12315  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-15 
確定日 2017-05-23 
事件の表示 特願2012-277260「多層基板、および多層基板の設計方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年6月30日出願公開、特開2014-120736、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年12月19日の出願であって、平成28年2月24日付けで拒絶理由通知がされ、平成28年4月28日に手続補正がされ、平成28年5月18日付け(発送日:5月24日)で拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成28年8月15日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成28年10月24日に前置報告されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願の請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明と対比すると、刊行物1に記載された発明における「多層コア基板」は、請求項1に係る発明の「コア基板」に相当し、同様に、「多層コア基板の一部をなす回路基板」は「配線基板」に、「スルーホールの一部をなす貫通孔の内壁に形成されためっき層」は「めっきスルーホール」に、「ビルドアップ配線層」は「ビルドアップ層」に、それぞれ相当する。
以上のとおりに対応するから、本願の出願時の請求項1に係る発明における配線基板の導体パターン層はスルーホールの側面を囲う第1のパターン部とスペース領域を隔てて第1のパターン部の周囲を覆う第2のパターン部とを有し、厚さ方向に隣り合う少なくとも1組の導体パターン層においては、一方の導体パターン層のスペース領域が他方の導体パターン層のスペース領域の上方に位置しないことについて、刊行物1に記載された発明では回路基板におけるパターンの詳細については規定されていない点で相違するほかは、両者の間に格段の差異を有さない。
上記相違点について検討すると、刊行物2には、セラミック絶縁層の層間に導体層を形成してなる積層基板において、ランドパターンと接地導体層や電源導体層との間の間隙が厚さ方向に隣接する2つの層の間で重ならないようにした点が記載されている。
刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明とは、いずれもスルーホールを有する積層基板に関するものであって共通の技術分野に属し、層間の接続強度の確保は積層基板における当然の課題であるから、刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された発明を組み合わせる動機を有するものであり、また、刊行物2に記載された発明では応力に対処する旨の作用効果を奏するものであるから、本願明細書に記載された効果は、刊行物1に記載された基板に刊行物2に記載されたパターン形状を組み合わせることから予測しうるものであり、進歩性を肯定するに足る顕著な作用効果であるとはいえない。
また、平成28年4月28日提出の手続補正書において、請求項1に導電層がめっきスルーホールと層間接続されていないことが限定されたが、刊行物2の段落【0001】ないし段落【0020】に記載されている様に、積層基板において収縮差に基づく応力が発生し、各種の破壊が生じるのに対処する旨の課題は公知であり、層間接続の有無で変質するものではない。してみると、依然として課題及び作用効果は引用文献の記載から当業者が予測しうる範囲に留まり、進歩性を肯定するに足る顕著な作用効果を奏するものとは認められない。
そして、回路基板において、層間接続を行うか否かは、どのような回路を実装するかに応じて当業者が必要に応じて適宜選択しうる事項にすぎない。

本願の請求項2ないし4に係る発明について、適宜配置を決定することは、単なる設計変更程度の事項にすぎない。

本願の請求項5に係る発明は、請求項1に係る発明と単にカテゴリーを変更したものにすぎない。

したがって、本願請求項1ないし5に係る発明は、刊行物1、2に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物等一覧
1.特開平11-214846号公報
2.特開2009-206495号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
すなわち、審判請求時の補正によって、請求項1および5の「絶縁基材」について「ガラスエポキシからなる」という事項を追加する補正、同じく、「ビルドアップ層」について「プリプレグ、および前記プリプレグの外側に貼り合わされた導電層」という事項を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、これらの事項は当初明細書の段落【0027】、段落【0034】に記載されているから、いわゆる新規事項を追加するものではない。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1ないし5に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、平成28年8月15日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される発明であり、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ガラスエポキシからなる絶縁基材と、前記絶縁基材の少なくとも一方の主面に設けられた導電パターン層とを有する複数の配線基板を積層してなるコア基板と、
前記コア基板を厚さ方向に貫通する貫通孔の内壁面に設けられ、前記複数の配線基板の前記導電パターン層を電気的に接続するめっきスルーホールと、
前記コア基板上に積層されたプリプレグ、および前記プリプレグの外側に貼り合わされた導電層を有するビルドアップ層と、
を備え、
前記各配線基板の前記導電パターン層は、前記絶縁基材上に設けられ、前記めっきスルーホールに電気的に接続され、かつ前記めっきスルーホールの側面を囲う第1のパターン部と、前記絶縁基材上に設けられ、スペース領域を隔てて前記第1のパターン部の周囲に設けられた第2のパターン部と、を有し、
前記導電層は、平面視して、前記めっきスルーホール、前記第1のパターン部および前記スペース領域を覆い、前記導電層は、前記めっきスルーホールと層間接続されておらず、
前記コア基板の複数の前記導電パターン層のうち、厚さ方向に隣り合う少なくともいずれか1組の導電パターン層については、一方の導電パターン層における前記スペース領域が他方の導電パターン層における前記スペース領域の上方に位置しないことを特徴とする多層基板。
【請求項2】
前記1組の導電パターン層は、前記導電層の隣に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の多層基板。
【請求項3】
前記各配線基板の前記絶縁基材の両面に前記導電パターン層が設けられ、前記絶縁基材の一方の主面に設けられた前記導電パターン層の前記スペース領域が、前記絶縁基材の他方の主面に設けられた前記導電パターン層の前記スペース領域の上方に位置しないことを特徴とする請求項1に記載の多層基板。
【請求項4】
前記コア基板は、
前記絶縁基材の両面に前記導電パターン層が設けられ、前記絶縁基材の一方の主面に設けられた前記導電パターン層のスペース領域が、前記絶縁基材の他方の主面に設けられた前記導電パターン層のスペース領域の上方に位置しない、第1の配線基板と、
前記絶縁基材の両面に前記導電パターン層が設けられ、前記絶縁基材の一方の主面に設けられた前記導電パターン層のスペース領域が、前記絶縁基材の他方の主面に設けられた前記導電パターン層のスペース領域の上方に位置する、第2の配線基板と、
を交互に積層したものであることを特徴とする請求項1に記載の多層基板。
【請求項5】
ガラスエポキシからなる絶縁基材および前記絶縁基材の少なくとも一方の主面に設けられた導電パターン層を有する複数の配線基板を積層してなるコア基板と、前記コア基板を厚さ方向に貫通する貫通孔の内壁面に設けられ、前記複数の配線基板の前記導電パターン層を電気的に接続するめっきスルーホールと、前記コア基板上に積層されたプリプレグおよび前記プリプレグの外側に貼り合わされた導電層を有するビルドアップ層と、を備え、前記導電パターン層が、前記絶縁基材上に設けられ、前記めっきスルーホールに電気的に接続され、かつ前記めっきスルーホールの側面を囲う第1のパターン部と、前記絶縁基材上に設けられ、スペース領域を隔てて前記第1のパターン部を囲う第2のパターン部とを有し、前記導電層は、平面視して、前記めっきスルーホール、前記第1のパターン部および前記スペース領域を覆い、前記めっきスルーホールと層間接続されていない、多層基板の、設計方法であって、
前記コア基板の前記複数の配線基板の前記導電パターン層を設計する際、厚さ方向に隣り合う少なくともいずれか1組の導電パターン層については、一方の導電パターン層における前記スペース領域が、他方の導電パターン層における前記スペース領域の上方に位置しないように設計することを特徴とする多層基板の設計方法。」

第5 刊行物
1 刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1(特開平11-214846号公報)には、「多層プリント配線板」に関し、図面(特に、図1なしい図3)とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、コア基板を多層化しても、コア基板内の内層回路との電気的接続をスルーホールを介して十分に確保することのできる、スルーホールの高密度化に有利な多層プリント配線板を提供することにある。」

イ 「【0006】・・・本発明の多層プリント配線板は、内層に導体層を有する多層コア基板上に、層間樹脂絶縁層と導体層とが交互に積層されて各導体層間がバイアホールにて接続されたビルドアップ配線層が形成されてなる多層プリント配線板において、前記多層コア基板には、スルーホールが形成され、そのスルーホールには充填材が充填されるとともに該充填材のスルーホールからの露出面を覆う導体層が形成されてなり、その導体層にはバイアホールが接続されていることを特徴とする。・・・」

ウ 「【0043】
【実施例】(実施例1)
(1) 厚さ 0.5mmの両面銅張積層板を用意し、まず、この両面にエッチングレジストを設け、硫酸-過酸化水素水溶液でエッチング処理し、導体回路を有する基板を得た。次いで、この基板の両面に、ガラスエポキシプリプレグと銅箔2を順次に積層し、温度 165?170 ℃、圧力20kg/cm^(2 )で加圧プレスして、多層コア基板1を作製した(図1(a) 参照)。
【0044】(2) 次に、多層コア基板1に直径 300μmの貫通孔をドリルで削孔し(図1(b)参照)、次いで、パラジウム-スズコロイドを付着させ、下記組成で無電解めっきを施して、基板全面に2μmの無電解めっき膜を形成した。・・・
【0045】次いで、以下の条件で電解銅めっきを施し、厚さ15μmの電解銅めっき膜を形成した(図1(c) 参照)。・・・
【0046】・・・そのスルーホール3を含む導体の全表面に粗化層4を設けた(図1(d) 参照)。
【0047】(4) 次に、平均粒径10μmの銅粒子を含む充填材5(タツタ電線製の非導電性穴埋め銅ペースト、商品名:DDペースト)を、スルーホール3にスクリーン印刷によって充填し、乾燥、硬化させた。そして、導体上面の粗化層4およびスルーホール3からはみ出した充填材5を、#600 のベルト研磨紙(三共理化学製)を用いたベルトサンダー研磨により除去し、さらにこのベルトサンダー研磨による傷を取り除くためのバフ研磨を行い、基板表面を平坦化した(図1(e) 参照)。
【0048】(5) 前記(4) で平坦化した基板表面に、パラジウム触媒(アトテック製)を付与し、前記(2) の条件に従って無電解銅めっきを施すことにより、厚さ 0.6μmの無電解銅めっき膜6を形成した(図1(f) 参照)。
【0049】(6) ついで、前記(2) の条件に従って電解銅めっきを施し、厚さ15μmの電解銅めっき膜7を形成し、導体回路9となる部分の厚付け、およびスルーホール3に充填された充填材5を覆う導体層10(円形のスルーホールランドとなる)となる部分を形成した。
【0050】(7) 導体回路9および導体層10となる部分を形成した基板の両面に、市販の感光性ドライフィルムを張り付け、マスク載置して、100 mJ/cm2 で露光、0.8 %炭酸ナトリウムで現像処理し、厚さ15μmのエッチングレジスト8を形成した(図2(a) 参照)。
【0051】(8) そして、エッチングレジスト8を形成してない部分のめっき膜を、硫酸と過酸化水素の混合液を用いるエッチングにて溶解除去し、さらに、エッチングレジスト8を5%KOHで剥離除去して、独立した導体回路9および充填材5を覆う導体層10を形成した(図2(b) 参照)。
【0052】(9) 次に、導体回路9および充填材5を覆う導体層10の表面にCu-Ni-P合金からなる厚さ 2.5μmの粗化層(凹凸層)11を形成し、さらにこの粗化層11の表面に厚さ 0.3μmのSn層を形成した(図2(c) 参照、但し、Sn層については図示しない)。・・・
【0053】(10)無電解めっき用接着剤A、Bを以下の方法で調製した。
・・・
【0054】
・・・
【0055】(11)基板の両面に、まず、前記(10)で調製したBの無電解めっき用接着剤(粘度1.5Pa・s) をロールコータを用いて塗布し、・・・次いで、Aの無電解めっき用接着剤(粘度1.0 Pa・s) をロールコータを用いて塗布し、・・・厚さ40μmの接着剤層12(2層構造)を形成した(図2(d) 参照、但し、接着剤層の2層構造は省略している)。
【0056】(12)接着剤層12を形成した基板の両面に、・・・接着剤層に85μmφのバイアホールとなる開口を形成した。さらに、・・・フォトマスクフィルムに相当する寸法精度に優れた開口(バイアホール形成用開口13)を有する厚さ35μmの層間絶縁材層(接着剤層)12を形成した(図2(e) 参照)。・・・
【0057】(13)バイアホール形成用開口13を形成した基板を、・・・当該接着剤層12の表面をRmax=1?5 μm程度の深さで粗化し、その後、中和溶液(シプレイ社製)に浸漬してから水洗した。
【0058】(14)接着剤層表面の粗化(粗化深さ 3.5μm)を行った基板に対し、パラジウム触媒(アトテック製)を付与することにより、接着剤層12およびバイアホール用開口13の表面に触媒核を付与した。
【0059】(15)前記(2) と同じ組成の無電解銅めっき浴中に基板を浸漬して、粗面全体に厚さ 0.6μmの無電解銅めっき膜14を形成した(図3(a) 参照)。このとき、無電解銅めっき膜14は薄いために、この無電解めっき膜14の表面には、接着剤層12の粗化面に追従した凹凸が観察された。」

エ 多層コア基板1の作製時に用いられる両面銅張積層板の中心基板やガラスエポキシプリプレグが絶縁材料からなることは明らかであるから、多層コア基板1は、絶縁層と前記絶縁層の少なくとも一方の主面に設けられた導体回路(両面銅張積層板の導体回路、導体回路9)とを複数積層してなるといえる。

オ 図2(b)なしい図3(a)には、多層コア基板1の各導体回路が、スルーホール3と電気的に接続する第1の部分と、間隙を隔てて設けられた第2の部分とで構成されることが示されている。

カ 図3(a)には、無電解銅めっき膜14が、多層コア基板1の上下全面を覆っていることが記載されているから、無電解めっき膜14は、平面視して、前記スルーホール3、前記第1の部分および前記間隔を覆うといえる。

上記記載事項及び図面の図示内容を総合して、本願発明1に則って整理すると、刊行物1には、図3(a)の多層プリント配線板に関して、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「絶縁層と、前記絶縁層の少なくとも一方の主面に設けられた導体回路とを複数積層してなる多層コア基板1と、
前記多層コア基板1を厚さ方向に貫通する貫通孔の内壁面に設けられ前記導体回路を電気的に接続するスルーホール3と、
前記多層コア基板1上に積層された層間絶縁材層12、および前記層間絶縁材層12の外側に形成された無電解めっき膜14を有するビルドアップ配線層と、
を備え、
前記各導体回路は、前記絶縁層上に設けられ、前記スルーホール3に電気的に接続され、かつ前記スルーホール3の側面を囲う第1の部分と、前記絶縁層上に設けられ、間隔を隔てて設けられた第2の部分と、を有し、
前記無電解めっき膜14は、平面視して、前記スルーホール3、前記第1の部分および前記間隔を覆い、前記無電解めっき膜14は、前記スルーホール3と接続する、多層プリント配線板。」

2 刊行物2
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2(特開2009-206495号公報)には、「積層基板」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0010】
また、貫通導体と上下に接続されたランドパターンの外縁が上下で重なると、このような外縁ではセラミック絶縁層(セラミックグリーンシート)とランドパターン(金属ペースト)との間に焼成時の収縮差に起因する応力等の応力が生じやすく、その応力が上下で重なるため、クラックが発生しやすくなる。」

イ 「【0018】
また、本発明の積層基板は、上記構成において、接地導体層または電源導体層は、ランドパターンを取り囲む内縁が貫通導体の上下で重なっていない場合には、上下のセラミック絶縁層の層間で、セラミック絶縁層同士の密着を妨げたり、焼成時の収縮差に起因する応力等の応力が作用したりしやすい、ランドパターンを取り囲む接地導体層や電源導体層のランドパターンを取り囲む内縁の位置も上下で分散される。そのため、上下のセラミック絶縁層をより良好に密着させることができるとともに、セラミック絶縁層にクラックが生じることをより効果的に抑制することができる。」

ウ 「【0021】
本発明の積層基板を添付の図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は本発明の積層基板の実施の形態の一例を示す断面図である。図1において、1はセラミック絶縁層、2は3層以上のセラミック絶縁層1が積層されてなる絶縁基体、3は接地導体層または電源導体層、4は貫通導体、5はランドパターンある。これらセラミック絶縁層1(絶縁基体2),接地導体層または電源導体層3,貫通導体4およびランドパターン5により積層基板9が基本的に構成されている。この積層基板9は、例えば上面に電子部品(図示せず)が搭載されるとともに、この電子部品が貫通導体4およびランドパターン5を介して外部電気回路に電気的に接続される電子部品搭載用の基板として用いられる。」

エ 「【0047】
なお、これらの条件でランドパターン5を形成する場合には、ある貫通導体4の上下で、その貫通導体4と上下に接続されたランドパターン5の外縁と、これらのランドパターン5をそれぞれ取り囲む接地導体層または電源導体層3の内縁とが重ならないようにすることが好ましい。」

上記記載からみて、刊行物2には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明2」という。)。

「セラミック絶縁層1、接地導体層または電源導体層3、貫通導体4およびランドパターン5により構成される積層基板9において、
貫通導体4の上下で、その貫通導体4と上下に接続されたランドパターン5の外縁と、ランドパターン5をそれぞれ取り囲む接地導体層または電源導体層3の内縁とが重ならないようにした積層基板。」

3 刊行物3
前置報告において周知技術を示す文献として引用された刊行物3(特開2011-96741号公報)には、次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、プリプレグとそれを用いた多層プリント配線板に関するものであり、さらに詳しくは、ビルドアップ用のプリプレグとそれを用いた多層プリント配線板に関するものである。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「多層コア基板1」は前者の「コア基板」に相当し、以下同様に、「導体回路」は「導電パターン層」に、「絶縁層」は「絶縁基材」に、「スルーホール3」はその製造方法からみて「めっきスルーホール」に、「ビルドアップ配線層」は「ビルドアップ層」に、「無電解めっき膜14」は「導電層」に、導体回路の「第1の部分」、「間隔」及び「第2の部分」は導電パターン層の「第1のパターン部」、「スペース領域」及び「第2のパターン部」に、「多層プリント配線板」は「多層基板」にそれぞれ相当する。

後者のビルドアップ配線層の「層間絶縁材層12」と前者のビルドアップ層の「プリプレグ」とは、「層間絶縁材層」という限りで共通し、後者の「前記層間絶縁材層12の外側に形成された無電解めっき膜14」と前者の「前記プリプレグの外側に貼り合わされた無電解めっき膜14」とは、「前記層間絶縁材層の外側に形成された導電層」という限りで共通する。

後者の「前記各導体回路は、前記絶縁層上に設けられ、前記スルーホール3に電気的に接続され、かつ前記スルーホール3の側面を囲う第1の部分と、前記絶縁層上に設けられ、間隔を隔てて設けられた第2の部分」と前者の「前記各配線基板の前記導電パターン層は、前記絶縁基材上に設けられ、前記めっきスルーホールに電気的に接続され、かつ前記めっきスルーホールの側面を囲う第1のパターン部と、前記絶縁基材上に設けられ、スペース領域を隔てて前記第1のパターン部の周囲に設けられた第2のパターン部」とは、「前記各導電パターン層は、前記絶縁基材上に設けられ、前記めっきスルーホールに電気的に接続され、かつ前記めっきスルーホールの側面を囲う第1のパターン部と、前記絶縁基材上に設けられ、スペース領域を隔てて設けられた第2のパターン部」という限りで共通する。

以上の点からみて、本願発明1と引用発明1とは、次の一致点、相違点を有するものといえる。
[一致点]
「絶縁基材と、前記絶縁基材の少なくとも一方の主面に設けられた導電パターン層とを複数積層してなるコア基板と、
前記コア基板を厚さ方向に貫通する貫通孔の内壁面に設けられ、前記導電パターン層を電気的に接続するめっきスルーホールと、
前記コア基板上に積層された層間絶縁材層、および前記層間絶縁材層の外側に形成された導電層を有するビルドアップ層と、
を備え、
前記各導電パターン層は、前記絶縁基材上に設けられ、前記めっきスルーホールに電気的に接続され、かつ前記めっきスルーホールの側面を囲う第1のパターン部と、前記絶縁基材上に設けられ、スペース領域を隔てて設けられた第2のパターン部と、を有し、
前記導電層は、平面視して、前記めっきスルーホール、前記第1のパターン部および前記スペース領域を覆う、
多層基板。」

[相違点1]
コア基板について、本願発明1は、絶縁基材が「ガラスエポキシ」からなり、絶縁基材と導電パターン層とを「有する複数の配線基板を」積層してなるのに対し、
引用発明1は、多層コア基板1の絶縁層(両面銅張積層板の中心層)の材料が不明であり、配線基板を積層したものではない点。

[相違点2]
ビルドアップ層について、本願発明1は、「プリプレグ、および前記プリプレグの外側に貼り合わされた」導電層を有するのに対し、
引用発明1は、層間絶縁材層12、および前記層間絶縁材層12の外側に形成された無電解めっき膜14を有する点。

[相違点3]
導電パターン層について、本願発明1は、第2のパターン部が「前記第1のパターン部の周囲に」設けられるのに対して、
引用発明1は、第2の部分が第1の部分の周囲に設けられるか不明である点。

[相違点4]
本願発明1は、「前記導電層は、前記めっきスルーホールと層間接続されて」いないのに対し、
引用発明1は、無電解めっき膜14は、前記スルーホール3と接続する点。

[相違点5]
本願発明1は、「前記コア基板の複数の前記導電パターン層のうち、厚さ方向に隣り合う少なくともいずれか1組の導電パターン層については、一方の導電パターン層における前記スペース領域が他方の導電パターン層における前記スペース領域の上方に位置しない」のに対し、
引用発明1は、かかる構成を備えていない点。

(2)相違点についての判断
まず、[相違点5]について検討する。
本願発明1は、「多層基板100では、リフロー工程や使用時における加熱・冷却サイクルにより、ビルドアップ層120のプリプレグ121内に剥離(以下、「層間剥離」と呼ぶ。)が生じる」(本願明細書の段落【0008】1?3行)ことを課題とし、当該課題は、「めっきスルーホール115の充填材116およびめっきスルーホール115周囲の絶縁部材(絶縁基材112およびプリプレグ114)が、多層基板100の厚さ方向に膨張する」(同じく段落【0009】3?5行)ために生じるものである。
なお、本願発明1にいう「層間剥離」は、上記のとおり、プリプレグ内に生じる「層内」剥離(本願の図6(C)の点線B参照)を含むものである。 すなわち、本願発明1においては、絶縁基材やプリプレグが加熱により膨張し、冷却により収縮することに起因するプリプレグ内の剥離を課題とするものである。

他方、引用発明1は、「コア基板を多層化しても、コア基板内の内層回路との電気的接続をスルーホールを介して十分に確保することのできる、スルーホールの高密度化に有利な多層プリント配線板を提供すること」(段落【0004】)を課題とするものであるから、本願発明1とは課題が異なるものである。

次に、導電パターンの配置に関して、引用発明2を検討する。
引用発明2は絶縁層が「セラミック」であり、セラミック絶縁層(セラミックグリーンシート)とランドパターン(金属ペースト)との間に焼成時の収縮差に起因する応力が生じやすく、その応力が上下で重なるため、クラックが発生しやすくなることを課題とするものである。
そして、その課題解決のために、貫通導体4の上下で、その貫通導体4と上下に接続されたランドパターン5の外縁と、ランドパターン5をそれぞれ取り囲む接地導体層または電源導体層3の内縁とが重ならないようにするものである。
してみると、本願発明1と引用発明2とは、上下(厚み方向)に隣接する導体同士の内縁と外縁とが重ならないようにするという、導電パターンの配置に関しては共通するものの、そのように配置する目的は、引用発明2では、セラミック絶縁層とランドパターンとの焼成時における収縮差の影響を少なくするためであり、本願発明1のように、ガラスエポキシからなる絶縁基材やプリプレグの膨張・収縮による層間(層内)剥離を防止するためのものではない。すなわち、絶縁基材が樹脂であるか、セラミックであるかにより、多層基板としての課題や物性は異なるものである。

そして、引用発明1の絶縁層や接着剤層12は樹脂で形成されることを前提とするのに対し、引用発明2の絶縁層はセラミックで形成され、両者の多層基板としての課題や物性が異なるから、引用発明1と引用発明2とを組み合わせることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

以上のとおり、引用発明1は本願発明1のような課題を有しておらず、また、引用発明1と引用発明2とを組み合わせることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。

また、前置報告において周知技術を示す文献として引用された刊行物3には、相違点5に係る本願発明1の構成に関する記載はない。

したがって、本願発明1は、相違点1ないし4を検討するまでもなく、引用発明1及び引用発明2、並びに刊行物3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明し得るものとはいえない。

2 本願発明2ないし4について
本願発明2ないし4は、本願発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本願発明1と同じ理由で、当業者が容易に発明し得るものとはいえない。

3 本願発明5について
本願発明5は、本願発明1対応する設計方法の発明であり、相違点5に係る本願発明1の構成のうち「厚さ方向に隣り合う少なくともいずれか1組の導電パターン層については、一方の導電パターン層における前記スペース領域が、他方の導電パターン層における前記スペース領域の上方に位置しない」との事項を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由で、当業者が容易に発明し得るものとはいえない。

第7 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1ないし5は、「ガラスエポキシからなる絶縁基材」という特定事項を有するものとなっており、絶縁層が「セラミック」である引用発明2を、絶縁層が「樹脂」であることを前提とする引用発明1に適用することはできないから、当業者であっても、拒絶査定において引用された刊行物1及び2に基いて、容易に発明し得るものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-05-11 
出願番号 特願2012-277260(P2012-277260)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H05K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 冨岡 和人
滝谷 亮一
発明の名称 多層基板、および多層基板の設計方法  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 出口 智也  

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