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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B62J
管理番号 1327758
審判番号 不服2016-13023  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-30 
確定日 2017-05-23 
事件の表示 特願2014- 91519号「ロール角推定装置および輸送機器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月24日出願公開、特開2015-209106号、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年4月25日の出願であって、平成27年10月8日付けで拒絶理由が通知され、平成27年12月18日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたものの、平成28年5月26日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされた。これに対し、平成28年8月30日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願請求項1?12に係る発明は、以下の引用文献1?3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献
1.特開2011-128093号公報
2.特開2010-149681号公報
3.特開2010-70184号公報

第3 本願発明
本願請求項1?11に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明11」という。)は、平成28年8月30日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(本願発明1)は以下のとおりである。
「【請求項1】
移動体のロール角を推定するロール角推定装置であって、
互いに異なる少なくとも2つの方向に沿った第1および第2の軸の周りでの第1および第2の角速度をそれぞれ検出する第1および第2の角速度検出器と、
互いに異なる少なくとも3つの方向における第1、第2および第3の加速度をそれぞれ検出する第1、第2および第3の加速度検出器と、
前記移動体の進行方向の移動速度に関する情報を検出する速度情報検出器と、
前記移動体のロール角を推定するとともに、前記移動体のピッチ角およびピッチ角速度、前記第1および第2の角速度検出器ならびに前記第1、第2および第3の加速度検出器のうち少なくとも1つのオフセット誤差を推定するように構成された推定部とを備え、
前記推定部は、現在の推定動作において、前記第1および第2の角速度検出器の検出値、前記第1、第2および第3の加速度検出器の検出値、前記速度情報検出器の検出値、前回の推定動作によるロール角、ピッチ角およびピッチ角速度の推定値ならびに前回の推定動作によるオフセット誤差の推定値の関係を用いて、前記移動体のロール角、ピッチ角およびピッチ角速度ならびに前記少なくとも1つのオフセット誤差を推定するカルマンフィルタを含む、ロール角推定装置。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した、以下同様。)。
(1a)「【請求項1】
移動体のロール角を推定するロール角推定装置であって、
互いに異なる少なくとも2つの方向に沿った第1および第2の軸の周りでの第1および第2の角速度をそれぞれ検出する第1および第2の角速度検出器と、
互いに異なる少なくとも3つの方向における第1、第2および第3の加速度をそれぞれ検出する第1、第2および第3の加速度検出器と、
前記移動体の進行方向の移動速度に関する情報を検出する速度情報検出器と、
前記移動体のロール角を推定するとともに前記第1および第2の角速度検出器ならびに前記第1、第2および第3の加速度検出器のうち少なくとも1つのオフセット誤差を推定するように構成された推定部とを備え、
前記推定部は、現在の推定動作において前記第1および第2の角速度検出器の検出値、前記第1、第2および第3の加速度検出器の検出値、前記速度情報検出器の検出値、前の推定動作によるロール角の推定値ならびに前の推定動作によるオフセット誤差の推定値に基づいて、前記移動体のロール角および前記少なくとも1つのオフセット誤差を推定する、ロール角推定装置。」
(1b)「【0001】
本発明は、ロール角推定装置およびそれを備えた輸送機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動二輪車等の車両のロール角を推定する種々の推定装置が提案されている。例えば、推定装置により推定されたロール角に基づいてヘッドライトの向きを制御することにより車両の傾斜にかかわらずヘッドライトで適切な方向に光を照射することができる。」
(1c)「【0063】
(4)システム方程式および観測方程式の導出
本実施の形態では、運動学モデルを簡単化するために以下の点を仮定する。
【0064】
(a)車両100はピッチングしない。」
(1d)「【0067】
(d)路面は平坦でかつ傾斜していない。」

したがって、上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「移動体のロール角を推定するロール角推定装置であって、
互いに異なる少なくとも2つの方向に沿った第1および第2の軸の周りでの第1および第2の角速度をそれぞれ検出する第1および第2の角速度検出器と、
互いに異なる少なくとも3つの方向における第1、第2および第3の加速度をそれぞれ検出する第1、第2および第3の加速度検出器と、
前記移動体の進行方向の移動速度に関する情報を検出する速度情報検出器と、
前記移動体のロール角を推定するとともに前記第1および第2の角速度検出器ならびに前記第1、第2および第3の加速度検出器のうち少なくとも1つのオフセット誤差を推定するように構成された推定部とを備え、
前記推定部は、現在の推定動作において前記第1および第2の角速度検出器の検出値、前記第1、第2および第3の加速度検出器の検出値、前記速度情報検出器の検出値、前の推定動作によるロール角の推定値ならびに前の推定動作によるオフセット誤差の推定値に基づいて、前記移動体のロール角および前記少なくとも1つのオフセット誤差を推定する、ロール角推定装置。」

2.引用文献2について
上記引用文献2の段落【0001】?【0007】、段落【0045】?【0048】および図10?11の記載から見て、引用文献2には、自動二輪車のバンク角(ロール角)の推定の精度を向上するためにピッチ角をバンク角(ロール角)推定手段の一つのパラメータとして考慮するという技術的事項が記載されているといえる。

3.引用文献3について
上記引用文献3の段落【0093】?【0101】の記載から、引用文献3には、剛体の運動方程式を用いて、車体のピッチ角速度およびピッチ角を推定する姿勢角オブザーバ(推定部)という技術的事項が記載されている。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「第1および第2の角速度検出器」、「第1、第2および第3の加速度検出器」、「速度情報検出器」および「推定部」は、それぞれ本願発明1の「第1および第2の角速度検出器」、「第1、第2および第3の加速度検出器」、「速度情報検出器」および「推定部」に相当する。ここで、引用発明の「推定部」による「現在の推定動作」は、「検出器」の「検出値」と「前の推定動作による」「推定値」「に基づいて」「推定する」ものであるところ、「基づいて」とは、検出値と推定値の関係を用いていることに他ならない(引用文献1の段落【0110】?【0112】)。
そして、引用発明の「ロール角推定装置」は、本願発明1の「ロール角推定装置」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との一致点および相違点は次のとおりである。
<一致点>
「移動体のロール角を推定するロール角推定装置であって、
互いに異なる少なくとも2つの方向に沿った第1および第2の軸の周りでの第1および第2の角速度をそれぞれ検出する第1および第2の角速度検出器と、
互いに異なる少なくとも3つの方向における第1、第2および第3の加速度をそれぞれ検出する第1、第2および第3の加速度検出器と、
前記移動体の進行方向の移動速度に関する情報を検出する速度情報検出器と、
前記移動体のロール角を推定するとともに、前記第1および第2の角速度検出器ならびに前記第1、第2および第3の加速度検出器のうち少なくとも1つのオフセット誤差を推定するように構成された推定部とを備え、
前記推定部は、現在の推定動作において、前記第1および第2の角速度検出器の検出値、前記第1、第2および第3の加速度検出器の検出値、前記速度情報検出器の検出値、前回の推定動作によるロール角の推定値ならびに前回の推定動作によるオフセット誤差の推定値の関係を用いて、前記移動体のロール角、前記少なくとも1つのオフセット誤差を推定する、ロール角推定装置。」

<相違点1>
推定部に関し、本願発明1の推定部が、「前記移動体のロール角を推定するとともに、前記移動体のピッチ角およびピッチ角速度、前記第1および第2の角速度検出器ならびに前記第1、第2および第3の加速度検出器のうち少なくとも1つのオフセット誤差を推定するように構成され」ており、「現在の推定動作において、前記第1および第2の角速度検出器の検出値、前記第1、第2および第3の加速度検出器の検出値、前記速度情報検出器の検出値、前回の推定動作によるロール角、ピッチ角およびピッチ角速度の推定値ならびに前回の推定動作によるオフセット誤差の推定値の関係を用いて、前記移動体のロール角、ピッチ角およびピッチ角速度ならびに前記少なくとも1つのオフセット誤差を推定する」ものであるのに対し、引用発明の推定部は、「前記移動体のロール角を推定するとともに、前記第1および第2の角速度検出器ならびに前記第1、第2および第3の加速度検出器のうち少なくとも1つのオフセット誤差を推定するように構成され」ているものの、移動体のピッチ角およびピッチ角速度を推定するようには構成されておらず、そのため、引用発明の推定部は、「現在の推定動作において、前記第1および第2の角速度検出器の検出値、前記第1、第2および第3の加速度検出器の検出値、前記速度情報検出器の検出値、前回の推定動作によるロール角の推定値ならびに前回の推定動作によるオフセット誤差の推定値に基づいて、前記移動体のロール角および前記少なくとも1つのオフセット誤差を推定する」ものである、すなわち、現在の推定動作において、引用発明では、前回の推定動作によるピッチ角およびピッチ角速度の推定値を用いるものとはなっていないし、ピッチ角およびピッチ角速度の現在の値を推定するものでもない点。
<相違点2>
同じく推定部に関し、本願発明1が「カルマンフィルタを含む」ものであるのに対し、引用発明ではカルマンフィルタを含むものか否かについては明らかでない点。

(2)判断
相違点1について検討する。
引用文献2には、移動体である自動二輪車のロール角推定手段のパラメータとしてピッチ角を考慮し、ロール角推定の精度を向上させるという技術的事項が記載されているから、この引用文献2に記載の技術的事項を引用発明の推定部に適用し、引用発明の推定部が推定するパラメータとしてピッチ角を加え、これを前回の推定値として現在の推定動作に用いることは当業者にとって想到可能であったといいうる。
しかし、引用文献2に記載の上記技術的事項は、自動二輪車のロール角推定手段のパラメータとしてピッチ角とともにピッチ角速度を用いるものではないし、引用文献2には、ピッチ角とともにピッチ角速度を用いることを示唆する記載もない。
したがって、引用発明の推定部について、引用文献2に記載の技術的事項を適用しても、移動体のピッチ角およびピッチ角速度をも推定し、現在の推定動作において、前回の推定動作によるピッチ角およびピッチ角速度の推定値を用いることを含む本願発明1の推定部の構成には至らない。
また、引用文献3には、移動体といえる車体について、剛体の運動方程式を用いて、車体のピッチ角速度およびピッチ角を推定するという技術的事項が記載されており、推定部の推定の対象としてピッチ角速度およびピッチ角を対象とすることの記載があるといえる。
しかしながら、引用文献3に記載の上記技術的事項は、推定部である姿勢角オブザーバによって車体の(現在の)ピッチ角を得る(推定する)ために、剛体の運動方程式を用いて、まず、前回のロール角、ピッチ角並びに車体横加速度の推定値および前後車体速度の推定値から現在の車体のピッチ角速度を推定し、この推定されたピッチ角速度から現在のピッチ角を推定するもの(すなわち今回のピッチ角速度の推定のために前回推定されたピッチ角は用いられているがピッチ角速度は用いられていないもの)であり(引用文献3の段落【0093】?【0101】)、前回の推定動作によるピッチ角およびピッチ角速度の両方の推定値を用いて、現在のピッチ角およびピッチ角速度の両方を推定するものではない。
したがって、引用発明の推定部について引用文献3に記載の技術的事項を適用しても、現在の推定動作において、前記第1および第2の角速度検出器の検出値、前記第1、第2および第3の加速度検出器の検出値、前記速度情報検出器の検出値、前回の推定動作によるロール角、ピッチ角およびピッチ角速度の推定値ならびに前回の推定動作によるオフセット誤差の推定値の関係を用いて、前記移動体のロール角、ピッチ角およびピッチ角速度ならびに前記少なくとも1つのオフセット誤差を推定するもの、すなわち、現在の推定動作において、前回の推定動作によるピッチ角およびピッチ角速度の推定値を用いることを含む本願発明1の推定部の構成には至らない。
よって、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2?11について
本願発明2?11は、本願発明1をさらに限定したものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用発明、引用文献2及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 原査定について
審判請求時の補正により補正された本願発明1?11は、上記<相違点1>に係る本願発明1の構成を有するものであるから、当業者であっても、上記引用文献1?3に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-05-08 
出願番号 特願2014-91519(P2014-91519)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B62J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 敏史  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 尾崎 和寛
島田 信一
発明の名称 ロール角推定装置および輸送機器  
代理人 岡部 英隆  
代理人 奥田 誠司  
代理人 山下 亮司  
代理人 梶谷 美道  

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