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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D03D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D03D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D03D
審判 全部申し立て 発明同一  D03D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D03D
管理番号 1327840
異議申立番号 異議2016-700516  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-06 
確定日 2017-03-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5831665号発明「ガラスクロス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5831665号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第5831665号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5831665号の請求項1に係る特許についての出願は、平成27年8月12日に特許出願され、平成27年11月6日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人ユニチカグラスファイバー株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年9月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年11月29日(受付日)に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人から平成29年1月10日(受付日)に意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正するもので、以下のア?チの訂正事項1?17からなるものである。

ア 訂正事項1
請求項1の
「20?220cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲の通気度とを備える」を
「20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲の通気度とを備える」に訂正し、
「該経糸の織密度(Dt)と該緯糸の織密度(Dy)とが80?100本/25.4mmの範囲にあり」を
「該経糸の織密度(Dt)と該緯糸の織密度(Dy)とが93?100本/25.4mmの範囲にあり」に訂正し、
「該経糸の質量(Wt)と該経糸の織密度(Dt)との積に対する該緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.06?1.60の範囲にある」を
「該経糸の質量(Wt)と該経糸の織密度(Dt)との積に対する該緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20?1.40の範囲にある」に訂正する。

イ 訂正事項2
本件特許明細書の段落【0008】の
「20?220cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲の通気度とを備える」を
「20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲の通気度とを備える」に訂正し、
「該経糸の織密度(Dt)と該緯糸の織密度(Dy)とが80?100本/25.4mmの範囲にあり」を
「該経糸の織密度(Dt)と該緯糸の織密度(Dy)とが93?100本/25.4mmの範囲にあり」に訂正し、
「該経糸の質量(Wt)と該経糸の織密度(Dt)との積に対する該緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.06?1.60の範囲にある」を
「該経糸の質量(Wt)と該経糸の織密度(Dt)との積に対する該緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20?1.40の範囲にある」に訂正する。

ウ 訂正事項3
同段落【0010】の
「20?220cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲の通気度とを備える」を
「20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲の通気度とを備える」に訂正し、
「通気度が220cm^(3)/cm^(2)/秒」を
「通気度が150cm^(3)/cm^(2)/秒」に訂正する。

エ 訂正事項4
同段落【0012】の
「該経糸の織密度(Dt)と該緯糸の織密度(Dy)とが80?100本/25.4mmの範囲にある」を
「該経糸の織密度(Dt)と該緯糸の織密度(Dy)とが93?100本/25.4mmの範囲にある」に訂正し、
「織密度が80本/25.4mmとした場合には」を
「織密度が93本/25.4mmとした場合には」に訂正する。

オ 訂正事項5
同段落【0015】の
「比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.06?1.60の範囲にある」を
「比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20?1.40の範囲にある」に訂正する。

カ 訂正事項6
同段落【0016】の
「比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.06未満であると、前記通気度が220cm^(3)/cm^(2)/秒を超え」を
「比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20未満であると、前記通気度が150cm^(3)/cm^(2)/秒を超え」に訂正する。

キ 訂正事項7
同段落【0017】の
「比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.60を超えると」を
「比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.40を超えると」に訂正する。

ク 訂正事項8
同段落【0019】の2箇所の
「220cm^(3)/cm^(2)/秒」を
「150cm^(3)/cm^(2)/秒」に訂正する。

ケ 訂正事項9
同段落【0021】の
「該経糸の織密度(Dt)と該緯糸の織密度(Dy)とが80?100本/25.4mmの範囲にあり」を
「該経糸の織密度(Dt)と該緯糸の織密度(Dy)とが93?100本/25.4mmの範囲にあり」に訂正し、
「比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.06?1.60の範囲にある」を
「比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20?1.40の範囲にある」に訂正する。

コ 訂正事項10
同段落【0027】の
「比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)は、好ましくは、1.20?1.50であり、より好ましくは、1.25?1.40の範囲であり」を
「比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)は、より好ましくは、1.25?1.40の範囲であり」に訂正する。

サ 訂正事項11
同段落【0028】の
「20?220cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲」を
「20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲」に訂正する。

シ 訂正事項12
同段落【0033】、【0048】の
「実施例2」を
「参考例」に訂正する。

ス 訂正事項13
同段落【0033】の
「本実施例」を
「本参考例」に訂正する。

セ 訂正事項14
同段落【0049】の
「実施例1,2のガラスクロス」を
「実施例1のガラスクロス」に訂正し、
「通気度が130?220cm^(3)/cm^(2)/秒であり」を
「通気度が130cm^(3)/cm^(2)/秒であり」に訂正する。

ソ 訂正事項15
同段落【0050】の
「比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.06未満である」を
「比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20未満である」に訂正し、
「通気度が220cm^(3)/cm^(2)/秒を超えており」を
「通気度が150cm^(3)/cm^(2)/秒を超えており」に訂正する。

タ 訂正事項16
同段落【0051】、【0052】の
「比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.60を超える」を
「比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.40を超える」に訂正する。

チ 訂正事項17
同段落【0053】の
「緯糸の織密度が80本/25.4mm未満」を
「緯糸の織密度が93本/25.4mm未満」に訂正し、
「比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.06未満である」を
「比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20未満である」に訂正し、
「通気度が220cm^(3)/cm^(2)/秒を超えており」を
「通気度が150cm^(3)/cm^(2)/秒を超えており」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1)アの訂正事項1は、「通気度」を「20?220cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲」から「20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲」に減縮し、「経糸の織密度(Dt)」と「緯糸の織密度(Dy)」を「80?100本/25.4mmの範囲」から「93?100本/25.4mmの範囲」に減縮し、「該経糸の質量(Wt)と該経糸の織密度(Dt)との積に対する該緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)」を「1.06?1.60の範囲」から「1.20?1.40の範囲」に減縮しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、「通気度」に関しては段落【0019】に「本実施形態のガラスクロスは、・・・、20?220cm^(3)/cm^(2)/秒、好ましくは、40?200cm^(3)/cm^(2)/秒、より好ましくは、50?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲の通気度とを備える。」との記載があり、「経糸の織密度(Dt)」と「緯糸の織密度(Dy)」に関しては段落【0027】に「前記経糸の織密度(Dt)及び緯糸の織密度(Dy)は、好ましくは、93?97本である。」との記載があり、「該経糸の質量(Wt)と該経糸の織密度(Dt)との積に対する該緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)」に関しては段落【0027】に「前記経糸の質量(Wt)と経糸の織密度(Dt)との積に対する緯糸の質量(Wy)と緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)は、好ましくは、1.20?1.50であり、より好ましくは、1.25?1.40の範囲であり、さらに好ましくは、1.27?1.37の範囲であり、特に好ましくは、1.28?1.34の範囲である。」との記載があるから、新規事項の追加に該当しない。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

上記(1)イ?チの訂正事項2?17は、上記訂正事項1に対応して、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法126条第5項及び第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1についての訂正を認める。

3.本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。

「経糸と緯糸とから構成され、7?14μmの範囲の厚さと、1m^(2)当たり7?14gの範囲の質量と、20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲の通気度とを備えるガラスクロスであって、
該経糸と該緯糸とは、3.5?4.4μmの範囲で実質的に同一の平均直径を備えるガラスフィラメントを複数本集束してなり、1m当たり5.0×10^(-7)?1.7×10^(-6)kgの範囲の質量を備え、
該経糸の織密度(Dt)と該緯糸の織密度(Dy)とが93?100本/25.4mmの範囲にあり、
該経糸の質量(Wt)に対する該緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)が1.26?1.42の範囲にあり、
該経糸の質量(Wt)と該経糸の織密度(Dt)との積に対する該緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20?1.40の範囲にあることを特徴とするガラスクロス。」

4.取消理由の概要
当審において、訂正前の請求項1に係る特許に対して通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
なお、当該取消理由において採用しなかった特許異議申立理由はない。

1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

2)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

3)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

5)本件特許は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


甲1:特願2015-20376(特開2016-84567)
甲2:国際公開第2015/033731号
甲3:JIS R 3413:2012「ガラス糸」、日本規格協会
甲4:JIS R 3420:2013「ガラス繊維一般試験方法」、日本規格協会
甲5:2016年5月25日付けでユニチカグラスファイバー株式会社技術部の服部剛士が作成した実験成績証明書

<理由1>
請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明である。

<理由2>
請求項1に係る発明は、甲2に記載された発明である。

<理由3>
請求項1に係る発明は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。

<理由4>
請求項1に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。

<理由5>
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

5.判断
(1)取消理由1(特許法第29条の2)について
甲1に記載された発明は、通気度が20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲のものであるとの特定がない。
そして、甲5を参酌しても、甲1に記載された発明における通気度が、20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲内であるとすることはできない。
してみると、請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明でない。
よって、取消理由1によっては、請求項1に係る特許を取り消すことができない。

(2)取消理由2(特許法第29条第1項第3号)について
甲2に記載された発明は、通気度が20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲のものであるとの特定がない。
そして、本件訂正後の参考例(本件訂正前の実施例2)は、
「経糸と緯糸とから構成され、7?14μmの範囲の厚さと、1m^(2)当たり7?14gの範囲の質量と、を備えるガラスクロスであって、
該経糸と該緯糸とは、3.5?4.4μmの範囲で実質的に同一の平均直径を備えるガラスフィラメントを複数本集束してなり、1m当たり5.0×10^(-7)?1.7×10^(-6)kgの範囲の質量を備え、
該経糸の織密度(Dt)と該緯糸の織密度(Dy)とが93?100本/25.4mmの範囲にあり、
該経糸の質量(Wt)に対する該緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)が1.26?1.42の範囲にあり、
該経糸の質量(Wt)と該経糸の織密度(Dt)との積に対する該緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20?1.40の範囲にあるガラスクロス。」
ではあるものの、
通気度は「20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲」ではないことから、通気度以外のパラメータが、本件発明に含まれるものであっても、必ずしも通気度が上記本件発明に特定された範囲である「20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲」となるわけではないと解される。
したがって、甲2に記載された発明の通気度が20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲のものであるとは、必ずしもいえない。
してみると、請求項1に係る発明は、甲2に記載された発明でない。
よって、取消理由2によっては、請求項1に係る特許を取り消すことができない。

(3)取消理由3(特許法第29条第2項)について
上記(2)のとおり、甲2に記載された発明の通気度が20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲のものであるとは、必ずしもいえない。
さらに、甲2には、経糸の質量(Wt)に対する緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)、及び、経糸の質量(Wt)と経糸の織密度(Dt)との積に対する緯糸の質量(Wy)と緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)を、所定の範囲にすることで、ピンホールが発生するという不都合を解消しつつ、製織性が良好で、プリプレグ製造時に反りの発生を抑制するとの課題を達成するとの技術的思想が記載されていない。
ここで、通気度を調整する方法として、経糸の織密度(Dt)や、緯糸の織密度(Dy)や、経糸の質量(Wt)や、緯糸の質量(Wy)を調整することが考えられるところ、比(Wy/Wt)、及び、比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)を所定の範囲にするとの技術的思想のない甲2に記載された発明において、比(Wy/Wt)が1.26?1.42の範囲にあり、比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20?1.40の範囲にあり、かつ、通気度が20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲にあるとすることは、そのような数値範囲にすることの動機に欠けるといわざるを得ない。
そして、本件発明では、比(Wy/Wt)が1.26?1.42の範囲にあり、比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20?1.40の範囲にあり、通気度が20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲にあることで、ピンホールが発生するという不都合を解消しつつ、製織性が良好で、プリプレグ製造時に反りを発生させることがないとの効果を奏するものである(段落【0006】?【0007】、【0010】、【0013】?【0017】)。
してみると、請求項1に係る発明は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明し得たものでない。
よって、取消理由3によっては、請求項1に係る特許を取り消すことができない。

(4)取消理由4(特許法第36条第6項第1号)について
取消理由4の詳細は、以下のア及びイのとおりであった。

ア 請求項1では、経糸の織密度(Dt)と緯糸の織密度(Dy)とが80?100本/25.4mmの範囲にあることが規定されている。
しかし、発明の詳細な説明に記載されている実施例1、2では、経糸の織密度(Dt)と緯糸の織密度(Dy)はいずれも95本/25.4mmである。
一方、発明の詳細な説明に記載されている比較例4では、緯糸の織密度(Dy)は78本/25.4mmである。
してみると、少なくとも緯糸の織密度(Dy)が80本/25.4mmである場合には、実施例1、2よりも、比較例4に近似しているから、発明の効果が奏されることが、発明の詳細な説明において実証されているとはいえない。

イ 請求項1では比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.06?1.60の範囲にあることが規定されている。
しかし、発明の詳細な説明に記載されている実施例1、2では、当該比は1.28及び1.30である。
一方、発明の詳細な説明に記載されている比較例4では、当該比は1.05である。
してみると、少なくとも緯糸の当該比が1.06である場合には、実施例1、2よりも、比較例4に近似しているから、発明の効果が奏されることが、発明の詳細な説明において実証されているとはいえない。

しかし、請求項1に係る発明は、訂正により、経糸の織密度(Dt)と緯糸の織密度(Dy)とが93?100本/25.4mmの範囲にあるものとなり、比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20?1.40の範囲にあるものとなった。
よって、取消理由4によっては、請求項1に係る特許を取り消すことができない。

(5)取消理由5(特許法第36条第4項第1号)について
取消理由5の詳細は、上記(4)ア及びイのとおり、発明の効果が奏されることが、発明の詳細な説明において実証されているとはいえないから、発明の詳細な説明は、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない、というものであった。
しかし、上記(4)のとおり、請求項1に係る発明は、訂正により、経糸の織密度(Dt)と緯糸の織密度(Dy)とが93?100本/25.4mmの範囲にあるものとなり、比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20?1.40の範囲にあるものとなった。
よって、取消理由5によっては、請求項1に係る特許を取り消すことができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ガラスクロス
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスクロスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線板における絶縁材料として、複数本のガラスフィラメントが集束されてなるガラス繊維糸を、経糸と緯糸として、構成されるガラスクロスにエポキシ樹脂等の樹脂を含浸させたプリプレグが用いられている。
【0003】
近年、電子機器の小型化、薄型化、高機能化のために、前記プリント配線板及び前記プリプレグも薄型化が求められており、このため厚さの低減されたガラスクロスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この厚さの低減されたガラスクロスを得るために、水流、水圧、ロールによる圧力、超音波による振動等により、集束されたガラスフィラメントの配列を等方的に押し広げ、経糸及び緯糸の厚みを低減するとともに、経糸又は緯糸の間の隙間を小さくする開繊加工を行うことが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5027335号公報
【特許文献2】特開2002-242047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記ガラスクロスの厚さを低減するために経糸及び緯糸を構成するガラスフィラメントの平均直径をより小さくし、かつ、経糸及び緯糸を構成するガラスフィラメント本数をより減らしていくと、開繊加工を行っても、経糸又は緯糸の間に隙間ができ、この隙間に起因して前記プリプレグとしたときにピンホールが発生することがあるという不都合がある。
【0007】
本発明は、かかる不都合を解消して、製織性が良好で、厚さを低減することができ、しかも経糸又は緯糸の間に隙間が発生することを抑制し、プリプレグとしたときに反り及びピンホールの発生を抑制することのできるガラスクロスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明のガラスクロスは、経糸と緯糸とから構成され、7?14μmの範囲の厚さと、1m^(2)当たり7?14gの範囲の質量と、20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲の通気度とを備えるガラスクロスであって、該経糸と該緯糸とは、3.5?4.4μmの範囲で実質的に同一の平均直径を備えるガラスフィラメントを複数本集束してなり、1m当たり5.0×10^(-7)?1.7×10^(-6)kgの範囲の質量を備え、該経糸の織密度(Dt)と該緯糸の織密度(Dy)とが93?100本/25.4mmの範囲にあり、該経糸の質量(Wt)に対する該緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)が1.26?1.42の範囲にあり、該経糸の質量(Wt)と該経糸の織密度(Dt)との積に対する該緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20?1.40の範囲にあることを特徴とする。
【0009】
本発明のガラスクロスは、経糸と緯糸とから構成されたものであり、電子機器の小型化、薄型化、高機能化に対応するプリプレグに使用するために、7?14μmの範囲の厚さと、1m^(2)当たり7?14gの範囲の質量とを備えることが必要である。本発明のガラスクロスにおいて、厚さが14μmを超え、かつ、1m^(2)当たりの質量が14gを超えるときには、前記電子機器の小型化、薄型化、高機能化に対応することができない。また、本発明のガラスクロスにおいて、厚さを7μm未満、かつ、1m^(2)当たりの質量を7g未満とすることは技術的に困難である。
【0010】
また、本発明のガラスクロスは、20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲の通気度を備える必要がある。本発明のガラスクロスにおいて、通気度が150cm^(3)/cm^(2)/秒を超えるときには、該ガラスクロスをプリプレグとしたときにピンホールの発生を抑制することができない。また、本発明のガラスクロスにおいて、通気度を20cm^(3)/cm^(2)/秒未満とすることは技術的に困難である。
【0011】
本発明のガラスクロスにおいて、厚さを前記範囲とするために、前記経糸と前記緯糸とは、3.5?4.4μmの範囲で実質的に同一の平均直径を備えるガラスフィラメントを20?60本の範囲の本数で集束してなることが必要である。前記経糸又は前記緯糸を構成する前記ガラスフィラメントの平均直径が4.4μmを超えるときには、ガラスクロスの厚さが前記範囲を超えることになる。また、前記経糸又は緯糸を構成する前記ガラスフィラメントの平均直径を3.5μm未満とすることは技術的に困難である。
【0012】
また、本発明のガラスクロスにおいて、1m^(2)当たりの質量及び通気度を前記範囲とするために、前記経糸と前記緯糸とは、1m当たり5.0×10^(-7)?1.7×10^(-6)kgの範囲の質量を備え、該経糸の織密度(Dt)と該緯糸の織密度(Dy)とが93?100本/25.4mmの範囲にあることが必要である。前記経糸又は前記緯糸の1m当たりの質量が1.7×10^(-6)kgを超え、かつ、織密度が100本/25.4mmを超えると、ガラスクロスの1m^(2)当たりの質量が前記範囲を超えることになる。また、前記経糸又は前記緯糸の1m当たりの質量を5.0×10^(-7)kg未満、かつ、織密度が93本/25.4mmとした場合には、ガラスクロスの通気度が前記範囲を超えることになる。
【0013】
前記経糸と前記緯糸とを用いてガラスクロスを製織する場合、該経糸は製織ラインの長さ方向に配置されるため張力がかかった状態にあり移動しにくく、開繊加工を行っても、糸の厚みが減少しにくく、相互の間隔が開きやすい。一方、前記緯糸は製織ラインの幅方向に配置され、張力がかからない状態にあるため移動しやすく、開繊加工によって、糸の厚みが減少しやすく、相互の間隔を狭めやすい。しかしながら、緯糸の方が糸の厚みが減少しやすく、相互の間隔を狭めやすいからといって、ガラスクロス中に存在する隙間を小さくするために、織密度を高めることで緯糸の量を増やすと、製織性が悪化し、また、経糸方向と緯糸方向とでクリンプ率が変わることで織縮みが大きく異なるので、プリプレグを製造した際に反りが発生する。
【0014】
本発明者らは、製織性を維持し、プリプレグ製造時に反りを発生させることなく、ガラスクロス中に存在する隙間を低減する手段について検討した結果、前記経糸と前記緯糸との質量を変えることにより、製織性を維持し、プリプレグ製造時に反りを発生させることなく、ガラスクロス中に存在する隙間を低減することができることを見出した。
【0015】
そこで、本発明のガラスクロスにおいて、前記経糸と前記緯糸とは、該経糸の質量(Wt)に対する該緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)が1.26?1.42の範囲にあり、該経糸の質量(Wt)と該経糸の織密度(Dt)との積に対する該緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20?1.40の範囲にあることにより、前記緯糸相互の間隔を開きにくくし、通気度を前記範囲とすることができる。
【0016】
前記経糸の質量(Wt)に対する前記緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)が1.26未満、又は、該経糸の質量(Wt)と該経糸の織密度(Dt)との積に対する該緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20未満であると、前記通気度が150cm^(3)/cm^(2)/秒を超え、ガラスクロスをプリプレグとしたときにピンホールの発生を防止することができない。
【0017】
また、前記経糸の質量(Wt)に対する前記緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)が1.42を超えるか、又は、該経糸の質量(Wt)と該経糸の織密度(Dt)との積に対する該緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.40を超えると、得られたガラスクロスを用いてプリプレグを製造する際に反りが発生したり、製織自体が困難になる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0019】
本実施形態のガラスクロスは、経糸と緯糸とから構成され、7?14μm、好ましくは、10?13μmの範囲の厚さと、1m^(2)当たり7?14g、好ましくは、8?11gの範囲の質量と、20?150cm^(3)/cm^(2)/秒、好ましくは、40?150cm^(3)/cm^(2)/秒、より好ましくは、50?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲の通気度とを備える。
【0020】
尚、前記ガラスクロスの厚さは、JIS R 3420に準拠し、マイクロメータにより測定し、前記ガラスクロスの重量は、JIS R 3420に準拠した秤により測定し、前記ガラスクロスの通気度は、JIS R 3420に準拠し、フラジール形通気性試験機により測定する。
【0021】
ここで、前記経糸と前記緯糸とは、3.5?4.4μmの範囲で実質的に同一の平均直径を備えるガラスフィラメントを複数本集束してなり(経糸を構成するガラスフィラメントと緯糸を構成するガラスフィラメントとは実質的に同一の平均直径を有する)、1m当たり5.0×10^(-7)?1.7×10^(-6)kgの範囲の質量を備え、該経糸の織密度(Dt)と該緯糸の織密度(Dy)とが93?100本/25.4mmの範囲にあり、該経糸の質量(Wt)に対する該緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)が1.26?1.42の範囲にあり、該経糸の質量(Wt)と該経糸の織密度(Dt)との積に対する該緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20?1.40の範囲にある。
【0022】
前記ガラスフィラメントは、所定のガラスバッチ(ガラス原材料)を溶融して繊維化することにより得られ、例えば、Eガラス繊維(汎用ガラス繊維)組成(SiO_(2)を52?56質量%、B_(2)O_(3)を5?10質量%、Al_(2)O_(3)を12?16質量%、CaOとMgOとを合計20?25質量%、Na_(2)OとK_(2)OとLi_(2)Oとを合計0?1質量%含む)、高強度ガラス繊維組成(SiO_(2)を57?70質量%、Al_(2)O_(3)を18?30質量%、CaOを0?13質量%、MgOを5?15質量%、Li_(2)OとNa_(2)OとK_(2)Oとを合計0?1質量%、TiO_(2)を0?1質量%、B_(2)O_(3)を0?2質量%含む)、低誘電率ガラス繊維組成(SiO_(2)を50?60質量%、B_(2)O_(3)を18?25%、Al_(2)O_(3)を10?18質量%、CaOを2?9質量%、MgOを0.1?6質量%、Na_(2)OとK_(2)OとLi_(2)Oとを合計0.05?0.5質量%、TiO_(2)を0.1?5質量%含む)等の組成を備えるものを用いることができる。汎用性の観点から、前記ガラスフィラメントは、Eガラス繊維組成であることが好ましい。また、プリプレグとした際の反りの抑制という観点からは、前記ガラスフィラメントは、前記高強度ガラス繊維組成であることが好ましく、SiO_(2)を64?66質量%、Al_(2)O_(3)を24?26質量%、MgOを9?11質量%含み、SiO_(2)とAl_(2)O_(3)とMgOとを合計で99質量%以上含むガラス繊維組成であることがさらに好ましい。前記ガラスフィラメントは、例えば、20?60本の範囲の本数で、それ自体公知の方法により集束され、前記経糸又は前記緯糸とされる。尚、ガラスバッチを溶融し、繊維化してガラスフィラメントを得て、次いで、このガラスフィラメント複数本を集束して経糸又は緯糸を得ることを紡糸という。
【0023】
前記経糸を構成するガラスフィラメント及び前記緯糸を構成するガラスフィラメントは、好ましくは、3.6?4.1μmの範囲で実質的に同一の平均直径を備える。ここで、「実質的に同一の平均直径を備える」とは、IPC-4412A規格に基づいて、同一の呼び径(nominal diameter)を有することを意味する。尚、ガラスフィラメントの平均直径は、走査型電子顕微鏡の倍率を500倍にして測定する。
【0024】
前記緯糸及び前記緯糸とは、好ましくは、9.0×10^(-7)?1.7×10^(-6)kgの範囲の質量を備え、より好ましくは、1.2×10^(-6)?1.7×10^(-6)kgの範囲の質量を備える。尚、緯糸及び緯糸の重量は、JIS R 3420に準拠した秤により測定する。
【0025】
前記経糸の質量(Wt)に対する緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)は、好ましくは、1.26?1.40の範囲であり、より好ましくは、1.27?1.37の範囲であり、さらに好ましくは、1.28?1.34の範囲であり、特に好ましくは、1.29?1.33の範囲である。
【0026】
本実施形態のガラスクロスは、前記経糸及び前記緯糸を用い、それ自体公知の織機により製織し、開繊加工を行うことにより得ることができる。前記織機としては、例えば、エアージェット又はウォータージェット等のジェット式織機、シャトル式織機、レピア織機等を挙げることができる。また、前記織機による織り方としては、例えば、平織、朱子織、ななこ織、綾織等を挙げることができる。前記開繊加工としては、例えば、水流圧力による開繊、液体を媒体とした高周波の振動による開繊、面圧を有する流体の圧力による開繊、ロールによる加圧での開繊が挙げられる。これらの開繊加工の中では、水流圧力による開繊、又は液体を媒体とした高周波の振動による開繊を使用することが、経糸及び緯糸の開繊加工後の開繊加工後の糸幅が均一になるために好ましく、開繊加工に起因するガラスクロス外観上の欠陥(例えば、目曲がり)の発生が抑制されることから、これらを併用することがより好ましい。
【0027】
前記経糸の織密度(Dt)及び緯糸の織密度(Dy)は、好ましくは、93?97本である。前記経糸の質量(Wt)と経糸の織密度(Dt)との積に対する緯糸の質量(Wy)と緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)は、より好ましくは、1.25?1.40の範囲であり、さらに好ましくは、1.27?1.37の範囲であり、特に好ましくは、1.28?1.34の範囲である。
【0028】
本実施形態のガラスクロスによれば、7?14μmの範囲の厚さと、1m^(2)当たり7?14gの範囲の質量とを備えることにより、電子機器の小型化、薄型化、高機能化に対応するプリプレグに使用することができる。また、本実施形態のガラスクロスは、20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲の通気度と備えることにより、前記プリプレグとしたときに、ピンホールの発生を抑制することができる。
【0029】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0030】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、溶融したときにEガラス繊維組成(密度2.6g/cm^(3))となるように調合されたガラスバッチを用いて紡糸することにより、直径4μmのガラスフィラメントが集束されてなる、1m当たりの質量が1.29×10^(-6)kgの経糸を得た。また、同様にして、直径4μmのガラスフィラメントが集束されてなる、1m当たりの質量が1.65×10^(-6)kgの緯糸を得た。このとき、前記経糸の質量(Wt)に対する前記緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)は、1.28であった。
【0031】
次に、エアージェット式織機を用い、前記経糸の織密度及び前記緯糸の織密度をいずれも95本/25.4mmとして、平織のガラスクロスを製織し、水流圧力による開繊、及び液体を媒体とした高周波の振動による開繊を施した。得られたガラスクロスは、前記経糸の質量(Wt)と経糸の織密度(Dt)との積に対する前記緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.28であり、厚さが13μm、1m^(2)当たりの質量が11g、通気度が130cm^(3)/cm^(2)/秒であった。
【0032】
また、得られたガラスクロスは、製織性が良好で、プリプレグとしたときに反りが無く、ピンホールの発生も無かった。結果を表1に示す。尚、表1中、製織性は、24時間において、緯糸の交換等最低限必要な織機の運転停止を除き、糸切れ等によるトラブルによる織機の運停止が生じなかった場合の織機運転時間で、実際の織機運転時間を割った値を意味する。製織性が、0.9以上であれば製造効率が優れており、0.7以上であれば工業的製造に適し、0.7未満であれば工業的製造に適さない。
【0033】
〔参考例〕
本参考例では、まず、溶融したときにEガラス繊維組成(密度2.6g/cm^(3))となるように調合されたガラスバッチを用いて紡糸することにより、直径4μmのガラスフィラメントが集束されてなる、1m当たりの質量が0.99×10^(-6)kgの経糸を得た。また、同様にして、直径4μmのガラスフィラメントが集束されてなる、1m当たりの質量が1.29×10^(-6)kgの緯糸を得た。このとき、前記経糸の質量(Wt)に対する前記緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)は、1.30であった。
【0034】
次に、エアージェット式織機を用い、前記経糸の織密度及び前記緯糸の織密度をいずれも95本/25.4mmとして、平織のガラスクロスを製織し、水流圧力による開繊、および液体を媒体とした高周波の振動による開繊を施した。得られたガラスクロスは、前記経糸の質量(Wt)と経糸の織密度(Dt)との積に対する前記緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.30であり、厚さが12μm、1m^(2)当たりの質量が8.5g、通気度が220cm^(3)/cm^(2)/秒であった。
【0035】
また、得られたガラスクロスは、製織性が良好で、プリプレグとしたときに反りが無く、ピンホールの発生も無かった。結果を表1に示す。
【0036】
〔比較例1〕
まず、溶融したときにEガラス繊維組成(密度2.6g/cm^(3))となるように調合されたガラスバッチを用いて紡糸することにより、直径4μmのガラスフィラメントが集束されてなる、1m当たりの質量が1.29×10^(-6)kgの経糸及び緯糸を得た。このとき、前記経糸の質量(Wt)に対する前記緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)は、1.00であった。
【0037】
次に、エアージェット式織機を用い、前記経糸の織密度及び前記緯糸の織密度をいずれも95本/25.4mmとして、平織のガラスクロスを製織し、水流圧力による開繊、および液体を媒体とした高周波の振動による開繊を施した。得られたガラスクロスは、前記経糸の質量(Wt)と経糸の織密度(Dt)との積に対する前記緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.00であり、厚さが13μm、1m^(2)当たりの質量が9.6g、通気度が240cm^(3)/cm^(2)/秒であった。
【0038】
また、得られたガラスクロスは、製織性が良好で、プリプレグとしたときに反りは無かったが、ピンホールの発生が認められた。結果を表1に示す。
【0039】
〔比較例2〕
本比較例では、まず、溶融したときにEガラス繊維組成(密度2.6g/cm^(3))となるように調合されたガラスバッチを用いて紡糸することにより、直径4μmのガラスフィラメントが集束されてなる、1m当たりの質量が0.99×10^(-6)kgの経糸を得た。また、同様にして、直径4μmのガラスフィラメントが集束されてなる、1m当たりの質量が1.65×10^(-6)kgの緯糸を得た。このとき、前記経糸の質量(Wt)に対する前記緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)は、1.67であった。
【0040】
次に、エアージェット式織機を用い、前記経糸の織密度及び前記緯糸の織密度をいずれも95本/25.4mmとして、平織のガラスクロスを製織し、水流圧力による開繊、および液体を媒体とした高周波の振動による開繊を施した。得られたガラスクロスは、前記経糸の質量(Wt)と経糸の織密度(Dt)との積に対する前記緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.67であり、厚さが13μm、1m^(2)当たりの質量が9.9g、通気度が180cm^(3)/cm^(2)/秒であった。
【0041】
また、得られたガラスクロスは、プリプレグとしたときにはピンホールの発生が無かったが反りが認められ、製織性も不良が認められた。結果を表1に示す。
【0042】
〔比較例3〕
本比較例では、まず、溶融したときにEガラス繊維組成(密度2.6g/cm^(3))となるように調合されたガラスバッチを用いて紡糸することにより、直径4μmのガラスフィラメントが集束されてなる、1m当たりの質量が1.29×10^(-6)kgの経糸を得た。また、同様にして、直径4μmのガラスフィラメントが集束されてなる、1m当たりの質量が1.65×10^(-6)kgの緯糸を得た。このとき、前記経糸の質量(Wt)に対する前記緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)は、1.28であった。
【0043】
次に、エアージェット式織機を用い、前記経糸の織密度を95本/25.4mm、前記緯糸の織密度を120本/25.4mmとして、平織のガラスクロスを製織し、水流圧力による開繊、及び液体を媒体とした高周波の振動による開繊を施した。得られたガラスクロスは、前記経糸の質量(Wt)と経糸の織密度(Dt)との積に対する前記緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.62であり、厚さが15μm、1m^(2)当たりの質量が12.9g、通気度が100cm^(3)/cm^(2)/秒であった。
【0044】
また、得られたガラスクロスは、プリプレグとしたときにはピンホールの発生が無かったが反りが認められ、製織性も不良が認められた。結果を表1に示す。
【0045】
〔比較例4〕
本比較例では、まず、溶融したときにEガラス繊維組成(密度2.6g/cm^(3))となるように調合されたガラスバッチを用いて紡糸することにより、直径4μmのガラスフィラメントが集束されてなる、1m当たりの質量が1.29×10^(-6)kgの経糸を得た。また、同様にして、直径4μmのガラスフィラメントが集束されてなる、1m当たりの質量が1.65×10^(-6)kgの緯糸を得た。このとき、前記経糸の質量(Wt)に対する前記緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)は、1.28であった。
【0046】
次に、エアージェット式織機を用い、前記経糸の織密度を95本/25.4mm、前記緯糸の織密度をいずれも78本/25.4mmとして、平織のガラスクロスを製織し、水流圧力による開繊、及び液体を媒体とした高周波の振動による開繊を施した。得られたガラスクロスは、前記経糸の質量(Wt)と経糸の織密度(Dt)との積に対する前記緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.05であり、厚さが13μm、1m^(2)当たりの質量が9.9g、通気度が350cm^(3)/cm^(2)/秒であった。
【0047】
また、得られたガラスクロスは、製織性が良好で、プリプレグとしたときに反りが無かったが、ピンホールの発生が認められた。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1から、本発明に係る実施例1のガラスクロスによれば、製織性が良好で、通気度が130cm^(3)/cm^(2)/秒であり、プリプレグとしたときにも反りが無く、ピンホールの発生も無いことが明らかである。
【0050】
一方、経糸の質量(Wt)に対する緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)が1.26未満、かつ、経糸の質量(Wt)と経糸の織密度(Dt)との積に対する前記緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20未満である比較例1のガラスクロスでは、通気度が150cm^(3)/cm^(2)/秒を超えており、プリプレグとしたときにピンホールが発生する。
【0051】
また、経糸の質量(Wt)に対する緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)が1.42を超え、かつ、経糸の質量(Wt)と経糸の織密度(Dt)との積に対する前記緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.40を超える比較例2のガラスクロスでは、プリプレグとしたときにピンホールの発生は無いものの、反りがあり、製織性が不良である。
【0052】
また、緯糸の織密度が100本/25.4mmを超え、かつ、経糸の質量(Wt)と経糸の織密度(Dt)との積に対する前記緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.40を超える比較例3のガラスクロスでは、プリプレグとしたときにピンホールの発生は無いものの、反りがあり、製織性が不良でガラスクロスの厚さが厚くなる。
【0053】
さらに、緯糸の織密度が93本/25.4mm未満、かつ、経糸の質量(Wt)と経糸の織密度(Dt)との積に対する前記緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20未満である比較例4のガラスクロスでは、通気度が150cm^(3)/cm^(2)/秒を超えており、プリプレグとしたときにピンホールが発生する。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸と緯糸とから構成され、7?14μmの範囲の厚さと、1m^(2)当たり7?14gの範囲の質量と、20?150cm^(3)/cm^(2)/秒の範囲の通気度とを備えるガラスクロスであって、
該経糸と該緯糸とは、3.5?4.4μmの範囲で実質的に同一の平均直径を備えるガラスフィラメントを複数本集束してなり、1m当たり5.0×10^(-7)?1.7×10^(-6)kgの範囲の質量を備え、
該経糸の織密度(Dt)と該緯糸の織密度(Dy)とが93?100本/25.4mmの範囲にあり、
該経糸の質量(Wt)に対する該緯糸の質量(Wy)の比(Wy/Wt)が1.26?1.42の範囲にあり、
該経糸の質量(Wt)と該経糸の織密度(Dt)との積に対する該緯糸の質量(Wy)と該緯糸の織密度(Dy)との積の比(Wy×Dy)/(Wt×Dt)が1.20?1.40の範囲にあることを特徴とするガラスクロス。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-07 
出願番号 特願2015-159612(P2015-159612)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (D03D)
P 1 651・ 536- YAA (D03D)
P 1 651・ 161- YAA (D03D)
P 1 651・ 121- YAA (D03D)
P 1 651・ 113- YAA (D03D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 大輔  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 山田 由希子
蓮井 雅之
登録日 2015-11-06 
登録番号 特許第5831665号(P5831665)
権利者 日東紡績株式会社
発明の名称 ガラスクロス  
代理人 特許業務法人創成国際特許事務所  
代理人 水谷 馨也  
代理人 特許業務法人創成国際特許事務所  
代理人 田中 順也  

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