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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1327844
異議申立番号 異議2016-700729  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-10 
確定日 2017-03-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5859114号発明「複合黒鉛質粒子およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5859114号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3、5、8?9〕、〔6?7〕について」訂正することを認める。 特許第5859114号の請求項1?3、5?9に係る特許を維持する。 特許第5859114号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5859114号の請求項1?9に係る特許についての出願は、2013年 3月 8日(優先権主張2012年 3月22日、日本国)を国際出願日とする特許出願であって、平成27年12月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人「山▲崎▼浩一郎」により特許異議の申立てがされ、平成28年10月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年12月14日に意見書の提出及び訂正の請求があり、平成28年12月26日に特許権者から上申書が提出され、訂正の請求に対して特許異議申立人から平成29年 2月13日付けで意見書が提出されたものである。
また、差出日が平成29年 2月28日で特許権者から訂正請求書に対する手続補正書が提出された。

なお、上記訂正請求書に対する補正は、訂正の請求の記載内容(請求項2に対する訂正事項2)を添付した訂正特許請求の範囲の記載内容と整合させる補正であるところ、特許異議申立人は、提出した意見書の記載(第6頁下から第7行?第6頁下から第3行)から、添付した訂正特許請求の範囲に記載された事項を請求項2に係る発明として理解して主張しており、すでに補正された訂正請求書の記載内容に対する意見を主張したものといえるから、特許異議申立人に再度意見を求めなかった。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のア?カのとおりである。

ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に請求項4に記載の限定事項を付加して、請求項1に係る特許発明を「球状であり、且つ、円形度が0.92以上であり、且つ、C-K端X線吸収スペクトルにおけるピーク強度比の入射角依存性S_(60/0)が0.7以下である黒鉛と、前記黒鉛に直接的に付着する導電性炭素質微粒子と、前記導電性炭素質微粒子および前記黒鉛に少なくとも部分的に付着する非黒鉛質炭素とを備える、複合黒鉛質粒子。」に訂正する。

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の「超音波が加えられると、」との記載を「株式会社カイジョー製ソノクリーナー100a(CA-3481)によって発生される超音波が加えられると、」との記載に改め、請求項2に係る特許発明を「株式会社カイジョー製ソノクリーナー100a(CA-3481)によって発生される超音波が加えられると、前記導電性炭素質微粒子の一部または全部が前記黒鉛から脱離する請求項1に記載の複合黒鉛質粒子」に訂正する。

ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5の「請求項1から4のいずれかに記載の複合黒鉛質粒子」との記載を「請求項1から3のいずれかに記載の複合黒鉛質粒子」と改め、請求項5に係る特許発明を「前記黒鉛に対する前記導電性炭素質微粒子の質量割合が0.3%以上2.0%以下の範囲内であり、前記黒鉛と前記導電性炭素質微粒子との和に対する前記非黒鉛質炭素の質量割合が0.8%以上15.0%以下の範囲内である請求項1から3のいずれかに記載の複合黒鉛質粒子。」に訂正する。

オ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6の「導電性炭素質微粒子を直接的に黒鉛に付着させて一次複合粒子を調製する一次複合粒子調製工程と、」との記載を「メカノケミカル処理またはメカノフュージョン処理により、球状であり、且つ、円形度が0.92以上であり、且つ、C-K端X線吸収スペクトルにおけるピーク強度比の入射角依存性S_(60/0)が0.7以下である黒鉛に、導電性炭素質微粒子を直接的に付着させて一次複合粒子を調製する一次複合粒子調製工程と、」と改め、請求項6に係る特許発明を「メカノケミカル処理またはメカノフュージョン処理により、球状であり、且つ、円形度が0.92以上であり、且つ、C-K端X線吸収スペクトルにおけるピーク強度比の入射角依存性S_(60/0)が0.7以下である黒鉛に、導電性炭素質微粒子を直接的に付着させて一次複合粒子を調製する一次複合粒子調製工程と、前記一次複合粒子に非黒鉛質炭素を部分的に又は全体的に付着させて複合黒鉛質粒子を調製する複合黒鉛質粒子調製工程とを備える、複合黒鉛質粒子の製造方法。」に訂正する。

カ.訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8の「請求項1から5のいずれかに記載の複合黒鉛質粒子」との記載を「請求項1、2、3および5のいずれかに記載の複合黒鉛質粒子」と改め、請求項8に係る特許発明を「請求項1、2、3および5のいずれかに記載の複合黒鉛質粒子を活物質層形成用の原料とする電極。」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否
ア.訂正事項1は、請求項1に請求項4に記載の限定事項を付加する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

イ.訂正事項2は、平成28年10月18日付け取消理由通知における特許法第36条第6項第2号の規定によって特許受けることができない旨の通知に対してなされた訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。

ウ.訂正事項3は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

エ.訂正事項4は、訂正事項3に伴う不明瞭な記載の釈明であるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。

オ.訂正事項5は、「黒鉛」の形状及び性質を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。

カ.訂正事項6は、訂正事項3に伴う不明瞭な記載の釈明であるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。

(3)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に請求項4に記載の限定事項を付加する訂正であるから、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「特許明細書等」といい、それぞれ「特許明細書」などという。)に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

イ.訂正事項2について、
特許明細書の【0058】には、「そして、ビーカーの内容物を薬さじで軽く攪拌してから、複合黒鉛質粒子を沈降させた。そして、そのビーカーを、水を張った超音波洗浄機(株式会社カイジョー製ソノクリーナー100a(CA-3481),AC100V,0.8A)に入れた後、超音波洗浄機を20分間稼働させた。」と記載されており、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項2は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ.訂正事項3について
訂正事項3は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

エ.訂正事項4、6について
訂正事項4、6は、引用する請求項を減らすものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項4、6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

オ.訂正事項5について
特許明細書の【0013】には、「本発明の他の局面に係る複合黒鉛質粒子の製造方法は、一次複合粒子調製工程および複合黒鉛質粒子調製工程を備える。一次複合粒子調製工程では、導電性炭素質微粒子が直接的に黒鉛に付着されて一次複合粒子が調製される。黒鉛は、天然黒鉛であることが好ましい。黒鉛が天然黒鉛である場合、その天然黒鉛は、複数の鱗片状の天然黒鉛が集合して形成された球状の黒鉛造粒物であることが好ましい。黒鉛は平滑化されていることが好ましい。黒鉛が球状の黒鉛造粒物である場合、円形度が0.92以上1.00以下であり、C-K端X線吸収スペクトルにおけるピーク強度比の入射角依存性が0.7以下であることが好ましい。この一次複合粒子調製工程では、導電性炭素質微粒子および黒鉛に対してメカノケミカル処理が行われることが好ましい。複合黒鉛質粒子調製工程では、一次複合粒子に非黒鉛質炭素が部分的に又は全体的に付着されて複合黒鉛質粒子が調製される。」と記載されており、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項5は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(4)一群の請求項について
訂正事項1?4、6は、それぞれ訂正前の請求項1、2、4、5、8を訂正するものであり、訂正前の請求項2?5、8?9は請求項1を直接的又は間接的に引用するため、請求項1?3、5、8?9は一群の請求項である。
また、訂正事項5は、訂正前の請求項6を訂正するものであり、訂正前の請求項7は請求項6を引用するため、請求項6?7は一群の請求項である。
よって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?3、5、8?9〕及び請求項〔6?7〕について請求するものと認められる。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3、5、8?9〕及び請求項〔6?7〕について訂正を認める。

3.訂正された特許請求の範囲
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?9に係る発明(以下「本件訂正発明1」?「本件訂正発明9」という。)は、その訂正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(下線は訂正箇所である。)。

【請求項1】
球状であり、且つ、円形度が0.92以上であり、且つ、C-K端X線吸収スペクトルにおけるピーク強度比の入射角依存性S_(60/0)が0.7以下である黒鉛と、
前記黒鉛に直接的に付着する導電性炭素質微粒子と、
前記導電性炭素質微粒子および前記黒鉛に少なくとも部分的に付着する非黒鉛質炭素とを備える、複合黒鉛質粒子。
【請求項2】
株式会社カイジョー製ソノクリーナー100a(CA-3481)によって発生される超音波が加えられると、前記導電性炭素質微粒子の一部または全部が前記黒鉛から脱離する請求項1に記載の複合黒鉛質粒子。
【請求項3】
「前記超音波が加えられた後の比表面積値(m^(2)/g)」に対する「前記超音波が加えられる前の比表面積値(m^(2)/g)」の比が1.10以上である請求項2に記載の複合黒鉛質粒子。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記黒鉛に対する前記導電性炭素質微粒子の質量割合が0.3%以上2.0%以下の範囲内であり、
前記黒鉛と前記導電性炭素質微粒子との和に対する前記非黒鉛質炭素の質量割合が0.8%以上15.0%以下の範囲内である請求項1から3のいずれかに記載の複合黒鉛質粒子。
【請求項6】
メカノケミカル処理またはメカノフュージョン処理により、球状であり、且つ、円形度が0.92以上であり、且つ、C-K端X線吸収スペクトルにおけるピーク強度比の入射角依存性S_(60/0)が0.7以下である黒鉛に、導電性炭素質微粒子を直接的に付着させて一次複合粒子を調製する一次複合粒子調製工程と、
前記一次複合粒子に非黒鉛質炭素を部分的に又は全体的に付着させて複合黒鉛質粒子を調製する複合黒鉛質粒子調製工程とを備える、複合黒鉛質粒子の製造方法。
【請求項7】
前記複合黒鉛質粒子調製工程では、前記一次複合粒子と前記非黒鉛質炭素の原料粉末とが混合された後に加熱される請求項6に記載の複合黒鉛質粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1、2、3および5のいずれかに記載の複合黒鉛質粒子を活物質層形成用の原料とする電極。
【請求項9】
請求項8に記載の電極を備える非水電解質二次電池。

4.当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由の概要
平成28年10月18日付けで当審が通知した取消理由において、訂正前の請求項1、6?9に係る発明が、特許法第29条第1項第3号及び同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許を取り消すべきものであることの通知、請求項5に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許を取り消すべきものであることの通知、及び、請求項2?3に係る発明が、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許を取り消すべきものであることの通知を行った。

<刊行物>
甲第1号証:特開2011-233541号公報
甲第2号証:特開2007-200868号公報
甲第3号証:国際公開2007/086303号
甲第4号証:特開2004-063321号公報
(以下、それぞれ「甲1」?「甲4」という。)

(2)特許法第29条第1項第3号第29条第2項について
ア.本件訂正発明1
(ア)甲1を主引例とする場合
取消理由通知において引用した甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付加したものである。)。

「【請求項1】
天然黒鉛を球状に賦形した母材100重量部にカーボンブラック2?50重量部、及びピッチを混合して天然黒鉛粒子を含浸・被覆して900℃?1500℃で焼成し、表面に微小突起を形成したBET比表面積2m^(2)/g以上であるリチウムイオン二次電池用黒鉛粒子(A)。」

「【0018】
<高密度化・高容量化に関する実施例、比較例>
実施例1
球形に賦形した天然黒鉛100重量部とアセチレンブラック(粒子径62nm、BET比表面積68m^(2)/g)20重量部を混合し、更に等方性ピッチ18重量部を加えた後、加熱ニーダーを使用して150℃で1時間混捏した。これを非酸化性雰囲気下1000℃で焼成して表面に微小突起を有する概略球形の黒鉛粒子(A)を得た。
この黒鉛粒子の電子顕微鏡写真を図1(A)に示す。
【0019】
これを更に3000℃で黒鉛化して黒鉛粒子(B)を得た。・・・(略)・・・
この黒鉛粒子の電子顕微鏡写真を図1(B)に示す。
【0020】
この黒鉛粒子(B)100重量部に対しSBR(スチレンブタジエンラバー)2重量部及びCMC(カルボキシメチルセルロース)2重量部を混合し、蒸留水を溶剤に用いてスラリーを調整し、銅箔上にドクターブレードを用いて塗布し、120℃で乾燥し、1t/cm^(2)の圧力でプレスしたところ、電極密度は1.70g/cm^(3)であった。
・・・(略)・・・
【0021】
実施例2
実施例1の黒鉛粒子(B)及び前駆体の黒鉛粒子(A)をA/B=30/70(重量)の配合で混合して負極活物質とした。・・・(略)・・・
この負極活物質をバインダーと混合、塗布、乾燥後1t/cm^(2)の圧力でプレスしたときの電極密度は1.65g/cm^(3)であった。・・・(略)・・・」

よって、甲1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「球形に賦形した天然黒鉛とアセチレンブラックを混合し、更に等方性ピッチを加えた後、加熱ニーダーを使用して混捏し、これを非酸化性雰囲気下で焼成して表面に微小突起を設けた概略球形の黒鉛粒子」

引用発明1に記載の「アセチレンブラック」、「等方性ピッチ」は本件訂正発明1の「導電性炭素質微粒子」、「非黒鉛質炭素」に相当する。
また、引用発明1は、球形に賦形した天然黒鉛とアセチレンブラックを混合し、その後、等方性ピッチを加えてから混捏しているから、引用発明1には、「球状の黒鉛と、前記黒鉛に直接的に付着する導電性炭素質微粒子と、前記導電性炭素質微粒子および前記黒鉛に少なくとも部分的に付着する非黒鉛質炭素とを備える、複合黒鉛質粒子」が記載されているといえる。

よって、本件訂正発明1と引用発明1とを対比すると、
「球状である黒鉛と、
前記黒鉛に直接的に付着する導電性炭素質微粒子と、
前記導電性炭素質微粒子および前記黒鉛に少なくとも部分的に付着する非黒鉛質炭素とを備える、複合黒鉛質粒子」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:本件訂正発明1は、黒鉛が、「球状であり、且つ、円形度が0.92以上であり、且つ、C-K端X線吸収スペクトルにおけるピーク強度比の入射角依存性S_(60/0)が0.7以下である黒鉛」であるのに対し、引用発明1は黒鉛が球状であることしか特定されていない点。

上記相違点について検討する。

甲1には、球状の黒鉛を用いることは記載されているが、特定の形状の黒鉛(「球状であり、且つ、円形度が0.92以上であり、且つ、C-K端X線吸収スペクトルにおけるピーク強度比の入射角依存性S_(60/0)が0.7以下である黒鉛」)を用いることについて記載も示唆もない。
また、甲1には、球状の黒鉛を平滑化処理することが記載されておらず、甲1に記載の球状の黒鉛が「円形度が0.92以上であり、且つ、C-K端X線吸収スペクトルにおけるピーク強度比の入射角依存性S_(60/0)が0.7以下」という特性を有している蓋然性が高いと認められることの記載も示唆も認められない。
また、甲2?甲4には、リチウムイオン二次電池用電極に黒鉛を用いることは記載されているが、いずれにも「球状であり、且つ、円形度が0.92以上であり、且つ、C-K端X線吸収スペクトルにおけるピーク強度比の入射角依存性S_(60/0)が0.7以下である黒鉛」を用いることについて記載も示唆もない。

そして、黒鉛にアセチレンブラック等の導電性炭素質微粒子を混合してから、等方性ピッチ等の非黒鉛質炭素を含浸・被覆し、焼成して概略球形の黒鉛粒子を形成する際に、黒鉛が円形度が0.92以上であり、且つ、C-K端X線吸収スペクトルにおけるピーク強度比の入射角依存性S_(60/0)が0.7以下という特定の形状の黒鉛を用いることが出願時の技術常識であるともいえない。
よって、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明、又は、甲1?甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明とはいえない。

(イ)甲2?甲4を主引例とする場合
取消理由通知において引用した甲2?甲4のいずれにも、前記(ア)で検討した相違点に係る本件訂正発明1の発明特定事項(黒鉛が、「球状であり、且つ、円形度が0.92以上であり、且つ、C-K端X線吸収スペクトルにおけるピーク強度比の入射角依存性S_(60/0)が0.7以下である黒鉛」であること)について記載も示唆もなく、また、出願時の技術常識であるともいえない。
よって、本件訂正発明1は、甲2?甲4のいずれかに記載された発明ではなく、また、甲1?甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明とはいえない。

イ.本件訂正発明6?7
甲1には、上記ア(ア)の甲1の記載事項によれば、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「球形に賦形した天然黒鉛とアセチレンブラックを混合し、更に等方性ピッチを加えた後、加熱ニーダーを使用して混捏し、これを非酸化性雰囲気下で焼成して表面に微小突起を設けた概略球形の黒鉛粒子の製造方法」

引用発明2に記載の「アセチレンブラック」、「等方性ピッチ」は本件訂正発明6の「導電性炭素質微粒子」、「非黒鉛質炭素」に相当する。
また、引用発明2は、球形に賦形した天然黒鉛とアセチレンブラックを混合し、その後、等方性ピッチを加えてから混捏しているから、引用発明2には、「球状である黒鉛に、導電性炭素質微粒子を直接的に付着させて一次複合粒子を調製する一次複合粒子調製工程と、前記一次複合粒子に非黒鉛質炭素を部分的に又は全体的に付着させて複合黒鉛質粒子を調製する複合黒鉛質粒子調製工程とを備える、複合黒鉛質粒子の製造方法」が記載されているといえる。

よって、本件訂正発明6と引用発明2とを対比すると、
「球状である黒鉛に、導電性炭素質微粒子を直接的に付着させて一次複合粒子を調製する一次複合粒子調製工程と、前記一次複合粒子に非黒鉛質炭素を部分的に又は全体的に付着させて複合黒鉛質粒子を調製する複合黒鉛質粒子調製工程とを備える、複合黒鉛質粒子の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:本件訂正発明6は、メカノケミカル処理またはメカノフュージョン処理により、球状であり、且つ、円形度が0.92以上であり、且つ、C-K端X線吸収スペクトルにおけるピーク強度比の入射角依存性S_(60/0)が0.7以下である黒鉛を形成しているのに対し、引用発明2は黒鉛を球形に賦形することしか特定されていない点。

上記相違点について検討する。

上記ア(ア)で検討したように、甲1には、黒鉛を球形に賦形することは記載されているが、「メカノケミカル処理またはメカノフュージョン処理により、球状であり、且つ、円形度が0.92以上であり、且つ、C-K端X線吸収スペクトルにおけるピーク強度比の入射角依存性S_(60/0)が0.7以下である黒鉛」を形成することについて記載も示唆もなく、出願時の技術常識であるともいえない。
よって、本件訂正発明6及び本件訂正発明6を引用する本件訂正発明7は、甲1に記載された発明とはいえない。
また、甲2?甲4にも上記相違点に係る本件訂正発明6の発明特定事項について記載も示唆もないから、本件訂正発明6は、甲1?甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明とはいえない。

ウ.本件訂正発明8?9
本件訂正発明1を直接又は間接的に引用する本件訂正発明8?9は、本件訂正発明1をより限定した発明であるから、甲1?甲4のいずれかに記載された発明ではなく、また、甲1?甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明ともいえない。

(3)特許法第29条第2項について
・本件訂正発明5
本件訂正発明1を直接又は間接的に引用する本件訂正発明5は、本件訂正発明1をより限定した発明であるから、甲1?甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明とはいえない。

(4)特許法第36条第6項第2号について
・本件訂正発明2?3
本件訂正発明2は、「株式会社カイジョー製ソノクリーナー100a(CA-3481)によって発生される超音波が加えられると、前記導電性炭素質微粒子の一部または全部が前記黒鉛から脱離する請求項1に記載の複合黒鉛質粒子。」と記載されている。
そして、平成28年12月26日付け上申書を参酌すると、株式会社カイジョー製ソノクリーナー100aの(CA-3481)のソース電圧、ソース電流、出力周波数がわかるから、「超音波」が不明確とはいえない。
よって、本件訂正発明2及び本件訂正発明2を引用する本件訂正発明3は不明確とはいえない。

(5)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア.本件訂正発明2について
特許異議申立人は特許異議申立書の第17頁第3行?第20頁第13行において、本件訂正発明2は甲1に記載された発明、又は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明である旨主張している。
また、特許異議申立書の第20頁第14行?第20頁下から第3行において、本件訂正発明2は甲4に記載された発明、又は、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明である旨主張している。

しかしながら、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2は、本件訂正発明1をより限定した発明であり、上記ア(ア)で検討したように、甲1又は甲4に記載された発明ではなく、また、甲1?甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明ともいえない。

イ.本件訂正発明3について
特許異議申立人は特許異議申立書の第21頁下から第4行?第22頁第5行において、本件訂正発明3は甲1に記載された発明、又は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明である旨主張している。

しかしながら、本件訂正発明2を介して本件訂正発明1を引用する本件訂正発明3は、本件訂正発明1をより限定した発明であり、上記ア(ア)で検討したように、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1?甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明ともいえない。

(6)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は平成29年 2月13日付け意見書において、実施例9が、平滑化処理を行っていない球状天然黒鉛粉末を用いていることを根拠として、本件訂正発明1及び本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2?3、5、8?9が、特許法第36条第4項第1号、同法第36条第6項第1号及び第2号の取消理由を有している旨主張している(第3頁下から第3行?第5頁最終行参照)。

しかしながら、実施例1?8に記載された事項から、少なくとも平滑化処理を行うことで円形度が0.92以上であり、且つ、C-K端X線吸収スペクトルにおけるピーク強度比の入射角依存性S_(60/0)が0.7以下である黒鉛を形成することができるから、実施例9の有無に関わらず、当業者であれば本件訂正発明1の「複合黒鉛質粒子」を形成できるものといえるから、本件明細書は本件訂正発明1及び本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2?3、5、8?9を当業者が実施することができるように記載されているといえる。
よって、特許異議申立人の主張は採用できず、特許法第36条第4項第1号の取消理由を有しているとはいえない。
特許法第36条第6項第1号についても、実施例9の有無に関わらず、実施例1?8に記載された事項から、発明の課題を解決するための手段が備えられているといえ、また、拡張ないし一般化できない理由が存在しているともいえないため、特許法第36条第6項第1号についての取消理由を有しているとはいえない。
さらに、本件訂正発明1及び本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2?3、5、8?9は物の発明であり、実施例9の有無に関わらず、物の発明の構成が不明確であるとはいえないから、特許法第36条第6項第2号についての取消理由を有しているとはいえない。

また、甲1の記載から特許法第29条第1項第3号の取消理由が存在することも主張しているが(第6頁第1行?第11頁最終行参照)、上記(2)?(3)に記載したとおり、本件訂正発明1?3、5?9が特許法第29条第1項第3号の取消理由を有しているとはいえない。

よって、平成29年 2月13日付け意見書における主張には理由がない。

5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?3、5?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?3、5?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件請求項4に係る特許に対してなされた特許異議申立については、訂正により申立の対象となる請求項が存在しないものとなった。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状であり、且つ、円形度が0.92以上であり、且つ、C-K端X線吸収スペクトルにおけるピーク強度比の入射角依存性S_(60/0)が0.7以下である黒鉛と、
前記黒鉛に直接的に付着する導電性炭素質微粒子と、
前記導電性炭素質微粒子および前記黒鉛に少なくとも部分的に付着する非黒鉛質炭素と
を備える、複合黒鉛質粒子。
【請求項2】
株式会社カイジョー製ソノクリーナー100a(CA-3481)によって発生される超音波が加えられると、前記導電性炭素質微粒子の一部または全部が前記黒鉛から脱離する
請求項1に記載の複合黒鉛質粒子。
【請求項3】
「前記超音波が加えられた後の比表面積値(m^(2)/g)」に対する「前記超音波が加えられる前の比表面積値(m^(2)/g)」の比が1.10以上である
請求項2に記載の複合黒鉛質粒子。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記黒鉛に対する前記導電性炭素質微粒子の質量割合が0.3%以上2.0%以下の範囲内であり、
前記黒鉛と前記導電性炭素質微粒子との和に対する前記非黒鉛質炭素の質量割合が0.8%以上15.0%以下の範囲内である
請求項1から3のいずれかに記載の複合黒鉛質粒子。
【請求項6】
メカノケミカル処理またはメカノフュージョン処理により、球状であり、且つ、円形度が0.92以上であり、且つ、C-K端X線吸収スペクトルにおけるピーク強度比の入射角依存性S_(60/0)が0.7以下である黒鉛に、導電性炭素質微粒子を直接的に付着させて一次複合粒子を調製する一次複合粒子調製工程と、
前記一次複合粒子に非黒鉛質炭素を部分的に又は全体的に付着させて複合黒鉛質粒子を調製する複合黒鉛質粒子調製工程と
を備える、複合黒鉛質粒子の製造方法。
【請求項7】
前記複合黒鉛質粒子調製工程では、前記一次複合粒子と前記非黒鉛質炭素の原料粉末とが混合された後に加熱される
請求項6に記載の複合黒鉛質粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1、2、3および5のいずれかに記載の複合黒鉛質粒子を活物質層形成用の原料とする電極。
【請求項9】
請求項8に記載の電極を備える非水電解質二次電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-09 
出願番号 特願2014-506133(P2014-506133)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C01B)
P 1 651・ 121- YAA (C01B)
P 1 651・ 536- YAA (C01B)
P 1 651・ 113- YAA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田澤 俊樹  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 山本 雄一
宮澤 尚之
登録日 2015-12-25 
登録番号 特許第5859114号(P5859114)
権利者 新日鐵住金株式会社 中央電気工業株式会社
発明の名称 複合黒鉛質粒子およびその製造方法  
代理人 北原 宏修  
代理人 北原 宏修  
代理人 北原 宏修  
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