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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B66B
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B66B
管理番号 1327852
異議申立番号 異議2016-700560  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-22 
確定日 2017-03-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5837800号発明「階高調整式ダブルデッキエレベータ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5837800号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第5837800号の請求項1ないし3及び7に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続の経緯
特許第5837800号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成23年11月2日に特許出願され、平成27年11月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、請求項1ないし3及び7に係る特許について、特許異議申立人 服部哲宜(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成28年10月17日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年12月19日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人から平成29年2月17日付けで意見書が提出されたものである。

[2]訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。

特許請求の範囲の請求項1に「前記外かご枠と前記内かごとの間に設けられ」という事項を加入する。(下線は、訂正箇所を示すために特許権者が付したものである。)

2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張及び変更の存否についての検討
上記1.の訂正事項に関する記載に関して、特許請求の範囲の請求項2における「前記第1の内かご位置検出部は、・・前記外かご枠と前記複数の内かごとの間にそれぞれ設けられる」の記載及び図3の記載から、「前記第1の内かご位置検出部は、」「前記外かご枠と前記内かごとの間に設けられ」ることは、特許請求の範囲及び図面に記載されているものと認められる。
上記1.の訂正は、特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内において、「第1の内かご位置検出部」に対して「前記外かご枠と前記内かごとの間に設けられ」ることを限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、上記1.の訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

3.独立特許要件についての検討
本件特許異議申立事件においては、訂正前の請求項1ないし3及び7について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1ないし3及び7に係る訂正事項に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
一方、請求項1を間接的に引用する訂正後の請求項4ないし6に記載された発明は、下記[3]4.で検討するとおり、特許異議の申立てにおいて提出された甲第1号証ないし甲第3号証から当業者が容易に発明をすることができたとすることができないから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものには該当せず、また、特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条6項2号の規定に適合することは明らかである。
よって、訂正後の請求項4ないし6に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合するものである。

4.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第7項までの規定に適合するので、訂正後の請求項[1ないし7]について訂正を認める。

[3]特許異議の申立てについて
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし7のうち、異議申立てに係る訂正請求項1ないし3及び7に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明3」及び「本件発明7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3及び7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
上下に移動する外かご枠と、
前記外かご枠の中に配置され、前記外かご枠内で移動する複数の内かごと、
前記複数の内かご同士を接続し支持する支持部品と、
前記支持部品を駆動し前記複数の内かごを連動して移動させることにより、前記複数の内かごの間隔を調整する内かご間隔調整部と、を有する階高調整式ダブルデッキエレベータであって、
前記複数の内かごの位置を検出する第1の内かご位置検出部を更に有し、
前記支持部品は伸縮し、
前記第1の内かご位置検出部は、前記外かご枠と前記内かごとの間に設けられ、前記支持部品が伸縮した場合であっても、伸縮に影響されずに、前記外かご枠に対する前記複数の内かごの位置を検出する
階高調整式ダブルデッキエレベータ。
【請求項2】
前記第1の内かご位置検出部は、前記複数の内かごの各内かごに対して1つずつ備えられ、前記内かご間隔調整部以外の場所であって、前記外かご枠と前記複数の内かごとの間にそれぞれ設けられる、請求項1に記載の階高調整式ダブルデッキエレベータ。
【請求項3】
前記第1の内かご位置検出部は、前記外かご枠に対する前記内かごの移動距離を所定の分解能で測定し、前記外かご枠に対する前記内かごの位置の測定値を算出する、請求項2に記載の階高調整式ダブルデッキエレベータ。」

「【請求項7】
前記内かごが所定階に着床している状態で、前記第1の内かご位置検出部で検出される前記内かごの前記外かご枠に対する位置の変化に応じて前記外かご枠の位置を変化させる外かご枠位置制御手段を更に有する、
請求項1から6のいずれか一項に記載の階高調整式ダブルデッキエレベータ。」

2.取消理由の概要
訂正前の請求項1に係る特許に対して平成28年10月17日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証、甲第3号証にみられるような周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、請求項1に係る特許は取り消されるべきものである。

3.各甲号証に記載の事項及び発明
3-1 甲第1号証
(1)甲第1号証の記載
本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証(国際公開第2004/087552号)には、「ダブルデッキエレベータを着床位置に動かす装置」に関して、次のような記載がある。

1a)”The figure shows a double-deck elevator solution comprising a car frame 1 which is supported and moved vertically in an elevator shaft by means of main hoisting ropes 4 driven by an elevator machine 2. ”(公報第3ページ第2ないし5行)
(申立人訳:・・・エレベータの昇降路において支持され、・・・垂直に移動する外かご枠1を含むダブルデッキエレベータ。)

1b)”The car frame 1 contains an upper elevator car 6 and a lower elevator car 7, which are connected to each other by a hoisting rope 10 so that the elevator cars 6 and 7 function as each other's counterweights. In addition, provided in conjunction with the car frame 1 is an auxiliary hoisting machine 8 for moving the elevator cars 6 and 7 vertically in relation to each other, and a diverting pulley 9 for guiding the hoisting rope 10. This solution permits the elevator cars 6 and 7 to be moved in a manner ensuring that the nominal vertical distance between them always corresponds to the distance between the floors at which the elevator is to stop.”(公報第3ページ第9ないし17行)
(申立人訳:外かご枠1は、上かご(内かご)6と下かご(内かご)7を含み、それらは巻き上げロープ10によって互いに連結されていて、内かご6と7は、互いにカウンターウェイトとして機能している。加えて、互いに関連して垂直に内かご6と7を動かしている補助巻上機8・・・が外カゴ枠1と共に提供される。本解決策は、それら(内かご6と7)の間の名目上の垂直距離がエレベータの停止する必要があるフロアの間の距離と常に一致することを保証する方法で移動することを可能にする。)

1c)”The elastic elongations for each elevator car caused by their loads are represented by references k_( 2) and k _(3) . ”(公報第3ページ第18ないし19行)
(申立人訳:それら(内かご)の負荷によって生じる各内かごに関する弾性的な伸びは、k_(2)及びk_(3)で表される。)

1d)”Due to the unequal loads of the elevator cars, the hoisting rope 10 of the elevator cars 6 and 7 has undergone elastic elongation k _(2) and k _(3) , and thus the elevator cars remain at mutually unequal distances below their respective landing levels 11 and 12. ”(公報第3ページ第22ないし25行)
(申立人訳:内かごの等しくない負荷のため、内かご6と7の巻上ロープ10は、弾性的な伸びk_(2)とk_(3)を受け、それ故、内かごは、それぞれ着床レベル11と12から、下方に等しくない距離(h_(2)≠h_(3))を保っている。)

1e)”The upper elevator car 6 is at elongation distance h_( 2) below landing level 11 , and the lower elevator car 7 is at elongation distance h_( 3) below landing level 12. ”(公報第3ページ第28ないし30行)
(申立人訳:「上かご6は、着床レベル11の下方に伸長距離h_(2)であり、下かご7は、着床レベル12の下方に伸長距離h_(3)である。)

1f)”Fig. 2 presents a situation where the unequal elongation distances caused by the unequal loads of the elevator cars have been compensated. The compensation is accomplished by using a suitable control device, such as an auxiliary hoisting machine 8, in such manner that the positions of the elevator cars 6 and 7 relative to the respective landing levels 11 and 12 are corrected. The car 7 for which the elongation distance is larger is raised upwards by means of the auxiliary hoisting machine 8, thereby causing the upper elevator car 6 forming the counterweight of car 7 to descend correspondingly through an equal distance downwards. The distance S_(1) to be moved equals half the difference between the elongation distances h _(2) and h _(3) of the cars, i.e. S_(1) = (h _(3) - h_( 2) )/2.”(公報第4ページ第3ないし12行)
(申立人訳:図2は、内かごへの等しくない負荷によって生じた等しくない伸長距離が補正された状況を示している。本補正は、それぞれの着床レベル11と12に関する内かご6と7の位置を正しくするこのような手法によって、補助巻上機8のような適切な制御装置を用いることで成し遂げられる。伸長距離が大きい内かご7は、補助巻上機8によって上に上げられ、その結果、内かご7のガウンターウェイトとなっている下かご6は、等しい距離だけ下に下げられる。動かされる距離S_(1)は、内かごの伸長距離h_(2)とh_(3)の差の半分に等しい。即ち、S_(1)=(h_(3)-h_(2))/2。)

1g)”Exact position data for the elevator cars 6 and 7 is obtained e.g. by means of different position detectors, from whose output signal it is possible to determine the absolute position of the elevator cars. The determination of the position data for the elevator cars 6 and 7 can also be accomplished by utilizing the signal obtained from the car load weighing devices or by some other corresponding applicable location method allowing the position data for the elevator cars to be computed.”(公報第4ページ第14ないし20行)
(申立人訳:内かご6と7に関する正確な位置データは、例えば、その出力信号から内かごの位置を決定することが可能である種々の位置検出器を用いて獲得される。内かご6と7に関する位置データの決定は、かご負荷計量装置から得られる信号を利用すること、又は、いくつかの他の同様な適用可能なかごに関する位置データを計算する位置手法によって成し遂げられる。)

1h)”The apparatus additionally comprises a control unit 13 or equivalent, which is connected at least to the main hoisting machine 2 or to its specific control unit, to the auxiliary hoisting machine 8 and to the position data for the elevator cars 6 and 7.”(公報第4ページ第21ないし24行)
(申立人訳:本装置は、制御ユニット13を更に含み、・・・内かご6と7に関する位置データを更に含む。)

1i)”The control unit 13 calculates the aforesaid required moving distance S_(1) on the basis of the position data for the elevator cars 6 and 7 and gives the auxiliary hoisting machine 8 instructions for moving the elevator cars so as to equalize the distances h_(1) of the two elevator cars 6, 7 from their respective landing levels.”(公報第4ページ第25ないし29行)
(申立人訳:制御ユニット13は、内かご6と7に関する位置データに基づき、要求される移動距離S_(1)を計算し、それぞれの着床レベルからの2つの内かご6、7の距離h_(1)を等しくするように内かご6と7の移動に関する指示を補助巻上機8に与える。)

1j)”The control unit 13 also gives the main hoisting machine 2 data indicating the magnitude of the distance of the movement to be effected by the main hoisting machine. Thus, the final correction can be made using the main hoisting machine 2 by moving the car frame through a distance equaling h_(1) plus the elastic elongation k_(1) of the main hoisting rope 4, i.e. through distance S_(2) as shown in Fig. 3, this distance being equal to h_(1)+ k_(1).”(公報第5ページ第1ないし6行)
(申立人訳:制御ユニット13は、メイン巻上機によって影響される移動距離の大きさを示すデータをメイン巻上機2に更に与える。 ・・・最終的な補正は、“h_(1)+メイン巻上ロープ4の弾性的な伸びk_(1)”に等しい距離となることを介して、メイン巻上機2を使って外かご枠を動かすことによってされ得る。即ち、図3に示すように、距離S_(2)は、h_(1)+k_(1)に等しい。)

(2)甲1発明
上記(1)及びFig.1ないし3の記載を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「上下に移動する外かご枠1と、
外かご枠1の中に配置され、外かご枠1内で移動する上かご6及び下かご7と、
上かご6と下かご7とを互いに連結して支持する巻上げロープ10と、
巻上げロープ10を駆動して上かご6と下かご7とを連動させて移動させることにより、上かご6と下かご7の間隔を調整する補助巻上機8と、を有するダブルデッキエレベータであって、
上かご6と下かご7の位置を決定するための位置検出器を更に有し、
巻上げロープ10は弾性的な伸びを伴うものである、
ダブルデッキエレベータ。」

3-2 甲第2号証
(1)甲第2号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開2001-171924号公報)には、「ダブルデッキエレベータ制御装置」に関して、図面とともに次の記載がある。

2a)「【請求項1】少なくとも部分的に階床間距離の異なる建物に設置され、2台のかごの内少なくとも1台を上下に移動可能に保持するかご枠を有するダブルデッキエレベータにおいて、前記2台のかごが同じ加減速で走行して、それぞれの停止予定階に階床間距離に合わせて停止できることを特徴とするダブルデッキエレベータ。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

2b)「【請求項3】各かごのかご枠に対する相対位置を検出する検出装置を備え、前記各かごの走行残距離は各かごのかご枠に対する相対位置に基づいて計算されることを特徴とする請求項2記載のダブルデッキエレベータ制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項3】)

2c)「【0024】図1において、ダブルデッキエレベータ制御装置は、下かご9を上下動させる油圧ジャッキ10a、上かご8を上下動させる油圧ジャッキ10b、かご枠1から下かご9用の油圧ジャッキ10aの現在位置を検出するポテンショメータ13a、かご枠1から上かご8用の油圧ジャッキ10bの現在位置を検出するポテンショメータ13b、ポテンショメータ13aの信号を速度に変換する微分器16a、ポテンショメータ13bの信号を速度に変換する微分器16b、下かご9用の油圧ジャッキ10aの制御装置17a、上かご8用の油圧ジャッキ10bの制御装置17bを備える。」(段落【0024】)

2d)「【0036】油圧ジャッキ制御装置17a、17bはそれぞれ前記下かご9、上かご8の差分速度指令値JVl、JVuに基づき、ポテンショメータ13a、13bの出力を微分器16a、16bで微分して算出した油圧ジャッキの速度フィードバック値で、下かご9、上かご8の速度制御を行い、かご位置を調整する。」(段落【0036】)

(2)甲2技術
上記(1)の記載及び図1の記載を総合すると、甲第2号証には次の技術(以下、「甲2技術」という。)が記載されている。
「少なくとも部分的に階床間距離の異なる建物に設置され、下かご9及び上かご8の内少なくとも1台を上下に移動可能に保持するかご枠1を有するダブルデッキエレベータにおいて、
かご枠1に対して下かご9を上下動させる油圧ジャッキ10a、かご枠1に対して上かご8を上下動させる油圧ジャッキ10b、かご枠1から下かご9用の油圧ジャッキ10aの現在位置を検出するポテンショメータ13a、かご枠1から上かご8用の油圧ジャッキ10bの現在位置を検出するポテンショメータ13bを備えることにより、
下かご9及び上かご8のかご枠1に対する相対位置をポテンショメータ13a及び13bにより検出して各かごの走行残距離を計算する技術。」

3-3 甲第3号証
(1)甲第3号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開2001-278568号公報)には、「ダブルデッキエレベータ」に関して、図面とともに以下の記載がある。

3a)「【請求項3】前記階床間隔補正機構は、前記電動機により駆動されるボールねじを有するボールねじ機構を有し、
前記安全制御装置は、前記ボールねじの回転に同期してパルスを出力するパルス発生器をさらに有し、前記パルス発生器からのパルスを積算して前記かご枠に対する前記かごの位置を検出すると共に、前記パルス発生器からのパルスが途切れたときに前記電動機を停止させて前記電磁ブレーキを作動させるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載のダブルデッキエレベータ。」(【特許請求の範囲】の【請求項3】)

3b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、かご枠に複数のかごが設けられ、複数のかご同士の上下間隔を調整することができるダブルデッキエレベータに関する。」(段落【0001】)

3c)「【0013】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明によるダブルデッキエレベータは、昇降路内に昇降可能に配置されたかご枠と、前記かご枠内に設けられ、異なる階床に着床する複数のかごと、同一昇降路内で階床の間隔が異なる建物に対しても前記複数のかご同士の間隔を調整して目的階床側に一致させて着床させるための階床間隔補正機構と、前記階床間隔補正機構の異常に対処するための安全制御装置と、を備え、前記階床間隔補正機構は、前記かご枠に対して前記かごを移動させるための電動機と、前記電動機の作動時にはブレーキ解放され、一方、前記電動機の停止時には制動力を生じて前記かご枠に対する前記かごの移動を制限する電磁ブレーキと、を有し、前記安全制御装置は、前記かご枠に対して前記かごが許容動作範囲を超えて移動した場合に作動して前記電動機を停止させて前記電磁ブレーキを作動させる検出器と、前記かご枠に対して前記かごが許容動作範囲を超えて移動した場合に前記かごを支持する緩衝装置と、を有することを特徴とする。」(段落【0013】)

3d)「【0015】また、好ましくは、前記階床間隔補正機構は、前記電動機により駆動されるボールねじを有するボールねじ機構を有し、前記安全制御装置は、前記ボールねじの回転に同期してパルスを出力するパルス発生器をさらに有し、前記パルス発生器からのパルスを積算して前記かご枠に対する前記かごの位置を検出すると共に、前記パルス発生器からのパルスが途切れたときに前記電動機を停止させて前記電磁ブレーキを作動させるようにする。」(段落【0015】)

(2)甲3技術
上記(1)の記載を総合すると、甲第3号証には次の技術(以下、「甲3技術」という。)が記載されている。
「昇降路内に昇降可能に配置されたかご枠と、かご枠内に設けられ、異なる階床に着床する複数のかごと、同一昇降路内で階床の間隔が異なる建物に対しても複数のかご同士の間隔を調整して目的階床側に一致させて着床させるダブルデッキエレベータが、階床間隔補正機構と、階床間隔補正機構の異常に対応するための安全制御装置とを備えており、
階床間隔補正機構は、電動機により駆動されるボールねじを有するボールねじ機構を有し、
安全制御装置は、ボールねじの回転に同期してパルスを出力するパルス発生器を有し、パルス発生器からのパルスを積算してかご枠に対するかごの位置を検出すると共に、パルス発生器からのパルスが途切れたときに前記電動機を停止させて前記電磁ブレーキを作動させる技術。」

4.判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
(本件発明1について)
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「外かご枠1」は、その構成、機能または技術的意義からみて、本件発明1の「外かご枠」に相当し、以下同様に、「上かご6及び下かご7」は「複数の内かご」に、「上かご6と下かご7とを互いに連結して」は「複数の内かご同士を接続し」に、「巻き上げロープ10」は「支持部品」に、「補助巻上機8」は「内かご間隔調整部」に、「ダブルデッキエレベータ」は「階高調整式ダブルデッキエレベータ」に、「上かご6と下かご7の位置を決定する」は「複数の内かごの位置を検出する」に、「位置検出器」は「第1の内かご位置検出部」に、「巻上げロープ10は弾性的な伸びを伴う」は「支持部品は伸縮し」にそれぞれ相当する。

よって、本件発明1と甲1発明とは、
「上下に移動する外かご枠と、
外かご枠の中に配置され、外かご枠内で移動する複数の内かごと、
複数の内かご同士を接続し支持する支持部品と、
支持部品を駆動し複数の内かごを連動して移動させることにより、複数の内かごの間隔を調整する内かご間隔調整部と、を有する階高調整式ダブルデッキエレベータであって、
複数の内かごの位置を検出する第1の内かご位置検出部を更に有し、
支持部品は伸縮」する点において一致し、次の点で相違する。

(相違点)
本件発明1においては、「第1の内かご位置検出部は、外かご枠と内かごとの間に設けられ、支持部品が伸縮した場合であっても、伸縮に影響されずに、外かご枠に対する複数の内かごの位置を検出する」のに対して、甲1発明においては、「上かご6と下かご7の位置を決定するための位置検出器」を有するものの、上かご6と下かご7の位置の検出が、外かご枠1と上かご6あるいは下かご7との間に設けられた検出部によって外かご枠1に対する上かご6と下かご7の位置を検出することによるものか不明である点(以下、「相違点」という。)。

上記相違点について検討する。

(相違点について)
上記3.3-1、1d)における甲1の記載によれば、複数の内かご同士が等しくない荷重を受けることにより巻上ロープが等しくない伸びを受け、それにより内かご同士はそれぞれ着床レベルに対して、等しくない距離となることについて記載されている。
さらに、上記3.3-1、1f)及び1i)における甲1の記載によれば、複数の内かごにおける巻上ロープの等しくない伸びによって生じる、等しくない着床レベルからの距離を補助巻上機8によって等しくなるように調整することについて記載されている。
そうすると、甲1発明は、「複数の内かごのそれぞれにかかる異なる荷重によって生じた異なる支持部材の弾性的な伸びに対応して複数の内かごの着床レベルが等しくなるように調整する」ことを前提とするものである。
一方、上記甲2技術は、「少なくとも部分的に階床間距離の異なる建物に設置され、下かご9及び上かご8の内少なくとも1台を上下に移動可能に保持するかご枠1を有するダブルデッキエレベータにおいて、
かご枠1に対して下かご9を上下動させる油圧ジャッキ10a、かご枠1に対して上かご8を上下動させる油圧ジャッキ10b、かご枠1から下かご9用の油圧ジャッキ10aの現在位置を検出するポテンショメータ13a、かご枠1から上かご8用の油圧ジャッキ10bの現在位置を検出するポテンショメータ13bを備えることにより、
下かご9及び上かご8のかご枠1に対する相対位置をポテンショメータ13a及び13bにより検出して各かごの走行残距離を計算する技術」である。
さらに、上記甲3技術は、「昇降路内に昇降可能に配置されたかご枠と、かご枠内に設けられ、異なる階床に着床する複数のかごと、同一昇降路内で階床の間隔が異なる建物に対しても複数のかご同士の間隔を調整して目的階床側に一致させて着床させるダブルデッキエレベータが、階床間隔補正機構と、階床間隔補正機構の異常に対応するための安全制御装置とを備えており、
階床間隔補正機構は、電動機により駆動されるボールねじを有するボールねじ機構を有し、
安全制御装置は、ボールねじの回転に同期してパルスを出力するパルス発生器を有し、パルス発生器からのパルスを積算してかご枠に対するかごの位置を検出すると共に、パルス発生器からのパルスが途切れたときに前記電動機を停止させて前記電磁ブレーキを作動させる技術」であるから、ダブルデッキエレベータの技術分野において、外かご枠に対する複数の内かごの位置を検出する手段を設けること自体は周知の技術(以下「周知の技術」という。)であるといえる。
しかしながら、外かご枠に対する複数の内かごの位置を検出する手段を設けることに関して、甲2技術のダブルデッキエレベータは、かご枠1に対して下かご9を上下動させる油圧ジャッキ10a、かご枠1に対して上かご8を上下動させる油圧ジャッキ10bを備えるものであって、下かご9及び上かご8の各々が、個別に油圧ジャッキ10a及び10bを介してかご枠1に対して個別に支持されるものであるから、甲2技術のダブルデッキエレベータは、「伸縮」する「複数の内かご同士を接続し支持する支持部品」を備えるものではない。また、甲3技術のダブルデッキエレベータにおける階床間隔補正機構のボールねじ機構は、技術常識からみて伸縮するものではない。
さらに、外かご枠に対する複数の内かごの位置を検出する手段を設ける目的は、甲2技術においては、各かごの走行残距離を計算するためであり、甲3技術においては、階床間隔補正機構の異常に対応する安全制御装置を構成するためである。
そうすると、周知の技術は、「複数の内かごのそれぞれにかかる異なる荷重によって生じた異なる支持部材の弾性的な伸びに対応して複数の内かごの着床レベルが等しくなるように調整する」ことを前提とするものとはいえないから、甲1発明において周知の技術を適用する動機付けを見出すことはできない。
よって、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を、甲1発明及び周知の技術に基いて当業者が容易になし得たとはいえない。

したがって、本件発明1は、甲1発明及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(本件発明2、3及び7について)
本件発明2、3及び7は、本件発明1を直接的または間接的に引用するものであって、本件発明1の発明特定事項を置き換えることなく限定するものであるから、本件発明1と同様に甲1発明及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)特許異議申立理由(特許法第29条第2項)について
申立人は特許異議申立書において、訂正前の請求項1ないし3及び7に係る特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明、あるいは、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明により当業者であれば容易になし得たものであると主張しているので、訂正後のものである本件発明1ないし3及び7が、甲1発明及び甲2技術、あるいは甲1発明及び甲3技術に基いて当業者であれば容易になし得たものであるか以下検討する。

本件発明1と甲1発明との対比、一致点及び相違点については、上記(1)で示したとおりである。

(相違点についての検討その1/甲1発明及び甲2技術の組合せについて)
上記甲2技術は、「少なくとも部分的に階床間距離の異なる建物に設置され、下かご9及び上かご8の内少なくとも1台を上下に移動可能に保持するかご枠1を有するダブルデッキエレベータにおいて、
かご枠1に対して下かご9を上下動させる油圧ジャッキ10a、かご枠1に対して上かご8を上下動させる油圧ジャッキ10b、かご枠1から下かご9用の油圧ジャッキ10aの現在位置を検出するポテンショメータ13a、かご枠1から上かご8用の油圧ジャッキ10bの現在位置を検出するポテンショメータ13bを備えることにより、
下かご9及び上かご8のかご枠1に対する相対位置をポテンショメータ13a及び13bにより検出して各かごの走行残距離を計算する技術」であるから、下かご9及び上かご8のかご枠1に対する相対位置をポテンショメータ13a及び13bにより検出する構成を備えるものである。
しかしながら、外かご枠に対する複数の内かごの位置を検出する手段を設けることに関して、甲2技術のダブルデッキエレベータは、かご枠1に対して下かご9を上下動させる油圧ジャッキ10a、かご枠1に対して上かご8を上下動させる油圧ジャッキ10bを備えるものであって、下かご9及び上かご8の各々が、個別に油圧ジャッキ10a及び10bを介してかご枠1に対して個別に支持されるものであるから、甲2技術のダブルデッキエレベータは、「伸縮」する「複数の内かご同士を接続し支持する支持部品」を備えるものではなく、下かご9及び上かご8のかご枠1に対する相対位置を検出するためのポテンショメータ13a及びポテンショメータ13bは、かご枠1と下かご9あるいは上かご8との間に設けられるものかも不明である。
そして、甲2技術は、「下かご9及び上かご8のかご枠1に対する相対位置をポテンショメータ13a及び13bにより検出して各かごの走行残距離を計算する」ものであるが、「複数の内かごのそれぞれにかかる異なる荷重によって生じた異なる支持部材の弾性的な伸びに対応して複数の内かごの着床レベルが等しくなるように調整する」ことを前提とするものではない。
そうすると、甲2技術は、甲1発明と前提において異なるものであるから、甲1発明に甲2技術を適用する動機付けを見出すことはできない。
仮に、甲1発明のロープ10に代えて甲2技術の油圧ジャッキ10a及び10bを採用した場合においても、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項のうち、少なくとも「伸縮」する「複数の内かご同士を接続し支持する支持部品」及び「第1の内かご位置検出部は、外かご枠と内かごとの間に設けられ」る事項を有するものではないから、甲1発明に甲2技術を適用して相違点に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことであるとはいえない。

したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

さらに、本件発明2、3及び7は、本件発明1を直接的または間接的に引用するものであって、本件発明1の発明特定事項を置き換えることなく限定するものであるから、本件発明1と同様に甲1発明及び甲2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(相違点についての検討その2/甲1発明及び甲3技術の組合せについて)
上記甲3技術は、「昇降路内に昇降可能に配置されたかご枠と、かご枠内に設けられ、異なる階床に着床する複数のかごと、同一昇降路内で階床の間隔が異なる建物に対しても複数のかご同士の間隔を調整して目的階床側に一致させて着床させるダブルデッキエレベータが、階床間隔補正機構と、階床間隔補正機構の異常に対応するための安全制御装置とを備えており、
階床間隔補正機構は、電動機により駆動されるボールねじを有するボールねじ機構を有し、
安全制御装置は、ボールねじの回転に同期してパルスを出力するパルス発生器を有し、パルス発生器からのパルスを積算してかご枠に対するかごの位置を検出すると共に、パルス発生器からのパルスが途切れたときに前記電動機を停止させて前記電磁ブレーキを作動させる技術」であるから、かご枠に対するかごの位置を検出する構成を備えるものであって、ボールねじ機構は、階床間隔補正機構を構成して複数のかご同士の間隔を調整するものであるから、本件発明1の支持部品に対応するものと一応認められる。
しかしながら、甲3技術のボールねじ機構は、技術常識からみて伸縮するものではないから、甲3技術は、「複数の内かごのそれぞれにかかる異なる荷重によって生じた異なる支持部材の弾性的な伸びに対応して複数の内かごの着床レベルが等しくなるように調整する」ことを前提とするものではないことは明らかである。
そうすると、甲3技術を甲1発明と前提において異なるものであるから、甲1発明に甲3技術を適用する動機付けを見出すことはできない。
仮に、甲1発明のロープ10に代えて甲3技術のボールねじ機構を採用した場合においても、上記のとおり甲3技術のボールねじ機構はそもそも伸縮するものではないから、相違点に係る甲1発明の発明特定事項である「支持部品が伸縮した場合であっても、伸縮に影響されずに、外かご枠に対する複数の内かごの位置を検出する」という事項を有するものとはならない。
よって、甲1発明に甲3技術を適用して相違点に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たとはいえない。

したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲3技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

さらに、本件発明2、3及び7は、本件発明1を直接的または間接的に引用するものであって、本件発明1の発明特定事項を置き換えることなく限定するものであるから、本件発明1と同様に甲1発明及び甲3技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)特許異議申立理由(特許法第36条第6項第1号)について
申立人は、訂正前の請求項1に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないとして、以下のとおり主張している。

「(ア)請求項1には、「前記外かご枠の中に配置され、前記外かご枠内で移動する複数の内かご」と記載されており、外かご枠内に3つ以上の内かごが配置される構成、及び、各内かごが外かご枠内を上下方向以外の方向に移動する構成が含まれるように特定されているが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、例えば「2つの内かご12はロープ19で互いに接続されて外かご枠11の中に配置され、内かご間隔調整部13がロープ19を駆動することにより、外かご枠11内で移動する。」(段落[0019])及び図1、3、4に記載されているように、2つの内かご12が外かご枠11内において上下動する構成しか記載されていない。
また、複数の内かごが例えば水平方向に移動する場合、内かご同士を接続し支持する支持部品に、内かご内の負荷(人の乗降)によって伸縮が生じるか否かが不明である。このため、請求項にかかる発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。
以上のことからすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明では、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明において開示された内容を請求項1に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、請求項1に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

(イ)請求項1には、「前記複数の内かご同士を接続し支持する支持部品」と記載されており、支持部材が3つ以上の内かご同士を接続して支持する構成も含まれるように記載されているが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、例えば「2つの内かご12はロープ19で互いに接続されて外かご枠11の中に配置され、」(段落[0019])及び図1、3、4に記載されているように、2つの内かごを接続し支持する支持部品のみが記載されている。
また、3つ以上の内かご同士を接続し支持する支持部品に、内かご内の負荷(人の乗降)によって伸縮が生じるか否かが不明である。このため、請求項にかかる発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。
以上のことからすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明では、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明において開示された内容を請求項1に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、請求項1に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。

(ウ)請求項1には、「前記第1の内かご位置検出部は、前記支持部品が伸縮した場合であっても、伸縮に影響されずに、前記外かご枠に対する前記複数の内かごの位置を検出する」と記載されおり、この記載には多種多様な構成が含まれる。しかし、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「リング状になったロープ21が内かご12と連動し、内かご12の移動に伴ったロープ21の移動量(回転量)をローププーリ22を介してロータリエンコーダ23が測定することにより、内かご12の移動量を測定する」構成(段落[0023]?[0026])と、「外かご枠11に固定された測距器からの光などの電磁波を、内かご12に固定された反射器で測距器に反射し、測距器で測距器と反射器の距離を測定する」構成(段落[0035])との二つの構成しか記載されていない。
以上のことからすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明では、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明において開示された内容を請求項1に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、請求項1に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。」

上記申立人の主張する(ア)ないし(ウ)の理由について以下検討する。
(ア)の理由について
訂正後の請求項1に係る発明は、「階高調整式ダブルデッキエレベータ」に関するものであり、ダブルデッキエレベータの、「ダブル」は「2倍の」、「2重に」の意味であることからすると、外枠内に設けられた内かごの数は、「2個」であると認められる。そして、ダブルデッキエレベータは「階高調整式」であることから、フロア間の高さが異なる建物に内かごの位置が対応する機能を有するものであって、内かごの数が2個であれば、フロア間の高さが異なる建物に対応するために内かごは上下に設けられるのは自明であるから、訂正後の請求項1に係る発明において、「階高調整式ダブルデッキエレベータ」と特定されている以上、複数の内かごは2つであり、しかも上下に配置されることも実質的に特定されているものと認められる。

(イ)の理由について
上記(ア)の理由についての検討によれば、訂正後の請求項1に係る発明における複数の内かごは「2つ」であることが実質的に特定されていることから、「前記複数の内かご同士を接続し支持する支持部品」は、2つの内かご同士を接続し支持する支持部品であると認められる。

(ウ)の理由について
訂正後の請求項1に係る発明において「前記第1の内かご位置検出部は、前記外かご枠と前記内かごとの間に設けられ、前記支持部品が伸縮した場合であっても、伸縮に影響されずに、前記外かご枠に対する前記複数の内かごの位置を検出する」するにあたって、外かご枠に対する複数の内かごの位置を検出するための手段としては、多種多様な位置検出手段が想定できるところ、発明の詳細な説明には、そのうちの一部が実施例として記載されているにすぎない。
しかしながら、発明の詳細な説明に実施例として記載されているものに限らず、その他の多種多様な位置検出手段があることは当業者にとって周知であるから、本件出願時の技術常識に照らせば訂正後の請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができると認められる。

以上、(ア)ないし(ウ)の理由についての検討により、訂正後の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえず、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないとはいえない。

(4)特許異議申立理由(特許法第36条第6項第2号)について
申立人は、訂正前の請求項1に係る発明が明確でないとして、以下のとおり主張している。

「(エ)請求項1には、「前記外かご枠の中に配置され、前記外かご枠内で移動する複数の内かご」と記載されており、内かご同士の位置関係や移動方向が特定されていない。また、内かごの数が3つ以上の場合も含まれている。このため、発明の範囲が明確ではない。
よって、請求項1に係る発明は、明確ではない。

(オ)請求項1には、「前記複数の内かご同士を接続し支持する支持部品」と記載されており、3つ以上の内かご同士を接続し支持する支持部材が含まれるが、出願時の技術常識を考慮しても、支持部材が3つ以上の内かごをどのように接続し支持しているかが不明であり、明細書及び図面の記載を考慮しても、当業者が請求項の記載から発明を明確に把握できない。
よって、請求項1に係る発明は、明確ではない。

(カ)請求項1には、「前記第1の内かご位置検出部は、前記支持部品が伸縮した場合であっても、伸縮に影響されずに、前記外かご枠に対する前記複数の内かごの位置を検出する」と記載されているが、この記載は達成すべき効果のみで特定しているいわゆる願望クレームであって、支持部材の伸縮に影響されずに内かごの位置を検出するための具体的な構成が一切特定されておらず、出願時の技術常識を考慮しても、発明特定事項が技術的に十分に特定されていないことが明らかであり、明細書及び図面の記載を考慮しても、当業者が請求項の記載から発明を明確に把握できない。
よって、請求項1に係る発明は、明確ではない。」

上記申立人の主張する(エ)ないし(カ)の理由について以下検討する。
(エ)の理由について
上記(3)(ア)の理由についてにおいて検討したとおり、訂正後の請求項1には、複数の内かごは2つであって、しかも上下に配置されることが実質的に記載されているといえる。

(オ)の理由について
上記(3)(イ)の理由についてにおいて検討したとおり、訂正後の請求項1には、複数の内かごは2つであることが実質的に記載されているから、訂正後の請求項1の記載における「前記複数の内かご同士を接続し支持する支持部品」は、2つの内かご同士を接続し支持する支持部品であると認められる。

(カ)の理由について
訂正後の請求項1においては、「支持部品が伸縮」することを前提として、「前記外かご枠に対する前記複数の内かごの位置を検出する」ことから導き出せる事項として、「前記第1の内かご位置検出部は、前記支持部品が伸縮した場合であっても、伸縮に影響されずに、前記外かご枠に対する前記複数の内かごの位置を検出する」ことを特定したものであるから、「前記第1の内かご位置検出部は、前記支持部品が伸縮した場合であっても、伸縮に影響されずに、前記外かご枠に対する前記複数の内かごの位置を検出する」という記載は、達成すべき効果のみで特定されたものではない。

以上、(エ)ないし(カ)の理由についての検討により、訂正後の請求項1の記載は明確であって、特許法第36条第6項2号の規定に適合しないとはいえない。

5.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし3及び7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし3及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に移動する外かご枠と、
前記外かご枠の中に配置され、前記外かご枠内で移動する複数の内かごと、
前記複数の内かご同士を接続し支持する支持部品と、
前記支持部品を駆動し前記複数の内かごを連動して移動させることにより、前記複数の内かごの間隔を調整する内かご間隔調整部と、を有する階高調整式ダブルデッキエレベータであって、
前記複数の内かごの位置を検出する第1の内かご位置検出部を更に有し、
前記支持部品は伸縮し、
前記第1の内かご位置検出部は、前記外かご枠と前記内かごとの間に設けられ、前記支持部品が伸縮した場合であっても、伸縮に影響されずに、前記外かご枠に対する前記複数の内かごの位置を検出する
階高調整式ダブルデッキエレベータ。
【請求項2】
前記第1の内かご位置検出部は、前記複数の内かごの各内かごに対して1つずつ備えられ、前記内かご間隔調整部以外の場所であって、前記外かご枠と前記複数の内かごとの間にそれぞれ設けられる、請求項1に記載の階高調整式ダブルデッキエレベータ。
【請求項3】
前記第1の内かご位置検出部は、前記外かご枠に対する前記内かごの移動距離を所定の分解能で測定し、前記外かご枠に対する前記内かごの位置の測定値を算出する、請求項2に記載の階高調整式ダブルデッキエレベータ。
【請求項4】
前記第1の内かご位置検出部は、
前記内かごの移動に伴って移動するロープと、
前記ロープで回転するローププーリと、
前記ローププーリの回転量を測定するロータリーエンコーダと、
を有する請求項3に記載の階高調整式ダブルデッキエレベータ。
【請求項5】
前記外かご枠に対する前記内かごの移動を、前記第1の内かご位置検出部よりも高い精度で、かつ前記第1の内かご位置検出部よりも低い分解能で検出する、第2の内かご位置検出部を更に有し、
前記第2の内かご位置検出部によって前記外かご枠に対する前記内かごの移動が検出されると、前記第2の内かご位置検出部の検出結果に基づいて、前記第1の内かご位置検出部の測定値を所定値に補正する、
請求項3または4に記載の階高調整式ダブルデッキエレベータ。
【請求項6】
前記第2の内かご位置検出部は、
前記外かご枠または前記内かごのいずれか一方に配置された発光部と受光部を有し、前記発光部からのレーザー光を前記受光部で受光する検出器と、
前記外かご枠または前記内かごのうち前記検出器が配置されていない方に配置され、前記外かご枠に対して前記内かごが所定の位置にくると前記発光部からのレーザー光を遮る遮断板と、
を有する、請求項5に記載の階高調整式ダブルデッキエレベータ。
【請求項7】
前記内かごが所定階に着床している状態で、前記第1の内かご位置検出部で検出される前記内かごの前記外かご枠に対する位置の変化に応じて前記外かご枠の位置を変化させる外かご枠位置制御手段を更に有する、
請求項1から6のいずれか一項に記載の階高調整式ダブルデッキエレベータ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-10 
出願番号 特願2011-241686(P2011-241686)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (B66B)
P 1 652・ 537- YAA (B66B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大塚 多佳子  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 槙原 進
松下 聡
登録日 2015-11-13 
登録番号 特許第5837800号(P5837800)
権利者 株式会社日立製作所
発明の名称 階高調整式ダブルデッキエレベータ  
代理人 特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所  
代理人 特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所  
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