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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1327856
異議申立番号 異議2016-700554  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-21 
確定日 2017-03-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5836326号発明「着色硬化性組成物およびカラーフィルタ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5836326号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし15〕、16について訂正することを認める。 特許第5836326号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯等

1 本件特許異議の申立てに係る特許

本件特許異議の申立てに係る特許第5836326号は、特許権者である富士フイルム株式会社より、平成25年7月8日(優先権主張 平成24年7月30日 日本国)、特願2013-142528号として出願され、平成27年11月13日、発明の名称を「着色硬化性組成物およびカラーフィルタ」、請求項の数を「16」として特許権の設定登録を受けたものである。

2 手続の経緯

本件特許に対して、平成28年6月21日、特許異議申立人である坂田純子(以下、「異議申立人」という)より特許異議の申立てがなされ、同年9月29日付けで取消理由が通知され、同年11月24日、特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され、これに対し、平成29年1月20日異議申立人より意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否

上記平成28年11月24日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり一群の請求項を構成する請求項1?15、一群の請求項となる関係を有する請求項のない請求項16ごとに、それぞれについて訂正することを求めるものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に「R^(1)?R^(4)は、それぞれ、下記一般式(2)で表される基または該基以外の置換基を表し」とあるのを、「R^(1)?R^(4)は、それぞれ、下記一般式(2)で表される基または下記一般式(2)で表される基以外の置換基を表し、下記一般式(2)で表される基以外の置換基がアリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基であり」と訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2?15も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項1に「ただし、n^(1)?n^(4)の総和およびm^(1)?m^(4)の総和は、それぞれ、1以上である。」とあるのを、「ただし、n^(1)?n^(4)の総和は2?8であり、m^(1)?m^(4)の総和は6?14である。」と訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2?15も同様に訂正する。)

(3)訂正事項3

特許請求の範囲の請求項1に「一般式(2)中、L^(1)は2価の連結基を表し」とあるのを、「一般式(2)中、L^(1)は、-O-、-S-、-SO_(2)-または-NH-を表し」と訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2?15も同様に訂正する。)

(4)訂正事項4

特許請求の範囲の請求項1に「R^(5)?R^(7)は、それぞれ、水素原子または1価の置換基を表す」とあるのを、「R^(5)は水素原子またはメチル基を表し、R^(6)およびR^(7)は水素原子を表す」と訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2?15も同様に訂正する。)

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項16に「R^(1)?R^(4)は、それぞれ、下記一般式(2)で表される基または該基以外の置換基を表し」とあるのを、「R^(1)?R^(4)は、それぞれ、下記一般式(2)で表される基または下記一般式(2)で表される基以外の置換基を表し、下記一般式(2)で表される基以外の置換基がアリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基であり」と訂正する。

(6)訂正事項6

特許請求の範囲の請求項16に「ただし、n^(1)?n^(4)の総和およびm^(1)?m^(4)の総和は1以上である。」とあるのを、「ただし、n^(1)?n^(4)の総和は2?8であり、m^(1)?m^(4)の総和は6?14である。」と訂正する。

(7)訂正事項7

特許請求の範囲の請求項16に「一般式(2)中、L^(1)は2価の連結基を表し」とあるのを、「一般式(2)中、L^(1)は、-O-、-S-、-SO_(2)-または-NH-を表し」と訂正する。

(8)訂正事項8

特許請求の範囲の請求項16に「R^(5)?R^(7)は、それぞれ、水素原子または1価の置換基を表す」とあるのを、「R^(5)は水素原子またはメチル基を表し、R^(6)およびR^(7)は水素原子を表す」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1ないし4について

上記訂正事項1は、本件明細書の段落【0018】?【0023】の「R^(1)?R^(4)が一般式(2)で表される基以外の置換基である場合、該置換基としては、後述する置換基Tが挙げられ、アリールオキシ基、アリールチオ基、ヘテロ環オキシ基、アリールスルホニル基が好ましい。・・・上述の置換基Tとしては・・・アリールオキシ基(好ましくは炭素数6?48、より好ましくは炭素数6?24のアリールオキシ基で、例えば、フェノキシ基、1-ナフトキシ基)・・・アニリノ基(好ましくは炭素数6?32、より好ましくは6?24のアニリノ基で、例えば、アニリノ基、N-メチルアニリノ基)・・・アリールチオ基(好ましくは炭素数6?48、より好ましくは炭素数6?24のアリールチオ基で、例えば、フェニルチオ基)・・・アリールスルホニル基(好ましくは炭素数6?48、より好ましくは炭素数6?24のアリールスルホニル基で、例えば、フェニルスルホニル基、1-ナフチルスルホニル基)・・・等が挙げられる。」との記載等に基づいて、訂正前の請求項1の「該基(一般式(2)で表される基)以外の置換基」を、「アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基」に限定するものである。

上記訂正事項2は、本件明細書の段落【0019】、【0020】の「n^(1)?n^(4)は、それぞれ、0?4の整数を表し、0?2の整数が好ましく、0または1がより好ましい。ただし、一分子中におけるn^(1)?n^(4)の総和は1以上であり、2?8の整数であることが好ましく、2?4の整数であることがより好ましい。m^(1)?m^(4)は、それぞれ、0?4の整数を表す。ただし、m^(1)?m^(4)の総和は1以上であり、6?14の整数であることが好ましく、9?14の整数であることがより好ましい。」との記載等に基づいて、訂正前の請求項1の「n^(1)?n^(4)の総和およびm^(1)?m^(4)の総和」が、それぞれ、「1以上」であったものを、それぞれ、「2?8」、「6?14」に限定するものである。

上記訂正事項3は、本件明細書の段落【0024】の「L^(1)は、-O-、-S-、-C(=O)-、-CH_(2)-、-C(=S)-、-NR^(A)-、-SO-、-SO_(2)-の1つまたは2つ以上の組み合わせからなる2価の連結基が好ましく、-O-、-S-、-C(=O)-、-CH_(2)-、-SO_(2)-の1つまたは2つ以上の組み合わせからなる2価の連結基がより好ましく、-O-または-S-がさらに好ましく、-O-が特に好ましい。・・・R^(A)は、水素原子、メチル基またはエチル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。」との記載、及び段落【0034】の表1?8に記載される一般式(1)で表される化合物の具体例における「一般式(2)で表される基」に対応するR-1?R-34において、「L^(1)」が、R-1?R-6、R-25?R-34で「-O-」、R-7?R-12で「-S-」、R-13?R-18で「-SO_(2)-」、R-19?R-24で「-NH-」であること等に基づいて、訂正前の請求項1の「L^(1)」が、「2価の連結基」であったものを、「-O-、-S-、-SO_(2)-または-NH-」に限定するものである。

上記訂正事項4は、本件明細書の段落【0028】の「一般式(3)中、R^(5)?R^(7)は、それぞれ、水素原子または1価の置換基を表し・・・R^(5)?R^(7)は、水素原子またはメチル基がさらに好ましく、R^(6)およびR^(7)は水素原子が特に好ましく、R^(5)は水素原子またはメチル基が特に好ましい。」との記載等に基づいて、訂正前の請求項1の「R^(5)?R^(7)」が、「水素原子または1価の置換基」であったものを、「R^(5)」は「水素原子またはメチル基」に、「R^(6)およびR^(7)」は「水素原子」に限定するものである。

したがって、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

(5)訂正事項5ないし8について

上記訂正事項5ないし8は、請求項16に対して、それぞれ、上記訂正事項1ないし4と同じ内容の限定をするものである。
したがって、これらの訂正事項は、訂正事項1ないし4と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

3 小括

上記「2」のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1ないし15、一群の請求項となる関係を有する請求項のない請求項16ごとに、それぞれについて訂正することを求めるものであり、それらの訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし15〕、16について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし16に係る発明(以下、請求項1に係る発明を項番に対応して「本件発明1」、「本件発明1」に係る特許を「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を含有する着色硬化性組成物。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、X^(1)?X^(4)は、それぞれ、ハロゲン原子を表し、Mは、金属原子、金属酸化物、金属ハロゲン化物または無金属を表す。R^(1)?R^(4)は、それぞれ、下記一般式(2)で表される基または下記一般式(2)で表される基以外の置換基を表し、下記一般式(2)で表される基以外の置換基がアリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基であり、R^(1)?R^(4)のうちの少なくとも1つが、下記一般式(2)で表される基である。n^(1)?n^(4)は0?4の整数を表し、m^(1)?m^(4)は0?4の整数を表す。ただし、n^(1)?n^(4)の総和は2?8であり、m^(1)?m^(4)の総和は6?14である。)
一般式(2)
【化2】
*-L^(1)-Ar-A (2)
(一般式(2)中、L^(1)は、-O-、-S-、-SO_(2)-または-NH-を表し、Arはアリーレン基を表し、Aは下記一般式(3)で表される基を表す。*はフタロシアニン環との結合する部位を表す。)
一般式(3)
【化3】

(一般式(3)中、L^(2)は単結合または2価の連結基を表す。R^(5)は水素原子またはメチル基を表し、R^(6)およびR^(7)は水素原子を表す。*は一般式(2)中のArとの結合する部位を表す。)

【請求項2】
前記一般式(1)におけるX^(1)?X^(4)が、それぞれ、塩素原子またはフッ素原子である請求項1に記載の着色硬化性組成物。

【請求項3】
前記一般式(2)におけるArが、フェニレン基またはナフチレン基である請求項1または2に記載の着色硬化性組成物。

【請求項4】
前記一般式(2)におけるL^(1)が、-O-または-S-である請求項1?3のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物。

【請求項5】
前記一般式(1)におけるX^(1)?X^(4)が塩素原子であり、前記一般式(2)におけるArがフェニレン基であり、L^(1)が-O-である請求項1?4のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物。

【請求項6】
前記一般式(1)で表される化合物が、1分子中に1?4個の一般式(2)で表される基を有する、請求項1?5のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物。

【請求項7】
前記一般式(1)で表される化合物が、600?750nmに極大吸収波長を有する請求項1?6のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物。

【請求項8】
硬化性化合物をさらに含有する請求項1?7のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物。

【請求項9】
黄色着色剤をさらに含有する請求項1?8のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物。

【請求項10】
前記黄色着色剤が、アゾ系染料またはモノメチン系染料である請求項9に記載の着色硬化性組成物。

【請求項11】
前記黄色着色剤が、下記一般式(4)で表されるモノメチン系染料である請求項10に記載の着色硬化性組成物。
一般式(4)
【化4】

(一般式(4)中、R^(11)は、それぞれ、アルキル基またはビニル基を表し、R^(12)は、それぞれ、置換基を表す。)

【請求項12】
請求項1?11のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物を用いた着色層を有するカラーフィルタ。

【請求項13】
請求項1?11のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物を基板上に適用し、着色層を形成する工程と、形成された前記着色層上にさらにフォトレジスト層を形成する工程と、前記フォトレジスト層をパターン状に露光し、現像してレジストパターンを形成する工程と、前記レジストパターンをエッチングマスクとして、前記着色層をドライエッチングして着色領域を形成する工程と、を有するカラーフィルタの製造方法。

【請求項14】
請求項1?11のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物を基板上に適用し、着色層を形成する工程と、形成された着色層をパターン状に露光し、現像して着色領域を形成する工程と、を有するカラーフィルタの製造方法。

【請求項15】
請求項12に記載のカラーフィルタを有する固体撮像素子、液晶表示装置または有機EL表示装置。

【請求項16】
下記一般式(1)で表される色素。
一般式(1)
【化5】

(一般式(1)中、X^(1)?X^(4)は、それぞれ、ハロゲン原子を表し、Mは、金属原子、金属酸化物、金属ハロゲン化物または無金属を表す。R^(1)?R^(4)は、それぞれ、下記一般式(2)で表される基または下記一般式(2)で表される基以外の置換基を表し、下記一般式(2)で表される基以外の置換基がアリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基であり、R^(1)?R^(4)のうちの少なくとも1つが、下記一般式(2)で表される基である。n^(1)?n^(4)は0?4の整数を表し、m^(1)?m^(4)は0?4の整数を表す。ただし、n^(1)?n^(4)の総和は2?8であり、m^(1)?m^(4)の総和は6?14である。)
一般式(2)
【化6】
*-L^(1)-Ar-A (2)
(一般式(2)中、L^(1)は、-O-、-S-、-SO_(2)-または-NH-を表し、Arはアリーレン基を表し、Aは下記一般式(3)で表される基を表す。*はフタロシアニン環との結合する部位を表す。)
一般式(3)
【化7】

(一般式(3)中、L^(2)は単結合または2価の連結基を表す。R^(5)は水素原子またはメチル基を表し、R^(6)およびR^(7)は水素原子を表す。*は一般式(2)中のArとの結合する部位を表す。)」

第4 取消理由、及び取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立理由(以下、「申立理由」という。)の概要

1 取消理由の概要

訂正前の本件発明1ないし16(訂正前の本件特許1ないし16)に対して平成28年9月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)特許法第29条第1項第3号

(ア)本件発明1ないし4、6ないし8、16は、いずれも甲第1号証に記載された発明であり、本件特許1ないし4、6ないし8は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由1」という。)。

(2)特許法第29条第2項

(ア)本件発明1ないし4、6ないし8、16は、いずれも甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(イ)本件発明1ないし16は、いずれも甲第2号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(ウ)本件発明1ないし3、6ないし12、15、16は、いずれも甲第4号証に記載された発明及び、甲第4号証に記載の事項又は周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(エ)本件発明16は、甲第5号証に記載された発明及び、甲第5号証に記載の事項又は周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

よって、本件特許1ないし16は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由2」という。)。

(3)特許法第36条第6項第1号

本件発明1ないし16が、発明の詳細な説明に記載したものでなく、本件特許1ないし16は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由3」という。)。

2 申立理由の概要

(1)特許法第29条第2項(特許異議申立書第77頁?第78頁の「(5)むすび」参照。)

(ア)本件発明1ないし16(甲第5号証については、本件発明1ないし15)は、甲第3号証、甲5号証及び甲6号証に記載された発明及び甲第8号証、甲第9号証、及び甲第10号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(イ)本件発明1?16は、甲第7号証に記載された発明及び甲第8号証、甲第11号証、甲第4号証及び甲第12号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

よって、本件特許1ないし16は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「申立理由1」という。)。

(2)特許法第36条第4項第1号

本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、本件特許1ないし16は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「申立理由2」という。)。

3 刊行物
甲第1号証:特開2006-282980号公報
甲第2号証:特開平5-271567号公報
甲第3号証:特開2007-262263号公報
甲第4号証:特開2006-342264号公報
甲第5号証:特開2011-75671号公報
甲第6号証:特開平9-157536号公報
甲第7号証:特開2008-50599号公報
甲第8号証:田中正夫、駒省二著「フタロシアニン -基礎物性と機能材料への応用-」(1991年5月31日初版第1刷)、ぶんしん出版、第2?10頁、第19頁、第45頁
甲第9号証:特開平9-202860号公報
甲第10号証:特開昭51-57719号公報
甲第11号証の1:國立中興大學化學工程系 博士學位論文 可溶性有機半導體合成及其光電材料應用研究 Synthesis of Soluble Organic Semiconductors and Study on It's Application in Optoelectronic Materials、第1頁?第42頁、第62頁?第92頁、陳健勳著(甲第11号証の1に関し、甲第11号証の2を見ると2012年7月27日に口頭発表されたことがわかる。)
甲第11号証の2:URL:http://ndltd.ncl.edu.tw/cgibin/gs32/gsweb.cgi/ccd=obOPji/record?ri=1&h1=0に記載されたインターネット上の情報(印刷日:2016年6月2日)
甲第12号証:特開平2-282385号公報

第5 当審の判断

1 取消理由1及び2(特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について

(1)刊行物に記載の事項

ア 甲1(特開2006-282980号公報)

(ア-1)
「【請求項1】
下記一般式(1)で表わされるフタロシアニン化合物を配合してなる半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【化1】

(式中、R^(1),R^(10),R^(11)はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いアルケニル基、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良いアルキルカルボニル基または置換基を有しても良いアリールカルボニル基を表し、R^(2),R^(3),R^(4),R^(5),R^(6),R^(7),R^(8),R^(9)はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いアルケニル基、置換基を有しても良いアリール基、置換基を有しても良いアルコキシ基、置換基を有しても良いアリールオキシ基、置換基を有しても良いアルキルチオ基、置換基を有しても良いアリールチオ基または置換基を有しても良いアミノ基を表し、またR^(2)?R^(9)のうち隣接する2個の置換基が互いに結合して、2個の置換基が置換している位置の炭素原子とともに環を形成しても良い。R^(12)は置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いアルケニル基、置換基を有しても良いアリール基または置換基を有しても良いヘテロ環基を表し、Xは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有しても良いアルケニル基、置換基を有しても良いアリール基または置換基を有しても良いアミノ基を表す。lは1?8、m、p、qはそれぞれ0または1?14の整数を表し、2l+m+p+q=16である。Mは2価の金属原子、3価あるいは4価の置換金属またはオキシ金属を表す。)」

(ア-2)
「【0001】
本発明は、レーザーマーキング性に優れ、黒色系で、半導体の機能に悪影響を与えない半導体封止用エポキシ樹脂組成物に関するものである。」

(ア-3)
「【0007】
本発明の目的は、半導体の機能に悪影響を及ぼさず、黒色系の色調で、レーザーマーキング、特にYAGレーザーを使用したマーキングの特性が良好な半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するために種々検討した結果、本発明者らは特定のフタロシアニン化合物を用いることにより、黒色系の色調で遮光性が高く、且つ電気伝導性が小さく、YAGレーザーマーキングの特性、耐熱性、耐湿性に優れ、半導体に悪影響を与えない半導体封止用エポキシ樹脂組成物が得られるとの知見を得て、本発明を達成した。
即ち、本発明は下記一般式(1)で表わされるフタロシアニン化合物を配合してなる半導体封止用エポキシ樹脂組成物を提供するものである。」

(ア-4)
「【0082】
本発明に用いられる一般式(1)のフタロシアニン化合物のlは、前記した様に1?8、好ましくは2?8、より好ましくは4?8であるが、これは一般式(1)のフタロシアニン化合物にベンゾチアジノ環が多く縮合しているほうが、フタロシアニン化合物の黒色化、吸収特性波長のマッチングにおいて好ましいためである。
また、本発明に用いられる一般式(1)のフタロシアニン化合物が、原料としてパーハロゲノフタロシアニン化合物を使用したものであることも、好ましい態様の一つである。」

(ア-5)
「【0085】
【表1-2】

【0086】
【表1-3】

【0087】
【表1-4】



(ア-6)
「【0121】
[実施例1]
エポキシ化クレゾールノボラック樹脂(EOCN1020-70、日本化薬製)55g、フェノールノボラック樹脂(PSK4300、群栄化学製)35g、ブロム化エポキシノボラック樹脂(BREN-S、日本化薬製)10g、溶融シリカ粉末(平均粒径10μm)250g、三酸化アンチモン5g、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM403、信越化学工業製)1g、トリフェニルホスフィン1g、カルナバワックス1g、及び製造例1で製造した、具体例No.15の化合物を主成分とするフタロシアニン化合物の混合物3gを配合した。
この組成物を6インチロールを用い、80?90℃にて5分間混練した後、冷却、粉砕してエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物をタブレット化し、低圧トランスファー成形機にて175℃、70kgf/cm^(2)の条件で成形し、更に175℃で8時間ポストキュアし捺印用サンプルとした。得られたサンプルは灰黒色であった。
このサンプルに日本電気(株)製のマスクタイプのYAGレーザー捺印機(印加電圧2.4kV、パルス幅120μs、発振波長1064nmの条件)で印字したところ、鮮明な印字が得られた。
結果を表2に示す。
【0122】
[実施例2?51]
実施例1における具体例No.15の化合物を主成分とするフタロシアニン化合物の混合物の代わりに、前記製造例にて得られた表2に示すフタロシアニン化合物を用いた以外は実施例1と同様な操作で捺印用サンプルを作製し、YAGレーザーによる印字テストを行った。
得られたサンプルの色調と、印字テストの結果を表2に示す。なお、表2のレーザーマーキング性の欄において、◎は印字が鮮明であったことを、○はやや鮮明さが劣るが判読に問題がなかったことを、△は不鮮明あったことを、×はマーキングができなかったことを示す。」

(ア-7)
「【0125】
【表2-1】



イ 甲2(特開平5-271567号公報)

(イ-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 光感応型重合性置換基を結合してなる色素。
【請求項2】 下記一般式(1)で示される請求項1記載の色素。
D-(A-(Y)_(n)^(1))_(n)^(2) (1)
(式(1)中、Dは発色母核を表し、Aは連結基を、Yは光感応型重合可能な基を表し、n^(1)は1?10000の整数を、n^(2)は1?10の整数を表す)
【請求項3】n^(1)およびn^(2)が1である請求項2記載の色素。
【請求項4】 光感応型重合可能な基Yが下記一般式(2)?(7)(化1)のいずかで示される請求項3記載の色素。
【化1】

(式(2)?(7)中、R^(1)?R^(4)はそれぞれ独立に、無置換又は置換のアルキル基、無置換または置換のシクロアルキル基、無置換または置換のアラルキル基または水素原子を表し、R^(5)は、無置換または置換のアルキル基、無置換または置換のシクロアルキル基、無置換または置換のアリール基、無置換または置換のアラルキル基または水素原子を表し、R^(6)?R^(8)は、それぞれ独立に、無置換または置換のアルキル基、無置換または置換のシクロアルキル基、無置換または置換のアルコキシ基、ハロゲン原子または水素原子を表す)。
【請求項5】 請求項1?4記載の色素からなるカラーフィルター用色素。
・・・(略)・・・
【請求項8】 Dで表される色素母核が、フタロシアニン、アントラキノンまたは、キノフタロン誘導体である請求項2?7に記載の色素。
【請求項9】 請求項1?8のいずれかに記載の色素を含有してなる光感応型レジスト樹脂組成物。
・・・(略)・・・」

(イ-2)
「【0017】
【化5】

(式(16)中、Y^(1)は1?15個のそれぞれ独立した水素原子、置換または無置換のアルキル基、無置換または置換のシクロアルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のアルコキシ基、置換または無置換のアリールオキシ基、置換または無置換のアルキルチオ基、置換または無置換のアリールチオ基、置換または無置換のアルキルアミノ基、置換または無置換のジアルキルアミノ基、置換または無置換のアリールアミノ基、置換または無置換のジアリールアミノ基、アミノ基、ハロゲン原子、ニトロ基、ニトリル基、置換または無置換のアシル基、置換または無置換のアルコキシカルボニル基、置換または無置換のアミド基を表し、Metは、2価の金属、3価1置換金属、4価2置換金属、オキシ金属を表す。lは1?15の整数を表す)」

(イ-3)
「【0045】
実施例6
3-ニトロフタロニトリル10部、p-ヒドロキシアセトフェノン9.4部、60%水素化ナトリウム2.2部をジメチルホルムアミド150部に加え、120℃に加熱、10時間反応した。反応物を5%塩酸1000部に排出した。クロロホルム400部にて抽出し、抽出物をクロロホルム-メタノールのカラムクロマトにより精製した。精製した組成物5部、塩化第一銅0.5部、ジアザビシクロウンデセン2.7部とn-アミルアルコール50部を混合し、還流下5時間反応した。反応混合物を減圧下、アミルアルコールを留去し、続いてカラムクロマト精製した。精製物3部とベンズアルデヒド0.4部を硫酸の存在下、氷酢酸50部中40?45℃で10時間反応した。反応混合物を500部の水中に排出し、濾別、乾燥し、カラムクロマトにより精製して、下記化合物(29)(化18)およびその異性体を2部得た。
【0046】
【化18】

元素分析:C_(92)H_(56)N_(8) O_(8) Cu
C H N
計算値(%) 75.43 3.83 7.65
分析値(%) 75.42 3.85 7.63」

(イ-4)
「【0059】
【表4】



(イ-5)
「【0081】
【発明の効果】
本発明の色素からなる光感応型レジスト樹脂組成物を硬化させてなる液晶表示用カラーフィルターは、透過率特性が良好で、耐熱性、耐光性、耐湿性等の耐久性に優れている。」

ウ 甲3(特開2007-262263号公報)

(ウ-1)
「【0001】
本発明は近赤外線吸収材料となるフタロシアニン化合物に関するものであって、さらに詳しくは近赤外線吸収フィルター、近赤外線吸収着色樹脂組成物、液晶表示素子、光カード、光記録媒体、保護眼鏡などオプトエレクトロニクス関連材料や製品に重要な役割を果たす、耐光性とその他のフタロシアニン化合物に求められる物性を両立する近赤外線吸収化合物に関する。」

(ウ-2)
「【0096】
【化43】



エ 甲4(特開2006-342264号公報)

(エ-1)
「【請求項1】
下記一般式(1)で表されるフタロシアニン化合物を含むことを特徴とする着色画像形成組成物。
【化1】

[一般式(1)中、X_(1)、X_(2)、X_(3)及びX_(4)はそれぞれ独立に-SO-Z、-SO_(2)-Z、-SO_(2)NR_(1)R_(2)、スルホ基、-CONR_(1)R_(2)、-CO_(2)R_(1)又は-COR_(1)を表す。Zはそれぞれ独立に置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換の複素環基を表す。R_(1)、R_(2)はそれぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換の複素環基を表す。Y_(1)、Y_(2)、Y_(3)及びY_(4)はそれぞれ独立に一価の置換基を表す。但し、X_(1)、X_(2)、X_(3)及びX_(4)のいずれかに少なくとも1つ以上の重合性置換基を有する。a_(1)?a_(4)、b_(1)?b_(4)は、それぞれX_(1)?X_(4)、及びY_(1)?Y_(4)の置換基数を表す。a_(1)?a_(4)はそれぞれ独立に0?4の数を表すが、全てが同時に0になることはない。b_(1)?b_(4)はそれぞれ独立に0?4の数を表す。なお、a_(1)?a_(4)及びb_(1)?b_(4)が2以上の数を表す時、複数のX_(1)?X_(4)、及びY_(1)?Y_(4)はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。Mは水素原子、金属原子又はその酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物である。]」

(エ-2)
「【0021】
本発明によれば、十分な堅牢性を有し、色再現性に優れた吸収特性を有するフタロシアニン化合物を用いて、光,熱,湿度及び環境中の活性ガスに対して十分な堅牢性を有する耐光性、耐オゾン性に優れた新規な着色画像形成組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、前記着色画像形成組成物を用いてなる耐光性、耐オゾン性に優れた着色画像形成物を提供することができる。
また、更に、本発明によれば、耐光性、耐オゾン性に優れた画像形成方法を提供することができる。」

(エ-3)
「【0036】
前記Y_(1)、Y_(2)、Y_(3)及びY_(4)は、上記の中でも、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、アルコキシ基、アミド基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、及びスルホ基が好ましく、特に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、及びスルホ基が好ましく、水素原子が最も好ましい。」

(エ-4)
「【0046】
以下、本発明におけるフロシアニン化合物の具体例を示すが、本発明における化合物はこれらに限られたものではない。
【0047】
【化7】

【0048】
【化8】

【0049】
【化9】

【0050】
【化10】



(エ-5)
「【0089】
<着色画像形成組成物の調整方法>
本発明の着色画像形成組成物の調製方法は、特に限定されずいずれの方法も用いることが出来るが、本発明におけるフタロシアニン化合物を水性媒体中に分散した水系組成物として、或いは、親油性媒体中に溶解及び/又は分散されている、特に重合性基を有するモノマー中に分散して得る活性エネルギー硬化型組成物(以下、「硬化型組成物」ともいう。)して得ることが好ましい。」

オ 甲5(特開2011-75671号公報)

(オ-1)
「【請求項1】
(A)一般式(a)で表される繰り返し単位及び一般式(b)で表される繰り返し単位を有する樹脂と、(B)顔料分散液と、(C)光重合開始剤と、(D)重合性化合物と、を含有する着色硬化性組成物。
【化1】

[一般式(a)中、X^(1)はポリマー主鎖を表す。Y^(1)は単結合又は二価の連結基を表す。Qはフタロシアニン色素残基又はジピロメテン色素残基を表す。]
【化2】

[一般式(b)中、X^(2)はポリマー主鎖を表す。Y^(2)は二価の連結基を表す。Zはアルカリ可溶性基を表す。]」

(オ-2)
「【0009】
しかしながら、通常の染料はアルカリ溶液への現像性が低いため、染料を含む着色硬化性組成物は、未露光部の溶解性(現像性)が悪く、パターン形成できないといった問題があった。そして染料に現像性を付与するため、色素基を有するモノマーとアルカリ可溶性基を有するモノマーを共重合する方法が開示されている(特許文献2、3、4参照)。
・・・(略)・・・
【0011】
色素基を有するモノマーとアルカリ可溶性基を有するモノマーとの共重合体を用いることにより、上記の通り現像性が得られる。しかしながら、色濃度、耐光性、及び耐熱性を得るために、上記共重合体と顔料分散液とを併用すると、塗布ムラや色ムラが発生する場合があることが判明した。さらに、この状態でパターン形成した場合、パターン形状が悪化する問題や、色ムラの問題が生じてしまう。」

(オ-3)
「【0027】
本発明の着色硬化性組成物は、上記構成であることにより形成された着色硬化膜の色ムラが抑制される。その理由は定かではないが、以下のように推測される。すなわち、(A)特定樹脂の一般式(a)におけるQで表される置換基が(B)顔料分散液に含まれる顔料に対して親和性が高い上に、(A)特定樹脂が一般式(a)で表される繰り返し単位及び一般式(b)で表される繰り返し単位を有することにより、(B)顔料分散液、(D)重合性化合物、及び必要に応じて用いられる(E)溶媒との親和性が向上するため、顔料の凝集が抑制され、色ムラが抑制されると推測される。
また本発明の着色硬化性組成物は、上記構成であることにより、フォトリソ法によるカラーフィルタの製造に用いた場合、塗布性及びパターン形成性が良好である。その理由は、前記のように、(A)特定樹脂は、(B)顔料分散液に含まれる顔料、(D)重合性化合物、及び必要に応じて用いられる(E)溶媒と相互作用するため、塗布性やパターン形成性を悪化させる相分離が生じにくく、均一な塗膜が形成されるととともに、(A)特定樹脂の構造に起因して、より良好なアルカリ現像液に対する親和性を有することからパターン形成性にも優れるものと推測される。」

(オ-4)
「【0028】
<本発明の(A)特定樹脂>
本発明で用いられる(A)特定樹脂について詳細に説明する。
本発明で用いられる(A)特定樹脂は、一般式(a)で表される繰り返し単位及び一般式(b)で表される繰り返し単位を有する。以下、一般式(a)及び一般式(b)について、順次説明する。
<一般式(a)で表わされる繰り返し単位>
【0029】
・・・(略)・・・
【0030】
一般式(a)中、X^(1)はポリマー主鎖を表す。ポリマー主鎖としては、公知のポリマー主鎖を選ぶことができ、例えば、一般式(X^(1)-1)?(X^(1)-12)が挙げられるが、製造適性及び重合性の観点から、特に一般式(X^(1)-1)?(X^(1)-3)及び(X^(1)-10)?(X^(1)-12)が好ましく、一般式(X^(1)-1)及び(X^(1)-2)が最も好ましい。
【0031】
【化4】

【0032】
一般式(a)中、Y^(1)は単結合又は二価の連結基を表す。連結基としては、アルキレン基、アリーレン基が好ましく、特に炭素数1?10のアルキレン基が最も好ましい。
なお連結基には、炭素鎖中に酸素原子、硫黄原子などのヘテロ原子を含んでいてもよく、また、カルボキシル基などの置換基を有していてもよい。上記ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子が挙げられ、その中でも酸素原子が最も好ましい。
一般式(a)中のY^(1)で示される連結基としては、上記の中でも、特にヘテロ原子を含まない無置換の直鎖のアルキレン基が好ましい。
一般式(a)中、Y^(1)で表される連結基の具体例としては、例えば下記に示す連結基等が挙げられる。
【0033】
【化5】

【0034】
一般式(a)中、Y^(1)で表される連結基は、上記に具体例として示した連結基の中でも特に、-CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CH(OH)CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)CMe_(2)-が最も好ましい。」

(オ-5)
「【0050】
一般式(a)で表わされる繰り返し単位の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
【化11】



カ 甲6(特開平9-157536号公報)

(カ-1)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐久性(特に光に対する安定性)に優れ、かつ溶解性に優れた加工容易な近赤外線吸収化合物とその簡便な製造方法に関する。また、本発明はこの近赤外線吸収化合物を含有する近赤外線吸収樹脂組成物及び該化合物を含有する熱線吸収材に関する。」

(カ-2)
「【0081】
実施例5
実施例2で得られたC.I.ピグメントグリーン 7と2-(n-オクチルアミノ)チオフェノール及び2-アミノチオフェノールを反応させて得られたフタロシアニン化合物(25.6g)をピリジン(300ml)溶媒中、無水酢酸(7.0g、68.6mmol)を添加(室温)後、100℃で1時間反応させた。反応混合物は氷水(1000ml)中に排出した。析出物を吸引濾過により回収後、水洗、メタノール洗浄後、乾燥させ下記式(8)の化合物を含有する近赤外線吸収混合物(25.9g)を得た。
【0082】
該混合物は、トルエン、ベンゼン等の芳香族溶媒に良く溶け(トルエンに5%以上溶解)、λmaxは960nm(トルエン溶媒)であった。
【0083】
【化13】



キ 甲7(特開2008-50599号公報)

(キ-1)
「【請求項1】
下記式(1):
【化1】

式中、Z_(1)、Z_(4)、Z_(5)、Z_(8)、Z_(9)、Z_(12)、Z_(13)及びZ_(16)は、それぞれ独立して、ハロゲン原子を表わし;Z_(2)、Z_(3)、Z_(6)、Z_(7)、Z_(10)、Z_(11)、Z_(14)及びZ_(15)は、それぞれ独立して、ハロゲン原子または下記式:
【化2】

で示される2-メチルフェノキシ基を表わし、この際、Z_(2)、Z_(3)、Z_(6)、Z_(7)、Z_(10)、Z_(11)、Z_(14)及びZ_(15)のうち0?6個は、ハロゲン原子を表わし;Mは無金属、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わす、
で示されるフタロシアニン化合物(1)。
【請求項2】・・・(略)・・・
【請求項3】
下記式(2):
【化4】

式中、Z_(1)’、Z_(4)’、Z_(5)’、Z_(8)’、Z_(9)’、Z_(12)’、Z_(13)’及びZ_(16)’は、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表わし;Z_(2)’、Z_(3)’、Z_(6)’、Z_(7)’、Z_(10)’、Z_(11)’、Z_(14)’及びZ_(15)’は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または下記式:
【化5】

で示される-COOR^(1)OR^(2)含有フェノキシ基を表わし、この際、R^(1)は、-(CH_(2))_(p)-(pは、1?5の整数である)を表わし、R^(2)は、炭素原子数1?5のアルキル基を表わし、R^(7)は、水素原子、ハロゲン原子、メチル基またはメトキシ基を表わし、aは、1または2であり、この際、Z_(2)’、Z_(3)’、Z_(6)’、Z_(7)’、Z_(10)’、Z_(11)’、Z_(14)’及びZ_(15)’のうち、4個がハロゲン原子でありかつ残りの4個が-COOR^(1)OR^(2)含有フェノキシ基を表わし、4個が水素原子でありかつ残りの4個が-COOR^(1)OR^(2)含有フェノキシ基を表わし、または8個が-COOR^(1)OR^(2)含有フェノキシ基を表わし;Mは無金属、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わす、
で示されるフタロシアニン化合物(2)またはその加水分解物。
【請求項4】・・・(略)・・・
【請求項5】
下記式(3):
【化6】

式中、Z_(1)”、Z_(4)”、Z_(5)”、Z_(8)”、Z_(9)”、Z_(12)”、Z_(13)”及びZ_(16)”は、それぞれ独立して、ハロゲン原子または下記式:
【化7】

で示される2,6-置換フェノキシ基を表わし、この際、Z_(1)”、Z_(4)”、Z_(5)”、Z_(8)”、Z_(9)”、Z_(12)”、Z_(13)”及びZ_(16)”のうち4個は、ハロゲン原子を表わし、R^(3)及びR^(4)は、それぞれ独立して、メチル基、エチル基またはハロゲン原子を表わし;Z_(2)”、Z_(3)”、Z_(6)”、Z_(7)”、Z_(10)”、Z_(11)”、Z_(14)”及びZ_(15)”は、それぞれ独立して、下記式:
【化8】

で示される置換フェノキシ基を表わし、この際、R^(5)は、ハロゲン原子を表わし、R^(5)が複数個存在する場合には、各R^(5)は、同一であってもまたは異なるものであってもよく、nは、1?5の整数であり;Mは無金属、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わす、
で示されるフタロシアニン化合物(3)。
【請求項6】・・・(略)・・・
【請求項7】
下記式(4):
【化10】

式中、Z_(1)”’、Z_(4)”’、Z_(5)”’、Z_(8)”’、Z_(9)”’、Z_(12)”’、Z_(13)”’及びZ_(16)”’は、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表わし;Z_(2)”’、Z_(3)”’、Z_(6)”’、Z_(7)”’、Z_(10)”’、Z_(11)”’、Z_(14)”’及びZ_(15)”’は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または下記式:
【化11】

で示される-COOR^(6)含有フェノキシ基を表わし、この際、R^(6)は、炭素原子数1?20のアルキル基またはフェニル基を表わし、R^(8)は、水素原子、ハロゲン原子、メチル基またはメトキシ基を表わし、この際、Z_(2)”’、Z_(3)”’、Z_(6)”’、Z_(7)”’、Z_(10)”’、Z_(11)”’、Z_(14)”’及びZ_(15)”’のうち、4個がハロゲン原子でありかつ残りの4個が-COOR^(6)含有フェノキシ基を表わし、4個が水素原子でありかつ残りの4個が-COOR^(6)含有フェノキシ基を表わし、または8個が-COOR^(6)含有フェノキシ基を表わし;Mは無金属、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わす、
で示されるフタロシアニン化合物(4)またはその加水分解物。
【請求項8】・・・(略)・・・
【請求項9】
下記式(5):
【化12】

式中、Y_(1)、Y_(4)、Y_(5)、Y_(8)、Y_(9)、Y_(12)、Y_(13)及びY_(16)は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子または下記式:
【化13】

で示される-COOR^(9)含有フェノキシ基を表わし、この際、R^(9)は、炭素原子数1?20のアルキル基を表わし、この際、Y_(1)、Y_(4)、Y_(5)、Y_(8)、Y_(9)、Y_(12)、Y_(13)及びY_(16)のうち、4個がハロゲン原子でありかつ残りの4個が-COOR^(9)含有フェノキシ基を表わし、または4個が水素原子でありかつ残りの4個が-COOR^(9)含有フェノキシ基を表わし;Y_(2)、Y_(3)、Y_(6)、Y_(7)、Y_(10)、Y_(11)、Y_(14)及びY_(15)は、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表わし;Mは無金属、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わす、
で示されるフタロシアニン化合物(5)またはその加水分解物。」

(キ-2)
「【0001】
本発明は、新規なフラットパネルディスプレイ用フィルターおよび新規なフタロシアニン化合物に関するものである。詳しくは、本発明は、640?750nmという波長域に最大吸収波長を有する色素を含有する640?750nmの波長の光カット用フラットパネルディスプレイ用フィルター、特にプラズマディスプレイ用フィルターおよび640?750nmという波長域に最大吸収波長を有するフタロシアニン化合物に関するものである。」

(キ-3)
「【0036】
・・・(略)・・・
【発明の効果】
【0037】
本発明のフラットパネルディスプレイ用フィルターおよびフタロシアニン化合物は、特に640?750nm付近に最大吸収波長を示すため、フラットパネルディスプレイ、特にPDPやLCDが放つ無用の近赤外域(700?750nm)の光や、いわゆる深紅と呼ばれる不純な赤色の波長(640?700nm)の光をカットし、例えば光通信システムの誤作動誘発を防止し、また同時に鮮明な赤色を再現する効果を発揮できる。」

ク 甲8(田中正夫、駒省二著「フタロシアニン -基礎物性と機能材料への応用-」)

(ク-1)第9頁第23行?第10頁第25行
「その他のMPcについても数多くの置換誘導体が合成されている。その種類は非常に多く、すべてを例示することは困難であるが、類型化すると以下のようになる。
・・・(略)・・・
MPc-F_(n)^(50),51))
結局、一般の芳香族化合物の置換基として知られているものは、一通り合成されているといってよい。置換基数nは多くの場合4または8である。
置換基導入の目的の第一は、難溶性MPcへの溶解性の付与である。・・・(略)・・・また、重合能の付与を目的に、アクリロイル基等重合性置換基を導入したMPcも合成されており、レジスト材料への応用が検討されている^(52))。
MPc-COO-X-OOC-CH=CH_(2)」

ケ 甲9(特開平9-202860号公報)

(ケ-1)
「【請求項5】
一般式(1)
【化2】

[ただし、式中、X、YおよびZは水素原子またはフッ素原子を表わし、X、YおよびZのうち少なくとも一つはフッ素原子であり、Wは置換してもよいアリール基を表わし、Vは請求項3に規定した(1)?(7)群の置換基から選ばれる少なくとも1種の置換基を表わし、またnは0?4の整数であり、Mは金属、酸化金属またはハロゲン化金属を表わす。]で示される請求項1?4のいずれか一つに記載のフタロシアニン化合物。」

(ケ-2)
「【0055】
X、YおよびZは、水素原子またはフッ素原子を表わし、X、YおよびZのうち少なくとも一つはフッ素原子である。フタロシアニン化合物の溶解性が優れている点でX、YおよびZがいずれもフッ素原子であることが好ましい。」

コ 甲10(特開昭51-57719号公報)

(コ-1)第2頁左上欄第1行?第8行
「銅フタロシアニン顔料は多くの炭化水素溶媒特に芳香族性の溶媒の中で結晶が生長する傾向を示し、その結果着色力が失われることはよく知られている。この欠点を除去するために、少量の塩素、通常重量で約3%?6%すなわちフタロシアニンの分子当り約0.5?1原子の塩素が顔料中に導入される。」

サ 甲11の1(國立中興大學化學工程系 博士學位論文 可溶性有機半導體合成及其光電材料應用研究 Synthesis of Soluble Organic Semiconductors and Study on It's Application in Optoelectronic Materials、陳健勳著)(当審注:記載事項の摘記については、異議申立人の提出した訳文の記載により行う。)

(サ-1)第2頁第1段落
「現在、LCD-TVに使用されているカラーフォトレジストは、その基本構成が接着剤、光開始剤、分散剤、反応性ポリマー、溶剤及びその他の添加剤からなる。しかし、顔料は、溶媒中における溶解性が低いため、粒子同士が容易に凝集する傾向があり、したがって、フィルムコーティングの際に粒状に凝集しやすく、フィルムが不均一になってしまい、その応用性を低減させる。この欠点は、化学的合成方法を用いて分子構造を変えることによって改善できる。すなわち、銅フタロシアニン顔料分子に、極性分子または立体障害性を有する官能基を導入した後、アクリル構造を有する官能基を導入することによって、その分子構造を変更することができる。それによって有機顔料の溶解度を高め、および分散剤の使用を減らすことが期待できる。また、顔料が反応性モノマーの特性を有するので、既存のプロセスに影響を与えずに、添加される反応性モノマーを減少することができる。これは、本論文の研究要点の一つである。」

シ 甲12(特開平2-282385号公報)

(シ-1)第3頁左下欄第20行?右下欄第10行
「特に2,9,16,23-テトラカルボキシフタロシアニン1モルにグリシジル(メタ)クリレートを4モル用いて反応させればヒドロキシル基を4個有する重合性のフタロシアニンが得られ、2,9,16,23-テトラカルボキシフタロシアニン1モルに対しグリシジル(メタ)アクリレートを2モル反応させればヒドロキシル基2個、カルボキシル基2個をそれぞれ有する重合性フタロシアニンが得られることとなり、目的に応じた数の重合性基を導入することができ、自由に選ぶことができる。」

(2)甲1を主引例として

ア 甲1に記載の発明

甲1の上記(ア-1)には、「下記一般式(1)(当審注:構造式と構造式の説明の記載を省略する。)で表されるフタロシアニン化合物を配合してなる半導体封止用エポキシ樹脂組成物。」が記載されている。
そして、上記(ア-2)及び(ア-3)の記載によれば、上記「エポキシ樹脂組成物」は、上記「フタロシアニン化合物」により、「黒色系」の色調を呈するものであるといえる。
また、甲1の上記(ア-6)及び(ア-7)【表2-1】に記載される「実施例11」として、「化合物No.56」の「フタロシアニン化合物」を用いた「エポキシ樹脂組成物」が記載されているところ、上記(ア-5)の【表1-3】によれば、「化合物No.56」とは、上記一般式(1)で、R^(1)が「-CH=CH-Ph」、R^(2)?R^(10)が「H」、R^(11)が「-CH=CH-Ph」、R^(12)が「-」、Xが「Cl」、Mが「Cu」、lが「5」、mが「4」、pが「0」、qが「2」である化合物である。

そうすると、甲1には、この化合物に対応する
「下記一般式(1)で表されるフタロシアニン化合物を配合してなる半導体封止用黒色系エポキシ樹脂組成物。
【化1】

(式中、R^(1)が「-CH=CH-Ph」、R^(2)?R^(10)が「H」、R^(11)が「-CH=CH-Ph」、R^(12)が「-」、Xが「Cl」、Mが「Cu」、lが「5」、mが「4」、pが「0」、qが「2」である。)」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

イ 対比・判断

(ア)本件発明1について

本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「黒色系」(樹脂組成物)、及び「エポキシ樹脂組成物」は、それぞれ本件発明1の「着色」(組成物)、及び「硬化性組成物」に相当する。
そして、甲1発明の「一般式(1)で表されるフタロシアニン化合物」(以下、単に「フタロシアニン化合物」)という。)と、本件発明1の「一般式(1)で表される化合物」(以下、単に「化合物」)という。)の対比において、甲1発明の「Cu」を表す「M」は、本件発明1の「金属原子」を表す「M」に相当するから、甲1発明の「X」等が結合する構造部分(以下、「フタロシアニン環」という。)は、本件発明1の「X^(1)?X^(2)」等が結合する構造部分(以下、同様に「フタロシアニン環」という。)に相当しているし、甲1発明の「Cl」を表す「X」は、本件発明1の「ハロゲン原子」を表す「X^(1)?X^(4)」に相当している。
また、甲1発明の「R^(6)?R^(11)を有し、Sでフタロシアニン環に結合している芳香環」について、「-S-」、「「H」を表すR^(6)?R^(11)を有する芳香環」、「R^(10)が「H」を表す「-NR^(10)-」」は、それぞれ、本件発明1の「「-S-」を表す場合の「L^(1)」」、「アリーレン基を表すAr」、「「2価の連結基」を表す場合の「一般式(3)のL^(2)」」に相当する。
さらに、甲1発明の「-CH=CH-Ph」を表すR^(11)は、本件発明1の一般式(3)の「L^(2)」に結合する構造と、「炭素炭素二重結合を有する構造」という点では共通している。
また、甲1発明の「R^(1)?R^(5)を有し、N及びSでフタロシアニン環に結合している芳香環」は、本件発明1の「一般式(2)で表される基以外の置換基」である「アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基」と、「一般式(2)で表される基以外の置換基」という点では共通している。

そうすると、本件発明1と甲1発明は、
「Mが金属原子を表すフタロシアニン環に、下記一般式(2)で表される基、下記一般式(2)で表される基以外の置換基及びハロゲン原子を有する化合物を含有する着色硬化性組成物。
一般式(2)
*-L^(1)-Ar-A (2)
(一般式(2)中、L^(1)は、-S-を表し、Arはアリーレン基を表し、Aは、「2価の連結基」及び2価の連結基に結合する「炭素炭素二重結合を有する構造」を表す。*はフタロシアニン環との結合する部位を表す。)」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

(相違点1)
「一般式(2)で表される基以外の置換基」が、本件発明1では、「アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基」であるのに対し、甲1発明では、「R^(1)?R^(5)を有し、N及びSで上記構造部分に結合している芳香環」である点。

(相違点2)
「一般式(2)で表される基」及び「一般式(2)で表される基以外の置換基」の置換数に関し、本件発明1では、n^(1)?n^(4)(それぞれフタロシアニン環の各芳香環部分に結合する「一般式(2)で表される基」及び「一般式(2)で表される基以外の置換基」の置換数の和である。)が0?4の整数を表し、n^(1)?n^(4)の総和が2?8であるのに対し、甲1発明では、「一般式(2)で表される基」に対応する基の置換数が「4」、「一般式(2)で表される基以外の置換基」に対応する基の置換数が「5」(結合箇所の数は10)である(総和は9となる)点。

(相違点3)
「ハロゲン原子」の置換数に関し、本件発明1では、m^(1)?m^(4)(それぞれフタロシアニン環の各芳香環部分に結合するハロゲン原子の置換数である。)が0?4の整数を表し、m^(1)?m^(4)の総和が6?14であるのに対し、甲1発明では、「Cl」の置換数が「2」である点。

(相違点4)
「一般式(2)で表される基」に含まれる「炭素炭素二重結合を有する構造」が、本件発明1では、「「-CH=CH_(2)」(本件発明1の一般式(3)でR^(5)?R^(7)が水素原子)または「-C(CH_(3))=CH_(2)」(本件発明1の一般式(3)でR^(5)がメチル基、R^(6)、R^(7)が水素原子)」であるのに対し、甲1発明では、「-CH=CH-Ph」である点。

事案に鑑み、上記相違点のうち、上記(相違点1)について以下検討する。

上記(ア-3)の記載によれば、甲1発明は、「黒色系の色調で遮光性が高く、且つ電気伝導性が小さく、YAGレーザーマーキングの特性、耐熱性、耐湿性に優れ、半導体に悪影響を与えない半導体封止用エポキシ樹脂組成物」を得ることを発明の課題としているところ、上記(ア-4)の記載によれば、甲1発明の「R^(1)?R^(5)を有し、N及びSで構造部分に連結している芳香環」は、フタロシアニン化合物の黒色化、吸収波長特性のマッチングを達成するのに必要な構造であるといえるから、上記「R^(1)?R^(5)を有し、N及びSで構造部分に連結している芳香環」は、甲1発明において、発明の課題である「黒色系の色調で遮光性が高い半導体封止用エポキシ樹脂組成物」を得るには必須の構造であるといえる。
これは、上記(ア-1)に記載される甲1発明をより包括的に表現した半導体封止用エポキシ樹脂組成物で、「R^(1)?R^(5)を有し、N及びSでフタロシアニン環に結合している芳香環」の個数を示す「l」が、他の基の個数を表す、「m」、「p」及び「q」がそれぞれ、これらの基がないことを表す「0」の場合を含むのに対し、「1?8」と必ず存在することからも分かる。
そうすると、甲1には、甲1発明の発明の課題を解決するために必須の「R^(1)?R^(5)を有し、N及びSでフタロシアニン環に結合している芳香環」を、「アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基」とすることに関する「動機付け」となるような記載は見当たらないし、他の各甲号証にも、これを示唆するような記載はない。

一方、本件発明1において、上記(相違点1)に係る「アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基」は、一般式(2)「-L^(1)-Ar-A」(L^(1)は、-O-、-S-、-SO_(2)-または-NH-)と、同じ連結基(L^(1))とアリール部分を有するという点で一致しているところ、本件明細書の段落【0025】には、一般式(2)のAr(アリーレン基)についてではあるが、「アリーレン基を含むことにより、化合物の溶解性を向上させることができる。特に、フタロシアニン化合物がハロゲン原子を有する本発明においてはその効果が顕著である。」と記載されている。これを踏まえると、一般式(2)と同様に「-L^(1)-Ar」の構造を少なくとも有する「アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基」も、本件発明1における「化合物」の溶解性に寄与していると考えるのが、技術的に自然であるといえる。実際、段落【0180】の【表11】で、本件発明1の「化合物」の「一般式(2)で表される基」のうちのいくつかを「アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基」に置換したことになる「化合物」の溶解性の判定を見ても、置換していない関係にある化合物に比べその評価がほとんど下がっていない(例えば、例示化合物「G-1」(段落【0034】【表1】:他の例示化合物の参照箇所も同様)を用いる「実施例1-1」(溶解性の判定A)と例示化合物「G-7」を用いる「実施例1-7」(溶解性の判定A)や、例示化合物「G-2」を用いる「実施例1-2」(溶解性の判定A)と例示化合物「G-9」を用いる「実施例1-9」(溶解性の判定A)参照)。

そうすると、上記(相違点1)により、本件発明1は、同段落【0011】に記載される発明の効果のうち、少なくとも「溶剤への溶解性が高い」という格別の効果を奏するものである。

よって、上記(相違点2)?(相違点4)を検討するまでもなく、上記(相違点1)が、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえず、本件特許1は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるとすることはできないし、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

なお、取消理由通知では、上記「化合物No.56」の他に、上記(ア-5)の【表1-2】の「化合物No.29」、「化合物No.37」、及び上記(ア-5)の【表1-4】の「化合物No.67」も、本件発明1の「化合物」に一致する化合物であるとしたが、これらの化合物も、甲1発明の「R^(1)?R^(5)を有し、N及びSでフタロシアニン環に結合している芳香環」を有するものであり、この基を、「アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基」とすることは、上述したように当業者が容易に想到し得るものではないから、これらの化合物をもとに発明を認定したとしても、上記の結論は変わらない。

(イ)本件発明2ないし4、6ないし8について

本件発明2ないし4、6ないし8は、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであるか、または、本件発明1にさらに他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2ないし4、6ないし8は、いずれも甲1発明、又は甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1発明、又は甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件特許2ないし4、6ないし8は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるとすることはできないし、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

(ウ)本件発明16について

本件発明16は、本件発明1に含まれる「化合物」を「色素」そのものとした発明である。
本件発明16を甲1発明の「フタロシアニン化合物」と対比すると、相違点は、上記「(ア)本件発明1について」で述べたのと同じであるから、その判断も、上記「(ア)本件発明1について」で述べたのと同じである。

よって、本件発明16は、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、本件特許16は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるとすることはできないし、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

(3)甲2を主引例として

ア 甲2に記載の発明

甲2の上記(イ-1)の【請求項1】を引用する【請求項9】には、「光感応型重合性置換基を結合してなる色素を含有してなる光感応型レジスト樹脂組成物。」が記載されているところ、上記「光感応型重合性置換基を結合してなる色素」に関し、同【請求項8】の「フタロシアニン誘導体」(その構造は、上記(イ-2)の一般式(16))の具体的な色素として、上記(イ-3)で式(29)で表される化合物が記載されている。

そうすると、甲2には、「下記式(29)で表される色素を含有してなる光感応型レジスト樹脂組成物。

」(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

イ 対比・判断

本件発明1と甲2発明を対比すると、「色素」を含有してなる「光感応型レジスト樹脂組成物」が着色されたものであることは、技術的な常識であるといえるから、甲2発明の(色素を含有してなる)「光感応型レジスト樹脂組成物」は、本件発明1の「着色硬化性組成物」に相当する。
そして、甲2発明の「式(29)で表される色素」(以下、単に「色素」)という。)と、本件発明1の「化合物」の対比において、甲2発明のの「Cu」は、本件発明1の「金属原子」を表す場合の「M」に相当するから、甲2発明の「フタロシアニン環」は、本件発明1の「フタロシアニン環」に相当している。
また、甲2発明の「「-O-」で結合する基」について、この基の「-O-」、「芳香環」、「-(C=O)-」は、それぞれ、本件発明1の「一般式(2)で表される基」における「「-O-」を表す場合の「L^(1)」」、「アリーレン基を表すAr」、「「2価の連結基」を表す場合の「一般式(3)のL^(2)」」に相当する。
さらに、「「-O-」で結合する基」の「-CH=CH-芳香環」は、本件発明1の「一般式(2)で表される基」の「L^(2)」に結合する構造と、「炭素炭素二重結合を有する構造」という点では共通している。
また、甲2発明の「「-O-」で結合する基」は、上記「フタロシアニン環」の4つの芳香環に、それぞれ1つずつ結合するものであり、その総和は「4」であるから、本件発明1の「n^(1)?n^(4)は0?4の整数」及び「n^(1)?n^(4)の総和は2?8」の条件も満たすものである。

そうすると、本件発明1と甲2発明は、
「Mが金属原子を表すフタロシアニン環に、下記一般式(2)で表される基を、フタロシアニン環の4つの芳香環に、それぞれ1つずつ、総和で4有する(「n^(1)?n^(4)は1の整数」及び「n^(1)?n^(4)の総和は4」である)化合物を含有する着色硬化性組成物。
一般式(2)
*-L^(1)-Ar-A (2)
(一般式(2)中、L^(1)は、-O-を表し、Arはアリーレン基を表し、Aは、「2価の連結基」及び2価の連結基に結合する「炭素炭素二重結合を有する構造」を表す。*はフタロシアニン環との結合する部位を表す。)」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

(相違点1)
「一般式(2)で表される基」に含まれる「炭素炭素二重結合を有する構造」が、本件発明1では、「「-CH=CH_(2)」または「-C(CH_(3))=CH_(2)」」であるのに対し、甲2発明では、「-CH=CH-芳香環」である点。

(相違点2)
本件発明1は、フタロシアニン環が、X^(1)?X^(4)として「ハロゲン原子」を有し、その個数を表すm^(1)?m^(4)が、「m^(1)?m^(4)は0?4の整数」及び「m^(1)?m^(4)の総和は6?14」であるのに対し、甲2発明のフタロシアニン環は、「ハロゲン原子」を有していない点。

事案に鑑み、上記相違点にうち、上記(相違点1)について以下検討を行う。

上記(相違点1)に関し、重合性部分を有する基を有するフタロシアニン化合物において、その重合性部分を「-CH=CH_(2)」または「-C(CH_(3))=CH_(2)」とすること自体は、甲2の上記(イ-4)の「化合物No.59」、甲4の上記(エ-4)【化7】の「C-1」、「C-4」、【化8】の「C-7」、「C-8」等に示されているように周知の技術的事項であるといえる。
しかしながら、上記(イ-1)の【請求項4】には、甲2における「光感応型重合可能な基」が挙げられているところ、この記載によれば、上記(相違点1)に係る甲2発明の「-CH=CH-芳香環」は、これらの「光感応型重合可能な基」の内、(5)の「-芳香環-CO-CH=CH-芳香環」の「一部」であることが分かるから、甲2発明では、「光感応型」という観点で、「「-O-」で接続する基」のうち「-O-」に接続する芳香環を含め、「-芳香環-CO-CH=CH-芳香環」が、「光感応型重合可能な基」として採用されたものであるといえる。

そうすると、仮に、「-CH=CH_(2)」または「-C(CH_(3))=CH_(2)」に、甲2発明の「光感応型重合可能な基」と同程度の光感応性があるとすれば、甲2発明の「光感応型重合可能な基」として、「-芳香環-CO-CH=CH-芳香環」全体を、「-CH=CH_(2)」または「-C(CH_(3))=CH_(2)」に置換することは考えられるかもしれないが、甲2には、「-芳香環-CO-CH=CH-芳香環」の「-CH=CH-芳香環」だけを、「-CH=CH_(2)」または「-C(CH_(3))=CH_(2)」とするような「動機付け」となるような記載は見当たらないし、さらに、他の各甲号証にも、この点に関する記載も示唆もない。
そして、仮に、「-芳香環-CO-CH=CH-芳香環」全体を、「-CH=CH_(2)」に置換した場合には、本件発明1の「一般式(2)で表される基」のうち「Ar」にあたる構造が失われることになる。

さらに、本件発明1は、本件明細書の段落【0025】に「アリーレン基を含むことにより、化合物の溶解性を向上させることができる。特に、フタロシアニン化合物がハロゲン原子を有する本発明においてはその効果が顕著である。」と記載されているように、「一般式(2)で表される基」に「Ar」を含むことにより、化合物の溶解性を向上するという効果を奏するものである。
一方、甲2発明の効果は、上記(イ-5)の記載によれば、甲2発明の色素からなる光感応型レジスト樹脂組成物を硬化させてなる液晶表示用カラーフィルターは、透過率特性が良好で、耐熱性、耐光性、耐湿性等の耐久性に優れるというものであるし、甲2発明における「芳香環」を有する構造は、上述したように「光感応型重合可能な基」として選択されたもので、上記(ア-1)の【請求項4】に記載される他の「光感応型重合可能な基」には、「芳香環」を含まないものもあるなど、本件発明1の「一般式(2)で表される基」の「Ar」に起因する上記の効果を予測することはできない。
そうすると、上記(相違点1)により、本件発明1は、同段落【0011】に記載される発明の効果のうち、少なくとも「溶剤への溶解性が高い」という格別の効果を奏するものである。

よって、上記(相違点2)を検討するまでもなく、上記(相違点1)が、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲2発明、甲2に記載の事項又は周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件特許1は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

なお、取消理由通知では、上記「式(29)で表される化合物」の他に、上記(イ-4)の【表4】の「化合物No.55」及び「化合物No.57」を甲2発明の「色素」とした場合でも、本件発明1の進歩性が否定されるとしたが、この場合は、上述したのと同じ(相違点1)及び(相違点2)に加えて、本件発明1の「一般式(2)で表される基」における「-L^(1)-Ar- (L^(1)は、-O-、-S-、-SO_(2)-、または-NH-を表す。)」の構造を持たない点に係る相違点があり、上述したのと同様の理由により、これらの化合物を甲2発明の「色素」としたとしても、本件発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明2ないし15について

本件発明2ないし15は、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであるか、または、本件発明1にさらに他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2ないし15は、いずれも甲2発明、甲2に記載の事項又は周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件特許2ないし15は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

(ウ)本件発明16について

本件発明16は、本件発明1に含まれる「化合物」を「色素」そのものとした発明である。
本件発明16と甲2発明の「色素」を対比すると、相違点は、上記「(ア)本件発明1について」で述べたのと同じであるから、その判断も、上記「(ア)本件発明1について」で述べたのと同じである。

よって、本件発明16は、甲2発明、甲2に記載の事項又は周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許16は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

(4)甲4を主引用例として

ア 甲4に記載の発明

甲4の上記(エ-1)には、「下記一般式(1)(当審注:構造式と構造式の説明の記載を省略する)で表されるフタロシアニン化合物を含む着色画像形成組成物。」が記載されているところ、上記(エ-5)の記載によれば、上記「着色画像形成組成物」の「組成物」は、「活性エネルギー硬化型組成物」として得ることが好ましいとされているといえる。

そうすると、甲4には、「下記一般式(1)で表されるフタロシアニン化合物を含む着色画像形成活性エネルギー硬化型組成物。

[一般式(1)中、X_(1)、X_(2)、X_(3)及びX_(4)はそれぞれ独立に-SO-Z、-SO_(2)-Z、-SO_(2)NR_(1)R_(2)、スルホ基、-CONR_(1)R_(2)、-CO_(2)R_(1)又は-COR_(1)を表す。Zはそれぞれ独立に置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換の複素環基を表す。R_(1)、R_(2)はそれぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換の複素環基を表す。Y_(1)、Y_(2)、Y_(3)及びY_(4)はそれぞれ独立に一価の置換基を表す。但し、X_(1)、X_(2)、X_(3)及びX_(4)のいずれかに少なくとも1つ以上の重合性置換基を有する。a_(1)?a_(4)、b_(1)?b_(4)は、それぞれX_(1)?X_(4)、及びY_(1)?Y_(4)の置換基数を表す。a_(1)?a_(4)はそれぞれ独立に0?4の数を表すが、全てが同時に0になることはない。b_(1)?b_(4)はそれぞれ独立に0?4の数を表す。なお、a_(1)?a_(4)及びb_(1)?b_(4)が2以上の数を表す時、複数のX_(1)?X_(4)、及びY_(1)?Y_(4)はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。Mは水素原子、金属原子又はその酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物である。]」(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。

イ 対比・判断

(ア)本件発明1について

本件発明1と甲4発明を対比すると、甲4発明の「画像形成活性エネルギー硬化型組成物」は、本件発明1の「硬化性組成物」に相当する。
そして、甲4発明の「フタロシアニン化合物」と本件発明1の「化合物」との対比において、甲4発明の「M」と、本件発明1の「M」は、「金属原子、金属酸化物、金属ハロゲン化物または無金属(Mが水素原子)」で一致するから、甲4発明の「フタロシアニン環」は、本件発明1の「フタロシアニン環」に相当している。
また、甲4発明の「X_(1)、X_(2)、X_(3)、X_(4)」は、いずれかに少なくとも1つ以上の「重合性置換基」を有するものである。一方、本件発明1の「一般式(2)で表される基」の一般式(3)で表される基の二重結合は、本件明細書の段落【0009】の「フタロシアニン化合物にハロゲン原子と、アリーレン基を有する重合性基を含む基を導入することで、所望の分光特性を達成でき、カラーフィルタとして不必要な波長の光を吸収しにくく(不必要な波長の光に対する透過率が高い)、かつ、溶剤への溶解性が高い着色硬化性組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。」との記載によれば、重合性基といえるものであるから、甲4発明の「X_(1)、X_(2)、X_(3)、X_(4)」のうち少なくとも1つ以上の重合性置換基を有する基」は、本件発明1の「一般式(2)で表される基」と、「重合性基を有する基」という点で共通する。
さらに、甲4発明の「一価の置換基」を表す「Y_(1)、Y_(2)、Y_(3)、Y_(4)」は、上記(エ-3)の記載によれば、その選択肢の中に「ハロゲン原子」を含むものであるから、本件発明1の「ハロゲン原子」を表す「X^(1)?X^(4)」に対応する。
また、甲4発明の「X_(1)、X_(2)、X_(3)、X_(4)」のうち「少なくとも1つ以上の重合性置換基を有する基」以外の基は、本件発明1の「アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基」に対応する。

そうすると、本件発明1と甲4発明は、「重合性基を有する基をフタロシアニン環に有する化合物を含有する着色硬化性組成物」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

(相違点1)
フタロシアニン環に結合する「重合性基を有する基」が、本件発明1では、「*-L^(1)-Ar-A (2)(一般式(2)中、L^(1)は、-O-、-S-、-SO_(2)-、または-NH-を表し、Arはアリーレン基を表し、Aは下記一般式(3)(当審注:記載を省略する。)で表される基を表す。*はフタロシアニン環との結合する部位を表す。)」で表される基であるのに対し、甲4発明では、いずれかに重合性置換基を有するX_(1)、X_(2)、X_(3)及びX_(4)が、「独立に-SO-Z、-SO_(2)-Z、-SO_(2)NR_(1)R_(2)、スルホ基、-CONR_(1)R_(2)、-CO_(2)R_(1)又は-COR_(1)を表す。Zはそれぞれ独立に置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換の複素環基を表す。R_(1)、R_(2)はそれぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換の複素環基を表す。」である点。

(相違点2)
本件発明1でフタロシアニン環に結合する「X^(1)?X^(4)」が「ハロゲン原子」であるのに対し、甲4発明で、本件発明1の「X^(1)?X^(4)」に対応する「Y_(1)、Y_(2)、Y_(3)、Y_(4)」は、「一価の置換基」とまでしか特定されていない点。

(相違点3)
本件発明1でフタロシアニン環に結合する「一般式(2)で表される基以外の置換基」が「アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基」であるのに対し、甲4発明で、本件発明1の「一般式(2)で表される基以外の置換基」に対応する基が、「X_(1)、X_(2)、X_(3)、X_(4)」のうち「少なくとも1つ以上の重合性置換基を有する基」以外の基である点。

(相違点4)
本件発明1のR^(1)?R^(4)のそれぞれの個数を表すn^(1)?n^(4)及び本件発明1のR^(1)?R^(4)に対応する甲4発明のX_(1)?X_(4)のそれぞれの個数を表すa_(1)?a_(4)に関し、本件発明1では、n^(1)?n^(4)は0?4の整数を表し、n^(1)?n^(4)の総和は2?8であるのに対し、甲4発明では、a_(1)?a_(4)はそれぞれ独立に0?4の数を表すが、全てが同時に0になることはないとされている点。

(相違点5)
本件発明1のX^(1)?X^(4)のそれぞれの個数を表すm^(1)?m^(4)及び本件発明1のX^(1)?X^(4)に対応する甲4発明のY_(1)?Y_(4)のそれぞれの個数を表すb_(1)?b_(4)に関し、本件発明1では、m^(1)?m^(4)は0?4の整数を表し、m^(1)?m^(4)の総和は6?14であるのに対し、甲4発明では、b_(1)?b_(4)はそれぞれ独立に0?4の数を表す点。

事案に鑑み、上記相違点のうち、上記(相違点1)について以下検討する。

本件発明1の「一般式(2)で表される基」は、少なくともフタロシアニン環に結合する「-L^(1)-Ar-(L^(1)は、-O-、-S-、-SO_(2)-、または-NH-を表し、Arはアリーレン基を表す)」の構造を有するのに対し、甲4発明の「重合性基を有する基」は、多岐に亘る選択肢のうち「-SO_(2)-Z-」を選択し、この「Z」として「アリール基」を選択し、この「アリール基」が「重合性置換基」を有する場合を考えれば、形式的には、本件発明1の「一般式(2)で表される基」に一致し得る。
しかしながら、甲4発明における「いずれかに重合性置換基を有するX_(1)、X_(2)、X_(3)及びX_(4)」の具体例が示されている上記(エ-4)の「C-1」?「C-25」において、本件発明1の「-L^(1)-Ar-」の構造が一つも示されていないことからすると、甲4発明の「いずれかに重合性置換基を有するX_(1)、X_(2)、X_(3)及びX_(4)」の多岐に亘る選択肢の組合せのうち、本件発明1の「一般式(2)で表される基」が実質的に含まれているとすることはできないし、甲4には、「いずれかに重合性置換基を有するX_(1)、X_(2)、X_(3)及びX_(4)」を、本件発明1の「一般式(2)で表される基」とすることを動機付ける記載は見当たらないし、他の各甲号証にもその点に関する記載や示唆は無い。

そして、甲4発明の効果は、上記(エ-2)の記載によれば、フタロシアニン化合物に関し「十分な堅牢性を有し、色再現性に優れた吸収特性を有する」という効果を有するものであるところ、本件発明1は、上記「(3)甲2を主引例として」、「イ」、「(相違点1)に関する判断」で述べたように、「一般式(2)で表される基」の中にアリーレン基を含むことにより、化合物の溶解性向上させることができるという甲4発明からは、予測できない格別の効果を奏するものである。

よって、上記(相違点2)?(相違点5)を検討するまでもなく、上記(相違点1)が、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲4発明、甲4に記載の事項又は周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件特許1は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

(イ)本件発明2ないし15について

本件発明2ないし15は、本件発明1の発明特定事項をさらに限定したものであるか、または、本件発明1にさらに他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、取消理由で対象とした本件発明2、3、6ないし12、15を含む本件発明2ないし15は、いずれも甲4発明、甲4に記載の事項又は周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件特許2ないし15は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

(ウ)本件発明16について

本件発明16は、本件発明1に含まれる「化合物」を「色素」そのものとした発明である。
本件発明16と甲4発明の「フタロシアニン化合物」と対比すると、相違点は、上記「(ア)本件発明1について」で述べたのと同じであるから、その判断も、上記「(ア)本件発明1について」で述べたのと同じである。

よって、本件発明16は、甲4に記載された発明、甲4に記載の事項又は周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許16は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

(5)甲5を主引例として

ア 甲5に記載の発明

甲5の上記(オ-1)の【請求項1】には、「「フタロシアニン色素残基又はジピロメテン色素残基を有する一般式(a)(当審注:構造式と構造式の説明の記載を省略する。)で表される繰り返し単位」(以下、「繰り返し単位(a)」という。)、及び「一般式(b)(当審注:構造式と構造式の説明の記載を省略する。)で表される繰り返し単位」(以下、「繰り返し単位(b)」という。)を有する樹脂を含有する着色硬化性組成物。」が記載されているといえるところ、上記「繰り返し単位(a)」の具体例として、上記(オ-5)の(a-1)で表されるフタロシアニン色素残基を有する繰り返し単位(当審注:構造式と構造式の説明の記載を省略する。)が記載されている。
ここで、上記「繰り返し単位(a)」及び上記「繰り返し単位(b)」を有する樹脂は、上記(オ-2)の段落【0009】及び【0011】の記載によれば、「繰り返し単位(a)」に対応する「モノマー」及び「繰り返し単位(b)」に対応する「モノマー」を共重合して得られているといえる。

そうすると、甲5には、
「下記(a-1)で表されるフタロシアニン色素残基を有する繰り返し単位に対応するモノマー(下記(a-1)で、繰り返しを示す末端の( )で囲まれる部分が二重結合(-C(CH_(3))=CH_(2))となる)。

」(以下、「甲5発明」という。)が記載されているといえる。

イ 対比・判断

(ア)本件発明16について

本件発明16と甲5発明を対比すると、甲5発明の「Cu」は、本件発明16の「金属原子」を表す場合の「M」に相当するから、甲5発明の「フタロシアニン環」は、本件発明1の「フタロシアニン環」に相当している。
また、甲5発明の「「-O-」で接続する基」について、この基の「-O-」、「芳香環」、「芳香環と二重結合との間の構造(-C(=O)OCH_(2)C(OH)CH_(2)OC(=O)-)」及び「二重結合(-C(CH_(3))=CH_(2))」は、それぞれ、本件発明16の「一般式(2)で表される基」における「「-O-」を表す場合の「L^(1)」」、「アリーレン基を表すAr」、「「2価の連結基」を表す場合の「一般式(3)のL^(2)」」及び「一般式(3)のL^(2)に結合する「-C(CH_(3))=CH_(2)」(本件発明1の一般式(3)でR^(5)がメチル基、R^(6)、R^(7)が水素原子)」に相当するから、甲5発明の「「-O-」で接続する基」は、本件発明16の「一般式(2)で表される基」に相当する。
さらに、甲5発明の「フタロシアニン色素残基を有する繰り返し単位に対応するモノマー」と本件発明16の「色素」とは、「化合物」という点で共通している。

そうすると、本件発明16と甲5発明は、
「Mが金属原子を表すフタロシアニン環に、下記一般式(2)で表される基を有する化合物。
一般式(2)
*-L^(1)-Ar-A (2)
(一般式(2)中、L^(1)は、-O-を表し、Arはアリーレン基を表し、Aは下記一般式(3)で表される基を表す。*はフタロシアニン環との結合する部位を表す。)
一般式(3)

(一般式(3)中、L^(2)は2価の連結基を表す。R^(5)はメチル基を表し、R^(6)及びR^(7)は水素原子を表す。*は一般式(2)中のArとの結合する部位を表す。)」
の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

(相違点1)
「一般式(2)で表される基」の置換数に関し、本件発明16では、n^(1)?n^(4)が0?4の整数を表し、n^(1)?n^(4)の総和が2?8であるのに対し、甲5発明では、「「-O-」で接続する基」の置換数は1であるから、本件発明1の「n^(1)?n^(4)が0?4の整数を表し」との条件は満たすものの、「n^(1)?n^(4)の総和が2?8」との条件は満たさない点。

(相違点2)
化合物に関し、本件発明16は、「色素」であるのに対し、甲5発明は、「フタロシアニン色素残基を有する繰り返し単位に対応するモノマー」である点。

(相違点3)
本件発明16は、フタロシアニン環が、X^(1)?X^(4)として「ハロゲン原子」を有し、その置換数を表すm^(1)?m^(4)が、「m^(1)?m^(4)は0?4の整数」及び「m^(1)?m^(4)の総和は6?14」であるのに対し、甲5発明のフタロシアニン環は、「ハロゲン原子」を有していない点。

事案に鑑み、上記相違点のうち、上記(相違点1)について以下検討を行う。

上記(オ-1)の記載によれば、甲5の「モノマー」から製造される樹脂は、顔料分散液、光重合開始剤、重合性化合物と、を含有する着色硬化性組成物に用いられるものであるところ、上記(オ-3)の記載によれば、この記載中の「Q」に対応する甲5発明の「(a)で表される繰り返し単位」のフタロシアニン色素残基は、顔料分散液に含まれる顔料に対する親和性により、顔料の凝集を抑制し、色ムラを抑制するものであるといえる。
一方、甲5発明の「「-O-」で接続する基」は、上記(オ-1)に記載される「繰り返し単位(a)」の「X^(1)-Y^(1)-」にあたるものであるが、この構造を説明する上記(オ-4)の記載、及び甲5の他の記載を見ても、フタロシアニン色素残基を樹脂に結合させるための構造である以上の技術的な意義を見いだすことができない。

そうすると、甲5発明においては、「「-O-」で接続する基」を有することで、樹脂にフタロシアニン色素残基が既に結合しているのであるから、「「-O-」で接続する基」をさらに設ける(2つ以上とする)必然性があるとはいえない。さらに、「「-O-」で接続する基」が2以上になるということは、樹脂がフタロシアニン色素残基を介して架橋構造をとることになるが、その際に、本来、フタロシアニン色素残基が果たしていた、顔料の凝集を抑制し、色ムラを抑制するという効果をそのまま奏することができるのか、また上記(オ-3)に記載されるように、甲5発明の「モノマー」を共重合する樹脂はアルカリ現像液に対して親和性を有する必要があるところ、樹脂がフタロシアニン色素残基を介して架橋構造をとった場合、アルカリ現像液に対する親和性がそのまま保持できるのか明らかでないから、甲5には、「「-O-」で接続する基」を2つ以上とする動機付けがあるとはいえない。また、他の各甲号証にも、甲5において、「「-O-」で接続する基」を2つ以上とすることに関する記載も示唆も無い。

なお、甲5発明において、「「-O-」で接続する基」の他に、「アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基」を有するものとしても、上記(相違点1)に係るn^(1)?n^(4)の総和の条件を満たすことにはなるが、甲5及び他の各甲号証を見ても、甲5発明において、「「-O-」で接続する基」の他に、「アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基」を有するものとすることに関する記載も示唆も無い。

さらに、本件発明1は、上記「(3)甲2を主引例として」、「イ」、「(相違点1)に関する判断」で述べたように、「一般式(2)で表される基」の中にアリーレン基を含むことにより、化合物の溶解性を向上させることができるという甲5発明からは、予測できない格別の効果を奏するものである。

よって、上記(相違点2)及び(相違点3)を検討するまでもなく、上記(相違点1)が、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明16は、甲5発明及び、甲5に記載の事項又は周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件特許16は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

2 取消理由3(特許法第36条第6項第1号)について

取消理由3は、要は、『(訂正前の)本件発明1は、「化合物」に関し、
・「一般式(2)で表される基以外の置換基」に関し、何の特定もなされていない点、
・一般式(2)の「L^(1)」に関し、「2価の連結基」としか特定されていない点、
・一般式(3)のR^(5)?R^(7)に関し、水素原子以外の場合は、「1価の置換基」としか特定されていない点、
・「n^(1)?n^(4)の総和」および「m^(1)?m^(4)の総和」に関し、それぞれ、「1以上」であるとしか特定されていない点で、本件発明1の前記「化合物」は、広範な範囲の化合物を含むことになる。
しかしながら、実際に、光の透過率や溶剤への溶解性といった発明の課題を解決する上で必要となる特性(以下、単に「特性」という。)を実施例等(段落【0157】?【0213】)で確認しているのは、本件発明1の上記「化合物」に含まれることになる広範な化合物のうち本件明細書の段落【0034】に記載される化合物の内の複数の化合物に限られている。
そして、「一般式(2)で表される基以外の置換基」の化学構造、「一般式(2)で表される基」のL^(1)の原子又は原子団の種類、「一般式(2)で表される基の一般式(3)」のR^(5)?R^(7)の原子又は原子団の種類、「一般式(2)で表される基」及び「一般式(2)で表される基以外の置換基」の総置換数、及び「ハロゲン原子」の置換数が、上記の特性に影響を与えることが推認されるから、実施例等で特定の限られた化合物で上記特性を確認したとしても、本件発明1に含まれることになる広範な化合物でも、同様の特性が得られるとの根拠は、明細書の発明の詳細な説明には記載されていないことになる。
そうすると、本件発明1は、前記「化合物」の「一般式(2)で表される基以外の置換基」、「一般式(2)で表される基の「L^(1)」」、「一般式(2)で表される基の一般式(3)のR^(5)?R^(7)」、「n^(1)?n^(4)の総和」及び「m^(1)?m^(4)の総和」に関し、本件の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。』というものである。

この理由に対し、本件発明1は、本件訂正により、「一般式(2)で表される基以外の置換基」、「一般式(2)で表される基の「L^(1)」」、「一般式(2)で表される基の一般式(3)のR^(5)?R^(7)」、「n^(1)?n^(4)の総和」及び「m^(1)?m^(4)の総和」が、それぞれ、「アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基であり」、「-O-、-S-、-SO_(2)-たは-NH-を表し」、「R^(5)は水素原子またはメチル基を表し、R^(6)およびR^(7)は水素原子を表す」、「2?8」及び「6?14」と訂正されることにより、本件発明1における「化合物」が、実施例等の化合物に対応付けることができるものとなり、本件発明1が、本願明細書の発明の詳細な説明に記載される発明の課題を解決することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえなくなった。

よって、本件発明1、本件発明1を引用する本件発明2ないし15、及び本件発明1の「化合物」を「色素」そのものとした本件発明16は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえないから、本件発明1?16は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

3 申立理由1(特許法第29条第2項)について

(1)甲3に関して

申立理由は、上記(ウ-2)の化合物(D-11a)?(D-11f)(以下、「甲3化合物」という。)を基に甲3発明を認定しようとするものである。
しかしながら、これらの甲3化合物のフタロシアニン環は、本件発明1の「フタロシアニン環」の芳香環にさらに芳香環が縮合した構造を有するもので、本件発明1の「フタロシアニン環」の芳香環に対応する箇所で基が結合可能な箇所は、全て「OR」で置換されているから、甲3化合物では、本件発明1で総置換数が6?14であるハロゲン原子を表す「X^(1)?X^(4)」を導入できる余地はないといえるし、甲3には、「OR」の一部を、ハロゲン原子に置換する記載や示唆も無い。
また、二重結合を有する基の構造も、本件発明1の「一般式(2)で表される基」と大きく相違している。
そして、本件発明1は、これらの相違に基づき本件明細書の段落【0011】に記載される格別の効果を奏するものである。

そうすると、甲3を主引用例としたとしても、本件発明1(2?16)を当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

(2)甲5に関して

上記「(5)甲5を主引用例として」で述べたように、甲5を主引用例としたとしても、本件発明16を当業者が容易に発明できたものとすることはできないから、本件発明16の「色素」を「化合物」として含む本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2ないし15も、本件発明16と同様に、当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

(3)甲6に関して

申立理由は、上記(カ-2)の式(8)の化合物(以下、「甲6化合物」という。)を基に甲6発明を認定しようとするものである。
しかしながら、甲6化合物のフタロシアニン環の芳香環で、本件発明1の「フタロシアニン環」の芳香環に対応する箇所で基が結合可能な箇所は全て特定の基により置換されているから、甲6化合物では、本件発明1で総置換数が6?14であるハロゲン原子である「X^(1)?X^(4)」が置換できる余地はないといえるし、甲6には、これらの置換基の一部を、ハロゲン原子に置換する記載や示唆も無い。
さらに、NとSで連結する芳香環を、甲1発明の「アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基」とすることが、当業者にとり容易に想到し得るものでないことは、上記「(2)甲1を主引用例として」、「イ」、「(相違点1)について」で述べたとおりである。

そうすると、甲6を主引用例としたとしても、本件発明1(2?16)を当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

(4)甲7に関して

甲7の上記(キ-1)【請求項1】に記載される「フタロシアニン化合物(1)」、【請求項3】に記載される「フタロシアニン化合物(2)」、【請求項5】に記載される「フタロシアニン化合物(3)」、【請求項7】に記載される「フタロシアニン化合物(4)」及び【請求項9】に記載される「フタロシアニン化合物(5)」(以下、「甲7化合物」という。)は、本件発明1の「一般式(2)の「L^(1)-Ar-」」の構造に対応する「-O-Ar-」の構造を有する特定の基を持ち、上記(キ-3)に記載される「特に640?750nm付近に最大吸収波長を示すため、フラットパネルディスプレイ、特にPDPやLCDが放つ無用の近赤外域(700?750nm)の光や、いわゆる深紅と呼ばれる不純な赤色の波長(640?700nm)の光をカットし、例えば光通信システムの誤作動誘発を防止し、また同時に鮮明な赤色を再現する効果を発揮できる。」という効果を奏するものである。
しかしながら、甲7化合物は、本件発明1の「重合性基を含む一般式(3)」の構造は持たないものであるし、甲7には、甲7化合物に本件発明1の「重合性基を含む一般式(3)」に相当する構造を導入することに関する示唆も無い。
そして、フタロシアニン化合物に重合性基を置換基として導入し、硬化性を付与することが、他の各甲号証から周知であるといえるとしても、甲7の上記の効果は、「甲7化合物」の「-O-Ar-」の構造は有する特定の基に起因して奏されているとみることができるところ、仮に、「甲7化合物」の「-O-Ar-」の構造を有する特定の基に重合性基を導入した場合、フタロシアニン化合物や「-O-Ar-」の構造のおかれる化学的な環境が大きく変わるものとなり、甲7化合物が本来奏すべき上記の効果をその様な化学的な環境でも奏することができるのか明らかでないから、当業者ならば、「甲7化合物」の「-O-Ar-」の構造を有する特定の基に重合性基を導入することを試みるとはいえない。
一方、本件発明1は、この相違に基づき本件明細書の段落【0011】に記載される格別の効果を奏するものである。

そうすると、甲7を主引用例としたとしても、本件発明1(2?16)を当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

(5)申立理由1に関するまとめ

上記(1)ないし(4)で述べたように、本件発明1ないし16は、甲3、甲5ないし甲7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許1ないし16は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることはできない。

4 申立理由2(特許法第36条第4項第1号)について

(1)R-2やR-3を置換基として有する化合物の製造に関して

上記申立理由1の一つは、『本件特許明細書の段落【0172】には、「例示化合物G-11?G-14の合成例」に関し、「化合物Cの合成または、例示化合物G-7の合成例で得られた化合物Cに対して、置換基としてR-2を持つ化合物はヒドロキシエチルメタクリレートを、置換基としてR-3を持つ化合物はメタクリル酸アミドを縮合させることで、亜鉛フタロシアニンを合成した。」と記載されている。
しかしながら、ヒドロキシエチルメタクリレートやメタクリル酸アミドが有するメタクリロイル基は化学的安定性が低く、縮合条件によってはメタクリロイル基の重合反応が進行してしまう。本件特許明細書の段落【0172】には縮合反応の詳細な条件が記載されていないため、R-2やR-3を置換基として有する化合物をどのようにすれば製造できるのか、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。』というものである。

しかしながら、縮合条件によってはメタクリロイル基の重合反応が進行してしまうことがあり得るとはいえるが、ヒドロキシエチルメタクリレートや、メタクリル酸アミドを縮合する条件で必ず、メタクリロイル基の重合反応が進行するという技術的な根拠はないし、ヒドロキシエチルメタクリレートや、メタクリル酸アミドの縮合を用いて、例えばポリマー等の物質にメタクリロイル基を導入することは、一般的に行われていることである。
そうすると、本件明細書の段落【0172】に縮合反応の詳細な条件が記載されていなくとも、当業者であれば、縮合条件を適宜調整しR-2やR-3を置換基として有する化合物を製造することができるといえる。

(2)例示化合物G-70やG-71の製造に関して

申立理由2の1つは『本件特許明細書の段落【0174】には、例示化合物G-68の製造方法として、グリシジルメタクリレートを用いた手法が開示されている。かような手法によりメタクリレートを導入した場合、同明細書の段落【0034】にR-32として例示されるように、フタロシアニン化合物の置換基にはグリシジルメタクリレートに由来する水酸基が付加される。
一方、同明細書の段落【0175】には、「例示化合物G-67、G-69?G-71の合成」に関し、「例示化合物G-68と同様の手法により合成した。」と記載されている。
しかしながら、同【0034】を参照すると、例示化合物G-70が有するR-33や、例示化合物G-71が有するR-34は、R-32のように水酸基を有してはいない。そうすると、水酸基を有していないR-33やR-34を置換基として含む例示化合物G-70やG-71をどのように製造するのかにつき、本件特許明細書における発明の詳細な説明は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。』というものである。

しかしながら、本件明細書の段落【0172】には、置換基としてR-2を持つ化合物をヒドロキシエチルメタクリレートを縮合させることで合成することが記載されているところ、上記「R-2」は、同段落【0034】によれば、置換基の構造がR-33やR-34に類似し、水酸基を有していない置換基である。
そして、上記(1)で述べたように、ヒドロキシエチルメタクリレートを縮合させてR-2を置換基として有する化合物を製造することができるといえるから、当業者であれば、本件明細書の段落【0172】を参照して、水酸基を有していないR-33やR-34を置換基として含む例示化合物G-70やG-71を、ヒドロキシエチル(メタ)クリレートを縮合させることで合成することができるといえる。

(3)申立理由2に関するまとめ

上記(1)及び(2)で述べたように、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に不備があるとはいえないから、本件特許1ないし16は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。

第6 むすび

上記「第5」で検討したとおり、本件特許1ないし16は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第4項第1号又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1ないし3、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許1ないし16を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1ないし16を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を含有する着色硬化性組成物。
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)中、X^(1)?X^(4)は、それぞれ、ハロゲン原子を表し、Mは、金属原子、金属酸化物、金属ハロゲン化物または無金属を表す。R^(1)?R^(4)は、それぞれ、下記一般式(2)で表される基または下記一般式(2)で表される基以外の置換基を表し、下記一般式(2)で表される基以外の置換基がアリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基であり、R^(1)?R^(4)のうちの少なくとも1つが、下記一般式(2)で表される基である。n^(1)?n^(4)は0?4の整数を表し、m^(1)?m^(4)は0?4の整数を表す。ただし、n^(1)?n^(4)の総和は2?8であり、m^(1)?m^(4)の総和は6?14である。)
一般式(2)
【化2】

(一般式(2)中、L^(1)は、-O-、-S-、-SO_(2)-または-NH-を表し、Arはアリーレン基を表し、Aは下記一般式(3)で表される基を表す。*はフタロシアニン環との結合する部位を表す。)
一般式(3)
【化3】

(一般式(3)中、L^(2)は単結合または2価の連結基を表す。R^(5)は水素原子またはメチル基を表し、R^(6)およびR^(7)は水素原子を表す。*は一般式(2)中のArとの結合する部位を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)におけるX^(1)?X^(4)が、それぞれ、塩素原子またはフッ素原子である請求項1に記載の着色硬化性組成物。
【請求項3】
前記一般式(2)におけるArが、フェニレン基またはナフチレン基である請求項1または2に記載の着色硬化性組成物。
【請求項4】
前記一般式(2)におけるL^(1)が、-O-または-S-である請求項1?3のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物。
【請求項5】
前記一般式(1)におけるX^(1)?X^(4)が塩素原子であり、前記一般式(2)におけるArがフェニレン基であり、L^(1)が-O-である請求項1?4のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物。
【請求項6】
前記一般式(1)で表される化合物が、1分子中に1?4個の一般式(2)で表される基を有する、請求項1?5のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物。
【請求項7】
前記一般式(1)で表される化合物が、600?750nmに極大吸収波長を有する請求項1?6のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物。
【請求項8】
硬化性化合物をさらに含有する請求項1?7のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物。
【請求項9】
黄色着色剤をさらに含有する請求項1?8のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物。
【請求項10】
前記黄色着色剤が、アゾ系染料またはモノメチン系染料である請求項9に記載の着色硬化性組成物。
【請求項11】
前記黄色着色剤が、下記一般式(4)で表されるモノメチン系染料である請求項10に記載の着色硬化性組成物。
一般式(4)
【化4】

(一般式(4)中、R^(11)は、それぞれ、アルキル基またはビニル基を表し、R^(12)は、それぞれ、置換基を表す。)
【請求項12】
請求項1?11のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物を用いた着色層を有するカラーフィルタ。
【請求項13】
請求項1?11のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物を基板上に適用し、着色層を形成する工程と、形成された前記着色層上にさらにフォトレジスト層を形成する工程と、前記フォトレジスト層をパターン状に露光し、現像してレジストパターンを形成する工程と、前記レジストパターンをエッチングマスクとして、前記着色層をドライエッチングして着色領域を形成する工程と、を有するカラーフィルタの製造方法。
【請求項14】
請求項1?11のいずれか1項に記載の着色硬化性組成物を基板上に適用し、着色層を形成する工程と、形成された着色層をパターン状に露光し、現像して着色領域を形成する工程と、を有するカラーフィルタの製造方法。
【請求項15】
請求項12に記載のカラーフィルタを有する固体撮像素子、液晶表示装置または有機EL表示装置。
【請求項16】
下記一般式(1)で表される色素。
一般式(1)
【化5】

(一般式(1)中、X^(1)?X^(4)は、それぞれ、ハロゲン原子を表し、Mは、金属原子、金属酸化物、金属ハロゲン化物または無金属を表す。R^(1)?R^(4)は、それぞれ、下記一般式(2)で表される基または下記一般式(2)で表される基以外の置換基を表し、下記一般式(2)で表される基以外の置換基がアリールオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基またはアニリノ基であり、R^(1)?R^(4)のうちの少なくとも1つが、下記一般式(2)で表される基である。n^(1)?n^(4)は0?4の整数を表し、m^(1)?m^(4)は0?4の整数を表す。ただし、n^(1)?n^(4)の総和は2?8であり、m^(1)?m^(4)の総和は6?14である。)
一般式(2)
【化6】

(一般式(2)中、L^(1)は、-O-、-S-、-SO_(2)-または-NH-を表し、Arはアリーレン基を表し、Aは下記一般式(3)で表される基を表す。*はフタロシアニン環との結合する部位を表す。)
一般式(3)
【化7】

(一般式(3)中、L^(2)は単結合または2価の連結基を表す。R^(5)は水素原子またはメチル基を表し、R^(6)およびR^(7)は水素原子を表す。*は一般式(2)中のArとの結合する部位を表す。)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-16 
出願番号 特願2013-142528(P2013-142528)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 岩田 行剛
原 賢一
登録日 2015-11-13 
登録番号 特許第5836326号(P5836326)
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 着色硬化性組成物およびカラーフィルタ  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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