• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1327874
異議申立番号 異議2016-700133  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-17 
確定日 2017-04-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5766913号発明「吸水性ポリマー粒子の分級法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5766913号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正することを認める。 特許第5766913号の請求項1ないし12及び14に係る特許を維持する。 特許第5766913号の請求項13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 主な手続の経緯等

特許第5766913号(設定登録時の請求項の数は14。以下、「本件特許」という。)は、国際出願日である2007年9月24日(パリ条約による優先権主張 2006年9月25日 欧州特許庁(EP))にされたとみなされる特願2009-529674号に係るものであって、平成27年6月26日に設定登録された。
特許異議申立人 池田尚美(以下、単に「異議申立人1」という。)は、平成28年2月17日(受理日:平成28年2月18日)、本件特許の請求項1ないし14に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
特許異議申立人 株式会社 日本触媒(以下、単に「異議申立人2」という。)は、平成28年2月19日(受理日:平成28年2月22日)、本件特許の請求項1ないし14に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
当審において、平成28年5月19日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、同年8月19日(受理日:同年8月22日)、意見書を提出したが、当審は、同年9月8日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、特許権者は、同年12月12日(受理日:同年12月13日)、訂正請求書(この訂正請求書による訂正を、以下、「本件訂正請求」という。)を提出するとともに、意見書を提出したので、異議申立人1及び2に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、異議申立人1及び2は、平成29年2月14日(受理日:平成29年2月15日)に、それぞれ意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のアないしウのとおりである。なお、下線については訂正箇所に合議体が付したものである。

ア 訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「前記工程iii)における分級に際しての前記吸水性ポリマー粒子の1時間あたりの流量が、篩面積1m^(2)当たり少なくとも100kgである」
とあるのを
「前記工程iii)における分級に際しての前記吸水性ポリマー粒子の1時間あたりの流量が、篩面積1m^(2)当たり少なくとも100kgであり、かつ、工程iii)で篩別けされた前記粗大粒が、m_(1)未満の粒度又は同じ粒度を有する粒子を35質量%未満の量で含有している」
に訂正する。

イ 特許請求の範囲の請求項13を削除する。

ウ 特許請求の範囲の請求項14に「請求項1から13までのいずれか1項」
とあるのを
「請求項1から12までのいずれか1項」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正の目的について
ア 上記訂正事項アは、訂正前の請求項1では、工程iii)で篩別けされた前記粗大粒が、m_(1)未満の粒度又は同じ粒度を有する粒子をどの程度含有しているのか特定されていなかったものを、訂正後の請求項1において「工程iii)で篩別けされた前記粗大粒が、m_(1)未満の粒度又は同じ粒度を有する粒子を35質量%未満の量で含有している」との記載により、訂正後の請求項1に係る発明における「工程iii)で篩別けされた前記粗大粒」の「m_(1)未満の粒度又は同じ粒度を有する粒子」の含有量を35質量%未満の量と具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるといえる。

イ 上記訂正事項イは、訂正前の請求項13を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるといえる。

ウ 上記訂正事項ウは、訂正事項イに伴って、引用していた請求項13を引用しないように引用請求項数を減少するものであるから、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるといえる。

(2) 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 工程iii)で篩別けされた前記粗大粒が、m_(1)未満の粒度又は同じ粒度を有する粒子を35質量%未満の量で含有している点については、訂正前の請求項13、願書に添付した明細書の【0031】に記載がある。そして、上記訂正は、「工程iii)で篩別けされた前記粗大粒」の「m_(1)未満の粒度又は同じ粒度を有する粒子」の含有量を限定するものであり、そのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 上記訂正事項イは、訂正前の請求項13を削除するものであるから、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 上記訂正事項ウは、引用請求項数を減少するものであり、そのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3) 一群の請求項について
上記訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?14]について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明14」という。)は、平成28年12月12日(受理日:平成28年12月13日)提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される以下に記載のとおりのものである。

「【請求項1】
吸水性ポリマー粒子の製造方法であって、
i) 吸水性ポリマー粒子を分級する工程であって、
その際、粗大粒を少なくとも1つの篩によって篩別けし、かつ、ここで、該篩又は複数の篩の場合には最小のメッシュ幅を有する篩が、少なくとも700μmのメッシュ幅m_(1)を有する、工程と、
ii) 分級されたポリマー粒子を後架橋させる工程であって、当該分級されたポリマー粒子の平均粒度が少なくとも200μmである、工程と、
iii) 後架橋されたポリマー粒子を分級する工程であって、
その際、粗大粒を、少なくとも2つの互いに異なるメッシュ幅を有する篩によって篩別けし、かつ、ここで、最小のメッシュ幅を有する篩が、メッシュ幅m_(2)を有する、工程と、
を含み、
前記メッシュ幅m_(2)が、前記メッシュ幅m_(1)よりも少なくとも100μm大きいこと、及び、
前記工程iii)における分級に際しての前記吸水性ポリマー粒子の1時間あたりの流量が、篩面積1m^(2)当たり少なくとも100kgであり、かつ、工程iii)で篩別けされた前記粗大粒が、m_(1)未満の粒度又は同じ粒度を有する粒子を35質量%未満の量で含有していること
を特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、粗大粒を、工程i)において、異なるメッシュ幅の少なくとも2つの篩によって篩別けすることを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、前記メッシュ幅m_(1)が、少なくとも800μmであることを特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法において、前記メッシュ幅m_(2)が、少なくとも800μmであることを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法において、前記メッシュ幅m_(2)が、前記メッシュ幅m_(1)よりも少なくとも150μm大きいことを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法において、粗大粒を、工程i)において、異なるメッシュ幅の少なくとも2つの篩によって篩別けし、ここで、それら複数の篩のうちの少なくとも1つの篩が、前記メッシュ幅m_(1)よりも少なくとも50μm大きいメッシュ幅を有することを特徴とする、方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法において、工程iii)で使用される前記の少なくとも2つの篩のうちの少なくとも1つの篩が、前記メッシュ幅m_(2)よりも少なくとも500μm大きいメッシュ幅を有することを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法において、前記吸水性ポリマー粒子が、前記分級中に、少なくとも40℃の温度を有することを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法において、前記分級を減圧下で行うことを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法において、前記吸水性ポリマー粒子が、前記分級中に、ガス流によって流通されることを特徴とする、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、該ガス流が40?120℃の温度を有することを特徴とする、方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の方法において、該ガス流が、5g/kg未満の水蒸気含有率を有することを特徴とする、方法。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法において、前記吸水性ポリマー粒子が、工程ii)の前で、少なくとも15g/gの遠心保持能力を有することを特徴とする、方法。」

第4 取消理由の概要

平成28年9月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)は、本件特許の請求項1ないし14に係る発明は、下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

刊行物:特開平4-214736号公報(異議申立人1の証拠方法である甲第2号証)

第5 合議体の判断

当合議体は、以下述べるように、上記取消理由には理由はないと判断する。

1 刊行物
特開平4-214736号公報(以下、「引用文献A」という。)

2 引用文献Aの記載
取消理由(決定の予告)で通知した引用文献Aには、以下の記載がある。なお、下線については、当審において付与した。
(ア)「水に対する接触角が約60°以上で約70℃以上の熱変形温度を有する基材(1○(審決注:「1○」は○囲み1を意味する。以下同じ))で実質的に形成された内面を有する高速攪拌型ミキサー内で、カルボキシル基を有する吸水性樹脂粉末(A)100重量部、該吸水性樹脂粉末のカルボキシル基と反応し得る少なくとも2個の官能基を有する架橋剤(B)0.01?30重量部、水(C)0?50重量部、および親水性有機溶媒(D)0?60重量部を攪拌羽根の先端部の回転速度が600m/min以上の攪拌条件下で混合し、その後、反応中に混合物に加えられる全力学的エネルギーFが下記の数式1を満たす条件下で該吸水性樹脂粉末(A)と架橋剤(B)の反応を完結することを特徴とする流体安定性造粒物の製造方法:
0≦F≦36、000ジュール/kg (数式1)
(ただし、数式1において、反応中に加えられる毎分当たりの力学的エネルギーFaは、600ジュール/kg以下である。)」(特許請求の範囲の請求項1)

(イ)「【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明の目的は、流体安定性造粒物の製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、流体安定性造粒物の経済的で効率的な製造方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、相対的に大量の流体安定性造粒物を含有し、大きい膨脹速度を有する高分子組成物の製造方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、少ない微粉の含有量を有する高分子組成物の製造方法を提供することにある。」(段落0018?0021)

(ウ)「本発明において、吸水性樹脂粉末(A)と架橋剤(B)の反応生成物は、必要に応じて、破砕造粒してよい。破砕造粒は、通常の破砕造粒機の使用により実施することができる。本発明で使用できる破砕造粒機は、例えば、ニュースピードミル(岡田精工株式会社製)、フラッシュミル(不二パウダー株式会社製)、およびスピードミル(昭和エンジニアリング株式会社製)が挙げられる。
本発明の方法により得られる高分子組成物は、大きい膨脹速度、高い流体安定性造粒物の含有量および非常に僅かな微粒子の含有量を有している。そのため、本発明は、前記のような従来の吸水性樹脂により生じた種々の問題を解決した。さらに本発明では、吸液時にも構造の崩壊の少ない丈夫な造粒物を豊富に含有する高分子組成物を得ることができる。このように非常に豊富に造粒物を含有した高分子組成物は、特に、著しく改良された通液性を現す。」(段落0071?0072)

(エ)「【実施例】次に本発明を、実施例につき以下により詳細に記載する。しかしながら本発明は、これらの実施例に限定されないことに注意すべきである。実施例において、他に指示しない限り、“%”は、“重量%”を意味し、“部”は、“重量部”を意味するものである。
実施例1
内容積10リットル、220mm×240mmの開口部および深さ240mmおよび、回転直径120mmからなる2つのシグマ型羽根が備わっているステンレススチール製の双腕型捏和機が、蓋により止められた。75モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウム水溶液5500gおよびトリメチロールプロパントリアクリレート3.4g(75モル%の中和率を有するアクリル酸ナトリウム水溶液に対し0.05モル%)(水溶液中37重量%濃度の単量体)が導入され、窒素ガスが反応系に存在する空気を置換するために導入された。その後シグマ型羽根が46rpmで回転させられ、同時にジャケットが、35℃の熱水により暖められた。重合開始剤として、過硫酸ナトリウム2.8gおよびL-アスコルビン酸0.14gが加えられた。重合は、重合開始剤の添加4分後に開始した。反応系内のピーク温度は、重合開始剤の添加に続き15分経過後82℃に到達した。含水ゲル重合体は、5mmの大きさの細粒に砕かれた。撹拌は、さらに継続された。前記蓋は、重合開始60分後に捏和機から取り外され、前記ゲルが、捏和機から取り出された。
このようにして得られた含水ゲル重合体の細粒は、50メッシュの金網の上に広げられ、150℃で90分間熱風乾燥された。乾燥された含水ゲル重合体の細粒は、ハンマー型粉砕機で粉砕され、20メッシュを通過できるもの[吸水性樹脂粉末(A-1)]を得るため20メッシュの金網で篩にかけられた。
図1に示される厚さ10mmを有するポリテトラフルオロエチレン(接触角114°および熱変形温度121℃)で作られた内管5が取り付けられた、タービュライザー1(細川ミクロン株式会社製)において、吸水性樹脂粉末(A-1)が、粒子入口2から連続的に供給され、グリセリンと水の液体混合物が、吸水性樹脂粉末(A-1)100部に対してグリセリン2部と水4部の割合で液体入口4から連続的に供給され、該混合物が混合される。タービュライザー1において、攪拌羽根3の先端部の回転速度は、1280m/minであつた。出口6より取り出された混合物700gが、オイルバス(220℃)に漬されたボールの中に充填され、造粒された高分子組成物を得るために、モルタルミキサー(西日本試験機制作所製)による撹拌(60rmp)下、80分間熱処理を受けた。投入電力は、パワーアナライザーPA1000(株式会社武蔵電気計器制作所製)により計測され165Wで安定していた。一方、同じモルタルミキサーを空で80分間運転したとき、投入電力は163Wで安定していた。効率は、モーターの特性表から読み取られ、架橋反応する間混合物に加えられる力学的エネルギーが以下の数式6に算出された:
F=4.8W・hr/kg=17、280J/kg (数式6)
得られた造粒された高分子組成物は、18メッシュの金網(ASTM)を通過させられ、流体安定性造粒物(FSA)(1)を得た。」(段落0077?0080)

(オ)「(b)膨脹速度:吸水性樹脂粉末(A-1)あるいは流体安定性造粒物(1)のサンプルは、常法にしたがって縮分され、30メッシュ(600ミクロン)で遮られ20メッシュ(850ミクロン)を通過するものあるいは、50メッシュ(300ミクロン)で遮られ30メッシュを通過するものを得るために篩にかけられた。
・・・
(c)FSAの含有量:吸水性樹脂粉末(A-1)あるいは流体安定性造粒物(1)のサンプルは、常法にしたがって縮分され、30メッシュ(600ミクロン)で遮られ20メッシュ(850ミクロン)を通過するものあるいは、50メッシュ(300ミクロン)で遮られ30メッシュを通過するものを得るために篩にかけられた。」(段落0084?0087)

(カ)「【表1】

【表2】

」(段落0111?0112)

4 特許権者が提出した乙2号証に添付された[参考資料A]


5 参考資料Aの内容
参考資料Aの実施例1及び実施例2を比較すると、両者ともに、「iii)後架橋されたポリマー粒子を分級する工程」において「少なくとも2つの互いに異なるメッシュ幅を有する篩によって篩別け」する点以外の点で、本件発明1の全ての構成要件を満足していて、実施例1は、「iii)後架橋されたポリマー粒子を分級する工程」における篩が1000μmと3000μmの2つの篩を利用しているのに対して、実施例2は、1000μmの1つの篩を利用している点で異なっている。
その結果、実施例1の「後架橋後にまとめられた粗粒分級物」中の850μm以下の割合(粗粒中の誤排出物の割合)は22.8重量%であるのに対して、実施例2におけるその割合は、41.1重量%となっている。

6 引用文献Aに記載の発明
上記2における摘示(ア)及び(エ)の記載から、その記載を整理すると、引用文献Aには、以下の発明が記載されているといえる。
「流体安定性造粒物(FSA)の製造方法であって、得られた含水ゲル重合体の細粒は、ハンマー型粉砕機で粉砕され、20メッシュを通過できるもの[吸水性樹脂粉末(A-1)]を得るため20メッシュの金網で篩にかけ、吸水性樹脂粉末(A-1)が、粒子入口2から連続的に供給され、グリセリンと水の液体混合物が、吸水性樹脂粉末(A-1)100部に対してグリセリン2部と水4部の割合で液体入口4から連続的に供給され、該混合物が混合され、モルタルミキサー(西日本試験機制作所製)による撹拌(60rmp)下、80分間熱処理を受け、得られた造粒された高分子組成物は、18メッシュの金網(ASTM)を通過させられ、流体安定性造粒物(FSA)を得る製造方法。」(以下、「引用発明」という。)

7 本件発明1と引用発明との対比・判断
引用発明の「流体安定性造粒物(FSA)」、「吸水性樹脂粉末(A-1)」は、それぞれ、本件発明1の後架橋された「吸水性ポリマー粒子」、「分級されたポリマー粒子」に相当することは明らかである。
引用発明の「20メッシュを通過できるものを得るため20メッシュの金網で篩にかけ」ることは、上記2(オ)から、本件発明1の「分級する工程であって、粗大粒を少なくとも1つの篩によって篩別けし、かつ、最小のメッシュ幅を有する篩が、メッシュ幅m_(1)を有する」ことに相当するといえるし、「20メッシュ」は850μmであるので、引用発明は、「少なくとも700μmのメッシュ幅m_(1)」との条件を満足している。
引用発明の「吸水性樹脂粉末(A-1)」(本件発明1の「分級されたポリマー粒子」)の平均粒度は、上記2(カ)の粒度分布からみて、平均粒度200μm以上といえることは明らかである。
引用発明の「吸水性樹脂粉末(A-1)が、粒子入口2から連続的に供給され、グリセリンと水の液体混合物が、吸水性樹脂粉末(A-1)100部に対してグリセリン2部と水4部の割合で液体入口4から連続的に供給され、該混合物が混合され、モルタルミキサー(西日本試験機制作所製)による撹拌(60rmp)下、80分間熱処理を受け」る工程は、上記上記2(エ)に「架橋反応する間混合物に加えられるエネルギー」との記載があることから、後架橋する工程といえる。
そうすると、本件発明1と引用発明Aとは、

「吸水性ポリマー粒子の製造方法であって、
i)吸水性ポリマー粒子を分級する工程であって、
その際、粗大粒を少なくとも1つの篩によって篩別けし、かつ、ここで、該篩又は複数の篩の場合には最小のメッシュ幅を有する篩が、少なくとも700μmのメッシュ幅m_(1)を有する、工程と、
ii)分級されたポリマー粒子を後架橋させる工程であって、当該分級されたポリマー粒子の平均粒度が少なくとも200μmである、工程と、
を含む、方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
後架橋後の工程について、本願発明1では、「iii)後架橋されたポリマー粒子を分級する工程であって、ここで、最小のメッシュ幅を有する篩が、メッシュ幅m_(2)を有する、工程と、
を含み、
前記メッシュ幅m_(2)が、前記メッシュ幅m_(1)よりも少なくとも100μm大きい」と特定するのに対して、引用発明は「18メッシュの金網(ASTM)を通過させられ」るものである点。

<相違点2>
本件発明1では、後架橋されたポリマー粒子の分級に際しての吸水性ポリマー粒子の1時間あたりの流量を「篩面積1m^(2)当たり少なくとも100kg」と特定すると共に、後架橋されたポリマーを分級する工程に関し、「その際、粗大粒を、少なくとも2つの互いに異なるメッシュ幅を有する篩によって篩別けし」と特定し、さらに「工程iii)で篩別けされた前記粗大粒が、m_(1)未満の粒度又は同じ粒度を有する粒子を35質量%未満の量で含有している」と特定するのに対して、引用発明では、これら3つの点を特定しない点。

相違点1について検討する。
篩別けとは、「篩を使ってより分ける」(大辞林 第3版)ことを意味し、篩の上と篩の下のものとを別けることであるから、篩別けされるものからみると、篩の下のものは、篩(金網)を通過させられているといえる。
そして、18メッシュは目開き1000μmであることから、引用発明の「得られた造粒された高分子組成物は、18メッシュの金網(ASTM)を通過させられ」ることは、本件発明1における「ポリマー粒子」の立場でみた「ポリマー粒子は篩を通過させられる工程であって、該篩又は複数の篩の場合には最小のメッシュ幅を有する篩が、メッシュ幅m_(2)を有する、工程」で一致しているといえるし、また、「当該メッシュ幅m_(2)は、メッシュ幅m_(1)よりも少なくとも100μm大きいこと」に相当するといえる。
ここで、引用文献Aの特許請求の範囲に記載の発明は、上記2(ア)のとおりであって、概略、吸水性樹脂の後架橋の条件と後架橋の反応中に混合物に加えられる力学的エネルギーを特定した流体安定性造粒物の製造方法である。そして、当該発明の解決すべき課題は、上記2(イ)の記載のとおりであって、その効果として「本発明の方法により得られる高分子組成物は、大きい膨脹速度、高い流体安定性造粒物の含有量および非常に僅かな微粒子の含有量を有」する(上記2(ウ))とされている。
そして、引用文献Aの実施例1の造粒物についても微粒子の量が測定されていて(上記2(カ)の最下段の粒度分布)、具体的な実施例、比較例においては、後架橋の諸条件と微粒子の含有量との関係を確認しているものであって、微粒子の発生の程度と後架橋の諸条件との関係を確認すべく実施している実施例において、当該後架橋後に新たに微粒子が発生するような工程(例えば、造粒物を細分化するために、金網に押し付けて通過させる工程)を行うことは想定されていないといえる。
そうすると、確かに、引用発明における「18メッシュの金網(ASTM)を通過させられ」は、あたかも、18メッシュの金網に押し付けられることで(強制的に)通過させられているようにも読み取れるものの、上記の点と上記2(オ)に「通過するものを篩にかけ」及び「30メッシュを通過するものを得るために篩にかけられ」との記載があることを併せみると、主語が「造粒された高分子組成物」となっていることからの使役表現となったものとみるのが相当である。
そして、18メッシュは目開き1000μmであることから、引用発明の「得られた造粒された高分子組成物は、18メッシュの金網(ASTM)を通過させられ」ることは、本件発明1の「ポリマー粒子を分級する工程であって、粗大粒を、篩によって篩別けし、かつ、ここで、該篩又は複数の篩の場合には最小のメッシュ幅を有する篩が、メッシュ幅m_(2)を有する、工程」に相当するといえるし、また、「当該メッシュ幅m_(2)は、メッシュ幅m_(1)よりも少なくとも100μm大きいこと」に相当するといえる。
そうすると、相違点1は実質上の相違点ではない。

相違点2について検討する。
相違点2に係る発明特定事項に関し、本件明細書には「それは、後架橋の後で粗粒を分離する際に、拡大されたメッシュ幅を有する篩いの使用を可能にする。一方で、この措置によって、中粒分級物中の大きな粒度を有する粒子の内訳、例えば多くて1質量%が850μmの粒度を有することを保持することができ、他方で、粗粒中の誤排出物と、ひいては返送に際して小粒がどうしても生ずることがかなり減少する。その篩別の結果は、特に高い流量の場合に、粗粒を、少なくとも2つの異なるメッシュ幅を有する篩いによって分離した場合に更に改善することができる。」(段落【0020】?【0021】)との記載があるから、当業者は、「後架橋の後で粗粒を分離する際に、拡大されたメッシュ幅を有する篩い」を使用し、「特に高い流量の場合に」、さらに「少なくとも2つの互いに異なるメッシュ幅を有する篩によって篩別け」することで、「粗粒中の誤排出物と、ひいては返送に際して小粒がどうしても生ずることがかなり減少する」という疎粒中の誤排出物を減少させる効果が奏されることを認識できるといえる。
そうすると、上記4及び5のとおり、特許権者が平成28年12月12日に提出した意見書に添付された乙2号証に記載の[参考資料A]の結果は、上記本件明細書の段落【0020】?【0021】の記載を裏付けるものといえるから、参酌した上で、以下に検討する。
確かに、分級のため、すなわち、特定の粒径以下の粒子を得るために金網を通過させる場合に、金網を通す際の金網の過負荷を防ぐ等を目的として、複数の異なるメッシュ幅を有する金網を使用することは、周知の技術事項(要すれば、ふるい分け・分級・破砕、第14?19頁、昭和54年10月1日、近畿工業株式会社(異議申立人2からの異議申立書における甲6号証)、Test Sieving:Principles and procedures、2001年、advantech Mfg.、Chapter6(異議申立人2からの異議申立書における甲7号証等参照。)であって、当業者が通常使用するものとはいえる。
また、吸水性ポリマー粒子の1時間あたりの流量は、分級の際の被分級物の処理量に相当し、通常採用する流量(要すれば、化学装置・機器の実務知識 第134?137頁、平成9年4月20日、株式会社オーム社(異議申立人2からの異議申立書における甲9号証)を参照のこと)であるから、当業者が適宜決定する操作条件にすぎないものともいえる。
しかしながら、本件発明1で特定された所定の流量及び所定の関係を有し、かつ、複数の異なるメッシュ幅を有する金網を使用することで、「工程iii)で篩別けされた前記粗大粒が、m_(1)未満の粒度又は同じ粒度を有する粒子」の割合(篩別けされた粗大粒中に含まれる有用な粒子の割合)を35重量%未満という値にまで低くできるとの効果は、乙2号証からも認められ、しかもかかる効果は、異議申立人1及び2が提示したいずれの証拠にも記載も示唆もされておらず、当業者において、技術常識であったとも認められない。
そうすると、相違点2は、当業者においても想到容易とはいえない。

なお、異議申立人1及び2は、効果は格別でなく予測し得るものと主張しているが、異議申立人1及び2の提示するいずれの甲号証にも、篩別けにおいて排出された粗大粒中に含まれる有用な粒子の割合を所定値以下とすることに関しての記載はないから、当業者が本件発明1の効果を予測可能であるとの主張は採用できない。

以上のことから、本件発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

8 本件発明2ないし12及び本件発明14と引用発明との対比・判断
本件発明2ないし12及び本件発明14は、直接又は間接的に本件発明1を引用する発明である。そして、請求項1に係る本件発明1が引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえないのは上述のとおりであるから、請求項2ないし12及び請求項14に係る本件発明2ないし12及び本件発明14についても同様に、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

9 小括
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし12及び請求項14に係る発明は、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第113条第2号に該当しない。

第6 異議申立人の主張するその他の取消理由について

1 その他の新規性及び進歩性について
異議申立人1が提出した甲1ないし甲9、参考資料1及び異議申立人2が提出した甲1ないし甲16のいずれの証拠においても、高い流量の場合に、「後架橋後の粗大粒用の篩を少なくとも2つとする」とともに、「後架橋の前後の篩について、後架橋前の粗大粒の最小の篩より、後架橋後の粗大粒の最小の篩を少なくとも100μm大きな篩とする」ことで、篩別けされた粗大粒中に含まれる誤排出物を減少させることができることについて、記載も示唆もされていないから、この点が想到容易とはいえない。
よって、本件特許は、当該証拠によっては、特許法第113条第2号に該当しない。

2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
本件明細書には、疎大粒が、m_(1)未満又は同じ粒度を有する粒子を23.4(22.1)質量%含む実施例が具体的に記載されているから、当業者は、当該実施例を基準として篩の大きさ等を適宜調整して、本件発明1ないし12及び本件発明14を実施することができないとはいえない。
よって、本件特許は、特許法第113条第4号に該当しない。

3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本件明細書の記載から、高い流量の場合に、「後架橋後の粗大粒用の篩を少なくとも2つとする」とともに、「後架橋の前後の篩について、後架橋前の粗大粒の最小の篩より、後架橋後の粗大粒の最小の篩を少なくとも100μm大きな篩とする」ことで、篩別けされた粗大粒中に含まれる誤排出物の割合を35重量%以下に減少させることができるとの技術思想を把握できる。
そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されており、解決すべき課題を解決するものと当業者が認識し得るものといえるから、サポート要件を満足している。本件発明2ないし12及び本件発明14も同様である。
よって、本件特許は、特許法第113条第4号に該当しない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、当審において通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1ないし12及び請求項14に係る特許を取り消すことはできない。
また、訂正請求により、請求項13は削除されたので、請求項13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
さらに、他に本件特許の請求項1ないし12及び請求項14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性ポリマー粒子の製造方法であって、
i) 吸水性ポリマー粒子を分級する工程であって、
その際、粗大粒を少なくとも1つの篩によって篩別けし、かつ、ここで、該篩又は複数の篩の場合には最小のメッシュ幅を有する篩が、少なくとも700μmのメッシュ幅m_(1)を有する、工程と、
ii) 分級されたポリマー粒子を後架橋させる工程であって、当該分級されたポリマー粒子の平均粒度が少なくとも200μmである、工程と、
iii) 後架橋されたポリマー粒子を分級する工程であって、
その際、粗大粒を、少なくとも2つの互いに異なるメッシュ幅を有する篩によって篩別けし、かつ、ここで、最小のメッシュ幅を有する篩が、メッシュ幅m_(2)を有する、工程と、
を含み、
前記メッシュ幅m_(2)が、前記メッシュ幅m_(1)よりも少なくとも100μm大きいこと、及び、
前記工程iii)における分級に際しての前記吸水性ポリマー粒子の1時間あたりの流量が、篩面積1m^(2)当たり少なくとも100kgであり、かつ、工程iii)で篩別けされた前記粗大粒が、m_(1)未満の粒度又は同じ粒度を有する粒子を35質量%未満の量で含有していること
を特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、粗大粒を、工程i)において、異なるメッシュ幅の少なくとも2つの篩によって篩別けすることを特徴とする、方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、前記メッシュ幅m_(1)が、少なくとも800μmであることを特徴とする、方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法において、前記メッシュ幅m_(2)が、少なくとも800μmであることを特徴とする、方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法において、前記メッシュ幅m_(2)が、前記メッシュ幅m_(1)よりも少なくとも150μm大きいことを特徴とする、方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法において、粗大粒を、工程i)において、異なるメッシュ幅の少なくとも2つの篩によって篩別けし、ここで、それら複数の篩のうちの少なくとも1つの篩が、前記メッシュ幅m_(1)よりも少なくとも50μm大きいメッシュ幅を有することを特徴とする、方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法において、工程iii)で使用される前記の少なくとも2つの篩のうちの少なくとも1つの篩が、前記メッシュ幅m_(2)よりも少なくとも500μm大きいメッシュ幅を有することを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法において、前記吸水性ポリマー粒子が、前記分級中に、少なくとも40℃の温度を有することを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法において、前記分級を減圧下で行うことを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法において、前記吸水性ポリマー粒子が、前記分級中に、ガス流によって流通されることを特徴とする、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、該ガス流が40?120℃の温度を有することを特徴とする、方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の方法において、該ガス流が、5g/kg未満の水蒸気含有率を有することを特徴とする、方法。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法において、前記吸水性ポリマー粒子が、工程ii)の前で、少なくとも15g/gの遠心保持能力を有することを特徴とする、方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-24 
出願番号 特願2009-529674(P2009-529674)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J)
P 1 651・ 537- YAA (C08J)
P 1 651・ 536- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 芦原 ゆりか大熊 幸治  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 大島 祥吾
小柳 健悟
登録日 2015-06-26 
登録番号 特許第5766913号(P5766913)
権利者 ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
発明の名称 吸水性ポリマー粒子の分級法  
代理人 久野 琢也  
代理人 久野 琢也  
代理人 篠 良一  
代理人 菅河 忠志  
代理人 植木 久一  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 住吉 秀一  
代理人 篠 良一  
代理人 住吉 秀一  
代理人 植木 久彦  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ