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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C11D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C11D
管理番号 1327877
異議申立番号 異議2016-700414  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-11 
確定日 2017-04-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5809874号発明「繊維製品用洗浄剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5809874号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5809874号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5809874号(以下、「本件」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成23年8月10日に特許出願され、平成27年9月18日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成28年5月11日に特許異議申立人番場大円(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年8月24日付けで取消理由が通知され、同年10月20日に特許権者より意見書が提出され、そして、同年12月1日付けで申立人より上申書が提出され(ただし、特許異議申立制度において、特許異議申立人が意見を述べる機会は、特許法第120条の5第5項に規定されるように、同法同条第2項の訂正の請求があったときであって、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情がないとき等に限られている。このような制度における本件の審理に当たって、当該上申書を参酌することは、特許異議申立人が意見を述べる機会を制限した法の趣旨に反することとなるから、これを参酌することはできない。)、さらに、同年12月9日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成29年2月8日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、本件訂正請求に対し申立人から同年3月17日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断

(1) 訂正の内容

本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。

訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「銅、マンガン、ニッケル、鉄及び亜鉛から選択される少なくとも1種(B)」と記載されているのを「銅及び亜鉛から選択される少なくとも1種(B)」に訂正する。 (請求項1の記載を引用する請求項2?4も同様に訂正されることとなる。)

(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び、一群の請求項について

上記訂正事項1は、「銅、マンガン、ニッケル、鉄及び亜鉛から選択される少なくとも1種(B)」と記載されているのを「銅及び亜鉛から選択される少なくとも1種(B)」と選択肢を限定することにより、特許請求の範囲を減縮するものであるから、当該訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正事項1は、上述のとおり、許容されていた選択肢の一部を削除するものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、上記訂正事項1は、許容されていた選択肢の一部を削除するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものに該当しないので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1?4は、当該訂正事項1を含む請求項1の記載を請求項2?4が引用しているものであるから、これらに対応する訂正後の請求項1?4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(3) むすび

以上のとおりであるから、本件訂正請求における訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?4について訂正することを認める。

第3 本件発明について

本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?4に係る発明(以下、項番に従い、「本件発明1」?「本件発明4」といい、これらを併せて「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
アニオン界面活性剤(A)と、銅及び亜鉛から選択される少なくとも1種(B)と、前記(B)成分と錯体を形成するアミノカルボン酸型金属イオン封鎖剤(C)と、カチオン化セルロース(D)とを含有する繊維製品用洗浄剤。
【請求項2】
前記(D)成分を0.01?3質量%含有する請求項1に記載の繊維製品洗浄剤。
【請求項3】
前記(B)成分/前記(C)成分で表されるモル比は、1/3?5である請求項1又は2に記載の繊維製品用洗浄剤。
【請求項4】
下記一般式(I)で表される有機過酸前駆体(E)と、過酸化水素又は水中で過酸化水素を発生する過酸化物(F)とを含有する請求項1?3のいずれか1項に記載の繊維製品用洗浄剤。
【化1】

[(I)式中、R^(1)は炭素数7?18の直鎖状の脂肪族炭化水素基を表し、Xは水素原子、-COOM又はSO_(3)M(Mは水素原子又は塩形成カチオンを表す。)を表す。]」

第4 取消理由の概要

当審において、本件請求項1?4に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

1.本件特許の請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(申立理由3に相当。以下、「取消理由1」という。)。
2.本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(申立理由4の一部に相当。以下、「取消理由2」という。)。

第5 判断

ア. 取消理由通知に記載した取消理由について

1.取消理由1(特許法第29条第2項の規定について)

(1) 刊行物
A.特開2009-149739号公報(甲第2号証。以下、「引用例A」という。)
B.特表2005-537408号公報(甲第1号証。以下、「引用例B」という。)
C.特開2008-156565号公報(甲第3号証。以下、「引用例C」という。)
D.国際公開第2009/154061号(当審で新たに引用。以下、「引用例D」という。)
E.特開2009-227834号公報(当審で新たに引用。以下、「引用例E」という。)
F.特開2009-144268号公報(当審で新たに引用。以下、「引用例F」という。)
G.特開2007-63741号公報(甲第4号証。以下、「引用例G」という。)
H.特開2009-161865号公報(甲第5号証。以下、「引用例H」という。)

(2) 刊行物に記載の事項

A.引用例Aに記載の事項
(a1)
「【請求項1】
水に溶解して過酸化水素を発生する過酸化物(A)と、配位座が5以下のキレート剤(B)と、銅化合物(C)と、プロテアーゼ(D)とを含有することを特徴とする粉末漂白性組成物。」
「【請求項3】
アニオン界面活性剤(F)をさらに含有する請求項1又は請求項2記載の粉末漂白性組成物。」

(a2)
「【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被洗物を使用している間に発生する臭いを防臭する効果に優れた粉末漂白性組成物を提供することができる。」

(a3)
「【0019】
<配位座が5以下のキレート剤:(B)成分>
本発明において、(B)成分は、配位座が5以下のキレート剤である。
当該(B)成分と、前記(A)成分および後述の(C)成分と、後述の(D)成分とを組み合わせて用いることにより、洗浄力や漂白力が向上し、また、被洗物を使用している間に発生する臭いを防臭する効果も向上する。
【0020】
本発明において、「配位座が5以下のキレート剤」とは、金属イオンに配位してキレート化合物(金属錯体)をつくる配位座5以下の配位子をいう。
「配位子」とは、錯体の中心原子に配位結合し得る原子あるいは原子団をいう。
(B)成分は、当該配位子がもつ、配位し得る配位原子(錯体の中心原子に直接結合している原子)の数が5以下の配位子である。
【0021】
(B)成分としては、配位座5以下の配位子であればよく、トリポリリン酸塩等の無機ポリリン酸塩化合物;1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1-ジホスホン酸又はそれらの塩等のホスホン酸類;シュウ酸、コハク酸又はそれらの塩等のポリカルボン酸類;クエン酸、リンゴ酸又はそれらの塩等のヒドロキシカルボン酸類;イソセリンジ酢酸又はその塩等のアミノポリカルボン酸類;下記一般式(I)?(III)で表される化合物などが挙げられる。
塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩等が挙げられ、ナトリウム塩、カリウム塩が特に好ましい。
【0022】
【化1】


「【0028】
前記一般式(II)中、X^(1)?X^(4)は、それぞれ独立して水素原子、アルカリ金属原子、又はアルカリ土類金属原子を表す。
X^(1)?X^(4)において、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子としては、前記式(I)中のXにおけるアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子と同じものが挙げられる。
なお、X^(1)?X^(4)のいずれかがアルカリ土類金属原子である場合、たとえばX^(1)がカルシウム(Ca)の場合、式(II)中の「-COOX^(1)」は「-COOCa_(1/2)」となる。
上記のなかでも、X^(1)?X^(4)は、いずれもナトリウム又はカリウムであることが好ましい。
X^(1)?X^(4)は、互いに、同一のものであっても、異なっていてもよい。
【0029】
Rは、水素原子又は水酸基を表し、水酸基であることが好ましい。
Qは、水素原子または炭素数1?3のアルキル基を表し、水素原子が好ましい。
n_(1)は、0又は1の整数を表し、1であることが好ましい。
【0030】
前記一般式(II)で表される化合物を、水等の溶媒中に投入すると、-COOX^(1)、-COOX^(2)、-COOX^(3)および-COOX^(4)の一部又は全部が「-COO-」となり、(a)成分から放出される銅イオン又はマンガンイオンとの錯体の形成が可能となる。
【0031】
前記一般式(II)で表される化合物の具体例としては、下記化学式(18)で表される化合物(2,2’-イミノジコハク酸)、下記化学式(19)で表される化合物(3-ヒドロキシ-2,2’-イミノジコハク酸)、又はそれらの塩が挙げられる。
【0032】
【化3】

【0033】
前記一般式(III)中、A^(1)は、アルキル基、カルボキシ基、スルホン酸基(-SO_(3)H)、アミノ基(-NH_(2))、水酸基又は水素原子を表す。
A^(1)において、アルキル基としては、炭素数1?3であることが好ましく、炭素数1であることがより好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。
【0034】
X^(5)?X^(7)は、それぞれ独立して水素原子、アルカリ金属原子、又はアルカリ土類金属原子を表す。
X^(5)?X^(7)において、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子としては、前記式(II)中のX^(1)?X^(4)におけるアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子とそれぞれ同じものが挙げられる。
なお、X^(5)?X^(7)のいずれかがアルカリ土類金属原子である場合、たとえばX^(5)がカルシウム(Ca)の場合、式(III)中の「-COOX^(5)」は「-COOCa_(1/2)」となる。
上記のなかでも、X^(5)?X^(7)は、いずれもナトリウム又はカリウムであることが好ましい。
X^(5)?X^(7)は、互いに、同一のものであっても、異なっていてもよい。
【0035】
n_(2)は、0?5の整数を表し、1であることが好ましい。
【0036】
前記一般式(III)で表される化合物を、水等の溶媒中に投入すると、-COOX^(5)、-COOX^(6)、-COOX^(7)の一部又は全部が「-COO-」となり、(a)成分から放出される銅イオン又はマンガンイオンとの錯体の形成が可能となる。
【0037】
前記一般式(III)で表される化合物の具体例としては、ニトリロトリ酢酸、メチルグリシンジ酢酸、セリン二酢酸、下記化学式(22)?(24)で表される化合物、又はそれらの塩が挙げられる。
【0038】
【化4】



(a4)
「【0061】
<アニオン界面活性剤:(F)成分>
本発明において、(F)成分はアニオン界面活性剤である。
当該(F)成分を用いることにより、洗浄力がさらに向上すると共に、被洗物を使用している間に発生する臭いを防臭する効果も効果的に得られる。」
「【0064】
(F)成分は、1種単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
上記のなかでも、(F)成分としては、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸(LASのアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム又はカリウム塩等)、AOS、MES、AS、AESのアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム又はカリウム塩等)、高級脂肪酸のアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム又はカリウム塩等)等が好ましく、炭素数14?18の炭化水素基を有するMESが特に好ましい。
本発明の粉末漂白性組成物中の(F)成分の割合は、0.1?30質量%が好ましい。
(F)成分の割合が下限値以上であると、洗浄力が向上すると共に、被洗物を使用している間に発生する臭いを防臭する効果が向上する。(F)成分の割合が上限値を超えても効果が高まらない場合があり、(F)成分の割合が上限値以下であると、他の成分との配合バランスをとることができる。」

(a5)
「【0142】
以上説明したように、本発明によれば、被洗物を使用している間に発生する臭いを防臭する効果に優れた粉末漂白性組成物を提供することができる。
本発明者らは、上記のように、タオル等の洗濯物を乾燥させた後、数日間使用している間に、当該タオル等から悪臭を感じる、という不満を消費者が強く抱いているという「新たな課題」を見出した。そして、本発明者らの検討によると、洗濯処理後、室内で「乾燥させている間」に洗濯物から発生する臭いだけではなく、乾燥した後、「使用している間」に発生する臭いまでも防臭するためには、(1)洗濯によって、臭い発生の原因物質である汚れや菌を、充分に分解・除去する洗浄力又は漂白力、および(2)使用により洗濯物が濡れた状態となっても菌が増えにくい抗菌力、の両方を組成物が兼ね備えていることが必要であることが分かった。
本発明の粉末漂白性組成物は、水に溶解して過酸化水素を発生する過酸化物(A)と、配位座が5以下のキレート剤(B)と、銅化合物(C)と、プロテアーゼ(D)とを含有する。
(B)成分は、例えば洗濯処理時または漂白処理時において、(C)成分と金属錯体(銅錯体)を形成し、(A)成分から発生する過酸化水素をより活性化すると考えられる。これによって、本発明の粉末漂白性組成物は、従来に比べて良好な洗浄力又は漂白力が得られ、また、洗濯処理後または漂白処理後、前記金属錯体が被洗物に吸着して抗菌効果および殺菌・除菌効果を発揮すると考えられる。さらに、(D)成分を含有することにより、(A)成分と(B)成分と(C)成分だけでは落としきれなかった汚れ等も除去でき、洗浄力がより高まる。これらの作用効果によって、本発明の粉末漂白性組成物は、被洗物を使用している間に発生する臭いを防臭するという固有の効果を発揮すると推測される。」

(a6)
「【0146】
・配位座が5以下のキレート剤(B)
HIDS:3-ヒドロキシ-2,2’-イミノジコハク酸4ナトリウム、日本触媒(株)製;配位座5。
IDS:2,2’-イミノジコハク酸4ナトリウム、ランクセス製;配位座5。
MGDA:メチルグリシンジ酢酸3ナトリウム、BASF社製;配位座4。
ジピコリン酸:2,6-ピリジンジカルボン酸、MERCK社製;配位座3。」
「【0164】
【表1】


「【0182】
[防臭効果の試験]
タオルを「使用している間」に発生する臭いを防臭する効果を確認するために、下記方法による防臭効果試験を行った。
(防臭試験布の調製)
試料として、新品の綿タオル(80cm×30cm、(株)東進社製の220匁ボーダーソフトFT;下記に示す評価基準にて臭気が1?3点のタオル)を、中央で折り畳んだ後の当該綿タオルの大きさが40cm×30cmになるようにタオル掛けに掛けて家庭で1ヶ月間使用と洗濯とを繰り返し、最後に洗濯をせずに使用したままの当該綿タオルを、図1に示すa?hのように、汚れた部分が均一に8等分になるように切断したもの(約20cm×15cm、約9g)を防臭試験布とした。
【0183】
(洗浄方法1:実施例1?12、比較例1?6)
Terg-O-Tometer(U.S.Testing社製)を用いて、これに、8等分した防臭試験布のうちの1枚と、各例の粉末漂白性組成物とノニオン界面活性剤と炭酸ナトリウムとを水道水に溶解してなる水溶液900mL(温度15℃)とを入れた。当該水溶液中の濃度は、それぞれ、粉末漂白性組成物300ppm、ノニオン界面活性剤200ppm、炭酸ナトリウム150ppmに調整した。
次に、温度15℃下で、Terg-O-Tometerを120rpmで動かして10分間洗浄処理を行った後、1分間の脱水、3分間のすすぎ、1分間の脱水、3分間のすすぎを続けて行い、防臭試験布を18時間室温にて風乾した。
なお、8等分した防臭試験布のうち、図1に示したように、片側4等分(a?d、e?h)のうちの1枚は、比較例1の粉末漂白性組成物により洗浄処理を行い、評価の比較対照(基準)の防臭試験布とした。
【0184】
(洗浄方法2:実施例21?38、比較例21?29)
Terg-O-Tometer(U.S.Testing社製)を用いて、これに、8等分した防臭試験布のうちの1枚と、各例の粉末漂白性組成物を水道水に溶解してなる水溶液900mL(温度15℃)とを入れた。当該水溶液中の粉末漂白性組成物の濃度は、667ppmに調整した。
次に、温度15℃下で、Terg-O-Tometerを120rpmで動かして10分間洗浄処理を行った後、1分間の脱水、3分間のすすぎ、1分間の脱水、3分間のすすぎを続けて行い、防臭試験布を18時間室温にて風乾した。
なお、8等分した防臭試験布のうち、図1に示したように、片側4等分(a?d、e?h)のうちの1枚は、比較例21の粉末漂白性組成物により洗浄処理を行い、評価の比較対照(基準)の防臭試験布とした。
【0185】
(防臭効果の試験)
上記の洗浄方法により洗浄、乾燥した防臭試験布を、裁断前の通り(大きさ約80cm×30cm)に、切断した部分で縫い合わせて防臭効果の評価用試験布とした。
これら評価用試験布を、中央で折り畳んだ後の大きさが40cm×30cmになるように、手洗い場に設置したタオル掛けに掛け、縫い合わされたタオルの各部分が互いに均一に使用されるように注意しながら3日間使用を続けた。
使用の後、評価用試験布を再び縫い合わせた部分で8等分に裁断し、5名のパネラーにより各試験布の臭い評価を官能評価で行った。試験布の臭いの評価は、下記の絶対評価の基準に従って点数化し、5名の平均点(小数点以下2桁目を四捨五入)で判定した。
絶対評価基準
5点:強烈な臭い。
4点:強い臭い。
3点:楽に感知できる臭い。
2点:何の臭いか分かる程度の弱い臭い。
1点:かすかに感じられる臭い。
0点:臭わない。
以上の判定を基にして、実施例1?12と比較例1?6においては、実施例1?12および比較例2?6の粉末漂白性組成物を用いて処理した各試験布の臭いと、比較例1の粉末漂白性組成物を用いて処理した試験布の臭いとの一対比較をそれぞれ行い、また、実施例21?38と比較例21?29においては、実施例21?38および比較例22?29の粉末漂白性組成物を用いて処理した試験布の臭いと、比較例21の粉末漂白性組成物を用いて処理した試験布の臭いとの比較をそれぞれ行い、下記の評価の基準に従って防臭効果を評価した。その結果を表3?6に示す。
評価基準
◎:比較例1又は比較例21より良好で、差が1点以上であった。
○:比較例1又は比較例21より良好で、差が0.5点より大きく1点未満であった。
△:比較例1又は比較例21より良好で、差が0.1点より大きく0.5点以下であった。
×:比較例1又は比較例21と同等又は不良であり、差が0.1点以下であった。
なお、かかる防臭効果の評価において、比較例1および比較例21の粉末漂白性組成物を評価基準としているため、表4、6中では比較例1および比較例21の防臭効果の評価結果を「-」と表記した。
【0186】
【表3】

【0187】
【表4】

【0188】
【表5】

【0189】
【表6】

【0190】
以上の結果から明らかなように、本発明に係る実施例1?12の粉末漂白性組成物(漂白剤組成物)は、いずれも漂白力が良好であり、比較例1?6に比べて、被洗物を使用している間に発生する臭いを防臭する効果に優れていることが確認できた。
また、本発明に係る実施例21?38の粉末漂白性組成物(漂白洗浄剤組成物)は、いずれも洗浄力が良好であり、比較例21?29に比べて、被洗物を使用している間に発生する臭いを防臭する効果に優れていることが確認できた。」

B.引用例Bに記載の事項
(b1)
「【請求項1】
洗濯製品組成物であって:
a)当該組成物の0.1重量%?10重量%の少なくとも1つの水不溶性布地ケア有益剤と、
b)当該組成物の0.01重量%?5重量%の少なくとも1つの送達向上剤、好ましくは陽イオン性セルロース
との安定な混合物を含む、洗濯製品組成物。」

(b2)
「【0001】
本発明は、洗濯中の水不溶性シリコーン誘導体類のような水不溶性布地ケア有益剤の付着を向上させるための、陽イオン性セルロース類の使用に関する。」

(b3)
「【0018】
(送達向上剤)
本明細書で使用する時、「送達向上剤」は、洗濯中の布地上への水不溶性布地ケア有益剤の付着を大幅に向上させる陽イオン性セルロース、又は陽イオン性セルロース類の組み合わせを指す。本発明の送達向上剤は、水不溶性布地ケア有益剤との強い物理的結合能力を有する。またそれは、綿繊維のような天然の織物繊維に対して非常に強い親和力を有する。
【0019】
有効な送達向上剤は、好ましくは、ファンデルワールス力のような物理力、又は水素結合及び/若しくはイオン結合のような非共有化学結合を介した、水不溶性布地ケア有益剤との強い結合能力を有する。それは、好ましくは、天然の織物繊維、特に綿繊維に対して非常に強い親和力を有する。
【0020】
送達向上剤は、水溶性であるべきであり、且つ、水不溶性布地ケア有益剤粒子表面を覆うことができるように、又はいくつかの粒子を合わせて保持できるように、柔軟な分子構造を有するべきである。したがって、送達向上剤は、好ましくは架橋しておらず、且つ好ましくは網状構造をもたないが、これは、これら両方が分子の柔軟性に乏しい傾向にあるからである。
【0021】
ほとんどの布地が、水性環境でわずかに負の電荷を有する織物繊維で構成されるので、布地ケア有益剤を布地上へと進ませるには、布地ケア有益剤と布地との間の反発力に打ち勝つように、送達向上剤の正味電荷が正であることが好ましい。水中でわずかに負の電荷を示す繊維の例には、これだけに限定するものではないが、綿、レーヨン、絹、羊毛などが含まれる。」

(b4)
「【0052】
(実施例3及び4)
【表2】

*ダウ・ケミカルズ(Dow Chemicals)から供給される。
**ポリジメチルシロキサン、ダウ・コーニング(Dow Corning)から供給される。」

C.引用例Cに記載の事項
(c1)
「【請求項1】
下記(a)?(c)に示す成分を含有することを特徴とする洗濯用添加剤粒子。
(a)成分:香料成分、消臭剤、忌避剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、殺菌剤、柔軟剤、再汚染防止剤から選ばれる少なくとも1種の機能性物質。
(b)成分:シリカ粒子。
(c)成分:粘土鉱物、セルロース、カチオン化セルロース、カチオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種からなり、綿布への吸着率が20%以上である繊維吸着性物質。」

(c2)
「【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、機能性物質を多孔質担体であるシリカ粒子に含浸させることにより機能性物質の保持性が向上した粒子が得られることに着目した。そして、香料等の低沸点の機能性物質においては、表面を疎水処理した多孔質担体を用いることにより、水中での流出を抑制し、高い保持性を示す粒子が得られることを見出した。更には、機能性物質を含浸させたシリカ粒子と共に繊維吸着性物質を含有させることにより、洗浄時やすすぎの後においても機能性物質が粒子中に保持され、機能性物質を含む粒子が衣類(繊維)に付着し、衣類に対して非常に優れた効果をもたらすと共に、効果の持続性(徐放効果)が高まることを見出し、本発明を完成するに至った。」

(c3)
「【0024】
<(c)成分:繊維吸着性物質>
繊維吸着性物質は、粘土鉱物、セルロース、カチオン化セルロース、カチオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種からなり、綿布への吸着率が20%以上であるものを用いる。なお、2種以上の繊維吸着性物質を混合する場合は、混合物の状態で吸着率を下記に示す吸着量測定法により測定し、その値が上記範囲内であればよい。
繊維吸着性物質の含有量は、洗濯用添加剤粒子100質量%中、5?80質量%が好ましく、5?60質量%がより好ましく、5?30質量%がさらに好ましい。繊維吸着性物質の含有量の下限値が上記値より少なくなると、繊維への吸着が低下する。一方、含有量の上限値が上記値より多くなると、洗濯用添加剤粒子を製造する際の粒子化が困難となったり、洗濯用添加剤粒子中の機能性物質の割合が減少するため、機能性物質が発揮する効果が低下する。」

D.引用例Dに記載の事項
(d1)
「[請求項1]
界面活性剤(A)とアスコルビン酸脂肪酸エステル(B)とを含有する洗浄剤組成物。
[請求項2]
カチオン化セルロース、カルボキシメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種(C)をさらに含有する請求項1記載の洗浄剤組成物。」

(d2)
「[0018]
<(C)成分>
本発明の洗浄剤組成物においては、カチオン化セルロース、カルボキシメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種(C)(以下「(C)成分」という。)をさらに含有することが好ましい。
前記(C)成分を含有することにより、日光の影響による衣類の退色抑制の効果がより向上する。このような効果が得られる理由としては、洗濯の際、(C)成分が衣類に吸着し、前記(C)成分と共に(B)成分も一緒に衣類に吸着する。これにより、(C)成分を含有しない場合に比べて、(B)成分の衣類への吸着性が高まるため、このような効果が得られると推測される。」
「[0029]
(C1)成分は、1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
本発明の洗浄剤組成物における(C1)成分の含有割合は、0.1?3質量%であることが好ましく、0.1?1質量%であることがより好ましい。
(C1)成分の含有割合が前記範囲の下限値以上であると、日光の影響による衣類の退色抑制の効果がより向上する。(C1)成分の含有割合が前記範囲の上限値以下であれば、日光の影響による衣類の退色抑制の効果を充分に付与することができる。
また、(C1)成分を配合することにより、衣類の柔軟性や風合いの面での改善効果も同時に得られる。」

E.引用例Eに記載の事項
(e1)
「【請求項1】
下記(A)?(C)に示す成分を含有する粒状洗剤組成物。
(A)成分:界面活性剤。
(B)成分:キトサン。
(C)成分:カチオン化セルロース、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースよりなる群から選ばれる1種又は2種以上よりなる成分。」

(e2)
「【0022】
<(C)成分>
本発明において、(C)成分は特定のセルロース誘導体であり、詳しくは、カチオン化セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
本発明において(C)成分は、被洗物へのキトサンの吸着を促進させるために用いる。」
「【0031】
本発明において、カチオン化セルロースは、上記カチオン化セルロースを1種または2種以上を混合して用いることができる。
粒状洗剤組成物中のカチオン化セルロースの含有量は、0.1?3質量%であることが好ましく、0.3?1.5質量%であることがより好ましい。
粒状洗剤組成物中、カチオン化セルロースの含有量が0.1質量%以上であれば、キトサン併用時、被洗物へのキトサンの吸着を促進することができ、本発明の粒状洗剤組成物の光退色抑制効果を促進させることが可能である。一方、3質量%以下であれば、洗濯後の被洗物への白色粉状物の付着が殆どみられない。
また、カチオン化セルロースを配合することにより、柔軟性や風合いの面での改善効果も同時に得られる。」

F.引用例Fに記載の事項
(f1)
「【請求項1】
下記(A)?(D)を含有する液体柔軟剤組成物。
(A)カチオン性を有する水溶性高分子化合物、
(B)シリコーン化合物、
(C)水溶性蛍光増白剤、及び
(D)炭素数2?6の一価アルコール、炭素数2?6の多価アルコール、及び下記式(D-I)又は(D-II)で表わされるグリコールエーテルからなる群から選択される水溶性溶剤:
R^(1)-O-(R^(2)O)_(m)-H (D-I)
(式中、R^(1)は、炭素数2?6のアルキル基又はフェニル基であり、R^(2)は、炭素数2又は3のアルキレン基であり、mは、平均付加モル数を表し、2?3の数である。)
R^(3)-O-(R^(2)O)_(n)-R^(4) (D-II)
(式中、R^(3)及びR^(4)は、それぞれ独立して炭素数1又は2のアルキル基であり、R^(2)は、炭素数2又は3のアルキレン基であり、nは平均付加モル数を表し、1?3の数である。)」

(f2)
「【0007】
(A)成分 カチオン性を有する水溶性高分子化合物
本発明の(A)成分は、(B)成分のシリコーン化合物、(C)成分の水溶性蛍光増白剤を繊維へ吸着させる効果を有するものである。カチオン性を有する水溶性高分子化合物としては、水に溶解した時にカチオン性を有するものを使用し得る。アミノ基、アミン基、第4級アンモニウム基から選ばれる1種以上のカチオン性基を有する水溶性高分子化合物が好ましい。なお、本発明において、水溶性高分子とは、25℃の水100gに対し、高分子化合物1gを加えたときに、その液が濁らず透明であるものをいう。
(A)成分のカチオン性を有する水溶性高分子化合物は、カチオン化度が0.1%以上のものが好ましく、例えば0.1?35%であるのがよく、特に2.5%以上が好ましく、例えば2.5?15%であるのがよい。カチオン化度がこのような条件を満たすことにより、共存するシリコーン化合物を繊維へ吸着させる効果を向上させることができ、かつ、多量の配合が必要となって経済的でないケースを防止することができる。」

(f3)
「【0012】
(A)成分の例としては、MERQUAT100(NALCO社製)、アデカカチオエースPD-50(旭電化工業(株))、ダイドールEC-004、ダイドールHEC、ダイドールEC(大同化成工業(株)製)等の塩化ジメチルジアリルアンモニウムの重合体、MERQUAT550 (NALCO社製)等の塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体、MERQUAT280(NALCO社製)等の塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体、レオガードMGP、レオガードKGP(ライオン(株)製)等のカチオン化セルロース、LUVIQUAT-FC905(B・A・S・F社製)等の塩化イミダゾリニウム・ビニルピロリドン共重体、LUGALVAN-G15000(B・A・S・F社製)等のポリエチレンイミン、ポバールCM318((株)クラレ製)等のカチオン化ポリビニルアルコール、キトサン等のアミノ基を有する天然系の高分子誘導体、ジエチルアミノメタクリレート・エチレンオキシド等が付加された親水基を有するビニルモノマーとの共重合体等が挙げられるが、水に溶解時にカチオン性を有する高分子化合物であればよく、本例に限定されるものではない。この中で、シリコーンの付与するすべり性などの風合いを妨げない観点から、(A)成分単独で吸着した時に繊維に付与する剛性の小さいものが好ましい。好ましい高分子としては、下記一般式(IV)に示すジメチルジアリルアンモニウム塩を重合して得られるカチオン性高分子である。この高分子の構造単位は、通常、下記一般式(V)又は下記一般式(VI)で表わされる。また、一般式(V)の構造単位と一般式(VI)の構造単位が共に含まれていてもよい。」(当審注:一般式(V)、(VI)は省略。)

G.引用例Gに記載の事項
(g1)
「【請求項1】
(A)シリコーン高分子化合物、
(B)カチオン性を有する水溶性高分子化合物、及び
(C)沸点が250℃以下の香料成分を含有する香料組成物、
を含有する液体柔軟剤組成物。」

(g2)
「【0014】
本発明の(B)成分は、25℃の水100gに対し、水溶性高分子化合物1gを加えたときに、その液が濁らず透明であり、(A)成分のシリコーン高分子化合物を繊維へ吸着させる効果を有するものである。カチオン性を有する水溶性高分子化合物としては、水に溶解した時にカチオン性を有するものが使用し得るが、特にカチオン性を有する水溶性高分子化合物としては、アミノ基、アミン基、第4級アンモニウム基から選ばれる1種以上のカチオン性基を有する水溶性高分子化合物が好ましい。低分子量のカチオン性界面活性剤に比べて、香料成分を繊維表面に吸着させる効果が高いので好ましい。
(B)成分のカチオン性を有する水溶性高分子化合物は、カチオン化度が0.1%以上のものが好ましく、例えば0.1?35であるのがよく、特に1.5%以上が好ましく、例えば2.0?15であるのがよい。カチオン化度がこのような条件を満たすことにより、共存するシリコーン高分子化合物を繊維へ吸着させる効果を優秀なものとすることができ、かつ、多量の配合が必要となって経済的でないケースを防止することができる。」

(g3)
「【0019】
(B)成分の水溶性高分子は、ポリエチレングリコールを標準物質としてゲルパーメーションクロマトグラフィ法で測定される重量平均分子量が、1,000?5,000,000であることが好ましく、より好ましくは3,000?1,000,000であり、さらに好ましくは5,000?500,000である。これにより臭気を良好に防止することができ、かつ、粘度の上昇を抑えて使用性を優秀なものとすることが可能となる。
(B)成分の例としては、マーコート(MERQUAT)100(ナルコ(NALCO)社製)、アデカカチオエースPD-50(旭電化工業(株))、ダイドールEC-004、ダイドールHEC、ダイドールEC(大同化成工業(株)製)等の塩化ジメチルジアリルアンモニウムの重合体、マーコート(MERQUAT)550、JL5(ナルコ(NALCO)社製)等の塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体、マーコート(MERQUAT)280(ナルコ(NALCO)社製)等の塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体、レオガードKGP(ライオン(株)製)等のカチオン化セルロース、ルビカット(LUVIQUAT)-FC905(B・A・S・F社製)等の塩化イミダゾリニウム・ビニルピロリドン共重体、ルガルバン(LUGALVAN)-G15000(B・A・S・F社製)等のポリエチレンイミン、ポバールCM318((株)クラレ製)等のカチオン化ポリビニルアルコール、キトサン等のアミノ基を有する天然系の高分子誘導体、ジエチルアミノメタクリレート・エチレンオキシド等が付加された親水基を有するビニルモノマーとの共重合体等が挙げられるが、水に溶解時にカチオン性を有する高分子化合物であればよく、本例に限定されるものではない。
この中で、シリコーンの付与する柔軟性などの風合いを妨げない観点から、(B)成分単独で吸着した時に繊維に付与する剛性の小さいものが好ましい。塩化ジメチルジアリルアンモニウムの重合体、塩化イミダゾリニウム・ビニルピロリドン共重体、カチオン化セルロースが好ましい。
特に好ましい高分子としては、下記一般式(IV)に示すジメチルジアリルアンモニウム塩を重合して得られるカチオン性高分子である。この高分子の構造は、通常、下記一般式(V)又は下記一般式(VI)で表わされる。また、一般式(V)の構造単位と一般式(VI)の構造単位が共に含まれていてもよい。」

H.引用例Hに記載の事項
(h1)
「【請求項1】
下記(A)、(B)及び(C)成分を含み、且つ(B)と(C)との荷電モル比(B):(C)=1.0:0.1?1.0:1.0の範囲内であることを特徴とする繊維製品用液体仕上げ剤組成物:
(A)シリコーン化合物、
(B)カチオン性を有する水溶性高分子化合物、
(C)アニオン性界面活性剤。」

(h2)
「【0015】
[(B)成分:カチオン性を有する水溶性高分子化合物]
本発明において、(B)成分は、(A)成分のシリコーン化合物及び(C)成分のアニオン性界面活性剤との複合体を形成し、繊維製品表面への(A)及び(C)の吸着量を増大させ、繊維製品に対する滑り性と帯電防止性とを向上することができる。
本発明において用いることのできるカチオン性を有する水溶性高分子化合物としては、水に溶解させたときに化合物全体として正に帯電するものである。つまり、カチオン性を有する水溶性高分子化合物を構成するモノマーとしては、カチオン性基のみを有するカチオン性モノマーだけでなく、アニオン性基のみを有するアニオン性モノマーもノニオン性基のみを有するノニオン性モノマーも利用できるが、化合物の荷電の総和が正であるものである。(B)成分としては、アミノ基、アミン基、第4級アンモニウム基から選ばれる1種以上のカチオン性基を有する水溶性高分子化合物が好ましい。尚、本発明において、水溶性高分子とは25℃の水100gに対し、高分子化合物1.0gを加えたときに、その液が濁らず透明であるものをいう。」

(h3)
「【0018】
(B)成分の例としては、MERQUAT100(NALCO社製)、アデカカチオエースPD-50(旭電化工業製)、ダイドールEC-004、ダイドールHEC、ダイドールEC(大同化成工業製)等の塩化ジメチルジアリルアンモニウムの重合体、MERQUAT550 JL5(NALCO社製)等の塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体、MERQUAT280(NALCO社製)等の塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体、レオガードMGP(ライオン製)、レオガードKGP(ライオン製)等のカチオン化セルロース、LUVIQUAT-FC905(BASF社製)等の塩化イミダゾリニウム・ビニルピロリドン共重体、LUGALVAN-G15000(BASF社製)等のポリエチレンイミン、ポバールCM318(クラレ製)等のカチオン化ポリビニルアルコール、キトサン等のアミノ基を有する天然系の高分子誘導体、ジエチルアミノメタクリレート・エチレンオキシド等が付加された親水基を有するビニルモノマーとの共重合体等が挙げられる。
このうち、塩化ジメチルジアリルアンモニウムの重合体、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリル酸共重合体、カチオン化セルロース、カチオン化ポリビニルアルコールが好ましい。
シリコーンの付与する滑り性や柔軟性などの風合いを妨げない観点から、(B)成分単独で吸着した時に繊維に対してあまり剛性を与えないものが好ましい。」

(h4)
「【0025】
[(C)成分:アニオン性界面活性剤]
本発明の組成物の(C)成分は、アニオン界面活性剤である。(C)アニオン界面活性剤と(B)成分は、多くの水を抱え込んだ複合体を形成して繊維に吸着することで、繊維に優れた帯電防止効果を付与することが可能となる。(C)成分を、(B)成分に対し、荷電モル比にして一定比率で添加することにより、(A)+(B)の2成分のみの場合に比較して、特に化繊に対する滑り性や帯電防止性を一段と向上することができる。」

(3) 引用例Aに記載された発明

ア. 上記摘示事項(a1)によれば、引用例Aには、「水に溶解して過酸化水素を発生する過酸化物(A)と、配位座が5以下のキレート剤(B)と、銅化合物(C)と、プロテアーゼ(D)と、アニオン界面活性剤(F)とを含有する粉末漂白性組成物」が記載されているといえる。

イ. 上記摘示事項(a3)によれば、引用例Aの「配位座が5以下のキレート剤(B)」は、「アミノポリカルボン酸類」で良いことが理解される(上記摘示事項(a6)の段落【0146】によれば、実際、実施例では、「3-ヒドロキシ-2,2’-イミノジコハク酸4ナトリウム」、「2,2’-イミノジコハク酸4ナトリウム」、「メチルグリシンジ酢酸3ナトリウム」といったアミノポリカルボン酸類が、「配位座が5以下のキレート剤(B)」として用いられている。)。

ウ. 上記摘示事項(a2)によれば、引用例Aの粉末漂白性組成物は、「被洗物を使用している間に発生する臭いを防臭する効果に優れた」ものであるところ、上記摘示事項(a5)によれば、被洗物とは、「タオル等の洗濯物」であることが理解される。

上記アないしウの検討事項より、引用例Aには、
「水に溶解して過酸化水素を発生する過酸化物(A)と、アミノポリカルボン酸類で良い配位座が5以下のキレート剤(B)と、銅化合物(C)と、プロテアーゼ(D)と、アニオン界面活性剤(F)とを含有する、タオル等の洗濯物を使用している間に発生する臭いを防臭する効果に優れた粉末漂白性組成物。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(4) 対比・検討

(4-1) 本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比する。
○引用発明の「タオル等の洗濯物を使用している間に発生する臭いを防臭する効果に優れた粉末漂白性組成物」は、本件発明1の「繊維製品用洗浄剤」に相当する。

○引用発明の「アニオン界面活性剤(F)」は、本件発明1の「アニオン界面活性剤(A)」に相当する。

○引用発明の「銅化合物(C)」は、銅を含むものであるから、本件発明1の「銅及び亜鉛から選択される少なくとも1種(B)」が、「銅(B)」である場合に重複する。

○引用発明の「アミノポリカルボン酸類で良い配位座が5以下のキレート剤(B)」と本件発明1の「(B)成分と錯体を形成するアミノカルボン酸型金属イオン封鎖剤(C)」とは、「銅(B)と錯体(キレート)を形成するアミノカルボン酸型金属封鎖剤(C)」である場合に重複する(実際に、引用例Aの実施例と本件特許明細書の実施例で、MGDA(メチルグリシンジ酢酸3ナトリウム)という共通の化合物が用いられている。)。

上記より、本件発明1と引用発明とは、
「アニオン界面活性剤(A)と、銅(B)と、前記(B)成分と錯体を形成するアミノカルボン酸型金属イオン封鎖剤(C)とを含有する繊維製品用洗浄剤」である場合を含む点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
本件発明1では、さらに「カチオン化セルロール(D)」が含有されることが特定されているのに対し、引用発明では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点>について
引用発明は、「タオル等の洗濯物を使用している間に発生する臭いを防臭する効果に優れた粉末漂白性組成物」であるところ、上記摘示事項(a5)によれば、「洗濯処理後または漂白処理後、前記金属錯体が被洗物に吸着して抗菌効果および殺菌・除菌効果を発揮すると考えられ」ていることからして、洗濯処理後または漂白処理後、(B)成分と(C)成分より形成される金属錯体(銅錯体)が被洗物により多く吸着していれば、それだけ、洗濯物を使用している間に発生する臭いを防臭する効果に優れるであろうことは、当業者にとって容易に理解し得ることである。
そして、上記摘示事項(b1)ないし(b3)によれば、陽イオン性セルロース等の送達向上剤は、水不溶性布地ケア有益剤及び負の電荷を有する織物繊維に対して強い物理的結合能力を有しているので、織物繊維への水不溶性布地ケア有益剤の付着を向上させられることが記載されており、また、上記摘示事項(c1)ないし(c3)によれば、カチオン化セルロース等の繊維吸着性物質を含有させることで、機能性物質を保持したシリカ粒子を衣服(繊維)に付着させて、衣類に対して非常に優れた効果をもたらせられることが記載されており、また、上記摘示事項(d1)、(d2)によれば、カチオン性セルロースを含有させることで、カチオン性セルロースと共にアスコルビン酸脂肪酸エステル(B)が衣類に吸着し、(B)成分の衣類への吸着性が高まることが記載されており、さらに、上記摘示事項(e1)、(e2)によれば、カチオン化セルロースが、被洗物へのキトサンの吸着を促進させることが記載されており、上記摘示事項(f1)ないし(f3)によれば、カチオン化セルロース等のカチオン性を有する水溶性高分子化合物は、シリコーン化合物と水溶性蛍光増白剤、すなわち、水溶性物質を繊維へ吸着させる効果を有することが記載されており、上記摘示事項(g1)ないし(g3)によれば、カチオン化セルロース等のカチオン性を有する水溶性高分子化合物が、シリコーン高分子化合物を繊維へ吸着させる効果を有することが記載されており、さらに、上記摘示事項(h1)ないし(h4)によれば、カチオン化セルロース等のカチオン性を有する水溶性高分子化合物は、シリコーン化合物及びアニオン性界面活性剤との複合体を形成し、繊維製品表面へのシリコーン及びアニオン性界面活性剤の吸着量を増大させるとともに、アニオン界面活性剤とともに多くの水を抱え込んだ複合体を形成して繊維に吸着することで、繊維に優れた帯電防止効果を付与することが記載されていることからして、カチオン化セルロースが、水溶性/水不溶性を問わず、各種の機能成分の繊維への吸着性の向上に寄与することは、本願出願前、周知の技術的知見であったと認められる。
しかるに、引用発明において、金属錯体を被洗物により多く吸着させたいという課題は、当業者にとって自明であるといえるところ、水溶性物質を含む各種の機能性分を繊維に吸着させる目的でカチオン化セルロースを併用することが周知・慣用技術であると認められ、そして、当該周知・慣用技術を引用発明に適用することを妨げる阻害要因は認められない。
しかしながら、金属錯体の繊維への吸着向上を目的として、カチオン化セルロースを用いた従来技術は見出せない。また、カチオン化セルロースを用いることで金属錯体の繊維への吸着向上を図ることが当業者に既知の技術事項と認めるに足る証拠も見当たらない。したがって、上記課題を解決するために、カチオン化セルロースを用いようとする直接的・積極的な動機も認められない。

<有利な効果>について
本願発明の効果は、本件特許明細書の段落【0008】等を参照すれば、「幅広い臭気を消臭できる」点であると認められる。
そして、本件特許明細書の【実施例】(段落【0140】以降)を参照すると、
「【0155】
また、比較例1から(C)成分及び(D)成分を除いた洗浄剤(基準洗浄剤)を用い、各例の繊維洗品用洗浄剤と同様にして、半裁された他方の被洗物(計10枚)を洗浄した。こうして、基準洗浄剤により洗浄された基準布を得た。
得られた臭気評価布及び基準布について、下記4つのシーンで、10名の専門パネラーが、臭気評価布と、これと対になる基準布との臭気(悪臭)を比較して、下記評価基準に従って評価した。パネラー10名の評価点の合計を下記の消臭効果の判断基準に分類し、消臭評価とした。
下記の4つのシーンでの消臭効果を確認することにより、洗浄後から使用後洗浄前に至るまでに生じる様々な悪臭に対する消臭効果を確認した。
【0156】
なお、悪臭の種類としては、以下のものが挙げられ、シーン毎に、これらの悪臭の種類や構成バランスが異なると考えられる。
(1)洗浄で除去・消臭し切れなかった脂肪酸、アルデヒド、チオール系、アミン系等が混合した悪臭。
(2)室内干しによる微生物の増殖によって生じる中鎖脂肪酸系及びアミン系の臭気が主体の悪臭(洗浄時に取りきれず残ってしまった微量の皮脂(脂質及びタンパク質)を微生物が代謝することで生じると推定)。
(3)中鎖脂肪酸系臭気を主体とする乾燥後にも残留する悪臭。
(4)アミン系の臭気成分を主体とする生臭い悪臭(被洗物に付着したタンパク質を基質とし微生物により代謝されると推定)。
【0157】
≪消臭評価を行ったシーン≫
シーン1:洗浄終了直後、洗濯機から取り出した時。
シーン2:洗浄終了後に、約28℃、相対湿度90%RHの室内に干して8時間乾燥を行った後。
シーン3:シーン2の乾燥後、約20℃、相対湿度45%RHの室内に移し、8時間乾燥を行った後。
シーン4:洗浄終了後に、約20℃、相対湿度45%RHの室内にて1日乾燥し、対になる臭気評価布同士又は基準布同士をつなぎ合わせ、洗浄せずに家庭で3日間使用した。その後、半裁し、別々にチャック付ポリ袋に入れた状態で回収、25℃の条件で2日間保管(洗浄前の繊維製品の洗濯前のため込み(汚れがタオルに付着している状態での放置)を想定)した後。
【0158】
≪消臭効果の評価基準≫
+1点:臭気評価布から感知される悪臭が、基準布から感知される悪臭よりも相対的に弱い(基準洗浄剤に比べて、各例の繊維製品用洗浄剤の消臭効果が総じて高い)。
0点:臭気評価布から感知される悪臭と、基準布から感知される悪臭とに差異が殆どない(基準洗浄剤と各例の繊維製品用洗浄剤との消臭効果が略同等である)。
-1点:臭気評価布から感知される悪臭が、基準布から感知される悪臭よりも相対的に強い(基準洗浄剤に比べて、各例の繊維製品用洗浄剤の消臭効果が総じて低い)。
【0159】
≪判断基準≫
◎◎:10名の合計点数が10点。
◎:10名の合計点数が8又は9点。
○:10名の合計点数が5?7点。
△:10名の合計点数が2?4点。
×:10名の合計点数が1点以下。」
「【0163】
【表1】

【0164】
【表2】

【0165】
【表3】

【0166】
【表4】

」との実験結果が開示されており、消臭効果に関し、本件発明1の(A)成分?(D)成分を全て含む実施例1ないし17では、総合点が27?37であるのに対し、引用発明と同様に、カチオン化セルロース(D)を含まない〔(A)成分?(C)成分を含む〕比較例4、7、8では、総合点が9?10であり、効果に差異が生じることが確認されている。また、金属錯体(B),(C)とカチオン化セルロース(D)を含むが、アニオン界面活性剤(A)を含まない比較例9の総合点は5とさらに低くなっている。
確かに、引用発明でも、上記摘示事項(a5)で、「(B)成分は、例えば洗濯処理時または漂白処理時において、(C)成分と金属錯体(銅錯体)を形成し、・・・、前記金属錯体が被洗物に吸着して抗菌効果および殺菌・除菌効果を発揮する」と記載されているように、金属錯体により(殺菌・除菌に基づく)消臭効果が奏されており、また、上記摘示事項(a4)で、「(アニオン界面活性剤)を用いることにより、・・・被洗物を使用している間に発生する臭いを防臭する効果も効果的に得られる」(段落【0061】)、「(アニオン界面活性剤)の割合が下限値以上であると、・・・被洗物を使用している間に発生する臭いを防臭する効果が向上する」(段落【0064】)と記載されているように、引用発明でも、本件発明1における(A)成分に相当するアニオン界面活性剤が消臭効果の向上に寄与することが認識されているから、金属錯体単独よりも、金属錯体とアニオン界面活性剤を併用することで、消臭効果が高まるとの知見が本願出願前公知であったことが理解される。また、上記「<相違点>について」で検討したように、カチオン化セルロースを併用することで、水溶性成分を含む機能成分の吸着促進が図れることは周知・慣用技術であり、そして、金属錯体の吸着が促進されれば消臭効果が向上することも自明である。
しかしながら、上述のとおり、本件特許明細書によれば、アニオン界面活性剤(A)を含むがカチオン化セルロース(D)を含まない比較例4、7、8、及び、カチオン化セルロース(D)を含むがアニオン界面活性剤(A)を含まない比較例9と比較して、いずれの実施例も、消臭効果が顕著に優れるものであり、アニオン界面活性剤(A)、カチオン化セルロース(D)それぞれが消臭効果の向上に寄与することが公知であるとして、実施例で確認されている顕著な効果は、アニオン界面活性剤(A)を含む「比較例4、7、8」とカチオン化セルロース(D)を含む「比較例9」がそれぞれ有する効果の加算を超えているといえ、当業者といえども、予期し得ないものと認められる。

上記検討結果を総合的に勘案すれば、本件発明1は、カチオン化セルロースを用いて機能成分の繊維への吸着向上を図るという周知・慣用技術を考慮しても、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4-2) 本件発明2ないし4について

本件発明2ないし4は、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明2ないし4も本件発明1と同様の理由により、引用発明に基いて容易に発明をすることができたものでない。

(5) 結論

よって、本件発明1ないし4は、引用発明に基いても容易に発明をすることができたものでない。

2.取消理由2(特許法第36条第6項第1号の規定について)

本件特許が解決しようとする技術課題は、本件特許明細書の段落【0005】等を参照すれば、「幅広い臭気を消臭できる繊維製品用洗浄剤」の提供にあると認められるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例で、(B)成分として銅と亜鉛を用いた場合について、その効果が実際に確認されている。

申立人は、平成29年3月17日付け意見書の2?3頁の「(2)取消理由(サポート要件違反)に関する申立人の意見」において、(B)成分が、銅及び亜鉛から選択される少なくとも1種と単に成分を特定するだけで、その配合量や、(B)成分の金属と錯体を形成するアミノカルボン酸型金属イオン封鎖剤(C)の配合割合を規定しなければ、本件特許明細書から読み取れる作用効果を奏し得る範囲と比較して、広範に規定がなされることになる旨主張している。
確かに、本件特許明細書段落【0058】?【0059】に、
「【0058】
繊維製品用洗浄剤中の(B)成分の含有量は、(B)成分の種類を勘案して決定でき、例えば、0.001?2質量%が好ましい。上記下限値未満であると、消臭効果が不十分になるおそれがあり、上記上限値超としても、消臭効果のさらなる向上が図れないおそれがある。
【0059】
例えば、(B)成分としてマンガンを用いる場合、繊維製品用洗浄剤中のマンガンの含有量は、0.001?0.5質量%が好ましく、0.01?0.3質量%がより好ましく、0.02?0.15質量%がさらに好ましい。上記下限値未満であると、消臭効果が不十分になるおそれがあり、上記上限値超としても、消臭効果のさらなる向上が図れないおそれがあるためである。
あるいは、(B)成分として銅を用いる場合、繊維製品用洗浄剤中の銅の含有量は、0.001?0.5質量%が好ましく、0.01?0.3質量%がより好ましく、0.02?0.15質量%がさらに好ましい。上記下限値未満であると、消臭効果が不十分になるおそれがあり、上記上限値超としても、消臭効果のさらなる向上が図れないおそれがあるためである。
また、例えば、(B)成分として亜鉛を用いる場合、繊維製品用洗浄剤中の亜鉛の含有量は、0.002?2質量%が好ましく、0.02?1質量%がより好ましく、0.05?0.5質量%がさらに好ましい。上記下限値未満であると、消臭効果が不十分になるおそれがあり、上記上限値超としても、消臭効果のさらなる向上が図れないおそれがあるためである。」(当審注:下線は、当審が付した。)
と記載され、そして、同段落【0163】?【0165】の【表1】?【表3】中の実施例1?17では、硫酸亜鉛・1水和物を、亜鉛として0.032?0.094質量%、又は、硫酸銅・5水和物を、銅として0.03質量%となる量で配合した場合の効果が確認されている。
しかしながら、本件発明において、(B)成分は、消臭効果を得るために配合するものであるから、その配合量は、どの程度の消臭効果が得たいかを考慮して任意に決定し得る事項と解するのが妥当であり、実際、実施例・比較例で検討していると認められるのは、(B)成分を含む各成分の有無・組合せと、それによる消臭効果等の作用効果の相違であって、(B)成分の配合量と作用効果との関係ではない。したがって、((B)成分の配合量に適切な範囲があるとしても、)本件請求項1において、(B)成分の配合量を特定することが、上記課題との関係で、発明を特定するために必要な事項であるとは認められない。
また、アミノカルボン酸型金属イオン封鎖剤(C)は、「(B)成分と錯体を形成する」ために配合すると、その配合の目的が特定されていることから、その配合量の範囲もおおよそ特定されているといえ、この点でも、本件請求項1の記載が、広範であるとはいえない。

したがって、(B)成分が銅と亜鉛に限定された本件発明は、上記課題を解決し得るものとして、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえるから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。

イ. 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1.申立理由1及び2(特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定について)

申立理由1及び2は、甲第1号証(引用例B)に記載された発明に基づいて、本件発明1?4の新規性及び進歩性を否定するものである。そして、その主な根拠は、甲第1号証に記載された発明は、上記摘示事項(b4)によれば、本件発明1における(A)成分、(C)成分及び(D)成分を含有する粉末洗剤が開示されており、そして、特許異議申立書の14?15頁によれば、「当該粉末洗剤は当然水道水を使用して用いることが想定されていると考えられることから、粉末洗剤+水道水の組み合わせは甲第1号証に実質的に開示されていると認められる。そして、水道水には必ず「銅、マンガン、ニッケル、鉄及び亜鉛から選択される少なくとも1種」が含まれているので、主たる引用発明を上記粉末洗剤+水道水の組み合せ(甲1発明)と捉えれば、甲第1号証に構成要件Bも含めて本件発明1,2の構成が実質的に開示されていることにな」るというものである。また、同16頁によれば、「主たる引用発明を段落【0052】の実施例3,4の粉末洗剤そのものに限定して考えた場合には、構成要件Bについては相違点に該当する」ものの、「実施例3,4の粉末洗剤の使用時においてそれらの金属を配合することになる以上、使用時には当該粉末洗剤はそれらの金属を含む洗剤として機能することになるのであるから、これらの金属が元々粉末洗剤に含まれていた場合(粉末洗剤自体において既に本件発明1,2の構成を全て充足していた場合)と比較して作用効果が何ら変わらないことになる」というものである。
しかしながら、本件発明1ないし4は、繊維製品洗浄剤の発明であることから、その新規性進歩性の判断は、甲第1号証における「粉末洗剤+水道水の組み合せ」と対比するのではなく、「粉末洗剤」と対比することにより行われるべきところ、甲第1号証の「粉末洗剤」の調製時に「銅、マンガン、ニッケル、鉄及び亜鉛から選択される少なくとも1種」を含ませる動機は見当たらない(特許異議申立人の主張は、あくまでも、粉末洗剤の使用時に関するものである。)。
したがって、甲第1号証に記載された発明に基いて本件発明1ないし4の新規性ないし進歩性を否定することはできない。

2.申立理由4の一部(特許法第36条第4項第1号の規定について)

申立理由4として、委任省令要件違反も挙げられているが、これは、「本件発明は本件明細書等から読み取れる作用効果の奏し得る範囲と比較して明らかに広範な規定がなされており、本件発明の構成の範囲内で所望の効果が得られると当業者において認識できる程度に記載されてい」ないというものである(特許異議申立書の25頁1?4行)。
しかしながら、本件請求項1の記載が、発明の詳細な説明の開示内容から適切なものであることは、上記ア.2.で検討したとおりである。
したがって、本件明細書の記載は、委任省令要件に違反するものでない。

第5 むすび

上述のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由1、2及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によって、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン界面活性剤(A)と、銅及び亜鉛から選択される少なくとも1種(B)と、前記(B)成分と錯体を形成するアミノカルボン酸型金属イオン封鎖剤(C)と、カチオン化セルロース(D)とを含有する繊維製品用洗浄剤。
【請求項2】
前記(D)成分を0.01?3質量%含有する請求項1に記載の繊維製品洗浄剤。
【請求項3】
前記(B)成分/前記(C)成分で表されるモル比は、1/3?5である請求項1又は2に記載の繊維製品用洗浄剤。
【請求項4】
下記一般式(I)で表される有機過酸前駆体(E)と、過酸化水素又は水中で過酸化水素を発生する過酸化物(F)とを含有する請求項1?3のいずれか1項に記載の繊維製品用洗浄剤。
【化1】

[(I)式中、R^(1)は炭素数7?18の直鎖状の脂肪族炭化水素基を表し、Xは水素原子、-COOM又はSO_(3)M(Mは水素原子又は塩形成カチオンを表す。)を表す。]
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-29 
出願番号 特願2011-174920(P2011-174920)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C11D)
P 1 651・ 121- YAA (C11D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井上 恵理  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 岩田 行剛
日比野 隆治
登録日 2015-09-18 
登録番号 特許第5809874号(P5809874)
権利者 ライオン株式会社
発明の名称 繊維製品用洗浄剤  
代理人 高橋 詔男  
代理人 加藤 広之  
代理人 川越 雄一郎  
代理人 志賀 正武  
代理人 高橋 詔男  
代理人 加藤 広之  
代理人 川越 雄一郎  
代理人 志賀 正武  
代理人 鈴木 三義  
代理人 鈴木 三義  

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