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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H02M 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H02M 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 H02M |
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管理番号 | 1327898 |
異議申立番号 | 異議2016-700847 |
総通号数 | 210 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-06-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-09-09 |
確定日 | 2017-04-14 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5895704号発明「電力変換装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5895704号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第5895704号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5895704号の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成24年5月23日を出願日とする出願であって、平成28年3月11日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所により特許異議の申立てがされ、平成28年11月16日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年1月16日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所から平成29年3月2日付けで意見書が提出されたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下のア、イのとおりである(下線は、訂正箇所を示す)。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「上記各スイッチング素子(Sup,…,Swn)に逆並列で接続されて、上記電圧パルスのパルス幅をP、リカバリ時間をRとしたときに、0<R≦(1/10)Pとなる特性を有する還流ダイオード(12)と、を備えている」と記載されているのを、「上記各スイッチング素子(Sup,…,Swn)に逆並列で接続された還流ダイオード(12)と、を備え、上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅をP、上記還流ダイオード(12)のリカバリ時間をRとしたときに、10×R≦Pである」に訂正する。 イ 訂正事項2 願書に添付した明細書の段落【0007】に記載された「上記各スイッチング素子(Sup,…,Swn)に逆並列で接続されて、上記電圧パルスのパルス幅をP、リカバリ時間をRとしたときに、0<R≦(1/10)Pとなる特性を有する還流ダイオード(12)とを備えている」を「上記各スイッチング素子(Sup,…,Swn)に逆並列で接続された還流ダイオード(12)とを備え、上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅をP、上記還流ダイオード(12)のリカバリ時間をRとしたときに、10×R≦Pである」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1について (ア)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 上記訂正事項1は、訂正前の如何なる状況の相電流に応じた電圧の電圧パルスのパルス幅であるのか明りょうでない「上記電圧パルスのパルス幅P」と「還流ダイオード(12)」の特性である「リカバリ時間R」との関係に関する構成を、「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅P」と「還流ダイオード(12)」の特性である「リカバリ時間R」との関係に関する構成とするものであるから、当該訂正事項1は、「電圧パルスのパルス幅」を明確にすることにより、「還流ダイオード(12)」の特徴である「リカバリ時間R」を明確にするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 上記訂正事項1は、「パルス幅」を「検出部(5)が検出する最小のパルス幅」に特定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合するものである。 また、明細書の段落【0003】?【0005】に記載された、「PWM制御(PWM:Pulse Width Modulation)を行っている際にシャント抵抗に生じた電圧パルスを用いて相電流を検出・・・リンギングの影響を受けずに上記相電流検出部で正確に電流を検知できるようにするためには、上記電圧パルスのパルス幅をリンギングの収束時間よりも長く設定し、この収束時間後における上記相電流検出部の検出時間を十分に確保する必要がある・・・このパルス幅はインバータの出力電圧の大きさに関係するが、出力電圧の大きさから設定されるパルス幅に対して、検出時間の制約上そのパルス幅よりも長くする必要がある。この場合には、上記インバータ回路の出力電圧に係る誤差電圧が大きくなってしまう。そして、誤差電圧が大きくなればなるほど、上記モータに対するインバータ回路の制御性が悪くなってしまう」という問題を解決するためには、検出され得る全ての電圧パルスの幅を考慮して十分な検出時間を確保する、すなわち、最も条件が厳しくなる、「最小のパルス幅」を想定して検出時間を確保する必要があることは、当業者には明らかである。 したがって、明細書の上記記載を考慮すれば、「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅をP、上記還流ダイオード(12)のリカバリ時間をRとしたときに、10×R≦Pである」ことは、一義的に導き出すことができ、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に適合するものである。 (イ)特許異議申立人の意見について 特許異議申立人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所は、平成29年3月2日付け意見書において、「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅(P)」は「0(ゼロ)」であり、Pが0(ゼロ)であるということは、リカバリ時間Rは「0(ゼロ)」であることになるが、リカバリ時間Rが0(ゼロ)となることはあり得ず、本件訂正発明1における不等式は成り立たたない。また、「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅」を「パルス幅制限値」と考えると、「10×R≦P」という関係式を満たすPはいくらでも大きくできるから、「電圧パルスのパルス幅の制限値を短くできる」という効果との整合性がとれない。 このように、「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅」が何を意味しているのかは全く不明であり、明細書の記載から一義的に導き出すことができるものではない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものではない旨主張している。(意見書第6頁第13行から第22行までの記載参照。) また、特許異議申立人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所は、上記意見書において、訂正前の請求項1は、還流ダイオードの特性として「上記電圧パルスのパルス幅をP、リカバリ時間をRとしたときに、0<R≦(1/10)Pとなる」と規定しているのに対し、訂正後の請求項1は、還流ダイオードの特性としてではなく、「最小のパルス幅P」なるものと、「還流ダイオードのリカバリ時間R」の関係として「10×R≦P」と規定しており、還流ダイオードの特性だけでなく、「最小のパルス幅P」なるものを調整することにより課題を解決するものも含まれ、また、訂正前の請求項1ではR=0が含まれないことが明白であるが、訂正後の請求項1ではR=0が含まれないことを明白に否定しておらず、実質上特許請求の範囲を拡張するものであり、また、パルス幅Pの定義を「上記電圧パルスのパルス幅」から「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅」と変えており、実質上特許請求の範囲を変更するものでもあり、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものではない旨主張している。(意見書第6頁第23行から第7頁第15行までの記載参照。) (ウ)特許異議申立人の意見についての判断 明細書の段落【0040】に「圧縮機用モータ(6)が最低回転数のときの上記インバータ回路(3)の出力電圧をVm」とする旨、「パルス幅を制限したときに生じる誤差電圧をVe」としたときに、「0<(Ve/Vm)≦(1/10)の関係を満たすように」「パルス幅制限値」は設定される旨が記載されるように、本件は、インバータ回路(3)の出力電圧の下限値として、当該出力が供給される負荷である圧縮機用モータ(6)が最低回転数となる出力電圧Vm又はパルス幅制限値が想定されているものであり、「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅(P)」は、出力電圧Vmに対応したパルス幅、若しくは、パルス幅制限値であり、出力電圧Vmに対応したパルス幅がパルス幅制限値以下となる場合には、パルス幅はパルス幅制限値以下とならないように制限されるのであるから、「0(ゼロ)」であるものとは認められない。 また、「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅」を「パルス幅制限値」と考えると、「10×R≦P」という関係式を満たすPはいくらでも大きくし得るとしても、そのことが直ちに「10×R≦P」という条件式を満たすリカバリ時間の還流ダイオードを用いることでは「電圧パルスのパルス幅の制限値を短くできる」という効果が得られないことを意味するものではなく、例えば、「最小のパルス幅」を所望の値の「パルス幅制限値」に決定した後、上記条件式に従い当該「最小のパルス幅」に対応した還流ダイオードの「リカバリ時間」の上限値を決定することにより、「電圧パルスのパルス幅の制限値」を前記所望の値に短くし得るのであるから、効果との整合性がとれないとはいえない。 したがって、「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅」とは、インバータ回路(3)の出力電圧を最低とした場合の相電流に対応する電圧パルスのパルス幅として明確であり、また、明細書の記載から一義的に導き出すことができるものであり、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に適合する。 さらに、「最小のパルス幅P」は、インバータ回路(3)の出力電圧を最低とするパルス幅であるから、インバータ回路(3)の設計された最低出力の値を変更しなければ変更できないものであり、訂正後の請求項1が「最小のパルス幅P」を調整することにより課題を解決するものを含んでいるものとは認められない。 また、訂正後の請求項1ではR=0が含まれないことを明白に否定していないとしても、ダイオードの特性値としてのリカバリ時間Rが0(ゼロ)より大きいことは当業者には明らかなことであり、実質上条件式の両辺を10倍したにすぎないものであって、特許請求の範囲を拡張するものではない。 そして、「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅」は、「上記電圧パルスのパルス幅」を限定したものであるから、パルス幅Pの定義を「上記電圧パルスのパルス幅」から「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅」としても、実質上特許請求の範囲を変更するものとはいえない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合する。 イ 訂正事項2について 訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために、願書に添付した明細書の段落【0007】に記載された「上記各スイッチング素子(Sup,…,Swn)に逆並列で接続されて、上記電圧パルスのパルス幅をP、リカバリ時間をRとしたときに、0<R≦(1/10)Pとなる特性を有する還流ダイオード(12)とを備えている」を「上記各スイッチング素子(Sup,…,Swn)に逆並列で接続された還流ダイオード(12)とを備え、上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅をP、上記還流ダイオード(12)のリカバリ時間をRとしたときに、10×R≦Pである」に訂正するものである。 そして、上記訂正事項1の内容が、上記2.(2)アに示したとおり、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項、第5項に適合するものであるから、上記訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項、第5項に適合するものである。 ウ 一群の請求項の適否 請求項2,4?9は請求項1を直接引用し、請求項3は請求項2を介して請求項1を引用しているから、訂正前の請求項1?9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当するものであり、これらの訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-9〕についての訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?9に係る発明(以下、「本件発明1?9」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 複数のスイッチング素子(Sup,…,Swn)のスイッチング状態をそれぞれ変化させて直流を交流に変換するインバータ回路(3)と、 上記インバータ回路(3)における出力交流の相電流に応じた電圧の電圧パルスを出力するシャント抵抗(R)と、 上記電圧パルスに基いて上記相電流を検出する検出部(5)と、 上記各スイッチング素子(Sup,…,Swn)に逆並列で接続された還流ダイオード(12)と、 を備え、 上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅をP、上記還流ダイオード(12)のリカバリ時間をRとしたときに、10×R≦Pであることを特徴とする電力変換装置。 【請求項2】 請求項1において、 上記インバータ回路(3)には圧縮機用モータ(6)が接続される一方、 上記インバータ回路(3)の出力電圧指令に応じて設定されるパルス幅設定値をパルス幅制限値で制限するパルス幅制限部(8)と、 上記圧縮機用モータ(6)が最低回転数のときの上記インバータ回路(3)の出力電圧をVmとし、上記パルス幅制限部(8)でパルス幅を制限したときに生じる誤差電圧をVeとしたしたときに、0<(Ve/Vm)≦(1/10)の関係を満たすように、最低回転数又はパルス幅制限値が設定されていることを特徴とする電力変換装置。 【請求項3】 請求項2において、 上記パルス幅制限値をT’とし、上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)に係るキャリア周期をT1とし、上記インバータ回路(3)の入力電圧をVdcとしたときに、上記誤差電圧であるVeを、 Ve=(T’)/(T1/2)×Vdcとして、上記最低回転数又は上記パルス幅制限値が設定されていることを特徴とする電力変換装置。 【請求項4】 請求項1から3の何れか1つにおいて、 上記シャント抵抗(R)は、上記インバータ回路(3)における負側の直流母線(N)と、上記直流を出力する直流電源(2)との間に設けられていることを特徴とする電力変換装置。 【請求項5】 請求項1から3の何れか1つにおいて、 上記シャント抵抗(R1,R2,R3)は、上記インバータ回路(3)を構成する複数のスイッチングレグ(leg1,leg2,leg3)にそれぞれ直列に接続されていることを特徴とする電力変換装置。 【請求項6】 請求項1から5の何れか1つにおいて、 上記還流ダイオード(12)はSiC-SBDであることを特徴とする電力変換装置。 【請求項7】 請求項1から5の何れか1つにおいて、 上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)はSiC-MOSFETであり、上記還流ダイオード(12)はSiC-MOSFETの寄生ダイオードであることを特徴とする電力変換装置。 【請求項8】 請求項1から5の何れか1つにおいて、 上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)はSiC-JFETであり、上記還流ダイオード(12)はSiC-JFETの寄生ダイオードであることを特徴とする電力変換装置。 【請求項9】 請求項1から5の何れか1つにおいて、 上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)はSi-IGBTであり、上記還流ダイオード(12)はSi-FRDであることを特徴とする電力変換装置。」 (2)取消理由の概要 訂正前の請求項1?9に係る特許に対して平成28年11月16日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。 本件特許は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号、第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 ア 請求項1に「上記各スイッチング素子(Sup,…,Swn)に逆並列で接続されて、上記電圧パルスのパルス幅をP、リカバリ時間をRとしたときに、0<R≦(1/10)Pとなる特性を有する還流ダイオード(12)」と記載されているとおり、請求項1に係る発明は、「上記電圧パルスのパルス幅をP、リカバリ時間をRとしたときに、0<R≦(1/10)Pとなる特性を有する」として、還流ダイオード(12)の特性を定義している。ここで、「上記電圧パルス」は、請求項1に係る発明が、「上記インバータ回路(3)における出力交流の相電流に応じた電圧の電圧パルスを出力するシャント抵抗(R)」という構成を有するものであることから、本来的に、スイッチング素子のオン・オフの制御(PWM制御)によって変化するものである。しかし、還流ダイオードのリカバリ時間は、個々の還流ダイオードが備える固定の値(固定値)である。よって、状況に応じて変化する値で、固定値を特定するというのは本来的におかしく、どの時間における、どの状況におけるパルス幅Pとリカバリ時間Rとの関係を特定するものなのか、請求項1に係る発明の構成のみでは、当業者が把握することはできない。(特許異議申立書第4頁第3行から第13行までの記載参照。) 上記請求項1に係る発明の「上記電圧パルスのパルス幅をP、リカバリ時間をRとしたときに、0<R≦(1/10)P」という関係式に関しては、発明の詳細な説明の段落【0035】に、「このインバータ回路(3)では、スイッチング素子(Sup,…,Swn)は、Si-IGBT(Si:Silicon、IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)である。又、このインバータ回路(3)では、上記還流ダイオード(1)が、Si-FRD(Si:Silicon、FRD:Fast Recovery Diode)である。尚、この還流ダイオード(1)は、上記電圧パルスのパルス幅をP、リカバリ時間をRとしたときに、0<R≦(1/10)Pとなる特性を有するものである。」と記載されるのみであり、他に記載は存在しない。すなわち、発明の詳細な説明には、R≦(1/10)Pの意議、原理、1/10の数字的根拠は全く存在していない。(特許異議申立書第4頁第15行から第21行までの記載参照。) したがって、請求項1に係る発明の「上記電圧パルスのパルス幅をP、リカバリ時間をRとしたときに、0<R≦(1/10)Pとなる特性を有する還流ダイオード(12)」は技術的に不明確であり、本件の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 イ また、本件特許は、発明の詳細な説明の段落【0005】に記載された「しかしながら、このパルス幅はインバータの出力電圧の大きさに関係するが、出力電圧の大きさから設定されるパルス幅に対して、検出時間の制約上そのパルス幅よりも長くする必要がある。この場合には、上記インバータ回路の出力電圧に係る誤差電圧が大きくなってしまう。そして、誤差電圧が大きくなればなるほど、上記モータに対するインバータ回路の制御性が悪くなってしまうという問題がある。」という課題を解決し、段落【0022】に記載された「本発明によれば、リカバリ時間の短い還流ダイオード(12)を用いることによって上記リンギング時間を短くすることができる。そして、このリンギング時間が短くなった分だけ、上記電圧パルスのパルス幅の制限値を短くできるので、上述した誤差電圧が低減され上記インバータ回路(3)の電圧をより正確に検知することができる。これにより、上記インバータ回路(3)の制御性を向上させることができる。」という効果を得るものであるが、上記のように、「上記電圧パルスのパルス幅をP、リカバリ時間をRとしたときに、0<R≦(1/10)Pとなる特性を有する還流ダイオード(12)」は技術的に不明確であることに加え、リンギング収束時間は還流ダイオードのリカバリ時間だけでなく、回路に寄生するインダクタンス成分・容量成分やスナバ回路による影響も大きく受ける為、還流ダイオードのリカバリ時間だけでリンギング収束時間が決まるというものではない。(特許異議申立書第7頁第11行から第15行までの記載参照。) よって、本件の請求項1に係る発明により、課題が解決し得るものと当業者は認識することができず、本件の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 請求項1に従属する請求項2?9に係る発明も、請求項1に係る発明と同様に、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 ウ 上記したとおり、発明の詳細な説明には、段落【0035】に「このインバータ回路(3)では、スイッチング素子(Sup,…,Swn)は、Si-IGBT(Si:Silicon、IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)である。又、このインバータ回路(3)では、上記還流ダイオード(1)が、Si-FRD(Si:Silicon、FRD:Fast Recovery Diode)である。尚、この還流ダイオード(1)は、上記電圧パルスのパルス幅をP、リカバリ時間をRとしたときに、0<R≦(1/10)Pとなる特性を有するものである。」との記載があるのみで、パルス幅の具体的な値、リカバリ時間の具体的な値の記載はなく、さらに、R≦(1/10)Pの意議、原理、1/10の数字的根拠は全く存在していないから、請求項1に係る発明の「上記各スイッチング素子(Sup,…,Swn)に逆並列で接続されて、上記電圧パルスのパルス幅をP、リカバリ時間をRとしたときに、0<R≦(1/10)Pとなる特性を有する還流ダイオード(12)」なる構成の技術的意議は、発明の詳細な説明、図面を参酌しても当業者は理解することがでず、リカバリ時間をどのような値にすれば、課題が解決し得るのか、当業者が理解し得るとは認められない。 また、リンギング収束時間は還流ダイオードのリカバリ時間だけでなく、回路に寄生するインダクタンス成分・容量成分やスナバ回路による影響も大きく受ける為、還流ダイオードのリカバリ時間だけでリンギング収束時間が決まるというものではないから、本件の請求項1に係る発明により、課題が解決し得るものとは認められない。 したがって、当業者は、発明の詳細な説明、図面に基づき請求項1に係る発明を実施することはできず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 請求項1に従属する請求項2?9に係る発明も、請求項1に係る発明と同様に、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要 特許異議申立人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所は、上記取消理由以外に、概略以下の理由を申し立てていた。 本件特許発明1の構成は、「電圧パルスのパルス幅」を「パルス幅制限値」として、「上記電圧パルスのパルス幅制限値をP、リカバリ時間をRとしたときに、0<R≦(1/10)Pとなる特性を有する還流ダイオード(12)」と見ることができるが、リカバリ時間Rが長い還流ダイオードを用いて、パルス幅制限値Pとしてリンギング時間に応じてR×10以上となる大きな値を設定した場合でも、上記条件式0<R≦(1/10)Pを満たすから、明細書の段落【0022】の「リカバリ時間の短い還流ダイオード(12)を用いることによって上記リンギング時間を短くすることができ・・・リンギング時間が短くなった分だけ、上記電圧パルスのパルス幅の制限値を短くできる」という発明の効果の記載との整合性がとれなくなり、上記条件式を満たすリカバリ時間Rとパルス幅制限値Pを選んだとしても、明細書の段落【0005】の課題は依然として存在したままとなる。(特許異議申立書第6頁下から5行から第8頁第12行までの記載参照。) また、リンギングは還流ダイオードのリカバリ電流だけでなく、回路に寄生するインダクタンス成分・容量成分やスナバ回路による影響も大きく受ける為、上記条件式を満たすパルス幅制限値がリンギング収束時間未満になる場合も有り得る。(特許異議申立書第8頁第13行から第19行までの記載参照。) さらに、上記条件式中で、還流ダイオードのリカバリ時間とパルス幅制限値との関係が決定されてしまうことになるから、上記条件式の構成としたことで、その結果として、パルス幅制限値が短くできるという段落【0022】の記載と整合しなくなる。(特許異議申立書第8頁第20行から第27行までの記載参照。) よって、本件特許発明1の構成の「電圧パルスのパルス幅」をパルス幅制限値と考えることはできず、「電圧パルスのパルス幅」が何を意味するのか当業者は理解することができず、本件特許発明1の「上記電圧パルスのパルス幅をP、リカバリ時間をRとしたときに、0<R≦(1/10)Pとなる特性を有する還流ダイオード(12)」は技術的に不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、本件特許発明1により課題を解決するものと当業者は認識することはできないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 請求項1に従属する本件発明2?9も、本件発明1と同様に不明確であり、かつ、課題を解決するものとは当業者は認識することはできないので、特許法第36条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない。(特許異議申立書第9頁第8行から第21行までの記載参照。) (4)判断 ア 取消理由通知に記載した取消理由について (ア)取消理由通知中のアについて 本件発明1は、「上記各スイッチング素子(Sup,…,Swn)に逆並列で接続された還流ダイオード(12)と、を備え、 上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅をP、上記還流ダイオード(12)のリカバリ時間をRとしたときに、10×R≦Pである」という構成を有するものである。 上記2.(2)ア(ウ)で述べたように、明細書の段落【0040】の記載を考慮すれば、本件発明1の「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのうちで最小のパルス幅」は、「圧縮機用モータ(6)が最低回転数のときの上記インバータ回路(3)の出力電圧をVm」としたときの出力電圧Vmに対応したパルス幅、若しくは「パルス幅制限値」であり、「最小のパルス幅」は設計の段階で設定が可能な固定値である。 そして、本件発明1の上記構成は、固定値である当該「最小のパルス幅P」と「還流ダイオード(12)のリカバリ時間R」との関係を特定するものであるから、請求項1の記載よりそれらの関係を当業者が明確に把握可能なものと認められる。 また、上記条件式より、当業者は、最小のパルス幅の10分の1以下のリカバリ時間で動作可能なダイオードを還流ダイオードとして用いることが明確に把握できるから、本件発明1は技術的に不明確であるとは言えない。 したがって、本件発明1は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 (イ)取消理由通知中のイについて 上記(ア)で述べたように、本件発明1の上記条件式より、当業者は、最小のパルス幅の10分の1以下のリカバリ時間で動作可能なダイオードを還流ダイオードとして用いることが明確に把握できるから、本件発明1は技術的に不明確であるとは言えない。 また、還流ダイオードのリカバリ時間だけでリンギング収束時間が決まるものではないとしても、リカバリ時間はリンギング収束時間が決まる主要なパラメータの一つであり、リンギング発生時に、リンギング収束時間に影響を与える他の要因を一定とした場合に、リカバリ時間を短くすることによりリンギング収束時間を短縮し得ることは、当業者には明らかである。 したがって、本件発明1により、課題を解決し得るものとは当業者は認識することができないとはいえず、本件発明1は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 請求項1に従属する本件発明2?9も、本件発明1と同様に、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 (ウ)取消理由通知中のウについて 上記(ア)で述べたように、本件発明1の上記条件式より、当業者は、最小のパルス幅の10分の1以下のリカバリ時間で動作可能なダイオードを還流ダイオードとして用いることが明確に把握できる。 また、上記(イ)で述べたように、リカバリ時間を短くすることによりリンギング収束時間を短縮し得ることは、当業者には明らかである。 したがって、当業者は、発明の詳細な説明、図面に基づき本件特許1を実施することはできないとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 請求項1に従属する本件発明2?9も、本件発明1と同様に、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 イ 特許異議申立人の意見について 特許異議申立人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所は、平成29年3月2日付け意見書において、以下(ア)?(ウ)の主張をしている。 (ア)「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅」は「0(ゼロ)」であり、Pが0(ゼロ)であるということは、リカバリ時間Rは「0(ゼロ)」であるということになるが、リカバリ時間Rが「0(ゼロ)」となることはあり得ず、「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルス」をシャント抵抗(R)に生じる全ての電圧パルスと考えると、「10×R≦P」という式は成り立たない。(意見書第2頁下から3行から第3頁第14行までの記載参照。) また、「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅」を「パルス幅制限値」と考えると、発明の詳細な説明の段落【0022】に記載された効果との整合性がとれない。(意見書第3頁第15行から第4頁第2行までの記載参照。) したがって、本件発明1の「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅をP、上記還流ダイオード(12)のリカバリ時間をRとしたときに、10×R≦Pである」という構成は技術的に不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 (イ)リカバリ時間が、リンギング収束時間が延びる一因であるとは限らず、特開2003-152198号公報(甲第1号証)に、リカバリ時間が同じであるにもかかわらず、リンギングが発生したり、発生しなかったりすることが示されているように、リンギング時間は、還流ダイオードの素子構造によってもかわり、リカバリ時間を短くするからといってリンギング収束時間を短縮できるとは限らない。(意見書第4頁第12行から第20行までの記載参照。) したがって、当業者は、本件発明1により課題が解決し得るものと認識することができず、本件発明1は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 請求項1に従属する本件発明2?9も、本件発明1と同様に、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 (ウ)発明の詳細な説明には、最小のパルス幅の具体的な値、リカバリ時間の具体的な値の記載はなく、10×R≦Pの意義、原理、「10」の数字的根拠も全く記載されておらず、「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅」の意味するところを当業者は理解できない。 したがって、本件発明1の「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅をP、上記還流ダイオード(12)のリカバリ時間をRとしたときに、10×R≦Pである」という構成の技術的意義を当業者は理解することができず、リカバリ時間をどのような値にすれば課題が解決するのか当業者は理解し得ない。 また、リカバリ時間がリンギング収束時間に影響しない場合もあり得るから、本件発明1により、課題が解決し得るものとは考えられない。(意見書第5頁第4行から第17行までの記載参照。) したがって、当業者は、発明の詳細な説明、図面に基づき本件発明1を実施することはできず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 請求項1に従属する本件発明2?9も、本件発明1と同様に、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (エ)特許異議申立人の意見についての判断 上記2.(2)ア(ウ)で述べたように、本件発明1の「最小のパルス幅」は、「圧縮機用モータ(6)が最低回転数のときの上記インバータ回路(3)の出力電圧をVm」としたときの出力電圧Vmに対応したパルス幅、若しくは「パルス幅制限値」であり、「0(ゼロ)」であるとは認められず、また、「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅」を「パルス幅制限値」と考えると、「10×R≦P」という関係式を満たすPはいくらでも大きくし得るとしても、そのことが直ちに「10×R≦P」という条件式を満たすリカバリ時間の還流ダイオードを用いることでは「電圧パルスのパルス幅の制限値を短くできる」という効果が得られないことを意味するものではなく、例えば、「最小のパルス幅」を所望の値の「パルス幅制限値」に決定した後、上記条件式に従い当該「最小のパルス幅」に対応した還流ダイオードの「リカバリ時間」の上限値を決定することにより、「電圧パルスのパルス幅の制限値」を前記所望の値に短くし得るのであるから、効果との整合性がとれないとはいえない。 したがって、本件発明1の「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅をP、上記還流ダイオード(12)のリカバリ時間をRとしたときに、10×R≦Pである」という構成は技術的に不明確とはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 また、上記意見書で提示された特開2003-152198号公報(甲第1号証)は、リンギングの波形がリカバリ時間以外のダイオードの内部構造や諸特性に関する要因によっても変化するものであることを示すに過ぎず、リカバリ時間がリンギング収束時間に影響を与えないことを示すものではない。 そして、上記3.(4)ア(イ)で述べたように、リカバリ時間を短くすることによりリンギング収束時間を短縮し得ることは、当業者には明らかである。 したがって、当業者は、本件発明1により課題が解決し得るものと認識することができないとはいえず、本件発明1は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 請求項1に従属する本件発明2?9も、本件発明1と同様に、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 本件発明1の上記条件式より、当業者は、最小のパルス幅の10分の1以下のリカバリ時間で動作可能なダイオードを還流ダイオードとして用いることが把握でき、また、リカバリ時間を短くすることによりリンギング収束時間を短縮し得ることは、当業者には明らかであるから、当業者は、発明の詳細な説明、図面に基づき本件特許1を実施することはできないとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 請求項1に従属する本件発明2?9も、本件発明1と同様に、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 ウ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 上記2.(2)ア(ウ)で述べたように、「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅」を「パルス幅制限値」と考えると、「10×R≦P」という関係式を満たすPはいくらでも大きくし得るとしても、そのことが直ちに「10×R≦P」という条件式を満たすリカバリ時間の還流ダイオードを用いることでは「電圧パルスのパルス幅の制限値を短くできる」という効果が得られないことを意味するものではなく、例えば、「最小のパルス幅」を所望の値の「パルス幅制限値」に決定した後、上記条件式に従い当該「最小のパルス幅」に対応した還流ダイオードの「リカバリ時間」の上限値を決定することにより、「電圧パルスのパルス幅の制限値」を前記所望の値に短くし得るのであるから、効果との整合性がとれないとはいえない。 また、上記3.(4)ア(イ)で述べたように、リカバリ時間を短くすることによりリンギング収束時間を短縮し得ることは、当業者には明らかである。 そして、還流ダイオードのリカバリ時間とパルス幅制限値との関係が決定されてしまうことになるとしても、上記条件式の構成とすることにより、所望のパルス幅制限値に設定する場合に必要な還流ダイオードのリカバリ時間が決定し得るのであるから、段落【0022】の記載と整合しないとはいえない。 よって、本件特許発明1の「上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅をP、上記還流ダイオード(12)のリカバリ時間をRとしたときに、10×R≦Pである」は技術的に不明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 また、本件特許発明1により課題を解決するものと当業者は認識することはできないとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 請求項1に従属する本件発明2?9も、本件発明1と同様に、特許法第36条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 4.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1から9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1から9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 電力変換装置 【技術分野】 【0001】 本発明は、インバータ回路を備えた電力変換装置に関し、特にインバータ回路の出力交流の相電流を検出する技術に関するものである。 【背景技術】 【0002】 空気調和機では圧縮機を駆動するモータに交流電力を供給するために、直流を交流に変換するインバータ回路が用いられることが多い。そして、このインバータ回路には、モータに流れる電流を制御するためなどの目的で、出力交流の相電流を検出する相電流検出部が設けられる。この相電流検出部としては、DCCTを用いるのが一般的であるが、高価であることから、シャント抵抗を用いた方法も提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の相電流検出部は、DCリンクに設けたシャント抵抗と、シャント抵抗の両端の電圧を入力した増幅器とを有し、PWM制御(PWM:Pulse Width Modulation)を行っている際にシャント抵抗に生じた電圧パルスを用いて相電流を検出している。 【0003】 ところで、シャント抵抗が接続されているインバータ回路のDCリンクにはパルス状の電流が流れるため、その波形の立ち上がり時にリンギングが発生する。このリンギングの影響を受けずに上記相電流検出部で正確に電流を検知できるようにするためには、上記電圧パルスのパルス幅をリンギングの収束時間よりも長く設定し、この収束時間後における上記相電流検出部の検出時間を十分に確保する必要がある。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開2004-135440号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、このパルス幅はインバータの出力電圧の大きさに関係するが、出力電圧の大きさから設定されるパルス幅に対して、検出時間の制約上そのパルス幅よりも長くする必要がある。この場合には、上記インバータ回路の出力電圧に係る誤差電圧が大きくなってしまう。そして、誤差電圧が大きくなればなるほど、上記モータに対するインバータ回路の制御性が悪くなってしまうという問題がある。 【0006】 本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、シャント抵抗が接続されたインバータ回路を有する電力変換装置において、このインバータ回路に接続されたモータの制御性を向上させることにある。 【課題を解決するための手段】 【0007】 第1の発明の電力変換装置は、複数のスイッチング素子(Sup,…,Swn)のスイッチング状態をそれぞれ変化させて直流を交流に変換するインバータ回路(3)と、上記インバータ回路(3)における出力交流の相電流に応じた電圧の電圧パルスを出力するシャント抵抗(R)と、上記電圧パルスに基いて上記相電流を検出する検出部(5)と、上記各スイッチング素子(Sup,…,Swn)に逆並列で接続された還流ダイオード(12)とを備え、上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅をP、上記還流ダイオード(12)のリカバリ時間をRとしたときに、10×R≦Pであることを特徴としている。 【0008】 第1の発明では、上記リンギング時間を短くすることによって上記検出部(5)の検出時間を確保している。そして、このリンギング時間を短くするため、従来よりもリカバリ時間が短い特性を有する還流ダイオード(12)を上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)に逆並列で接続している。これにより、上記検出部(5)の検出時間が十分に確保される。 【0009】 第2の発明は、第1の発明において、上記インバータ回路(3)には圧縮機用モータ(6)が接続される一方、上記インバータ回路(3)の出力電圧指令に応じて設定されるパルス幅設定値をパルス幅制限値で制限するパルス幅制限部(8)と、上記圧縮機用モータ(6)が最低回転数のときの上記インバータ回路(3)の出力電圧をVmとし、上記パルス幅制限部(8)でパルス幅を制限したときに生じる誤差電圧をVeとしたしたときに、0<(Ve/Vm)≦(1/10)の関係を満たすように、最低回転数又はパルス幅制限値が設定されていることを特徴としている。 【0010】 第2の発明では、上記パルス幅を制限すると誤差電圧が生じることから、上記圧縮機用モータ(6)の最低回転時に、誤差電圧Veと出力電圧Vmとの関係が、0<(Ve/Vm)≦(1/10)となるように、パルス幅制限値又は上記圧縮機用モータ(6)の最低回転を決定している。これにより、誤差電圧を許容範囲内に抑えた状態で、上記検出部(5)の検出時間が確保される。 【0011】 第3の発明は、第2の発明において、上記パルス幅制限値をT’とし、上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)に係るキャリア周期をT1とし、上記インバータ回路(3)の入力電圧をVdcとしたときに、上記誤差電圧であるVeを、Ve=(T’)/(T1/2)×Vdcとして、上記最低回転数又は上記パルス幅制限値が設定されていることを特徴としている。 【0012】 第3の発明では、上記誤差電圧であるVeを、Ve=(T’)/(T1/2)×Vdcとして、上記パルス幅制限値、又は上記圧縮機用モータ(6)の最低回転数が設定されている。 【0013】 第4の発明は、第1から第3の何れか1つの発明において、上記シャント抵抗(R)は、上記インバータ回路(3)における負側の直流母線(N)と、上記直流を出力する直流電源(2)との間に設けられていることを特徴としている。 【0014】 第4の発明では、負側の直流母線(N)と直流電源(2)との間にシャント抵抗(R)が設けられているので、このシャント抵抗(R)には、各相(U相,V相,W相)の相電流が流れる。すなわち、1つのシャント抵抗(R)で各相の相電流(Iu,Iv,Iw)を検出することができる。 【0015】 第5の発明は、第1から第3の何れか1つの発明において、上記シャント抵抗(R1,R2,R3)は、上記インバータ回路(3)を構成する複数のスイッチングレグ(leg1,leg2,leg3)にそれぞれ直列に接続されていることを特徴としている。 【0016】 第5の発明では、シャント抵抗(R1,R2,R3)が各スイッチングレグ(leg1,leg2,leg3)に設けられているので、相電流の検出を各相同時に行うことが可能になる。 【0017】 第6の発明は、第1から第5の何れか1つの発明において、上記還流ダイオード(12)はSiC-SBDであることを特徴としている。 【0018】 第7の発明は、第1から第5の何れか1つの発明において、上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)はSiC-MOSFETであり、上記還流ダイオード(12)はSiC-MOSFETの寄生ダイオードであることを特徴としている。 【0019】 第8の発明は、第1から第5の何れか1つの発明において、上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)はSiC-JFETであり、上記還流ダイオード(12)はSiC-JFETの寄生ダイオードであることを特徴としている。 【0020】 第9の発明は、第1から第5の何れか1つの発明において、上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)はSi-IGBTであり、上記還流ダイオード(12)はSi-FRDであることを特徴としている。 【0021】 第6から第9の発明では、このような還流ダイオード(12)と上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)との組み合わせによって、上記パルス幅の制限値を短くしても、上記検出部(5)の検出時間が確実に確保される。 【発明の効果】 【0022】 本発明によれば、リカバリ時間の短い還流ダイオード(12)を用いることによって上記リンギング時間を短くすることができる。そして、このリンギング時間が短くなった分だけ、上記電圧パルスのパルス幅の制限値を短くできるので、上述した誤差電圧が低減され上記インバータ回路(3)の電圧をより正確に検知することができる。これにより、上記インバータ回路(3)の制御性を向上させることができる。 【0023】 また、上記第2の発明によれば、上記圧縮機用モータ(6)の最低回転時に、誤差電圧Veと出力電圧Vmとの関係が、0<(Ve/Vm)≦(1/10)となるようにパルス幅制限値又は上記圧縮機用モータ(6)の最低回転数を決定している。これにより、誤差電圧を許容範囲内に抑えた状態で、上記検出部(5)の検出時間を確保することができ、上記圧縮機用モータ(6)における低速域での制御性を向上させることができる。 【0024】 また、上記第3の発明によれば、上記パルス幅制限値をT’とし、上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)に係るキャリア周期をT1とし、上記インバータ回路(3)の入力電圧をVdcとしたときに、上記誤差電圧であるVeを、Ve=(T’)/(T1/2)×Vdcとして、上記パルス幅制限値又は上記圧縮機用モータ(6)の最低回転数を設定することができる。 【0025】 また、上記第4の発明によれば、1つのシャント抵抗(R)で各相の相電流を検出することができるので、上記検出部(5)を安価に設計することが可能になる。 【0026】 また、上記第5の発明によれば、相電流の検出を各相同時に行うことが可能になるので、上記検出部(5)の検出精度が向上する。 【0027】 また、上記第6から第9の発明によれば、このような還流ダイオード(12)と上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)との組み合わせによって、上記パルス幅を短くしても、上記検出部(5)の検出時間が確実に確保される。これにより、上記電圧パルスのパルス幅の制限値を長くしないので、上述した誤差電圧を大きくせずに上記インバータ回路(3)の電圧を正確に検知することができる。これにより、上記インバータ回路(3)の制御性を向上させることができる。 【図面の簡単な説明】 【0028】 【図1】本発明の実施形態に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。 【図2】電力変換装置に係る検出部の構成例を示すブロック図である。 【図3】上アーム側の各スイッチング素子のゲートにそれぞれ与えるゲート信号の波形とシャント抵抗における電圧パルスを説明する図である。 【図4】図3の電圧パルスを拡大した図である。 【図5】本実施形態の変形例に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。 【発明を実施するための形態】 【0029】 図1は、本発明の実施形態に係る電力変換装置(10)の構成を示すブロック図である。この電力変換装置(10)は、検出制御部(1)、コンバータ回路(直流電源)(2)、及びインバータ回路(3)を備えている。又、上記検出制御部(1)は、シャント抵抗(R)、制御部(4)、検出部(5)、及びパルス幅制限部(8)を備えている。 【0030】 そして、電力変換装置(10)には交流電源(7)が接続されており、交流電源(7)が出力した交流(以下、入力交流という)を三相交流(以下、出力交流という)に変換し、負荷である圧縮機用モータ(6)に供給するようになっている。この圧縮機用モータ(6)は、例えば空気調和機の冷媒回路に設けられた圧縮機を駆動するものである。 【0031】 上記コンバータ回路(2)は、ブリッジ接続された4つのダイオード(D1,…,D4)、リアクトル(2a)、及び平滑コンデンサ(2b)を備え、上記入力交流を全波整流する。このコンバータ回路(2)の出力はインバータ回路(3)に設けられた正負1対の直流母線(P,N)(後述)に接続されている。具体的に、このコンバータ回路(2)では、図1に示すように、リアクトル(2a)は、コンバータ回路(2)の正側の出力と、インバータ回路(3)の正側の直流母線(P)とに接続され、平滑コンデンサ(2b)は、インバータ回路(3)の2つの直流母線(P,N)間に接続されている。 【0032】 上記インバータ回路(3)は、複数のスイッチング素子に係るスイッチング状態をそれぞれ変化させて、コンバータ回路(2)が出力した直流を交流に変換して圧縮機用モータ(6)(負荷)に供給するようになっている。具体的には、本実施形態のインバータ回路(3)は、図1に示すように、上アームを構成する3つのスイッチング素子(Sup,Svp,Swp)及び3つの還流ダイオード(Dup,Dvp,Dwp)、下アームを構成する3つのスイッチング素子(Sun,Svn,Swn)及び3つの還流ダイオード(Dun,Dvn,Dwn)を備えている。また、このインバータ回路(3)には、正負1対の直流母線(P,N)が設けられており、これらの直流母線(P,N)には、コンバータ回路(2)が出力した直流が供給されている。 【0033】 そして、このインバータ回路(3)では、上アームのスイッチング素子(Sup,Svp,Swp)と下アームのスイッチング素子(Sun,Svn,Swn)とが、1対1に対応して直列接続されている。以下では、直列接続されたスイッチング素子(Sup,…,Swn)の対をスイッチングレグと呼ぶことにする。この例では、スイッチング素子(Sup)とスイッチング素子(Sun)の対で形成されたスイッチングレグ(leg1)、スイッチング素子(Svp)とスイッチング素子(Svn)の対で形成されたスイッチングレグ(leg2)、スイッチング素子(Swp)とスイッチング素子(Swn)の対で形成されたスイッチングレグ(leg3)がある。 【0034】 これらのスイッチングレグ(leg1,leg2,leg3)は、正側の直流母線(P)と負側の直流母線(N)との間にそれぞれ接続されている。また、それぞれのスイッチングレグ(leg1,leg2,leg3)の各中間点(M1,M2,M3)が出力交流の各相(U相,V相,W相)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を出力するノードであり、各中間点(M1,M2,M3)は圧縮機用モータ(6)の各相にそれぞれ接続されている。 【0035】 このインバータ回路(3)では、スイッチング素子(Sup,…,Swn)は、Si-IGBT(Si:Silicon、IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)である。又、このインバータ回路(3)では、上記還流ダイオード(1)が、Si-FRD(Si:Silicon、FRD:Fast Recovery Diode)である。尚、この還流ダイオード(1)は、上記電圧パルスのパルス幅をP、リカバリ時間をRとしたときに、0<R≦(1/10)Pとなる特性を有するものである。 【0036】 上記検出制御部(1)は、上記出力交流の各相電流(Iu,Iv,Iw)を検出し、それぞれの検出結果(相電流値)を示す電流値信号を出力するようになっている。この電流値信号は、電力変換装置(10)の制御や、インバータ回路(3)を過電流から保護するためなどの目的に使用することができる。上述したように、上記検出制御部(1)は、シャント抵抗(R)、制御部(4)、検出部(5)、及びパルス幅制限部(8)を備えている。 【0037】 上記シャント抵抗(R)は、負荷(圧縮機用モータ(6))からの電流が流れ込む位置に配置されている。この例では、シャント抵抗(R)は、インバータ回路(3)の負側の直流母線(N)とコンバータ回路(2)の負側ノード(より詳しくは平滑コンデンサ(2b)よりも圧縮機用モータ(6)寄りのノード)との間に設けられている。このシャント抵抗(R)に圧縮機用モータ(6)からの電流が流れると、シャント抵抗(R)の両端には電位差が生じ、この両端間の電圧を検出することで相電流(Iu,Iv,Iw)を算出することができる。 【0038】 上記制御部(4)は、インバータ回路(3)の各スイッチング素子(Sup,…,Swn)のゲートに印加するゲート信号(Gup,…,Gwn)を生成する。そして、各スイッチング素子(Sup,…,Swn)のスイッチング状態を遷移させることによって、上記出力交流の電流又は電圧を制御する。この制御部(4)は、上記インバータ制御を所定期間(T1)単位で繰り返す。具体的には、制御部(4)が行うインバータ制御はPWM制御であり、キャリア信号に同期して上記出力交流の電圧を制御する。上記所定期間(T1)は、キャリア信号の周期(キャリア周期)と同じ長さの期間である。 【0039】 上記検出部(5)は、上記シャント抵抗(R)に生じた電圧パルスが立ち上がってから、該電圧パルスに生じたリンギングが収束した後の検知時間(図4を参照)内に電圧パルスの電圧値を検出し、検出値とシャント抵抗(R)の抵抗値から相電流を求めてその検出結果を出力する。図2は、検出部(5)の構成例を示すブロック図である。この例では、検出部(5)は、シャント抵抗(R)が出力した電圧パルスを入力とした差動増幅器(5a)と該作動増幅器(5a)の出力をA/D変換するA/D変換器(5b)によって構成している。 【0040】 上記パルス幅制限部(8)は、上記インバータ回路(3)の出力電圧に応じて設定されるパルス幅設定値をパルス幅制限値へ制限するものである。上記パルス幅制限値は、上記圧縮機用モータ(6)が最低回転数のときの上記インバータ回路(3)の出力電圧をVmとし、上記パルス幅制限部(8)でパルス幅を制限したときに生じる誤差電圧をVeとしたしたときに、0<(Ve/Vm)≦(1/10)の関係を満たすように設定されている。具体的には、上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)に係るキャリア周期をT1とし、上記インバータ回路(3)の入力電圧をVdcとし、上記パルス幅設定値がTのときに、上記パルス幅制限値T’でパルス幅を制限したときの誤差電圧は,(T’-T)/(T1/2)×Vdcで求めることができる。このとき誤差電圧が最大となる条件としてはT=0であるため,誤差電圧はVe=T’/(T1/2)×Vdcで算出できる。よって,0<(Ve/Vm)≦(1/10)の関係を満たすように、上記パルス幅制限値又は上記圧縮機用モータ(6)が最低回転数が設定される。 【0041】 -運転動作- 図3は、上アーム側の各スイッチング素子(Sup,Svp,Swp)のゲートにそれぞれ与えるゲート信号(Gup,Gvp,Gwp)の波形とシャント抵抗(R)における電圧波形を説明する図である。この図では、ゲート信号(Gup,Gvp,Gwp)がハイレベルに表示されている場合には、その信号に対応した上アーム側のスイッチング素子がオン、それと対になる下アーム側のスイッチング素子がオフであることを示している。逆に、ゲート信号(Gup,Gvp,Gwp)がローレベルに表示されている場合には、そのゲート信号に対応した上アーム側のスイッチング素子がオフ、それと対になる下アーム側のスイッチング素子がオンであることを示している。 【0042】 図3の例では、制御部(4)は、U相に対応したスイッチングレグ(leg1)に関し、所定期間(T1)内のt3?t5の期間に、矩形波状のゲート信号(Gup)を出力して上アーム側のスイッチング素子(Sup)をオンに制御し、所定期間(T1)内の他の期間にはオフに制御する。また、V相に対応したスイッチングレグ(leg2)に関し、所定期間(T1)内のt2?t6の期間に、上アーム側のスイッチング素子(Svp)をオンに制御し、所定期間(T1)内の他の期間にはオフに制御する。また、W相に対応したスイッチングレグ(leg3)に関し、所定期間(T1)内のt1?t7の期間に、上アーム側のスイッチング素子(Swp)をオンに制御し、所定期間(T1)内の他の期間にはオフに制御する。 【0043】 なお、このインバータ制御では、下アーム側の各スイッチング素子(Sun,Svn,Swn)は、オンオフの状態が、対応した上アーム側のスイッチング素子とは逆の関係にある。例えば、制御部(4)は、U相の下アーム側のスイッチング素子(Sun)を、スイッチング素子(Sup)がオンの場合にはオフ、スイッチング素子(Sup)がオフの場合にはオンに制御する。 【0044】 上記の制御により、図3に示すように、t0?t1の期間には、上アーム側のすべてのスイッチング素子(Sup,Svp,Swp)がオフになり、この場合はシャント抵抗(R)における電流の大きさはゼロである。したがって、シャント抵抗(R)の両端に電圧は発生しない。 【0045】 また、t1?t2の期間には、上アーム側のスイッチング素子(Swp)と下アーム側の2つのスイッチング素子(Sun,Svn)がオン、上アーム及び下アームのその他のスイッチング素子(Sup,…,Swn)がオフに制御される。これにより、シャント抵抗(R)には相電流(Iw)が流れる。上述したように、上記検出部(5)が、上記リンギングが収束した後で電圧パルスの電圧値を検出し、この検出値とシャント抵抗(R)の抵抗値から相電流(Iw)を求めた後、その検出結果を出力する。上記リンギングが収束した後の正確な電圧パルスの電圧値を検出できるように,パルス幅(t2-t1)はパルス幅制限値以上になるように制限されている。 【0046】 t2?t3の期間には、上アーム側の2つスイッチング素子(Svp,Swp)と下アーム側のスイッチング素子(Sun)がオン、上アーム及び下アームのその他のスイッチング素子(Sup,…,Swn)がオフに制御される。これにより、シャント抵抗(R)には、大きさが(Iv+Iw)の電流が流れる。上記検出部(5)が、上記リンギングが収束した後で電圧パルスの電圧値を検出し、この検出値とシャント抵抗(R)の抵抗値から相電流(Iv+Iw)を求める。そして、この相電流(Iv+Iw)から上述した相電流(Iw)を差し引いて相電流(Iv)を求めた後、その検出結果を出力する。上記同様に,パルス幅(t3-t2)はパルス幅制限値以上になるように制限されている。 【0047】 そして、V相、W相のそれぞれの相電流(Iv,Iw)を検出し終わると、検出部(5)は、U相の相電流(Iu)をIu=-(Iw+Iv)の関係式から算出し、その値を出力する。これにより、3相分の相電流(Iu,Iv,Iw)が検出される。 【0048】 -実施形態の効果- 本実施形態によれば、リカバリ時間の短い還流ダイオード(12)を用いることによって上記リンギング時間を短くすることができる。そして、このリンギング時間が短くなった分だけ、上記検出部(5)の検出時間を十分に確保することができる。これにより、上記インバータ回路(3)の電圧を正確に検知することができ、上記圧縮機用モータ(6)に対するインバータ回路(3)の制御性を向上させることができる。 【0049】 又、本実施形態によれば、上記圧縮機用モータ(6)の最低回転時に、誤差電圧Veと出力電圧Vmとの関係が、0<(Ve/Vm)≦(1/10)となるようにパルス幅制限値又は上記圧縮機用モータ(6)の最低回転数を決定している。これにより、誤差電圧を許容範囲内に抑えた状態で、上記検出部(5)の検出時間を確保することができ、上記圧縮機用モータ(6)における低速域での制御性を向上させることができる。 【0050】 又、本実施形態によれば、上記パルス幅制限値をT’とし、上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)に係るキャリア周期をT1とし、上記インバータ回路(3)の入力電圧をVdcとしたときに、上記誤差電圧であるVeを、Ve=(T’)/(T1/2)×Vdcとして、上記パルス幅制限値又は上記圧縮機用モータ(6)の最低回転数を設定することができる。 【0051】 -実施形態の変形例- 図5に示す実施形態の変形例では、上記検出制御部(1)に係るシャント抵抗の数と配置が上記実施形態とは異なる。変形例の検出制御部(1)は、3つのシャント抵抗(R1,R2,R3)を有している。各シャント抵抗(R1,R2,R3)は、各スイッチングレグ(leg1,leg2,leg3)に1つずつ配置されている。より詳しくは、スイッチングレグ(leg1)にはスイッチング素子(Sun)と直流母線(N)の間にシャント抵抗(R1)が、スイッチングレグ(leg2)にはスイッチング素子(Svn)と直流母線(N)の間にシャント抵抗(R2)が、スイッチングレグ(leg3)にはスイッチング素子(Swn)と直流母線(N)の間にシャント抵抗(R3)がそれぞれ配置されている。すなわち、シャント抵抗(R1)にはU相の相電流(Iu)、シャント抵抗(R2)にはV相の相電流(Iv)、シャント抵抗(R3)にはW相の相電流(Iw)がそれぞれ流れることになる。 【0052】 また、各シャント抵抗(R1,R2,R3)に対応して3つの検出部(5)が設けられている。それぞれの検出部(5)は、上記実施形態の検出部(5)と同じ構成であり、各検出部(5)は対応したシャント抵抗(R1,R2,R3)の電圧パルスを検出し、対応した相の相電流(Iu,Iv,Iw)を求めるようになっている。このように、相電流の検出を各相同時に行うことが可能になるので、上記検出制御部(1)の検出精度が向上する。 【0053】 《その他の実施形態》 上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。 【0054】 上記実施形態では、スイッチング素子(Sup,…,Swn)としてSi-IGBTを用い、還流ダイオード(1)としてSi-FRDを用いていたが、これに限定されず、例えばSi-FRDに代えてSiC-SBD(SiC:Silicon Carbide,SBD:Schottky Barrier Diode)を用いてもよい。又、スイッチング素子(Sup,…,Swn)としてSiC MOSFETを用い、還流ダイオード(1)としてSiC-SBDを用いてもよい。又、スイッチング素子(Sup,…,Swn)としてSiC-MOSFETを用い、還流ダイオード(1)としてSiC MOSFETが有する寄生ダイオードを用いてもよい。又、スイッチング素子(Sup,…,Swn)としてSiC-JFETを用い、還流ダイオード(1)としてSiC-JFETの寄生ダイオードを用いてもよい。何れの場合でも、本発明と同様の効果を得ることができる。 【0055】 なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。 【産業上の利用可能性】 【0056】 以上説明したように、本発明は、インバータ回路を備えた電力変換装置に関し、特にインバータ回路の出力交流の相電流を検出する技術について有用である。 【符号の説明】 【0057】 1 検出制御部 2 コンバータ回路 3 インバータ回路 4 制御部 5 検出部 6 モータ(負荷) 8 パルス幅制限部 10 電力変換装置 12 還流ダイオード leg1 スイッチングレグ leg2 スイッチングレグ leg3 スイッチングレグ M1,M2,M3 中間点 N,P 直流母線 R,R1,R2,R3 シャント抵抗 Sup,…,Swn スイッチング素子 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 複数のスイッチング素子(Sup,…,Swn)のスイッチング状態をそれぞれ変化させて直流を交流に変換するインバータ回路(3)と、 上記インバータ回路(3)における出力交流の相電流に応じた電圧の電圧パルスを出力するシャント抵抗(R)と、 上記電圧パルスに基いて上記相電流を検出する検出部(5)と、 上記各スイッチング素子(Sup,…,Swn)に逆並列で接続された還流ダイオード(12)と、 を備え、 上記検出部(5)が検出する上記電圧パルスのパルス幅のうちで最小のパルス幅をP、上記還流ダイオード(12)のリカバリ時間をRとしたときに、10×R≦Pであることを特徴とする電力変換装置。 【請求項2】 請求項1において、 上記インバータ回路(3)には圧縮機用モータ(6)が接続される一方、 上記インバータ回路(3)の出力電圧指令に応じて設定されるパルス幅設定値をパルス幅制限値で制限するパルス幅制限部(8)と、 上記圧縮機用モータ(6)が最低回転数のときの上記インバータ回路(3)の出力電圧をVmとし、上記パルス幅制限部(8)でパルス幅を制限したときに生じる誤差電圧をVeとしたしたときに、0<(Ve/Vm)≦(1/10)の関係を満たすように、最低回転数又はパルス幅制限値が設定されていることを特徴とする電力変換装置。 【請求項3】 請求項2において、 上記パルス幅制限値をT’とし、上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)に係るキャリア周期をT1とし、上記インバータ回路(3)の入力電圧をVdcとしたときに、上記誤差電圧であるVeを、 Ve=(T’)/(T1/2)×Vdcとして、上記最低回転数又は上記パルス幅制限値が設定されていることを特徴とする電力変換装置。 【請求項4】 請求項1から3の何れか1つにおいて、 上記シャント抵抗(R)は、上記インバータ回路(3)における負側の直流母線(N)と、上記直流を出力する直流電源(2)との間に設けられていることを特徴とする電力変換装置。 【請求項5】 請求項1から3の何れか1つにおいて、 上記シャント抵抗(R1,R2,R3)は、上記インバータ回路(3)を構成する複数のスイッチングレグ(leg1,leg2,leg3)にそれぞれ直列に接続されていることを特徴とする電力変換装置。 【請求項6】 請求項1から5の何れか1つにおいて、 上記還流ダイオード(12)はSiC-SBDであることを特徴とする電力変換装置。 【請求項7】 請求項1から5の何れか1つにおいて、 上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)はSiC-MOSFETであり、上記還流ダイオード(12)はSiC-MOSFETの寄生ダイオードであることを特徴とする電力変換装置。 【請求項8】 請求項1から5の何れか1つにおいて、 上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)はSiC-JFETであり、上記還流ダイオード(12)はSiC-JFETの寄生ダイオードであることを特徴とする電力変換装置。 【請求項9】 請求項1から5の何れか1つにおいて、 上記スイッチング素子(Sup,…,Swn)はSi-IGBTであり、上記還流ダイオード(12)はSi-FRDであることを特徴とする電力変換装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-04-06 |
出願番号 | 特願2012-117437(P2012-117437) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(H02M)
P 1 651・ 853- YAA (H02M) P 1 651・ 536- YAA (H02M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 槻木澤 昌司 |
特許庁審判長 |
新川 圭二 |
特許庁審判官 |
稲葉 和生 山田 正文 |
登録日 | 2016-03-11 |
登録番号 | 特許第5895704号(P5895704) |
権利者 | ダイキン工業株式会社 |
発明の名称 | 電力変換装置 |
代理人 | 特許業務法人前田特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人前田特許事務所 |