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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1327915
異議申立番号 異議2016-701155  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-19 
確定日 2017-05-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第5937378号発明「ポリエステル樹脂組成物成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5937378号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5937378号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成24年2月24日を出願日とする特許出願であって、平成28年5月20日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人東レ株式会社(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年2月7日付けで請求項1ないし4に係る特許について取消理由が通知され、平成29年4月13日に意見書の提出がされたものである。

第2 本件特許発明
特許第5937378号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」といい、まとめて「本件特許発明」ということがある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、臭素化ポリカーボネート及び臭素化エポキシから選ばれる少なくとも1種の臭素系難燃剤(B)を3?60質量部、アンチモン化合物(C)を0.5?20質量部含有し、ポリエステル樹脂組成物中の臭素系難燃剤(B)由来の臭素原子と、アンチモン化合物(C)由来のアンチモン原子の質量比(Br/Sb)が1.72?5であるポリエステル樹脂組成物からなる成形体であって、
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)の相が連続相を形成し、臭素系難燃剤(B)の相とアンチモン化合物(C)の相は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)連続相中にそれぞれ独立して分散して存在しているモルフォロジーを有することを特徴とするポリエステル樹脂組成物成形体。
【請求項2】
成形体コア部における臭素系難燃剤(B)分散相の平均径が5μm以下である請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物成形体。
【請求項3】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)の主成分が、ポリブチレンテレフタレートである請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂組成物成形体。
【請求項4】
アンチモン化合物(C)が、三酸化アンチモンである請求項1?3のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物成形体。」

第3 取消理由の概要
当審において平成29年2月7日付けで通知した取消理由の概要は、本件特許発明1ないし4は、甲第4号証(実験証明書)を参酌すると、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明であるから、本件特許発明1ないし4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである、というものである。

甲第1号証:特開2001-106881号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開2006-257175号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2008-138055号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:実験証明書(平成28年12月12日付けで東レ株式会社従業員宇野智幸氏が作成したもの。以下「甲4」という。)

第4 当合議体の判断
1 甲1?甲3の記載事項等
(1)甲1について
ア 甲1には、次のとおりの記載がある。

「【0039】
【実施例】以下、実施例を挙げ本発明を詳述する。尚、実施例中の部は重量部を意味する。
【0040】[組成物原料]実施例に用いた組成物の原料は下記のとおりである。
ポリマー:
(A)熱可塑性芳香族ポリエステル(表中、PBT):
(a-1)帝人(株)製PBT C7000N IV:0.88
(a-2)帝人(株)製PBT C7000PG IV:1.14
(B)臭素化エポキシ系難燃剤(表中、Br-Ep):
(b-1)大日本インキ化学工業(株)製 プラサームEP100 重合度 n=約16
(b-2)油化シェルエポキシ(株)製 エピコート505 5 重合度 n=約2?3
(C)臭素化ポリカーボネート系難燃剤(表中、Br-PC):
(c-1)帝人化成(株)製 ファイヤーガード7500 重合度 n=約5
(c-1)帝人化成(株)製 ファイヤーガード7100 重合度 n=約14
(D)アンチモン系難燃助剤:
(d-1)三酸化アンチモン 日本精鉱(株)製 PATOX-M
(d-2)五酸化アンチモン 日産化学(株)製 NA1030
(E)燐酸塩系安定剤:
和光純薬(株)製 燐酸二水素ナトリウム二水和物 試薬特級
【0041】[特性]成形物の特性は下記方法により測定した。
・・・
・L*値・b*値
シリンダー温度 260℃、金型温度 80℃、射出圧 約80 MPa にて直径50mm、厚さ3mmの円板状成形品を成形し、日本電色(株)製カラーアナライザー TC-1800MK-IIを用いて測定した。
【0042】[実施例1?3および比較例1?6]表1に記載の配合成分を所定の割合で予め均一にドライブレンドした後、スクリュー径44mmのベント付き二軸押出機を用いてシリンダー温度250℃?260℃、スクリュー回転数120rpm、吐出量50kg/hにて熔融混練し、スレッド状に押出し、冷却後切断して成形用ペレットを得た。次いでこのペレットを用いて上記特性の評価を行った。なお、成形の際には射出容量145cm3、型締力80tの射出成形機を用いた。評価結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

」(段落【0039】?【0043】)

イ 上記アの記載、特に、比較例1及び比較例2の記載によれば、甲1には、次の二の発明が記載されていると認められる。

「以下の配合成分を所定の割合で予め均一にドライブレンドした後、スクリュー径44mmのベント付き二軸押出機を用いてシリンダ-温度250℃?260℃、スクリュー回転数120rpm、吐出量50kg/hにて熔融混練し、スレッド状に押出し、冷却後切断して成形用ペレットを得て、次いでこのペレットを、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で射出成形した、円板状成形体。
<配合成分>
(A)熱可塑性芳香族ポリエステル (合計100重量部)
(a-1)帝人(株)製PBT C7000N IV:0.88:60重量部
(a-2)帝人(株)製PBT C7000PG IV:1.14:40重量部
(C)臭素化ポリカーボネート系難燃剤(26重量部)
(c-1)帝人化成(株)製 ファイヤーガード7500 重合度N=約5
(D)アンチモン系難燃助剤(5重量部)
(d-1)三酸化アンチモン 日本精鉱(株)製 PATOX-M
(E)燐酸塩系安定剤(0.2重量部)
和光純薬(株)製 燐酸二水素ナトリウム二水和物 試薬特級」(以下「甲1-1発明」という。)

「以下の配合成分を所定の割合で予め均一にドライブレンドした後、スクリュー径44mmのベント付き二軸押出機を用いてシリンダ-温度250℃?260℃、スクリュー回転数120rpm、吐出量50kg/hにて熔融混練し、スレッド状に押出し、冷却後切断して成形用ペレットを得て、次いでこのペレットを、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で射出成形した、円板状成形体。
<配合成分>
(A)熱可塑性芳香族ポリエステル(合計100重量部)、
(a-1)帝人(株)製PBT C7000N IV:0.88:60重量部
(a-2)帝人(株)製PBT C7000PG IV:1.14:40重量部
(B)臭素化エポキシ系難燃剤(26重量部)
(b-1)大日本インキ化学工業(株)製 プラサームEP100 重合度n=約16
(D)アンチモン系難燃助剤(5重量部)
(d-1)三酸化アンチモン 日本精鉱(株)製 PATOX-M
(E)燐酸塩系安定剤(0.2重量部)
和光純薬(株)製 燐酸二水素ナトリウム二水和物 試薬特級」(以下「甲1-2発明」という。)

(2)甲2について
ア 甲2には、次のとおりの記載がある。

「【0032】
実施例および比較例に使用した配合組成物を示す。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂 固有粘度0.85
(B-a)臭素化ポリカーボネート 帝人化成製 FG8500
(B-b)臭素化ポリカーボネート 帝人化成製 FG7500
(B-c)臭素化フェノキシ樹脂 東都化成製 YPB-40AM40
(B-d)臭素化エポキシ 東都化成製 YDP-416
(C)アンチモン化合物 日本精鉱製 SBO-G(PATOX-MK)
(D)ガラス繊維 日東紡績製 3J948
(E-a)ポリエチレングリコール 東邦化学製 PEG6000
(E-b)ポリエチレングリコール 東邦化学製 PEG4000
(E-c)ポリエチレングリコール 東邦化学製 PEG10000
【0033】
実施例及び比較例の評価は以下の方法で行った。
・・・
(v)離型性(成形品変形)は以下の条件で成形を行った際に、エジェクタピンの突き出しによる成形品変形の有無を目視によって確認し、成形品のエジェクタピン突き出し部分に変形が有るものを不合格とした。
成形品肉厚 :10mm(板状)
金型エジェクタピン径 :Φ1mm
シリンダ温度 :270℃
金型温度 :80℃
射出/金型冷却時間 :2/5sec
(vi)総合判定は、全ての項目で不合格がないものを合格、ひとつでも不合格があるものを不合格とした。
【0034】
実施例1?2
(A)成分から(E)成分を表1に示す組合せで配合した。
【0035】
各実施例に記載した材料の製造方法は次の通りである。すなわち、シリンダ温度250℃に設定したスクリュー径57mmφの2軸押出機を用いて製造した。(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)臭素化ポリカーボネート、(C)アンチモン化合物、(E)ポリエチレングリコール並びにその他添加剤を元込め部から、また、(C)ガラス繊維をサイドフィーダーから供給して溶融混練を行い、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化した。得られた各材料は、130℃の熱風乾燥機で3時間以上乾燥した後、前記評価方法記載の方法を用いて成形し、評価を行なった。その結果を表1に併記した。得られた組成物は何れも機械的強度、衝撃特性、難燃性、離型性に優れ、ノンブリードであった。
【0036】
実施例1?2の配合処方並びに評価結果を表1に示す。」(段落【0032】?【0036】)

「【0047】
【表1】


」(段落【0047】)

イ 上記アの記載、特に、実施例1の記載によれば、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「以下の配合成分を配合した後、シリンダ温度250℃に設定したスクリュー径57mmφの2軸押出機を用いて、熱可塑性ポリエステル樹脂、臭素化ポリカーボネート、アンチモン化合物、ポリエチレングリコール及びその他の添加剤を元込め部から、また、ガラス繊維をサイドフィーダーから供給して溶融混練を行い、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化し、130℃の熱風乾燥機で3時間以上乾燥した後、シリンダ温度270℃、金型温度80℃で射出成形した成形体。

(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂 固有粘度0.85
(100.0重量部)
(B-a)臭素化ポリカーボネート 帝人化成製 FG8500 (15.0重量部)
(C)アンチモン化合物 日本精鉱製 SBO-G(PATOX-MK)
(5.0重量部)
(D)ガラス繊維 日東紡績製 3J948
(20.0重量部)
(E)ポリエチレングリコール 東邦化学製 PEG6000
(0.2重量部) 」

(3)甲3について
ア 甲3には、次のとおりの記載がある。

「【0046】
(iv)離型力は図1に記載した形状の金型1を使用し、射出成形機(日精60E9ASE)を使用して、シリンダー温度270℃、金型温度80℃でその離型力を測定し、比較した。・・・
【0047】
実施例1?4
以下の(A)から(F)の配合材料を表1に示す組合せおよび配合量で樹脂組成物を製造した。
(A-a)ポリブチレンテレフタレート樹脂 固有粘度0.85 東レ(株)社製PBT樹脂“トレコン”1100S
(B-a)ポリシロキサン 末端アルキル基封鎖ジメチルポリシロキサン 東レ・ダウコーニング株式会社製 “SH230” 粘度 1400mm^(2)/s。
(B-b) エポキシ基含有ポリシロキサン 東芝シリコーン社製 “TSF4731” エポキシ当量190。
(B-c)ポリオルガノ水素シロキサン
東レ・ダウコーニング株式会社製 “SH1107” 粘度 20mm^(2)/s。
(C-a)クラリアントジャパン株式会社製 リコワックスOP
(D?a)臭素系難燃剤 臭素化エポキシ化合物 大日本インキ株式会社製“ECX30”
(E-a)アンチモン化合物 三酸化アンチモン 鈴裕化学株式会社製 “ファイヤーカットAT-3”
(F?a)繊維径13μm 繊維長さ3mmのガラス繊維(日本電気硝子社製T-187)。
【0048】
シリンダ温度250℃に設定したスクリュー径57mmφの2軸押出機を用いて、ガラス繊維(F-a)以外の原料を元込め部から、また、ガラス繊維(F-a)はサイドフィーダーから供給して溶融混練を行い、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化して各樹脂組成物を得た。得られた各樹脂組成物材料は、130℃の熱風乾燥機で3時間以上乾燥した後、前記評価方法記載の方法を用いて成形し、評価を行なった。その結果を表1に併記した。得られた樹脂組成物は何れも、衝撃特性、難燃性、インキ密着性、離型力に優れた特性を有していた。」(段落【0046】?【0048】)

「【0052】
比較例4
ポリシロキサン(B)を添加しない以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。その結果、インキ密着性が悪化した。」(段落【0052】)

「【0056】
【表1】

」(段落【0056】)

イ 上記アの記載、特に、比較例4の記載によれば、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる(なお、各成分の括弧内の数値は、ポリブチレンフタレート樹脂を100重量部とした場合の含有量である。)。

「シリンダ温度250℃に設定したスクリュー径57mmφの2軸押出機を用いて、ガラス繊維以外の原料を元込め部から、また、ガラス繊維はサイドフィーダーから供給して溶融混練を行い、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化し、130℃の熱風乾燥機で3時間以上乾燥した後、シリンダ温度270℃、金型温度80℃で、射出成形した成形体。

(A-a)ポリブチレンテレフタレート樹脂 固有粘度0.85 東レ(株)社製PBT樹脂“トレコン”1100S
49.9重量部(100重量部)
(C-a)脂肪酸エステル クラリアントジャパン株式会社製 リコワックスOP 0.1重量部(0.2重量部)
(D-a)臭素化エポキシ化合物 大日本インキ株式会社製“ECX30” 15重量部(30重量部)
(E-a)アンチモン化合物 三酸化アンチモン 鈴裕化学株式会社製“ファイヤーカットAT-3” 5重量部(10重量部)
(F)繊維径13μm、繊維長さ3mmのガラス繊維(日本電気硝子社製T-187) 30重量部(60重量部) 」

2 本件特許発明1について
(1)甲1-1発明又は甲1-2発明との対比・判断
ア 対比
本件特許発明1と甲1-1発明又は甲1-2発明とを対比すると、甲1-1発明又は甲1-2発明の「(A)熱可塑性芳香族ポリエステル、(a-1)帝人(株)製PBT C7000N IV:0.88、(a-2)帝人(株)製PBT C7000PG IV:1.14」、「(C)臭素化ポリカーボネート系難燃剤、(c-1)帝人化成(株)製 ファイヤーガード7500 重合度N=約5」、「(B)臭素化エポキシ系難燃剤難燃剤、(b-1)大日本インキ化学工業(株)製 プラサームEP100 重合度n=約16」、「(D)アンチモン系難燃助剤、(d-1)三酸化アンチモン 日本精鉱(株)製 PATOX-M」、「円板状成形体」は、それぞれ本件特許発明1の「熱可塑性ポリエステル樹脂(A)」、「臭素化ポリカーボネート・・・から選ばれる少なくとも1種の臭素系難燃剤(B)」、「臭素化エポキシから選ばれる少なくとも一種の臭素系難燃剤(B)」、「アンチモン化合物(C)」、「ポリエステル樹脂成形体」に相当し、甲1-1発明又は甲1-2発明における各成分の含有量は、本件特許発明1のそれと重複一致する。
したがって、本件特許発明1と甲1-1発明又は甲1-2発明は、
「熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、臭素化ポリカーボネート及び臭素化エポキシから選ばれる少なくとも1種の臭素系難燃剤(B)を3?60質量部、アンチモン化合物(C)を0.5?20質量部含有するポリエステル樹脂組成物からなる成形体。」
である点で一致し、次の点において相違、又は一応相違する。

<相違点1>
本件特許発明1は、ポリエステル樹脂組成物中の臭素系難燃剤(B)由来の臭素原子と、アンチモン化合物(C)由来のアンチモン原子の質量比(Br/Sb)が1.72?5であるのに対し、甲1-1発明又は甲1-2発明は、対応する事項が不明である点。
<相違点2>
本件特許発明1は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)の相が連続相を形成し、臭素系難燃剤(B)の相とアンチモン化合物(C)の相は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)連続相中にそれぞれ独立して分散して存在しているモルフォロジー(以下「本件モルフォロジー構造」という。)を有するのに対し、甲1-1発明又は甲1-2発明は、どのようなモルフォロジ-を有するのかは不明である点。

イ 判断
(ア)相違点1について
異議申立人の従業員(宇野智幸氏)が作成した2016年12月12日付け実験証明書である甲4の「2.2.」(5頁)によれば、甲1-1発明の臭素系難燃剤である「帝人化(株)製ファイヤーガード7500」と、甲1-2発明の臭素系難燃剤である「大日本インキ化学工業(株)製 プラサームEP100」は、ともに臭素含有量52%であり、また、甲1-1発明及び甲1-2発明のアンチモン化合物である「日本精鉱(株)製PATOX-M」は、アンチモン含有量83.2%である。
そうすると、甲1-1発明又は甲1-2発明における「ポリエステル樹脂組成物中の臭素系難燃剤(B)由来の臭素原子と、アンチモン化合物(C)由来のアンチモン原子の質量比(Br/Sb)」は、3.25(注:計算式は、(26重量部×0.52)÷(5重量部×0.832))」となり、本件特許発明1の「1.72?5」の範囲に含まれる。
したがって、相違点1は、実質的な相違点とはいえない。

(イ)相違点2について
a まず、本件特許明細書における、相違点2に係る本件特許発明1のモルフォロジーとするための製造条件に関する記載をみると、段落【0052】には、「本発明の樹脂組成物成形体の製造に用いるポリエステル樹脂組成物は、押出機等の溶融混練機を用いた溶融混練法により製造することが好ましいが、ポリエステル樹脂組成物の原料各成分を混合し、単に混練するだけでは、本発明で規定するモノフォロジー構造を安定して形成することは難しく、特別の方法により混練することが推奨される。」と記載され、本件モルフォロジー構造を安定して形成するための好ましい製造方法として、段落【0053】?【0065】には、主に、次のペレットを製造する際の条件が記載されている。

「1) 二軸押出機を用いてストランド状とした後に、切断してペレットとする。
2) 20<(L/D)<100 (L:スクリーの長さ(mm)、スクリューの直径D(mm) )
3) 溶融温度 200?300℃
4) 溶融混練時のスクリュー回転数 100?1,000rpm
5) 吐出力 5?1,000kg/hr
6) ダイノズルにおける樹脂組成物のせん断速度 10?10,000sec^(-1)
7) 切断時のストランドの表面温度 60?150℃
8) ダイノズルにおけるせん断速度γ(sec^(-1))とストランド切断時のストランドの表面温度T(℃)との関係が、1×10^(3)<(γ・T)<9.9×10^(5)
9) 臭素系難燃剤として臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ又は臭素化ポリスチレンを用いる。
10) 臭素系難燃剤中の塩素化合物の含有量を0.2質量%以下とする。11) ポリエステル樹脂組成物中の遊離の臭素、塩素、硫黄の量を特定量以下とする。
12) アンチモン化合物として三酸化アンチモンを使用する。」

また、本件特許明細書の段落【0089】には、「射出成形において、本発明で規定するモルフォロジー構造を有する成形体とするためには、例えば、射出成形機のスクリュー構成、スクリューやシリンダー内壁の加工、ノズル径、金型構造等の成形機条件の選択、可塑化、計量、射出時等の成形条件の調整、成形材料への他成分の添加等、種々の方法が挙げられる。特に、可塑化、計量、射出時の条件として、例えば、シリンダー温度、背圧、スクリュー回転数、射出速度等を調整することが好ましい。例えば、シリンダー温度を調整する場合は、好ましくは230?280℃、より好ましくは240?270℃に設定する。背圧を調整する場合は、好ましくは2?15MPa、より好ましくは4?10MPaに設定する。スクリュー回転数を調整する場合は、好ましくは20?300rpm、より好ましくは20?250rpmに設定する。射出速度を調整する場合は、好ましくは10?500mm/sec、より好ましくは20?400m/secに設定することが好ましい。」と記載されている。

上記の本件特許明細書の記載からみると、ペレットを製造する際の押出機のL/D、溶融温度、スクリュー回転数、吐出力、せん断速度、切断時のストランドの表面温度など、また、ペレットを用いて成形する際の射出成形機のシリンダー温度、背圧、スクリュー回転数、射出速度などの様々な製造条件が、特定のモルフォロジーの形成に影響すると解され、また、上記の製造条件は、本件モルフォロジー構造を安定して形成するための好ましい条件であって、これらの条件のいくつかを採用して製造したからといって、必ず特定のモルフォロジーとなるわけではないと解される。

b 甲1-1発明及び甲1-2発明に係る製造条件についてみると、ペレットの製造条件について、ベント付き二軸押出機のスクリュー径、シリンダー温度、スクリュー回転数、吐出量が、また、射出成形の条件について、シリンダー温度と金型温度が特定されている。
しかし、ペレットの製造条件の押出機の長さ(L)、せん断速度、切断時のストランドの表面温度などについては特定されておらず、これらの条件は、本件特許明細書の記載からみてモルフォロジーの形成に影響すると解されるものである。また、射出成形の条件についても、背圧、スクリュー回転数、射出速度などは特定されていない。
そして、本件特許の出願時において、甲1-1発明及び甲1-2発明において特定されていない、ペレット製造時の押出機の長さ(L)、せん断速度、切断時のストランドの表面温度など、また、射出成形時の背圧、スクリュー回転数、射出速度などの条件は、熱可塑性ポリエステル樹脂連続相中における臭素系難燃剤とアンチモン化合物の分散相のモルフォロジーに全く影響しないことが技術常識であったとは認められない。
そうすると、甲1-1発明及び甲1-2発明で特定されている製造条件では、得られた成形体が、本件モルフォロジー構造を有するものとまですることはできないから、甲1-1発明及び甲1-2発明は、相違点2に係る本件特許発明1の構成を有するものとすることはできない。
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

c この点に関し、甲4には、甲1の比較例1(注:「試料A」に相当。甲1-1発明に対応するもの。)及び比較例2(注:「試料B」に相当。甲1-2発明に対応するもの。)を、次のような条件で再現し、製造された試験片のモルフォロジーを確認すると、本件特許発明と同じであった旨主張している。

「試料A:特開2001-106881号公報の比較例1に記載の配合成分(・・・)を予め均一にブレンドした後、スクリュウ径44mmのベント付き二軸押出機を用いて、シリンダ温度250℃、スクリュウ回転数120rpm、吐出量50kg/hにて溶融混練し、ストランド状に押出し、冷却後切断して成形用ペレットを得た。」
「試料B:特開2001-106881号公報の比較例2に記載の配合成分(・・・)を予め均一にブレンドした後、スクリュウ径44mmのベント付き二軸押出機を用いて、シリンダ温度250℃、スクリュウ回転数120rpm、吐出量50kg/hにて溶融混練し、ストランド状に押出し、冷却後切断して成形用ペレットを得た。」
「成形試験片の作成
上記試料A?Dの樹脂組成物ペレットを130℃で3時間熱風乾燥した後、型締め力60tの射出成形機を用いて、80mm×80mm×3mmの板状試験片を得た。試料Aと試料Bは、シリンダ温度260℃、金型温度80℃の条件で、試料Cと試料Dは、シリンダ温度270℃、金型温度80℃の条件で成形した。上記板状試験片の断面を研磨して、モルフォロジー観察用の試料を作成した。」

甲4によれば、甲4に記載された試料A及びBのペレットを用いて成形した板状試験片は、甲1-1発明及び甲1-2発明において特定されている製造条件と同一の製造条件で製造されたことが確認できるが、甲4には、当該両発明において特定されていない、ペレット製造時の押出機の長さ(L)や切断時のストランドの表面温度や射出成形時の背圧、スクリュー回転数、射出速度などの、モルフォロジーに影響を及ぼす可能性のある条件について、どのようなものを採用したのか記載されておらず、これらの点は、甲4の実験を行う際に、広範な条件から適切な条件を設定したものと解釈することが自然である。
そうすると、甲4に記載された試料A及びBのペレットを用いて成形した板状試験片は、甲1-1発明及び甲1-2発明で特定されているものと同じ条件で製造されていて、本件モルフォロジー構造を有していたとしても、甲4の実験を行う際に、両発明において特定されていないモルフォロジーに影響を及ぼす可能性のある条件について、広範な条件から適切な条件を採用したことによる影響を無視することはできないものと解釈すべきであって、甲4は、そのような条件の特定のない甲1-1発明及び甲1-2発明が本件モルフォロジー構造を有することを示すものとすることはできない。

(ウ)小括
以上によれば、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえないから、本件特許発明1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるということはできない。

(2)甲2発明との対比・判断
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂 固有粘度0.85」、「(B-a)臭素化ポリカーボネート 帝人化成製 FG8500」、「(C)アンチモン化合物 日本精鉱製 SBO-G(PATOX-MK)」、「成形体」は、それぞれ本件特許発明1の「熱可塑性ポリエステル樹脂(A)」、「臭素化ポリカーボネート・・・から選ばれる少なくとも1種の臭素系難燃剤(B)」、「アンチモン化合物(C)」、「ポリエステル樹脂成形体」に相当し、甲2発明における各成分の含有量は、本件特許発明1のそれと重複一致する。
したがって、本件特許発明1と甲1-1発明又は甲1-2発明は、
「熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、臭素化ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種の臭素系難燃剤(B)を3?60質量部、アンチモン化合物(C)を0.5?20質量部含有するポリエステル樹脂組成物からなる成形体。」
である点で一致し、次の点において相違、又は一応相違する。

<相違点1’>
本件特許発明1は、ポリエステル樹脂組成物中の臭素系難燃剤(B)由来の臭素原子と、アンチモン化合物(C)由来のアンチモン原子の質量比(Br/Sb)が1.72?5であるのに対し、甲2発明は、対応する事項が不明である点。
<相違点2’>
本件特許発明1は、本件モルフォロジー構造を有するのに対し、甲2発明は、モルフォロジ-がどのようなものであるのか不明である点。

イ 判断
(ア)相違点1’について
甲4の「2.2.」(5頁)には、甲2発明の臭素化ポリカーボネート系難燃剤である「帝人化(株)製ファイヤーガード7500」は、臭素含有量52%であり、また、甲2発明のアンチモン化合物の「日本精鉱(株)製PATOX-MK」は、アンチモン含有量83.2%と記載されている。
そうすると、甲2発明における「ポリエステル樹脂組成物中の臭素系難燃剤(B)由来の臭素原子と、アンチモン化合物(C)由来のアンチモン原子の質量比(Br/Sb)」は、1.88((15.0重量部×0.52)÷(5.0重量部×0.832))」となり、本件特許発明1の「1.72?5」の範囲に含まれる。
したがって、相違点1’は、実質的な相違点とはいえない。

(イ)相違点2’について
a 甲2発明における製造条件についてみると、ペレットの製造条件について、2軸押出機のスクリュー径とシリンダー温度が、また、射出成形の条件について、シリンダー温度と金型温度が特定されている。
しかし、ペレットの製造条件の押出機の長さ(L)、スクリュー回転数、吐出量、せん断速度、切断時のストランドの表面温度などについては特定されておらず、これらの条件は、前記(1)イ(イ)aのとおり、本件特許明細書の記載からみてモルフォロジーの形成に影響すると解されるものである。また、射出成形の条件についても、背圧、スクリュー回転数、射出速度などは特定されていない。
そして、本件特許の出願時において、甲2発明において特定されていない、ペレット製造時の押出機の長さ(L)、スクリュー回転数、吐出量、せん断速度、切断時のストランドの表面温度など、また、射出成形時の背圧、スクリュー回転数、射出速度などの条件は、熱可塑性ポリエステル樹脂連続相中における臭素系難燃剤とアンチモン化合物の分散相のモルフォロジーに全く影響しないことが技術常識であったとは認められない。
そうすると、甲2発明で特定されている製造条件では、得られた成形体が、本件モルフォロジー構造有するものとまですることはできないから、甲2発明は、相違点2’に係る本件特許発明1の構成を有するものとすることはできない。
したがって、本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえない。

b この点に関し、甲4には、甲2の実施例1(注:甲2発明に対応するもの。)を、次のような条件で再現し、製造された試験片のモルフォロジーを確認すると、本件特許発明と同じであった旨主張している。

「試料C:特開2006-257175号公報の実施例1に記載の配合成分のうちガラス繊維以外(・・・)を元込めから、ガラス繊維(・・・)はサイドフィーダーから、スクリュウ径58mmのベント付き二軸押出機に供給し、シリンダ温度250℃、スクリュウ回転数120rpm、60kg/hrの条件で溶融混練した。ダイスから吐出されたストランドを冷却バスで冷却した後、ストランドカッターにてペレット化した。」
「成形試験片の作成
上記試料A?Dの樹脂組成物ペレットを130℃で3時間熱風乾燥した後、型締め力60tの射出成形機を用いて、80mm×80mm×3mmの板状試験片を得た。試料Aと試料Bは、シリンダ温度260℃、金型温度80℃の条件で、試料Cと試料Dは、シリンダ温度270℃、金型温度80℃の条件で成形した。上記板状試験片の断面を研磨して、モルフォロジー観察用の試料を作成した。」

甲4に記載された試料Cのペレットを用いて成形した板状試験片は、甲2発明において特定されている製造条件についてはほぼ同一とし、甲2発明において特定されていないペレット製造時のスクリュー回転数と吐出量については独自に数値を設定して製造されたものであることが確認できる。ここで、スクリュー回転数や吐出量は、モルフォロジーに影響を及ぼす可能性のある条件であることは、前記aのとおりである。
そうすると、甲4に記載された試料Cのペレットを用いて成形した板状試験片は、甲2発明で特定されているものと異なる条件で製造されたものといわざるを得ないし、かかる試験片が本件モルフォロジー構造を有していたとしても、それと異なる条件で製造されている甲2発明が本件モルフォロジー構造を有することを示すものとすることはできない。

また、ペレット製造時のスクリュー回転数や吐出量以外にも、モルフォロジーに影響を及ぼす可能性のある条件はあるところ、これらは、甲2発明において特定されておらず、甲4での試料Cのペレットを用いて成形した板状試験片の製造に際しては、広範な条件から適切な条件を設定したものと解釈すべきであることは、前記(1)イ(イ)cのとおりである。
この点からも、甲4が、甲2発明が本件モルフォロジー構造を有することを示しているとすることはできない。

(ウ)小括
以上によれば、本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえないから、本件特許発明1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるということはできない。

(3)甲3発明との対比・判断
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「(A-a)ポリブチレンテレフタレート樹脂 固有粘度0.85 東レ(株)製PBT“トレコン”1100S」、「(D-a)臭素化エポキシ化合物 大日本インキ株式会社製“ECX30”」、「(E-a)アンチモン化合物 三酸化アンチモン 鈴裕化学株式会社製“ファイヤーカットAT-3”」、「成形体」は、それぞれ本件特許発明1の「熱可塑性ポリエステル樹脂(A)」、「臭素化エポキシから選ばれる少なくとも1種の臭素系難燃剤(B)」、「アンチモン化合物(C)」、「ポリエステル樹脂成形体」に相当し、甲3発明における各成分の含有量は、本件特許発明1のそれと重複一致する。
したがって、本件特許発明1と甲3発明は、
「熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、臭素化エポキシから選ばれる少なくとも1種の臭素系難燃剤(B)を3?60質量部、アンチモン化合物(C)を0.5?20質量部含有するポリエステル樹脂組成物からなる成形体。」
である点で一致し、次の点において相違、又は一応相違する。

<相違点1’’>
本件特許発明1は、ポリエステル樹脂組成物中の臭素系難燃剤(B)由来の臭素原子と、アンチモン化合物(C)由来のアンチモン原子の質量比(Br/Sb)が1.72?5であるのに対し、甲3発明は、対応する事項が不明である点。
<相違点2’’>
本件特許発明1は、本件モルフォロジー構造を有するのに対し、甲3発明は、モルフォロジ-がどのようなものであるのか不明である点。

イ 判断
(ア)相違点1’’について
甲4の「2.2.」(5頁)によれば、甲3発明の「臭素化エポキシ化合物 大日本インキ株式会社製“ECX30”」は、臭素含有量54.5%であり、また、甲3発明の「アンチモン化合物 三酸化アンチモン 鈴裕化学株式会社製“ファイヤーカットAT-3”」は、アンチモン含有量83.2%と記載されている。
そうすると、甲3発明における「ポリエステル樹脂組成物中の臭素系難燃剤(B)由来の臭素原子と、アンチモン化合物(C)由来のアンチモン原子の質量比(Br/Sb)」は、1.97((30重量部×0.545)÷(10重量部×0.832))」となり、本件特許発明1の「1.72?5」の範囲に含まれることとなる。
したがって、相違点1’’は、実質的な相違点とはいえない。

(イ)相違点2’’について
a 甲3発明における製造条件についてみると、ペレットの製造条件について、2軸押出機のスクリュー径とシリンダー温度が、また、射出成形の条件について、シリンダー温度と金型温度が特定されている。
しかし、ペレットの製造条件の押出機の長さ(L)、スクリュー回転数、吐出量、せん断速度、切断時のストランドの表面温度などについては特定されておらず、前記(1)イ(イ)aのとおり、これらの条件は、本件特許明細書の記載からみてモルフォロジーの形成に影響すると解されるものである。また、射出成形の条件についても、背圧、スクリュー回転数、射出速度などは特定されていない。
そして、本件特許の出願時において、甲3発明において特定されていない、ペレット製造時の押出機の長さ(L)、スクリュー回転数、吐出量、せん断速度、切断時のストランドの表面温度など、また、射出成形時の背圧、スクリュー回転数、射出速度などの条件は、熱可塑性ポリエステル樹脂連続相中における臭素系難燃剤とアンチモン化合物の分散相のモルフォロジーに全く影響しないことが技術常識であったとは認められない。
そうすると、甲3発明で特定されている製造条件では、得られた成形体が、本件モルフォロジー構造を有するものとまですることはできないから、甲3発明は、相違点2’’に係る本件特許発明1の構成を有するものとすることはできない。
したがって、本件特許発明1は、甲3に記載された発明であるとはいえない。

b この点に関し、甲4には、甲3の比較例4(注:甲3発明に対応するもの。)を、次のような条件で再現し、製造された試験片のモルフォロジーを確認すると、本件特許発明と同じであった旨主張している。

「試料D:特開2008-13805号公報の比較例4に記載の配合成分のうちガラス繊維以外(・・・)を元込めから、ガラス繊維(・・・)はサイドフィーダーから、スクリュウ径58mmのベント付き二軸押出機に供給し、シリンダ温度250℃、スクリュウ回転数120rpm、60kg/hrの条件で溶融混練した。ダイスから吐出されたストランドを冷却バスで冷却した後、ストランドカッターにてペレット化した。」
「成形試験片の作成
上記試料A?Dの樹脂組成物ペレットを130℃で3時間熱風乾燥した後、型締め力60tの射出成形機を用いて、80mm×80mm×3mmの板状試験片を得た。試料Aと試料Bは、シリンダ温度260℃、金型温度80℃の条件で、試料Cと試料Dは、シリンダ温度270℃、金型温度80℃の条件で成形した。上記板状試験片の断面を研磨して、モルフォロジー観察用の試料を作成した。」

甲4に記載された試料Dのペレットを用いて成形した板状試験片は、甲3発明において特定されている製造条件についてはほぼ同一とし、甲3発明において特定されていないペレット製造時のスクリュー回転数と吐出量については独自に数値を設定して製造されたものであることが確認できる。ここで、スクリュー回転数や吐出量は、モルフォロジーに影響を及ぼす可能性のある条件であることは、前記aのとおりである。
そうすると、甲4に記載された試料Dのペレットを用いて成形した板状試験片は、甲3発明で特定されているものと異なる条件で製造されたものといわざるを得ないし、かかる試験片が本件モルフォロジー構造を有していたとしても、それと異なる条件で製造されている甲3発明が本件モルフォロジー構造を有することを示すものとすることはできない。

また、ペレット製造時のスクリュー回転数や吐出量以外にも、モルフォロジーに影響を及ぼす可能性のある条件はあるところ、これらは、甲3発明において特定されておらず、甲4での試料Dのペレットを用いて成形した板状試験片の製造に際しては、広範な条件から適切な条件を設定したものと解釈すべきであることは、前記(1)イ(イ)cのとおりである。
この点からも、甲4が、甲3発明が本件モルフォロジー構造を有することを示しているとすることはできない。

(ウ)小括
以上によれば、本件特許発明1は、甲3に記載された発明であるとはいえないから、本件特許発明1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるということはできない。

3 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、本件特許発明1をさらに限定したものであるから、上記2に示した判断と同様の理由により、甲1、甲2又は甲3に記載された発明であるとはいえないから、本件特許発明2ないし4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるということはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-05-01 
出願番号 特願2012-38133(P2012-38133)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 藤原 浩子
山本 英一
登録日 2016-05-20 
登録番号 特許第5937378号(P5937378)
権利者 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
発明の名称 ポリエステル樹脂組成物成形体  
代理人 小野 尚純  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 平川 さやか  

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