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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01H
管理番号 1327920
異議申立番号 異議2017-700100  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-02 
確定日 2017-05-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第5963477号発明「スイッチの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5963477号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5963477号の請求項1に係る特許についての出願は、平成24年3月6日に特許出願され、平成28年7月8日に特許の設定登録がされ、同年8月3日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、特許異議申立人尾田久敏(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件特許発明
特許第5963477号の請求項1の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(以下、「本件特許発明」という。)
「突起と端子が付された底面,及び,側壁を備え開口部が形成された耐熱樹脂からなるベース部と,前記ベース部に収納され前記ベース部内において摺動自在な作動桿と,開口部を有し,前記ベース部と組み合わされ前記作動桿の摺動域を制限する耐熱樹脂からなるカバー部と,前記カバー部の開口部を密着して覆う耐熱シートと,を有するスイッチ本体を,前記スイッチ本体の前記ベース部の前記突起に対応した孔及び前記ベース部の前記端子に対応した位置に接続領域にハンダペーストを印刷したプリント基板に,前記突起と前記孔が嵌合し,かつ,前記端子と前記接続領域がハンダを介して重なり合うよう配置する工程,
前記スイッチ本体及び前記プリント基板周囲の雰囲気の温度を前記ハンダの融点以上に昇温して前記スイッチ本体及び前記プリント基板を固着する工程の後に,前記スイッチ本体の前記耐熱シートを剥がし,前記スイッチ本体の前記作動桿にボタン部を嵌め込む工程とを有することを特徴とするスイッチの製造方法。」

第3.異議申立人の主張の概要
異議申立人は、証拠として下記の甲第1ないし10号証を提出し、本件特許発明は、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消すべきものである旨の主張をしている。
甲第1号証:実願昭57-61183号(実開昭58-164138号)のマイクロフイルム
甲第2号証:特公平5-61731号公報
甲第3号証:特開2005-100785号公報
甲第4号証:特開2003-257285号公報
甲第5号証:実用新案登録第2513518号公報
甲第6号証:実公昭63-34180号公報
甲第7号証:「’91スイッチカタログ総合編」株式会社フジソク営業技術部、平成2年10月発行
甲第8号証:「’90スイッチカタログ総合編」株式会社フジソク計画部業務課、平成元年10月発行
甲第9号証:「操作スイッチ総合カタログ’91」オムロン株式会社スイッチ事業部、1991年8月発行
甲第10号証:「回路部品カタログ2000?2001第1版」日本電産コパル電子株式会社宣伝企画、2000年8月1日発行

第4.甲各号証
1.甲第1号証について
甲第1号証には、「押釦スイッチ」に関して、図面(第1図及び第2図参照。)とともに次の事項が記載されている。
ア.「この考案は前述の要請に応えるもので、従来所謂タクトスイッチをプリント基板のパターン上に載置可能に形成し、かつ該タクトスイッチの端子部にクリームパンダを塗布して高温槽における熱処理をすることにより、パターンと端子部の結着を可能にする押釦スイッチの提供を図るものである。」(明細書第2ページ第19行ないし第3ページ第5行)

イ.「第1図に示す押釦スイッチは、従来所謂タクトスイッチを改良したもので、スイッチ筐体1の内底面に固定接点2a,2bが三個一列状に整列して設けられ、これらの固定接点2aと接続された各2本の端子部3,3がスイッチ筐体1の左右両側へ、底面4とほぼ同一面となるように延出させてある。」(明細書第3ページ7行ないし12行)

ウ.「そしてこの可動接点5を押圧するステム6が、可動接点5の中心部と接する突起6aを備えてスイッチ筐体1内に浮沈自在に挿入されている。7はカバー体でスイッチ筐体1の側部に突設した係合突起1a,1aと係合し、ステム6の一部を孔7aに緩嵌合している。しかして、可動接点5は、その素材を従来のようにリン青銅とすることなく、バネ用のステンレス、洋白又はベリリウム銅が用いられる。これはAgクラッドのし易いリン青銅を可動接点5に用いることとすれば、端子部3,3のハンダ付けにクリームハンダを用いて高温槽(240℃)に1分間程度放置してパターンと端子部3,3との結着をする熱処理をした際、可動接点5のクリック感が消失することに因る。」(明細書第3ページ第18行ないし第4ページ第11行)

エ.「更に、熱処理することによるスイッチ筐体1の形状の変化が考えられる。そこで、スイッチ筐体1の素材としてガラス繊維にて強化された、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル、エーテルケトン又はポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂、又はフェノール系若しくはエポキシ系などの熱硬化性樹脂を用いる。
なお、第1図において、8はプリント基板に載置固定するための位置決め突起で2個が一列に並んで設けられている。
第2図は上記押釦スイッチを、プリント基板9のパターン10上に載せ、プリント基板9に穿設した一対の位置決め孔9aに前記位置決め突起8を挿入して固定し、かつ、端子部3,3とパターン10とをハンダ付けし、又は端子部3,3とパターン10上にクリームハンダ11を塗布して熱処理をなし、パターン10と端子部3,3とが結着(ハンダ付け)された状態を示している。この状態において、ステム6が押圧されると、第1図仮想線図示の如く、可動接点5の中央部が突起6aにより、圧下されて常開している中心部の固定接点2bと接して他の固定接点2a,2aと導通する。」(明細書第4ページ第15行ないし第5ページ第17行)

オ.「そして、可動接点5及びスイッチ筐体1の各素材を耐熱性素材にて形成するならば、クリームハンダを端子部に塗布し、プリント基板9と共に高温槽に入れて熱処理をしても機能及び形状において変化を生じないから、高温槽によるクリームハンダ付けにも適する。」(明細書第6ページ第5ないし10行)

カ.上記イ.の「スイッチ筐体1の内底面に固定接点2a,2bが三個一列状に整列して設けられ、これらの固定接点2aと接続された各2本の端子部3,3がスイッチ筐体1の左右両側へ、底面4とほぼ同一面となるように延出させてある」との記載、並びに上記エ.の「8はプリント基板に載置固定するための位置決め突起で2個が一列に並んで設けられている。」との記載、及び第1図によれば、端子部3,3がスイッチ筐体1の側部から延出し、また、スイッチ筐体1の底面に位置決め突起8が設けられていることが分かる。

キ.上記エ.の「熱処理することによるスイッチ筐体1の形状の変化が考えられる。そこで、スイッチ筐体1の素材としてガラス繊維にて強化された。ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル、エーテルケトン又はポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂、又はフェノール系若しくはエポキシ系などの熱硬化性樹脂を用いる。」との記載、及び上記オ.の.「可動接点5及びスイッチ筐体1の各素材を耐熱性素材にて形成するならば、クリームハンダを端子部に塗布し、プリント基板9と共に高温槽に入れて熱処理をしても機能及び形状において変化を生じない」との記載によれば、スイッチ筐体1は耐熱性素材としての樹脂からなることが分かる。

ク.上記ウ.の「そしてこの可動接点5を押圧するステム6が、可動接点5の中心部と接する突起6aを備えてスイッチ筐体1内に浮沈自在に挿入されている。7はカバー体でスイッチ筐体1の側部に突設した係合突起1a,1aと係合し、ステム6の一部を孔7aに緩嵌合している。」との記載、及び第1図によれば、ステム6が、スイッチ筐体1内に浮沈自在に収納されることが分かり、また、孔7aを有するカバー体7がスイッチ筐体1の開口部を覆うことが分かり、更に、ステム6がカバー体7の孔7aと緩嵌合していることから、カバー体7がステム6の浮沈域を制限することが分かり、また、スイッチ筐体1と、ステム6と、カバー体7とで、押釦スイッチ本体を構成するといえる。

これらの記載事項、認定事項及び図面の図示内容を総合し、本件特許発明の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「位置決め突起8が付された底面4、及び、端子部3,3が延出する側部を備え開口部が形成された耐熱性素材としての樹脂からなるスイッチ筐体1と、前記スイッチ筐体1に収納され前記スイッチ筐体1内において浮沈自在なステム6と、孔7aを有し、前記スイッチ筐体1と組み合わされ前記ステム6の浮沈域を制限するカバー体7と、を有する押釦スイッチ本体を、前記押釦スイッチ本体の前記スイッチ筐体1の前記位置決め突起8に対応した位置決め孔9a及び前記スイッチ筐体1の前記端子部3,3に対応した位置にパターン10を有するプリント基板9に、前記位置決め突起8と前記位置決め孔9aが嵌合し、かつ、前記端子部3,3と前記パターン10を重なり合うよう配置する工程を有する、
押釦スイッチの製造方法。」

2.甲第2号証について
甲第2号証には、「発光表示部を有する押ボタンスイツチとその製造方法」に関して、図面(特に第3図参照。)とともに次の事項が記載されている。
ア.「このスイツチ本体部1は第2図に示す如く固定の基部1aと上下動自在な移動部1bとから構成され、内部に収容されたスプリング6により移動部1bが基部1aに対し離れる方向に付勢されている。」(第2ページ第3欄第40ないし44行)

イ.「また、スイツチ本体部1には、前述した発光表示部20のキヤツプ25と同一の外形の保護キヤツプ30が着脱自在である。保護キヤツプ30にも前述同様、係合突起8に対応する位置に係合溝31が形成されている。またキヤツプ25に設けられた透明部材24は無く、保護キヤツプ30は単一の素材のみで単なる枠体として一体形成する。
次に、上記構成による発光表示部を有する押ボタンスイツチの製造方法を説明する。
この製造方法とは、前記スイツチを基板に取付ける方法である。まず、第2図に示す如く、基板に取付ける際には、スイツチ本体部1から、発光表示部20を取り外す。
そして、第3図に示す如く、保護キヤツプ30をスイツチ本体部1に取付けた後に基板40に対し、所定の半田付けを行なうようにする。
これにより、半田付けの際に端子3からスプリング6を介して伝導される熱は、スプリング6の一端6aで終端される。しかも、スイツチ本体部1から発光表示部20が取り外され、枠体としての保護キヤツプ30が、取付けられているのみであるのでLCD21等を損傷することが無いとともに、フラツクス噴射等の際には、表出するスプリング6の一端6aが保護キヤツプ30により保護することができる。
半田付けが終了した後には、第1図に示すように再びスイツチ本体部1に発光表示部20が取付けることにより、LCD21による各種発光表示を行なうことができる。」(第2ページ第4欄第19行ないし第3ページ第5欄第5行)

ウ.「尚、上述した保護キヤツプ30を予め製品出荷時にスイツチ本体部1に取付けておくことにより、半田付けの際に発光表示部20を取り外す手間を省くことができると同時に、輸送の際、スプリング6一端6aの損傷を防止することができ発光表示部のキヤツプ25と同一外形で出荷できるから、全体寸法を容易に知ることができる。」(第3ページ第5欄第9ないし15行)

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「スイツチ本体部1の移動部1bを覆う保護キヤツプ30を設ける押ボタンスイツチの製造方法。」

3.甲第3号証について
甲第3号証には、「押釦スイッチ」に関して、図面(特に【図1】及び【図3】参照。)とともに次の事項が記載されている。
ア.「【0010】
これらの図において、釦2の下部側面には一対又は複数の凸部2aを設け、プランジャ3の円盤形状の上面部3dに第一段部3a、第二段部3b、第三段部3cと高低差を持たせ、対を成す複数の段部を円周上に配設し、略中央部には支柱3fを形成し、該支柱3fには前記釦2の底面に設けた穴2cと組合せ、操作部を形成する前記釦2と前記プランジャ3の組合せ高さ位置調整を容易とする。
【0011】
また、スイッチ本体を構成するハウジング1の略中央部に貫通孔1aを設け、該貫通孔1aの上面に突起部1eを配設するとともに、該貫通孔1aの内面に上方から下方に向けて複数の案内1bを設け、前記ハウジング1の突起部1eには前記釦2の凸部2aを当接させ、該釦2の凸部2a側面と前記プランジヤ3の段部側面に設けた回転止め溝部2b、3eを前記ハウジング1の案内1bに係合させ、操作部の上下移動をガイドさせ、滑らかな操作部の動作を促すことができる。
【0012】
一方、複数の端子6fをインサート成形したベース6の中央部には、前記端子6fの何れか一つと一体的に形成された固定接点6dが植設してあり、該固定接点6dの外側には共通接点6eが左右一対の端子6fとベース6内部で結合した状態で配設され、さらに、該共通接点6eの外周にはベース6上面から円周リブ6bが立ち上がり、該円周リブ6b内にはバネ用燐青銅などの板状弾性部材をドーム状に形成した可動接片5を収納して軽快なクリックアクション特性を得ることができる。」
【0013】
また、前記円周リブ6bの内面には可動接片5の飛び出しを防止する為の内面凸部6gが対向して形成されている。そして、前記円周リブ6bの上面には凹部6cが設けられ、該凹部6cには前記操作部が押下された時、該操作部に復帰力を付勢するコイルバネ等の弾性部材4の一方を配設し、他方を前記プランジヤ3の上面部外周に配置する。
そして、上下動自在に操作部を配設したハウジング1の舌下部1cに形成した角孔1dとベース6に配設した凸部6aを嵌合係止して押釦スイッチを構成している。」

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲第3号証には、次の事項(以下、「甲3記載の事項」という。)が記載されている。
「プランジヤ3に釦2を設けること。」

4.甲第4号証について
甲第4号証には、「スイッチ」に関して、図面(特に【図1】ないし【図3】及び【図8】参照。)とともに次の事項が記載されている。
ア.「【0007】これらの図において、スイッチ本体部分を構成するとともに上面に貫通孔1aを形成した箱型のハウジング1には、内側から透光性部材にて形成したレバー2の操作部2aが前記貫通孔1aから組入れられてトグルスイッチを構成している。スイッチ駆動部である該レバー2にはクリップ状の可動接片3が可動接片3の上部に設けた孔3aを通してレバー2の突起2bを加締めて固定してあり、さらにコイルバネ5と滑動棒6がレバー2の中央部に収納されている。この状態でハウジング1の下方からベース9をハウジング1の角窓部1bとベース9の係合突起部9aに凹凸嵌合して組立てられる。
【0008】この際、ベース9には可動接片3に挟持される固定接点11が3本2列に立設した2極双投形の固定接点形態を構成しているが、可動接片3は片側極にのみ配設し、他方の極側には発光素子としてLED8が発光部8bをレバー2側に向けた状態で縦に配設されている。」

イ.「【0011】図8は本発明のスイッチの第2実施例を表す分解斜視図であり、照光式ロッカスイッチの構成事例である。本実施例においては転換子24とボタン22が透光性部材により形成されている。」

ウ.「【符号の説明】
1、21、41 ハウジング
1a、41a 貫通孔
1b、21b、41b 角窓部
2 レバー
2a、42a 操作部
2b 突起
3、23、43 可動接片
3a 孔
4、7 Oリング
5、25、45 コイルバネ
6、26 滑動棒
・・・(後略)・・・」

エ.【図8】から、転換子24に、滑動棒26及びコイルバネ25を介して、ボタン22を設けることが見て取れる。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲第4号証には、次の事項(以下、「甲4記載の事項」という。)が記載されている。
「転換子24に、滑動棒26及びコイルバネ25を介して、ボタン22を設けること。」

5.甲第5号証
甲第5号証には、「キーボードスイッチ」に関して、図面(特に【第1図】及び【第3図】参照。)とともに次の事項が記載されている。
ア.「第1図に示すように、本実施例はハウジング2と、このハウジング2に対して上下方向に自在に配設されるプランジャー1と、このプランジャーの下部に位置し動作復旧力を与えるコイルスプリング3と、ハウジング2に圧入固定され且つプランジャー1の上下方向の動作によって開閉を成すとともにバネ材から形成された可動接点バネ4及び固定接点片5と、プランジャー1の抜け止めを防止しプリント基板8への整列固定およびパターン配線の補助機能を有し且つ両側に端子部を形成した金属導電材料から成るアッププレート10とを具備している。本実施例は、特にアッププレート10の端子部12を覆う側壁25をハウジング2に設けたことにあり、この側壁25により隣り合うキーボードスイッチ間に落下した導電物によるショートを防止し、パターン配線補助機能の信頼性を向上させることができる。」(第2ページ第4欄第18ないし32行)

イ.「尚、27はキートップである。」(第3ページ第6欄第1行)

ウ.【図3】から、プランジャー1にキートップ27を設けることが見て取れる。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲第5号証には、次の事項(以下、「甲5記載の事項」という。)が記載されている。
「プランジャー1にキートップ27を設けること。」

6 .甲第6号証
甲第6号証には、「押しボタンスイツチ」に関して、図面(特にFig.1参照。)とともに次の事項が記載されている。
ア.「このスイッチは、下位のハウジング部分1と、差込基部2と、二本のブレードスプリング3とを具える。ブレードスプリング3は、下位のハウジング部分1と差込基部2との間に、これらの二個の構成要素を接合するに際して落し込むことによつて、下位のハウジング部分1に固着される。各ブレードスプリング3は対応する接点ピン4を有しており、この接点ピンによつてスイツチをプリント回路板に固着し、また電気的に接続することができる。
下位のハウジング部分1は、コイルスプリング6によつて囲まれる環状部分5を有する。この環状部分内に、プランジヤー7を摺動可能に配置し、このプランジヤー7をスプリング6によつて第1の位置へ上向きに附勢する。このプランジヤー7は、下位のハウジングにスナツプ嵌めすることにより配置される上位のハウジング部分8によつて、下位のハウジング部分1に固着される。」(第2ページ第4欄第36行ないし第3ページ第5欄第9行)

イ.「第1図に示すスイツチの実施例ではまた、プランジヤーおよびプランジヤー7に隣接して収容される指示ランプ16の頂部上に、光を通すキヤツプボタン15を設ける。」(第3ページ第5欄第23行ないし26行)

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲第6号証には、次の事項(以下、「甲6記載の事項」という。)が記載されている。
「プランジヤー7にキヤツプボタン15を設けること。」

7.甲第7号証について
甲第7号証には、「Surface Dip Slide」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「特長
1.高耐熱樹脂の採用により、リフローハンダによる実装が可能です。
2.ツマミ表面のテープシールにより、丸洗い洗浄が可能です。」(第48ページ左欄第1ないし5行)

イ.「・テープが貼り付けてありますのでフラックス洗浄はそのまま行ってください。」(第49ページの取扱注意事項右欄4及び5行)

ウ.第48ページの左欄のSurface Dip Slideの構造図から、カバーの上面にテープを設けることが見て取れる。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲第7号証には、次の事項(以下、「甲7記載の事項」という。)が記載されている。
「Surface Dip Slideのカバーの上面にテープを設けること。」

8.甲第8号証について
甲第8号証には、「DIPスイッチ」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「4.DSS3タイプについては上記の他に次の特長がございます。ツマミをケース内に沈めテープを貼り付けていますのでフラックス洗浄時に丸洗いができます。」(第36ページ左欄第7ないし10行)

イ.第36ページの右上の構造図において、DSS3タイプのDIPスイッチは、ケースの上面にテープシールを設けることが見て取れる。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲第8号証には、次の事項(以下、「甲8記載の事項」という。)が記載されている。
「DSS3タイプのDIPスイッチのケースの上面にテープシールを設けること。」

9.甲第9号証について
甲第9号証には、「ディップスイッチ」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「・テープシールタイプは上面をテーピングしており、はんだづけ時に付着するフラックス除去の洗浄が可能です。」(第314ページ右欄第2ないし5行)

イ.第315ページの中段のテープシールタイプ形A6B-□102の側面図には、上面にシールテープを設けることが見て取れる。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲第9号証には、次の事項(以下、「甲9記載の事項」という。)が記載されている。
「テープシールタイプのディップスイッチの上面にシールテープを設けること。」

10.甲第10号証について
甲第10号証には、「SLIDE SWITCHES(SMD)」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「CHS-08A洗浄タイプ(テープシール有り)」(第32ページ左上欄第2及び3行)

イ.第32ページ左上欄の上記CHS-08A洗浄タイプ(テープシール有り)の側面図には、上面にテープシールを設けることが見て取れる。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、甲第10号証には、次の事項(以下、「甲10記載の事項」という。)が記載されている。
「CHS-08A洗浄タイプ(テープシール有り)の上面にテープシールを設けること。」

第5.対比・判断
1.対比
本件特許発明と甲1発明とを対比すると、その技術的意義、機能または構造からみて、甲1発明における「位置決め突起8」は、本件特許発明における「突起」に相当し、以下同様に、「底面4」は「底面」に、「端子部3,3」は「端子」に、「側部」は「側壁」に、「耐熱性素材としての樹脂」は「耐熱樹脂」に、「スイッチ筐体1」は「ベース部」に、「孔7a」は[開口部]に、「ステム6」は「作動桿」に、「カバー体7」は「カバー部」に、「位置決め孔9a」は「孔」に、「パターン10」は「接続領域」に、「プリント基板9」は「プリント基板」に、「押釦スイッチ」は「スイッチ」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明における「スイッチ筐体1内において浮沈自在なステム6」は、「ベース部内において移動自在な作動桿」という限りにおいて、本件特許発明における「ベース部内において摺動自在な作動桿」と共通し、甲1発明における「浮沈域」は、「移動域」という限りにおいて、本件特許発明における「摺動域」と共通する。
さらに、甲1発明における「押釦スイッチ本体」は、耐熱シートを有しないが、「スイッチ本体」という限りにおいて、本件特許発明における「スイッチ本体」と共通する。
また、甲1発明における「前記押釦スイッチ本体の前記スイッチ筐体1の前記位置決め突起8に対応した位置決め孔9a及び前記スイッチ筐体1の前記端子部3,3に対応した位置にパターン10を有するプリント基板9」は、「前記スイッチ本体の前記ベース部の前記突起に対応した孔及び前記ベース部の端子に対応した位置に接続領域を有するプリント基板」という限りにおいて、本件特許発明における「前記スイッチ本体の前記ベース部の前記突起に対応した孔及び前記ベース部の前記端子に対応した位置に接続領域にハンダペーストを印刷したプリント基板」と共通する。

したがって、本件特許発明と甲1発明とは、
[一致点]
「突起が付された底面、及び、側壁を備え開口部が形成された耐熱樹脂からなるベース部と、前記ベース部に収納され前記ベース部内において移動自在な作動桿と、開口部を有し、前記ベース部と組み合わされ前記作動桿の移動域を制限するカバー部と、を有するスイッチ本体を、前記スイッチ本体の前記ベース部の前記突起に対応した孔及び前記ベース部の端子に対応した位置に接続領域を有するプリント基板に、前記突起と前記孔が嵌合し、かつ、前記端子と前記接続領域を重なり合うよう配置する工程を有する、
スイッチの製造方法。 」
の点で一致し、以下の各点で相違している。

[相違点1]
本件特許発明においては、「端子」が「ベース部」の「底面」に付されているのに対し、甲1発明においては、端子部3,3(本件特許発明における「端子」に相当。)がスイッチ筐体1(本件特許発明における「ベース部」に相当。)の側部から延出する点。

[相違点2]
本件特許発明においては、「作動桿」が「ベース部内において摺動自在」であり、「カバー部」が「作動桿の移動域を制限する」のに対し、甲1発明においては、ステム6(本件特許発明における「作動桿」に相当。)がスイッチ筐体1内において浮沈自在であり、カバー体7(本件特許発明における「カバー部」に相当。)部がステム6の浮沈域を制限する点。

[相違点3]
本件特許発明においては、「カバー部」が、「耐熱樹脂からなる」のに対し、甲1発明においては、カバー体7の素材が明らかでない点。

[相違点4]
本件特許発明においては、「スイッチ本体」が「前記カバー部の開口部を密着して覆う耐熱シート」を有し、「前記スイッチ本体及び前記プリント基板周囲の雰囲気の温度を前記ハンダの融点以上に昇温して前記スイッチ本体及び前記プリント基板を固着する工程の後に,前記スイッチ本体の前記耐熱シートを剥がし,前記スイッチ本体の前記作動桿にボタン部を嵌め込む工程とを有する」のに対し、甲1発明においては、押釦スイッチ本体が耐熱シートを有するものではなく、「前記スイッチ本体の前記耐熱シートを剥がし、前記スイッチ本体の前記作動桿にボタン部を嵌め込む工程」を有しない点。

[相違点5]
本件特許発明においては、「プリント基板」に「前記ベース部の前記端子に対応した位置に接続領域にハンダペーストを印刷した」ものであって、前記端子と前記接続領域が「ハンダを介して」重なり合うよう配置するものであるのに対し、甲1発明においては、プリント基板9にハンダペーストを印刷するものであるかどうかが明らかでなく、前記端子部3,3と前記パターン10をハンダを介して重なり合うよう配置するかどうかが明らかでない点。

2.判断
相違点4について検討する。
甲2発明における「保護キヤツプ30」は、第4.2.で「半田付けの際に端子3からスプリング6を介して伝導される熱は、スプリング6の一端6aで終端される。しかも、スイツチ本体部1から発光表示部20が取り外され、枠体としての保護キヤツプ30が、取付けられているのみであるのでLCD21等を損傷することが無いとともに、フラツクス噴射等の際には、表出するスプリング6の一端6aが保護キヤツプ30により保護することができる。」と記載されるように、半田付けの際に噴射されるフラックスから保護するものである。
一方、甲1発明は、第4.1.で「可動接点5及びスイッチ筐体1の各素材を耐熱性素材にて形成するならば、クリームハンダを端子部に塗布し、プリント基板9と共に高温槽に入れて熱処理をしても機能及び形状において変化を生じないから、高温槽によるクリームハンダ付けにも適する。」と記載されるように、クリームハンダ付け行う際に高温槽に入れて熱処理を行うものでありフラックスを噴射するものではない。
したがって、フラックス噴射から、スイツチ本体部1の移動部1bに設けられたスプリング6の一端6aを保護するための「保護キヤツプ30」に関する甲2発明を甲1発明に適用する動機付けはない。
加えて、甲2発明の「保護キヤツプ30」は、スイツチ本体部1の移動部1bを密着して覆うものでもない。
よって、相違点4に係る本件特許発明の発明特定事項は、甲1発明及び甲2発明から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

次に、証拠として提出された甲第3ないし10号証を検討する。
仮に、甲7ないし10記載の事項を総合して「スイッチの上面にテープを設けること。」が周知の技術であるとしても、甲第1号証の押釦スイッチのカバー体7の上面にはステム6の突出部があるため、甲1発明に「スイッチの上面にテープを設ける」との周知の技術を適用しても、当該「テープ」が、甲1発明の押釦スイッチ本体の上面を密着して覆うか定かではない。
そうすると、甲1発明に甲7ないし10記載の事項を適用して、相違点4に係る本件特許発明の発明特定事項とすることは当業者が容易にな想到し得たものとはいえない。
また、甲3ないし6記載の事項は、それぞれ、甲3記載の事項における「プランジヤ3」及び「釦2」、甲4記載の事項の「転換子24」及び「ボタン22」、甲5記載の事項における「プランジャー1」及び「キートップ27」、甲6記載の事項における「プランジヤー7」及び「キヤツプボタン15」を備えるものであるが、相違点4に係る本件特許発明の発明特定事項に関するものではない。
以上を総合すると、甲1発明に甲2発明及び甲3ないし10記載の事項を適用して、相違点4に係る本件特許発明の発明特定事項を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、相違点1ないし3及び5について検討するまでもなく、本件特許発明は、甲1発明及び甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、また、甲1発明及び甲2発明並びに甲4ないし10記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。

3.異議申立人の主張について
異議申立人は、「甲1のスイッチ筐体1は、底面側に端子部3、位置決め突起8が設けられており、また第1図示されるように側壁とカバー体7で覆われる開口部を備えている。また耐熱性素材で形成されているから、本件特許発明のベース部に相当し構成要件Aを備えている。」旨の主張をしている(特許異議申立書第12ページ第9ないし12行を参照。)。
しかしながら、上記第4.1.で認定したように、甲第1号証の端子部3,3は、スイッチ筐体1の側部から延出するものであるから、この点で、本


件特許発明の構成要件Aを備えているとはいえず、異議申立人の上記主張は採用できない。
また、異議申立人は、「甲1のステム6はスイッチ筐体1内に浮沈自在に挿入されており、ステム6は本件特許発明の作動桿に相当するから、構成要件Bを備えている。」旨の主張をしている(特許異議申立書第12ページ第13及び14行を参照。)。
しかしながら、甲第1号証のステム6は、カバー体7の孔7a内を摺動するものであって、スイッチ筐体1内を摺動するものではないから、この点で、本件特許発明の構成要件Bを備えているとはいえず、異議申立人の上記主張は採用できない。
更に、異議申立人は、「甲1では押釦スイッチを、プリント基板9のパターン10上に載せ、プリント基板9に穿設した一対の位置決め孔9aに前記位置決め突起8を挿入して固定し、かつパターン10上にクリームハンダ11を塗布している。したがって、構成要件Eを備えている。」旨の主張をしている(特許異議申立書第12ページ第20行ないし第13ページ第2行を参照。)。
しかしながら、甲第1号証には、「端子部3,3とパターン10上にクリームハンダ11を塗布して」(明細書第5ページ第10及び11行)と記載されているに留まり、クリームハンダを印刷することは記載されていないから、この点で、本件特許発明の構成要件Eを備えているとはいえず、異議申立人の上記主張は採用できない。
また、異議申立人は、「甲1では、位置決め孔9aに位置決め突起8を挿入して押釦スイッチを固定した状態で端子部3,3とパターン10が結着しうる状態となる。したがって、構成要件Fを備えている。」旨の主張をしている(特許異議申立書第13ページ第3ないし5を参照。)。
しかしながら、甲第1号証の第2図を参酌しても、端子3,3とパターン10がクリームハンダ11を介して重なり合うよう配置されているかどうかが不明であり、この点で、本件特許発明の構成要件Fを備えているかどうかが不明であるから、異議申立人の上記主張は採用できない。

第6.むすび
したがって、特許異議の理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-04-26 
出願番号 特願2012-49162(P2012-49162)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 竹下 晋司  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 内田 博之
中川 隆司
登録日 2016-07-08 
登録番号 特許第5963477号(P5963477)
権利者 株式会社サンミューロン
発明の名称 スイッチの製造方法  

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