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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
管理番号 1327927
異議申立番号 異議2017-700213  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-03 
確定日 2017-05-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第5987335号発明「炭素長繊維強化ポリアミド樹脂プレプリグ及び成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5987335号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5987335号(以下、「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成24年2月3日を出願日とする出願であって、平成28年8月19日に設定登録がされ、平成28年9月7日に特許掲載公報が発行され、平成29年3月3日に特許異議申立人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし8の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであって、次のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリアミド樹脂と炭素繊維を含有してなり、該炭素繊維を40?80質量%含有し、該ポリアミド樹脂は融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差が20?60℃であり、前記ポリアミド樹脂が結晶性のポリアミド樹脂共重合体を含有することを特徴とする炭素長繊維強化ポリアミド樹脂プリプレグ。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂が2種類以上の結晶性ポリアミド樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の炭素長繊維強化ポリアミド樹脂プリプレグ。
【請求項3】
ポリアミド樹脂と炭素繊維を含有してなり、該炭素繊維を40?80質量%含有し、該ポリアミド樹脂は融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差が20?60℃であり、前記ポリアミド樹脂が1種類以上の結晶性ポリアミド樹脂と1種以上の非晶性ポリアミド樹脂を含有することを特徴とする炭素長繊維強化ポリアミド樹脂プリプレグ。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂の主成分としてポリアミド6が含有されていることを特徴とする請求項1?3のいずれか記載の炭素長繊維強化ポリアミド樹脂プリプレグ。
【請求項5】
ポリアミド樹脂と炭素繊維を含有してなり、該炭素繊維を40?80質量%含有し、該ポリアミド樹脂は融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差が20?60℃であり、前記ポリアミド樹脂が結晶性のポリアミド樹脂共重合体を含有することを特徴とする炭素長繊維強化ポリアミド樹脂成形品。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂が2種類以上の結晶性ポリアミド樹脂を含有することを特徴とする請求項5に記載の炭素長繊維強化ポリアミド樹脂成形品。
【請求項7】
ポリアミド樹脂と炭素繊維を含有してなり、該炭素繊維を40?80質量%含有し、該ポリアミド樹脂は融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差が20?60℃であり、前記ポリアミド樹脂が1種類以上の結晶性ポリアミド樹脂と1種以上の非晶性ポリアミド樹脂を含有することを特徴とする炭素長繊維強化ポリアミド樹脂成形品。
【請求項8】
前記ポリアミド樹脂の主成分としてポリアミド6が含有されていることを特徴とする請求項5?7のいずれか記載の炭素長繊維強化ポリアミド樹脂成形品。」
(請求項1ないし8に係る発明を、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)

第3 申立理由の概要
異議申立人は、証拠として下記甲第1号証を提出し、特許異議の申立ての理由として、概略、以下のとおり主張している。

1 取消理由1(特許法第29条第2項:進歩性)
本件特許の請求項1、2、4ないし6、8に係る各発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。

2 取消理由2(特許法第29条第2項:進歩性)
本件特許の請求項1ないし8に係る各発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開平11-188797号公報
(以下、「甲1」と略していう。)

第4 甲1の記載及び甲1に記載された発明
1 甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。

ア「【請求項1】 繊維強化樹脂成形品中に含有される繊維が、下記(数式1)において7以上600以下の値を有することを特徴とする繊維強化樹脂成形品。
(数式1) Σ(lwa×Wf)
(ここで、lwaは繊維強化樹脂成形品中に含まれる繊維の重量平均繊維長(mm)、Wfは繊維含有率(重量%)を示し、Σは繊維強化樹脂成形品中に含有される繊維の種類が複数である場合、それぞれの繊維について括弧内の値を合計することを意味する。)
【請求項2】 下記(数式2)の値が20以上1000以下である成形材料を用いて成形されたことを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂成形品。
(数式2) Σ(lwb×Wf)
(ここで、lwbは成形材料中に含まれる繊維の重量平均繊維長(mm)、Wfは繊維含有率(重量%)を示し、Σは成形材料中に含有される繊維の種類が複数である場合、それぞれの繊維について括弧内の値を合計することを意味する。)
【請求項5】 繊維強化樹脂成形品中に炭素繊維が含まれることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形品。
【請求項9】 マトリックス樹脂がポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。」(特許請求の範囲 請求項1、2、5、9)

イ「本発明の繊維強化樹脂成形品は、射出成形、プレス成形、トランスファー成形等によって成形されるが、最も望ましい成形法は、生産性の高い射出成形である。前記成形材料の形態としては、ペレット、BMC、SMC、スタンパブルシート等が挙げられるが、最も望ましい成形材料はペレットである。」(段落【0014】)

ウ「(数式1)において、Wfが8重量%以上70重量%以下、もしくはlwaが0.1mm以上10mm以下である場合、強度、剛性、耐衝撃性等の力学的特性が最も適正なバランスで両立できるだけでなく、繊維強化樹脂成形品を成形する際の成形性に特別に優れるので望ましい。更に望ましくは、Wfが10重量%以上45重量%以下、且つlwaが0.2mm以上7mm以下である。」(段落【0016】)

エ「強化繊維として望ましくは、強度、剛性、耐衝撃性を兼ねそなえ、且つ軽量で、導電性付与による電磁波シールド効果も期待できる炭素繊維を用いるのががよい。」(段落【0022】)

オ「本発明で用いるマトリックス樹脂としては、樹脂と繊維の界面接着性の面からポリアミド樹脂が望ましい。ポリアミド樹脂とは、例えばナイロン4、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン10、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46等の脂肪族ナイロン、ポリヘキサジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンジアミンイソフタル酸アミド、キシレン基含有ポリアミド等の芳香族ナイロン、およびそれらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂等を意味する。」(段落【0027】)

カ「(実施例1?8)溶融した樹脂を押出機を用いて押し出し、その先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に繊維束を連続して供給することによって溶融樹脂を繊維束に含浸させ、繊維強化樹脂ストランドを引き抜き成形する。前記ストランドを切断して長繊維ペレットを得る。」(段落【0035】)

キ「(実施例9)溶融した樹脂上に10mmにカットした繊維をランダムに配向させた後、プレスすることにより樹脂を繊維に含浸させてスタンパブルシートを得た。樹脂および繊維の種類、その成形品中の繊維含有率は表1に示した通り。
得られたスタンパブルシートを100℃にて5時間以上真空中で乾燥させた後、金型温度275℃にて、ダインスタット衝撃値評価試験片切り出し用繊維強化樹脂成形品、3点曲げ評価用繊維強化樹脂成形品、および体積固有抵抗評価用繊維強化樹脂成形品をプレス成形した。」(段落【0037】?【0038】)

ク「【表1】

」(段落【0042】 表1)

ケ「N6:ナイロン6樹脂[東レ(株)製アミランCM1010]
N66:ナイロン66樹脂[東レ(株)製アミランCM3007]
N6/66:ナイロン6樹脂(95%)とナイロン66樹脂(5%)の共重合樹脂[東レ(株)製アミランCM6011]
N66/6:ナイロン66樹脂(90%)とナイロン6樹脂(10%)の共重合樹脂[東レ(株)製アミランCM3301L]
・・・
CF1:炭素繊維[東レ(株)製トレカT700S、ε=2.1%]
CF2:炭素繊維[東レ(株)製トレカT300、ε=1.5%]
GF:ガラス繊維[日本電気硝子(株)製ER1150]」(段落【0043】)

2 甲1に記載された発明
上記摘示キないしケより、甲1には、実施例9から次の発明(以下、「甲1材料発明」という。)が記載されているものと認められる。

「溶融したN6:ナイロン6樹脂上に、CF2:炭素繊維[東レ(株)製トレカT300、ε=1.5%]を10mmにカットした繊維をランダムに配向させた後、プレスすることにより樹脂を繊維に含浸させ、繊維含有率(重量%)wfが40%である、スタンパブルシート。」

また、上記摘示キないしケより、甲1には、実施例9から次の発明(以下、「甲1成形品発明」という。)が記載されているものと認められる。

「溶融したN6:ナイロン6樹脂上に、CF2:炭素繊維[東レ(株)製トレカT300、ε=1.5%]を10mmにカットした繊維をランダムに配向させた後、プレスすることにより樹脂を繊維に含浸させて得られたスタンパブルシートを、100℃にて5時間以上真空中で乾燥させた後、金型温度275℃にて、プレス成形した、繊維強化樹脂成形品中に含まれる繊維の重量平均繊維長(mm)lwaが10mm、繊維含有率(重量%)wfが40%である、繊維強化樹脂成形品。」

第5 申立理由についての当審の判断
1 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1材料発明とを対比する。
甲1材料発明の「N6:ナイロン6樹脂」は、ポリアミド6であるから、本件発明1の「ポリアミド樹脂」に相当する。
甲1材料発明の「炭素繊維を10mmにカットした繊維」は、本件発明1の「炭素繊維」に相当し、その含有量について、甲1材料発明と本件発明1とは重複一致している。
甲1材料発明の「スタンパブルシート」は、繊維強化樹脂成形品の成形材料であって、炭素繊維を10mmにカットした繊維を含み、本件明細書の段落【0011】の「本発明に使用される炭素繊維の繊維長は、7.5mm以上であれば特に限定されない。」との記載から、本件発明1の「炭素長繊維強化ポリアミド樹脂プリプレグ」と、「炭素長繊維強化ポリアミド樹脂材料」の限りにおいて、一致する。

以上の点からみて、本件発明1と甲1材料発明とは、

[一致点]
「ポリアミド樹脂と炭素繊維を含有してなり、該炭素繊維を40?80質量%含有する、炭素長繊維強化ポリアミド樹脂材料。」

である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点1]
ポリアミド樹脂に関し、本件発明1は「ポリアミド樹脂は融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差が20?60℃であり、該ポリアミド樹脂が結晶性のポリアミド樹脂共重合体を含有する」と特定するのに対して、甲1材料発明ではそのような特定がない点。

[相違点2]
材料の形態に関し、本件発明1は「プリプレグ」であるのに対し、甲1材料発明では「スタンパブルシート」である点。

イ 判断
相違点1について
甲1材料発明は、ポリアミド樹脂として「N6:ナイロン6樹脂」のみを含有するが、当該「N6:ナイロン6樹脂」の、融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差については、甲1には記載がなく、20?60℃の範囲内にあるといえる根拠がない。
また、甲1材料発明のポリアミド樹脂である「N6:ナイロン6樹脂」は、ポリアミド6であるから、結晶性のポリアミドホモポリマーであって、結晶性のポリアミド樹脂共重合体ではない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1材料発明ではない。

甲1には、上記摘示オにポリアミド樹脂として、「例えばナイロン4、ナイロン6、ナイロン66、・・・およびそれらの共重合体」が記載され、上記摘示カ、ク、ケの実施例3、4では、N6/66:ナイロン6樹脂(95%)とナイロン66樹脂(5%)の共重合樹脂[東レ(株)製アミランCM6011]、実施例5?7では、N66/6:ナイロン66樹脂(90%)とナイロン6樹脂(10%)の共重合樹脂[東レ(株)製アミランCM3301L]が用いられているから、甲1には、甲1材料発明のポリアミド樹脂であるナイロン6に代えて、その共重合体を選択することを示唆する記載があるということができる。
しかしながら、甲1には、ポリアミド樹脂について、繊維束への含浸性をよくすることで、成形性と機械的特性に優れた複合材料を得るために、融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差に着目し、それが特定の範囲にある特定のポリアミド樹脂を選択する動機付けは何ら見いだせない。

そして、本件発明1に関し、Tm-Tcの差が25℃であって、結晶性のポリアミド樹脂共重合体を用いた実施例5、6、10と、Tm-Tcの差が19℃、17℃であって結晶性のポリアミドホモポリマーを用いた比較例1、6、Tm-Tcの差が18℃であって結晶性のポリアミド樹脂共重合体を用いた比較例5とでは、ボイド率(含浸度)、UD材曲げ強度が実施例のもので向上し、前記各実施例と、Tm-Tcの差が70℃であって結晶性のポリアミド樹脂共重合体を用いた比較例4とでは、離型性、UD材曲げ強度が実施例のもので向上していることから、Tm-Tcの差の値により顕著な効果を奏していると認められる。
よって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本件発明2について
本件発明2は、請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1材料発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲1材料発明とを対比する。
甲1材料発明の「N6:ナイロン6樹脂」は、本件発明3の「ポリアミド樹脂」に相当する。
甲1材料発明の「炭素繊維を10mmにカットした繊維」は、本件発明3の「炭素繊維」に相当し、その含有量について、甲1材料発明と本件発明3とは重複一致している。
甲1材料発明の「スタンパブルシート」は、繊維強化樹脂成形品の成形材料であって、炭素繊維を10mmにカットした繊維を含み、本件明細書の段落【0011】の「本発明に使用される炭素繊維の繊維長は、7.5mm以上であれば特に限定されない。」との記載から、本件発明3の「炭素長繊維強化ポリアミド樹脂プリプレグ」と、「炭素長繊維強化ポリアミド樹脂材料」の限りにおいて、一致する。

以上の点からみて、本件発明3と甲1材料発明とは、

[一致点]
「ポリアミド樹脂と炭素繊維を含有してなり、該炭素繊維を40?80質量%含有する、炭素長繊維強化ポリアミド樹脂材料。」

である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点3]
ポリアミド樹脂に関し、本件発明3は「ポリアミド樹脂は融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差が20?60℃であり、前記ポリアミド樹脂が1種類以上の結晶性ポリアミド樹脂と1種以上の非晶性ポリアミド樹脂を含有する」と特定するのに対して、甲1材料発明ではそのような特定がない点。

[相違点4]
材料の形態に関し、本件発明3は「プリプレグ」であるのに対し、甲1材料発明では「スタンパブルシート」である点。

イ 判断
相違点3については、本件発明1に関する相違点1で検討したと同様に、甲1には、ポリアミド樹脂について、繊維束への含浸性をよくすることで、成形性と機械的特性に優れた複合材料を得るために、融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差に着目し、それが特定の範囲にある特定のポリアミド樹脂を選択する動機付けは何ら見いだせない。
そして、相違点3に係る効果についても、本件発明1に関する相違点1で検討したと同様に、顕著な効果を奏していると認められる。

よって、上記相違点4について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 本件発明4について
本件発明4は、請求項1ないし3に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明1ないし3についての判断と同様の理由により、甲1材料発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 本件発明5
ア 対比
本件発明5と甲1成形品発明とを対比する。
甲1成形品発明の「N6:ナイロン6樹脂」は、本件発明5の「ポリアミド樹脂」に相当する。
甲1成形品発明の「炭素繊維を10mmにカットした繊維」は、本件発明5の「炭素繊維」に相当し、その含有量について、甲1成形品発明と本件発明5とは重複一致している。
甲1成形品発明の「繊維強化樹脂成形品」は、炭素繊維を10mmにカットした繊維を含み、本件明細書の段落【0011】の「本発明に使用される炭素繊維の繊維長は、7.5mm以上であれば特に限定されない。」との記載から、本件発明5の「炭素長繊維強化ポリアミド樹脂成形品」に相当する。

以上の点からみて、本件発明5と甲1成形品発明とは、

[一致点]
「ポリアミド樹脂と炭素繊維を含有してなり、該炭素繊維を40?80質量%含有する、炭素長繊維強化ポリアミド樹脂成形品。」

である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点5]
ポリアミド樹脂に関し、本件発明5は「ポリアミド樹脂は融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差が20?60℃であり、前記ポリアミド樹脂が結晶性のポリアミド樹脂共重合体を含有する」と特定するのに対して、甲1成形品発明ではそのような特定がない点。

イ 判断
相違点5については、本件発明1に関する相違点1で検討したとおりである。
よって、本件発明5は、甲1成形品発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 本件発明6について
本件発明6は、請求項5に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明5についての判断と同様の理由により、甲1成形品発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

7 本件発明7について
ア 対比
本件発明7と甲1成形品発明とを対比する。
甲1成形品発明の「N6:ナイロン6樹脂」は、本件発明7の「ポリアミド樹脂」に相当する。
甲1成形品発明の「炭素繊維を10mmにカットした繊維」は、本件発明7の「炭素繊維」に相当し、その含有量について、甲1成形品発明と本件発明7とは重複一致している。
甲1成形品発明の「繊維強化樹脂成形品」は、炭素繊維を10mmにカットした繊維を含み、本件明細書の段落【0011】の「本発明に使用される炭素繊維の繊維長は、7.5mm以上であれば特に限定されない。」との記載から、本件発明7の「炭素長繊維強化ポリアミド樹脂成形品」に相当する。

以上の点からみて、本件発明7と甲1成形品発明とは、

[一致点]
「ポリアミド樹脂と炭素繊維を含有してなり、該炭素繊維を40?80質量%含有する、炭素長繊維強化ポリアミド樹脂成形品。」

である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点6]
ポリアミド樹脂に関し、本件発明7は「ポリアミド樹脂は融解ピーク温度Tmと降温結晶化ピーク温度Tcの差が20?60℃であり、前記ポリアミド樹脂が結晶性のポリアミド樹脂共重合体を含有する」と特定するのに対して、甲1成形品発明ではそのような特定がない点。

イ 判断
相違点6については、本件発明1に関する相違点1、本件発明3に関する相違点3、および、本件発明5に関する相違点5で検討したとおりである。
よって、本件発明7は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

8 本件発明8について
本件発明8は、請求項5ないし7に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明5ないし7についての判断と同様の理由により、甲1成形品発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

9 まとめ
以上のとおり、本件発明1、2、4ないし6、8は、甲1に記載された発明ではない。
そして、本件発明1ないし8は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、取消理由1および取消理由2には理由がない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-04-26 
出願番号 特願2012-21531(P2012-21531)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08J)
P 1 651・ 121- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中川 裕文増田 亮子  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 守安 智
上坊寺 宏枝
登録日 2016-08-19 
登録番号 特許第5987335号(P5987335)
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 炭素長繊維強化ポリアミド樹脂プレプリグ及び成形品  

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