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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1327928
異議申立番号 異議2016-700442  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-17 
確定日 2017-05-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第5903191号発明「ケンペリア・パルウィフローラ抽出物、または、フラボン系化合物の筋肉疾患予防、治療及び筋機能改善用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5903191号の請求項1?13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5903191号の請求項1?13に係る特許についての出願は、平成25年 5月16日(パリ条約による優先権主張 2012年 5月16日 (KR)大韓民国)を国際出願日とする出願であって、平成28年 3月18日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 オリザ油化株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年 2月 9日付けで取消理由を通知し、同年 3月28日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本件特許発明
特許第5903191号の請求項1?13に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される次のとおりものである(以下、特許第5903191号の請求項1?13に係る発明を、その請求項に付された番号順に、「本件特許発明1」等という。)。

「【請求項1】
ケンペリア・パルウィフローラ(Kaempferia parviflora)抽出物を有効成分として含む筋肉疾患の予防又は治療用の薬学的組成物。

【請求項2】
ケンペリア・パルウィフローラ(Kaempferia parviflora)抽出物を有効成分として含有させることを特徴とする筋肉疾患の予防又は治療剤の製造方法。

【請求項3】
下記一般式5の化合物又はその塩を有効成分として含む筋肉疾患の予防又は治療用の薬学的組成物。
[一般式5]
【化1】

上記一般式5でR_(1) 及びR_(2) はそれぞれ水素又はメトキシ基を意味する。

【請求項4】
5,7,4'-トリメトキシフラボン若しくは3,5,7,3',4'-ペンタメトキシフラボン又はその塩を有効成分として含む筋肉疾患の予防又は治療用の薬学的組成物。

【請求項5】
下記一般式5の化合物又はその塩を有効成分として含有させることを特徴とする筋肉疾患の予防又は治療剤の製造方法。
[一般式5]
【化2】

上記一般式5でR_(1) 及びR_(2) はそれぞれ水素又はメトキシ基を意味する。

【請求項6】
5,7,4'-トリメトキシフラボン若しくは3,5,7,3',4'-ペンタメトキシフラボン又はその塩を有効成分として含有させることを特徴とする筋肉疾患の予防又は治療剤の製造方法。

【請求項7】
前記筋肉疾患は緊張減退症、筋委縮症、筋ジストロフィー、筋肉退化、筋無力症及び筋肉減少症からなる群から選択される一つ以上の疾患であることを特徴とする請求項1、3又は4に記載の薬学的組成物。

【請求項8】
ケンペリア・パルウィフローラ抽出物を有効成分として含む筋肉増加促進用の薬学的組成物。

【請求項9】
下記一般式4の化合物またはその塩を有効成分として含む筋肉増加促進用の薬学的組成物。
[一般式4]
【化3】

上記一般式4でR_(1) 、R_(2) 及びR_(3) はそれぞれ水素又はメトキシ基を意味する。

【請求項10】
前記化合物は5,7-ジメトキシフラボン、5,7,4'-トリメトキシフラボン及び3,5,7,3',4'-ペンタメトキシフラボンからなる群から選択される化合物であることを特徴とする請求項9に記載の薬学的組成物。

【請求項11】
ケンペリア・パルウィフローラ抽出物を有効成分として含む運動遂行能力の増強用の薬学的組成物。

【請求項12】
下記一般式4の化合物またはその塩を有効成分として含む運動遂行能力の増強用の薬学的組成物。
[一般式4]
【化4】

上記一般式4でR_(1) 、R_(2) 及びR_(3) はそれぞれ水素又はメトキシ基を意味する。

【請求項13】
前記化合物は5,7-ジメトキシフラボン、5,7,4'-トリメトキシフラボン及び3,5,7,3',4'-ペンタメトキシフラボンからなる群から選択される化合物であることを特徴とする請求項12に記載の薬学的組成物。

第3 取消理由の概要
当審において、本件特許発明1?13に係る特許に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

引用例1及び引用例2により、本件特許発明1?13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

第4 各証拠の記載事項
1.取消理由で引用した引用例1及び2
(1)引用例1:Journal of Reproduction and Development,2007年,Vol.53,No.2,pp.351?356(特許異議申立人が提出した甲第1号証。引用例1は英語で記載されているので、訳文で示す。)

(ア)
「本研究の目的は、ケンペリア パルウィフローラ(KP)のテストステロン様効果の調査であった。去勢未成熟ラットは無作為に二つの群に分けられた(コントロール及びKP処置群)。これらのラット(n=7?8)について、コントロール群は水を、処置群は1,000mg/kgのKPを、5日間毎日経口投与された。・・・。血清テストステロン濃度はKP処置グループにおいて有意に増加した。」(p.351 要約の第1?14行)

(イ)
「KP懸濁液の調製
タイのルーイ県で採取されたKPの根をスライスし、乾燥させ、粉砕して100メッシュの粉末とした。研究に用いられた乾燥粉末のストックは弟子ケータ-中で保管され、光の暴露から保護された。KPの新鮮な懸濁液は、乾燥KP粉末を水に懸濁し、毎日調製された。」(p.352右欄第19?26行)

(ウ)
「表2.KP処置未成熟ラットにおける血清FSH、LH、テストステロン、プロゲステロン、コルチコステロン濃度

結果は平均値±標準偏差で示す。アスタリスクはコントロールと比較して有意な差があることを意味する(P<0.05)。」
(合議体注:表中、中央の列がコントロール群、右の列がKP処置群。テストステロン濃度は3行目のデータ。p.353)

(エ)
「血清のホルモン濃度の変化
表2に示すように、1000mgのKPを5日間投与したKP処置群とコントロール群との間で、血清FSH及びLH濃度に有意差は見られなかった。KP処置群の血清テストステロン濃度は、コントロール群と比較して優位に高かった。同時に、血清プロゲステロン及びコルチコステロン濃度に両群間の有意差はなかった。」(p.354左欄第5?12行)

(オ)
「テストステロンは思春期のような成長段階における同化作用を有し、筋肉のサイズ及び強度の増加に寄与する。」(p.354右欄下から8?4行)

(カ)
「研究の結果、テストステロン濃度の増加及び体重増加の点でKPの効果が認められたが、ゴナドトロピン及び生殖器官重量に対するテストステロン様効果を認めることはできなかった。よって、我々は、KPには雄ラットの生殖機能に対するテストステロン様作用は無いと結論づけた。」(p.355左欄下から4行?右欄第3行)

(2)引用例2:ハーパー生化学,平成10年2月15日 第2刷発行,pp.608?609(特許異議申立人が提出した甲第2号証)

(キ)
「 アンドロゲン,主としてテストステロンとDHTは,(1)性的分化,(2)精子形成,(3)第二次性器官ならびに装飾的構造の発達,(4)同化的代謝と遺伝子調節,(5)男性型の振舞に関与している(図50・3).これらの複雑な過程に関与している多数の標的組織は,それらがテストステロンあるいはDHTによって影響されているかどうかによって分類される.古典的なDHTの標的細胞(そして偶然にも最高の5α-レダクターゼ活性をもつもの)は,前立腺,精管,外性器,および外性器の皮膚である。テストステロンの標的器官は,胎生期のWolff管(Wolffian Structure),精原細胞,筋肉,骨,腎臓および脳などである.」(合議体注:引用例2の丸囲み数字の1?5は、括弧書きの数字で表記している。p.608右欄第10?21行。)

2.申立人が提出した甲第4号証
(1)甲第4号証:Chem.Pharm.Bull.,2012年,Vol.60,No.1,p.62?69(甲第4号証は、英語で記載されているので、訳文で示す。)

(ク)
「タイのルーイ県で栽培された乾燥した黒ショウガの地下茎をメタノールによって抽出し、メタノール抽出物を得た(乾燥した地下茎より7.10%)。メタノール抽出物は酢酸エチルと水の混合溶媒(1:1、v/v)に分散させ、酢酸エチル可溶分画(3.82%)と水相に分離させた。水相はDiaionHP-20からむクロマトグラフィ(水→メタノール)を用いて水可溶分画とメタノール可溶分画を得た(それぞれ2.04%、1.23%)。・・・。酢酸エチル可溶分画は順相及び逆相カラムクロマトグラフィやHPLCを用いて、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン(3、0.113%)、5,7-ジメトキシフラボン(4、0.549%)、・・・、5,7,4’-トリメトキシフラボン(7、0.838%)、・・・、5,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン(11、0.296%)、・・・、3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボン(16、0.745%)、・・・を単離生成した。」(p.62左欄下から15行?右欄第10行)

3.特許権者が提出した乙第1号証
(1)乙第1号証:Journal of Reproduction and Development,Vol.54,No.5,2008,p.375?380(乙第1号証は、英語で記載されているので、訳文で示す。)

(ケ)
「ケンペリア パルウィフローラの経口投与は雄ラットの生殖機能を阻害しなかった」(p.375 論題)

(コ)
「KP懸濁液の調製
タイのルーイ県で採取されたKPの根をスライスし、乾燥させ、粉砕して100メッシュの粉末とした。研究に用いられた乾燥粉末のストックは弟子ケータ-中で保管され、光の暴露から保護された。KPの新鮮な懸濁液は、乾燥KP粉末を水に懸濁し、毎日調製された。」(p.376左欄第32?37行)

(サ)
「表1 45日間のKP処置群及びコントロール群における成熟雄ラットにおける生殖関連及び非生殖系組織重量の比較

各組織重量は平均値±標準偏差で示す。アスタリスクはコントロールと比較して有意な差があることを意味する(P<0.05)。
(合議体注:表中、中央の列がコントロール群、右の列がKP処置群。上から6行目が肛門括約筋及び球海綿体筋、同9行目が腓腹筋のデータ。下線は合議体が付記した。)」(p.377 表1)

(シ)


図2.KP処置成熟ラットにおける血清コルチコステロン、プロゲステロン、テストステロン、FSH、LH濃度の比較。ホルモン濃度は平均値±標準偏差で示す。・・・(P<0.05)。
(合議体注:対の棒グラフのうち、左側の白の棒グラフはコントロール群、同右側はKP処置群。棒グラフの並び順は左側から、試験10日目、20日目、30日目、45日目。)」(p.377 図2)

(ス)
「KP処置群とコントロール群との間で、腎臓、精管、腓腹筋を含む組織重量に有意な差は見られなかった。」(p.377右欄第14?17行)

第5 当審の判断
1.取消理由について
(1)引用発明
引用例1の記載事項(ア)?(エ)によれば、ケンペリア・パルウィフローラの根の乾燥粉末を水に懸濁した組成物を去勢未成熟ラットに経口投与したところ、対照に比べて血清テストステロン濃度が有意に増加したといえるから、引用例1には以下の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明」という。)

「ケンペリア・パルウィフローラの根の乾燥粉末を水に懸濁した組成物であって、経口投与により血清中のテストステロン濃度が増加する組成物。」

(2)本件特許発明8について
ア.対比
本件特許発明8と引用発明とを対比する。
引用発明における「ケンペリア・パルウィフローラの根の乾燥粉末を水に懸濁した組成物」は、ケンペリアパルウィフローラの何らかの成分が水に浸出している組成物であると認められ、一方、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0018】?【0022】の記載によれば、本件特許発明8における「ケンペリア・パルウィフローラ抽出物」は、水抽出物を包含するものであるから、この点において両発明は相違しない。また、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0031】の記載からすると、引用発明の組成物の形態は、本件特許発明8における「薬学的組成物」の形態に含まれるから、両発明は「ケンペリア・パルウィフローラ抽出物を有効成分として含む薬学的組成物。」である点で一致する。
一方、本件特許発明8はその用途が「筋肉増加促進」であるのに対し、引用発明はそのような事項が規定されておらず、その点で両発明は相違する。

イ.判断
上記相違点に関し、引用例1には、テストステロンがヒトの筋量や筋力を大きく増大させることが記載され(記載事項(オ))、さらに、引用例2には、筋肉がテストステロンの標的器官であることが記載されている(記載事項(キ))。
しかしながら、これらの記載は、一般に、テストステロンにヒトの筋量や筋力を増大させる性質があること、及び、引用例2の刊行時において、筋肉がテストステロンの標的器官であることが公知であったことを示すにとどまり、投与によって約25pg/mL程度のテストステロン濃度の増加しかもたらさない引用発明の組成物(記載事項(イ)及び(ウ))、すなわちケンペリア・パルウィフローラの根の乾燥粉末を水に懸濁した組成物が、筋肉増加促進剤として作用することを示唆するものとまではいえない。むしろ、引用例1において、KP処置により血清中のテストステロン濃度の増加は認められたものの、テストステロン様作用はないと結論付けられていること(記載事項(カ))や、引用例1の後に頒布された刊行物である乙第1号証に、KP処置の前後における約500pg/mL程度のテストステロン濃度の変化がラットの筋量に影響しなかったとの結果が示されていること(記載事項(ケ)?(ス))からすれば、本件特許の優先日において、当業者は、引用発明の組成物には筋肉増加促進作用はないと理解したものと認められる。
よって、本件特許発明8は、引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件特許発明1、2について
本件特許発明1は、本件特許発明8と同じ抽出物を有効成分として含む「筋肉疾患の予防又は治療用の薬学的組成物」であり、本件特許発明2は、同抽出物を「有効成分として含有させることを特徴とする筋肉疾患の予防又は治療剤の製造方法」である。
本件特許発明1、2と引用発明とを対比すると、本件特許発明1、2は「筋肉疾患の予防又は治療」に係るものであるのに対し、引用発明は「筋肉疾患の予防又は治療」なる事項が規定されていない点で、両発明は相違する。さらに、本件特許発明2と引用発明とは、本件特許発明2は「有効成分として含有させることを特徴とする筋肉疾患の予防又は治療剤の製造方法」の発明であるのに対し、引用発明はそのような事項が規定されていない点でも相違する。
そして、前者の相違点について、前述(2)イのとおり、引用発明の組成物が筋肉増加促進作用を有することを当業者が容易に想到しえなかった以上、筋肉の消耗や退化による筋肉疾患の予防又は治療のために前記組成物を用いることは、当業者が容易になしえたことではない。
よって、後者の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1、2は、引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件特許発明11について
本件特許発明11は、本件特許発明8と同じ抽出物を有効成分とする「運動遂行能力の増強用の薬学的組成物」である一方、引用発明は「運動遂行能力の増強」なる事項が規定されていない点で、両発明は相違する。
そして、前述(2)イのとおり、引用発明の組成物が筋肉増加促進作用を有することを当業者が容易に想到しえなかった以上、それを運動遂行能力の増強のために利用してみることは、当業者が容易になしえたことではない。
よって、本件特許発明11は、引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件特許発明3?6について
本件特許発明3は、「一般式5の化合物又はその塩」を有効成分として含む「筋肉疾患の予防又は治療用の薬学的組成物」であり、本件特許発明4は、「5,7,4'-トリメトキシフラボン若しくは3,5,7,3',4'-ペンタメトキシフラボン又はその塩」を有効成分として含む「筋肉疾患の予防又は治療用の薬学的組成物」である。そして、本件特許発明5及び6は、それぞれ、本件特許発明3及び4の化合物又はその塩を「有効成分として含有させることを特徴とする筋肉疾患の予防又は治療剤の製造方法」である。
本件特許発明3?6と引用発明とを対比すると、本件特許発明3?6は「一般式5の化合物又はその塩」又は「5,7,4'-トリメトキシフラボン若しくは3,5,7,3',4'-ペンタメトキシフラボン又はその塩」を有効成分とするのに対し、引用発明は上記化合物又はその塩が有効成分として含まれることが規定されていない点、及び、本件特許発明3?6は「筋肉疾患の予防又は治療用の薬学的組成物」に係るものであるのに対し、引用発明は「筋肉疾患の予防又は治療」なる事項が規定されていない点で、両発明は相違する。さらに、本件特許発明5、6と引用発明とは、本件特許発明5、6は「有効成分として含有させることを特徴とする筋肉疾患の予防又は治療剤の製造方法」の発明であるのに対し、引用発明はそのような事項が規定されていない点でも相違する。
そして、引用発明の組成物を「筋肉疾患の予防又は治療」に利用することが当業者にとって容易に想到しえなかったことは、前述(3)に記載のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3?6は、引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件特許発明7について
本件特許発明7は、本件特許発明1、3、4における筋肉疾患が「緊張減退症、筋委縮症、筋ジストロフィー、筋肉退化、筋無力症及び筋肉減少症からなる群から選択される一つ以上の疾患である」ものであるから、本件特許発明1、3、4と同様に、引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(7)本件特許発明9、10について
本件特許発明9は、「一般式4の化合物またはその塩」を有効成分として含む「筋肉増加促進用の薬学的組成物」であり、本件特許発明10は、本件特許発明9の化合物が「5,7-ジメトキシフラボン、5,7,4'-トリメトキシフラボン及び3,5,7,3',4'-ペンタメトキシフラボンからなる群から選択される化合物である」ものである。
本件特許発明9、10と引用発明とを対比すると、本件特許発明9、10は「一般式4の化合物またはその塩」又は「5,7-ジメトキシフラボン、5,7,4'-トリメトキシフラボン及び3,5,7,3',4'-ペンタメトキシフラボンからなる群から選択される化合物」を有効成分とするものであるのに対し、引用発明は上記化合物又はその塩が有効成分として含まれることが規定されていない点、及び、本件特許発明9、10は「筋肉増加促進用の薬学的組成物」であるのに対し、引用発明は「筋肉増加促進」なる事項が規定されていない点で、両発明は相違する。
そして、引用発明の組成物を「筋肉増加促進」に利用することが当業者にとって容易に想到しえなかったことは、前述(2)に記載のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明9、10は、引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(8)本件特許発明12、13について
本件特許発明12は、「一般式4の化合物またはその塩」を有効成分として含む「運動遂行能力の増強用の薬学的組成物」であり、本件特許発明13は、本件特許発明12の化合物が「5,7-ジメトキシフラボン、5,7,4'-トリメトキシフラボン及び3,5,7,3',4'-ペンタメトキシフラボンからなる群から選択される化合物である」ものである。
本件特許発明12、13と引用発明とを対比すると、本件特許発明12、13は「一般式4の化合物またはその塩」又は「5,7-ジメトキシフラボン、5,7,4'-トリメトキシフラボン及び3,5,7,3',4'-ペンタメトキシフラボンからなる群から選択される化合物」を有効成分とするものであるのに対し、引用発明は上記化合物又はその塩が有効成分として含まれることが規定されていない点、及び、本件特許発明12、13は「運動遂行能力の増強用の薬学的組成物」であるのに対し、引用発明は「運動遂行能力の増強」なる事項が規定されていない点で、両発明は相違する。
そして、引用発明の組成物を「運動遂行能力の増強」に利用することが当業者にとって容易に想到しえなかったことは、前述(4)に記載のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明12、13は、引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(9)小括
以上検討したとおり、本件特許発明1?13は、引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そうすると、本件特許発明1?13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。

2.特許異議申立理由について
(1)特許法第29条第1項第3号違反
申立人は、本件特許発明1?13は、甲第1号証に記載されたものである旨主張する。
しかしながら、上述1(1)?(9)に記載のとおり、甲第1号証、すなわち、引用例1には、「筋肉疾患の予防又は治療」、「筋肉増加促進」及び「運動遂行能力の増強」なる用途についての示唆すらないのであるから、申立人の主張は採用できない。

(2)特許法第29条第2項違反
申立人は、本件特許発明1?13は、甲第1、2及び4号証により容易に発明できたものである旨主張する。
しかしながら、本件特許発明1?13が、甲第1及び2号証、すなわち引用例1及び2から容易になし得たものでないことは、上記1(1)?(9)に記載のとおりである。また、甲第4号証には、黒ショウガ、すなわち、ケンペリア・パルウィフローラの地下茎のメタノール抽出物に3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボン等が含まれることが記載されるのみであって、引用例1に記載の組成物を「筋肉疾患の予防又は治療」、「筋肉増加促進」及び「運動遂行能力増強」に用いることを動機付ける記載は無いから、引用例1及び2にさらに甲第4号証を組み合わせても、本件特許発明1?13に至ることはない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(3)特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号違反
申立人は、特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号違反の具体的な理由として、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明11?13の有効成分が筋肉増加作用を有することが記載されている一方、運動遂行能力の増強作用を有することを具体的に確認した試験は開示されていないことを指摘し、出願時の技術常識からすれば、運動遂行能力には筋肉に由来するものと筋肉以外に由来するものがあり、さらに筋肉に由来する運動遂行能力であっても、筋肉増加に起因するものとしないものがあることは明らかであるから、本件特許発明11?13の有効成分が筋肉増加作用を有するからといって、全ての運動遂行能力が向上するわけではないことをあげている。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0047】等の記載からみて、本件特許発明11?13の「運動遂行能力増強剤」における「運動遂行能力向上」は筋肉増加促進に起因するものと解するのが相当であり、そのような運動遂行能力の向上がケンペリア・パルウィフローラ抽出物あるいは一般式4の化合物又はその塩によって達成されることは、本願明細書の実施例の記載から明らかである。
したがって、申立人の主張は採用できない。
よって、本件特許発明11?13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号の規定に違反してなされたものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1?13に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-04-26 
出願番号 特願2015-512583(P2015-512583)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鶴見 秀紀  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 福井 美穂
清野 千秋
登録日 2016-03-18 
登録番号 特許第5903191号(P5903191)
権利者 丸善製薬株式会社
発明の名称 ケンペリア・パルウィフローラ抽出物、または、フラボン系化合物の筋肉疾患予防、治療及び筋機能改善用途  
代理人 村雨 圭介  
代理人 早川 裕司  
代理人 田岡 洋  

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