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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1328191
審判番号 不服2015-19741  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-02 
確定日 2017-05-10 
事件の表示 特願2012-527868「新規の組成物、ならびに5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールおよびトリアゾールオロチン酸塩製剤を調製する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年3月10日国際公開、WO2011/028288、平成25年2月4日国内公表、特表2013-503861〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2010年9月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年9月4日及び2010年9月3日、何れも(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年8月23日に上申書及び手続補正書が提出され、平成26年8月28日に上申書が提出され、同年9月5日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月17日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月29日付けで拒絶査定がされ、同年11月2日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、同年12月16日に審判請求書を補正する手続補正書が提出され、平成28年7月21日に上申書が提出されたものである。
なお、平成27年11月2日に、特願2015-215891号が分割出願されている。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成27年11月2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「オロチン酸と結合した、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドの1型多形体であって、
図3に実質的に示されるX線回折パターンにより特徴付けられ、
塩基:酸比が、1:1?1:4の範囲である、多形体。
図3


以下、上記の「5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド」を、「化合物B」と表記すると、本願発明は、以下のとおりである。
「オロチン酸と結合した、化合物Bの1型多形体であって、図3に実質的に示されるX線回折パターンにより特徴付けられ、塩基:酸比が、1:1?1:4の範囲である、多形体。
図3



第3 原査定の理由
原査定の拒絶理由は、平成26年9月5日付けの拒絶理由通知における理由1?3、5である。その理由2は「この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない」というものであり、その理由3は「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない」というものであり、その「記」には、拒絶理由が通知された平成25年8月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の全請求項に当たる請求項1?10について、
「発明の詳細な説明及び図面には、CTOの多形体とはオロチン酸がイオン結合したCAIであり、1型・2型なるものが段落0036に記載の融点及び図1?6に示される1H-NMRスペクトル、FT-IRパターン、X線粉末回折パターンであることが記載される。
しかし、それら多形をいかにして得るかについて具体的な記載はない。
製造方法の記載される請求項5?8を参照しても、CAI自体またはそのオロチン酸塩自体の合成法の記載のあるのみで、いかにして結晶を得るかについては記載がない。
実施例を参照しても、CAI自体(実施例4)には何ら物性の特定はなく結晶であるかも記載がなく、CTO自体(実施例5)に記載の示唆走査熱量測定法による融点測定の結果は上記1型・2型として記載されるもののいずれとも合致しない。
実施例5には「1:1」の、実施例7には「0.7:1.3」のものが得られたとの文言上の記載があるが、それらがそのようなものであることがいかにして確認されたかについての記載はない。実施例5のものについてはCAIとオロチン酸の原料比が記載されるのみで具体的な実験条件や収量等について記載はなく、実施例7のものについてはそもそもどのようにしてそれを得たか自体の記載がない。
従来技術として明細書の段落0005に記載される文献には、オロチン酸塩の結晶を得たことの記載はある。この文献には、実施例において、本願明細書の実施例5同様にCAIとオロチン酸とをモル比1:1程度でメタノール/水中で混合したにもかかわらず、CAI基準でほぼ95%という高収率で2:1のイオン結晶を得たことが記載されるのみである。そうすると、本願請求項に記載の方法により、また、本願明細書に記載の具体例の記載により、どのようにして、従来の2:1でなく、1:1?1:4である化合物(具体例でいうと1:1及び0.7:1.3の化合物)を得られるかについて、従来技術を考慮しても当業者に自明であるとはいえない。
よって、請求項1?10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が上記請求項に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでもない。」
と説示されたものである。
本願発明は、拒絶理由通知で言及された請求項2に係る発明「1:1?1:4の範囲でオロチン酸がイオン結合している、オロチン酸と結合された5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドの1型又は2型多形体」の、1型多形体に関する部分について、「図3に実質的に示されるX線回折パターンにより特徴付けられ」ることを特定したものである。「オロチン酸がイオン結合している」との記載が省かれたが、図3は、発明の詳細な説明に「オロチン酸をイオン結合したCAIの新規多形体」(審決注:CAIは化合物Bである。)の「1型」として記載されるものであるから(段落【0036】)、本願発明は、拒絶理由通知で言及された請求項2に係る発明に対応するものである。

第4 当審の判断
この出願は、原査定の理由のとおり、発明の詳細な説明の記載が、請求項1に係る発明に関連して、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
また、この出願は、原査定の理由のとおり、請求項1の特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないものである。
その理由は、以下のとおりである。

1 特許法第36条第4項第1号について

(1)はじめに
以下の観点に立って、検討する。
物の発明における発明の「実施」とは、その物の生産、使用等をする行為をいう(特許法第2条第3項第1号)から、特許法第36条第4項第1号の「その実施をすることができる」(実施可能要件)とは、その物を生産することができ、かつ、その物を使用できることである。したがって、物の発明については、明細書の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を生産することができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。

(2)発明の詳細な説明の記載
この出願の明細書(以下「本願明細書」という。平成27年2月17日付けの手続補正により段落【0082】が補正されている。)及び図面(平成27年2月17日付けの手続補正により全図が差し替えられている。)には、以下の記載がある。

ア 技術分野、従来技術及び発明が解決しようとする課題についての記載
段落【0002】?【0016】に、以下の記載がある。
「【0002】技術分野
本発明は、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体(カルボキシアミドトリアゾールまたはCAIと本明細書において称される)の新規化学化合物、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールオロチン酸塩に加えてその置換誘導体(定義された塩基:酸比で、CTO)の製剤、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールオロチン酸塩に加えてその置換誘導体およびオロチン酸(定義された塩基:酸比で、CAO)の製剤に関し、CAIおよびオロチン酸塩製剤(CTOおよびCAO)のための合成経路において必要な中間体アジド物質を合成するために、安定したより効果的でより安全な出発物質を使用することによる、それらの調製のより安全な方法に関する。より詳細には、本発明は、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体の新規多形体に関する。さらにより詳細には、本発明は、新規の5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールオロチン酸塩(範囲1:1?1:4の最適の塩基:酸比のCTO)に加えて、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体および1:1?1:4の最適の塩基:酸比のオロチン酸(CAO)の製剤に関し、固形癌、黄斑変性症、網膜症、慢性骨髄性白血病、AIDS、ならびに異常なシグナル伝達および増殖に依存する疾患を含むが、これらに限定されない疾患の制御および治療におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】本発明は、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾール(CAI)に加えてその置換誘導体の新規多形体、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールのオロチン酸塩に加えてその置換誘導体、ならびに5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体およびオロチン酸(塩基:酸の最適比で)の製剤の開発の分野である。本発明の目的は、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体の新規多形体を開発して、化学的、生物学的、薬物動態学的、および毒素動態学的な特性を改良すること、ならびに抗癌活性、抗転移作用、カルシウム媒介性シグナル伝達、抗血管新生、抗PI3、抗COX2、アポトーシス、慢性骨髄性白血病におけるBCR-ABLタンパク質のダウンレギュレーション、HIV LTR転写の調節または抗VEGF1の特性を含むが、これらに限定されない治療的性質を改良することである。
【0004】1986年に、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾール化合物に加えてその置換誘導体は、抗コクシジウム活性を有することが示された。R.J.Bochis et el.,1986に帰属する米国特許第4,590,201号は、経路における1つの重要な中間体(3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアジド)を合成するために、アジ化ナトリウムの使用を含む、5-アミノ-1-(4-[4-クロロベンゾイル]-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4カルボキサミド(L651582またはCAI)を調製する方法を記載する。続いて、L651582またはCAIは、カルシウム流入、アラキドン酸の放出およびイノシトールリン酸の生成を含む経路を含む、選択されたシグナル伝達経路を阻害することが示された。E.C.Kohn et al,1994に帰属する米国特許5,359,078。「L651582」は、本明細書において使用される時、L6515182、CAI、カルボキシアミドトリアゾール、NSC 609974、または先行技術において記載された99519-84-3を表わす。
【0005】次いで、F.Wehrmann,1999に帰属する米国特許第5,912,346号は、L651582の無機塩および有機塩を記載し、特にL651582のオロチン酸塩を調製する方法を記載した。L651582は米国特許第4,590,201号において記載された方法によって調製された。プロトンNMRによって特徴づけられるように、L651582:オロチン酸塩は2:1(塩基:酸)の比であり、融点は234?235℃であった。上記のように、中間体3-(4-クロロベンゾイル)-4-コロルベンゾイル(cholorbenzyl)アジドの合成は、エタノール中の中間体3-(4-クロロベンゾイル)-4-クロロベンゾイルブロミドおよびアジ化ナトリウムを使用して実行された。米国特許第5,912,346号は、ラットのアンドロゲン非依存性ダニングR-3227-AT-1前立腺癌モデルにおいて、L651582の相当用量の抗腫瘍活性と比較して、L651582オロチン酸塩(CAIオロチン酸塩、塩基:酸、2:1)の抗腫瘍活性が改良されたことを記載した。
【0006】カルシウム媒介性シグナル伝達の阻害剤である、カルボキシアミドトリアゾール、L651582、CAI、NSC 609974または99519-84-3は、最初に見出された細胞静止性のシグナル阻害性抗癌薬の1つである。この薬物を、National Cancer Instituteで、フェーズI、フェーズIIおよびフェーズIIIの治験において固形癌を患う患者で試験した。しかしながら、ヒト試験における有効性の実証に失敗し、ならびに/または低生体利用率、重篤な胃腸毒性、神経毒性、および治療的効果を達成する至適投薬を妨げる耐容性の問題が起こったので、NCIはL651582の開発を中止した。PEG-400中のL651582の微粉化製剤のカプセル剤は、薬の生体利用率を改良するために臨床試験において使用された。Kohn EC et al.,Clinical Cancer Res 7:1600-1609 (2001);Bauer KS et al.,Clinical Cancer Res 5:2324-2329 (1999);Berlin J et al.,J Clin Onc 15:781-789 (1997);Berlin J et al.,Clinical Cancer res 8:86-94(2002);Yasui H et al.,J Biol Chem 45:28762-28770 (1997);Alessandro R et al.,J Cell Physiol 215:111-121 (2008)。
【0007】それゆえ、米国特許第5,912,346号中で記載されるL651582オロチン酸塩(塩基:酸2:1)は、前臨床試験に基づいて、その有効性を改良することによって、この有望な薬(L651582)を救う可能性のある方法を示した。しかしながら、米国特許第5,912,346号中で記載される方法に従ってバルク量でL651582オロチン酸塩(2:1比)を調製する方法は、スケールアップで問題が起こった。

【0008】薬の鎮痛効果の強化におけるオロチン酸の使用に関して、Wawretschek W et al,1977に帰属する米国特許第4,061,741号は、オロチン酸コリンと組み合わせた、デキストロプロポキシフェン-HCl、レボプロポキシフェン-HClまたはサリチル酸ナトリウムの使用を記載し、オロチン酸コリンと組み合わせた製剤が最も優れた効果を生じたと結論した。明らかに、先行技術は、化学化合物とオロチン酸結合の比率および化学的性質について矛盾する教示を提示する。
【0009】L651582オロチン酸塩のための先行技術中で記載された合成スキームは、上記の反応スキームIにおいて示される。858は生産物識別子であり、例えば858A?858Dは中間体を示す。858Eはカルボキシアミドトリアゾール(CAI)を示す。858Fは、カルボキシアミドトリアゾール:オロチン酸もしくはカルボキシアミドトリアゾール:オロチン酸塩、または本明細書において定義されるようなCTOを示す。
【0010】先行技術教示は、好ましい実施形態である、薬物と組み合わせたオロチン酸コリンの使用を示唆した。残念なことに、これは、臨床開発のためのCTOの生産をスケールアップするという、本発明における問題を扱わなかった。L651582オロチン酸塩(2:1)における塩基:酸比が薬物に至適の化学構造であるかどうかは明らかではなかった。さらに、大量に製造するためにL651582オロチン酸塩(2:1)の生産をスケールアップする場合に問題が生じた。バルク量のアジ化ナトリウムを扱うのに必要とされる装置および施設を有する製造業者はほとんどおらず、施設を有する請負者は高い手数料を請求した。
【0011】TBDMSエーテル工程(工程1)として、3,5-ジクロロベンジルアルコール中のアルコール基の保護の後に、エーテルを4-クロロベンゾイルクロライドと反応させて置換ベンゾフェン(benzophene)を形成する(工程2)。ベンゾフェンを塩化チオニルで処理し(工程3)、次いでアジ化ナトリウムで処理し(工程4)、3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアジドを形成した。このアジドのシアノアセトアミドとの反応はL651582を生産する(工程5)。L651582のオロチン酸との反応はL651582オロチン酸塩(2:1)を形成する(工程6)。
【0012】工程4における上記の方法におけるアジ化ナトリウムの使用は、大量のL6515182オロチン酸塩の生産のスケールアップにとっての深刻な短所であった。アジ化ナトリウムは高エネルギー含有危険物質があるので、大量のアジ化ナトリウムの取り扱いは特別の感圧性の反応器中で行わなければならない。方法を薬物のバルク量へとスケールアップする能力を有する薬物製造業者はほとんどないので、アジ化ナトリウムを扱うのに必要とされる特別の封じ込め施設は製造コストを概して増加させた。これは、アジ化ナトリウムは、無臭の白色固体として存在し、急速に作用して致命的な可能性のある化学物質だからである。アジ化ナトリウムは水または酸と混合した場合に刺激臭を持つ有毒ガスへ急速に変化する。アジ化ナトリウムは、固体金属に接した場合も有毒ガスへと変化する。深刻なアジ化ナトリウム中毒の生存者は心臓および脳の損傷を受ける可能性があるので、犠牲者は疾病対策予防センターのホットラインへ直ちに連絡することが推奨される。(CDC-Facts About Sodium Azide,2009)。明らかに、アジ化ナトリウムを使用せずにL651582オロチン酸塩を調製する、より安全で新しい手頃で効果的な方法を開発する必要性があった。上で示されるように、アジ化ナトリウム(工程4)が、L651582オロチン酸塩のための合成経路における3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアジド(中間体)の調製において必要とされたので、手頃な費用で競争入札は不可能だった。それゆえ、至適の化学的立体配置および塩基:酸比を持つオロチン酸薬物を調製する代替のより安全でより効果的な方法を開発することが必要であった。本発明は、これらの欠点を克服しようとするものである。
【0013】L651582オロチン酸塩(orotate)が前立腺癌ラットモデルにおいて有意に高い抗腫瘍活性を有することが実証されたにもかかわらず(米国特許第5,912,346号)、2:1の塩基:酸比でのL651582オロチン酸塩の化学的、薬理学的および生物学的特性が至適だったかどうかに関する教示または示唆はなかった。明らかに、臨床開発を正当なものとするために、至適の化学的、生物学的、薬理学的、治療的、および毒素動態学的な特徴を提供する、CAIおよびCAIのオロチン酸化合物(orotate compound)の新規多形体を開発する必要性がある。
【0014】従って、本発明の主要な目的は、生体利用率に関連しそして人体体液中での可溶性に依存する実効性を改良したCAIのオロチン酸製剤(塩基:酸比は1:1?1:4の範囲である)を開発することである。
【0015】本発明の別の目的は、バルク量のCAI、CTO(CAIのオロチン酸塩として)およびCAO(オロチン酸と混合したCAIの製剤として)を生産するためにより安全でよりコスト効率の良い方法を開発することである。
【0016】本発明の重要な目的は、中間体を生産するために、非常に低い濃度で高毒性のアジ化ナトリウムまたはアジ化カリウムを使用する代わりに、より安全でより毒性の低い成分を使用することによってより安全なCAIを製造することである。先行技術中で記載された方法によって生産されたCAIは、患者において深刻な神経毒性および胃毒性を引き起こすことが見出されている。それゆえ、より安全な成分の使用は重要であり、生産のための改良された方法はCAIおよびそのオロチン酸製剤の新規多形体の生産ももたらした。」

イ 発明の概要についての記載
段落【0018】?【0031】に、以下の記載がある。
「【0018】本発明は、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体(カルボキシアミドトリアゾールまたはCAIとして本明細書において称される)の新規多形体の組成物;5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールオロチン酸塩に加えてその置換誘導体(定義された塩基:酸比で、CTO)の製剤;ならびに5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールオロチン酸塩に加えてその置換誘導体およびオロチン酸(定義された塩基:酸比で、CAO)の製剤の提供によって、先行技術に固有の欠点の克服を求める。
【0019】本発明は、CAIおよびオロチン酸塩製剤(CTOおよびCAO)のための合成経路において必要な中間体アジド物質を合成するために、安定したより効果的でより安全な出発物質を使用することによる、それらの調製のより安全な方法を提供する。
【0020】より詳細には、本発明は、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾール(CAI)に加えてその置換誘導体の新規多形体に関する。CAIは、1型または2型を含むが、これらに限定されない複数の多形型で存在する。
【0021】本発明は、さらにより詳細には、新規の5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールオロチン酸塩(範囲1:1?1:4の至適塩基:酸比でのCTO)に加えて、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体および至適塩基:酸比でのオロチン酸(CAO)、オロチン酸塩(CTO)に加えてその置換誘導体の製剤に関する。
【0022】別の態様において、本発明は、アジ化ナトリウムまたはアジ化カリウムの代わりに、ジフェニルホスホルイルアジドまたはトリメチルシリルアジド(TMSN_(3))を含むが、これらに限定されない、安定したより安全で手頃な出発物質の使用によって、合成経路において必要な中間体アジド物質を調製する方法に関する。
【0023】より詳細には、本発明は、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体、それらのオロチン酸誘導体(CTO)(1:1?1:4の範囲の塩基:酸比)の新規の多形体に関し、固形癌、黄斑変性症、網膜症、慢性骨髄性白血病、AIDS、ならびに電位非依存性カルシウムチャネルブロッカー、PI3、COX2、BCR-ABL、アポトーシス、HIV LTR転写またはVEGF1等の異常なシグナル伝達および増殖経路に依存する疾患を含むが、これらに限定されない疾患の治療におけるそれらの使用に関する。
【0024】前述の最先端技術の見解において、本発明は、生体利用率の増加、標的への送達、抗腫瘍効果、および毒性の減少を行う化学的有機モイエティをその中に含む、新規の5-アミノもしくは置換アミノ1,2,3-トリアゾールのオロチン酸塩誘導体、またはカルボキシアミドトリアゾールオロチン酸塩(CTO)を提供する。具体的には、約1:1?1:4(トリアゾール:オロチン酸)の範囲の比でイオン結合を有する1つのクラスのカルボキシアミドトリアゾールオロチン酸塩(CTO)は、本発明の新規化合物を構成する。
【0025】5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾール(CAI)に加えてその置換誘導体およびオロチン酸(定義された塩基:酸比、1:1?1:4で、CAO)の製剤
【0026】別の態様において、本発明は、アジ化ナトリウムを使用しないが、その代りにジフェニルホスホルイルアジド(DPPA)もしくはTMN_(3)、またはより安全なアジド同等物を使用する、アジド中間体3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアジドの調製のための方法を提供する。DPPAはアジ化ナトリウムよりも有意に安全であり、アルコールを直接アジドに転換するのに使われており、それゆえCTOのための合成経路における工程(上で略述したスキームにおける工程3)を除去する。
【0027】本発明の別の目的は、ヒトおよび他の哺乳類において経口的にまたは他の経路によって与えられた場合のCTOの生体利用率を増加させること、ならびに例えば組織、血液脳関門および脈絡膜網膜複合体を介する吸収、送達および輸送を改良することによって、標的へのCTOの送達を改良することである。
【0028】本発明のなお別の目的は、血液、組織および器官からの薬物のクリアランスを増加させることによって、オロチン酸塩として投与された場合にCTOおよび関連化合物の毒性を減少させることである。
【0029】本発明は、CTOまたはオロチン酸(CAO)と組み合わせたCAIが製剤として投与される場合に薬物相互作用および副作用を減少させるためにさらに使用することができる。
【0030】本発明の別の目的は、ヒト新生物、ならびに特に、原発性腫瘍または転移性腫瘍、黄斑変性症等の血管新生を含む疾患、網膜症、糖尿病性網膜症、慢性骨髄性白血病、AIDSおよび電位非依存性カルシウムチャネル遮断剤、PI3、COX2、BCR-ABL、アポトーシス、HIV LTR転写またはVEGF1等の異常なシグナル伝達および増殖経路に依存する疾患を治療するために、ならびに薬物毒性の敏感な標的である非癌組織の薬物のレベルを低下させることによる薬物の毒性の副次的効果を、L651582またはCAIを与えることと比較した場合、10%?100%まで減少させるために、CTOの組成物を提供することである。
【0031】本発明の好ましい実施形態は1:1(塩基:酸)の比で、より好ましい実施形態は比1:2でCTOを含み、本発明の最も好ましい実施形態は、本発明の新規方法によって調製されたCTOの組成物を(約0.7:1.3の比で)、固形癌、黄斑変性症、網膜症、慢性骨髄性白血病を含むが、これらに限定されない疾患の治療、およびPI3、COX2、BCR-ABL、STATS、CrkL、アポトーシス、HIV LTR転写、VEGF1または他のもの等のシグナル伝達経路の修飾のために含む。」

ウ 化合物Bの上位概念の化合物及びそのオロチン酸塩についての記載
段落【0033】?【0035】に、以下の記載がある。
「【0033】本発明は、5-アミノもしくは置換アミノ1,2,3-トリアゾールの新規の多形体または新規の方法によって調製されたそれらの置換アミノ1,2,3-トリアゾール(CAI)を提供し、式Iの化合物のクラスを含む。CAIの新規の多形体は、NMR、DSC、FT-IRおよびXRDP等の技法によって特徴づけられるような1型または2型を含むが、これらに限定されない。
式I

[式中、R_(1) は式IIを有し、ここで、
R_(1) は

であり、
式中、pは0?2であり;mは0?4であり;nは0?5であり;Xは、O、S、SO、SO_(2)、CO、CHCN、CH_(2)、またはC=NR_(6)(式中、R_(6) は、水素、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、アミノ、低級アルキルアミノ、ジ低級アルキルアミノまたはシアノである)であり;ならびに、R_(4) およびR_(5) は、独立して、ハロゲン(F、Cl、Br)、シアノ、トリフルオロメチル、低級アルカノイル、ニトロ、低級アルキル、低級アルコキシ、カルボキシ、低級カルバルコキシ(carbalkoxy)、トリフロロメトキシ(trifuloromethoxy)、アセトアミド、低級アルキルチオ、低級アルキルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、トリクロロビニル、トリフルオロメチルチオ、トリフルオロメチルスルフィニル、またはトリフルオロメチルスルホニルであり;R_(2) は、アミノ、モノ低級アルキルアミノもしくはジ低級アルキルアミノ、アセトアミド、アセトイミド、ウレイド、ホルムアミド、ホルムイミドまたはグアニジノであり;ならびにR_(3) は、カルバモイル、シアノ、カルバゾイル、アミジノまたはN-ヒドロキシカルバモイルであり;低級アルキル、を含む低級アルキル、低級アルコキシおよび低級アルカノイル基は1?3の炭素原子を含む。]
【0034】5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾール化合物をオロチン酸と反応させて、本発明の方法に記載の使用のためのCTOを形成する本発明の改良されたより安全な方法によって、1:1?1:4(塩基:酸)の範囲の比で5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾール化合物のオロチン酸塩化合物を形成する。
【0035】CAIの新規の多形体をオロチン酸とさらに反応させて、式II:
式II

[式中、オロチン酸はR_(2) にイオン結合され、
R_(1) は、

であり、
式中、pは0?2であり;mは0?4であり;nは0?5であり;Xは、O、S、SO、SO_(2)、CO、CHCN、CH_(2)、またはC=NR_(6)(式中、R_(6) は、水素、低級アルキル、
ヒドロキシ、低級アルコキシ、アミノ、低級アルキルアミノ、ジ低級アルキルアミノまたはシアノである)であり;ならびに、R_(4) およびR_(5) は、独立して、ハロゲン(F、Cl、Br)、シアノ、トリフルオロメチル、低級アルカノイル、ニトロ、低級アルキル、低級アルコキシ、カルボキシ、低級カルバルコキシ(carbalkoxy)、トリフロロメトキシ(trifuloromethoxy)、アセトアミド、低級アルキルチオ、低級アルキルスルフィニル、低級アルキルスルホニル、トリクロロビニル、トリフルオロメチルチオ、トリフルオロメチルスルフィニル、またはトリフルオロメチルスルホニルであり;R_(2) は、アミノ、モノ低級アルキルアミノもしくはジ低級アルキルアミノ、アセトアミド、アセトイミド、ウレイド、ホルムアミド、ホルムイミドまたはグアニジノであり;ならびにR_(3) は、カルバモイル、シアノ、カルバゾイル、アミジノまたはN-ヒドロキシカルバモイルであり;低級アルキル、を含む低級アルキル、低級アルコキシおよび低級アルカノイル基は1?3の炭素原子を含む。]の化合物のクラスのオロチン酸塩化合物を形成する。」

エ 好ましい実施形態であるオロチン酸をイオン結合した化合物Bの多形体についての記載
段落【0036】?【0038】に、以下の記載があり、図1?6に言及されている。
「【0036】本明細書において定義される「CTO」の好ましい実施形態は、C_(22)H_(16)C_(13)N_(7)O_(6)(分子量580.76)の実験式を有し、201℃および236℃の2つの転位融点がある。CTOは、オロチン酸をイオン結合したCAIの新規多形体を含む。CAIは、1型(パターン1)または2型(パターン2)を含むが、これらに限定されない多くの多形体を有する。CTOの2つの実施形態は異なる転位融点を有し、例えば、CTO(1型、パターン1)は約136℃、194℃および235℃の融点を有し;CTO(2型、パターン2)は約137℃および234℃の融点を有する。CTOの2つの実施形態は、構造CAI:オロチン酸と一致する1H NMRスペクトル(それぞれ図1および図2)、および1型および2型と一致するFT-IRパターン(それぞれ図3および図4)を有する。1型および2型のX線粉末回折パターンによって示されるようにCTOは結晶である(それぞれ図5および図6)。
【0037】CTOの好ましい実施形態の化学名は、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(オロチン酸との化合物);5-アミノ-1-(3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(オロチン酸との化合物);および5-アミノ-1-{[3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)フェニル]メチル}-1H,1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(オロチン酸との化合物)を含む。
【0038】より詳細には、CTOの多形体の化学構造は、



オ 製剤を提供することについての一般的な記載
段落【0039】に、以下の記載がある。
「【0039】追加の実施形態は、CAIおよびオロチン酸(CAO)の異なる多形体の製剤を含む。5-アミノもしくは置換アミノ1,2,3-トリアゾール(CAI)、または5-アミノ1,2,3-トリアゾールもしくは置換アミノ1,2,3-トリアゾールの新規多形体を、1:1?1:4(塩基:酸)の範囲でオロチン酸と混合して、本発明の方法に記載のCAO使用の製剤を提供する。」

カ 化合物Bとオロチン酸との化合物を製造するスキームについての記載
段落【0040】?【0042】に、以下の記載があり、図1?6に言及されている。
「【0040】新規方法:
本発明の化合物を調製できる、本発明の新規の方法は、5工程の以下の反応スキームIIで示される。より具体的には、新規の方法はジフェニルホスホルイルアジドを使用して、工程3において、アジ化ナトリウムと反応させる代わりに、中間体858.Bと反応させる。これは、中間体858.Cを形成する先行技術における工程3を除去する。上記のスキームI(6工程)を参照されたい。詳細な方法は実施例中で記載される。858.A?858.Fは以下に要約される中間生産物およびCTOを表わす。
858.Aはt-ブチルジメチルシリル-3,5-ジクロロベンジルエーテルを表わす。
858.Bは3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアルコールを表わす。
858.Cは3,5-ジクロロ-4-(4’-クロロベンゾイル)ベンジルクロライドを表わす。
858.Dは3,5-ジクロロ-4-(4’-クロロベンゾイル)ベンジルアジドを表わす。
858.Eは5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミドを表わす。
858.Fは5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(オロチン酸との化合物)(CAI:オロチン酸)(CAI:オロチン酸塩)(CTO)を表わす。

【0041】重要なことには、先行技術中で記載された手順によって合成されたCAIと比較した場合、上記の方法によって製造したCAI、CTOおよびCAOの異なる多形体は、げっ歯類においてより少ない胃病変および毒性を示すことが観察された。これは、アジ化ナトリウムまたはアジ化カリウム等の毒性の成分の使用が無いことに関連する可能性がある。
【0042】新規方法は、CAI、CTOおよびCAOの新規多形体の生産ももたらした。従って、本発明の化合物は、1つの以上の異なる結晶構造に結晶化し、NMR、DSC、FT-IRおよびXRDP等の技法によって特徴づけられるような、CAIの異なる多形体の異なる化学的特性を示す分子を含む(図1?6)。」

キ 医薬用途についての投与経路、用量、剤形その他の記載
段落【0043】?【0068】に、以下の記載がある。
「【0043】投薬量および製剤
5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体を、先行技術中で記載された手順によって生産されたCAIの短所を克服する、化学的および生物学的特性を有する異なる多形体へ製造した。
【0044】加えて、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えて置換誘導体をオロチン酸と化学的に反応させて、に独特な生体利用率、薬物動態学的特性、安全性および実効性を有する、比1:1?1:4(塩基:酸)でオロチン酸塩(CTO)を形成する。
【0045】代替の実施形態は、5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールに加えてその置換誘導体の多形体を、比1:1?1:4(塩基:酸)でオロチン酸と混合して、CAIおよびオロチン酸(CAO)の製剤を形成することを含む。
【0046】上記の医薬組成物および製剤は、原発性新生物および転移性新生物、慢性骨髄性白血病、黄斑変性症、網膜症ならびに他の細胞増殖性疾患の防止および治療のために哺乳類へ投与する医薬調製物へ製剤化することができる。トリアゾールオロチン酸塩化合物の多くは、有機酸塩として直接または薬学的に適合性のあるカウンターイオンと共に提供することができ、それらは単に水溶性の形態である。塩は、対応する遊離塩基形態よりも、水性溶媒または他のプロトン性溶媒中で可溶性である傾向がある。治療的化合物または医薬組成物は、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、鞘内、経口的、経直腸的、局所的、またはエアロゾルによって投与することができる。
【0047】経口投与に好適な製剤は、固体粉末製剤、生理食塩水、水またはPEG 400等の希釈剤中に溶解した活性化合物の溶液;カプセル剤または錠剤(各々は固体、粉末、粒剤またはゼラチンとして所定の量の活性薬剤を含む);近似の培地中の懸濁物;および乳化物を含む。
【0048】非経口投与に好適な製剤は、バッファー、抗酸化剤および防腐剤を含む水性および非水性の等張の滅菌溶液を含む。製剤は単位用量または多重用量の密封した容器中に入れることができる。
【0049】CTOの経口投与のための患者への投薬量は、0.25?500mg/日、一般的には25?100mg/日、および典型的には50?400mg/日の範囲である。患者体重に関して言えば、通常の投薬量は、0.005?10mg/kg/日、一般的には0.5?2.0mg/kg/日、典型的には1.0?8.0mg/kg/日の範囲である。患者体表面積に関して言えば、通常の投薬量は0.1?300mg/m^(2)/日、一般的には20?250mg/m^(2)/日、典型的には25?50mg/m^(2)/日の範囲である。投薬量および間隔を個々に調節して、異常なシグナル伝達および増殖に依存する疾患において、抗増殖性効果、抗転移性効果、抗血管新生効果または他の治療的効果を維持するのに十分な活性モイエティの血漿レベルを提供する。
【0050】用量は、投与経路(例えば静脈内、吸入/エアロゾル、直接腹腔内もしくは皮下、局所、または脊髄内投与)に依存して調節できる。
【0051】薬理化合物のための様々な送達システムは、リポソーム、ナノ粒子、懸濁物および乳化物を含むが、これらに限定されず、用いることができる。医薬組成物は、好適な固相もしくはゲル相の担体または賦形剤も含むことができる。かかる担体または賦形剤の例は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖、スターチ、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリエチレングリコール等のポリマーを含むが、これらに限定されない。
【0052】さらに、標的化薬物送達システムで、例えば、ナノ粒子および他の形態として腫瘍特異的抗体によりコーティングされたリポソームで、薬物を投与することができる。リポソームまたはナノ粒子は、腫瘍または他の疾患標的に対して標的化され、それらによって選択的に取り込まれ得る。
【0053】新しく見出されたリード分子の構築に最も難しい特性の1つは、特に経口投薬された化合物のケースにおける、望ましい薬物動態プロファイルである。「経験を積んだ医薬化学者の多くは、標的受容体に対して低い有効性を示すが、本質的に優れた薬物動態学的特性を有する構造シリーズで開始し、次いで他の方向で作業するのではなく、標的に対する有効性の改良について着手することを好む」「薬物探索における有機化学、薬物探索(Organic Chemistry in Drug Discovery,Drug Discovery)」、Science 303:1810-1813 (2004)。
【0054】経口投与されたCTOの生体利用率の改良。
本発明は、概して、CTO(比1:1?1:4(塩基:酸)のL651582の独特なオロチン酸塩)の経口生体利用率、送達およびクリアランスを増加させる方法に関する。本発明は、薬物の経口生体利用率、毒性学プロファイルおよび有効性の改良するために、イオン化中心を有する非水溶性薬物のオロチン酸塩を調製するために方法を提供する。好ましくはCTOは比1:1であり、より好ましくは比1:2であり、最も好ましくは比0.7:1.3である。
【0055】優れた生体利用率は、薬物を口にすることによって全身循環に達することを意味するので、経口経路経由の薬物の吸収は医薬産業界における熱心な研究対象である。経口吸収は、投薬形態からの薬物溶解、薬物が水性環境および膜と相互作用する様式、膜を横切る透過、ならびに腸、肝臓および肺等の初回通過器官による不可逆的除去を含む、薬物の特性および胃腸管の生理的機能の両方によって影響を受ける。低可溶性を示すいくつかの医薬薬剤は、低生体利用率または不規則な吸収を示し、不規則性の程度は、用量レベル、患者の摂食状態および薬物の物理化学的性質等の因子により影響を受ける。
【0056】絨毛および微絨毛の存在が吸収力のある多面的な面積を増加させるので、大部分の薬物吸収が大きな表面積がある小腸で起こる。腸の循環は、腸が肝臓への基質の流動を調節する前方組織または門脈組織であるという点で独特である。腸の静脈血は、肝臓への血液供給の約75%を構成する。それゆえ、腸によって高度に取り除かれる薬物については、薬物代謝に対する肝臓、腎臓または肺の寄与は低下するようになる。反対に、腸によってあまり抽出されない薬物については、基質は、除去のための次の器官(肝臓および肺)に達することができる。それゆえ、腸に入る薬物の濃度および腸の流量は、薬物送達率を変化させて、肝臓の初回通過代謝を介して腸の割合およびクリアランスに影響を与える。
【0057】「薬物生体利用率」は、全身的に経時的利用可能な薬物の量として本明細書において定義される。本発明は、医薬剤をオロチン酸塩に転換することによって医薬剤の薬物生体利用率を増加させる。これは、薬物が壁膜に浸透し、血液潅流率が吸収のための全体的な律速工程になるように、薬物の親水性および親油性を変化させることによって、もしくは腸における薬物生体変換の阻害によって、および/または血流の中への腸膜を横切る薬物の正味輸送を減少させる、腸における能動的逆輸送システムの阻害によって、達成することができる。いずれのケースも、増加した薬物生体利用率に関与する組成物は医薬剤のオロチン酸塩である。すぐに明らかになる理由ではないが、非水溶性L651582のCTO(塩基:酸、0.5:1?1:2)への転換は、治療を必要とする哺乳類へ経口投与した医薬剤の生体利用率を増加させる方法を提供することが見出されている。
【0058】統合された全身濃度における経時的な変化は、曲線下面積(AUC)またはC_(max)(両者とも当該技術分野において周知のパラメータ)によって示される。
【0059】本発明は、医薬剤の投薬と比較して少なくとも25%?100%のAUCによって測定されるような、医薬剤のオロチン酸塩の生体利用率の増加を、組成物が提供する方法を提供する。
【0060】本発明は、少なくとも50%?100%のC_(max) によって測定されるように、医薬剤のオロチン酸塩の生体利用率を増加させる組成物を提供する。
【0061】化学療法剤の「副作用」または「毒性」または「副作用」は、化学療法投与の急性期、および準臨床的組織損傷を持つ癌が治癒した患者で観察される。かなり重篤で障害を与え不可逆的な薬物関連の組織副作用については、高く認識されている。臨床医は、化学療法剤について可能性のある組織/器官合併症に承知していなければならず、必要に応じて、治療法の開始前に基本的組織検査を実行しなければならない。
【0062】薬物の「クリアランス」は、抽出器官への血液の灌流によって生じる。「抽出」とは、不可逆的に除去(排泄)または異なる化学形態へ変化(代謝)される、器官へ提示された薬物の比率を指す。
【0063】本発明は、医薬剤の投薬と比較して少なくとも25%?100%の薬理学的試験によって測定されるような、非癌性組織または正常組織からのCTOのオロチン酸誘導体のクリアランスを増加させる方法を提供する。
【0064】薬物の経口投薬後の「生体利用率」とは、薬物または代謝物質の活性モイエティが全身循環に入り、それによって作用部位へ接近できる程度または率である。薬物の生理化学的な特性は、その吸収能および血清タンパク質へ結合を決定する。薬物の有効性は、分子標的との相互作用に依存する。それゆえ、投薬形態の特性は、その化学的特徴およびバルク量での薬物の製造のための方法に部分的に依存する。規定の薬物の化学的製剤の中の生体利用率、有効性、輸送およびクリアランスにおける差には臨床的有意性があり得る。
【0065】薬物が完全に吸収される場合でさえ、あまりにも緩慢に吸収されるのならば、治療的血中レベルを十分迅速に生ずることができなかったり、非常に急速に吸収されるのならば、各用量後に治療的レベルを達成するように与えられた高い薬物濃度から毒性が生じたりするので、「吸収」率は重要である。吸収は、3つの方法(受動拡散、能動輸送または促進能動輸送のいずれか)のうちの1つによって生じる。受動拡散は、分子の濃度が膜の両側の浸透バランスに達するまで、分子が粘膜バリアを横切る単純な通過である。能動輸送では、分子は、粘膜を横切って能動的にポンプで送り込まれる。促進輸送では、担体(一般的にはタンパク質)が、吸収のために膜を横切る分子の運搬に必要とされる。本発明は、薬物が異なる組織および器官にうまく送られ、脳に達する血液脳関門でさえ通過することを可能にする化学的立体配置でCTO化合物を提供する。
【0066】オロチン酸、遊離ピリミジンはウリジル酸(UPP)(主要なピリミジンヌクレオチド)の合成において重要である。ピリミジンは細胞の調節および代謝で中心的な役割を果たす。ピリミジンは、DNA/RNA合成のための基質、いくつかのアミノ酸の生合成のレギュレーター、ならびにリン脂質、糖脂質、糖およびポリサッカライドの生合成におけるコファクターである。古典的なデノボピリミジン生合成経路はUMPの合成により終了する。Biochemistry、Lubert Stryer編、W.H.Freeman & Co、ニューヨーク、第4版、739-762(1995)。本発明は、溶解して帯電した分子および遊離オロチン酸として薬物を放出し、タンパク質へ薬物の結合を妨げ、標的への輸送および迅速なクリアランスを促進できる、CTOのクラスを提供する。
【0067】本発明は、1)CAI+オロチン酸の相当用量の製剤と比較したCTOの有効性、2)PEG-400中のCTOと比較した、カプセル化固体CTOとして与えられた場合のCTOの生体利用率およびクリアランス、3)経口投与したCTOの血液脳関門を介する脳への輸送、4)イヌにおける脈絡膜網膜複合体および硝子体液を含む異なる眼組織への経口投与したCTOの輸送、における改良によって測定されるような、CTOの実効性における増加を示す実施形態を提供する。
【0068】重要なことには、CTOの前臨床毒性は、175および350、1025mg/kg/日で経口経路によってイヌで決定され、28日後に死亡は起こらなかった。」

ク 製造実施例の記載
段落【0069】?【0073】に、以下の実施例1?5の記載がある。
「【0069】実施例1
・・・
3,5-ジクロロベンジルアルコール(1モル)を、tert-ブチルジメチルシリルクロライド(1.05モル)、99%イミダゾール(2.44モル)、N,N-ジメチルホルムアミド中の4-ジメチルアミノピリジンで低温で処理して、抽出操作でt-ブチルジメチルシリル-3,5-ジクロロベンジルエーテル(858.A1)を生産する。
【0070】実施例2
3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアルコール
t-ブチルジメチルシリル-3,5-ジクロロベンジルエーテル(858.A1)(1モル)を、ヘキサン中のn-ブチルリチウム1.6M溶液、続いてテトラヒドロフラン中の4-クロロベンゾイルクロライド(1.01モル)と低温で反応させ、塩酸水溶液で中間体を処理して3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアルコール(858.B)を得た。
【0071】実施例3
3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアジド
3,5-ジクロロ-4-(4-クロロベンゾイル)ベンジルアルコール(858.B)(1モル)を、トルエン中のジフェニルホスホリルアジド(ジフェニルホスホニックアジド)(DPPA)(1.2モル、および1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(異名:DBU)(1.2モル))と低温で反応させ、続いて水性の操作およびアルコール滴定を行い、3,5-ジクロロ-4-(4’-クロロベンゾイル)ベンジルアジド(858.D)を得た。DPPAは、他の有機化合物の合成において使用される有機化合物である。Aust.J.Chem 26:1591-1593 (1973)。加熱に対するDPPAの安定性は、157℃での蒸留、および175℃の温度が到達するまで窒素の激しい発生が観察されないという事実によって示される。
【0072】実施例4
5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(CAI)
3,5-ジクロロ-4-(4’-クロロベンゾイル)ベンジルアジド(858.D)(1モル)を、熱アセトニトリル中のシアノアセトアミド(1.69モル)、および炭酸カリウム(6.2モル)と反応させて、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(858.E)を得た。
【0073】実施例5
5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(オロチン酸との化合物)、(CAI:オロチン酸)
5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(858.E)(1モル)を、オロチン酸(1.03モル)およびメタノール/水混合物と反応させて、5-アミノ-1-(4-(4-クロロベンゾイル)-3,5-ジクロロベンジル)-1,2,3-トリアゾール-4-カルボキサミド(オロチン酸との固体化合物)(CAI:オロチン酸;1:1)、(CTO)(858.F)を得た。これは分子量580.76gであり、示差走査熱量測定法によって測定された約151℃、238℃および332℃の転移融点を有する。XRPDパターンは、CTOが結晶性および非晶性の(多形)材料からなることを示す。」

ケ 薬理作用を確認した実施例の記載
段落【0074】?【0080】に、以下の実施例6?8の記載がある。
「【0074】実施例6
CAI+オロチン酸(1:1)とCTO(858.F)の抗癌活性の比較
CTO(分子量580.8)およびCAI(分子量424.6)+オロチン酸(分子量156.1)の効果を、オスの無胸腺のNCr-nu/nuマウスの皮下に移植されたHT29ヒト結腸腫瘍異種移植において研究した。6週間齢のマウスにHT29断片を移植し、13日後に10匹の3群に分類した。次の14日間(13?26日目)、群1対照(C)に媒質;群2=343mg/kg/用量;群3=240mg/kg/日のCAI+103mg/kg/日のオロチン酸を投与した。41日目に、以下に示されるように、平均腫瘍体積(mm^(3))が測定された。
群1(対照)=1436mm^(3)
グループ2(CTO 343mg/kg/日)=864mm^(3)(p=0.0050、群2vs群1)
群3(CAI 250mg/kg/日+オロチン酸103mg/kg/日)=1268mm^(3)(p=0.2706、群3vs群1)。これらの結果は、CTOは、化学的に反応させないCAIおよびオロチン酸の同等量よりも、腫瘍増殖の阻止により効果的であることを示唆する。しかしながら、CAI+オロチン酸製剤はある程度の腫瘍阻止を示した。
【0075】実施例7
カプセルの固体またはPEG-400の液体として経口的に与えられたCTOの比較
CTO(塩基:酸、0.7:1.3)の生体利用率を、カプセル(群1)で、またはPEG400(群2)の経口強制投与で、単回用量685mg/kgを投与することによって決定した。2匹のイヌ(1匹メス/1匹オス)を各群で使用した。血液サンプルを、0、1、2、4、8、12、24、48、72および92時間で収集した。CAIはHPLC/MSによって測定した。
【0076】カプセルを投与した群1。1時間後の血漿濃度は、オスおよびメスのイヌについて155および174ng/mlであった。C_(max) は、オスについて12時間では5800ng/ml、およびメスについて24時間では7950ng/mlであった。オスおよびメスについてそれぞれ、半減期は18時間および22.7時間であり、AUC値は326および277μg/mLであった。
【0077】PEG400を強制投与した群2。1時間後の血漿濃度は、オスおよびメスのおイヌについて511および570ng/mlであった。C_(max) は、オスについて24時間では6634ng/ml、およびメスについて24時間では5350ng/mlであった。生体利用率は群1(100%)の生体利用率の81.8%であった。
【0078】これらの結果は、カプセルで固体として与えられたCTOは、PEG400中のCTOよりも優れた吸収パターンおよび生体利用率を有することを示す。これらおよび追加の結果に基づいて、CTOは患者に対してカプセルで固体として投与されるだろう。
【0079】実施例8
マウスに経口的に与えたCTOは血液脳関門を通過する。
6匹の2群に分類した6週齢のマウスにCTOを経口的に(PEG400中で)与えた。2用量(群1=513mg/kg;群2=342mg/kg)で投与した。CTOによる処理の8時間後に、脳組織中のCTO濃度(CAIとして)の測定のために、マウスを安楽死させた。
【0080】得られた結果は次のとおりだった。群1のCAIレベルは15167±2372ng/g組織であり、群2レベルのCAIは10950±1704ng/gの組織であり、両者とも治療的範囲(6000ng/mL)であった。CTOが経口投与されたので、これらの結果は、CTOが血液脳関門を通過し標的器官(脳)に達することを示す。」

コ 図面に関する記載
段落【0032】に、以下の記載があり、ディフラクトグラム(回折図)である以下の図3及び4がある。
「【0032】【図1】1型またはパターン1のCAIの多形体を有するCTOサンプルJ02642の、CAI:オロト酸またはCAI:オロチン酸塩としてのNMRによるCTOの構造を示した図である。
【図2】2型またはパターン2のCAIの多形体を有するCTOサンプルJ02643の、CAI:オロト酸またはCAI:オロチン酸塩としてのNMRによるCTOの構造を示した図である。
【図3】1型またはパターン1のCAIの多形体を有するCTOサンプルJ02642の高分解能ディフラクトグラムを示した図である。
【図4】2型またはパターン2のCAIの多形体を有するCTOサンプルJ02643の高分解能ディフラクトグラムを示した図である。
【図5】1型またはパターン1のCAIの多形体を有するCTOサンプルJ02642のFT-IRを示した図である。
【図6】2型またはパターン2のCAIの多形体を有するCTOサンプルJ02643のFT-IRを示した図である。」
「【図3】


「【図4】



(3)検討

ア 本願発明は、
「オロチン酸と結合した、化合物Bの1型多形体であって、図3に実質的に示されるX線回折パターンにより特徴付けられ、塩基:酸比が、1:1?1:4の範囲である、多形体。
図3


と特定されるものである。
まず、上記の図3のX線回折パターンを与える本願発明の多形体を製造したことを明示した製造具体例が、発明の詳細な説明に記載されているかを検討する。
すると、上記(2)ア?コのとおり、そのような製造具体例は、存在していない。
図3のX線回折パターンを与える多形体を製造したことの手掛かりとなる記載は、上記(2)コの「CTOサンプルJ02642」という記載のみであり、具体的な製造方法は開示されていない。

イ 次に、発明の詳細な説明に記載された製造具体例が、明示はないものの本願発明の多形体を製造したものであったといえるものであるかを検討する。
製造実施例は、上記(2)クの実施例1?5のみである。実施例1?4により化合物Bを合成し、続く実施例5は、
「実施例5
化合物B(オロチン酸との化合物)、(CAI:オロチン酸)
化合物B(858.E)(1モル)を、オロチン酸(1.03モル)およびメタノール/水混合物と反応させて、化合物B(オロチン酸との固体化合物)(CAI:オロチン酸;1:1)、(CTO)(858.F)を得た。これは分子量580.76gであり、示差走査熱量測定法によって測定された約151℃、238℃および332℃の転移融点を有する。XRPDパターンは、CTOが結晶性および非晶性の(多形)材料からなることを示す。」
というものである。
実施例5の「XRPDパターンは、CTOが結晶性および非晶性の(多形)材料からなることを示す」との記載からは、実施例5で得られた固体が、図3のX線回折パターンを与える本願発明の多形体であるとは、推認できない。

ウ 次に、発明の詳細な説明に、図3のX線回折パターンを与える本願発明の多形体を製造する方法の一般記載があるかを検討する。
製造方法の一般記載は、上記(1)カの、化合物Bとオロチン酸との化合物を製造するスキームについての記載のみである。そこには、「新規方法」の表題の下に段落【0040】に以下のスキーム

が記載され、その工程5は、化合物Bに、スキーム中の矢印の上下に記載される「オロチン酸」及び「メタノール/水」を作用させて、化合物Bとオロチン酸との化合物を製造する工程である。そして、段落【0042】に「新規方法は、CAI、CTOおよびCAOの新規多形体の生産ももたらした。従って、本発明の化合物は、1つの以上の異なる結晶構造に結晶化し、NMR、DSC、FT-IRおよびXRDP等の技法によって特徴づけられるような、CAIの異なる多形体の異なる化学的特性を示す分子を含む(図1?6)」と記載されている。
したがって、このスキームは、図3のX線回折パターンを与える本願発明の多形体を製造する方法の一般記載であるといえる。しかし、化合物Bに、オロチン酸及びメタノール/水を作用させる以外のことは、何も開示されていない。また、図3のX線回折パターンを与える本願発明の多形体だけでなく、図4のX線回折パターンを与える多形体についても、区別のない記載がされている。そうすると、図3のX線回折パターンを与える本願発明の多形体の製造方法について、製造することができるような特定した記載がされているとはいえない。

エ 出願当時の技術常識に基づき、図3のX線回折パターンを与える本願発明の多形体を製造できたかを検討する。
実際に図3のX線回折パターンを与える本願発明の多形体を製造するためには、化合物Bとオロチン酸の比率、メタノール/水におけるそれらの比率、濃度、温度、冷却速度、攪拌の有無や攪拌する場合の程度や時間、その他、多くの条件設定が必要であり、上記ア?ウの発明の詳細な説明の記載からでは、当業者の技術常識を以てしても、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要求するといえる。

オ 上記ア?エに関連する請求人の主張について

(ア)請求人は、上記イに関連するものとして、「本願明細書の実施例5の・・・CTOサンプルは精製されていないので・・・結晶性及び非結晶性(多形)材料の組成物であったのです」(審判請求書3頁下から2?末行)、「実際、実施例1?5は、1型多形体と2型多形体とを区別して製造したことを具体的には記載していません」(同4頁33?34行)と述べている。
請求人は、実施例5で得られた固体が図3のX線回折パターンを与える本願発明の多形体であることは主張していない。

(イ)請求人は、上記ア、ウ及びエに関連するものとして、「1型多形体のロットと、2型多形体のロットとは、臨床研究用の開発用の新規薬剤の試験で要求されるGMP(Good Manufacturing Process)条件下、キログラムスケールで、異なる時期に製造されました。その結果、1型多形体及び2型多形体は高純度グレードであり、いずれも本願明細書のスキームII(審決注:本願明細書の段落【0040】)を用いて異なる時期に製造されました」(同4頁11?14行)及び「当業者は、図3・・・及び図4・・・より、これらの図が、CTOの1型多形体と2型多形体についてのX線回折パターン(XRPD)を示していることを理解するはずです。そして、1型多形体ロットと2型多形体ロットとの間ではXRPDパターンは大きく異なっています。同一のスキーム(反応スキームII)を用いて異なる時期に製造したCTOが2つの多形体を生じたことを審判請求人が見いだしたのはこれが初めてでした」(同4頁19?24行)と主張している。
しかし、請求人のこの主張によっても、上記の段落【0040】のスキームに記載される以上の具体的な製造方法は、全く不明であるから、図3のX線回折パターンを与える本願発明の多形体を当業者が製造できるとはいえない。

(ウ)請求人は、また、「本願明細書の全体に記載されているように、当業者は、反応スキームIIの方法に従い、あらゆる塩基:酸比(但し、1:1?1:4の範囲内)のCTOを製造することができます」(同4頁28?30行)及び「本願明細書は、1型及び2型の各多形体の製造に適用することができる反応スキームIIを記載しています。更に、本願明細書は、当業者が各多形体を同定することを可能にするXRPDパターンを記載しています(図3及び4)。これらの本願明細書の記載に基づいて、当業者は、反応スキームIIの条件を適宜修正して、1型及び2型の各多形体を得ることができます。ここで、当業者は、ある化合物が多形を有するときに、通常は熱力学的に安定であり製造しやすい多形体か、または、安定性が低い多形体が存在することを理解します。本願出願日において、ある化合物の多形を制御する方法は当該技術分野において知られていました(本書面に資料3として添付する「Chemburkar等,Organic Process Research & Development,2000,4,413-417」。特に417頁、右欄、9?27行)。資料3の方法は、当業者が結晶化条件を制御して、選択された多形体を製造することを補助します。安定性の低い多形体は温度を下げることを要求します。本願明細書に記載の1型及び2型多形体の転移融点より、1型多形体は2型多形体よりも熱力学的に安定性が低いことは当業者に明らかです。したがって、資料3に示される本願出願日における技術レベルと本願明細書の記載とに鑑みて、当業者は1型及び2型の各多形体を製造することができます」(同4頁35行?5頁5行)と主張している。
しかし、オロチン酸と結合した化合物Bの多形体が、あらゆる塩基:酸比(但し、1:1?1:4の範囲内)であっても、そのX線回折パターンが同じであるということは、X線回折法の測定原理からして、通常考えられないことである。また、目標とする多形体のX線回折パターンが知られていればその多形体を容易に製造できる、といえるものでもない。請求人が挙げる資料3は、リトナビルという化合物の結晶多形に関し説明したもので、請求人が特に言及する417頁右欄9?27行は、酢酸エチル中の化合物の溶液から出発して種結晶を用いる晶析方法を記載したものであって、化合物も溶媒も晶析方法も、本願明細書の段落【0040】のスキームの工程5(化合物Bに、スキーム中の矢印の上下に記載される「オロチン酸」及び「メタノール/水」を作用させて、化合物Bとオロチン酸との化合物を製造する工程)とは全く異なるものである。そうすると、仮に資料3に示される技術レベルを当業者が熟知しているとしても、当業者が、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づき、本願発明の多形体を製造できるとはいえない。

カ 以上によれば、発明の詳細な説明の記載又は示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者が、本願発明の多形体を生産することができる、とはいえず、したがって、発明の詳細な説明が、本願発明に関し、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、この出願の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

2 特許法第36条第6項第1号について

(1)はじめに
以下の観点に立って、検討する。
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)発明の詳細な説明の記載
上記1(2)に記載したとおりである。

(3)本願発明の課題について
上記1(2)ア及びイによれば、従来技術のL651582オロチン酸塩(塩基:酸が2:1)(審決注:「L651582」は化合物Bである。)は、抗腫瘍活性を有することが文献により知られていたが、2:1の塩基:酸比でのL651582オロチン酸塩の化学的、薬理学的及び生物学的特性が至適だったかどうかに関する教示または示唆はなく、至適の化学的、生物学的、薬理学的、治療的、及び毒素動態学的な特徴を提供するCAI(審決注:化合物Bである。)及びCAIのオロチン酸化合物(orotate compound)の新規多形体を開発する必要性があった。また、従来技術のL651582の製造は、中間体を生産するために高毒性のアジ化ナトリウムを使用する問題があった。そこで、この出願の発明は、実効性を改良したCAIのオロチン酸製剤(塩基:酸比は1:1?1:4の範囲である)を開発し、生産のためにより安全でよりコスト効率のよい方法を開発することを目的とし、CAI及びそのオロチン酸製剤の新規多形体、及び安全な調製方法を提供した、というものである。
したがって、本願発明の課題は、実効性を改良したCAIのオロチン酸製剤(塩基:酸比は1:1?1:4の範囲である)に使用できる、請求項1に記載された多形体を提供することであると認められる。

(4)発明の詳細な説明に記載された発明と本願発明との対比・判断
本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又は示唆により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。
上記1において、実施可能要件について検討したとおり、発明の詳細な説明の記載又は示唆及び出願時の技術常識に基づき、当業者が、本願発明に係る多形体を生産できる、とはいえない。
そうすると、本願発明に係る多形体を生産できるとはいえないのであるから、上記(3)に示した、請求項1に記載された多形体を提供するという本願発明の課題を、解決できるとはいえない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。

(5)まとめ
以上のとおり、本願発明は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでなく、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

第5 むすび
したがって、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-29 
結審通知日 2016-12-05 
審決日 2016-12-16 
出願番号 特願2012-527868(P2012-527868)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C07D)
P 1 8・ 537- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 東 裕子  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 冨永 保
中田 とし子
発明の名称 新規の組成物、ならびに5-アミノまたは置換アミノ1,2,3-トリアゾールおよびトリアゾールオロチン酸塩製剤を調製する方法  
代理人 市川 さつき  
代理人 西島 孝喜  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 星野 貴光  
代理人 弟子丸 健  
代理人 山崎 一夫  
代理人 箱田 篤  
代理人 浅井 賢治  

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