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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1328211
審判番号 不服2016-4530  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-28 
確定日 2017-05-10 
事件の表示 特願2013-527109号「接着表面上に剛直性突起を有する接着構造体」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月 8日国際公開、WO2012/030570、平成25年 9月26日国内公表、特表2013-536729号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2011年(平成23年)8月22日(パリ条約による優先権主張 2010年8月30日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成27年4月9日付けで拒絶理由が通知され、同年7月3日に意見書とともに手続補正書が提出され特許請求の範囲について補正がなされ、同年7月29日付けで拒絶理由が通知され、同年10月30日に意見書とともに手続補正書が提出され特許請求の範囲について補正がなされたが、同年11月24日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成28年3月28日に該査定の取消を求めて本件審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、特許請求の範囲についてさらに補正がなされ、その後同年5月25日に上申書が提出されたものである。

なお、平成28年5月25日付け上申書において、前置報告書に対する「上申書」の提出を検討しており、上申書の提出後、審判請求人の意見を参酌して審理を進めて欲しい旨主張があったところ、その後、平成28年9月30日に本件審判請求人の代理人より、上申書を提出する予定はない旨の電話連絡があった。

第2 平成28年3月28日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年3月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容の概要
平成28年3月28日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成27年10月30日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)<補正前>
「【請求項1】
接着構造体であって、表面を備え、そこから17MPaを超えるヤング率を有する樹脂を含む突起が延在し、前記突起が、剪断接着力で測定される、前記接着構造体と生体組織を構成するターゲット表面との間の物理的引力を増加させることによって、接着を促進するために十分に小さい直径であり、
前記突起の寸法は、前記ターゲット表面の粗さに適合するように調整され、前記ターゲットは臓器であり、
前記接着構造体は、接着構造体表面上の少なくとも一部にターゲット表面と相互作用が可能な化学基を更に含む、接着構造体。」

(2)<補正後>
「【請求項1】
接着構造体であって、表面を備え、そこから17MPaを超えるヤング率を有する樹脂を含む突起が延在し、前記突起が、剪断接着力で測定される、前記接着構造体と生体組織を構成するターゲット表面との間の物理的引力を増加させることによって、接着を促進するために十分に小さい直径であり、
前記突起の寸法は、前記ターゲット表面の粗さに適合するように調整され、前記ターゲットは臓器であり、
前記接着構造体は、接着構造体表面上の少なくとも一部にターゲット表面と相互作用が可能な化学基を更に含み、
前記樹脂は、疎水性である、接着構造体。」

2 補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、補正前の請求項9の特定事項を組み入れて限定するものであり、具体的には、補正前の請求項1の「接着構造体」について、その構成材の「樹脂」について「前記樹脂は、疎水性である」という点を限定するものであるから、特許請求の範囲の限定的減縮(特許法第17条の2第5項第2号)を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、同法同条第3項及び第4項の規定に違反するものではない。
そこで、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件に適合するか否かについて検討する。

(1)補正発明
補正発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「接着構造体」であると認める。

(2)刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本件の優先日前に頒布された刊行物である特表2006-505414号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の発明が記載されていると認められる。

ア 刊行物1に記載された事項
刊行物1には、「組立マイクロ構造体」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線部は当審で付したものである。

(ア)「【0003】(本発明の簡単な説明)本発明は、一般に、マイクロスケールおよびナノスケールの構造体の製造および使用に関する。より具体的には、本発明は、組立接着マイクロ構造体に関する。」

(イ)「【0007】(概要)1つの局面において、本発明の実施形態は、組立マイクロ構造体を特徴とする。このマイクロ構造体は、少なくとも1つの突出部分を備え、この突出部分は、約60ナノニュートンと約2,000ナノニュートンとの間の接着力を表面で提供し得る。その軸柄部(stalk)が、支持表面に対して斜角をなして突出部を支持し、それによって、このマイクロ構造体は、様々なな表面(当審注:「様々な表面」の誤記)に接着し得る。」

(ウ)「【0009】本発明の種々の実施形態は、1個以上の次のような特徴を備え得る。その軸柄部は、約0.5ミクロンと約20ミクロンとの間の長さ、および約50ナノメートルと約2.0ミクロンとの間の直径を有している。それらの突出部は、分子間力によってその表面に接着する。その斜角は、約50°と約75°との間、約30°と約60°との間、または約30°である。」

(エ)「【0017】その支持表面は、可撓性である。その突出部の末端部は、約60ナノニュートンと約2,000ナノニュートンとの間の接着力を提供し得る。その突出部は、約0.1ギガパスカルと20ギガパスカルとの間のヤング率を有する。その突出部は、疎水性である。」

(オ)「【0028】スパチュラ(spatula)または突出部14が、その部材すなわち軸柄部12の末端部に位置づけられる。また、スパチュラまたは突出部のアレイが、その軸柄部の末端に位置づけられ得る。その軸柄部は、支持表面16に対して斜角(直角でも並行でもない角度)でスパチュラまたはスパチュラのアレイを支持する。この角度は、約15°と約75°との間であり、より好ましくは、約30°と60°との間である。この角度は、1つの実施形態において、30°である。」

(カ)「【0041】実際のヤモリの毛および人工のナノ突起物(nano-bump)に関する最近の結果は、接着に関するファンデルワールス仮説と矛盾しない。人工のナノ突起物は、PDMS(シリコンゴム)および300nmのティップ半径(tip radius)を有するポリエステル突起物に対して100?300nNのオーダーの接着力を示した。したがって、10^(8)cm^(-2)という突起物密度であると、3×10^(5)Nm^(-2)の接着圧が、理論的には得られ、この接着圧は、人工壁クライミングにとっては十分である。しかし、人工突起物のアレイは、屈曲性のバッキング(compliant backing)を用いたときでさえ、非平滑面(non-smooth surface)に接着しづらい。実際、2つの剛性の非平滑平面はたった3点で接触し、ナノ突起物のアレイの接着は、極めて小さいものであるとすることが、妥当である。各々のナノ突起物は、表面の高さの起伏に対して適応し得るべきである。それらの突起物を長くかつ薄く(skinny)することよって、粗い面にもそれらは接着され得る。長く薄い突起物に伴う問題は、それらの突起物が、接触表面に関して互いにくっつき、残念ながら、もつれそして絡み合うようになることである。したがって、それらの突起物は、それらの突起物が互いに接着し合わないように作成される必要がある。本発明は、面に対しては良好に接着するが互いにはくっつかない「毛状体(hair)」の設計および製造を記載する。」

(キ)「【0051】のように、スパチュラの各々の力およびスパチュラ軸柄部の各々によって占められる面積に基づいて計算され得る。
式(6)は、以下の興味深い観測結果を提供する:
1.F_(o)が小さければ小さいほど、圧力が高くなる(低いF_(o)の軸柄部は、小さい半径を有し、そして、より近い状態にあり得る);
2.より剛性であるシャフトによって、より高いパッキング密度が可能となる;
3.短く、太い軸柄部は、より高い接着圧を提供する。(しかし、短く太い軸柄部は、粗面に対する接着にとっては不十分である)。
これらの観察の全ては、軸柄部の間の接着を回避するという想定に依存する。」

(ク)「【0059】ポリエステル軸柄部およびPDMS軸柄部に対するパラメータを、表1に示す。PDMS軸柄部は、本質的に突起物であり、それは、完全な平面である表面を除いては、それほど有用な接着を提供しない。」

(ケ)「【0061】【表1】



(コ)「【0086】組立の潜在的な容易性のために、図12に示されるように、長い軸柄部を用いる単一レベルデザインが、使用され得る。よって、これらの軸柄部12は、角度にして約30°で、約10μmに等しいl、約0,25μmに等しいrで、備えつけられる。これらの軸柄部は、ポリイミドから作製される。高いアスペクト比および緊密なパッキングに起因して、分枝した小さな直径の軸柄部12を頂部についけた幅のあるシャフト32の軸柄部を備えた2層構造体を製造することは実際により容易である(図11)。シャフト32の間の中心と中心間隔が約1μmであると、ピーク接着圧10^(5)Nm^(-2)が、接触している全ての毛状体で、生成される。l=l0μmとして、すべる方向に依存して、2.5μm?5μmの局所的な表面の粗さが、許容され得る。したがって、この構造体は、冷間圧延鋼(cold rolled steel)のような比較的平滑な表面に接着し得る。」


(サ)「【0088】よって、それらのシャフト32、合成毛状体の合成マイクロスケール部分は、マイクロヘア(マイクロ毛状体)と称され、そして、それらの軸柄部(これらは、スパチュラ14を支持する)は、ナノヘア(ナノ毛状体)と称される。」

(シ)「【0089】合成毛状体製造の基礎的なパラメータは、以下のように要約され得る:
高アスペクト比のマイクロスケール(1:10-30)およびナノスケール(l:20-50)の構造体製造であって、それぞれ、5?10μmおよび100?500nmである、構造体の製造;強い接着のための、可能な限り高いマイクロ毛状体/ナノ毛状体密度(所定の面積(例えば、1cm^(2))中のマイクロ毛状体/ナノ毛状体の数);絡みつかない状態を保持するために可能な限り固く、他方、最大接触面積および最大接着のために可能な限り柔らかい、ナノ毛状体;剛性毛状体の物性:ヤング率:0.1?20ギガパスカル(GPa)、疎水性、かつ引っ張り強さ;ならびに、非対称性の摩擦挙動および座屈不安定性ポテンシャル(buckling instability potential)の低下、および粗面に対する許容性のために、ある範囲の角度(15°?75°)で方向付けられたマイクロ毛状体/ナノ毛状体。」

(ス)「【0100】第2の型のテンプレートは、合成毛状体として使用するのに適切でなないすでに存在するかまたは製造された高アスペクト比の固いマイクロ/ナノ構造体(0.1から20GPaの範囲ではないヤング率)を成形することによって製造されるポジティブテンプレートである。これらのマイクロ/ナノ構造は、例えば、カーボンナノチューブ、ナノワイヤーまたはナノロッドである。これらの構造の成形は、上で考察されたインプリンティング技術;軟質表面の機械的刻み目付け;ワックスを融解してこの構造の溝部を満たすこと;または硬化性の液体、ゴムもしくはポリマー(UV硬化性、高温または室温硬化性)により溝部を満たすことと同じである。
図13A?図13Cに示されるように、マイクロ構造体/ナノ構造体は、溶かした蝋または液体48によって成形される(図13A)。次いで、図13Bに示されるように、そのもとの構造体50が、例えば、エッチングなどによって取り除かれ、そのテンプレート52が得られる。次いで、このテンプレートは、ポリマー54を用いて成形され、そして、このテンプレートが取り出される(図13C)。」

(セ)「【0116】他の用途としては以下が挙げられる:昆虫捕獲、テープ、ロボットの足およびトレッド、登山用のグローブ/パッド、把持、クリーンルーム処理ツール、マイクロ光学操作(これは表面を傷付けず、かつ残留物も引っ掻き傷も残さない)、マイクロブルーム、マイクロバキューム、ウエハからのフレークの除去、個々の粒子の光学的配置および除去、登山、スローイング、およびステッカー玩具、プレスオン(press-on)フィンガーネイル、サイレントファスナー、特定の位置における接着を防止するための基板、ディスクドライブを清掃するためのブルーム、ポストイットノート、バンドエイド、半導体輸送、衣類のファスナーなど。これらの多くの用途において、平らな基板上のスパチュラのパッチが、シャフト上に配置されるスパチュラのパッチとは対照的に、使用される。」

イ 刊行物1発明
(ソ)上記記載事項(ア)の「組立接着マイクロ構造体」、上記記載事項(イ)の「1つの局面において、本発明の実施形態は、組立マイクロ構造体を特徴とする。このマイクロ構造体は、少なくとも1つの突出部分を備え、この突出部分は、約60ナノニュートンと約2,000ナノニュートンとの間の接着力を表面で提供し得る。」及び「このマイクロ構造体は、様々なな表面に接着し得る。」の記載からみて、上記記載事項(イ)の「組立マイクロ構造体」や「マイクロ構造体」は上記記載事項(ア)の「組立接着マイクロ構造体」と同意であり、「組立接着マイクロ構造体」は突出部分を有し、様々な表面に接着するものと認められる。
また、「組立接着マイクロ構造体」は、その用途として上記記載事項(セ)に「バンドエイド」とあり、技術常識を踏まえれば、当該バンドエイドは生体組織を構成する表面に接着するためのものであるので、上記「様々な表面」には「生体組織を構成する表面」が含まれるものと認められる。
そうすると、「組立接着マイクロ構造体」は突出部分を有し、生体組織を構成する表面に接着するものと認められる。

(タ)上記記載事項(イ)の「その軸柄部(stalk)が、支持表面に対して斜角をなして突出部を支持し」、上記記載事項(オ)の「スパチュラ(spatula)または突出部14が、その部材すなわち軸柄部12の末端部に位置づけられる。」及び「その軸柄部は、支持表面16に対して斜角(直角でも並行でもない角度)でスパチュラまたはスパチュラのアレイを支持する。」、並びに図12の図示内容を考慮すれば、上記認定事項(ソ)の「組立接着マイクロ構造体」は「支持表面16」を備え、同じく上記「突出部分」は「支持表面16」から延在する「軸柄部12」又は「軸柄部12」の先端部を表現した「突出部14」若しくは「スパチュラ」であると認められる。
そうすると、上記「組立接着マイクロ構造体」は、「組立接着マイクロ構造体であって、支持表面16を備え、そこから軸柄部12が延在し、前記軸柄部12の先端の突出部14又はスパチュラが、生体組織を構成する表面に接着する、組立接着マイクロ構造体」であるということができる。

(チ)上記記載事項(ク)の「ポリエステル軸柄部」という記載や、上記記載事項(ケ)の表1に記載された「ポリイミド」、「ポリエステル」を軸柄部に採用した例、上記記載事項(コ)の「これらの軸柄部は、ポリイミドから作製される。」との記載、その製造方法に関する上記記載事項(ス)の「図13A?図13Cに示されるように、マイクロ構造体/ナノ構造体は、溶かした蝋または液体48によって成形される(図13A)。次いで、図13Bに示されるように、そのもとの構造体50が、例えば、エッチングなどによって取り除かれ、そのテンプレート52が得られる。次いで、このテンプレートは、ポリマー54を用いて成形され、そして、このテンプレートが取り出される(図13C)。」との記載からして、「突出部14又はスパチュラ」を含む「軸柄部12」は、ポリエステル、ポリイミドや、ポリマーで成形されたものであると認められる。

(ツ)上記記載事項(エ)に「その突出部は、約0.1ギガパスカルと20ギガパスカルとの間のヤング率を有する。」とあり、上記記載事項(ケ)の表1にはヤング率に関しポリイミドの軸柄部が「2GPa」、ポリエステルの軸柄部が「850MPa」とあり、上記記載事項(シ)に「剛性毛状体の物性:ヤング率:0.1?20ギガパスカル(GPa)」とあるところ、「突出部14又はスパチュラ」を含む「軸柄部12」は「0.1GPa?20GPaのヤング率」を有するものと認められる。

(テ)上記記載事項(ウ)に「それらの突出部は、分子間力によってその表面に接着する。」とあるところ、当該「突出部」は上記「突出部14又はスパチュラ」であると認められ、それらは「生体組織を構成する表面」に対して分子間力により接着するものと認められる。

(ト)これに関して、上記記載事項(カ)に「実際のヤモリの毛および人工のナノ突起物(nano-bump)に関する最近の結果は、接着に関するファンデルワールス仮説と矛盾しない。人工のナノ突起物は、PDMS(シリコンゴム)および300nmのティップ半径(tip radius)を有するポリエステル突起物に対して100?300nNのオーダーの接着力を示した。」とあるところ、当該「接着に関するファンデルワールス仮説」とはつまり「ファンデルワールス力による接着」を意味し、当該「ファンデルワールス力」は分子間に働く物理的引力であることは技術常識であり、その分子間に働く物理的引力がナノオーダーの十分小さい直径を有する突起形状により生じているものと認められる。
そうすると、上記認定事項(テ)の「生体組織を構成する表面」に対して分子間力により接着する「突出部14又はスパチュラ」は、上記と同様に、分子間に働く物理的引力により接着する程度に、十分小さい直径であると認められる。

(ナ)上記認定事項(ソ)?(ト)を総合すると、上記「組立接着マイクロ構造体」は、「組立接着マイクロ構造体であって、支持表面16を備え、そこから0.1GPa?20GPaのヤング率を有するポリエステル、ポリイミド、又はポリマーで成形された軸柄部12が延在し、前記軸柄部12の先端の突出部14又はスパチュラが、生体組織を構成する表面に、分子間に働く物理的引力により接着する程度に、十分小さい直径」であるということができる。

(ニ)上記記載事項(カ)の「各々のナノ突起物は、表面の高さの起伏に対して適応し得るべきである。それらの突起物を長くかつ薄く(skinny)することよって、粗い面にもそれらは接着され得る。」、上記記載事項(キ)の「短く、太い軸柄部は、より高い接着圧を提供する。(しかし、短く太い軸柄部は、粗面に対する接着にとっては不十分である)。」の各記載によれば、「ナノ突起物の径や長さは、接着面の粗さに適合するように調整され」るものと認められる。
ここで、上記認定事項(ナ)の「軸柄部12」は「ナノ突起物」であるので、当該「軸柄部12」の径や長さは、様々な表面の粗さに適合するように調整されるものということができる。

(ヌ)上記記載事項(シ)の「剛性毛状体の物性:ヤング率:0.1?20ギガパスカル(GPa)、疎水性」の「剛性毛状体」は、上記記載事項(サ)の「それらの軸柄部(これらは、スパチュラ14を支持する)は、ナノヘア(ナノ毛状体)と称される。」という記載から「軸柄部12」と認められ、さらに上記記載事項(エ)の「その突出部は、疎水性である。」との記載を考慮すれば、「軸柄部12」及び「軸柄部12の先端の突出部14又はスパチュラ」は「疎水性」であると認められる。

そこで、上記記載事項(ア)?(セ)及び上記認定事項(ソ)?(ヌ)を、図面を参照しつつ補正発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認める。(以下「刊行物1発明」という。)
「組立接着マイクロ構造体であって、支持表面16を備え、そこから0.1GPa?20GPaのヤング率を有するポリエステル、ポリイミド、又はポリマーで成形された軸柄部12が延在し、前記軸柄部12の先端の突出部14又はスパチュラが、生体組織を構成する表面に、分子間に働く物理的引力により接着する程度に、十分小さい直径であり、
軸柄部12の径や長さは、前記生体組織を構成する表面の粗さに適合するように調整され、
前記軸柄部12及び前記軸柄部12の先端の突出部14又はスパチュラは、疎水性である、組立接着マイクロ構造体。」

(3)対比
補正発明と刊行物1発明とを対比すると以下のとおりである。
刊行物1発明の「組立接着マイクロ構造体」、「支持表面16」、「径や長さ」は、文言の意味、機能等からみて、それぞれ補正発明の「接着構造体」、「表面」、「寸法」に相当する。
そして、「突出部14又はスパチュラ」を含む「軸柄部12」は、その機能等からみて、補正発明の「突起」に相当する。また、当該「軸柄部12」は、「ポリエステル、ポリイミド、又はポリマーで成形され」ているので、「樹脂を含む」ことに相当することは明らかである。
刊行物1発明の「生体組織を構成する表面」は、接着する対象(ターゲット)であるので、補正発明の「生体組織を構成するターゲット表面」に相当するということができる。

以上の対応関係を踏まえると、刊行物1発明は、
「接着構造体であって、表面を備え、そこから0.1GPa?20GPaのヤング率を有する樹脂を含む突起が延在し、前記突起が、生体組織を構成するターゲット表面に、分子間で働く物理的引力により接着する程度に、十分小さい直径であり、
前記突起の寸法は、前記ターゲット表面の粗さに適合するように調整され、
前記突起は、疎水性である、接着構造体。」
と言い改められる。

上記において刊行物1発明における「0.1GPa?20GPaのヤング率」と、補正発明の「17MPaを超えるヤング率」とは、「0.1GPa?20GPa」の範囲で一致することは自明である。
また、「分子間に働く物理的引力」は、「突起」により「接着構造体」と「ターゲット表面」との間に生じる「物理的引力」であり、当該「突起」が存在しない状態より「物理的引力」が増加することは自明である。そして「物理的引力」が増加すれば、それらの接着面間に働く「剪断」方向の引力、つまり「剪断接着力」も促進することも技術常識から明らかであるので、上記「前記突起が、生体組織を構成するターゲット表面に、分子間で働く物理的引力により接着する程度に、十分小さい直径であ」ることは、補正発明の「前記突起が、剪断接着力で測定される、前記接着構造体と生体組織を構成するターゲット表面との間の物理的引力を増加させることによって、接着を促進するために十分に小さい直径であ」ることと共通する。
さらに、刊行物1発明の「突起は、疎水性である」ので、補正発明の突起に含まれる「樹脂が疎水性である」ことと実質的に差異があるとは認められない。

したがって、補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「接着構造体であって、表面を備え、そこから0.1GPa?20GPaのヤング率を有する樹脂を含む突起が延在し、前記突起が、剪断接着力で測定される、前記接着構造体と生体組織を構成するターゲット表面との間の物理的引力を増加させることによって、接着を促進するために十分に小さい直径であり、
前記突起の寸法は、前記ターゲット表面の粗さに適合するように調整され、
前記樹脂は、疎水性である、接着構造体。」

そして、補正発明と刊行物1発明とは、以下の2点で相違している。
<相違点1>
補正発明は、「前記ターゲットは臓器であり」と接着構造体の用途を臓器と特定するのに対し、
刊行物1発明は、そのような特定がされていない点。
<相違点2>
補正発明は、接着構造体の表面上の少なくとも一部にターゲット表面と相互作用が可能な化学基をさらに含むのに対し、
刊行物1発明は、そのような構成を備えていない点。

(4)相違点の検討
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
ア 相違点2について
体の内外の組織表面(臓器など)に接着する接着構造体の接着面に、当該組織表面と相互作用が可能な化学基を有するよう構成することは、例えば原査定において例示された特表2008-508916号公報(段落【0018】等参照)や本願の国際段階において国際調査報告で提示された国際公開第2009/067482号(特に第21頁第9?13行には「For example, surface modification 26 can render the surface of substrate 22 and/or protrusions 24 capable of covalently bonding to the biological tissue, e.g., via covalent bonding of aldehyde functional groups to amine groups on the biological tissue surface. As other examples, surface modification 26 can include one or more of the following functional groups: a carbonyl, an aldehyde, an acrylate, a cyanoacrylate, and/or an oxirane.」(例えば、表面改質26は、基板22及び/又は突起部24の表面を生体組織に共有結合的に、例えば、生体組織表面においてアミン基とアルデヒド官能基の共有結合を介して、接着することができるようにするものである。他の例としては、表面改質26は、カルボニル、アルデヒド、アクリレート、シアノアクリレート、及び/又はオキシランから選択される一つ又は複数の官能基を含むことができる。)(括弧内に付記した邦訳は当審による。)と記載されている。)に示されるように、従来周知の技術事項である。
そして、かかる組織表面と相互作用が可能な化学基を表面に有するという上記従来周知の技術事項は、組織表面への接着力をさらに増加するものであるところ、刊行物1発明において、接着力の増加という組立接着マイクロ構造体(接着構造体)における当然の課題を解決するために、組立接着マイクロ構造体の表面に、上記従来周知の組織表面と相互作用が可能な化学基を適用することは、当業者において十分動機付けがあるといえる。
そうしてみると、刊行物1発明に、上記従来周知の技術事項を適用し、組立接着マイクロ構造体表面上の少なくとも一部にターゲット表面と相互作用が可能な化学基を更に含むようにし、相違点2に係る補正発明の構成とすることは当業者であれば容易になし得たことである。

イ 相違点1について
補正発明における「前記ターゲットは臓器」という発明特定事項は、発明に係る接着構造体の用途を限定するものと認められる。
ここで、用途限定に係る発明特定事項については、用途限定が、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をも考慮して、その用途に特に適した形状、構造、組成等(以下「構造等」という。)を意味すると解することができる場合のように、用途限定が付された物が、その用途に特に適した物を意味すると解される場合は、その物は用途限定が意味する構造等を有する物であると解するべきである。
この前提に立って補正発明をみると、突起の形状(直径や寸法)、構造(表面を備え、当該表面から突起が延在すること)及びヤング率等の物性といった構成については、明細書の記載(段落【0030】、【0126】、【0127】等)を参酌すれば、「臓器」という用途に特に適した構造等であるとは認められず、したがって、当該相違点1に係る用途限定は形式的なものであり、実質的な相違点とは認め難い。
一方、明細書の段落【0133】の記載を参酌しつつ、補正発明を改めて俯瞰すれば、「臓器」への適用という用途限定は、結局のところ「接着構造体表面の少なくとも一部にターゲット表面と相互作用が可能な化学基をさらに含」むことと同義であるとも考えられ、そうすると、相違点1は、実質的に相違点2と同一となり、すでに上記(4)アで検討したとおり、刊行物1発明と従来周知の技術事項から、当業者が容易になし得たものである。

ウ 小括
したがって、補正発明は、刊行物1発明及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本件出願の発明について
1 本件出願の発明
本件補正は、上記のとおり却下されたところ、本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、平成27年10月30日付けの手続補正書により補正された上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「接着構造体」であると認める。

2 刊行物
これに対して、原審の拒絶の理由に引用された刊行物は、上記第2の2(2)に示した刊行物1であり、その記載事項は上記第2の2(2)のとおりである。

3 対比・検討
本願発明は、実質的に、上記第2の2で検討した補正発明の「接着構造体」から、「前記樹脂は、疎水性である」という点を削除したものである。
そうすると、本願発明より狭い範囲を特定事項とする補正発明が、上記第2の2で検討したとおり想到容易である以上、それよりも広い範囲を特定事項とする本願発明も、刊行物1発明及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということになる。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-22 
結審通知日 2016-11-29 
審決日 2016-12-12 
出願番号 特願2013-527109(P2013-527109)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀川 泰宏八木 敬太西尾 元宏  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 橘 均憲
平瀬 知明
発明の名称 接着表面上に剛直性突起を有する接着構造体  
代理人 大島 孝文  
代理人 加藤 公延  
代理人 大島 孝文  
代理人 加藤 公延  
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