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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1328214
審判番号 不服2016-5244  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-08 
確定日 2017-05-10 
事件の表示 特願2011-185876「プリンタ及び印刷処理プログラム並びに印刷処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月 7日出願公開、特開2013- 46968〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本件出願は、平成23年8月29日の出願であって、平成26年12月16日付けで拒絶理由通知がなされ、平成27年2月20日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年7月1日付けで最後の拒絶理由通知がなされ、同年9月2日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年1月5日付けで、平成27年9月2日付け手続補正が却下されるとともに、拒絶査定がなされ(同査定の謄本の送達(発送)日 平成28年1月12日)、これに対し平成28年4月8日付けで拒絶査定に対する審判請求及びこれと同時にする手続補正がなされ、さらに、当審において、同年11月9日付けで拒絶理由を通知したところ、同年12月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願の発明

本願の請求項1に係る発明は、上記の平成28年12月26日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という。)。

「【請求項1】
USBポートと、
前記USBポートに接続されたホストがリムーバブルドライブとして認識可能な通常記憶領域を有するメモリと、
アプリケーションプログラムで作成された印刷データに基づいて印刷を行う印刷手段と、
前記印刷手段及び前記メモリを制御するプロセッサと
を有するプリンタであって、
前記通常記憶領域は、
前記アプリケーションプログラムの実行ファイルが記憶された第1メモリ領域と、
前記印刷データを含む複数の命令ファイルを個別にそれぞれ書き込み可能な2つの第2メモリ領域と、
を含み、
前記メモリは、
前記命令ファイルから取り出された前記印刷データを一時的に記憶可能な印刷バッファ領域を含み、
前記プロセッサは、
前記アプリケーションプログラムの実行ファイルが前記ホストに読み出されて実行された場合に、
前記ホストから受信した前記印刷データを含む複数の命令ファイルのうち時系列の前後で異なる1つずつを前記2つの第2メモリ領域を交互に使用しながら書き込むことで、当該2つのうちの1つの第2メモリ領域に記憶されていた元の1つの命令ファイルの内容を更新するファイル書き込み処理;
前記ファイル書き込み処理により前記1つの第2メモリ領域に書き込まれた前記1つの命令ファイルを解析し前記印刷データを取り出す、印刷データ取り出し処理;
前記印刷データ取り出し処理により取り出した前記印刷データを、データ展開元としての前記第2メモリ領域から、データ展開先としての前記印刷バッファ領域へ展開する、データ展開処理;
前記ファイル書き込み処理により前記1つの第2メモリ領域に書き込まれた後前記データ展開処理により前記印刷バッファ領域に展開された、前記1つの命令ファイルに対応した印刷データの印刷を、前記印刷手段に実行させる印刷処理;
前記ファイル書き込み処理が終了し前記データ展開処理が終了した後、前記1つの第2メモリ領域に記憶保持され解析対象とされた前記1つの命令ファイルの内容を後に更新可能とするための、更新準備処理;
を含む複数の処理を、前記複数の命令ファイルについて、前記2つの第2メモリ領域のうち一方に書き込まれた後に前記印刷バッファ領域に展開された、先行する前記命令ファイルの前記印刷処理と、前記2つの第2メモリ領域のうち他方に対する、後続の前記命令ファイルの前記ファイル書き込み処理とを同時並行させつつ順次行う
ことを特徴するプリンタ。」

3.当審で指摘した拒絶理由の概要

当審において平成28年11月9日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という)の概要は次のとおりである。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1、2、5、6
・引用文献等 1?5

・請求項 3、4
・引用文献等 1?6

引 用 文 献 等 一 覧

引用文献1.特開2011-138255号公報
引用文献2.特開2010-219689号公報
引用文献3.特開2010-140214号公報
引用文献4.特開2010-100065号公報
引用文献5.特開平5-330155号公報
引用文献6.特開平9-216439号公報

4.引用例

(1)当審拒絶理由に引用文献1として引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2011-138255号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア.「【0013】
[2.本発明の内部構成]次に、本実施の形態に係る印刷システム101のプリンター1とUSBメモリ401の内部構成について、図3を参照しつつ説明する。図3は、本実施の形態に係る印刷システム101のプリンター1とUSBメモリ401の内部構成を示したブロック図である。図3に示すように、本実施の形態において、プリンター1では、入出力インターフェース31に対して、操作キー51、ディスプレイコントローラ(以下、「LCDC」という)52、2つの駆動回路54,56、第1USBポートP1、及び第2USBポートP2等が接続されている。
(中略)
【0014】
また、本実施の形態に係る印刷システム101のプリンター1では、入出力インターフェース31に対して、CPU32、ROM33、RAM34、及びFLASH・ROM36等が接続されている。CPU32は、後述する各プログラム等を実行するものであって、印刷関係以外の制御プログラムが記憶されるキャッシュメモリ等を内蔵するものである。また、CPU32は、下記の制御プログラム37を実行することにより、上記駆動回路54,56等を作動させ、下記の通常記憶領域40に記憶されている印刷データを印字テープ2に印刷しながら、その印字テープ2を外部に排出することができる。従って、2つの駆動回路54,56やサーマルヘッド55やテープ送りモータ57等により、「印刷手段」が構成される。
【0015】
また、ROM33には、印刷関係以外の制御プログラム等が記憶されている。RAM34は、種々の制御プログラムをCPU32で実行するときの作業領域を提供する。
FLASH・ROM36には、印刷関係の制御プログラム37、及び管理テーブル39等が記憶されており、さらに、通常記憶領域40等が設けられている。さらに、通常記憶領域40には、アプリケーションプログラム記憶領域41、命令ファイル配置領域42、通知ファイル配置領域43、設定ファイル配置領域44、及び仕様ファイル記憶領域46等が設けられている。
【0016】
管理テーブル39は、FLASH・ROM36内の通常記憶領域40への書き込みをUSB規格で管理するものであって、第1USBポートP1に接続されたパソコン111に対し、FLASH・ROM36内の通常記憶領域40をリムーバブルドライブとして認識させる。
アプリケーションプログラム記憶領域41は、FLASH・ROM36内の通常記憶領域40の一部が固定的にあてがわれたものであって、アプリケーションプログラムの実行ファイル200(下記図4参照)として、第1のアプリケーションプログラムの実行ファイルが記憶されている。従って、第1のアプリケーションプログラムは、プリンター1のファームウエアである。尚、第1のアプリケーションプログラムとは、本実施の形態に係る印刷システム101のプリンター1の専用エディタとして開発されたソフトウエアである。
命令ファイル配置領域42とは、FLASH・ROM36内の通常記憶領域40の一部が管理テーブル39によってあてがわれたものであって、命令ファイル202(下記図4参照)が格納される。尚、命令ファイル202(下記図4参照)とは、上記第1のアプリケーションプログラムや下記第2のアプリケーションプログラムによって生成されるものであって、印刷命令コマンドを含み、さらに、上記第1のアプリケーションプログラムや下記第2のアプリケーションプログラムで作成された印刷データを含むものである。」

イ.「【0025】
そこで、S10におけるパソコン111では、プリンター1が第1モードで起動していれば、プリンター1のFLASH・ROM36内の通常記憶領域40の一部があてがわれたアプリケーションプログラム記憶領域41に、ユーザーが通常操作でアクセスして、そのアプリケーションプログラム記憶領域41に記憶されている第1のアプリケーションプログラムの実行ファイルをアプリケーションプログラムの実行ファイル200として読み出して起動させる。」

ウ.「【0029】
S12におけるパソコン111では、ユーザーは、その第1又は第2のアプリケーションプログラムである専用エディタを使用して、プリンター1で印刷させるための印刷データを作成する。」

エ.「【0034】
一方、プリンター1では、パソコン111にUSB接続されると、S101?S108の各動作を制御するプログラムが実行される。尚、このプログラムは、ROM33に記憶されており、CPU32が自身のキャッシュメモリに読み込んで実行する。
先ず、CPU32は、S101において、パソコン111から命令ファイル202を受信したか否かを判定する。ここで、パソコン111から命令ファイル202を受信していない場合には(S101:NO)、下記S107に進む。一方、パソコン111から命令ファイル202を受信した場合には(S101:YES)、S102に進む。
S102では、CPU32は、プリンター1が第1モードで起動している場合には、FLASH・ROM36内の通常記憶領域40の一部があてがわれた命令ファイル配置領域42に、その命令ファイル202を上書きで記憶させる一方、プリンター1が第2モードで起動している場合には、USBメモリ401内の通常記憶領域440の一部があてがわれた命令ファイル配置領域442に、その命令ファイル202を上書きで記憶させる。
【0035】
S103では、CPU32は、プリンター1が第1モードで起動している場合には、FLASH・ROM36内の通常記憶領域40の一部があてがわれた命令ファイル配置領域42に上書きされた命令ファイル202の解析を行う一方、プリンター1が第2モードで起動している場合には、USBメモリ401内の通常記憶領域440の一部があてがわれた命令ファイル配置領域442に上書きされた命令ファイル202の解析を行う。この解析では、命令ファイル202に含まれている印刷データが取り出される。
S104では、CPU32は、上記S103で命令ファイル202から取り出された印刷データの印刷を、プリンター1が第1モードで起動している場合には、FLASH・ROM36に記憶されている印刷関係の制御プログラム37に従って行う一方、プリンター1が第2モードで起動している場合には、USBメモリ401内の通常記憶領域440に記憶されている印刷関係の制御プログラム437に従って行う。このとき、CPU32は、駆動回路54,56等を作動させる。」

上記の記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「第1USBポートP1が接続され、
第1USBポートP1に接続されたパソコン111に対し、FLASH・ROM36内の通常記憶領域40をリムーバブルドライブとして認識させ、
ユーザーは、第1のアプリケーションプログラムを使用して、印刷データを作成し、
CPU32は、駆動回路54,56等を作動させ、通常記憶領域40に記憶されている印刷データを印字テープ2に印刷し、
2つの駆動回路54,56やサーマルヘッド55やテープ送りモータ57等により、「印刷手段」が構成され、
通常記憶領域40には、アプリケーションプログラム記憶領域41、命令ファイル配置領域42が設けられ、
アプリケーションプログラム記憶領域41は、第1のアプリケーションプログラムの実行ファイルが記憶され、
命令ファイル配置領域42は、命令ファイル202が格納され、
パソコン111では、第1のアプリケーションプログラムの実行ファイルをアプリケーションプログラムの実行ファイル200として読み出して起動させ、
パソコン111から印刷データを含む命令ファイル202を受信し、
CPU32は、命令ファイル配置領域42に、その命令ファイル202を上書きで記憶させ、
CPU32は、命令ファイル配置領域42に上書きされた命令ファイル202の解析を行い、この解析では、命令ファイル202に含まれている印刷データが取り出され、
CPU32は、命令ファイル202から取り出された印刷データの印刷を、FLASH・ROM36に記憶されている印刷関係の制御プログラム37に従って行う
プリンター1。」

(2)当審拒絶理由に引用文献2として引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2010-219689号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

オ.「【0018】
以下の説明では、画像処理装置20によりスキャンした画像データを印刷コンテンツデータとして画像処理装置20からIPネットワーク10を介して画像処理装置30に送信し、印刷コンテンツデータを受信した画像処理装置30によりこの印刷コンテンツデータを印刷することを想定するため、画像処理装置20を「発信側端末20」と称し、画像処理装置30を「着信側端末30」と称することにする。」

カ.「【0029】
実施例の印刷システムや着信側端末30では、着信側端末30のメモリー36の容量のうち印刷用データに割り当てられた印刷用記憶容量の範囲内として設定された1024バイトずつ印刷コンテンツデータの送受信を行なうものとしたが、着信側端末30のメモリー36に2ページ分の印刷用記憶領域を用意し、一方の印刷用記憶領域に書き込まれた1ページ分のデータを印刷している最中に他方の印刷用記憶領域に1ページ分のデータを受信するものとしてもよい。この場合の着信側処理の一例を図15に示す。図15の着信側処理のステップS400?S440は図5の着信側処理のステップS100?S140と同一であり、図15の着信側処理のステップS450?S480はデータ要求およびデータ応答が1ページ毎であることを除いて図5の着信側処理のステップS160?S190と同一である。ステップS400?S470までの処理で1ページ分のデータをメモリー36の一方の印刷用記憶領域に記憶すると、一方の印刷用記憶領域に記憶した1ページ分のデータに対してレンダリングと印刷を開始すると共に(ステップS480)、ステップS430と同様にページ情報要求メッセージを発信側端末20に送信することによりページ情報要求を行ない、これに応じて発信側端末20から送信されるページ情報応答メッセージを受信する(ステップS500)。着信側端末30は、発信側端末20からのページ情報応答メッセージを受信すると、このページ情報応答メッセージに印刷コンテンツデータのURLや印刷コンテンツにおける次のページのURLがあれば、これらのURLを取得し(ステップS510,S520)、取得したURLを用いてデータ要求メッセージを送信することによりデータ要求を行ない(ステップS530)、このデータ要求に対して発信側端末20から送信されるデータ応答メッセージと1ページ分のデータとを受信し、1ページ分のデータについてはメモリー36の他方の印刷用記憶領域に記憶する(ステップS540)。そして、メモリー36の一方の印刷用記憶領域に記憶されたデータの印刷が終了するのを待って(ステップS550)、メモリー36の他方の印刷用記憶領域に記憶した1ページ分のデータに対してレンダリングと印刷を開始し(ステップS480)、印刷が終了したメモリー36の一方の印刷用記憶領域に次の1ページ分のデータを記憶するための処理、即ちステップS490?S540の処理を実行する。発信側端末20からのページ情報応答メッセージに印刷コンテンツデータのURLも次のページのURLもない場合には、印刷コンテンツデータの送信が終了したと判断し(ステップS510)、セッションを終了するために発信側端末20に「BYE」(図2参照)を送信し(ステップS560)、現在の印刷が終了するのを待って(ステップS570)、着信側処理を終了する。なお、この着信側処理に対応する発信側処理については着信側処理におけるシーケンス番号に応答するものであるから、図6におけるシーケンス番号の応答と同一である。このように、2つの印刷用記憶領域の一方で印刷し、他方でデータを受信することにより、印刷コンテンツデータを送受信する時間を短くすることができる。」

キ.上記オ.によれば、「画像処理装置30を「着信側端末30」と称する」のだから、「着信側端末30」は「画像処理装置30」である。

上記の記載事項を総合すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「画像処理装置30のメモリー36に2ページ分の印刷用記憶領域を用意し、一方の印刷用記憶領域に書き込まれた1ページ分のデータを印刷している最中に他方の印刷用記憶領域に1ページ分のデータを受信し、
1ページ分のデータをメモリー36の一方の印刷用記憶領域に記憶すると、一方の印刷用記憶領域に記憶した1ページ分のデータに対してレンダリングと印刷を開始し、
発信側端末20から送信されるデータ応答メッセージと1ページ分のデータとを受信し、1ページ分のデータについてはメモリー36の他方の印刷用記憶領域に記憶し、
メモリー36の一方の印刷用記憶領域に記憶されたデータの印刷が終了するのを待って、メモリー36の他方の印刷用記憶領域に記憶した1ページ分のデータに対してレンダリングと印刷を開始し、印刷が終了したメモリー36の一方の印刷用記憶領域に次の1ページ分のデータを記憶するための処理を実行する
印刷コンテンツデータを印刷する画像処理装置30。」

5.対比

本願発明と引用発明1とを対比する。

後者の「第1USBポートP1」は、その構造、機能、作用等からみて、前者の「USBポート」に相当し、同様に、「パソコン111」は「ホスト」に、「プリンター1」は「プリンタ」に相当する。

後者の「通常記憶領域40」は、「第1USBポートP1に接続されたパソコン111に対し」、「リムーバブルドライブとして認識させ」るものだから、前者の「USBポートに接続されたホストがリムーバブルドライブとして認識可能な通常記憶領域」に相当し、同様に「FLASH・ROM36」は「メモリ」に相当する。

後者において、「印刷手段」は「2つの駆動回路54,56やサーマルヘッド55やテープ送りモータ57等により」構成され、「駆動回路54,56等」は「印刷データを印字テープ2に印刷」するもので、印刷データは「第1のアプリケーションプログラムを使用して」作成されるから、後者の「印刷手段」は、「第1のアプリケーションプログラムを使用して」作成された「印刷データを印字テープ2に印刷」するものであって、前者の「アプリケーションプログラムで作成された印刷データに基づいて印刷を行う印刷手段」に相当する。

後者の「CPU32」は、「通常記憶領域40に記憶されている印刷データを印字テープ2に印刷」するから、「印刷手段」及び「通常記憶領域40を含むFLASH・ROM36」を制御していることは明らかであって、前者の「前記印刷手段及び前記メモリを制御するプロセッサ」に相当する。

後者の「通常記憶領域40には、アプリケーションプログラム記憶領域41、命令ファイル配置領域42が設けられ、アプリケーションプログラム記憶領域41は、第1のアプリケーションプログラムの実行ファイルが記憶され、命令ファイル配置領域42は、命令ファイル202が格納され、」と、前者の「通常記憶領域は、アプリケーションプログラムの実行ファイルが記憶された第1メモリ領域と、印刷データを含む複数の命令ファイルを個別にそれぞれ書き込み可能な2つの第2メモリ領域と、を含み、」とは、「通常記憶領域は、アプリケーションプログラムの実行ファイルが記憶された第1メモリ領域と、印刷データを含む命令ファイルを書き込み可能な第2メモリ領域と、を含み、」との概念で共通する。

後者の「パソコン111では、第1のアプリケーションプログラムの実行ファイルをアプリケーションプログラムの実行ファイル200として読み出して起動させ」る点は、前者の「前記アプリケーションプログラムの実行ファイルが前記ホストに読み出されて実行された」点に相当する。

後者の「パソコン111から印刷データを含む命令ファイル202を受信した場合には、CPU32は、命令ファイル配置領域42に、その命令ファイル202を上書きで記憶させ」ることと、前者の「前記ホストから受信した前記印刷データを含む複数の命令ファイルのうち時系列の前後で異なる1つずつを前記2つの第2メモリ領域を交互に使用しながら書き込むことで、当該2つのうちの1つの第2メモリ領域に記憶されていた元の1つの命令ファイルの内容を更新するファイル書き込み処理」とは、「ホストから受信した印刷データを含む命令ファイルを書き込むことで、第2メモリ領域に記憶されていた元の1つの命令ファイルの内容を更新するファイル書き込み処理」との概念で共通する。

後者の「命令ファイル配置領域42に上書きされた命令ファイル202の解析を行い、この解析では、命令ファイル202に含まれている印刷データが取り出され」ることは、上記の「ファイル書き込み処理」についての検討も踏まえると、前者の「前記ファイル書き込み処理により前記1つの第2メモリ領域に書き込まれた前記1つの命令ファイルを解析し前記印刷データを取り出す、印刷データ取り出し処理」に相当する。

後者の「命令ファイル202から取り出された印刷データの印刷を、FLASH・ROM36に記憶されている印刷関係の制御プログラム37に従って行う」ことと、前者の「前記ファイル書き込み処理により前記1つの第2メモリ領域に書き込まれた後前記データ展開処理により前記印刷バッファ領域に展開された、前記1つの命令ファイルに対応した印刷データの印刷を、前記印刷手段に実行させる印刷処理」とは、上記の「ファイル書き込み処理」についての検討も踏まえると、「ファイル書き込み処理により1つの第2メモリ領域に書き込まれた、1つの命令ファイルに対応した印刷データの印刷を、印刷手段に実行させる印刷処理」との概念で共通する。

後者において、「命令ファイル配置領域42に上書きされた命令ファイル202の解析を行い、この解析では、命令ファイル202に含まれている印刷データが取り出され」ることは、それ以前に命令ファイルが上書きされていることを前提としており、「命令ファイル202から取り出された印刷データの印刷を、FLASH・ROM36に記憶されている印刷関係の制御プログラム37に従って行う」ことは、それ以前に印刷データが取り出されていることを前提としているから、「命令ファイル配置領域42に、その命令ファイル202を上書きで記憶させ」ること、「命令ファイル配置領域42に上書きされた命令ファイル202の解析を行い、この解析では、命令ファイル202に含まれている印刷データが取り出され」ること、及び、「命令ファイル202から取り出された印刷データの印刷を、FLASH・ROM36に記憶されている印刷関係の制御プログラム37に従って行う」ことが順次行われることは明らかである。また、これらはいずれもCPU32が行っていることである。そうすると、後者は「プロセッサは」「複数の処理を」「順次行う」ものであるといえる。

したがって、両者は、

「USBポートと、
前記USBポートに接続されたホストがリムーバブルドライブとして認識可能な通常記憶領域を有するメモリと、
アプリケーションプログラムで作成された印刷データに基づいて印刷を行う印刷手段と、
前記印刷手段及び前記メモリを制御するプロセッサと
を有するプリンタであって、
前記通常記憶領域は、
前記アプリケーションプログラムの実行ファイルが記憶された第1メモリ領域と、
前記印刷データを含む命令ファイルを書き込み可能な第2メモリ領域と、
を含み、
前記プロセッサは、
前記アプリケーションプログラムの実行ファイルが前記ホストに読み出されて実行された場合に、
前記ホストから受信した前記印刷データを含む命令ファイル書き込むことで、第2メモリ領域に記憶されていた元の1つの命令ファイルの内容を更新するファイル書き込み処理;
前記ファイル書き込み処理により前記1つの第2メモリ領域に書き込まれた前記1つの命令ファイルを解析し前記印刷データを取り出す、印刷データ取り出し処理;
前記ファイル書き込み処理により前記1つの第2メモリ領域に書き込まれた、前記1つの命令ファイルに対応した印刷データの印刷を、前記印刷手段に実行させる印刷処理;
を含む複数の処理を、順次行う
ことを特徴するプリンタ。」

の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
前者が「複数の命令ファイルを個別にそれぞれ書き込み可能な2つの第2メモリ領域」を有し、「複数の命令ファイルのうち時系列の前後で異なる1つずつを2つの第2メモリ領域を交互に使用しながら書き込むことで、当該2つのうちの1つの第2メモリ領域に記憶されていた元の1つの命令ファイルの内容を更新する」のに対して、後者はそのようなものでない点。

[相違点2]
前者のメモリが「命令ファイルから取り出された印刷データを一時的に記憶可能な印刷バッファ領域」を含み、「印刷データ取り出し処理により取り出した印刷データを、データ展開元としての第2メモリ領域から、データ展開先としての印刷バッファ領域へ展開する、データ展開処理」を行うのに対して、後者はそのようなものでない点。

[相違点3]
前者の印刷データが「1つの第2メモリ領域に書き込まれた後データ展開処理により印刷バッファ領域に展開される」のに対して、後者はそのようなものでない点。

[相違点4]
前者が「ファイル書き込み処理が終了しデータ展開処理が終了した後、1つの第2メモリ領域に記憶保持され解析対象とされた1つの命令ファイルの内容を後に更新可能とするための、更新準備処理」を行うのに対して、後者はそのようなものでない点。

[相違点5]
前者が「複数の命令ファイルについて、2つの第2メモリ領域のうち一方に書き込まれた後に印刷バッファ領域に展開された、先行する命令ファイルの前記印刷処理と、2つの第2メモリ領域のうち他方に対する、後続の命令ファイルのファイル書き込み処理とを同時並行させる」のに対して、後者はそのような発明特定事項を有していない点。

6.判断

上記相違点について検討する。

(1)相違点1について
本願発明の「命令ファイル」は「命令ファイルを解析し前記印刷データを取り出す、印刷データ取り出し処理」の対象となるから、「印刷データ取り出し処理」が行われる前のものであるところ、引用発明2の「1ページ分のデータ」は「1ページ分のデータに対してレンダリング」が行われるのだから、「レンダリング」が行われる前のものである。そうすると、引用発明2の「1ページ分のデータ」は、本願発明の「命令ファイル」に相当する。

引用発明2の「一方の印刷用記憶領域」及び「他方の印刷用記憶領域」は、「メモリー36に2ページ分の印刷用記憶領域を用意」したもので、それぞれが「1ページ分のデータ」を記憶するから、本願発明の「複数の命令ファイルを個別にそれぞれ書き込み可能な2つの第2メモリ領域」に相当する。

引用発明2は「1ページ分のデータをメモリー36の一方の印刷用記憶領域に記憶すると、一方の印刷用記憶領域に記憶した1ページ分のデータに対してレンダリングと印刷を開始し、発信側端末20から送信されるデータ応答メッセージと1ページ分のデータとを受信し、1ページ分のデータについてはメモリー36の他方の印刷用記憶領域に記憶」するから、一方の印刷用記憶領域に記憶される1ページ分のデータと他方の印刷用記憶領域に記憶される1ページ分のデータとは時系列の前後で異なるものであり、これらの各1ページ分のデータは一方と他方との印刷用記憶領域に交互に記憶されているといえる。また、引用発明2は「印刷が終了したメモリー36の一方の印刷用記憶領域に次の1ページ分のデータを記憶する」から、一方の印刷用記憶領域に記憶されていた1ページ分のデータの内容を更新しているといえる。そうすると、引用発明2は「複数の命令ファイルのうち時系列の前後で異なる1つずつを2つのメモリ領域を交互に使用しながら書き込むことで、当該2つのうちの1つのメモリ領域に記憶されていた元の1つの命令ファイルの内容を更新する」ものである。

引用発明1及び2は、ともに画像処理装置という共通の技術分野に属し、命令ファイルをメモリ領域に書き込むという共通の作用・機能を奏するものである。また、引用発明2は、「印刷コンテンツデータを送受信する時間を短くすること」(段落【0029】)を課題とするところ、印刷に係る処理に要する時間を短縮することは画像処理装置の技術分野における一般的な課題である。そうすると、引用発明1に引用発明2を適用して、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(2)相違点2及び3について
一般に、画像処理装置の技術分野において、印刷データを一時的に記憶可能な印刷バッファ領域を設け、印刷データを印刷バッファ領域に展開するデータ展開処理を行うことは、本願の出願前に周知の技術である(以下、「周知技術1」という。例えば、特開2010-140214号公報の段落【0056】?【0057】、【0060】等には、ビットマップデータやテキストデータを、印字バッファ部の所定の記憶領域に展開して印字駆動データとして記憶し一時的に保管する点が示されている。特開2010-100065号公報の段落【0142】?【0143】等には、文字のフォント情報や図形を表すビット情報を、RAM内に用意されたページバッファ領域に展開する点が示されている。)。

そして、引用発明1と上記周知技術1とは、画像処理装置という共通の技術分野に属し、印刷データを記憶領域に記憶して印刷するという共通の作用・機能を有するものであるから、引用発明1に上記周知技術1を適用して、相違点2及び3に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(3)相違点4について
一般に、画像処理装置の技術分野において、メモリ領域に記憶保持されたデータを消去することは、、本願の出願前に周知の技術である(以下、「周知技術2」という。例えば、特開平5-330155号公報の段落【0002】等には、従来の技術として、ビットマップデータが正常に印刷出力されたらデータクリアを行なう点が示されている。特開2007-208769号公報の段落【0044】?【0048】及び図6等には、ハードディスク23への展開後のデータの格納が終了した後に、対応する印刷データをワークメモリ132及び第1メモリ163から消去する点が示されている。特開2009-34833号公報の段落【0051】及び図7等には、展開データと二値データを作成すると、CDM72に記憶されている圧縮データ、及び、DDM86に記憶されている展開データをクリアする点が示されている。)。

データが記憶されたメモリ領域に他のデータを書き込んでデータを更新することは、画像処理装置においてごく普通に行われていることであるところ(例えば、引用文献1の段落【0034】(上記4.(1)エ.参照)には、「命令ファイル202を上書きで記憶させる」ことが示されている。)、上記周知技術2においても、データを消去した後のメモリ領域に他のデータが書き込まれてデータが更新されることは当業者にとって自明な事項であって、この場合のデータを消去することはデータを更新するための更新準備処理であるといえる。

そして、引用発明1と上記周知技術2とは、画像処理装置という共通の技術分野に属し、記憶領域に記憶されたデータから印刷データを取り出し、他の記憶領域に書き込むという共通の作用・機能を有するものであるから、引用発明1の命令ファイルに上記周知技術2を適用して、相違点4に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

(4)相違点5について
引用発明2は、「一方の印刷用記憶領域に書き込まれた1ページ分のデータを印刷している最中に他方の印刷用記憶領域に1ページ分のデータを受信し」、「メモリー36の他方の印刷用記憶領域に記憶した1ページ分のデータに対してレンダリングと印刷を開始し、印刷が終了したメモリー36の一方の印刷用記憶領域に次の1ページ分のデータを記憶するための処理を実行する」から、一方の印刷用記憶領域に書き込まれた1ページ分のデータの印刷と、他方の印刷用記憶領域への1ページ分のデータの記憶とを同時並行していることは明らかである。また、引用発明2の「データを記憶するための処理」は、本願発明の「ファイル書き込み処理」に相当する。そして、上記(1)における検討のとおり、引用発明1に引用発明2を適用することは、当業者が容易になし得ることである。

また、上記(2)における検討のとおり、印刷データを印刷バッファ領域に展開することは、本願の出願前に周知の技術(「周知技術1」)であって、引用発明1に周知技術1を適用することは、当業者が容易になし得ることである。

そうすると、引用発明1に引用発明2並びに周知技術1及び2を適用して、相違点5に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本願発明の発明特定事項の全体によって奏される効果も、引用発明1及び2並びに周知技術1及び2から当業者が予測し得る範囲内のものである。

7.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び2並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-14 
結審通知日 2017-03-15 
審決日 2017-03-28 
出願番号 特願2011-185876(P2011-185876)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金田 理香嵯峨根 多美  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 畑井 順一
森次 顕
発明の名称 プリンタ及び印刷処理プログラム並びに印刷処理方法  
代理人 益田 博文  

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