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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1328238 |
審判番号 | 不服2015-9729 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-05-26 |
確定日 | 2017-05-08 |
事件の表示 | 特願2009-177961「皮膚、特に顔の皮膚の艶の輝きを増強するためのリポクロマン-6の化粧品組成物における使用」拒絶査定不服審判事件〔平成22年2月25日出願公開、特開2010-43077〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 本願は、平成21年7月30日(パリ条約による優先権主張 2008年8月1日(FR)フランス)の出願であって、平成25年12月12日付けで拒絶理由が通知され、平成26年6月17日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲が補正され、平成27年1月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に特許請求の範囲が補正され、同年7月7日付けで審判請求書の請求の理由の手続補正書(方式)が提出されたものである。 第2 平成27年5月26日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成27年5月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前(平成26年6月17日付け手続補正書)に 「【請求項1】 皮膚の艶の輝きを増強若しくは取り戻す又はその両方のための化粧用薬剤であって、式(I)の化合物を含む化粧用薬剤。 【化1】 ![]() 」 とあったものを、 「【請求項1】 皮膚細胞中の酸化されたタンパク質の割合を低減させることにより皮膚の艶の輝きを取り戻すための化粧用薬剤であって、式(I)の化合物を含む化粧用薬剤。 【化1】 ![]() 」(下線は、原文のとおり) と補正することを含むものである。 2 本件補正についての検討 本件補正は、補正前の「皮膚の艶の輝きを増強若しくは取り戻す又はその両方のための化粧用薬剤」を「皮膚の艶の輝きを取り戻すための化粧用薬剤」に特定するとともに、「皮膚細胞中の酸化されたタンパク質の割合を低減させることにより」との限定を付すことで減縮するものである。 また、補正前の請求項1に記載された発明と、補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。 よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで次に、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。 3 引用例及びその記載事項 本願の優先権主張の日前である平成15年10月28日に頒布された刊行物である「特表2003-531845号公報」(原査定の引用文献1。以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。なお、以下の下線は当審で付したものである。 (1a)「【請求項23】生理学的に許容可能な媒体に少なくとも1つのリポクロマン-6を含有せしめてなる化粧品用組成物を、皮膚、毛髪及び/又は粘膜に適用することにより使用することを特徴とする、NO合成に関連した障害の処置を目的とした美容処理方法。」 (1b)「【0007】 本発明の目的は、天然NO合成酵素阻害剤でもある新規のNO合成酵素阻害剤を提供することである。 驚くべきことに、また予期しないことに、本出願人はリポクロマン-6が、NO合成酵素阻害剤、特に誘導型NO合成酵素(NOS2)阻害剤の特性を有していることを実証したものであり、これによって、リポクロマン-6が特に化粧品においてNO合成酵素阻害剤を使用することが有利であるとされる用途で使用するための良好な候補となる。」 (1c)「【0008】 リポクロマン-6は次の一般式: ![]() に相当する化合物である。」 (1d)「【0010】 本発明の第4の主題は、リポクロマン-6を有効量、生理学的に許容可能な媒体中、組成物中又は組成物の調製のために使用することにあり、該リポクロマン-6又は組成物が、細胞の劣化及び/又は破壊の阻害、及び特に皮膚細胞、さらにはケラチノサイトにおけるアポトーシスプロセスの阻害、及び/又は内因性及び/又は外因性の細胞、特に皮膚細胞の加齢の処置を意図したものにある。」 (1e)「【0014】 本発明の第9の主題は、生理学的に許容可能な媒体に少なくとも1つのリポクロマン-6を含有せしめてなる化粧品用組成物を、皮膚、毛髪及び/又は粘膜に適用することにより使用することを特徴とする、NO合成に関連した障害の処置を目的とした美容処理方法にある。 本発明の美容処理方法はNO合成による障害を被っている個人の外観を改善することを目的としている。」 4 引用例に記載の発明 上記3での摘記、特に(1a)で摘記するところの記載を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「NO合成に関連した障害の処置を目的とした美容処理方法で皮膚に適用することにより使用される化粧品用組成物中に、生理学的に許容可能な媒体とともに含有される、少なくとも1つのリポクロマン-6。」 5 対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「リポクロマン-6」は、上記3(1c)から、本願補正発明の「式(I)の化合物」にあたる(式(I)の構造式については、以下、その記載を省略する。なお、以下、本願補正発明の「式(I)の化合物」を、「リポクロマン-6」という場合がある。)。そして、引用発明の「リポクロマン-6」は、NO合成に関連した障害の処置を目的とした美容処理方法で皮膚に適用することにより使用される「化粧品用組成物」に含有されるものであるから、本願補正発明の「式(I)の化合物を含む化粧用薬剤」に相当する。 (2)以上のことから、本願補正発明と引用発明とは、次の一致点及び一応の相違点を有する。 一致点: 「式(I)の化合物を含む化粧用薬剤。」である点。 一応の相違点: 「化粧用薬剤」が、本願補正発明は、「皮膚細胞中の酸化されたタンパク質の割合を低減させることにより皮膚の艶の輝きを取り戻すため」のものであるのに対し、引用発明は、そのような特定事項を有しない点。 6 判断 上記一応の相違点について検討する。 (1)本願補正発明の「皮膚細胞中の酸化されたタンパク質の割合を低減させる」ことは、「リポクロマン-6を含む化粧用薬剤」が有する作用、機能、特性等を単に特定しているに過ぎない。 したがって、「リポクロマン-6を含む化粧用薬剤」が上記作用等を有することが知られていたか否かにかかわらず、本願補正発明は、「皮膚の艶の輝きを取り戻すためのリポクロマン-6を含む化粧用薬剤」を意味しているものと認定されるべきである。すなわち、上記相違点に係る構成のうち、「皮膚細胞中の酸化されたタンパク質の割合を低減させることにより」の部分は、実質的な相違点とはならないといえる。 (2)そうすると、本願補正発明は、「皮膚の艶の輝きを取り戻すための化粧用」と特定することで、「リポクロマン-6を含む化粧用薬剤」の用途を限定するものといえる。 そして、本願補正発明は、「リポクロマン-6を含む化粧用薬剤」が有する「皮膚細胞中の酸化されたタンパク質の割合を低減させる」という未知の属性を発見したことにより、「皮膚の艶の輝きを取り戻すための化粧用」という用途への使用に適することを見出したことに基づく発明ということができる。 (3)そこで検討するに、引用例には、リポクロマン-6を含む化粧品用組成物や、それを皮膚に適用して使用する美容処理方法について、上記3(1d)及び3(1e)に、皮膚の細胞の加齢の処置を意図したものであることや、個人の外観を改善することを目的としていることが記載されている。 すなわち、引用発明の「リポクロマン-6」は、化粧品用組成物に含有される、皮膚の細胞の加齢を処置し外観を改善するための化粧用薬剤ということができる。 (4)一方、本願補正発明の「皮膚の艶の輝きを取り戻す」ことは、本願明細書の【0016】?【0020】からみて、内因的か外因的かにかかわらず、皮膚の老化現象に関連し得る「くすんだ」と称される艶の変化を改善し、より高い輝度、より明るい皮膚の艶の視覚認知が生じるようにするためのものということができる。 すなわち、本願補正発明の「リポクロマン-6を含む化粧用薬剤」の「皮膚の艶の輝きを取り戻すための化粧用」という用途は、皮膚の老化現象を処置することを含むものである。 (5)したがって、本願補正発明は、「リポクロマン-6を含む化粧用薬剤」が「皮膚細胞中の酸化されたタンパク質の割合を低減させる」という未知の属性を有することを発見したことにより、「皮膚の艶の輝きを取り戻すための化粧用」という用途を見出したことに基づく発明であるといえるものの、「皮膚の艶の輝きを取り戻すための化粧用」という用途は、「リポクロマン-6を含む化粧用薬剤」の用途として従来知られている範囲とは異なる新たな用途を提供するものとはいえない。 本願補正発明は、いわゆる用途発明ということはできない。 (6)以上のとおりであるから、本願補正発明の化粧用薬剤が、「皮膚細胞中の酸化されたタンパク質の割合を低減させることにより皮膚の艶の輝きを取り戻すため」のものと特定されていても、引用発明と異なるものということはできず、一応の相違点は実質的な相違点ではない。 なお、このことは、引用発明が、上記3(1b)にあるように、リポクロマン-6が有するNO合成酵素阻害剤という未知の属性を発見したことに基づく発明であることで変わるものではない。 (7)まとめ よって、本願補正発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。 (8)審判請求人の主張について 請求人は、請求書(平成27年7月7日付け手続補正書(方式))において、引用例における皮膚の加齢を処置することに対して、「しかし、皮膚の老化を抑制することは、皮膚の艶の輝きが失われるのを抑制すること、すなわち、皮膚の艶の輝きを維持することにすぎず、皮膚の艶の輝きを取り戻すこととは相違します。タンパク質の酸化を防ぐだけでは、皮膚の艶の輝きを取り戻すことはできません。一方、本願発明は、『皮膚細胞中の酸化されたタンパク質の割合を低減させることにより皮膚の艶の輝きを取り戻す』というものです。」と主張する。 しかしながら、引用例の上記3(1e)に、「個人の外観を改善することを目的としている」とあるように、引用発明は皮膚の外観を維持することに留まらず、改善するためという用途も包含しているのだから、請求人の主張は採用しない。 7 むすび したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成27年5月26日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成26年6月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる(以下、「本願発明」という。)。 「【請求項1】 皮膚の艶の輝きを増強若しくは取り戻す又はその両方のための化粧用薬剤であって、式(I)の化合物を含む化粧用薬剤。 【化1】 ![]() 」 2 原査定の拒絶の理由の概要 本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないということを含むものである。 引用文献1:特表2003-531845号公報 3 引用例及びその記載事項、及び引用例に記載の発明 拒絶査定の理由に引用された引用例の記載事項及び引用例に記載の発明は、前記「第2 3 引用例及びその記載事項」及び「第2 4 引用例に記載の発明」に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、本願補正発明との比較において、「化粧用薬剤」について、「皮膚細胞中の酸化されたタンパク質の割合を低減させることにより」との発明特定事項がなく、さらに、その用途として、「皮膚の艶の輝きを取り戻すため」のみならず「皮膚の艶の輝きを増強若しくは取り戻す又はその両方のため」として選択肢を増やしたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含むものに相当する本願補正発明は、前記「第2 6 判断」に記載したとおり、引用例に記載された発明であるから、本願発明も同様に特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-11-29 |
結審通知日 | 2016-12-06 |
審決日 | 2016-12-19 |
出願番号 | 特願2009-177961(P2009-177961) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 池田 周士郎 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
齊藤 光子 関 美祝 |
発明の名称 | 皮膚、特に顔の皮膚の艶の輝きを増強するためのリポクロマン-6の化粧品組成物における使用 |
代理人 | 野田 雅一 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 山田 行一 |
代理人 | 池田 成人 |
代理人 | 池田 正人 |