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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01G
管理番号 1328266
審判番号 不服2016-9685  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-29 
確定日 2017-05-08 
事件の表示 特願2015-208170「電解液及び電気化学デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月23日出願公開、特開2016- 92409〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成27年10月22日(優先権主張 平成26年10月30日)の出願であって、平成27年11月25日付け拒絶理由通知に対する応答時、平成28年1月28日付けで手続補正がなされたが、同年3月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月29日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成28年1月28日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
溶媒、第4級アンモニウム塩、及び、窒素原子を含有する不飽和環状化合物を含み、
前記溶媒は、スルホニル基、スルフィニル基、スルトン基、サルフェート基又はサルファイト基を含有する化合物を含み、
前記不飽和環状化合物は、窒素原子を含有する不飽和の複素環化合物であることを特徴とする電解液。
ただし、前記不飽和環状化合物は、前記不飽和環状化合物の塩及び前記不飽和環状化合物から得られるイオン液体を含まない。」

3.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開2012-109539号公報(以下、「引用例」という。)には、「電気二重層キャパシタ用電解液」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
(1)「【請求項1】
電解質(A)、有機溶媒(S)及びトリアゾール誘導体(B)を含有してなる電気二重層キャパシタ用電解液。」

(2)「【0017】
有機カチオン(C)とアニオン(D)から成る有機電解質(A)の具体例としては、アルキルアンモニウムのBF_(4)塩及びPF_(6)塩並びにイミダゾリウムのBF_(4)塩及びPF_(6)塩等である。
これらのうち、テトラエチルアンモニウム=テトラフルオロボラート(以下TEA・BF_(4)と記載)、トリエチルメチルアンモニウム=テトラフルオロボラート(以下TEMA・BF_(4)と記載)、エチルトリメチルアンモニウム=テトラフルオロボラート(以下、ETMA・BF_(4)と記載)、ジメチルピロリジニウム=テトラフルオロボラート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム=テトラフルオロボラート(以下EMI・BF_(4)と記載)、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム=テトラフルオロボラート(以下、EDMI・BF_(4)と記載)、1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリウム=テトラフルオロボラート、1-メチル-1-アザビシクロ[2,2,1]ヘプタン-1-イウム=テトラフルオロボラート、1-メチル-1-アザビシクロ[2,2,2]オクタン-1-イウム=テトラフルオロボラート(以下、MAOI・BF_(4)と記載)及びスピロ-(1,1’)-ビピペリジニウム=テトラフルオロボラート(以下、SBP・BF4と記載)等が好ましい。さらに好ましくはEDMI・BF_(4)、MAOI・BF_(4)及びSBP・BF_(4)である。」

(3)「【0018】
有機溶媒(S)の具体例としては、以下のものが挙げられる。これらのうち2種類以上を併用することも可能である。
・エーテル類:鎖状エーテル[炭素数2?6(ジエチルエーテル、メチルイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル及びジエチレングリコールジメチルエーテルなど);炭素数7?12(ジエチレングリコールジエチルエーテル及びトリエチレングリコールジメチルエーテルなど)]、環状エーテル[炭素数2?4(テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン及び1,4-ジオキサンなど);炭素数5?18(4-ブチルジオキソラン及びクラウンエーテルなど)]。
・アミド類:N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、ヘキサメチルホスホリルアミド及びN-メチルピロリドンなど。
・鎖状エステル類:酢酸メチル及びプロピオン酸メチルなど。
・ラクトン類:γ-ブチロラクトン、α-アセチル-γ-ブチロラクトン、β-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン及びδ-バレロラクトンなど。
・ニトリル類:アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、アクリロニトリル及びベンゾニトリルなど。
・環状炭酸エステル類:プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート及び2、3-ブチレンカーボネートなど
・鎖状炭酸エステル類:ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート及びジエチルカーボネートなど。
・スルホン類:エチルプロピルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン及び2,4-ジメチルスルホランなど。
・ニトロ類:ニトロメタン及びニトロエタンなど。
・ベンゼン類:トルエン、キシレン、クロロベンゼン、フルオロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、1,3-ジクロロベンゼン及び1,4-ジクロロベンゼンなど。
・複素環式類:N-メチル-2-オキサゾリジノン、3,5-ジメチル-2-オキサゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン及びN-メチルピロリジノンなど。
・ケトン類:アセトン、2,5ヘキサンジオン及びシクロヘキサンなど。
・リン酸エステル類:トリメチルリン酸、トリエチルリン酸及びトリプロピルリン酸など
【0019】
これらのうち電気化学的安定性の観点等から好ましくは、環状炭酸エステル類、鎖状炭酸エステル類、ラクトン類、鎖状エステル類、ニトリル類、及びスルホン類であり、更に好ましくはプロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、スルホラン、アセトニトリル及びγ-ブチロラクトンである。」

(4)「【0020】
トリアゾール誘導体(B)としては、分子量350以下のベンゾトリアゾール誘導体(B1)及びアミノ基を有するトリアゾール誘導体(B2)が挙げられる。具体例としては、以下のものが挙げられる。これらのうち2種類以上を併用することも可能である。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0023】
これらトリアゾール誘導体(B)の内、溶解性、高温負荷特性および耐電圧性の観点から好ましいのは、アミノ基を有するトリアゾール誘導体である。更に好ましいのは3位及び/又は5位がアミノ基で置換された1,2,4-トリアゾール誘導体であり、特に好ましいのは、3-アミノ-1,2,4-トリアゾールである。
【0024】
トリアゾール誘導体(B)の添加量は、低温での溶解性、高温負荷特性および耐電圧性の観点から電解液の重量に基づいて、0.002?2重量%であり、0.003?1重量%が好ましく、0.005?0.3重量%がさらに好ましい。」

(5)「【0046】
実施例1
製造例1のTEA・BF_(4)(A-1)208.8gを脱水したプロピレンカーボネートに均一溶解して全体を1リットルに調製した(電解質濃度1.0mol/L)。その後、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール[東京化成工業(株)製](B2-1)を電解液の重量に対し、0.01重量%混合し、本発明の電解液(E-1)を得た。 」

・上記引用例に記載の「電気二重層キャパシタ用電解液」は、上記(1)の記載事項によれば、電解質(A)、有機溶媒(S)及びトリアゾール誘導体(B)を含有してなる電気二重層キャパシタ用電解液に関するものである。
・上記(2)、(5)の記載事項によれば、電解質(A)としては、テトラエチルアンモニウム=テトラフルオロボラート(TEA・BF_(4))などのアルキルアンモニウムのBF_(4)塩等が挙げられ、実施例1でもTEA・BF_(4)が用いられている。
・上記(3)、(5)の記載事項によれば、有機溶媒(S)としては、プロピレンカーボネートなどの環状炭酸エステル類や、スルホランなどのスルホン類等が挙げられ、実施例1ではプロピレンカーボネートが用いられている。
・上記(4)、(5)の記載事項によれば、トリアゾール誘導体(B)としては、例えばアミノ基を有するトリアゾ-ル誘導体(B2)が挙げられ、実施例1では3-アミノ-1,2,4-トリアゾール[東京化成工業(株)製]が用いられている。
そして、当該トリアゾ-ル誘導体(B)は、有機溶媒(S)に電解質(A)を溶解した調製液に対して添加されるものである。

したがって、特に実施例1に係るものに着目し、上記記載事項を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「電解質、有機溶媒及びトリアゾール誘導体を含有し、
前記電解質は、テトラエチルアンモニウム=テトラフルオロボラート(TEA・BF_(4))であり、
前記有機溶媒は、プロピレンカーボネートであり、
前記トリアゾール誘導体は、3-アミノ-1,2,4-トリアゾールであり、前記有機溶媒に前記電解質を溶解した調製液に対して添加されるものである、電気二重層キャパシタ用電解液。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
(1)引用発明における「電解質、有機溶媒及びトリアゾール誘導体を含有し、前記電解質は、テトラエチルアンモニウム=テトラフルオロボラート(TEA・BF_(4))であり、前記有機溶媒は、プロピレンカーボネートであり、前記トリアゾール誘導体は、3-アミノ-1,2,4-トリアゾールであり、前記有機溶媒に前記電解質を溶解した調製液に対して添加されるものである」によれば、
(a)引用発明における「有機溶媒」は、本願発明でいう「溶媒」に相当し、
(b)引用発明における、電解質である「テトラエチルアンモニウム=テトラフルオロボラート(TEA・BF_(4))」は、本願発明でいう「第4級アンモニウム塩」に相当し、
(c)引用発明における、有機溶媒に電解質を溶解した調製液に対して添加されるトリアゾール誘導体としての「3-アミノ-1,2,4-トリアゾール」は、本願発明でいう「窒素原子を含有する不飽和環状化合物」であって、当該不飽和環状化合物は「窒素原子を含有する不飽和の複素環化合物」であり、「不飽和環状化合物の塩及び不飽和環状化合物から得られるイオン液体」ではないといえるものであることは当業者にとって自明なことである。
したがって、本願発明と引用発明とは、「溶媒、第4級アンモニウム塩、及び、窒素原子を含有する不飽和環状化合物を含み、前記不飽和環状化合物は、窒素原子を含有する不飽和の複素環化合物である」点、及び「ただし、前記不飽和環状化合物は、前記不飽和環状化合物の塩及び前記不飽和環状化合物から得られるイオン液体を含まない」ものである点で一致するといえる。
ただし、溶媒について、本願発明では、「スルホニル基、スルフィニル基、スルトン基、サルフェート基又はサルファイト基を含有する化合物」を含むものであるのに対し、引用発明では、プロピレンカーボネートである点で相違している。

(2)そして、引用発明における「電気二重層キャパシタ用電解液」は、本願発明でいう「電解液」に相当することは明らかである。

よって、本願発明と引用発明とは、
「溶媒、第4級アンモニウム塩、及び、窒素原子を含有する不飽和環状化合物を含み、
前記不飽和環状化合物は、窒素原子を含有する不飽和の複素環化合物であることを特徴とする電解液。
ただし、前記不飽和環状化合物は、前記不飽和環状化合物の塩及び前記不飽和環状化合物から得られるイオン液体を含まない。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
溶媒について、本願発明では、「スルホニル基、スルフィニル基、スルトン基、サルフェート基又はサルファイト基を含有する化合物」を含むものであるのに対し、引用発明では、プロピレンカーボネートであり、そのような化合物を含むものではない点。

5.判断
上記相違点について検討すると、
引用例の段落【0018】?【0019】(上記「3.(3)」を参照)には、有機溶媒の具体例として、実施例で用いられている環状炭酸エステル類のプロピレンカーボネート以外にも、スルホン類のスルホラン(本願発明でいう「スルホニル基を含有する化合物」)も好ましいものであることが記載されており、引用発明においても、有機溶媒として、プロピレンカーボネートに代えてスルホランを用い、相違点1に係る構成とすることは当業者が適宜なし得ることである。

なお、請求人は審判請求書において、本願発明は、溶媒として特定化合物である「スルホラン」を含むことにより、容量維持率が高く、ガスが発生しにくいという顕著な効果を奏するものであるのに対し、引用例では、スルホン類の例示(段落【0018】)があるものの、これらを使用した実施例の記載はなく、また、これらが他の溶媒より優れている旨の記載もないことから、本願発明は、引用例に記載された発明に対して進歩性を有する旨主張している。
しかしながら上述したように、引用例には、有機溶媒の具体例としては、実施例で用いられているプロピレンカーボネート以外にも、スルホン類の「スルホラン」も好ましいことが記載されているのであるから、実施例として用いた記載がなくても、当該「スルホラン」を用いるようにすることは当業者であれば適宜なし得ることであるのに加えて、
そもそも本願請求項1では、溶媒が特定化合物である「スルホラン」のみに特定されているわけでもないし、添加剤である「窒素原子を含有する不飽和環状化合物」の添加量(含有量)や具体的にどの化合物であるのかといった特定もなされていないことなどを考慮すると(例えば、原査定時にも指摘しているように、本願の実施例16では、溶媒として「スルホラン」を含むものであるが、ガス発生量や容量維持率は溶媒として「スルホラン」を含まない実施例23?26よりも劣っている。また、本願の実施例7?10についてみると、溶媒として「スルホラン」を含むものであるが、添加剤が2,6-ジ-tert-ブチルピリジンであり、その添加量は それぞれ実施例12?15と同じであるにもかかわらず、ガス発生量や容量維持率は溶媒として「スルホラン」を含まない実施例23?26よりも劣っている)、請求人による、特に本願発明の「顕著な効果」についての主張は必ずしも特許請求の範囲(請求項1)の記載に基づかないものであるといえる。
以上のことから、請求人の上記主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-06 
結審通知日 2017-03-07 
審決日 2017-03-21 
出願番号 特願2015-208170(P2015-208170)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀 拓也  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 井上 信一
國分 直樹
発明の名称 電解液及び電気化学デバイス  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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