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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02J
管理番号 1328288
審判番号 不服2015-19083  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-10-22 
確定日 2017-05-11 
事件の表示 特願2012-523583「誘導電力伝達システム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 2月10日国際公開、WO2011/016737、平成25年 1月17日国内公表、特表2013-502193〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2010年8月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年8月7日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成27年6月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成27年10月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

2.平成27年10月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年10月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正後の本願補正発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は次のように補正された。

ア.本件補正前
「【請求項1】
磁束を発生しまたは受けるための磁束パッドであって、
磁気透過性素材と、前記磁気透過性素材に磁気的に関連づけられた平面状の2つのコイルとを備え、前記コイルは互いにオーバーラップしているが、相互の磁気的結合を有しない、磁束パッド。」

イ.本件補正後
「【請求項1】
磁束を発生しまたは受けるための磁束パッドであって、
磁気透過性素材と、前記磁気透過性素材に磁気的に関連づけられた平面状の2つのコイルとを備え、
前記コイルは、互いにオーバーラップしているが、相互の磁気的結合を有しておらず、
しかも、前記コイルは、相対的に強度が変化する電流を電源から受け取ることにより、所望の磁界のパターンが生成されるように構成されている、磁束パッド。」

本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「コイル」について、「相対的に強度が変化する電流を電源から受け取ることにより、所望の磁界のパターンが生成されるように構成されている」という限定事項を付加したものであって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用文献1として示された特開2009-164293号公報(以下、「引用例」という。)には、「非接触電力伝送装置」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は、当審で付加したものである。) 。

ア.「【0020】
本発明によれば、相対するコイル間の電磁誘導を用い、空隙を介して1次側コイルから2次側コイルに非接触にて電力を伝送する電力伝送装置に於いて、1次側を複数、2次側を一以上の平面型コイルで構成し、2次側コイル外径は1次側コイル外径より小とすることを特徴とする非接触電力伝送装置が得られる。
【0021】
また、本発明によれば、前記非接触電力伝送装置において、複数の1次側平面型コイルを並べる構成に於いて、隣接するコイル間で発生する磁束の向きが並行若しくは反並行となるコイル配置とすることを特徴とする非接触電力伝送装置が得られる。
【0022】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの非接触電力伝送装置において、対向する1次側平面型コイルと2次側平面型コイルの何れか一方、または双方の外側部に、軟磁性材料を貼付配置することを特徴とする非接触電力伝送装置が得られる。
【0023】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの非接触電力伝送装置において、1次側コイルと2次側コイルとの間の磁気結合係数が0.05?0.95となるようなコイル配置とすることを特徴とする非接触電力伝送装置が得られる。
【0024】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの非接触電力伝送装置において、構成する1次側平面型コイルの外径をD_(o)、内径をD_(i)とし、隣接する二つの1次側コイル間の中心間距離をXとした場合、(D_(o)-D_(i))÷2≦X<D_(o)となるコイル配置とすることを特徴とする非接触電力伝送装置が得られる。
【0025】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの非接触電力伝送装置に於いて、隣接する二つの1次側コイル間に流れる励磁電流の位相差を30°?150°とすることを特徴とする非接触電力伝送装置が得られる。
【0026】
また、本発明によれば、前記いずれか一つの非接触電力伝送装置において、隣接する1次側コイルを異なる周波数で励磁し、一方のコイルの励磁周波数をfとし他方をfiとし、その周波数差を△f=|fi-f|とし、その比△f/fを0.01%?10%の範囲とすることを特徴とする非接触電力伝送装置が得られる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、1次側コイルの配列を重ね合わせることにより、1次側コイル間の相互作用を低減(結合係数の低減)し、伝送不能な死点を縮小、低減する。そのため、広い範囲での安定した電力伝送が実現できる。本発明は隣接するコイル間の磁気結合係数を0.5以下となるように重複することにより、広い範囲で高い出力と安定した電力伝送が実現できる。
【0028】
また、本発明によれば、隣接する1次側コイルの励磁電流の位相差を30?150°とすることで、移動磁界を形成し、広い範囲で高い出力と安定した電力伝送が実現できる。
【0029】
さらに、本発明によれば、隣接する1次側コイルの励磁周波数を0.01?10%の範囲で異ならせることにより、磁界のうなりを形成し、広い範囲で高い出力と安定した電力伝送が実現できる。」

イ.「【0040】
(実施例1)
本発明の実施例1では、非接触電力伝送装置の基本構成について説明する。
【0041】
図1は、本発明の実施例1による非接触電力伝送装置のコイルの配置の一例を主に示す斜視図である。
【0042】
図1(a)に示すように、非接触電力伝送装置10は、相対する1次側、2次側コイル1,2間の電磁誘導を用い、空隙3を介して1次側コイル1から2次側コイル2に非接触にて電力を伝送する。1次側コイル1に複数の平面巻線型コイル1a,1b,・・・,1f、2次側コイル2に1個以上の平面巻線型コイル2aを備えている。1次コイル1の背面(外側面)には、軟磁性材の板またはシート4が貼り付けられている。また、2次コイル側2の背面(外側面)にも同様の軟磁性材の板またはシート4を貼り付けることも出来る。また、上記例においては、1次側コイルおよび2次側コイルの形状を平面巻線型コイルとしたが、円形の平面コイルに限定されるものでなく、多角形コイルであれば本発明の効果が得られることは勿論である。
【0043】
また、上記例においては、対向するコイル背面へ軟磁性材からなる板またはシート4を配置しているが、この磁性材は、発生磁界を収束させる効果があり、1次側コイル1と2次側コイル2の磁気結合を向上し、出力の向上に寄与するものである。」

ウ.「【0049】
(実施例3)
本発明の実施例3では、軟磁性材を配置したときの非接触電力伝送装置の具体的特性の測定について説明する。
【0050】
図3は図1及び図2(a)、図2(b)の非接触電力伝送装置の具体的特性の測定例を示している。
【0051】
図3(a)は軟磁性部材4をそれぞれに配置した時の1次コイルL1の中心からの位置ずれXにおける結合係数特性を示している。図3(b)は、軟磁性部材4をそれぞれに配置した時の1次コイルL1の2次コイルL2の中心からの位置ずれ量(X)で位置ずれした状態を示す斜視図である。
【0052】
図3(b)に示すように、コイル形状は外径84[mm]、内径40[mm]の1次コイル1と外径30[mm]、内径15[mm]の2次コイル2を用いた。測定方法はコイル間gap1[mm]、周波数120[kHz]、定電流50[mA]と設定しLCRメータよりインダクタンスを測定後、磁気結合係数を算出した。
【0053】
測定は、空心時、軟磁性材料4を対向するコイル背面に配置し、1次側のみ、2次側のみ、両方、配置なしの4パターンである。軟磁性材料4にはMnZnフェライト板をコイル面よりやや大きめに配置している。
【0054】
コイル中心軸合致時から面方向に移動して、1次コイル1と2次コイル2との間の結合係数kを測定した。
【0055】
図3(a)の結果から軟磁性部材4の配置において、対向するコイルの背面に磁性体板またはシートを配置することにより、広い範囲で磁気結合係数特性kが向上し、より広い範囲で高い出力が向上することが分かる。」

エ.「【0065】
(実施例5)
本発明の実施例5では、非接触電力伝送装置の中心間の位置ズレ量(距離)Xと隣接するコイル間の結合係数kとの関係について説明する。
【0066】
図4(a)は本発明による非接触電力伝送装置の1次側コイル1a,1bの中心間の位置ズレ量(距離)Xと結合係数kとの関係を示す図で、図4(b)は位置すれ量Xを示す斜視図、図4(c)は位置ズレ量Xが(D_(o)D_(i))÷2である状態を示す平面図、図4(d)は位置ズレ量XがD_(o)である状態を示す平面図である。
【0067】
1次側コイル1a,1bの形状は外径84[mm]、内径40[mm]のものを使用した。隣接する1次側コイル同士の磁気結合係数kを評価し、互いの電気的干渉度合を調べた。
【0068】
磁気結合係数kの測定方法は、実施例3と同様にした。ただし、コイル間gap(ギャップ)0[mm]、1次側コイルの裏面に軟磁性材4を貼付して、測定した。その結果、図4(a)に示すように、磁気結合係数kが0.5以下において隣接するコイル間の相互作用が減少し、安定した電力伝送が出来ることが確認された。ここで1次コイルの外径をD_(o)、内径をD_(i)と定義するとコイル中心間距離Xが図4(c)で示す(D_(o)-D_(i))÷2以上で、図4(d)に示すようにD_(o)よりも小さな場合、即ち、下記数1式で示す範囲で1次側コイルを重ね合わせることで、1次側コイル間の磁気的干渉を低減した配置が可能になることが分かる。これにより、伝送不能な死点を縮小、低減できることになる。」

オ.「【0077】
(実施例7)
本発明の実施例7では、隣接する1次側コイルに夫々異なる励磁周波数で励磁したときに特性の変化について説明する。
【0078】
図7は、本発明の非接触電力伝送装置の1次側コイルを異なる励磁周波数で励磁する際の特性測定回路の構成例を示す回路図である。図8(a)は図7の測定によって求められた励磁周波数差(0Hz、10Hz、1kHz、10kHz)における中心位置ズレ量Xと出力電圧との関係を示す図である。図8(b)は測定位置概要を示す図である。
【0079】
図7及び図8(b)を参照すると、使用するコイル形状、測定条件および測定範囲は図6の例と同様に行った。ただし一方の1次側コイルの励磁周波数は140[kHz]で固定とし、他方のコイルの励磁周波数は140[kHz]を中心に0[Hz]?10[kHz]の範囲でずらして設定した。同一周波数になるときはコイル間に位相差は設定していない(逆相駆動)。
【0080】
図8(b)に示すように、励磁周波数の差を10[Hz]?10[kHz]とした場合、顕著な安定性の改善を確認した。異なる周波数を用い1次側コイル平面上にうなり磁界を形成すると不感地点を改善するため、平面上に2次コイルが位置した場合、全面において受電電力が得られるようになることが分かる。片方のコイルの励磁周波数fとし、他方のコイルの励磁周波数をfiとし、それらの周波数差△f=|fi-f|とし、fに対するfiの周波数変化率として、△f/fという値を定義した。この値が0.01%以上のとき上記の改善が顕著に認められる。尚、図8(a)からは、励磁周波数の差を5Hzとしても、明らかな出力電圧の改善が図られると推定できる。また電力伝送装置を具現化する際、それぞれの1次コイルで励磁周波数が10%以上異なることは、伝送系にLCの共振フィルタ回路を用いている点から現実的ではなくなる。よって、△f/fの好ましい範囲を0.005?10%と定めた。」

カ.図1には、1次側コイル1と、軟磁性材からなる板またはシート4とで形成される平面状の構造体が図示されている。

キ.上記ア.?オ.に記載される「非接触電力伝送装置」と、「非接触電力伝送装置10」とは、同じもの(以下「非接触電力伝送装置10」と示す。)と認められる。
また、上記ア.?オ.に記載される「1次側コイル」、「1次側コイル1」、「1次コイル1」、「1次コイルL1」は同じもの(以下「1次側コイル1」と示す。)と認められ、同様に、「2次側コイル」、「2次側コイル2」、「2次コイル2」、「2次コイル」、「2次コイル側2」、「2次コイルL2」は同じもの(以下「2次側コイル2」と示す。)と認められる

ク.上記ア.に記載される「1次側を複数・・・の平面型コイルで構成」、「複数の1次側平面型コイルを並べる構成」、「1次側コイルの配列」の構成については、図1を参照する上記イ.の記載として「1次側コイル1に複数の平面巻線型コイル1a,1b,・・・,1fを・・・備えている」と記載されているから、上記ア.の「本発明によれば、1次側コイルの配列を重ね合わせることにより、1次側コイル間の相互作用を低減(結合係数の低減)し、伝送不能な死点を縮小、低減する。そのため、広い範囲での安定した電力伝送が実現できる。本発明は隣接するコイル間の磁気結合係数を0.5以下となるように重複することにより、広い範囲で高い出力と安定した電力伝送が実現できる。」の記載と、図1に図示される構成、また、上記イ.の「1次側コイル1に複数の平面巻線型コイル1a,1b,・・・,1f、・・・・・を備えている」との記載から、1次側コイル1は、隣接するコイル間の磁気結合係数を0.5以下となるように重ね合わせた複数の平面型巻線コイル1a,1b,・・・,1fを備えること、また、隣接するコイル間の磁気結合係数を0.5以下とすることで、隣接するコイル間の磁気的干渉を低減できることが読み取れる。

ケ.上記イ.は、「本発明の実施例1では、非接触電力伝送装置の基本構成について説明する。」、上記ウ.は、「本発明の実施例3では、軟磁性材を配置したときの非接触電力伝送装置の具体的特性の測定について説明する。」、上記ウ.は、「本発明の実施例5では、非接触電力伝送装置の中心間の位置ズレ量(距離)Xと隣接するコイル間の結合係数kとの関係について説明する。」、上記オ.は、「本発明の実施例7では、隣接する1次側コイルに夫々異なる励磁周波数で励磁したときに特性の変化について説明する。」と記載されるものであるが、各実施例は、基本構成、特性等の視点からの説明を行うものであって、異なる構成のものを開示する意図のものでなく、さらに、例えば、上記ア.には、非接触電力伝送装置を用いること、軟磁性材を配置すること、隣接するコイル間の結合係数に関する構成、隣接するコイルを異なる周波数で励磁することが、すべて「本発明によれば」として記載されているように、各実施例の記載は、上記ア.の非接触電力伝送装置についてなされたものと解される。

上述した事項をふまえると、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。

「電磁誘導を用い、空隙を介して1次側コイル1から2次側コイル2に非接触にて電力を伝送する電力伝送装置10に於ける、1次側コイル1と軟磁性材からなる板またはシート4とで形成される平面状の構造体であって、
1次側コイル1は、隣接するコイル間の磁気結合係数を0.5以下となるように重ね合わせた複数の平面型巻線コイル1a,1b,・・・,1fを備え、
1次側コイル1の背面(外側面)には、発生磁界を収束させる軟磁性材の板またはシート4が貼り付けられ、
1次側コイル1は、隣接するコイルの励磁周波数を0.01?10%の範囲で異ならせることにより、磁界のうなりを形成するものであって、
隣接するコイル間の磁気結合係数を0.5以下とすることで、隣接するコイル間の磁気的干渉を低減でき、異なる周波数を用い1次側コイル1平面上にうなり磁界を形成すると不感地点を改善する、非接触電力伝送装置10に於ける、1次側コイル1と軟磁性材からなる板またはシート4とで形成される平面状の構造体。」

(3)対比・判断
ア.本願補正発明と引用発明とを対比する。

・引用発明の「電磁誘導を用い、空隙を介して1次側コイル1から2次側コイル2に非接触にて電力を伝送する電力伝送装置10に於ける、1次側コイル1と軟磁性材からなる板またはシート4とで形成される平面状の構造体」は、「1次側コイル1」に電磁誘導のための磁束を発生させるものであり、引用発明の「電磁誘導を用い、空隙を介して1次側コイル1から2次側コイル2に非接触にて電力を伝送する電力伝送装置10に於ける、1次側コイル1と軟磁性材からなる板またはシート4とで形成される平面状の構造体」と、本願補正発明の「磁束を発生しまたは受けるための磁束パッド」とは、電磁誘導による電力伝達を行う磁束を発生するための平面状の装置である点において共通する。

・本願補正発明の「磁気透過性素材」は、発明の詳細な説明の段落【0030】の「図1に示されるDDPパッドは実質的に同一平面内にあるコイル2およびコイル3を基本的に備えており、これらのコイルは磁気的に関連づけられてコア4の最上部に位置している。図からわかるように、コア4はフェライトストリップまたはフェライトバー5などの単一長の複数の磁気透過性素材からなり」の記載を参照すると、コイルのコアを構成する素材であるから、引用発明の「軟磁性材」と、本願補正発明の「磁気透過性素材」とは、磁性材である点で共通する。

・引用発明の「複数の平面型巻線コイル1a,1b,・・・,1f」は、電磁誘導による電力伝達を行う磁束を発生するための平面状の装置が備える、複数の平面型巻線コイルであるから、本願補正発明の「平面状の2つのコイル」とは、平面状の複数のコイルである点で共通する。

・引用発明の「1次側コイル1」は「複数の平面型巻線コイル1a,1b,・・・,1fを備え、1次側コイル1の背面(外側面)には、発生磁界を収束させる軟磁性材の板またはシート4が貼り付けられ」る構成において、発生磁界を収束させることは、磁性材の磁気的な機能を、平面型巻線コイルが発生する磁界の収束作用に用いるものであり、磁性材と平面型巻線コイルとを磁気的に関連づけるものであるから、引用発明の「1次側コイル1」は「複数の平面型巻線コイル1a,1b,・・・,1fを備え、1次側コイル1の背面(外側面)には、発生磁界を収束させる軟磁性材の板またはシート4が貼り付けられ」る構成と、本願補正発明の「磁気透過性素材と、前記磁気透過性素材に磁気的に関連づけられた平面状の2つのコイルとを備え」る構成とは、磁性材と、前記磁性材に磁気的に関連づけられた平面状の複数のコイルとを備える点で共通する。

・引用発明の「1次側コイル1は、隣接するコイル間の磁気結合係数を0.5以下となるように重ね合わせた複数の平面型巻線コイル1a,1b,・・・,1fを備え」、「隣接するコイル間の磁気結合係数を0.5以下とすることで、隣接するコイル間の磁気的干渉を低減でき」る構成は、平面型巻線コイルを重ね合わせる(互いにオーバーラップさせる)ことで、隣接するコイル間の磁気的干渉を低減するものであるから、磁気結合係数が可及的に小さい態様において、本願補正発明の「前記コイルは、互いにオーバーラップしているが、相互の磁気的結合を有しておらず」の構成に相当する。

・引用発明の「1次側コイル1は、隣接するコイルの励磁周波数を0.01?10%の範囲で異ならせること」は、各コイルに対し供給する励磁電流(つまり、電力の伝送のために電源から供給される励磁電流)自体が異なることも意味するから、引用発明の「隣接する1次側コイルの励磁周波数を0.01?10%の範囲で異ならせること」と、本願補正発明の「コイルは、相対的に強度が変化する電流を電源から受け取ること」とは、コイルは、異なる電流を電源から受け取る点において共通する。

・引用発明の「異なる周波数を用い1次側コイル1平面上にうなり磁界を形成すると不感地点を改善する」構成は、1次側コイル1平面の上に「うなり磁界」という所望の磁界のパターンを得られるようにしたものであるから、本願補正発明の「所望の磁界のパターンが生成される」構成に相当する。

そうすると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
電磁誘導による電力伝達を行う磁束を発生するための平面状の装置であって、
磁性材と、前記磁性材に磁気的に関連づけられた平面状の複数のコイルとを備え、
前記コイルは、互いにオーバーラップしているが、相互の磁気的結合を有しておらず、
しかも、前記コイルは、異なる電流を電源から受け取ることにより、所望の磁界のパターンが生成されるように構成されている、電磁誘導による電力伝達を行う磁束を発生するための平面状の装置。

<相違点>
・相違点1
複数のコイルが、本願補正発明は「2つのコイル」であるのに対し、引用発明の「1次側コイル1」は、「複数の平面型巻線コイル1a,1b,・・・,1f」である点。

・相違点2
磁性材が、本願補正発明は「磁気透過性素材」であるのに対し、引用発明は「軟磁性材」である点。

・相違点3
磁束を発生するための平面状の構造体について、本願補正発明は「磁束を発生しまたは受けるための磁束パッド」であるのに対し、引用発明は「電磁誘導を用い、空隙を介して1次側コイル1から2次側コイル2に非接触にて電力を伝送する電力伝送装置10に於ける、1次側コイル1と軟磁性材からなる板またはシート4とで形成される平面状の構造体」である点。

・相違点4
コイルは、異なる電流を電源から受け取ることに関し、本願補正発明は「コイルは、相対的に強度が変化する電流を電源から受け取る」ものであるのに対し、引用発明は「隣接する1次側コイルの励磁周波数を0.01?10%の範囲で異ならせる」ものである点。

イ.相違点について検討する。
・相違点1について
引用発明の「複数の平面型巻線コイル1a,1b,・・・,1f」は、コイルの数について特定されるものでなく、引用文献1の段落【0038】には、「尚、本実施例では、2次側コイルを1ヶ、1次側コイルを2ヶで実施しているが、本発明は、これらを面方向にも拡張する構成にできるものであって、2次側コイルは1ヶ以上、1次側コイルは複数での構成となる。」と記載され、また図8にも1次側の平面型巻線コイルを2つとすることが示されているから、引用発明の「1次側コイル1」について、2つの平面型巻線コイルを用いたものとして、本願補正発明の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

・相違点2について
例えば、「材料学シリーズ『磁性入門』スピンから磁石まで」(志賀正幸著、2007年4月25日発行、株式会社内田老鶴圃)には、「磁性材料は大別すると、わずかの磁場で大きな磁化を生じる、すなわち透磁率の大きい軟磁性材料と、いわゆる永久磁石材料(硬磁性材料)の2つがあり」(179頁3?5行)と記載されるように、「軟磁性」という語は、透磁率の大きい磁性材料一般を示す語として周知のものであり、引用発明の「軟磁性材」も、当該文献に示されるような一般的な軟磁性材料と異なるものではなく、また、当然、その磁性材料が有する性質も、透磁率が大きいものといえる。
一方、本願補正発明の「磁気透過性」は、日本語として一般的に用いられる技術用語ではないが、本願の国際公開公報にある、英語の「magnetically permeable」の訳語であると認めることができ、「研究社新英和大辞典」(第6版2002年3月)の「mangetic permeability n.《物理》電磁性透磁率(→permeability 2 a)」の記載、及び「permeability」の訳としての「2 《物理》a導磁性,導磁率」の記載を参照すると、日本語で一般に透磁率という語で示される技術的な概念と異なるものでないといえる。
そうすると、本願補正発明の「磁気透過性素材」は、透磁率の優れた素材を意味するものといえ、引用発明の「軟磁性材」と、本願補正発明の「磁気透過性素材」とに、実質的な差異はない。
なお、引用文献には、上記「2.(2)ウ.」の段落【0053】に、引用発明の軟磁性材料の例としてMnZnフェライト板が例示されており、一方、本願補正発明の「磁気透過性素材」に関しても、本願の発明の詳細な説明の段落【0030】の「図1に示されるDDPパッドは実質的に同一平面内にあるコイル2およびコイル3を基本的に備えており、これらのコイルは磁気的に関連づけられてコア4の最上部に位置している。図からわかるように、コア4はフェライトストリップまたはフェライトバー5などの単一長の複数の磁気透過性素材からなり、各フェライトストリップまたはフェライトバーは互いに平行に間隔をあけて配置されている。」と記載されるようにフェライトが例示されているから、素材に関する具体例からみても、引用発明の「軟磁性材」と、本願補正発明の「磁気透過性素材」とに、実質的な差異はない。
したがって、相違点2は、実質的なものではなく、本願補正発明と引用発明とは相違点2においては相違しない。

・相違点3について
一般に、電磁誘導を行うコイルは、同一のコイル構成そのままで、送電と受電の双方を行うことが可能であり(例えば、原審の拒絶の理由に引用された特開2006-42519号公報、段落【0033】、図5の送電・受電コイル145を参照。)、引用発明の「1次側コイル1と軟磁性材からなる板またはシート4とで形成される平面状の構造体」は、そのまま電力を受信することも可能と解するのが通常であるので、引用発明の「電磁誘導を用い、空隙を介して1次側コイル1から2次側コイル2に非接触にて電力を伝送する電力伝送装置10に於ける、1次側コイル1と軟磁性材からなる板またはシート4とで形成される平面状の構造体」と、本願補正発明の「磁束を発生しまたは受けるための磁束パッド」とに、実質的な差異はない。
したがって、相違点3は、実質的なものではなく、本願補正発明と引用発明とは相違点3においては相違しない。

・相違点4について
(a)まず、本願補正発明の「相対的に強度が変化する電流」とは、何と何の間で相対的に電流の強度が変化するのかについて確認する。
(b)請求人は、審判請求書(審判請求書に対する平成27年12月27日付補正書)において、「3-2.本願発明について 上記3-1項で述べたように、本願発明は、『コイル間に強度の異なる電流が供給される』態様に限定された。」とし、「3-3.引用文献1(特開2009-164293号公報)について 引用文献1には、2つの1次側コイルの間に位相差を設けたり、周波数差を設けたりすることは記載されているとしても、一次側コイルの一方の電流の強度を一次側コイルの他方の電流の強度と異ならせることは何ら開示も示唆もされていない。」旨主張している。
(c)そうすると、本願補正発明の「相対的に強度が変化する電流」とは、一応、一次側コイルの一方の電流と、一次側コイルの他方の電流との間の「相対的」な関係について、電流の「強度」が異なることを規定したものと解するのが相当である。
(d)これに対し、引用発明は「隣接するコイルの励磁周波数を0.01?10%の範囲で異ならせる」ものである。
そして、異なる励磁周波数で励磁される隣接するコイルは、ある時点で瞬間的に隣接するコイルそれぞれの相対的な電流の強度が等しくなることがあるとしても、隣接するコイルがそれぞれ異なる周波数で励磁されている以上、電流の相対的な強度は時点毎に異なって行くことになり、うなりの周波数に対応した周期で減少と増加を繰り返す変化を生じることとなる。
(e)そうすると、引用発明の「隣接するコイル」は、実質的に、相対的に強度が変化する電流を電源から受け取るものであり、本願補正発明の「コイルは、相対的に強度が変化する電流を電源から受け取る」ことと相違しない。
(f)請求人は、引用文献1には、2つの1次側コイルの間に周波数差を設けることは記載されていても、一次側コイルの一方の電流の強度を一次側コイルの他方の電流の強度と異ならせることは何ら開示も示唆もされていない旨主張しているが、隣接するコイルがそれぞれ異なる周波数で励磁されている以上、電流の相対的な強度は時点毎に異なって行くことは明らかなことであり、請求人の主張を採用することはできない。
(g)したがって、相違点4は、実質的なものではなく、本願補正発明と引用発明とは相違点4においては相違しない。

相違点1?4を総合しても、本願補正発明の発明特定事項によって、引用発明及び上記周知の技術的事項からみて格別な効果がもたらされるということもできない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び上記周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)小括
本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成27年10月22日付けの手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本件に係る出願の各請求項に係る発明は、平成27年1月5日付け手続補正書に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1は、「2.(1)ア.」に記載したとおりである(以下、この請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。

(2)引用発明
引用文献及びその記載事項並びに引用発明は、「2.(2)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、「2.(3)ア.」での検討を踏まえれば、両者の相違は、上記相違点1?3と同様である。

そして、本願補正発明と引用発明との相違点についての「2.(3)イ.」での検討を踏まえれば、本願発明も、それと同様の理由により、引用発明及び上記周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということができる。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-25 
結審通知日 2016-11-15 
審決日 2016-11-28 
出願番号 特願2012-523583(P2012-523583)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02J)
P 1 8・ 121- Z (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大手 昌也坂東 博司  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 矢島 伸一
久保 竜一
発明の名称 誘導電力伝達システム  
代理人 井出 正威  

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