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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06T
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06T
管理番号 1328306
審判番号 不服2016-11966  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-08 
確定日 2017-05-11 
事件の表示 特願2012- 53469「画像処理装置、画像処理方法、および画像処理プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月19日出願公開、特開2013-186819〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成24年3月9日の出願であって、手続の概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 : 平成27年10月30日(起案日)
手続補正 : 平成28年 1月 7日
拒絶査定 : 平成28年 5月 2日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 : 平成28年 8月 8日
手続補正 : 平成28年 8月 8日

第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年8月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の平成28年1月7日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項4に記載された、

「【請求項4】
画像入力部に入力された赤外線カメラで撮像した撮像エリアのフレーム画像を処理して生成した背景差分画像から、撮像されている物体を検出する画像処理方法であって、
前記画像入力部に入力されたフレーム画像の各画素について、背景モデル記憶部に記憶している当該画素の画素値の頻度をモデル化した背景モデルを用いて、その画素が前景画素であるか、背景画素であるかを判定し、背景差分画像を生成する背景差分画像生成ステップと、
前記背景差分画像生成ステップで生成した背景差分画像における前記前景画素に基づき、前景領域を設定し、撮像されている物体を検出する物体検出ステップと、
前記物体検出ステップで物体を検出した前記前景領域毎に、その前景領域内に位置する画素の画素値の分散が、予め定めた判定値以上であれば、当該前景領域に撮像されている物体を人であると判定する物体種別判定ステップと、を備えた画像処理方法。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、平成28年8月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項3に記載された、

「【請求項3】
画像入力部に入力された赤外線カメラで撮像した撮像エリアのフレーム画像を処理して生成した背景差分画像から、撮像されている物体を検出する画像処理方法であって、
前記画像入力部に入力されたフレーム画像の各画素について、背景モデル記憶部に記憶している当該画素の画素値の頻度をモデル化した背景モデルを用いて、その画素が前景画素であるか、背景画素であるかを判定し、背景差分画像を生成する背景差分画像生成ステップと、
前記背景差分画像生成ステップで生成した背景差分画像における前記前景画素に基づき、前景領域を設定し、撮像されている物体を検出する物体検出ステップと、
前記物体検出ステップで物体を検出した前記前景領域毎に、その前景領域内に位置する画素の画素値の分散が、予め定めた判定値以上であれば、当該前景領域に撮像されている物体を人であると判定する物体種別判定ステップと、を備え、
前記物体検出ステップは、予め定めた物体検出確認時間継続して、前記画像入力部に入力されたフレーム画像に撮像されていた物体を検出する、画像処理方法。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。(下線は、補正箇所である。)

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、本願発明に記載された「物体種別判定ステップ」に関し、「前記物体検出ステップは、予め定めた物体検出確認時間継続して、前記画像入力部に入力されたフレーム画像に撮像されていた物体を検出する」という構成を付加して限定し、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第17条の2第5項2号(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりであり、下記のとおり説明のために当審において(A)ないし(F)の記号を付して再掲する。以下、構成Aないし構成Fと称する。

「(A)画像入力部に入力された赤外線カメラで撮像した撮像エリアのフレーム画像を処理して生成した背景差分画像から、撮像されている物体を検出する画像処理方法であって、
(B)前記画像入力部に入力されたフレーム画像の各画素について、背景モデル記憶部に記憶している当該画素の画素値の頻度をモデル化した背景モデルを用いて、その画素が前景画素であるか、背景画素であるかを判定し、背景差分画像を生成する背景差分画像生成ステップと、
(C)前記背景差分画像生成ステップで生成した背景差分画像における前記前景画素に基づき、前景領域を設定し、撮像されている物体を検出する物体検出ステップと、
(D)前記物体検出ステップで物体を検出した前記前景領域毎に、その前景領域内に位置する画素の画素値の分散が、予め定めた判定値以上であれば、当該前景領域に撮像されている物体を人であると判定する物体種別判定ステップと、を備え、
(E)前記物体検出ステップは、予め定めた物体検出確認時間継続して、前記画像入力部に入力されたフレーム画像に撮像されていた物体を検出する、
(F)画像処理方法。」

(2)引用発明
(2-1)引用文献の記載
原審の拒絶理由に引用された、特表2009-533778号公報(以下、「引用文献1」という。)には「統計的画素モデリングを使った映像セグメント化」(発明の名称)として図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は、強調のために当審が付与したものである。)

ア.「【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、例えば、セキュリティ、監視および関連する国土安全保障およびテロ対策システムで利用される閉回路テレビシステム(CCTV)の一部として、または同システムと連動させて使用されるインテリジェント映像監視(IVS)システム、市場調査目的で店内人間挙動の傾向を確認するために小売店における監視映像を処理するIVSシステム、誤った方向の通行、故障車両、事故および道路封鎖を検出するために車両交通を監視するIVSシステム、ならびに映像圧縮システムなどの映像処理システムで使用するための映像フレームの処理に関する。IVSシステムとは、映像セグメント化ステップの後で、前景オブジェクトを、動物、乗り物、その他の動く未分類オブジェクトといった一般的なクラスとして分類し、あるいは人間、小型もしくは大型の人間以外の動物、自動車、航空機、船、トラック、樹木、旗、または水域のようなより具体的なクラスとして分類するオブジェクト分類を行うために映像をさらに処理するシステムである。IVSシステムでは、このような映像セグメント化および分類が行われた後で、検出されたオブジェクトは、これらのオブジェクトの位置、動きおよび挙動がユーザ定義の仮想映像仕掛け線、および仮想関心領域(関心領域は視野全体または場面全体とすることもできる)にどのように関連するか判定するために処理される。次いで、発生したユーザ定義のイベントに、勤務中の保安警官または保安要員に伝えられる関心対象イベントとしてフラグが立てられる。このようなイベントの例には、人間もしくは乗り物が仮想映像仕掛け線を横切る、人もしくは乗り物が仮想関心領域もしくは場面を徘徊し、もしくはそこに入る、またはオブジェクトが仮想領域もしくは場面に放置され、もしくはそこから持ち去られるなどが含まれる。詳細には、本発明は、映像フレームを構成する各領域の統計的特性を使って、映像フレームをその構成部分にセグメント化する方法を扱う。」

イ.「【0003】
[0003]自動オブジェクト指向映像処理を実現できるようにするには、移動または変化している映像シーケンス中の各領域を区別し、これらの領域を静止背景領域から分離する(すなわちセグメント化する)ことができる必要がある。このセグメント化は、例えば、パン、チルト、ロール、および/またはズームする観測装置によって(または実際の観測装置の移動を含む別の移動関連の現象によって)誘発されるような、明白な動きが存在する中で行われなければならない。この動きを明らかにするために、まず画像が位置合わせされる。すなわち、前述のように、画像内の対応する位置(すなわち各フレーム)が特定される。この位置合わせの後、実際に移動または変化しているオブジェクトを、静止背景に対して、場面内の静止オブジェクトからセグメント化することができる。次いで、静止領域を使って場面モデルが作成(または更新)され、動く前景オブジェクトが各フレームごとに識別される。
【0004】
[0004]動く前景と静止した背景である映像オブジェクトを識別し、自動的に区別するのは、特に、前述のような観測装置の動きがある場合には、容易ではない。さらに、最大限の圧縮度または別の映像処理技術の最大限の精密さまたは正確さを提供するには、前景オブジェクトを可能な限り細かくセグメント化することが望ましい。というのは、これにより、例えば、連続する映像フレーム間の滑らかさおよび個々のフレーム内の鮮明さを維持することを可能になるからである。しかしながら、公知の技術は、小さい前景オブジェクトでは使用するのが難しく、不正確であることが分かっており、過大な処理能力およびメモリを必要とする。したがって、従来技術の制限を受けずに、前景情報と背景情報との間の正確なセグメント化、および前景オブジェクトの正確で鮮明な表現を可能にする技術があれば望ましい。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】【課題を解決するための手段】
【0005】
[0005]本発明は、ソース映像の統計的特性に基づく、映像の前景情報と背景情報とへのセグメント化の方法を対象とする。より詳細には、この方法は、映像の各領域の特性に関する統計情報、および統計情報に基づくこれらの領域の(すなわち前景または背景としての)ラベル付けを作成し、更新することに基づくものである。例えば、一実施形態では、各領域は画素であり、特性は彩度である。以下で明らかになるように、他の多くの可能な方法も存在する。より特定の実施形態では、本発明は、本発明の映像セグメント化方法を使ってインテリジェント映像監視システムを実施する方法を対象とする。」

ウ.「【0022】
[0022]「ビデオカメラ」とは、可視記録のための装置をいう。ビデオカメラの例には、ビデオカメラ、ディジタルビデオカメラ、カラーカメラ、白黒カメラ、カメラ、カムコーダ、PCカメラ、ウェブカム、赤外線(IR)ビデオカメラ、低光量ビデオカメラ、熱映像カメラ、閉回路テレビ(CCTV)カメラ、パン、チルト、ズーム(PTZ)カメラ、映像感知機器のうちの1つ以上が含まれ得る。ビデオカメラは、関心領域の監視を行うように配置され得る。」

エ.「【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[0040]前述のように、本発明は、映像ストリームの、動くオブジェクトに対応する前景情報と、映像の静止部分に対応する背景情報とへのセグメント化を対象とするものである。本発明は、いくつかの方法で実施することができ、以下では、そのうちの4つの具体的方法について論じる。これらの実施形態は、それだけに限定されるのではなく、例示のためのものである。
【0026】
[0041]以下の考察では「画素」および「彩度」に言及する。しかしながら、本発明の方法はこれだけに限定されるものではない。そうではなく、処理は、画素のみならず(複数の画素を備える領域を含む)任意の種類の領域に関与し、彩度のみならず、そのような領域に対して測定され、またはそのような領域に関連する任意の種類の特性を使用し得る。
【0027】
1.第1の実施形態 2パスのセグメント化
[0042]図1には本発明の第1の実施形態が示されており、これは2パスのセグメント化の方法に対応する。図1に示すように、この方法ではまず映像ストリームからフレーム(または映像)シーケンスを獲得する(ステップ1)。フレームシーケンスは、好ましくは、映像ストリームの2つ以上のフレームを含む。フレームシーケンスは、例えば、映像ストリームの一部または映像ストリーム全体とすることができる。映像ストリームの一部として、フレームシーケンスは、例えば、映像ストリームの1つの連続するフレームシーケンスまたは映像ストリームの2つ以上の不連続のフレームシーケンスなどとすることができる。また、位置合わせステップの一部として、場面モデルも構築され、更新される。
【0028】
[0043]ステップ1の後、ステップ2で、すべてのフレームがすでに処理されているか否かが判定される。まだ処理されていない場合には、次のフレームが取り込まれ、下にある映像ストリームの場面モデルと位置合わせされる(ステップ3)。このような位置合わせについては前述しており、他の多数の参照文献でも論じられている。
【0029】
[0044]本発明の方法は統計的モデリングを使って、個々の画素を前景オブジェクトまたは前景オブジェクトの一部であると分類すべきか、それとも背景または背景の一部であると分類すべきか判定することに基づくものである。ステップ4では、ステップ3で位置合わせされた各フレームを使った、背景の統計モデルの構築および更新を扱う。

【0030】?【0033】省略

【0034】
[0049]以上が与えられるものと仮定して、ステップ4は、各フレームごとに、各画素ごとの式(4a)の値を算出することによって統計モデルを作成し、更新するように機能する。また、ステップ4では各画素の値が、(各画素が受け取られるように、すなわち、フレームごとにではなく)画素ごとに格納される。すなわち、一連の値がそのフレームシーケンスにわたって各画素ごとにコンパイルされる。代替の実施形態では、ステップ4ではこの値の格納を行うだけであることに留意されたい。
【0035】
[0050]ステップ4に続き、方法はステップ2に戻って、すべてのフレームが処理されているか否かチェックする。すべてのフレームが処理されている場合、方法はステップ5に進み、この実施形態の第2のパスを開始する。
【0036】
[0051]ステップ5では、統計的背景モデルが仕上げられる。これは、各画素ごとの格納された値を使用し、これらの値のモード、すなわち、最も頻繁に生じる値を求めることによって行われる。これは、例えば、格納された値のヒストグラムを取り、そのヒストグラムが最高値を有する値を選択することによって達成され得る。次いで、各画素のモードがその画素の背景統計モデルの値として割り当てられる。
【0037】
[0052]ステップ5に続き、方法はステップ6に進み、すべてのフレームがすでに処理されているか否か判定する。まだ処理されていない場合、方法はステップ7に進み、そこでフレーム内の各画素が前景(FG)画素または背景(BG)画素であるとラベル付けされる。このステップの動作の2つの選択可能な実施形態を図2Aおよび図2Bのフローチャートに示す。
【0038】
[0053]図2Aには2判定レベルの方法が示されている。図2Aでは、画素ラベル付けステップ7はステップ71から開始し、そこでフレーム内のすべての画素が処理されているか否かが判定される。まだ処理されていない場合、方法はステップ72に進んで次の画素を調べる。ステップ72では、画素が背景統計モデルとマッチするか否か、すなわち、画素の値がその画素のモデルとマッチするかどうかを判定する。これは、画素値とその画素の背景統計モデルの値(すなわちモード)との絶対差を取り、この絶対差を閾値と比較することによって行われる。すなわち、
【数12】

が閾値θと比較される。式(6)において、xpixelは画素の値を表し、mpixelはその画素の統計的背景モデルの値を表す。
【0039】
[0054]閾値θは多くの方法で求められる。例えば、閾値θは、(所与の画素)の標準偏差σの関数であるとみなすこともできる。特定の例示的実施形態では、θ=3σである。別の実施形態では、θ=Kσであり、Kはユーザによって選択される。別の例として、θには(やはり各画素ごとに)所定の値、またはユーザが選択した値が割り当てられてもよい。
【0040】
[0055]Δ≦θである場合、画素値は背景統計モデルとマッチするとみなされる。この場合、画素はステップ73で背景(BG)とラベル付けされ、アルゴリズムはステップ71に戻る。そうでなく、Δ>θである場合、画素値は背景統計モデルとマッチしないとみなされ、画素はステップ74で前景(FG)とラベル付けされる。この場合もやはり、アルゴリズムは次いでステップ71に戻る。ステップ71で(フレーム内の)すべての画素が処理されていると判定された場合、ステップ7は終了する。」

(2-2)引用発明
上記(2-1)のア.?ウ.の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮して引用文献1の記載を検討する。

(i)引用文献1には、上記イ.の段落【0005】にあるように、映像の各領域(画素)の特性に関する統計情報に基づいて映像の前景情報と背景情報とへのセグメント化を行う映像監視システムにおける映像セグメント化方法について記載がある。また、該セグメント化方法が、統計情報に基づく前景と背景のラベル付けによるものであることが記載されている。そして、上記イ.の段落【0003】に記載されるように、セグメント化された前景情報は、前景オブジェクトとして識別される。なお、上記統計情報は、後記するように背景統計モデルである。
このように、引用文献1には、『映像の前景情報と背景情報とへのセグメント化を行って前景オブジェクトを識別』する、『映像監視システムにおける映像セグメント化方法』について記載があるといえる。ここで、セグメント化は、背景統計モデルに基づく前景と背景のラベル付けにより行われている。
なお、上記ア.には、識別された前景オブジェクトについて、人間や自動車等のオブジェクト分類を行うためにさらに映像処理されることが記載されている。

(ii)上記ウ.には、監視を行うビデオカメラとして、赤外線(IR)カメラが挙げられている。また、上記エ.の段落【0027】には、映像ストリームからフレームシーケンス(2つ以上のフレーム)を獲得することが記載されている。
このように、引用文献1には、『赤外線(IR)カメラによる映像ストリームからフレームシーケンスを獲得』することについて記載がある。

(iii)上記エ.の段落【0029】、【0034】には、獲得されたフレームシーケンスの各フレームごとに各画素ごとの背景統計モデルを作成し、更新することが記載されている。
また、上記エ.の段落【0036】によれば、各画素ごとに格納された値の最も頻繁に生じる値を求めることによって背景統計モデルが仕上げられるとされ、例えば、格納された値のヒストグラムを取り、そのヒストグラムが最高値を有する値を背景統計モデルの値とすると記載されている。
このように、引用文献1には、『背景統計モデル』が、『獲得されたフレームシーケンスの各フレームごとに各画素ごとに作成され更新される』ものであり、また、『フレームの各画素ごとに最も頻繁に生じる値をモデルの値』としたものであることについて記載があるといえる。

(iv)上記エ.の段落【0037】?【0038】によれば、フレームの各画素の画素値と該画素の背景統計モデルの値との絶対差(Δ)を取り、この絶対差を閾値(θ)と比較し、閾値内(Δ≦θ)の場合には、画素値は背景統計モデルとマッチするとみなされ、背景とラベル付けされ、閾値を超える(Δ>θ)場合には、画素値は背景統計モデルとマッチしないとみなされ、前景とラベル付けされることが記載されている。
このように、引用文献1には、『フレームの各画素の画素値と該画素の背景統計モデルの値との絶対差から前景画素及び背景画素をラベル付け』することについて記載があるといえる。

上記(i)ないし(iv)のとおりであり、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が開示されている。なお、説明のために(a)ないし(c)の記号を付した。以下、構成aないし構成cと称する。

<引用発明1>
「(a)赤外線(IR)カメラによる映像ストリームからフレームシーケンスを獲得し、獲得したフレームの各画素の画素値と該画素の背景統計モデルの値との絶対差から前景画素及び背景画素をラベル付けし、映像の前景情報と背景情報とへのセグメント化を行って前景オブジェクトを識別する、映像監視システムにおける映像セグメント化方法であって、
(b)前記背景統計モデルは、獲得されたフレームシーケンスの各フレームごとに各画素ごとに作成され更新されるものであり、フレームの各画素ごとに最も頻繁に生じる値をモデルの値としたものである、
(c)映像監視システムにおける映像セグメント化方法。」

(3)対比
補正後の発明と引用発明1とを対比する。
(i)補正後の発明の構成Aについて
補正後の発明の構成Aと引用発明1の構成aとを対比する。
引用発明1の「赤外線(IR)カメラ」、「フレーム」は、明らかに補正後の発明の「赤外線カメラ」、「フレーム画像」に相当する。
また、引用発明1の赤外線(IR)カメラから獲得したフレームが、赤外線(IR)カメラが撮影する画像範囲、すなわち補正後の発明の「撮像エリア」におけるフレームの画像となることは自明である。
また、引用発明1では、「映像監視システム」が、赤外線(IR)カメラによる映像ストリームからフレームシーケンス、すなわち、2つ以上のフレームを「獲得」しているが、映像監視システムがフレームを「獲得」することは、すなわち、映像監視システムにフレームが入力されることであるといえる。その際、装置構成としての「システム」がフレームを入力するにあたり、入力のための構成を有することは自明のことであり、その入力のための構成は補正後の発明の「画像入力部」に相当する。

さらに、引用発明1では、「獲得したフレームの各画素の画素値と該画素の背景統計モデルの値との絶対差から前景画素及び背景画素をラベル付けし、映像の前景情報と背景情報とへのセグメント化を行って前景オブジェクトを識別」しているが、上記「ラベル付け」は、フレームの画像を「処理」して行われたものといえる。また、引用発明1における「各画素の画素値」と「該画素の背景統計モデルの値」との絶対差から「前景画素及び背景画素をラベル付け」したものは、補正後の発明の「背景差分画像」に相当する。また、引用発明1の「前景オブジェクト」は映像中の「物体」であるから、「映像の前景情報と背景情報とへのセグメント化を行って前景オブジェクトを識別する」ことは、補正後の発明の「撮像されている物体を検出する」ことに相当する。

さらに、引用発明1の映像監視システムにおける「映像セグメント化方法」は、フレームの「画像」に対して、ラベル付けやセグメント化という「処理」を行う方法であるから、補正後の発明の「画像処理方法」に相当する。

以上のとおりであるから、引用発明1の構成aは、補正後の発明の構成Aに一致する。

(ii)補正後の発明の構成Bについて
補正後の発明の構成Bと、引用発明1の構成a及び構成bとを対比する。
引用発明1の構成bの後段にある「フレームの各画素ごとに最も頻繁に生じる値をモデルの値としたもの」である「背景統計モデル」は、明らかに補正後の発明の「画素の画素値の頻度をモデル化」した「背景モデル」に相当する。また、引用発明1の「背景統計モデル」は、構成bの前段にあるように、「獲得されたフレームシーケンスの各フレームごとに各画素ごとに作成され更新されるもの」であり、「作成され更新され」ていることから、映像監視システムの装置構成内において記憶されていることは自明であり、その記憶構成は補正後の発明の「背景モデル記憶部」に相当する。
また、引用発明1では、構成aにあるように、「獲得したフレームの各画素の画素値と該画素の背景統計モデルの値との絶対差から前景画素及び背景画素をラベル付け」しており、これは、「獲得したフレームの各画素の画素値」について、「背景統計モデル」を用いて、前景画素及び背景画素をラベル付けするものである。ここで、「ラベル付け」は、前景画素であるか、背景画素であるかを区別(すなわち「判定」)するために行われるものであり、「ラベル付け」したものは上記(i)で言及したとおり、補正後の発明の「背景差分画像」に相当する。

以上のとおりであるから、引用発明1の構成a及び構成bは、補正後の発明の構成Bの「背景差分画像生成ステップ」を含んでいる。

(iii)補正後の発明の構成Cについて
引用発明1において「ラベル付け」したものは、上記(i)(ii)で検討したとおり、補正後の発明の「前記背景差分画像生成ステップで生成した背景差分画像」に相当する。
ここで、引用発明1では、構成aにあるように、「ラベル付け」することにより「映像の前景情報と背景情報とへのセグメント化を行って前景オブジェクトを識別」しており、上記(i)で言及したように「前景オブジェクトを識別」することは、補正後の発明の「物体を検出」することに相当する。

以上のとおりであるから、引用発明1の構成a及び構成bは、補正後の発明の構成Cの「物体検出ステップ」を含んでいる。

(iv)補正後の発明の構成Dについて
補正後の発明の構成Dに相当する構成は、引用発明1にはない。

(v)補正後の発明の構成Eについて
補正後の発明の構成Eに相当する構成は、引用発明1にはない。

(vi)補正後の発明の構成Fについて
上記(i)で言及したとおり、引用発明1の映像監視システムにおける「映像セグメント化方法」は、補正後の発明の「画像処理方法」に相当するから、引用発明1の構成cは、補正後の発明の構成Fに一致する。

したがって、補正後の発明と引用発明1は、以下の点で一致ないし相違している。

<一致点>
「画像入力部に入力された赤外線カメラで撮像した撮像エリアのフレーム画像を処理して生成した背景差分画像から、撮像されている物体を検出する画像処理方法であって、
前記画像入力部に入力されたフレーム画像の各画素について、背景モデル記憶部に記憶している当該画素の画素値の頻度をモデル化した背景モデルを用いて、その画素が前景画素であるか、背景画素であるかを判定し、背景差分画像を生成する背景差分画像生成ステップと、
前記背景差分画像生成ステップで生成した背景差分画像における前記前景画素に基づき、前景領域を設定し、撮像されている物体を検出する物体検出ステップと、を備える画像処理方法。」

<相違点>
(相違点1)補正後の発明では、「前記物体検出ステップで物体を検出した前記前景領域毎に、その前景領域内に位置する画素の画素値の分散が、予め定めた判定値以上であれば、当該前景領域に撮像されている物体を人であると判定する物体種別判定ステップ」を備えているのに対し、引用発明1では、そのような「物体種別判定ステップ」を備えていない点。
(相違点2)「前記物体検出ステップ」に関し、補正後の発明では、「予め定めた物体検出確認時間継続して、前記画像入力部に入力されたフレーム画像に撮像されていた物体を検出する」ようにしているのに対し、引用発明1では、そのような検出をしていない点。

(4)当審の判断
(4-1)相違点1について
引用文献1の段落【0001】(「(2-1)引用文献の記載」のア.)には、「(2-2)引用発明」の(i)において言及したように、識別された前景オブジェクトは、人間や自動車等のオブジェクト分類を行うため、さらに映像処理されると記載されている。

一方、原審の拒絶査定の理由に引用文献2として引用された特開2004-362265号公報には、赤外線画像認識装置に関する発明に関して記載がある。例えば、段落【0036】には、「歩行者判定処理は、グレースケール画像上で対象物画像の形状や大きさ、輝度分散等の特徴から、対象物が歩行者か否かを判定する処理である。」の記載がある。同じく原審の拒絶査定の理由に引用文献5として引用された特開2005-159392号公報には、赤外線画像から歩行者を検出する車両周辺装置に係る発明に関して記載(段落【0012】、【0030】?【0031】の記載参照)がある。例えば、段落【0031】には、「(b)に同様に歩行者の場合の画素の濃度分布を示す。歩行者の場合衣服からの反射強度が弱く濃度値が小さくなる場合が多い。さらに人間は立体的形状なので反射が一様ではないことと、衣服と肌との間では反射特性が異なるので、全体として反射が一様ではなく分散値が大きくなる特徴がある。」との記載がある。同じく原審の拒絶査定の理由に引用文献6として引用された特開2003-284057号公報には、赤外線カメラによる車両周辺監視装置に係る発明に関して記載(段落【0015】、【0045】、【0047】?【0048】の記載参照)がある。例えば、段落【0047】には、「このため、AREA3の輝度分散Var_A3は、歩行者の場合には高い値、壁のような対象物の場合には低い値を示す。従って、ステップS47では、マスク領域AREA3の輝度分散Var_A3が閾値TH6より大きいか否かを判定することで、対象物が歩行者であるか否かを判定する。」との記載がある。
これらの文献に記載のように、赤外線カメラによる撮像画像における対象物の画素値の分散が大きいとき、該対象画像を人と判定することは周知の技術事項(以下、「周知の技術事項1」という。)である。

当業者であれば、引用文献1の上記記載事項に基づき、上記周知の技術事項1を引用発明1に適用し、引用発明1で識別された前景オブジェクトの分類を行うために、前記前景オブジェクトのセグメント領域ごとに画素の画素値の分散を検出し、画素値の分散が大きいと検出されたときに該前景オブジェクトを人であると判定することを容易に想到し得るものである。なお、大きいことを予め定めた判定値以上であるか否かで判断することは周知慣用技術にすぎない。

以上のとおりであるから、引用発明1において、「前記物体検出ステップで物体を検出した前記前景領域毎に、その前景領域内に位置する画素の画素値の分散が、予め定めた判定値以上であれば、当該前景領域に撮像されている物体を人であると判定する物体種別判定ステップ」を備えることは当業者が容易に為し得ることである。

(4-2)相違点2について
原審の拒絶査定の理由に引用文献4として引用された特開2000-194961号公報には、監視領域を撮影して侵入者等を検出する発明について記載(例えば、段落【0009】、【0018】?【0020】の記載参照。)がある。例えば、段落【0009】には、「継続して撮影した所定枚数の現画像を同一の前記侵入者検出用基準画像と比較照合し、その結果、前記現画像が、所定回数だけ差異を有したときに、侵入異常が発生したと判断することができる。」と記載され、この記載に関し、段落【0018】?【0020】には、まず、差分の大きさが連続して所定の基準値を超えた場合に異常が発生したと判断することが記載されている。ここで、「所定枚数」の画像が所定フレームの画像であることは明らかである。
その他にも、特開2008-21034号公報には、撮像された画像から物体を判別する発明について記載(例えば、段落【0036】、【0095】?【0096】の記載参照。)がある。例えば、段落【0095】には、「・・・複数の連続画像(例えば、原画像及びそれ以降に入力される数フレームの画像)から検出された判別の候補となる同一の候補物体について、・・・所定の物体であると判別するようにしてもよい。」の記載がある。また、特開2005-8127号公報には、撮像した画像を処理して立体物を対向車として認識する発明に関して記載(例えば、【請求項1】、【請求項6】の記載参照。)がある。例えば、【請求項6】には、「・・・対向車検出手段は、複数フレーム連続して認識された上記立体物を対向車として検出することを特徴とする・・・」の記載がある。
これらの文献に記載のように、映像からの物体検出において、所定フレーム継続して撮像されていた物体を検出対象とすることは周知の技術事項(以下、「周知の技術事項2」という。)である。ここで、所定フレーム継続して検出されることは、所定フレームにかかる時間、すなわち所定時間継続してフレーム画像に撮像されているということである。

当業者であれば、上記周知の技術事項2に基づき、引用発明1において、所定フレーム継続して、すなわち所定時間に亘り継続して前景オブジェクト確認し、確認された前景オブジェクトを識別対象とすることを容易に想到し得るものである。

以上のとおりであるから、引用発明1において、「予め定めた物体検出確認時間継続して、前記画像入力部に入力されたフレーム画像に撮像されていた物体を検出する」とすることは当業者が容易に為し得ることである。

(4-3)まとめ
上記(4-1)及び(4-2)において判断したとおり、各相違点は格別なものでない。
そして、補正後の発明に関する作用・効果も、引用発明1及び周知の技術事項1、周知の技術事項2から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、補正後の発明は引用発明1及び周知の技術事項1、周知の技術事項2に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明1及び各引用文献の記載事項
引用発明1及び周知の技術事項1は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の「(2)引用発明」及び「(4)当審の判断」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明と引用発明1とを対比するに、本願発明は補正後の発明から、本件補正に係る構成(上記相違点2に係る構成)を省いたものである。
そうすると、補正後の発明から本件補正に係る限定を省いた本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明1と相違点1の相違を有することになる。したがって、本願発明は、上記「(4)当審の判断」の「(4-1)相違点1について」の判断のとおり、引用発明1及び周知の技術事項1に基いて容易に発明をすることができたものと判断される。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び周知の技術事項1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-28 
結審通知日 2017-03-07 
審決日 2017-03-27 
出願番号 特願2012-53469(P2012-53469)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06T)
P 1 8・ 575- Z (G06T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村松 貴士  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 渡辺 努
藤井 浩
発明の名称 画像処理装置、画像処理方法、および画像処理プログラム  
代理人 特許業務法人 楓国際特許事務所  

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