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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1328312
審判番号 不服2016-17762  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-28 
確定日 2017-06-09 
事件の表示 特願2015-545058「ホストからストレージ装置への削除されたデータの示唆」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月12日国際公開、WO2014/088749、平成27年12月24日国内公表、特表2015-537312、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)11月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年(平成24年)12月4日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年5月26日付けで拒絶理由が通知され、平成28年7月7日付けで手続補正がされ、平成28年9月5日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成28年11月28日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成28年12月27日に前置報告がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年9月5日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.本願請求項1-13に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2011-186556号公報


第3 本願発明
本願請求項1-13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明13」という。)は、平成28年11月28日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-13に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
ストレージ装置であって、
メモリと、
プロセッサであって、ホスト用のデータ項目をそれぞれの論理アドレスに記憶し、前記論理アドレスのアクセス頻度を評価することにより、前記論理アドレスの第1のサブセットをアクセス頻度が高い論理アドレスとして、かつ前記論理アドレスの第2のサブセットをアクセス頻度が低い論理アドレスとして識別し、前記アクセス頻度が高い論理アドレスを前記アクセス頻度が低い論理アドレスとは別個に管理し、ユーザによって削除されたものとして前記ホストによって識別されたデータの記憶に用いられる1つ以上の論理アドレスの通知を前記ホストから受信し、前記通知を受信したことに応じて、前記通知内で示された前記論理アドレスを前記アクセス頻度が低い論理アドレスに追加するように構成された、プロセッサと、
を備える、ストレージ装置。
【請求項2】
前記識別されたデータが、前記1つ以上の論理アドレスに記憶され、かつ前記ユーザによって削除されたファイルを含む、請求項1に記載のストレージ装置。
【請求項3】
前記通知が、前記データが削除されたことを前記プロセッサに指定する、請求項1に記載のストレージ装置。
【請求項4】
前記通知が、前記データがアクセス頻度が低いものとして処理されるべきであることを前記プロセッサに指定する、請求項1に記載のストレージ装置。
【請求項5】
前記プロセッサが、削除されたものとして前記ホストによって識別された前記データを記憶するための区画を前記メモリ内で画定するように構成された、請求項1に記載のストレージ装置。
【請求項6】
前記プロセッサが、前記メモリ内の前記区画の位置を前記ホストから受信するように構成された、請求項5に記載のストレージ装置。
【請求項7】
コンピュータであって、
ホストであって、ユーザによって削除されたデータを識別し、かつ前記識別されたデータが前記ホストによって記憶されたストレージ装置上の1つ以上の論理アドレスを報告する通知を送信するように構成された、ホストと、
前記ストレージ装置であって、前記ホスト用のデータ項目をそれぞれの論理アドレスに記憶し、前記論理アドレスのアクセス頻度を評価することにより、前記論理アドレスの第1のサブセットをアクセス頻度が高い論理アドレスとして、かつ前記論理アドレスの第2のサブセットをアクセス頻度が低い論理アドレスとして識別し、前記アクセス頻度が高い論理アドレスを前記アクセス頻度が低い論理アドレスとは別個に管理し、前記ホストから前記通知を受信し、前記通知を受信したことに応じて、前記通知内で示された前記1つ以上の論理アドレスを前記アクセス頻度が低い論理アドレスに追加するように構成された、ストレージ装置と、
を備える、コンピュータ。
【請求項8】
方法であって、
ストレージ装置において、ホスト用のデータ項目をそれぞれの論理アドレスに記憶することと、
前記ストレージ装置において、前記論理アドレスのアクセス頻度を評価することにより、前記論理アドレスの第1のサブセットをアクセス頻度が高い論理アドレスとして、かつ前記論理アドレスの第2のサブセットをアクセス頻度が低い論理アドレスとして識別し、前記アクセス頻度が高い論理アドレスを前記アクセス頻度が低い論理アドレスとは別個に管理することと、
前記ストレージ装置において、ユーザによって削除されたものとして前記ホストによって識別されたデータの記憶に用いられる1つ以上の論理アドレスの通知を前記ホストから受信することと、
前記通知を受信したことに応じて、前記通知内で示された前記論理アドレスを前記アクセス頻度が低い論理アドレスに追加することと、
を含む、方法。
【請求項9】
前記識別されたデータが、前記1つ以上の論理アドレスに記憶され、かつ前記ユーザによって削除されたファイルを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記通知が、前記データが削除されたことを前記ストレージ装置に指定する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記通知が、前記データがアクセス頻度が低いものとして処理されるべきであることを前記ストレージ装置に指定する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記データ項目を記憶することが、削除されたものとして前記ホストによって識別された前記データを記憶するための区画を前記ストレージ装置内で画定することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記ストレージ装置内の前記区画の位置を前記ホストから受信することを含む、請求項12に記載の方法。」


第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0015】
(第1の実施形態)
図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係るメモリ管理装置1及び情報処理装置100について説明する。図1は、本実施形態に係るメモリ管理装置及び情報処理装置の構成の一例を示すブロック図である。
【0016】
情報処理装置100は、メモリ管理装置1と、混成メインメモリ2と、プロセッサ3a,3b,3cとを備える。
【0017】
プロセッサ3a,3b,3cは、例えば、MPU(Micro Processor Unit)又はGPU(Graphic Processor Unit)である。プロセッサ3a,3b,3cは、各々に1次キャッシュメモリ4a,4b,4cと、2次キャッシュメモリ5a,5b,5cを備える。プロセッサ3a,3b,3cは、それぞれプロセス6a,6b,6cを実行し、種々のデータを処理する。プロセッサ3a,3b,3cは、プロセス6a,6b,6cの実行においては、仮想アドレスによりデータを指定する。
【0018】
プロセッサ3a,3b,3cは、データ(書き込み対象データ)を混成メインメモリ2に書き込む場合には、書き込み要求を発生させる。また、プロセッサ3a,3b,3cは、データ(読み出し対象データ)を混成メインメモリ2から読み出す場合には、読み出し要求を発生させる。
【0019】
プロセッサ3a,3b,3cは、各々に仮想アドレスをMPU又はGPUの物理アドレス(混成メインメモリ2に対する論理アドレス)に変換するページテーブル(図示せず)を備える。プロセッサ3a,3b,3cは、1次キャッシュメモリ4a,4b,4c、2次キャッシュメモリ5a,5b,5c、又は混成メインメモリ2にデータを書き込む場合には、ページテーブルにより仮想アドレスを論理アドレスに変換し、論理アドレスにより書き込み対象データを指定する。同様に、プロセッサ3a,3b,3cは、1次キャッシュメモリ4a,4b,4c、2次キャッシュメモリ5a,5b,5c、又は混成メインメモリ2からデータを読み出す場合には、ページテーブルにより仮想アドレスを論理アドレスに変換し、論理アドレスにより読み出し対象データを指定する。
【0020】
なお、以下において、1次キャッシュメモリ4a,4b,4c、2次キャッシュメモリ5a,5b,5c、又は混成メインメモリ2に対する書き込み、読み出しを総称して「アクセス」と表現する。
【0021】
メモリ管理装置1は、プロセッサ3a,3b,3cの混成メインメモリ2に対するアクセス(書き込み、読み出し)を管理する。メモリ管理装置1は、処理部15と、作業メモリ16と、情報記憶部17とを備える。メモリ管理装置1は、後述するメモリ使用情報11と、メモリ固有情報12と、アドレス変換情報13と、カラーリングテーブル14とを情報記憶部17に格納する。メモリ管理装置1の情報記憶部17に格納されるカラーリングテーブル14は、不揮発性半導体メモリ9,10に格納されているカラーリングテーブル14の一部であってもよい。例えば、不揮発性半導体メモリ9,10に格納されているカラーリングテーブル14のうち、頻繁に用いられるカラーリングテーブル14のデータを、メモリ管理装置1の情報記憶部17に格納するとしてもよい。メモリ管理装置1は、カラーリングテーブル14等を参照し、プロセッサ3a,3b,3cの混成メインメモリ2に対するアクセスを管理する。詳細については後述する。
【0022】
混成メインメモリ2は、第1のメモリ、第2のメモリ、及び第3のメモリを備えている。第1のメモリは、第2のメモリよりもアクセス可能上限回数が多い。第2のメモリは、第3のメモリよりもアクセス可能上限回数が多い。ここでアクセス可能上限回数とは、統計的に予想される期待値であって、常にこの関係が保証されることを意味してはいないことに注意されたい。
【0023】
本実施形態では、第1のメモリは揮発性半導体メモリ8であるとする。揮発性半導体メモリ8としては、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、FPM-DRAM、EDO-DRAM、SDRAMなどのような、一般的なコンピュータにおいてメインメモリとして利用されるメモリが用いられる。また、DRAM程度の高速ランダムアクセスが可能であり、アクセス可能上限回数に実質的な制限が無いのであれば、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)、FeRAM(Ferroelectric Random Access Memory)などの不揮発性ランダムアクセスメモリを採用してもよい。
【0024】
第2のメモリは不揮発性半導体メモリ9であるとする。不揮発性半導体メモリ9としては、例えば、SLC(Single Level Cell)タイプのNAND型フラッシュメモリが用いられる。SLCは、MLC(Multi Level Cell)と比較して、読み出し及び書き込みが高速であり、信頼性が高い。しかしながら、SLCは、MLCと比較して、ビットコストが高く、大容量化には向いていない。
【0025】
第3のメモリは不揮発性半導体メモリ10であるとする。不揮発性半導体メモリ10としては、例えば、MLCタイプのNAND型フラッシュメモリが用いられる。MLCは、SLCと比較して、読み出し及び書き込みが低速であり、信頼性が低い。しかしながら、MLCは、SLCと比較して、ビットコストが低く、大容量化に向いている。」(段落【0015】-【0025】。下線は当審で付した。以下同様。)

(2)「【0037】
次に、図2を参照して、本実施形態に係るメモリ管理装置とオペレーティングシステムとについてさらに説明する。図2は、本実施形態に係るメモリ管理装置1及び情報処理装置100の構成の一例を示すブロック図である。図2では、図1のプロセッサ3a,3b,3cのうちプロセッサ3bを代表として説明するが、他のプロセッサ3a,3cについても同様である。
【0038】
オペレーティングシステム27は、プロセッサ3bにより実行される。オペレーティングシステム27は、プロセッサ3bで実行され、情報記憶部17に格納されているカラーリングテーブル14にアクセスする権限を有する。
【0039】
メモリ管理装置1の処理部15は、アドレス管理部18、読み出し管理部19、書き込み管理部20、カラーリング情報管理部21、メモリ使用情報管理部22、再配置部23を備える。さらに、カラーリング情報管理部21は、アクセス頻度算出部24、動的カラー情報管理部25を備える。
【0040】
処理部15は、情報記憶部17に記憶されている情報に基づいて、作業メモリ16を使用しつつ各種処理を実行する。

(…中略…)

【0044】
読み出し管理部19は、プロセッサ3a,3b,3cが読み出し要求を発生した場合に、混成メインメモリ2に対して読み出し対象データの読み出し処理を管理する。
【0045】
書き込み管理部20は、プロセッサ3a,3b,3cが書き込み要求を発生した場合に、混成メインメモリ2に対して書き込み対象データを書き込む処理を管理する。
【0046】
カラーリング情報管理部21は、カラーリングテーブル14を管理する。」(段落【0037】-【0046】)

(3)「【0062】
次に、図5を参照して、本実施形態に係るカラーリングテーブル14について説明する。図5は、本実施形態に係るカラーリングテーブル14の一例を示す図である。
【0063】
本実施形態では、データ毎にカラーリング情報が付与される。カラーリング情報が付与されるデータのデータサイズ単位は、例えば、読み出し、書き込みの最小の単位である。例えば、読み出し、書き込みの最小の単位は、NAND型フラッシュメモリのページサイズである。カラーリングテーブル14は、データ毎にカラーリング情報を対応付け、エントリ単位でカラーリング情報を格納する。カラーリングテーブル14の各エントリには、インデックスが付されている。インデックスとは、論理アドレスを基に生成される値である。メモリ管理装置1の読み出し管理部19、書き込み管理部20、カラーリング情報管理部21、再配置部23などは、データを指定する論理アドレスが与えられると、論理アドレスに対応するインデックスにより管理されているエントリを参照し、データのカラーリング情報を取得する。
【0064】
カラーリング情報は、静的カラー情報と、動的カラー情報とを含む。静的カラー情報は、カラーリング情報が付与される当該データの特性に基づいて生成される情報であり、当該データの混成メインメモリ2上の配置(書き込み)領域を決定するヒントとなる情報である。動的カラー情報は、データの読み出しと書き込みの回数と頻度の少なくとも一方を含む情報である。
【0065】
次に、図6を参照して、静的カラー情報について説明する。図6は、本実施形態に係る静的カラー情報の一例を説明するための図である。
【0066】
静的カラー情報は、当該データの「重要度」、「読み出し頻度、書き込み頻度」、「データ寿命」のうち少なくとも一つの情報を含む。図6において説明する、読み出し頻度は、後述する、静的読み出し頻度に対応し、書き込み頻度は、静的書き込み頻度に対応する。
【0067】
「重要度」とは、データの種類等に基づいて、当該データの重要性を推測して設定される値である。
【0068】
「読み出し頻度、書き込み頻度」とは、データの種類等に基づいて、当該データが読み出し、又は書き込みされる頻度を推測して設定される値である。
【0069】
「データ寿命」とは、データの種類等に基づいて、当該データが消去されずにデータとして使用される期間(データの寿命)を推測して設定される値である。
【0070】
「重要度」、「読み出し頻度、書き込み頻度(読み書き頻度)」、「データ寿命」は、例えば、ファイルシステムに保持されるファイルの特性、又はプログラムに一次的に使用される領域の特性により推測される。
【0071】
ファイルシステムに保持されるファイルの特性とは、カラーリング情報が付与される当該データが含まれるファイルデータのファイルに付加されたデータ属性により判断される特性である。ファイルに付加されたデータ属性には、ファイルのヘッダ情報、ファイル名、ファイルの位置、ファイル管理データ(inoddに保持される情報)等が含まれる。例えば、ファイルの位置としては、ファイルがファイルシステムのゴミ箱に位置している場合には、当該ファイルに含まれるデータの特性は、重要性が低い、読み出しの頻度、書き込みの頻度が低い、データの寿命が短い、と予測できる。この特性に基づき、当該データのカラーリング情報は、書き込み頻度は低、読み出し頻度は低、データの寿命は短、と推測される。」(段落【0062】-【0071】)

(4)「【0076】
次に、図7を参照して、カラーリング情報に基づく、データの書き込み処理の一例を示す。図7は、データ配置の処理の一例を示すフローチャートである。
【0077】
前述のように、本実施形態では、混成メインメモリ2は、揮発性半導体メモリ8、不揮発性半導体メモリ9,10を備える。データを混成メインメモリ2に配置する場合、カラーリング情報に基づいて、揮発性半導体メモリ8、不揮発性半導体メモリ9,10のいずれかのメモリ領域が配置先として決定される。
【0078】
まず、データ(書き込み対象データ)の書き込み要求が発生した場合、書き込み管理部20は、書き込み対象データに付与されているカラーリング情報を参照する(ステップS1)。
【0079】
次に、書き込み管理部20は、カラーリング情報の「データ寿命」を参照し、書き込み対象データのデータ寿命の判断を行う(ステップS2)。
【0080】
書き込み対象データのデータ寿命が短いと判断された場合(ステップS3)には、書き込み管理部20は、書き込み対象データが配置されるメモリ領域として揮発性半導体メモリ8を選択し(ステップS4)、書き込み対象データが配置されるメモリ領域を、揮発性半導体メモリ8に決定する(ステップS12)
書き込み対象データのデータ寿命が長いと判断された場合(ステップS3)には、書き込み管理部20は、書き込み対象データのカラーリング情報の「重要度」を参照し、書き込み対象データの重要度の判断を行う(ステップS5)。
【0081】
書き込み対象データの重要度が高いと判断された場合(ステップS6)には、書き込み管理部20は、書き込み対象データが配置されるメモリ領域として耐久性(信頼性)の高い不揮発性メインメモリ9を選択する(ステップS7)。さらに、書き込み管理部20は、書き込み対象データのカラーリング情報に基づき、書き込み対象データを揮発性半導体メモリ8にキャッシュするか否か(カラーリング情報によるキャッシュ方式)の判断を行い(ステップS8)、書き込み対象データが配置されるメモリ領域を、不揮発性半導体メモリ9に決定する(ステップS12)。
【0082】
書き込み対象データの重要度が低いと判断された場合(ステップS6)には、書き込み管理部20は、書き込み対象データが配置されるメモリ領域として耐久性の低い不揮発性半導体メモリ10を選択する(ステップS9)。さらに、書き込み管理部20は、書き込み対象データのカラーリング情報(動的カラー情報、静的カラー情報)により、書き込み対象データの読み出し頻度、書き込み頻度の判断を行う(ステップS10)。
【0083】
書き込み対象データの読み出し頻度、書き込み頻度が高いと判断された場合(ステップS11)には、書き込み管理部20は、書き込み対象データが配置されるメモリ領域として不揮発性半導体メモリ9を選択する(ステップS7)。さらに、書き込み管理部20は、書き込み対象データのカラーリング情報に基づき、書き込み対象データを揮発性半導体メモリ8にキャッシュするか否か(カラーリング情報によるキャッシュ方式)の判断を行い(ステップS8)、書き込み対象データが配置されるメモリ領域を不揮発性半導体メモリ9に決定する(ステップS12)。
【0084】
書き込み対象データの読み出し頻度、書き込み頻度が低いと判断された場合(ステップS11)には、書き込み管理部20は、書き込み対象データのカラーリング情報に基づき、書き込み対象データを不揮発性メインメモリ8にキャッシュするか否か(カラーリング情報によるキャッシュ方式)の判断を行い(ステップS8)、書き込み対象データが配置されるメモリ領域を不揮発性半導体メモリ10に決定する(ステップS12)。」(段落【0076】-【0084】)

(5)「【0086】
なお、カラーリング情報としては、「重要度」、「読み出し頻度、書き込み頻度」、「データ寿命」のいずれか1つを用いてもよいし、または任意の2つを組み合わせて用いてもよいし、または全てを組み合わせて用いてもよい。さらに、図6で示していない他のカラーリング情報を別途定義して用いることも可能である。」(段落【0086】)

上記(3)によれば、カラーリング情報はデータ毎に付与され、静的カラー情報と動的カラー情報とを含むもので、静的カラー情報は、カラーリング情報が付与される当該データの特性に基づいて生成される情報であり、当該データの混成メインメモリ2上の配置(書き込み)領域を決定するヒントとなる情報であって、静的カラー情報は、当該データの「重要度」、「読み出し頻度、書き込み頻度」、「データ寿命」のうち少なくとも一つの情報を含んでいる。
そして、上記(4)及び引用文献1の図7によれば、書き込み対象データのカラーリング情報である前述の「重要度」、「読み出し頻度、書き込み頻度」、「データ寿命」を参照し、これら3要素の内容によって、書き込み対象データが混成メインメモリ2内の揮発性半導体メモリ8、不揮発性半導体メモリ9及び不揮発性半導体メモリ10のいずれに配置されるかが決定される。
一方、上記(5)によれば、カラーリング情報としては、「重要度」、「読み出し頻度、書き込み頻度」、「データ寿命」のいずれか1つを用いてもよいのであるから、引用文献1には、カラーリング情報として「読み出し頻度、書き込み頻度」のみを使用することも開示されているといえるが、その場合の具体的な書き込み対象データの配置先の決定方法については開示されていない。
しかしながら、書き込み対象データの配置先が、上記(1)の段落【0023】-【0025】に記載された、揮発性半導体メモリ8、不揮発性半導体メモリ9及び不揮発性半導体メモリ10の性質と、書き込み対象データの性質(静的カラー情報)とを考慮して決定されていることに鑑みれば、引用文献1には、少なくとも書き込み対象データをその「読み出し頻度、書き込み頻度」の高低に応じ、揮発性半導体メモリ8、不揮発性半導体メモリ9及び不揮発性半導体メモリ10のうち、いずれか異なるメモリに配置するという技術思想が開示されているものと認められる。

以上を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「メモリ管理装置1と、混成メインメモリ2と、プロセッサ3a,3b,3cとを備える情報処理装置100であって、
プロセッサ3a,3b,3cは、混成メインメモリ2にデータを書き込む場合には、論理アドレスにより書き込み対象データを指定し、混成メインメモリ2からデータを読み出す場合には、論理アドレスにより読み出し対象データを指定し、
メモリ管理装置1は、処理部15を備えるとともに、プロセッサ3a,3b,3cの混成メインメモリ2に対するアクセス(書き込み、読み出し)を管理し、
処理部15は、各種処理を実行するものであって、読み出し管理部19、書き込み管理部20を備え、
読み出し管理部19は、プロセッサ3a,3b,3cが読み出し要求を発生した場合に、混成メインメモリ2に対して読み出し対象データの読み出し処理を管理し、
書き込み管理部20は、プロセッサ3a,3b,3cが書き込み要求を発生した場合に、混成メインメモリ2に対して書き込み対象データを書き込む処理を管理し、
混成メインメモリ2は、揮発性半導体メモリ8、不揮発性半導体メモリ9及び不揮発性半導体メモリ10を備え、
データを混成メインメモリ2に配置する場合、当該データの読み出し頻度、書き込み頻度を含むカラーリング情報に基づいて、揮発性半導体メモリ8、不揮発性半導体メモリ9,10のいずれかのメモリ領域が配置先として決定されるものであり、
書き込み対象データの読み出し頻度、書き込み頻度が高いと判断された場合には、書き込み管理部20は、書き込み対象データが配置されるメモリ領域として揮発性半導体メモリ8、不揮発性半導体メモリ9,10のいずれかを選択し、
書き込み対象データの読み出し頻度、書き込み頻度が低いと判断された場合には、書き込み管理部20は、書き込み対象データが配置されるメモリ領域を、揮発性半導体メモリ8、不揮発性半導体メモリ9,10のうち、前記書き込み対象データの読み出し頻度、書き込み頻度が高いと判断された場合とは異なるメモリに決定するものであり、
ファイルがファイルシステムのゴミ箱に位置している場合には、当該データのカラーリング情報は、書き込み頻度は低と推測する、
情報処理装置100。」

2.その他の文献について
前置報告書において周知技術を示す文献として引用された引用文献2(特開平10-222989号公報)の段落【0086】-【0087】の記載からみて、当該引用文献2には、論理アドレスを、アクセス速度の速いアドレス空間とアクセス速度の遅いアドレス空間とに階層化するという技術的事項が記載されていると認められる。


第5 当審の判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア.引用発明の「混成メインメモリ2」は、本願発明1の「メモリ」に相当する。

イ.引用発明の「処理部15」は、「各種処理を実行するものであ」るから、後述する相違点を除き、本願発明1の「プロセッサ」に相当する。

ウ.引用発明の「プロセッサ3a,3b,3c」は、情報処理装置100の一部を構成し、情報処理装置100は、外部に情報処理を提供するためのものであるから、引用発明の「プロセッサ3a,3b,3c」は、本願発明1の「ホスト」といい得るものである。

エ.引用発明において、「プロセッサ3a,3b,3cは、混成メインメモリ2にデータを書き込む場合には、論理アドレスにより書き込み対象データを指定し、混成メインメモリ2からデータを読み出す場合には、論理アドレスにより読み出し対象データを指定」するものであるから、混成メインメモリ2には、プロセッサ3a,3b,3c用のデータが記憶されているといえ、また、データは論理アドレスに対応して記憶されている。

オ.そして、上記エ.における書き込み、読み出しは、処理部15の構成要素である、「読み出し管理部19」及び「書き込み管理部20」によって実行されているのであるから、上記エ.のデータの記憶は、処理部15によってなされているといえる。

カ.上記エ.及びオ.から、本願発明1と引用発明とは、「(プロセッサが)ホスト用のデータ項目をそれぞれの論理アドレスに記憶」する点で一致するといえる。

キ.引用発明は、「データを混成メインメモリ2に配置する場合、当該データの読み出し頻度、書き込み頻度を含むカラーリング情報に基づいて、揮発性半導体メモリ8、不揮発性半導体メモリ9,10のいずれかのメモリ領域が配置先として決定されるものであり、
書き込み対象データの読み出し頻度、書き込み頻度が高いと判断された場合には、書き込み管理部20は、書き込み対象データが配置されるメモリ領域として揮発性半導体メモリ8、不揮発性半導体メモリ9,10のいずれかを選択し、
書き込み対象データの読み出し頻度、書き込み頻度が低いと判断された場合には、書き込み管理部20は、書き込み対象データが配置されるメモリ領域を、揮発性半導体メモリ8、不揮発性半導体メモリ9,10のうち、前記書き込み対象データの読み出し頻度、書き込み頻度が高いと判断された場合とは異なるメモリに決定するものであ」るから、書き込み対象データのアクセス頻度を評価し、アクセス頻度の高低を識別しているといえる。

ク.上記キ.から、本願発明1の「前記論理アドレスのアクセス頻度を評価することにより、前記論理アドレスの第1のサブセットをアクセス頻度が高い論理アドレスとして、かつ前記論理アドレスの第2のサブセットをアクセス頻度が低い論理アドレスとして識別し、前記アクセス頻度が高い論理アドレスを前記アクセス頻度が低い論理アドレスとは別個に管理し」の構成と引用発明の上記キ.に記載の構成とは、「アクセス頻度を評価することにより、アクセス頻度が高いものと低いものとを識別し」ている点で共通する。

ケ.引用発明の「ファイルがファイルシステムのゴミ箱に位置している場合」とは、ファイルがユーザによって削除された状態であることは明らかであるから、本願発明1の「ユーザによって削除されたものとして前記ホストによって識別されたデータの記憶に用いられる1つ以上の論理アドレスの通知を前記ホストから受信し、前記通知を受信したことに応じて、前記通知内で示された前記論理アドレスを前記アクセス頻度が低い論理アドレスに追加するように構成された」構成と、引用発明の構成とは、「データがユーザによって削除可能である」点で共通する。

コ.引用発明の「メモリ管理装置1」と「混成メインメモリ2」とを、合わせて「ストレージ装置」と称することは任意である。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「ストレージ装置であって、
メモリと、
プロセッサであって、ホスト用のデータ項目をそれぞれの論理アドレスに記憶し、アクセス頻度を評価することにより、アクセス頻度が高いものと低いものとを識別し、データがユーザによって削除可能である、プロセッサと、
を備える、ストレージ装置。」

(相違点1)
一致点の「アクセス頻度を評価することにより、アクセス頻度が高いものと低いものとを識別」する点に関し、本願発明1が「論理アドレスのアクセス頻度を評価することにより、前記論理アドレスの第1のサブセットをアクセス頻度が高い論理アドレスとして、かつ前記論理アドレスの第2のサブセットをアクセス頻度が低い論理アドレスとして識別し、前記アクセス頻度が高い論理アドレスを前記アクセス頻度が低い論理アドレスとは別個に管理」するのに対し、引用発明は、「書き込み対象データ」の読み出し頻度、書き込み頻度を評価しており、本願発明1のように「論理アドレス」のアクセス頻度を評価、識別するものではない点。

(相違点2)
一致点の「データがユーザによって削除可能である」点に関し、本願発明1が「ユーザによって削除されたものとして前記ホストによって識別されたデータの記憶に用いられる1つ以上の論理アドレスの通知を前記ホストから受信し、前記通知を受信したことに応じて、前記通知内で示された前記論理アドレスを前記アクセス頻度が低い論理アドレスに追加するように構成され」るのに対し、引用発明は、当該構成を有しない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点につき検討する。

ア.(相違点1)について
上記「(1)対比」で述べたとおり、本願発明1が「論理アドレス」のアクセス頻度を評価しているのに対し、引用発明は、「書き込み対象データ」のアクセス頻度を評価している点で、技術的思想が異なり、さらに、本願発明1の「アクセス頻度が高い論理アドレスを前記アクセス頻度が低い論理アドレスとは別個に管理する」点に関して、引用発明は何ら特定していない。
また、上記「第4 引用文献、引用発明等」で述べたように、前置報告書において引用された引用文献2には、論理アドレスを、アクセス速度の速いアドレス空間とアクセス速度の遅いアドレス空間とに階層化するという技術的事項が記載されているものの、上記のような相違点1に係る本願発明1の構成は記載されておらず、示唆もされていない。
さらに、相違点1に係る本願発明1の構成が、本願出願前に周知技術であったとも認められない。
したがって、相違点1に係る本願発明1の構成は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

イ.(相違点2)について
上記「(1)対比」で述べたとおり、引用発明は、「ユーザによって削除されたものとして前記ホストによって識別されたデータの記憶に用いられる1つ以上の論理アドレスの通知を前記ホストから受信し、前記通知を受信したことに応じて、前記通知内で示された前記論理アドレスを前記アクセス頻度が低い論理アドレスに追加するように構成され」る点について特定していない。
また、相違点2に係る本願発明1の構成は、上記引用文献2に記載も示唆もされておらず、本願出願前に周知技術であったとも認められない。
したがって、相違点2に係る本願発明1の構成は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

ウ.まとめ
以上のとおり、本願発明1は、当業者であっても引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.請求項2-13について
本願発明7及び8は、いずれも相違点1及び2に係る本願発明1の構成に対応する構成を含んでおり、本願発明2-6及び9-13は、それぞれ本願発明1及び8をさらに限定したものであるから、本願発明1と同様に、当業者であっても引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


第6 原査定について
本願発明1-13は、上記「第5 当審の判断」で述べた相違点1及び2に係る構成又は当該構成に対応する構成を含んでおり、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1に基づいて、容易に発明できたものとは認められない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-05-26 
出願番号 特願2015-545058(P2015-545058)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 篠塚 隆  
特許庁審判長 高瀬 勤
特許庁審判官 山澤 宏
土谷 慎吾
発明の名称 ホストからストレージ装置への削除されたデータの示唆  
代理人 高柳 司郎  
代理人 坂田 恭弘  
代理人 大塚 康弘  
代理人 下山 治  
代理人 永川 行光  
代理人 木村 秀二  
代理人 大塚 康徳  

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