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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G10L |
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管理番号 | 1328351 |
審判番号 | 不服2015-10546 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-06-03 |
確定日 | 2017-05-17 |
事件の表示 | 特願2013-555743「オーディオ信号符号化方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月 6日国際公開、WO2012/163144、平成26年 4月 3日国内公表、特表2014-508327〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2012年3月22日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2011年10月8日 中国(CN))を国際出願日とする出願であって、手続の概要は以下のとおりである。 手続補正 :平成25年 9月 3日 拒絶理由通知 :平成26年 6月24日(起案日) 意見書 :平成26年 9月17日 手続補正 :平成26年 9月17日 拒絶理由通知(最後) :平成26年10月 7日(起案日) 意見書 :平成27年 1月 7日 手続補正 :平成27年 1月 7日 補正却下の決定 :平成27年 1月28日(起案日) 拒絶査定 :平成27年 1月28日(起案日) 拒絶査定不服審判請求 :平成27年 6月 3日 手続補正 :平成27年 6月 3日 拒絶理由通知(当審) :平成28年 4月28日(起案日) 意見書 :平成28年11月10日 手続補正 :平成28年11月10日 2.本願発明 本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成28年11月10日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「 【請求項1】 オーディオ信号符号化方法であって: オーディオ信号を高周波数オーディオ信号および低周波数オーディオ信号に範疇分けする段階と; 低周波数オーディオ信号の特性に応じて選択された低周波数符号化様式を使って低周波数オーディオ信号を符号化する段階であって、前記低周波数符号化様式は時間領域符号化様式または周波数領域符号化様式を含む、段階と; 低周波数オーディオ信号が音声信号であれば、高周波数オーディオ信号について時間領域符号化を実行するために時間領域帯域幅拡張モードを選択し;低周波数オーディオ信号が音楽信号であれば、高周波数オーディオ信号について周波数領域符号化を実行するために周波数領域帯域幅拡張モードを選択する段階を含む、 オーディオ信号符号化方法。」 3.引用例 当審の拒絶理由通知に引用した、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特表2009-541790号公報(2009年11月26日公表、以下「引用例」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。) (1)「【0001】 本発明は、音声信号または音楽信号のようなオーディオ信号を符号化したり復号化する方法及び装置に係り、さらに詳細には、低周波数領域に設けられた信号またはスペクトルを利用し、高周波数領域に設けられた信号を符号化したり復号化する方法及び装置に関する。」 (2)「【0024】 図1Aは、本発明による適応的高周波数領域の符号化装置の一実施例を示すブロック図であって、前記適応的高周波数領域の符号化装置は、第1変換部100、ドメイン選択部105、線形予測部110、長区間予測部115、励起信号符号化部120、第2変換部125、量子化部130、逆量子化部135、第2逆変換部140、保存部145、励起信号復号化部150、励起スペクトル生成部155、高周波数領域の符号化部160及び多重化部165を含んでなる。 【0025】 第1変換部100は、入力端子INを通じて入力された信号を所定の周波数バンド別に時間ドメインで示すように変換する。第1変換部100で変換する方式として、QMF(Quadrature Mirror Filter bank)及びLOT(lapped orthogonal transform)などがある。」 (3)「【0027】 ドメイン選択部105は、第1変換部100で変換された各周波数バンドの信号のうち、既定の周波数より小さな領域に含まれる周波数バンドの信号を、既定の基準によって時間ドメインで符号化するか、周波数ドメインで符号化するかを選択する。また、ドメイン選択部105は、各周波数バンドが符号化されたドメインについての情報を符号化して多重化部165に出力する。 【0028】 ここで、既定の基準の例として、線形予測符号化利得値、隣接したフレームの線形予測フィルター間のスペクトル変化、ピッチ遅延及び長区間予測利得値などがある。」 (4)「【0042】 図1Bは、本発明による適応的高周波数領域の符号化装置に含まれた高周波数領域の符号化部160の一実施例を示すブロック図であって、前記高周波数領域の符号化部160は、ドメイン選択部170、線形予測部175、乗算部180、利得値符号化部185、ノイズ情報符号化部190及び包絡線情報符号化部195を含んでなる。 【0043】 ドメイン選択部170は、既定の周波数より大きい領域に該当する各周波数バンドに備えられた信号を時間ドメインで符号化するか、周波数ドメインで符号化するかを選択する。 【0044】 ドメイン選択部170で符号化するドメインを選択するに当たって、既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドを符号化するのに利用される既定の周波数より小さな領域に該当する周波数バンドが時間ドメインで符号化されたか、周波数ドメインで符号化されたかを基準にドメインを選択しうる。もし、既定の周波数より大きい領域に該当する所定の周波数バンドの符号化に用いられる既定の周波数より小さな領域に該当する所定の周波数バンドが時間ドメインで符号化された場合、該当する既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドは、時間ドメインで符号化すると選択し、もし、既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドの符号化に用いられる既定の周波数より小さな領域に該当する周波数バンドが周波数ドメインで符号化された場合、該当する既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドは、周波数ドメインで符号化すると選択する。」 上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。 (a)引用例には、音声信号または音楽信号のようなオーディオ信号を符号化する方法、特に、低周波数領域に設けられた信号またはスペクトルを利用し、高周波数領域に設けられた信号を符号化する方法が記載されている(摘示事項)(1)。 (b)符号化装置の第1変換部100は、入力端子INを通じて入力された信号を所定の周波数バンド別に時間ドメインで示すように変換する(摘示事項(2))。 (c)符号化装置のドメイン選択部105は、第1変換部100で変換された各周波数バンドの信号のうち、既定の周波数より小さな領域に含まれる周波数バンドの信号を、既定の基準によって時間ドメインで符号化するか、周波数ドメインで符号化するかを選択する。「既定の基準」として、「線形予測符号化利得値、隣接したフレームの線形予測フィルター間のスペクトル変化、ピッチ遅延及び長区間予測利得値」は例示的なものに過ぎない(摘示事項(3))。 (d)符号化装置の高周波数領域の符号化部160のドメイン選択部170は、既定の周波数より大きい領域に該当する各周波数バンドに備えられた信号を時間ドメインで符号化するか、周波数ドメインで符号化するかを選択する。ドメイン選択部170で符号化するドメインを選択するに当たって、既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドを符号化するのに利用される既定の周波数より小さな領域に該当する周波数バンドが時間ドメインで符号化されたか、周波数ドメインで符号化されたかを基準にドメインを選択しうる。もし、既定の周波数より大きい領域に該当する所定の周波数バンドの符号化に用いられる既定の周波数より小さな領域に該当する所定の周波数バンドが時間ドメインで符号化された場合、該当する既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドは、時間ドメインで符号化すると選択し、もし、既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドの符号化に用いられる既定の周波数より小さな領域に該当する周波数バンドが周波数ドメインで符号化された場合、該当する既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドは、周波数ドメインで符号化すると選択する(摘示事項(4))。 「符号化装置」の動作を「符号化方法」の発明として捉えることができることを踏まえて、以上を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「音声信号または音楽信号のようなオーディオ信号を符号化する方法であって、低周波数領域に設けられた信号またはスペクトルを利用し、高周波数領域に設けられた信号を符号化する方法であり、 入力された信号を所定の周波数バンド別に時間ドメインで示すように変換し、 変換された各周波数バンドの信号のうち、既定の周波数より小さな領域に含まれる周波数バンドの信号を、既定の基準によって時間ドメインで符号化するか、周波数ドメインで符号化するかを選択し、 もし、既定の周波数より大きい領域に該当する所定の周波数バンドの符号化に用いられる既定の周波数より小さな領域に該当する所定の周波数バンドが時間ドメインで符号化された場合、該当する既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドは、時間ドメインで符号化すると選択し、もし、既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドの符号化に用いられる既定の周波数より小さな領域に該当する周波数バンドが周波数ドメインで符号化された場合、該当する既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドは、周波数ドメインで符号化すると選択する、 オーディオ信号を符号化する方法。」 4.対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比する。 (1)オーディオ信号符号化方法 本願発明と引用発明とは、「オーディオ信号符号化方法」である点で一致する。 (2)オーディオ信号を高周波数オーディオ信号および低周波数オーディオ信号に範疇分けする段階 引用発明は、「入力された信号を所定の周波数バンド別に時間ドメインで示すように変換」するものであり、「所定の周波数バンド」には、「既定の周波数より大きい領域に該当する所定の周波数バンド」と「既定の周波数より小さな領域に該当する所定の周波数バンド」とがあるから、引用発明の「入力された信号を所定の周波数バンド別に時間ドメインで示すように変換」する動作には、「入力された信号」を「既定の周波数より大きい領域」と「既定の周波数より小さな領域」とに分ける動作が含まれる。 したがって、本願発明と引用発明とは、「オーディオ信号を高周波数オーディオ信号および低周波数オーディオ信号に範疇分けする段階」を含む点で一致する。 (3)低周波数オーディオ信号を符号化する段階 引用発明は、「変換された各周波数バンドの信号のうち、既定の周波数より小さな領域に含まれる周波数バンドの信号を、既定の基準によって時間ドメインで符号化するか、周波数ドメインで符号化するかを選択」するものである。 したがって、本願発明と引用発明とは、「選択された低周波数符号化様式を使って低周波数オーディオ信号を符号化する段階であって、前記低周波数符号化様式は時間領域符号化様式または周波数領域符号化様式を含む、段階」を含む点で一致する。 もっとも、低周波数符号化様式の選択について、本願発明は、「低周波数オーディオ信号の特性に応じて」選択されるのに対し、引用発明は、「既定の基準によって」選択される点で相違する。 (4)帯域幅拡張モードを選択する段階 引用発明は、「低周波数領域に設けられた信号またはスペクトルを利用し、高周波数領域に設けられた信号を符号化する方法」であるから、「該当する既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドは、時間ドメインで符号化すると選択」することは、「高周波数オーディオ信号について時間領域符号化を実行するために時間領域帯域幅拡張モードを選択」することであるといえ、「該当する既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドは、周波数ドメインで符号化すると選択する」ことは、「高周波数オーディオ信号について周波数領域符号化を実行するために周波数領域帯域幅拡張モードを選択する」ことであるといえる。 したがって、本願発明と引用発明とは、「高周波数オーディオ信号について時間領域符号化を実行するために時間領域帯域幅拡張モードを選択し;高周波数オーディオ信号について周波数領域符号化を実行するために周波数領域帯域幅拡張モードを選択する段階を含む」点で一致する。 もっとも、帯域幅拡張モードの選択について、本願発明は、「低周波数オーディオ信号が音声信号」であるか「低周波数オーディオ信号が音楽信号」であるかに応じて選択するのに対し、引用発明は、「既定の周波数より大きい領域に該当する所定の周波数バンドの符号化に用いられる既定の周波数より小さな領域に該当する所定の周波数バンドが時間ドメインで符号化された」か「既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドの符号化に用いられる既定の周波数より小さな領域に該当する周波数バンドが周波数ドメインで符号化された」かに応じて選択する点で相違する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。 <一致点> 「オーディオ信号符号化方法であって: オーディオ信号を高周波数オーディオ信号および低周波数オーディオ信号に範疇分けする段階と; 選択された低周波数符号化様式を使って低周波数オーディオ信号を符号化する段階であって、前記低周波数符号化様式は時間領域符号化様式または周波数領域符号化様式を含む、段階と; 高周波数オーディオ信号について時間領域符号化を実行するために時間領域帯域幅拡張モードを選択し;高周波数オーディオ信号について周波数領域符号化を実行するために周波数領域帯域幅拡張モードを選択する段階を含む、 オーディオ信号符号化方法。」の点。 そして、次の点で相違する。 <相違点> (1)低周波数符号化様式の選択について、本願発明は、「低周波数オーディオ信号の特性に応じて」選択されるのに対し、引用発明は、「既定の基準によって」選択される点。 (2)帯域幅拡張モードの選択について、本願発明は、「低周波数オーディオ信号が音声信号」であるか「低周波数オーディオ信号が音楽信号」であるかに応じて選択するのに対し、引用発明は、「既定の周波数より大きい領域に該当する所定の周波数バンドの符号化に用いられる既定の周波数より小さな領域に該当する所定の周波数バンドが時間ドメインで符号化された」か「既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドの符号化に用いられる既定の周波数より小さな領域に該当する周波数バンドが周波数ドメインで符号化された」かに応じて選択する点。 5.判断 そこで、上記相違点について検討する。 相違点(1)について 符号化様式の選択にあたって、符号化される信号の特性に応じて選択することは、ごく当然のことであるから、引用発明において、「既定の基準」を 「既定の周波数より小さな領域に含まれる周波数バンドの信号」の特性とし、「低周波数オーディオ信号の特性に応じて」低周波数符号化様式が選択されるようにすることは、当業者が容易に想到し得る。 相違点(2)について 本願明細書の【0018】にも、「一般に、音声信号は、時間領域符号化を使って符号化されるときに、よりよい効果が達成される。一方、音楽信号は、周波数領域符号化を使って符号化されるときに、よりよい効果が達成される。」との記載があるように、音声信号は、時間領域符号化を使って符号化し、音楽信号は、周波数領域符号化を使って符号化することは、ごく一般に行われていることである(例えば、国際公開第2010/005254号の[3](訳:特表2011-527762号公報の【0002】)参照)から、引用発明において、「既定の基準」を「既定の周波数より小さな領域に含まれる周波数バンドの信号」が「音声信号」であるか「音楽信号」であるかとして、「既定の周波数より小さな領域に含まれる周波数バンドの信号」が「音声信号」である場合、「既定の周波数より小さな領域に含まれる周波数バンドの信号」を時間ドメインで符号化し、「音楽信号」である場合、周波数ドメインで符号化するようにすることは、当業者が容易に想到し得る。 そして、引用発明においては、「もし、既定の周波数より大きい領域に該当する所定の周波数バンドの符号化に用いられる既定の周波数より小さな領域に該当する所定の周波数バンドが時間ドメインで符号化された場合、該当する既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドは、時間ドメインで符号化すると選択し、もし、既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドの符号化に用いられる既定の周波数より小さな領域に該当する周波数バンドが周波数ドメインで符号化された場合、該当する既定の周波数より大きい領域に該当する周波数バンドは、周波数ドメインで符号化すると選択する」のであるから、「既定の周波数より小さな領域に含まれる周波数バンドの信号」が「音声信号」である場合、「既定の周波数より小さな領域に含まれる周波数バンドの信号」を時間ドメインで符号化し、「音楽信号」である場合、周波数ドメインで符号化するようにすると、「低周波数オーディオ信号が音声信号」であるか「低周波数オーディオ信号が音楽信号」であるかに応じて帯域幅拡張モードを選択したことになる。 したがって、引用発明において、「低周波数オーディオ信号が音声信号」であるか「低周波数オーディオ信号が音楽信号」であるかに応じて帯域幅拡張モードを選択するようにすることは、当業者が容易に想到し得るともいえる。 また、明細書に記載された本願発明が奏する効果についてみても、本願発明の構成のものとして当業者であれば予測し得る程度のものに過ぎず、格別顕著なものがあるとは認められない。 6.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-12-06 |
結審通知日 | 2016-12-13 |
審決日 | 2017-01-04 |
出願番号 | 特願2013-555743(P2013-555743) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G10L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 圭一郎、安田 勇太 |
特許庁審判長 |
井上 信一 |
特許庁審判官 |
関谷 隆一 酒井 朋広 |
発明の名称 | オーディオ信号符号化方法および装置 |
代理人 | 大貫 進介 |
代理人 | 伊東 忠彦 |
代理人 | 伊東 忠重 |