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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03G
審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03G
管理番号 1328365
審判番号 不服2016-5565  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-30 
確定日 2017-05-17 
事件の表示 特願2012-180261「電磁石の現象を基に考案した相互変換の方法、磁石にコイルを巻いた状態にすることのみで電源による入力や磁石やコイルの運動を不要とする電力を取り出す仕組みの基本原理」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月 6日出願公開、特開2014- 25468〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成24年7月30日の出願であって、平成25年7月29日、平成25年9月9日、平成26年1月6日、平成26年1月14日及び平成27年2月23日に手続補正書が提出され、平成27年5月14日付けで拒絶理由が通知され、平成27年7月22日付け(7月23日受付)で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年12月17日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年3月30日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後当審において平成28年10月19日付けで拒絶理由が通知され、平成28年12月20日に意見書(以下、「本件意見書」という。)が提出されるとともに明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正(以下、「本件補正」という。)がされたものである。

第2 当審拒絶理由
平成28年10月19日付けで通知した当審拒絶理由は、以下のようなものである。

「<理由1>
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)請求項1において、「電力を取り出す仕組みの基本原理となる」と記載されているが、明細書を参照しても、何が「基本原理」なのか、明確でない。(意見書において説明されたい。)
なお、一般的には、コイルと磁石を用いて電力を取り出す仕組みの基本原理は、ファラデーの電磁誘導の法則である。

(2)請求項1において、「電磁石の現象を基にした、・・・・電力を取り出す」と記載されているが、「電磁石」とは、コイルに電流を流すことにより磁界を生じるものであるから、「電力を取り出す」ものではない。したがって、上記記載は明確でない。

(3)請求項1において、「磁石にコイルを巻くことのみにより」と記載されているが、これは、「磁石にコイルを巻く」という動作を意味しているのか、「磁石にコイルを巻いたもの」を意味しているのか、明確でない。
なお、磁石にコイルを巻くときには、コイルにする電線の周囲の磁界が変化するから、電力が生じると考えられる。

(4)請求項1において、「磁石とコイルを備え磁石にコイルを巻く」と記載されているが、「磁石とコイルを備え」たものにさらに「コイルを巻く」という意味かどうか、明確でない。

(5)請求項1において、「入力や運動を不要とする」という事項は、何を特定しているのか、明確でない。

(6)請求項1において、「発電方法であり、その発電装置。」と記載されているが、請求項1に係る発明は、「発電方法」という方法の発明か、「発電装置」という物の発明か、発明のカテゴリーが不明である。


<理由2>
本願は、明細書及び特許請求の範囲の記載が、次の点で不備であるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



発明の詳細な説明において開示されているのは、磁石にコイルを取り付けることで発電するものであるが、「電力を取り出す仕組みの基本原理」は記載されておらず、電磁石も設けられていない。
それに対し、請求項1に記載されているものは、「電力を取り出す仕組みの基本原理となる、電磁石の現象を基にした、磁石とコイルを備え磁石にコイルを巻くことのみにより電力を取り出す、入力や運動を不要とする発電方法であり、その発電装置。」というものである。
このため、本願の請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本願は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものである。


<理由3>
本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、次の点で不備であるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



(1)発明の詳細な説明には、「電力を取り出す仕組みの基本原理となる、電磁石の現象を基にした、磁石とコイルを備え磁石にコイルを巻くことのみにより電力を取り出す、入力や運動を不要とする発電方法であり、その発電装置。」は開示されていない。

(2)請求人は、平成27年7月22日付け(7月23日受付)の意見書において、磁石にコイルを巻いたものから、0.001mAの電流が取り出せたと主張しているが、非常に微弱な電流であり、条件を変えても変化しないことから、この電流の値は、電流計の計測誤差であるか、コイルと他の磁界(例えば、電流計の磁界)との相互作用によるものであるか、電流計の電池による電流である可能性がある。
対比のために、磁石のないコイル又は直線状の電線を用いた場合等についても計測されたい。

(3)また、仮に、上記(2)の電流が誤差等によるものではないとしても、0.001mAという微弱な電流をどのようにして利用するのか、不明である。
そのような微弱な電流をどのようにして利用するのか、意見書において説明されたい。


<理由4>
この出願の請求項1に記載されたものは、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。



請求項1に係る発明は、入力や運動を必要とせずに電力を取り出す発電方法(又は発電装置)であるから、エネルギー保存の法則に反するものである。
また、磁束が変動しないときに導体に電位差が生じるというものであるから、ファラデーの電磁誘導の法則に反するものである。
したがって、請求項1に係る発明は、自然法則を利用するものではないから、特許法上の発明に該当しない。


<理由5>
本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:特開2011-188582号公報
引用文献2:特開2009-225650号公報
引用文献3:特開2010-115076号公報

〔備考〕
・引用文献1(例えば段落【0001】の「ともに静止状態の永久磁石とコイルより、コイルの両端から起電力を得るという電磁現象の原理的事象を得る方法に関するものである。」という記載及び図面を参照。)には、永久磁石にコイルを巻くことにより電力を取り出す発電方法及び装置が記載されている。
本願の請求項1に係る発明は、複数の磁石を用いるものを除外していないから、引用文献1の実施例に記載されたものと格別相違しない。

・引用文献2には、磁石とコイルを配置し、振動の力で発電する装置が記載されている。

・引用文献3には、磁石の回りにコイルを配置し、発電を行う装置が記載されている。この装置が静止しているときには、本願の請求項1に係る発電装置と同じものである。」


第3 本件補正
本件補正(平成28年12月20日付け手続補正書による補正)は、明細書及び特許請求の範囲についてそれぞれ、以下のように補正するものである。

1.特許請求の範囲の補正
特許請求の範囲の請求項1を以下のように補正するものである。
「【請求項1】
電力を取り出す仕組みの基本原理となる、電磁石の現象を基に考案した相互変換の方法。磁石にコイルを巻いた状態にすることのみにより電力を取り出す、電源による入力や磁石やコイルの運動を不要とする発電方法。」
(下線は、請求人が付したものである。)
以下、上記請求項1に係る発明を、「本願発明」という。

2.明細書の補正
明細書における発明の名称並びに段落【0003】ないし【0005】及び【0007】を、それぞれ以下の(ア)ないし(ウ)のように補正するものである。

(ア)発明の名称
「【発明の名称】電磁石の現象を基に考案した相互変換の方法、磁石にコイルを巻いた状態にすることのみで電源による入力や磁石やコイルの運動を不要とする電力を取り出す仕組みの基本原理」

(イ)段落【0003】ないし【0005】
「 【0003】
解決しようとする問題点は、現在考案されている電力を取り出す仕組みにおける「何らかの起動エネルギーを必要とすること」や「仕組み・装置における何らかの運動を必要とすること」無しにエネルギーを取り出すことを可能とする点である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本件は、電力を取り出す仕組みの基本原理(技術)として磁石にコイルを巻いた状態にすることにより電源による入力・磁石やコイルの運動なしに電気が発生することを考案したもの。
電磁石の現象は、コイルを金属(鉄釘など)に巻き、電流を流すことでコイルは磁気エネルギーを蓄えそれが金属(鉄釘など)に伝わることにより磁石の働きをすることから、金属(鉄釘など)を磁石に置き換えることで、磁石の磁気をコイルが磁気エネルギーとして蓄え、相互変換として電力が取り出せることを考案した。この電磁石の現象を基に考案した相互変換の方法が基本原理である。
そのことにより起動エネルギーや仕組み・装置の中で何らかの運動をさせることを必要とせずに静止した状態でエネルギーを取り出すことを最も主要な特徴とする。
【0005】
技術面では、既存及び将来発展したエネルギー技術(バッテリーやエネルギー増幅技術等々)や資源活用技術(相互変換に適した磁石やコイルの形状・性質の開発等々)との組み合わせなどによる様々な応用・活用が期待できる。」

(ウ)段落【0007】
「【0007】
磁石にコイルを取り付けることで発電することを考案した。」
(下線は、請求人が付したものである。)

第4 本件意見書
本件意見書の内容は以下のとおりである。
「【意見の内容】
<はじめに>
後述しますが、<理由3>(2)のご指摘のとおりであり、平成27年7月22日付け意見書における計測値につきまして、電流は高精度計測器に起こり得る誤差の範疇であること及び電圧はV単位ではなくmV単位での計測が適正であることを確認しました。訂正しお詫びいたします。
また、公的研究機関における高精度計測器での計測においても誤差を含むため実際の値が把握できないものの、現在の一般的電子機器や装置には利用不可能な電力でした。(公的研究機関における高精度計測器での計測結果:電圧0.00876?0.00900mV、電流0.035?0.103nA、抵抗0.2Ω、アジレント・テクノロジー社・型番3458A)
現状において利用可能性があるとすれば、またそれを確認する方法があるとすれば、フェムトアンペアやナノボルトを扱うアプリケーション分野と考えられるということに至った状況です。
したがいまして、本件はご指摘事項について記述することは意味をなさない可能性があるものですが、記述させていただきます。
拒絶理由通知書(発送日平成28年10月25日)に記載された項目及び番号を表示のうえ、意見を記述いたします。
<理由1>
(1)基本原理とは、電磁石の現象から着想を得ました相互変換です。電磁石の現象は、コイルを鉄に巻き、電流を流すことでコイルは磁気エネルギーを蓄えそれが鉄に伝わることにより磁石の働きをします。そこで、鉄を磁石に置き換えることで、磁石の磁気をコイルが磁気エネルギーとして蓄え、相互変換として電力が取り出せると考えました。この電磁石の現象を基に考案した相互変換の方法が基本原理となります。
(2)上記(1)のとおり、本件における電磁石の現象の位置付けとは、相互変換の着想を得ました自然現象であり、ご指摘のとおり「電磁石の現象を基にした、・・・」という表現では明確ではありませんので、手続補正書により適切な表現(「電磁石の現象を基に考案した・・・」)に補正いたします。
(3)「磁石にコイルを巻いたもの」を意味していますので、手続補正書により適切な表現に補正いたします。
(4)「磁石とコイルを備え磁石にコイルを巻く」とは、磁石とコイルを必要な物として準備し、それらを用いて磁石にコイルを巻いた状態にするという意味です。したがいまして、手続補正書によりそのような表現に補正いたします。
(5)「入力や運動を不要とする」という事項について、「入力」とは、電池等といった電源により発電装置を起動する入力であり、「運動」とは、電磁誘導を起こす磁石やコイルの運動を意味したものでした。それぞれの内容を特定した表現に手続補正書により補正いたします。
(6)「発電方法であり、その発電装置。」という記載は、両方を意味したものでしたが、今回のご指摘(<理由3>(2))を受け再計測した結果、これまで当方が認識していた以上に本件から得られる電力が微弱であることが判明したことから「発電方法」に手続補正書により訂正いたします。
<理由2>
電磁石の現象は、相互変換の着想を得ました現象であるということが明確になるよう手続補正書により補正いたします。
<理由3>
(1)明細書における「電磁石の原理(金属(鉄釘など)+コイル+電気により磁力が発生すること)を基に、磁力が発生している状態(磁石)+コイルから電気を取り出すことが可能ではというような仮説から発見」が該当します。「前者については、・・・」という記述を省略した理由は、前者と後者の内容が重複すること及び明細書全体から意図するところをご理解いただけると考えたことによるものです。
(2)平成27年7月22日付け意見書において記述しました電流の値0.001mAは、磁石のないコイル及び直線状の電線を用いても同様の計測値0.001mAであることを確認しました。したがいまして、ご指摘のとおり、「電流計の計測誤差であるか、コイルと他の磁界(例えば電流計の磁界)との相互作用によるものであるか、電流計の電池による電流である可能性がある」と考えられるものでした。さらに、単位をμAとして計測した結果、計測器の最小値である0.01μAであり、上記と同様に電線のみでも0.01μAであり、ご指摘のとおりであると考えられることが確認できました。そして、ご指摘をきっかけにmV単位による再計測の結果、0.01mV(計測器の最小値、磁石は直径2cm×20cmの円柱形のネオジム磁石、コイルは直径1.2mmのホルマル線、本書の計測はすべてこちらを使用。)でした。
(3)微弱な電流の利用例としまして、インターネットで「微弱電流利用」で検索して確認できる情報としてマイクロアンペア単位による微弱電流治療があり、「ナノアンペア利用」で検索して確認できる情報として、「ナノアンペアで動作する超低消費電力マイコンEFM32」(URL:https://store.macnica.co.jp/library/107609)等があります。また、アプリケーションの分野ではフェムトアンペアを扱っています。(「アプリケーション フェムトアンペア fA nV」で検索。リニアテクノロジー社のオペアンプ、URL:http://www.digikey.jp/ja/product-highlight/l/linear-tech/ltc6268-and-ltc6269-femtoamp-bias-current-op-amps)
<理由4>
<理由1>(5)の記述のとおり、請求項1における「入力」は電源による入力であり、「運動」は磁石やコイルの運動です。
そして、本件における実際の「入力」は、明細書及び平成27年7月22日付け意見書においては、磁力と記載しているものが相当します。磁力という表現につきましては、コイルが磁気エネルギーを蓄えることから「磁気」が適当であると現在は考えております。
<理由5>
(仮に本件の相互変換が起こることが事実である場合、)本件は取りも直さずファラデーの電磁誘導の法則における静止状態であり、電磁誘導による引用文献1、2、3との相違は明らかであると考えます。引用文献3の静止状態につきましては、一般的電子機器に対する発電方法ですので、静止状態では一般的電子機器に対して有効な電力は発生していないことになります。
<むすび>
検証期間をいただき、アプリケーションでの利用可能性の確認をさせていただきたいと考えております。」

第5 当審の判断
そこで、本件補正により補正された明細書及び特許請求の範囲の記載に基づいて、当審拒絶理由通知で通知した拒絶の理由が解消しているかどうかについて以下に判断する。

1.当審拒絶理由の<理由3>(特許法第36条第4項第1号)について
平成28年12月20日付け手続補正書により補正された明細書の内容は、以下のようになっている。

「 【発明の名称】電磁石の現象を基に考案した相互変換の方法、磁石にコイルを巻いた状態にすることのみで電源による入力や磁石やコイルの運動を不要とする電力を取り出す仕組みの基本原理
【技術分野】
【0001】
本件は、磁石にコイルを巻いた状態にすることのみで電力を取り出す仕組みの基本原理に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力を取り出す仕組みについては、何らかの運動を伴うもの等々や、起動エネルギーを蓄積しつつそれ以上のエネルギーを発生させて循環させるモデルが考案されている。ただし、何らかの運動や起動エネルギーを必要としない仕組み・装置は未だ存在しないのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
解決しようとする問題点は、現在考案されている電力を取り出す仕組みにおける「何らかの起動エネルギーを必要とすること」や「仕組み・装置における何らかの運動を必要とすること」無しにエネルギーを取り出すことを可能とする点である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本件は、電力を取り出す仕組みの基本原理(技術)として磁石にコイルを巻いた状態にすることにより電源による入力・磁石やコイルの運動なしに電気が発生することを考案したもの。
電磁石の現象は、コイルを金属(鉄釘など)に巻き、電流を流すことでコイルは磁気エネルギーを蓄えそれが金属(鉄釘など)に伝わることにより磁石の働きをすることから、金属(鉄釘など)を磁石に置き換えることで、磁石の磁気をコイルが磁気エネルギーとして蓄え、相互変換として電力が取り出せることを考案した。この電磁石の現象を基に考案した相互変換の方法が基本原理である。
そのことにより起動エネルギーや仕組み・装置の中で何らかの運動をさせることを必要とせずに静止した状態でエネルギーを取り出すことを最も主要な特徴とする。
【0005】
技術面では、既存及び将来発展したエネルギー技術(バッテリーやエネルギー増幅技術等々)や資源活用技術(相互変換に適した磁石やコイルの形状・性質の開発等々)との組み合わせなどによる様々な応用・活用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】図1は実施方法を例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
磁石にコイルを取り付けることで発電することを考案した。」

(2)判断
平成28年12月20日提出の手続補正書により補正された本件出願の明細書には、【発明を実施するための形態】として、「磁石にコイルを取り付けることで発電することを考案した。」(段落【0007】)とのみ記載されており、図1を参照すると、棒磁石にコイルが巻かれている様子が描かれている。
しかしながら、本件出願の明細書には、このような方法により実際に発電ができたかどうかについては記載されていない。
この点につき、請求人は、平成27年7月22日付け(7月23日受付)の意見書において、磁石にコイルを巻くことにより、0.001mAの電流が流れたことを示した。
ところが、当審において、平成28年10月19日付け拒絶理由通知において、上記のように、
「請求人は、平成27年7月22日付け(7月23日受付)の意見書において、磁石にコイルを巻いたものから、0.001mAの電流が取り出せたと主張しているが、非常に微弱な電流であり、条件を変えても変化しないことから、この電流の値は、電流計の計測誤差であるか、コイルと他の磁界(例えば、電流計の磁界)との相互作用によるものであるか、電流計の電池による電流である可能性がある。
対比のために、磁石のないコイル又は直線状の電線を用いた場合等についても計測されたい。」(<理由3>(2))
と指摘したところ、請求人は、平成28年12月20日付け意見書において、
「平成27年7月22日付け意見書において記述しました電流の値0.001mAは、磁石のないコイル及び直線状の電線を用いても同様の計測値0.001mAであることを確認しました。したがいまして、ご指摘のとおり、「電流計の計測誤差であるか、コイルと他の磁界(例えば電流計の磁界)との相互作用によるものであるか、電流計の電池による電流である可能性がある」と考えられるものでした。さらに、単位をμAとして計測した結果、計測器の最小値である0.01μAであり、上記と同様に電線のみでも0.01μAであり、ご指摘のとおりであると考えられることが確認できました。」(<理由3>(2))と回答した。
したがって、磁石にコイルを巻いた状態にすることのみにより得られる電力は、計測誤差程度の電力であって、しかも、磁石のないコイル及び直線状の電線を用いた場合についても同様の計測値を示すことから、本願の明細書に記載された方法によって、実際に発電することができたとは確認できなかった。
よって、本願の明細書の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

2.当審拒絶理由の<理由4>(特許法第29条柱書)について
本願発明は、磁石にコイルを巻いた状態にすることのみにより電力を取り出す、電源による入力や磁石やコイルの運動を不要とする発電方法である。
すなわち、本願発明は、磁石にコイルを巻いた状態にすることのみにより電力を取り出し続けるものである。
そうすると、本願発明は、エネルギー保存の法則に反するものである。
また、磁束が変動しないときに導体に電位差が生じるというものであるから、ファラデーの電磁誘導の法則に反するものである。
したがって、本願発明は、自然法則を利用するものではないから、特許法第2条で定義される発明に該当しない。
よって、本願発明は、特許法第29条第1項柱書に規定される要件を満たしていないから、特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本件意見書等における主張、及び技術常識を参酌しても、本件出願の明細書、特許請求の範囲及び図面は、本願発明について、当業者が実施ができる程度に明確に記載されているものとはいえないので、本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、請求項1に記載されたものは、自然法則に反するものであるから、特許法第29条第1項柱書でいう発明に該当しない。
したがって、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-01 
結審通知日 2017-03-07 
審決日 2017-03-22 
出願番号 特願2012-180261(P2012-180261)
審決分類 P 1 8・ 1- WZ (F03G)
P 1 8・ 536- WZ (F03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仲村 靖森藤 淳志  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 槙原 進
金澤 俊郎
発明の名称 電磁石の現象を基に考案した相互変換の方法、磁石にコイルを巻いた状態にすることのみで電源による入力や磁石やコイルの運動を不要とする電力を取り出す仕組みの基本原理  

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