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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01L
管理番号 1328444
審判番号 不服2016-6549  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-02 
確定日 2017-05-18 
事件の表示 特願2014-551118「ピエゾ抵抗型MEMSセンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月12日国際公開、WO2014/088020〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・拒絶理由の概要

特許出願: 平成25年12月4日
(優先権主張平成24年12月6日を伴う国際出願)
拒絶理由通知: 平成27年9月25日(発送日:同年同月29日)
拒絶査定: 平成28年2月8日(送達日:同年同月16日)
拒絶査定不服審判の請求: 平成28年5月2日
手続補正: 平成28年5月2日 (以下、「本件補正」という。)
拒絶理由通知: 平成28年7月11日
(以下、「拒絶理由2」という。発送日:同年同月19日)

そして、拒絶理由2の概要は、本願の請求項1ないし5に係る発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2010-71850号公報(発明の名称:加速度センサ素子、加速度センサ装置及び加速度センサ素子の製造方法、出願人:京セラ株式会社、公開日:平成22年4月2日、以下、「引用例1」という。)に記載された発明などに基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、本件補正によって補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項3に係る発明は次のとおりである。

「厚み1μm以上のSiで構成され、検出量に応じて変位する変位部を備え、前記変位部の内部に不純物の拡散によるピエゾ抵抗素子が形成されたピエゾ抵抗型MEMSセンサにおいて、
表面Si膜とSiO2層とSi基板とからなるSOI基板を含んで構成されており、
前記変位部は、前記SOI基板における前記表面Si膜側の表面である第1面を有し、
前記ピエゾ抵抗素子は前記第1面から0.5μmより深く、前記変位部の厚み寸法の1/2の深さより浅い位置に不純物濃度のピークがあることを特徴とするピエゾ抵抗型MEMSセンサ。」(以下「本願発明」という。)


第3 引用例記載の事項・引用発明
1 引用例1には、次の事項(a)ないし(c)が図面とともに記載されている。(下線は当審による。以下同様。)

(a)
「【0001】
本発明は、加速度センサ素子、加速度センサ装置及び加速度センサ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピエゾ抵抗効果を利用して加速度を検出する加速度センサ装置が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1の加速度センサ装置は、重り部と、重り部を支持する梁部と、梁部を支持する固定部と、梁部に設けられたピエゾ抵抗素子とを有している。加速度センサ装置に加速度に比例した外力が加えられると、重り部が固定部に対して変位するとともに梁部に曲げ変形が生じる。そして、梁部とともに曲げ変形が生じたピエゾ抵抗素子の抵抗値の変化を検出することにより、加速度が検出される。」

(b)
「【0022】
孔部7は例えば、円柱状に形成されておりその開口部7aの直径φおよび深さdは主として接着剤8との関係を考慮して設定される。具体的には、接着剤8を基板1の主面1A(図3)に塗布した際の接着用部材の塗布面(基板1との接触面)の面積を予め測定しておき、その面積よりも小さくなるように開口部7aの直径φが設定される。一方、孔部7の深さdは、基板1の主面1Aに塗布した際の接着剤8の高さを予め測定しておき、その高さよりも大きくなるように設定される。また、接着剤8にスペーサ部材17(図3(b))が含有されている場合には開口部7aの直径φを、スペーサ部材17の直径サイズより5倍以上大きくすることが好ましい。これにより余分な接着剤8が孔部7に入りやすくなる。さらにセンサ素子20をウエハ状態から個片に切り出すときの耐衝撃性を考慮すると開口部7aの淵(孔部7の内壁面)から固定部13の外周面までの距離は100μm以上にしておくことが好ましい。またセンサ素子20をSOI基板により作製する場合には、固定部13の厚みtから孔部7の深さdを引いた差の値をSOI基板27の半導体層25(図6)の厚みと同じ、または、半導体層25及び絶縁層24(図6)の厚みと同じにする方がよい。これにより孔をあけるプロセスが増えず、固定部13が壊れにくくなる。
【0023】
なお、孔部7の形状は円柱状に限らず、例えば四角柱や三角柱など任意の形状が可能である。
【0024】
このような固定部13と重り部11との間には図4に示すように梁部12が設けられている。梁部12は、一方端が重り部11の各辺の上面側中央部に連結され、他方端が固定部13の内周における各辺の上面側中央部に連結されており、本実施形態におけるセンサ素子20では、4本の梁部12が設けられている。
【0025】
梁部12は可撓性を有し、センサ素子20に加速度が加わると重り部11が動き、重り部11の動きに伴って梁部12が撓むようになっている。梁部12は、例えば長手方向の長さが0.1mm?0.8mmに設定され、幅(長手方向と直交する方向の長さ)が0.01mm?0.2mmに設定され、厚みが5μm?20μmに設定されている。このように梁部12を細長く且つ薄く形成することによって可撓性が発現される。」

(c)
「【0033】
<センサ素子の製造方法>
図6は、センサ素子20の製造方法を説明する断面図である。
【0034】
(工程A;抵抗素子15の形成)
図6(a)に示すように、SOI基板27に対して表面加工を行う。SOI基板27は、絶縁層24と、絶縁層24の一方側に積層された半導体層25と、絶縁層24の他方側に積層された支持層26とを有するものである。絶縁層24は、例えばSiO2により形成されている。半導体層25は、例えばシリコンにより形成されている。支持層26は、例えば、シリコン等の半導体により形成されている。表面加工は、半導体層25に対する加工である。
【0035】
具体的には、半導体層25にイオン注入法により不純物を注入することでピエゾ抵抗からなる抵抗素子15を形成する。不純物としては、n型のSOI基板を用いた場合にはB(ボロン)が例示でき、p型のSOI基板を用いた場合にはP(リン)、As(ヒ素)などが例示できる。抵抗素子15を形成した後、ピエゾ抵抗素子に連結する配線を形成する。配線は、金属スパッター、CVD、蒸着などによりアルミなどの金属材料を成膜した後、成膜した金属材料をドライエッチング、ウェットエッチングなどによりパターニングすることにより形成される。
【0036】
(工程B;重り部11、梁部12及び固定部13の形成)
次に、図6(b)に示すように、従来周知の半導体微細加工技術、例えばフォトリソグラフィ法や誘導結合型プラズマ反応性イオンエッチング(Inductively Coupled Plasma Reactive Ion Etching:ICP-RIE)などによりSOI基板27の半導体層25側と支持層26側から加工を施すことにより、重り部11、梁部12及び固定部13を形成する。
【0037】
具体的には、まず、重り部11と固定部13とを区切る溝部に対応する領域において半導体層25を除去する。次に、上記の溝部及び凹部11aに対応する領域において支持層26を除去する。さらに、上記の溝部に対応する領域において絶縁層24を除去する。以上のようにして、半導体層25、絶縁層24及び支持層26を貫通する溝部が形成され、当該溝部によりSOI基板27が内周側と外周側とに区切られ、重り部11と固定部13とが形成される。また、溝部の間欠部分(溝部が途切れる部分)における半導体層25により梁部12が形成される。さらに、底面が絶縁層24により構成され、内周面が支持層26により構成される凹部11aが形成される。」

上記記載(a)ないし(c)、及び図面の第4?6図の記載から、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。

「シリコンにより形成されている半導体層25により形成される、厚みが5μm?20μmに設定されている梁部12であって、可撓性を有し、センサ素子20に加速度が加わると重り部11が動き、重り部11の動きに伴って梁部12が撓むようになっている、梁部12が形成されており、半導体層25にイオン注入法により不純物を注入することでピエゾ抵抗からなる抵抗素子15が形成され、半導体微細加工技術によりSOI基板27の半導体層25側と支持層26側から加工を施すことにより、重り部11、梁部12及び固定部13を形成する、センサ素子20であって、
SiO2により形成されている絶縁層24と、シリコンにより形成されている半導体層25と、シリコン等の半導体により形成されている支持層26とを有するSOI基板により作製されている、センサ素子20。」(以下「引用発明1」という。)

2 拒絶理由2において引用文献3として示された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平7-131035号公報(以下、「引用例3」という。)には、「ピエゾ抵抗素子の製造方法」(発明の名称)に関し、次の事項(a)ないし(b)が図面とともに記載されている。

(a)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば圧力センサやフローセンサなどの力学量センサに利用されるピエゾ抵抗素子を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ピエゾ抵抗素子を作製する方法としては、・・・基板(例えばシリコン単結晶基板)に、拡散法あるいはイオン注入法によって不純物を添加することによって、図10(a) に示すように、基板21の表面に抵抗層22を形成する方法、・・・が知られている・・・
【0003】
【発明が解決しようとする課題】・・・抵抗層22が基板表面に位置するため、外部電界の影響(表面電界効果)を受け、抵抗値が変動するという問題がある。」

(b)
「【0009】
【実施例】本発明の実施例を、以下、図面に基づいて説明する。図1は本発明方法の実施例の手順を説明する図である。

・・・

【0013】ここで、以上の(a) ?(g) 工程により作製したデバイスのキャリア濃度分布を測定したところ、図2に示すように、基板表面層の導電型(n型)は残したままの状態(低濃度)で、その表面から深さ約 1.8μmの位置をピークとする高濃度の抵抗層(p型)が得られることが確認できた。」

上記記載(a)ないし(b)、及び図面の第1?2図の記載から、引用例3には、次の発明が記載されていると認められる。

「拡散法あるいはイオン注入法によって不純物を添加することによって、基板21の表面に抵抗層22を形成する、ピエゾ抵抗素子を製造する方法において、
抵抗層22が基板表面に位置するため、外部電界の影響(表面電界効果)を受け、抵抗値が変動するという問題に対し、
表面から深さ約 1.8μmの位置をピークとする高濃度の抵抗層(p型)が得られるようにした、ピエゾ抵抗素子を製造する方法。」(以下「引用発明2」という。)


第4 対比
本願発明と引用発明1とを、主たる構成要件毎に、順次対比する。
まず、引用発明1における「シリコンにより形成されている半導体層25により形成される、厚みが5μm?20μmに設定されている梁部12であって、可撓性を有し、センサ素子20に加速度が加わると重り部11が動き、重り部11の動きに伴って梁部12が撓むようになっている、梁部12」は、本願発明における「厚み1μm以上のSiで構成され、検出量に応じて変位する変位部」に相当する。
次に、引用発明1においては、「梁部12」が「半導体層25」により形成され、その「半導体層25」に「イオン注入法により不純物を注入することでピエゾ抵抗からなる抵抗素子15が形成され」ているのであるから、「梁部12」の内部に「不純物を注入すること」による「ピエゾ抵抗からなる抵抗素子15が形成され」ており、これは本願発明において「前記変位部の内部に不純物の拡散によるピエゾ抵抗素子が形成された」ことに相当する。また、引用発明1の「センサ素子20」は、「半導体微細加工技術によりSOI基板27の半導体層25側と支持層26側から加工を施すことにより、重り部11、梁部12及び固定部13を形成する」ものであるから、いわゆるMEMSセンサに該当する。したがって、引用発明1における「半導体層25にイオン注入法により不純物を注入することでピエゾ抵抗からなる抵抗素子15が形成され、半導体微細加工技術によりSOI基板27の半導体層25側と支持層26側から加工を施すことにより、重り部11、梁部12及び固定部13を形成する、センサ素子20」は、本願発明における「前記変位部の内部に不純物の拡散によるピエゾ抵抗素子が形成されたピエゾ抵抗型MEMSセンサ」に相当する。
さらに、引用発明1における「SiO2により形成されている絶縁層24と、シリコンにより形成されている半導体層25と、シリコン等の半導体により形成されている支持層26とを有するSOI基板」は、本願発明における「表面Si膜とSiO2層とSi基板とからなるSOI基板」に相当する。
また、引用発明1の「梁部12」(本願発明の「変位部」に相当。)は、「半導体層25」(本願発明の「SOI基板における」「表面Si膜」に相当。)により形成されているものであるから、「半導体層25」側の表面である第1面を有していることは明らかであり、これは本願発明において「前記変位部は、前記SOI基板における前記表面Si膜側の表面である第1面を有し」ていることに相当するといえる。

してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「厚み1μm以上のSiで構成され、検出量に応じて変位する変位部を備え、前記変位部の内部に不純物の拡散によるピエゾ抵抗素子が形成されたピエゾ抵抗型MEMSセンサにおいて、
表面Si膜とSiO2層とSi基板とからなるSOI基板を含んで構成されており、
前記変位部は、前記SOI基板における前記表面Si膜側の表面である第1面を有する、
ピエゾ抵抗型MEMSセンサ。」

(相違点)
本願発明においては「前記ピエゾ抵抗素子は前記第1面から0.5μmより深く、前記変位部の厚み寸法の1/2の深さより浅い位置に不純物濃度のピークがあることを特徴とする」とされているのに対し、引用発明においてはそのような特定は無い点。


第5 判断
上記相違点について検討する。
引用発明2は、「イオン注入法によって不純物を添加することによって、基板21の表面に抵抗層22を形成する、ピエゾ抵抗素子を製造する方法」であるから、引用発明1のセンサ素子の製造方法と同様なものといえる。
そして、引用発明2は、そのように製造されたピエゾ抵抗素子において、抵抗層が基板表面に位置すると外部電界の影響(表面電界効果)を受け、抵抗値が変動するということを課題とし、その対策として「表面から深さ約 1.8μmの位置をピークとする高濃度の抵抗層(p型)が得られるようにした」ものである。
ここで、上記課題が同様な製造方法により製造される引用発明1のセンサ素子においても共通して存在することは明らかであり、その課題を解消するために引用発明2を採用することは、当業者が容易になし得たものである。
また、引用発明2を採用する場合、その課題が外部電界の影響(表面電界効果)に対応するものであることを考慮すれば、表面からの深さ約 1.8μmという値は、抵抗層を形成する梁部(基板)の厚みによらず確保される必要がある深さの値であることは明らかである。
そうすると、「厚みが5μm?20μmに設定されている梁部12」を有する引用発明1に対して引用発明2のピエゾ抵抗素子を製造する方法を適用することにより得られる構成は、表面からの深さが0.5μmより深い、約 1.8μmの位置をピークとする高濃度の抵抗層(p型)であって、該深さは梁部12の厚みの1/2である2.5μm?10μmより浅い位置となり、これは本願発明の上記相違点に係る構成に相当するものである。
したがって、本願発明は引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明し得たものである。


第6 むすび
本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-15 
結審通知日 2017-03-21 
審決日 2017-04-03 
出願番号 特願2014-551118(P2014-551118)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森口 知佳大森 努公文代 康祐  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 中塚 直樹
須原 宏光
発明の名称 ピエゾ抵抗型MEMSセンサ  
代理人 特許業務法人 楓国際特許事務所  

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