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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E05D
審判 全部無効 1項2号公然実施  E05D
審判 全部無効 1項1号公知  E05D
管理番号 1328529
審判番号 無効2016-800029  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-02-29 
確定日 2017-05-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第5198599号発明「大扉システムの生産方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第5198599号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明の特許を無効とすることを求める事件であって、手続の経緯は、以下のとおりである。

平成23年 2月28日 本件出願(特願2011-41249号)
平成25年 2月15日 設定登録(特許第5198599号)
平成28年 2月29日 本件無効審判請求
平成28年 5月20日 被請求人より答弁書提出
平成28年 6月17日 請求人に対する審尋(起案日)
平成28年 7月21日 請求人より審尋に対する回答書提出
平成28年 9月 9日 請求人より証人尋問申出
平成28年10月19日 請求人より証人尋問申出
平成28年11月 1日 審理事項通知書(起案日)
平成28年11月24日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成28年12月22日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成29年 1月10日 請求人より上申書提出
平成29年 1月13日 請求人より上申書提出
平成29年 1月25日 口頭審理、証拠調べ(証人尋問)
平成29年 2月 8日 被請求人より上申書提出
平成29年 2月21日 請求人より上申書提出

第2 本件発明
1 本件発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件発明1」などといい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(分説AないしGは、請求人の主張に沿って審決で付した。)。

「【請求項1】
A 建物開口部に設けられ、台車が扉本体全体を単体で支持するように構成される大扉システムの生産方法であって、
B 単体の台車と該台車以外の各パーツとを前記建物のある所定場所に搬送する搬送工程と、
C 前記搬送された単体の台車を、前記建物開口部の下レール上に搭載する台車設置工程と、
D 前記搬送された各パーツから扉本体を、この単体の台車上に合わしてボルトを入れることにより組み立てる扉本体組立工程とを備えたことを特徴とする大扉システムの生産方法。
【請求項2】
E 前記台車設置工程では、前記単体の台車は、前記建物開口部の下レール周りの地上から仮支持可能であることを特徴とする請求項1記載の大扉システムの生産方法。
【請求項3】
F 前記扉本体組立工程では、前記扉本体は、前記建物開口部の上レールと前記単体の台車との間に枠組み可能であることを特徴とする請求項1又は2記載の大扉システムの生産方法。
【請求項4】
G 前記扉本体の枠組みは補強可能であることを特徴とする請求項3記載の大扉システムの生産方法。」

2 本件特許の明細書の記載事項
本件特許の明細書には、以下のとおり記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、大扉システムの生産方法に関するものであって、例えば造船所の作業棟や航空機の格納庫などの建物の開口部に使用される大型扉に好適である。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1では、建物の開口部に使用される鋼製の大扉であって、その扉本体の下部に複数の台車を備えることにより、大扉を開口部に対して開閉可能とする、いわゆる台車方式の大型扉が開示されている。それぞれの台車は、開口部の下部に設けられたレール上に大扉の荷重を分担して伝える役目を果たすことから、各台車の取り付け精度などによっては、大扉の開閉不良を生じるおそれがあった。このため、従来は、工場での製作過程において、各台車の取り付けまでしてほぼ完成状態とした大扉を、トラックやコンテナなどで現地に搬送して、そこに設置するのが一般的であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、近年の扉の大型化につれて、工場で製作した大扉をそのまま現地に搬入しようとすると、トラックやコンテナなどで搬送できる寸法制限を超えるものがでてきた。その場合に、仮に大扉を適当に分解して現地に搬送したとすると、各台車の取り付け精度の確保が困難となることに加えて、現地で大扉を組み立てる作業が最低限必要となり、工場に比べて条件の悪い現地での作業上の安全を考慮する必要があった。また、大扉の場合には、組み立て作業を行うための広い作業場が必要となるが、他業者の混在作業もあることから、かかる広い作業場の確保は困難となることが多いなど、種々の問題があった。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みたものであり、その目的とするところは、大扉を現地で施工する場合に、作業場所の確保を最小限にし、作業上の安全をも考慮した大扉システムの生産方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、建物開口部に設けられ、台車が扉本体全体を単体で支持するように構成される大扉システムの生産方法であって、単体の台車と該台車以外の各パーツとを前記建物のある所定場所に搬送する搬送工程と、前記搬送された単体の台車を、前記建物開口部の下レール上に搭載する台車設置工程と、前記搬送された各パーツから扉本体を、この単体の台車上に合わしてボルトを入れることにより組み立てる扉本体組立工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0006】
本発明によれば、単体の台車と該台車以外の各パーツとを前記建物のある所定場所に搬送する搬送工程と、前記搬送された単体の台車を、前記建物開口部の下レール上に搭載する台車設置工程と、前記搬送された各パーツから扉本体を、この単体の台車上に合わしてボルトを入れることにより組み立てる扉本体組立工程とを備えたので、工場で台車とそれ以外の各パーツとに分けて製作した大扉を前記建物のある現地に搬入する際に、トラックやコンテナで搬送できる幅や長さの制限があっても、台車とそれ以外の各パーツとに分けたままであれば、それらを横倒し状態とするなどして当該制限内に無理なく収めることができる。
【0007】
また、単体の台車上に扉本体を組み立てるのであるから、従来例のような複数の台車を扉本体に取り付ける場合のように、台車の扉本体への取り付け精度が大扉の開閉不良を生じることはありえない。
【0008】
また、大扉の全体を現地で組み立てる場合に比べて、組み立て時間を短縮できるとともに、組み立て時に広範囲の平地スペースがいらないため、天候(降雨など)に工程が左右されず、また、電装製品を雨風から守れる。
【0009】
また、組み立てスペースが少なくて済むだけでなく、組み立て用の作業車(レッカー車)の吊り上げ動力も軽減できるとともに、工場に比べて条件の悪い現地での作業の安全をも考慮することができる。
【0010】
さらに、大扉を後日分解する際もその大扉を立てたまま作業でき、台車と各パーツとをそれぞれ再利用してリサイクルすることもできる。
【0011】
ところで、台車を地上のレール上に載せただけでは、その台車が転倒しやすいものとなる。そこで、前記台車設置工程では、前記単体の台車は、前記建物開口部の下レール周りの地上から仮支持可能であることが好ましい。
【0012】
この場合、前記台車設置工程では、前記単体の台車は、前記建物開口部の下レール周りの地上から仮支持可能であるので、台車が転倒するのを防止して安全に作業できる。
【0013】
また、建物の開口部の上部に設けられたレールを積極的に利用することができる。そこで、前記扉本体組立工程では、前記扉本体は、前記建物開口部の上レールと前記単体の台車との間に枠組み可能であることが好ましい。
【0014】
この場合、前記扉本体組立工程では、前記扉本体は、前記建物開口部の上レールと前記単体の台車との間に枠組み可能であるので、建物の開口部の上部に設けられたレールを積極的に利用することで、台車上での組み立て作業だけとなり、狭い作業場で済む。
【0015】
また、大扉は完成後に強風などを受けることがあり、その大扉は強度不足となりがちである。そこで、前記扉本体の枠組みは補強可能であることが好ましい。
【0016】
この場合、前記扉本体の枠組みは補強可能であるので、大扉の強度を高めて強風にも耐えるものとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、単体の台車と該台車以外の各パーツとを前記建物のある現地に搬送する現地搬送工程と、前記搬送された単体の台車を、前記建物開口部の下レール上に搭載する台車設置工程と、前記搬送された各パーツから扉本体を、この単体の台車上に組み立てる扉本体組立工程とを備えたので、工場で台車とそれ以外の各パーツとに分けて製作した大扉を前記建物のある現地に搬入する際に、トラックやコンテナで搬送できる幅や長さの制限があっても、台車とそれ以外の各パーツとに分けたままであれば、それらを横倒し状態とするなどして当該制限内に無理なく収めることができる。
【0018】
また、単体の台車上に扉本体を組み立てるのであるから、複数の台車を扉本体に取り付ける場合のように、台車の扉本体への取り付け精度が大扉の開閉不良を生じることはありえない。
【0019】
また、大扉の全体を現地で組み立てる場合に比べて、組み立て時間を短縮できるとともに、組み立て時に広範囲の平地スペースがいらないため、天候(降雨など)に工程が左右されず、また、電装製品を雨風から守れる。
【0020】
また、組み立てスペースが少なくて済むだけでなく、組み立て用の作業車(レッカー車)の吊り上げ動力も軽減できるとともに、工場に比べて条件の悪い現地での作業の安全をも考慮することができる。
【0021】
さらに、大扉を後日分解する際もその大扉を立てたまま作業でき、台車と各パーツとをそれぞれ再利用してリサイクルすることもできる。」
「【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は本発明の一実施形態に係る大扉システムの全体構造を示す図であって、(a)は正面図、(b)は側面図である。なお、大扉システムは1枚又は複数枚の大扉1を同一のレール上に設置し、それを左右方向に移動することで、建物開口を開閉することができるようになっているが、いずれもほぼ同様の構造であるので、ここでは、そのうちの1枚の大扉1を代表させて、それについて説明している。また、図1(a)中の紙面に直交する方向を前後方向、紙面に向かって上下、左右となる方向を、それぞれ上下方向、左右方向といい、図1(b)中の紙面に直交する方向を左右方向、紙面に向かって上下左右となる方向を、それぞれ上下方向、前後方向という。以下の図面についても同様である。
【0024】
本実施形態に係る大扉1は、鋼製の大型扉であって、例えば図1(a)(b)に示すように、前後方向の寸法が上下左右方向の寸法よりも極めて小さく、かつ左右方向の寸法が上下方向の寸法よりもかなり大きい、いわゆる狭幅で横長の台車10と、この台車10と前後左右方向の寸法が略同一であるものの、上下方向の寸法が左右方向の寸法よりもかなり大きい、いわゆる狭幅で縦長の扉本体20とを一体化した上で、それらの前後両面を隙間なく薄板(表面材)27,27で覆った構造となっている。
【0025】
すなわち、本実施形態での台車10は、左右方向の寸法を扉本体20のそれに略等しくして、台車10が扉本体20全体を単体で支持するようになっている。その場合、大扉1の下部が台車10で占められていることから、台車10に人間が通過可能な大きさの小扉を設ける必要がある。そのために、台車10の上下方向の寸法をかかる小扉のそれよりも若干大きく設定したことから、台車10を横倒し状態で搬送することとしている。
【0026】
台車10の下部両端付近には車輪10a,10bが設けられており、両車輪10a,10bで大扉1が建物開口下部(地上)50に設けられた下レール30上に搭載されている。また、扉本体20の上部両端付近にはサポート部21a,21bが設けられ、両サポート部21a,21bは、それぞれ大扉1を建物開口上部(天井)60に設けられた上レール40に沿って振れないように案内するガイドローラと、このガイドローラの破損時に大扉1が倒れないように作用する安全装置とから構成されている。台車10の車輪10aはブレーキ付きの駆動装置10cで駆動されており、これらにより大扉1が左右に移動可能となっている。
【0027】
扉本体20は、さらに各パーツとしての最上部梁21と、最上部梁21と台車10との左右両端間に設けられた両端部柱22,22と、図示しない中間柱、中間梁、ブレス、同縁などから構成されている。
【0028】
各パーツの材料としては主にH型鋼、等辺山形鋼、C型鋼を使用しているが、いずれも錆止め塗装まで行っているものとする。そして、前記胴縁に表面材27,27をビス止めした上で、仕上げ塗装を行うようになっている。
【0029】
図2は大扉システムの施工方法を示す工程図、図3?図6は各工程における大扉システムの構造を示す図であって、図3は底面図、図4(a)は正面図、図4(b)は(a)におけるX-X断面図、図5と図6とは正面図である。なお、各図中での各種作業車や各種作業用小物などについては、説明の便宜上、特にことわらない場合であっても図示を省略しているものがある。
【0030】
この大扉システムの施工方法は、図2に示すように、現地搬送工程S1と、台車設置工程S2と、最上部梁上架工程S3と、両端部柱取付工程S4と、補強材等取付工程S5と、仕上工程S6とからなっている。以下、各工程について詳述する。ただし、台車10は、予め工場で製作されたものがすでにトレーラ70に横倒し状態で搭載されており、台車10以外の各パーツについても、予め工場で製作されたものがすでにトレーラ70に搭載されているものとする。
【0031】
まず、現地搬送工程S1では、図3に示すように、台車10を横倒し状態にしてトレーラ70で前記建物のある現地に搬送するとともに、各パーツを別のトレーラ70に積んで同現地に搬送する。ここでは、台車10と各パーツとは、それぞれのトレーラ70で搬送できる幅や長さの制限内に収められているものとする。そして、台車10と各パーツとが現地に到着すると、それぞれのトレーラ70からの荷降ろしを図示しないレッカー車にて行い、所定場所に仮置きする。
【0032】
次いで、台車設置工程S2では、図4(a)(b)に示すように、台車10の左右方向の2か所に予め工場で取り付けておいた吊りピース用プレートに図示しない吊ピース(クランプ)を取り付け、同じく図示しないシャックルを用いてワイヤーロープ11をレッカー車のフック11aに掛ける。そして、レッカー車のフック11aを上昇させて台車10を慎重に起こし、ゆっくりと下レール30上に移動させて車輪10a,10bが下レール30に載るようにしてゆっくりと降ろす。その後、台車10の左右方向の2か所(必ずしも前記吊りピース用プレートの取り付け位置とは一致しない。)に台車転倒防止装置13,13を設置する。
【0033】
台車転倒防止装置13は、台車10を、前記建物開口部の下レール30周りの地上50から仮支持可能とするものであって、台車10の上部と下部とにそれぞれ取り付けた横材(上)13aと横材(下)13bとの間を、その前後に略45度の傾斜でもって地上50にまで延びる斜材13cで連結してなっている。この台車転倒防止装置13を設置した上で、レッカー車のフック11aを降下させてワイヤーロープ11を少し緩め、台車10が転倒しないことを十分に確認した上で、レッカー車のフック11aをさらに降下させてワイヤーロープ11を緩める。このとき、台車10が動かないように、駆動装置10cのブレーキがかけられた状態で、チェーンを掛けておくか、台車10と下レール30との間に楔又はジャッキを設置する。なお、横材(上)13a、横材(下)13b、斜材13cとしては、同径の管材などを使用すればよい。
【0034】
次いで、最上部上架工程S3では、図5に示すように、台車10のほぼ真上において、最上部梁21に取り付けられている吊りピースにシャックルを用いてワイヤーロープで吊り上げていく。そして、レッカー車でそれ以上、吊り上げられない位置で図示しない高所作業車を使用して、上レール40の2か所に設置しておいたチェーンブロック41,41で最上部梁21を上げていく。
【0035】
次いで、両端部柱取付工程S4では、図6に示すように、両端部柱22,22のそれぞれのやや上部に、台車10と同様に、吊ピース、シャックルを用いてワイヤーロープを掛けて、レッカー車で1つずつ吊り上げていく。そして、高所作業車を使用して、先に両端部柱22,22の各上端から最上部梁21の左右に合しボルトをそれぞれ入れた後、両端部柱22,22の各下端を台車10に合してボルトをそれぞれ入れる。このように、最上部梁21と両端部柱22,22と台車10とを組み立てることにより、下レール30と上レール40とで支持された大扉1の枠組みが形成される。すると、台車10は転倒するおそれがなくなるから、台車転倒防止装置13,13を台車10から撤去する。
【0036】
そして、補強材等取付工程S5で、大扉1の枠組みの適宜箇所に中間柱、中間梁、ブレス、胴縁などの補強材等を取り付けた上で、仕上工程S6で、前記胴縁に表面材27をビスで取り付け、仕上げ塗装を行うことで、図1に示したような大扉1の構造が得られる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態の大扉システムによれば、建物開口部の下レール30上に搭載可能な単体の台車10と、この単体の台車10上に組み立て可能な扉本体20とを備えたので、工場で台車10とそれ以外の各パーツとに分けて製作した大扉1を前記建物のある現地に搬入する際に、トレーラ70で搬送できる幅や長さの制限があっても、台車10とそれ以外の各パーツとに分けたままであれば、それらを横倒し状態とするなどして当該制限内に無理なく収めることができる。
【0038】
また、単体の台車10上に扉本体20を組み立てるのであるから、複数の台車を扉本体に取り付ける場合のように、台車10の扉本体20への取り付け精度が大扉1の開閉不良を生じることはありえない。
【0039】
また、大扉1の全体を現地で組み立てる場合に比べて、組み立て時間を短縮できるとともに、組み立て時に広範囲の平地スペースがいらないため、天候(降雨など)に工程が左右されず、また、電装製品を雨風から守れる。
【0040】
また、組み立てスペースが少なくて済むだけでなく、組み立て用の作業車(レッカー車)の吊り上げ動力も軽減できるとともに、工場に比べて条件の悪い現地での作業の安全をも考慮することができる。
【0041】
さらに、大扉1を後日分解する際もその大扉1を立てたまま作業でき、台車10と各パーツとをそれぞれ再利用してリサイクルすることもできる。
【0042】
なお、上記実施形態では、各工程S1?S6を通して実施しているが、このうちの一部の工程(例えばS1?S5)をある業者が施工した後に、他の工程(例えばS6)を別業者が施工することとしてもよい。
【0043】
また、大扉1の使用場所などによっては、それに必要とされる強度等が大きく異なることから、いずれかの工程を省略することもありうる。例えば、上記実施形態では、扉本体20の適宜箇所に、中間柱、中間梁、ブレス、胴縁などの補強材等を設けたが、その要求される強度等によっては、補強材等の一部又は全部を省略してもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、台車10を横倒し状態で搬送しているが、台車10の大きさによっては、立ち姿勢のままで搬送することとしてもよい。その場合には、現地で台車10を起こす作業がなくなり、その分だけ工程を簡略化できる。また、トレーラ70に代えて、トラックやコンテナで搬送することもありうる。」

第3 請求人の主張
請求人は、本件発明1ないし4の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(審判請求書、平成28年7月21日付け審尋に対する回答書、同年11月24日付け口頭審理陳述要領書、平成29年1月10日付け上申書、同年1月13日付け上申書、同年2月21日付け上申書、及び、第1回口頭審理及び証拠調べ調書を参照。)、証拠方法として甲第1号証ないし甲第84号証を提出するとともに、証人尋問の申出を行った。

1 無効理由の概要
(1)無効理由1(公知による新規性欠如)
本件発明1ないし4は、その出願前に公然知られた「佐世保重工業第5ブラスト・塗装工場新築工事作業所大扉施工計画書」に記載された施工方法と同一であるから、特許法第29条第1項第1号に該当し、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とされるべきものである。
(2)無効理由2(公然実施による新規性欠如)
本件発明1ないし4は、その出願前に公然実施された「佐世保重工業第5ブラスト・塗装工場新築工事における大扉工事」の施工方法と同一であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とされるべきものである。
(3)無効理由3(進歩性欠如)
本件発明1ないし4は、その出願前に公然知られた発明(理由1の公知発明)、または公然実施をされた発明(理由2の公然実施発明)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(4)無効理由4(進歩性欠如)
本件発明4は、その出願前に公然知られた発明(理由1の公知発明)、または公然実施をされた発明(理由2の公然実施発明)と、甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(証拠方法)
提出された書証は、以下のとおりである。
甲第1号証:佐世保重工業第5ブラスト・塗装工場 新築工事作業所 大扉施工計画書
甲第2号証:社団法人日本造船工業会発行のJapan Shipbuilding Digest第18号、2010年6月15日
甲第3号証:佐世保重工業 第5ブラスト・塗装工場新築工事 3連片引扉 取扱説明書
甲第4号証:佐世保重工業第5ブラスト・塗装工場新築工事における大扉設置工事において、扉枠体に角波を貼り付ける工程を撮影した写真
甲第5号証:佐世保重工業第5ブラスト・塗装工場新築工事における大扉設置工事において、建物開口部に設置された下部レールを撮影した写真
甲第6号証:特開平6-117162号公報
甲第7号証:増本良登による証明書
甲第8号証:カタログ「特殊扉 SPECIAL DOOR 4 KONGO LARGE DOOR」
甲第9号証:「特機事業部門事業譲渡のお知らせ」及び「譲渡に伴う特殊扉イノベーション事業部発足のご案内」と題する送付状
甲第10号証:福田康孝の陳述書
甲第11号証:橋本竜二の陳述書
甲第12号証:稲永真人の陳述書
甲第13号証:「工事名称 佐世保重工業 第5ブラスト塗装工場 新築工事作業所 跳上扉施工計画書」
甲第14号証:扉施工計画図
甲第15号証:1027計画図
甲第16号証:大扉工事の是正事項および確認事項(大成建設 稲永)
甲第17号証:作業手順書
甲第18号証:文化シャッター株式会社からの注文書及び工事指示書
甲第19号証:尾浜プレス株式会社の注文請書
甲第20号証:別図2(甲第1号証補足資料)
甲第21号証:稲永真人のパソコン内に保管されていた電子データ
(甲第13号?17号証の電子データを保存したCD-R)
甲第22号証:橋本竜二が所有していた電子媒体から印字した図1/7?図7/7
甲第23ないし41号証:写真AないしS(佐世保重工業第5ブラスト塗装工場工事現場を撮影した写真)
甲第42号証:橋本竜二の陳述書(第2回目)
甲第43号証:福田康孝の陳述書(第2回目)
甲第44号証:SSK第5ブラスト・塗装工場新築工事打合せ議事録(平成21年4月7日?平成22年2月1日)
甲第45号証:SSK第5ブラスト・塗装工場設計図
甲第46ないし50号証:写真TないしX(佐世保重工業第5ブラスト塗装工場工事現場を撮影した写真)
甲第51ないし75号証:写真Y1ないしY25(佐世保重工業第5ブラスト塗装工場周辺を平成29年1月7日に撮影した写真)
甲第76号証:写真Y26(佐世保重工業第5ブラスト塗装工場周辺のGoogleマップの航空写真)
甲第77ないし79号証:写真Y27ないしY29(佐世保重工業第5ブラスト塗装工場周辺のGoogleマップのストリートビュー)
甲第80号証:SSK第5ブラスト・塗装工場設計図の5/45(甲第45号の5/45と同一内容)
甲第81号証:稲永真人の陳述書
甲第82号証:佐世保重工第5ブラスト・塗装工場及びその周囲の状況を表わすための映像No.1
甲第83号証:佐世保重工第5ブラスト・塗装工場及びその周囲の状況を表わすための映像No.2
甲第84号証:佐世保重工第5ブラスト・塗装工場及びその周囲の状況を表わすための映像No.3

また、人証(証人尋問を行った証人)は、以下のとおりである。
福田康孝
増本良登
橋本竜二

2 無効理由1の具体的な主張
(1)甲第1号証は、その表紙に、「工事名称 佐世保重工業 第5ブラスト・塗装工場 新築工事作業所 大扉施工計画書」と記載されており、佐世保重工業株式会社の第5ブラスト・塗装工場新築工事(以下「本件工場新築工事」と記載する)において、兵庫県尼崎市尾浜町1丁目14番23号に住所を有する尾浜プレス株式会社が大扉を施工した際の施工計画書である。甲第1号証の3頁に記載の通り、本件工場新築工事の総合施工は大成建設株式会社であり、二次下請業者は文化シャッター株式会社であり、三次下請業者は尾浜プレス株式会社である。甲第1号証の表紙には「平成21年10月」と記載され、同2頁の下4行には、全体工期、即ち本件工場新築工事の工期が平成21年6月6日から平成22年3月31日であり、当社工期、即ち尾浜プレス株式会社による大扉施工工事(「本件大扉工事」という)の工期が平成21年10月30日?平成21年12月31日であることが記載されている。甲第1号証の各頁右下には「文化シャッター株式会社」と記載してあるが、実際には、この施行計画書は尾浜プレス株式会社により平成21年10月23日に作成された(甲第7号証にて証明)。(請求書9頁6?21行)
(2)甲第1号証と本件発明との対比
ア 構成A
甲第1号証(6?8頁、図6)には、「建物開口部に設けられ、ブロック1(大扉台車部)がブロック2?ブロック8を単体で支持する大扉システムの施工方法」(特徴a)が開示されている。この特徴aは、本件発明1の構成Aと同一である。
イ 構成B
甲第1号証(5,8頁、図2、別図3,4)には「台車と、それ以外のパーツを本件工場のある所定場所に搬送すること」(特徴b)が開示されており、この特徴bは本件発明1の構成Bと同一である。
ウ 構成C
甲第1号証(6?8頁、図1?5,7)には、「搬送されたブロック1(大扉台車部)を、本件工場の開口部の下部レール上に搭載すること」(特徴c)が開示されている。この特徴cは、本件発明1の構成Cと同一である。
エ 構成D
甲第1号証の図6の下側には、ブロック1の上にブロック2ないしブロック8を位置合わせして固定し、1枚の扉を建て込む様子が左から順に示されている。
ブロック1、すなわち台車とブロック2との連結について、同号証の8頁5行には「固定台車と次のブロックをボルト(HTB)で固定する(介助ワイヤーで固定)」と明示されている。
同号証の図4(左上に「4(原文では丸数字)各ブロック据付時」と記載された図)の右上には、「扉建込断面」という図説と共にラフター25tがブロックを吊り上げてブロック1の上に位置合わせをして載置する様子が示されており、このブロックはその直下の拡大図(図4の右下)に、ブロック番号を表す四角枠付き数字(1,2)がそれぞれのブロックに付されていることからすれば、ブロック2である。また、当該拡大図におけるブロック1とブロック2との接合部には、ブロック1とブロック2とを連結するボルトが描かれており、「六角HTB M16×50(F10T) 14ヶ所」と記載されている。したがって、甲第1号証には、ブロック1とブロック2とは明らかにボルトを入れて結合されることが開示されている。
また同号証の図5(左上に「5(原文では丸数字)各ブロック据付時」と記載された図)の右上には「扉建込断面」という図説とともにラフター25tがブロックを吊り上げてブロック2の上に位置合わせをして載置する様子が示されており、このブロックはその直下の拡大図(図5の右下)に、ブロック番号を表す四角枠付き数字(2,3)がそれぞれのブロックに付されていることからすれば、ブロック3である。また、当該拡大図におけるブロック2とブロック3との接合部には、ブロック2とブロック3とを連結するボルトが描かれており、「六角HTB M16×50(F10T) 14ヶ所」と記載されている。したがって、図5にはブロック2とブロック3とはボルトを入れて結合されることが示されている。
図4及び図5のブロック間の結合状態からすれば、図6に示されたブロック1とブロック4(図6の下側の左から4番目の図)、ブロック4とブロック5(図6の下側の左から5番目の図)、ブロック5とブロック6(図6の下側の左から6番目の図)、ブロック1とブロック7(図6の下側の左から7番目の図)、ブロック7とブロック8(図6の下側の最も右側の図)についても、同様にボルトで連結されることが推認できる。
以上より、甲第1号証には、「搬送されたブロック2ないしブロック8から扉本体を、ブロック1の上に位置合わせをしてボルトを入れることにより組み立てることを備えた大扉施工方法」(特徴d)が開示されている。この特徴dは、本件発明1の構成Dと同一である。
オ 構成E
甲第1号証(8頁、図3,4)には、「ブロック1を、本件工場開口部の下レール周りの地面から仮支持すること」(特徴e)が開示されている。この特徴eは、本件発明2の構成Eと同一である。
カ 構成F
甲第1号証(7頁、図5,6)には「本件工場の開口部の上部レールと台車との間にブロック2ないしブロック8の結合体を形成すること」が開示されている。
そして、この「ブロック2ないしブロック8の結合体」が本件大扉の枠体であることは、甲第1号証の図2ないし図7においてブロック2ないしブロック8が格子状に描かれていることより明らかである。
以上より、甲第1号証には「本件工場の開口部の上部レールとブロック1との間に扉本体の枠体を形成すること」(特徴f)が開示されている。この特徴fは、本件発明3の構成Fと同一である。
キ 構成G
甲第1号証(図6)には、「扉本体の枠体を各ブロックの柱及び梁で補強すること」(特徴g1)が開示されており、この特徴g1は、本件発明4の構成Gと同一である。
ク まとめ
甲第1号証には、本件発明1ないし4の構成AないしGとそれぞれ同一である特徴aないしgが開示されている。したがって、本件発明1ないし4は、甲第1号証に記載の本件大扉工事に係る発明と同一である。
(請求書11頁下から2行?22頁7行)
(3)甲第1号証の表紙に記載の発行月を表わす「平成21年10月」及び本件大扉工事の工期が平成21年10月30日?平成21年12月31日であること、並びに甲第7号証の証明書からすれば、甲第1号証に記載の大扉の施工方法は、平成21年10月23日には、当時の営業担当であった増本良登がすでに知得していた方法であり、また、同時期に施工計画書である甲第1号証が工事担当者に配布されたことからすれば遅くとも工事開始予定日である平成21年10月30日には工事担当者が知り得た方法である。そして、本件発明1?4が、いずれも甲第1号証に記載の発明と同一であることからすれば、本件発明1?4はいずれも本件特許出願前の平成21年10月に公然知られた発明である。(請求書22頁9?20行)
(4)甲第1号証の出処及び入手経緯について
ア 甲第1号証は、審判請求書に記載のとおり、尾浜プレス株式会社が大扉を施工した際の施工計画書であり、当時、大扉の施工を扱う尾浜プレス株式会社の特機事業部に統括部長として勤務していた増本良登が作成したものである。
イ 尾浜プレス株式会社は、平成25年4月1日に特機事業部を金剛産業株式会社に譲渡した。この際、同社の特機事業部の統括部長であった増本良登もまた金剛産業株式会社に移籍し、同社の特殊扉イノベーション事業部の事業部長となった。参考までに、尾浜プレス株式会社及び金剛産業株式会社が、それぞれ、顧客宛てに送付した「特機事業部門事業譲渡のお知らせ」及び「譲渡に伴う特殊扉イノベーション事業部発足のご案内」と題する送付状を添付する(甲第9号証)。
ウ 甲第1号証は、増本良登が作成し、それを工事関係者に配布した。具体的には、増本良登は、甲第1号証を発注者である文化シャッター株式会社の土井添邦夫氏、本件施工の元請けである大成建設株式会社の稲永真人氏に手渡した。また、甲第1号証は、本件施工の設計管理者である丸福建設株式会社に大成建設株式会社を通じて渡され、丸福建設株式会社の代表者である福田康孝氏は施工内容を確認した上で、その表紙の施工管理欄に承認印を押印し、それを大成建設株式会社に返却した。添付の福田康孝氏の陳述書 (甲第10号証)にその旨が陳述されている。また、増本良登氏は、甲第1号証を本件施工の電気工事担当である橋本電設株式会社の橋本竜二氏にも渡している。添付の橋本竜二氏の陳述書 (甲第11号証)にその旨が陳述されている。
上述の本件工事関係者のいずれの人物の氏名も甲第1号証の第3頁の3.-1現場施工体制の欄に記載されている。審判請求書において、甲第1号証を「写し」として提出したのは、上記のように本件工事関係者に配布した甲第1号証と同一内容の書類を原本と捉えていたからでである。審判請求人は、甲第1号証の原本を見出すために調査をしてたが、添付の稲永真人氏の陳述書にも記載されているように、原本配布当時からの6年以上経過していることもあり、現時点では未だ見出していない。
(平成28年7月21日付け審尋に対する回答書(以下「回答書」という。)2頁12行?3頁17行)
(5)甲第1号証の内容について
ア 甲第1号証には頁数が付された本文に続いて、図1/7?図7/7及び別図1?4があり、これらの図面は「大扉施工計画書」の一部である。「大扉施工計画書」の第7頁に別図1及2が言及され、また第8頁に別図3及4並びに図3が言及されていることからも分かる。
イ 「大扉施工計画書」の本文の4頁が2枚あるが、これは誤植によるものである。後出の「第4章 工事範囲」と上部に書かれた頁が5頁になり、それに従って後続の頁が修正されるべきであった。甲第1号証の別図2が欠落していたが、ここに添付する(甲第20号証)。
ウ 甲第1号証の別図1に「10/30.31」と記載されているが、これは別図1に表された工事の予定日を指している。なお、添付した甲第1号証の別図2には「11/10.11」と記載されているが、これも別図2に表わされた工事の予定日を指している。
エ 甲第1号証の「大扉施工計画書」の表紙の空欄に押印がないのは、前述のとおり、工事関係者に配布していない、すなわち、増本良登自身の分の「大扉施工計画書」である。しかしながら、添付の福田康孝氏の陳述書に陳述されているように、甲第1号証と同じ内容の大扉施工計画書の表紙に承認印が丸福建設株式会社の代表者である福田康孝氏により付された事実が陳述されており、その陳述より甲第1号証の原本が存在することは明らかである。
(回答書2頁12行?3頁17行)
(6)甲第1号証の配布について
ア 工事関係者に配布したものは甲第1号証として提出したものと同一内容のものである。このことは、大成建設株式会社の本件施工の監理技術者であった稲永真人氏の陳述書(甲第12号証)、本件施工の設計管理担当の丸福建設株式会社の代表である福田康孝氏の陳述書(甲第10号証)、及び本件施工の電気工事担当である橋本電設株式会社の橋本竜二氏による陳述書により明らかである。
イ 甲第1号証の配布先及び配布時期は以下のとおりである。
大成建設株式会社の稲永真人氏 平成21年10月下旬
丸福建設株式会社代表の福田康孝氏 平成21年10月末ごろ
橋本電設株式会社の橋本竜二氏 平成21年10月下旬
ウ 甲第1号証の間接証拠として以下のものを提出する。
(ア)甲第13号証
大成建設株式会社の稲永真人氏は、甲第1号証と同一内容の「大扉施工計画書」を書面のみならず、甲第1号証とほぼ同一内容を含む施工計画書案の電子データを増本良登より平成21年10月下旬に受領しており、稲永真人氏のパソコン内に保存されていた。
「工事名称 佐世保重工業 第5ブラスト塗装工場 新築工事作業所 跳上扉施工計画書」と題する書類(甲第13号証、以下、施工計画書案という)は、大成建設株式会社の九州支所にて、添付の稲永真人氏の陳述書に押印するとき(平成28年7月19日)に稲永真人氏のパソコンから印字出力したものである。
施工計画書案と甲第1号証とは、表紙のタイトルや第2頁の2.-6工期期間の有無、第3頁の総合施工欄及び施工1次欄など形式面でわずかな相違が見られるが、甲第1号証の第5頁?第8頁に記載の運搬から大扉建込については、同様の記載が施工計画書案の第6頁?9頁に存在する。また、甲第1号証の別図1,3及び4は、施工計画書案に綴られている。施工計画書案は、甲第1号証を作成するための基礎となる計画書であり、稲永真人氏は施工計画書案を確認した上で、増本良登に意見を述べ、増本良登は稲永真人氏の意見に従って施工計画書案を修正して甲第1号証を作成した。施工計画書案を予め元請けや発注者に確認してもらうことは慣例として行われている。
(イ)甲第14号証
稲永真人氏のパソコン内に保管されていた「扉施工計画図」と題する電子ファイルを印字したものを、第2間接証拠(甲第14号証)として提出する。「扉施工計画図」の図1/7?4/7及び7/7は、甲第1号証の図1/7?3/7、5/7及び6/7と同一である。
(ウ)甲第15号証
稲永真人氏のパソコン内に保管されていた「1027計画図」と題する電子ファイルを印字したものを、第3間接証拠(甲第15号証)として提出する。「1027計画図」と題する電子ファイルの3/5及び4/5の図面は、甲第1号証の図4/7及び6/7とほぼ同一である。
(エ)甲第16号証
稲永真人氏のパソコン内に保管されていた「第5ブラスト・塗装工場新築工事 大扉工事の是正事項および確認事項」と題する電子データを印字出力したものを第4間接証拠(甲第16号証)として提出する。
(オ)甲第17号証
稲永真人氏のパソコン内に保管されていた「作業手順書」と題する電子データを印字出力したものを第5間接証拠(甲第17証)として提出する。「作業手順書」は、尾浜プレス株式会社に属していた増本隆生(甲第1号証の第3頁に記載の設計・品質管理・生産の担当者)が作成した大扉取付作業に関する作業手順書であり、第4頁の扉立込欄には、「移動式クレーンによる組立 扉材1(原文では丸数字)を建屋内部側のレール上に固定する 扉材2(原文では丸数字)と3(原文では丸数字)を地組ヤードにて地組み 扉材2(原文では丸数字)と3(原文では丸数字)を1(原文では丸数字)に乗せボルト及びガイドローラで固定する・・・・」と記載されている。すなわち、この「作業手順書」には、甲第1号証の第7?8頁に記載の取り付け工事と同様またはそれより詳細なことが記載されている。
エ 工事関係者は、大扉の施工に関して守秘義務は課されていなかった。守秘義務がなかったことは添付の橋本電設株式会社の橋本竜二氏の陳述書及び大成建設株式会社の稲永真人氏の陳述書からも明らかである。
なお、本件施工に際して尾浜プレス株式会社が文化シャッター株式会社から受けた注文書及び工事指示書(甲第18号証)並びに尾浜プレス株式会社が文化シャッター株式会社に対して送付した注文請書(甲第19号証)を添付する。これらの注文書及び工事指示書並びに注文請書には、本件施工、すなわち大扉の施工が外部から見えないようにする措置や大扉の施工方法を機密にすべきことは記載されていない。なお、それぞれの書類に記載の約款の第15条(機密保持)には、「発注者、受注者は、この取引で知り得た相手方の機密に属することを第三者に漏洩してはならない。」との記載がある。この条項は、ひな型に従った一般条項にすぎず、尾浜プレス株式会社が行う大扉の施工を機密にすることを意味していない。尾浜プレス株式会社が行う大扉の施工方法は、そもそも尾浜プレス株式会社にとって機密に属する事項ではなかった。
(回答書5頁1行?8頁8行)
(7)甲第1号証を配布したことの補足
増本良登は、大扉施工計画書(甲第1号証)を施工二次請けの文化シャッター株式会社の土井添邦夫氏に配布した。大成建設株式会社の稲永真人氏は、文化シャッター株式会社または不二サッシ株式会社から大扉施工計画書(甲第1号証)を受理した後、設計管理担当の丸福建設株式会社の福田康孝氏に配布した。福田康孝氏は、大扉施工計画書(甲第1号証)の図面の欄に承認人を押印して稲永真人氏に返却した。
また、増本良登は、甲第1号証の図1/7?7/7の電子データを電気工事担当者の橋本電設株式会社の橋本竜二氏に配布した。甲第22号証は、橋本竜二氏が所有していた電子データを印字したものである。
(口頭審理陳述要領書2頁13?25行)
(8)甲第1号証の地組について
ア 台車(ブロック1)
甲第1号証の図2/7には、「扉地組ヤード」なる用語が記載されており、そこに台車(ブロック1)が描かれているが、「扉地組ヤード」で台車が組み立てられたことは甲第1号証には一切記載されていない。
甲第1号証の図2/7の右側の上方に「2(原本では丸数字)仮置時 作業区及び立入禁止区」と記されており、同図上、「扉地組ヤード」と記された枠内にブロック1(台車)が描かれているが、この図は、「扉地組ヤード」と記された枠内にブロック1(台車)に仮置きされた様子を示しているだけで、ブロック1(台車)がそこで組み立てられることを示している訳ではない。
イ 大扉(ブロック2?8)
甲第1号証において「扉地組ヤード」という用語を使用しているのは、実際に台車の上に取り付けられる大扉のブロックがそこで予め組み合わせられる(地組み)される場合を考慮したためである。甲第1号証の図4/7、図5/7及び図6/7では、ブロック1である台車上の左側にブロック2が組み付けられ、ブロック2の上にブロック3が組み付けられ、次に台車上の中央部の上にブロック4が組み付けられ、さらにその上にブロック5及び6が順に組み付けられ、続いて台車上の右側にブロック7が組み付けられ、その上にブロック8が組み付けられる様子が示されている。
本件工事現場における実際の大扉建込み作業では、ブロック4及び5を組み合わせてからそれを台車(ブロック1)に組み付けられた。そのことは、本件工事現場で撮影された甲第23号証?甲第26号証(写真A?D)、甲第31号証?甲第38号証(写真I?P)、先に提出した甲第14号証及び甲第17号証に示されている。
甲第14号証は、大成建設株式会社の稲永真人氏のパソコン内に保管されていた「扉施工計画図」と題する電子ファイルを印字したものであり、作成者である増本良登が稲永真人氏に甲第1号証とは別に配布したものである。 甲第14号証は、甲第1号証の図面に表されていた大扉の建て込み順序を変更するために作成された図面である。甲第14号証の図1/7?3/7は、甲第1号証の図1/7?3/7と同一である。しかし、甲第14号証の図4/7は、甲第1号証の図4/7と異なり、左側の扉地組ヤードに置かれているのは単一のブロックではなく、二つのブロックが上下に組み合わされた組合せブロックである。さらに、甲第14号証の図4/7の右側に描かれているラフターで吊り上げられているものは、甲第1号証の図4/7と異なり、単一のブロックではなく、二つのブロックが上下に組み合わされた組合せブロックである。また、甲第14号証の図6/7の左側は、ブロック建て込み順序を表す図であるが、この図に相当する甲第1号証の図6/7と比較してみると、台車(ブロック1)の左側上に組み付けられているのは、単一のブロック2ではなく、ブロック2の上にブロック3が組み合わされた組合せブロックが組み付けられている点で甲第1号証の図6/7とは異なる。台車の中央上についても、ブロック4?6が予め組み合わされた組合せブロックが組み付けられており、さらに、台車の右側上においても、ブロック7及び8が予め組み合わされた組合せブロックが組み付けられており、台車中央上及び右側上にそれぞれ単一のブロック4及びブロック7が組み付けられる甲第1号証の図6/7とは異なる。このように甲第14号の図に表されたブロックの組み付け順序は施工計画書である甲第1号証に記載のブロック組み付け順序とは異なるものの、甲第31号証?甲第38号証の写真に写された実際の作業順序と一致する。ここで、甲第14号証の電子データ(甲第21号証)の更新日時は、2009年11月11日であり、甲第1号証が作成された2009年10月23日より後の日付である。
先に提出した甲第17号証(作業手順書)にも実際の大扉の建込順序が記されている。甲第17号証の4枚目には、「扉材の2(原本では丸数字。以下同様。)と3を地組ヤードにて地組み」、「扉2と3を1の上に乗せボルト及びガイドローラーで固定する」、「扉材の4、5、6を地組ヤードにて地組み」、「扉材の4、5、6を1、2、3とボルトにて接続する」、「扉7と8を地組ヤードにて地組」、「扉7、8と1?6をボルト及びガイドローラーにて固定」と記載されており、これらの扉材の組み付け順序は甲第14号証の図並びに、甲第31号証?38号証(写真I?P)に示されたブロックの組み付け順序と一致する。
これらのことからすれば、施工計画では、甲第1号証に従って台車の上にブロックが一つずつ組み付けられる予定であったが、実際の工事作業では、甲第14号証の図、甲第17号証の作業手順書、さらには甲第31号証?38号証の写真に裏付けられるように、台車の上に、予め地組された複数のブロックが組み付けられるように変更されていたことが分かる。そして、甲第1号証の図に示された「扉地組ヤード」なる用語は、台車の上に組み付けられる大扉のブロックを予め組み合わせる(地組する)ためのエリアを示しており、台車が地組されるためのエリアではない。
(口頭審理陳述要領書5頁8行?9頁23行)

3 無効理由2の具体的な主張
(1)尾浜プレス株式会社は、甲第7号証の証明書に記載のとおり、甲第1号証である大扉施工計画書に従って、平成21年10月30日?平成21年12月31日にかけて佐世保重工業株式会社の第5ブラスト・塗装工場において大扉を施工した。実際に、佐世保重工業株式会社の第5ブラスト・塗装工場において大扉が平成22年3月に実際に竣工していた事実が甲第2号証に写真と共に示されている。また、甲第3号証の大扉(3連片引扉)の取扱説明書の表紙に記された「Issue:28-FEB-’10」及び同号証最終頁から15枚目に記載の「佐世保重工業 第5ブラスト塗装工場新築工事 大扉設備防爆電動式3連片引扉 検査成績表 平成22年1月作成 文化シャッター株式会社」における日付からしても、遅くとも平成22年2月28日までに大扉の工事が終了していたことが分かる。なお、甲第5号証に示すとおり、尾浜プレス株式会社は、大扉施工計画書に従う工事を行うに際して、外部から見えないようにするような措置は特段取っておらず、工事関係者のみならず工事現場に立ち入った不特定人にも知り得る状態で作業は行われていた。
また、前記のように、本件発明1ないし4が、いずれも甲第1号証に記載の発明と同一であることからすれば、本件発明1ないし4はいずれも本件特許出願前の平成21年10月から平成21年12月31日の間に、あるいは遅くとも平成22年2月28日までに尾浜プレス株式会社によって公然実施された発明である。
(請求書22頁22行?23頁16行)
(2)前述のように、本件工事現場における実際の作業は、甲第23号証?甲第41号証の写真A?S、甲第14号証の図、甲第17号証の作業手順書に表されている。前述のように甲第1号証に記載された施工方法と実際に行われた工事作業とでは、台車上にブロックを組み付ける順序でわずかな相違があった。すなわち、施工計画書ではブロック1である台車上の左側にブロック2が組み付けられ、ブロック2の上にブロック3が組み付けられ、次に台車上の中央部にブロック4が組み付けられ、さらにその上にブロック5及び6が順に組み付けられ、続いて台車上の右側にブロック7が組み付けられ、その上にブロック8が組み付けられたが(甲第1号証の図4/7、5/7及び6/7)、実際の工事作業では、ブロック2とブロック3を組み合わせてからブロック2をブロック1(台車)に組み付け、ブロック4及び5を組み合わせてからそれをブロック1に組み付けている。
しかしながら、台車上に取り付ける複数のブロックを組み合わせる順序は、本件特許の請求項に記載された方法には何ら関係がない。本件特許の請求項には、台車上に各パーツをどのように組み付けるかは特定されていないからである。甲第1号証に記載された施工方法と実際に行われた工事作業は、いずれも扉本体全体を単体で支持する台車と扉本体を構成するブロックをトレーラーで作業現場に搬送し、台車を下レールの上に設置し、その台車の上に大扉を構成する部材をボルトで組み付けるという点では同一である。すなわち、甲第14号証の図、甲第17号証の作業手順書、甲第23号証?甲第41号証の写真を参照すれば、甲第1号証に記載された施工方法における、「建物開口部に設けられ、ブロック1(大扉台車部)がブロック2?ブロック8を単体で支持する大扉システムの施工方法」(特徴a)、「台車と、それ以外のパーツを本件工場のある所定場所に搬送すること」(特徴b)、「搬送されたブロック1(大扉台車部)を、本件工場の開口部の下部レール上に搭載すること」(特徴c)、「搬送されたブロック2乃至ブロック8から扉本体を、ブロック1の上に位置合わせをしてボルトを入れることにより組み立てること」(特徴d)ということが実際の工事作業でも行われていたといえる。本件特許との関係でいえば、本件特許に記載された方法と同一の施工方法が甲第1号証に記載の施工方法に従って実施されたことが甲第14号、甲第17号証、甲第23?甲第41号証から明かである。
(口頭審理陳述要領書12頁5行?13頁14行)

4 無効理由3の具体的な主張
(1)仮に、本件発明1ないし4と甲第1号証に記載の大扉施工方法との間にわずかな相違があったとしても、本件発明1ないし4は甲第1号証より公然知られた大扉施工方法に基づいてあるいは甲第1号証に従って公然実施された大扉施工方法に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明できたものである。(請求書23頁18?22行)

5 無効理由4の具体的な主張
(1)甲第6号証は、機械的強度を維持しつつ扉全体の重量を軽減することが可能な比較的大面積の扉構造に関し(同号証の要約参照)、図3に、例えば格納庫用の扉である従来の大扉の構造として、上部水平方向主梁11、下部水平方向主梁12、垂直方向主柱13、水平補助梁14、垂直補助柱15を格子状に接合した構造を有する大扉を示している。更に同号証の図3には、梁および支柱の間に斜めに取り付けられた水平用ブレス17および垂直用ブレス18が描かれており、同号証の段落0011には「とくに図3に示すように、ワイヤなどによる水平用ブレス17により横(フレーム面内)荷重により変形を防止するとともに、同じくワイヤなどによる垂直用ブレス18により自重による下方へのたわみを抑制している」と記載されている。
以上より、甲第6号証は、「大扉の枠組みを水平用ブレスと垂直用ブレスで補強する」という特徴g2を開示している。この特徴g2は、本件発明4の構成Gと同一である。
(2)ここで、本件大扉工事に係る発明と甲第6号証に記載の発明とは、共に大扉に関する技術であるので技術分野が同一であり、支柱と梁とを格子状に接合した構造の大扉である点も共通している。したがって、本件発明4は、甲第1号証より公然知られた発明あるいは甲第1号証に従って公然実施された発明本件大扉工事に係る発明に甲第6号証に記載の補強技術を単に組み込んだにすぎず、当業者にとっては公知の補強技術を公知の大扉に組み込むことになんら困難性はない。また、本件発明4は、甲第1号証や甲第6号証に記載されていない特別な技術的効果を奏するものでもない。よって、本件発明4は、甲第1号証より公然知られた発明あるいは甲第1号証に従って公然実施された発明と甲第6号証に記載された発明とに基づいていわゆる当業者が容易に発明できたものである。(請求書23頁下から2行?25頁2行)

6 秘密保持義務について
(1)甲第18、19号の約款の15条の対象となるのは「この取引で知り得た」「相手方の」事項のみである。「この取引」より前に知り得たことや「相手方」と無関係に知り得たことは対象外であり、本件工事の大扉施工方法は、増本良登が「この取引」(本件工事の受注)の前から知っていた(知り得た)方法であり、増本良登が「相手方」(文化シャッター)から何ら情報を得ることなくそれまでの知識、経験に基づいて独自に決定した方法であるから、「この取引で知り得た」「相手方の」事項ではなく、約款の15条の秘密保持義務の対象外である。約款の第15条(機密保持)における「発注者、受注者は、この取引で知り得た相手方の機密に属することを第三者に漏洩してはならない」との条項については、尾浜プレス株式会社が行う大扉の施工方法はそもそも尾浜プレス株式会社にとって機密に属する事項ではなかったために、「相手方の機密に属すること」には該当しない。
よって、本件工事における大扉の施工方法は、文化シャッター株式会社と尾浜プレス株式会社との間の秘密保持契約が適用されるものではなく、本件工事の電気工事担当者である橋本竜二氏にも秘密保持義務は及ばない。
(2)佐世保重工業株式会社の回答や提示した「請書」には、本件工事についての秘密保持義務があったことは全く記されておらず、民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款にも何ら機密保持義務に関する記載や条項は存在していない。このことは被請求人も認めている。以上のことから、佐世保重工業株式会社の回答を持って、本件工事における佐世保重工業株式会社と大成建設株式会社九州支店との契約(請書)において大成建設株式会社九州支店が秘密保持義務を課せられていたとは言えない。
佐世保重工業株式会社の提示した「基本契約書」はあくまでも一般論としてあるべき契約(契約書ひな形)にすぎず、この基本契約書が大成建設株式会社との間で本件工事に関して交わされた事実はない。契約とは当事者双方が合意の下で初めて成立するものであり、当事者一方の有する契約のひな形の存在だけでは契約上の権利義務は存在しない。
以上のことより、兵庫県弁護士会を通じた佐世保重工業株式会社になした照会に対する回答からは、本件工事、特に佐世保重工業第5ブラスト塗装工場の大扉施工についての秘密保持義務があったとは言えない。さらには請求人が提出した無効審判請求書や口頭審理陳述要領書などで述べたとおり、もし本件工事に秘密保持義務があったのであれば、本件工事を外部から見えなくするような何らかの措置、例えば大掛かりな足場を組んでシートで覆うなど、秘密を保持するための手段を講じていたはずであったであろうが、何らそのような措置は取られてなかった。特に、平成29年1月25日付の証人尋問や平成29年1月10日及び13日付で提出した上申書に添付の証拠から明らかなように、本件工事は工事現場の周囲に存在する一般道や住宅から極めてよく見える状況で行われており、そのような状況からしても、本件工事、特に大扉の施工に関して秘密保持義務があったとは考えられない。
(3)よって、本件工事における大扉の施工は、甲第1号証の施工計画書や甲第14号証、甲第17号証、甲第23号証?甲第41号証などに示される実際の工事作業を通じて、一般人にはもとより、工事関係者にも公然と知られており、また公然と知られ得る状態で実施されていたと言える。
(平成29年2月21日付け上申書第1?5頁)

7 本件発明の要旨認定について
(1)被請求人は、上申書において、本件発明にあたるかどうかの決定的なメルクマークは、「台車外」で「組んだ」ものをそのまま縦に「立てる」のか、「台車上」で各パーツを縦すなわち垂直方向に「組み立てる」のかであり、地組を行ったかどうかとは必ずしもリンクしない」と述べて、本件特許の要旨認定を行っている。
しかしながら、台車上で各パーツを組み立てる際に、各パーツを縦すなわち垂直方向に組立てることが必須条件であることや、「台車外」で「組んだ」ものをそのまま縦に「立てる」ことを本件特許の範囲から除外することも、本件特許の特許請求の範囲及び明細書のいずれにも記載も示唆もされていない。そもそも、「台車上で各パーツを、縦すなわち垂直方向に組立てる」とは、どういうことを意味するのかが不明であり、特許請求の範囲や特許明細書から乖離した主観的な解釈であるといわざるを得ない。
(2)本件特許明細書を見ると、作用・効果(三)について、段落【0008】、【0009】、【0039】には、「大扉の全体を現地で組み立てる場合に比べて、組み立て時間を短縮できるとともに、組み立て時に広範囲の平地スペースがいらないため、天候(降雨など)に工程が左右されず、また、電装製品を雨風から守れる」と記載されており、いずれも、組み立て時間や組み立て時のスペースなどにつき「大扉の全体を現地で組み立てる場合に比べて」有利であると記載されている。ここで用語「大扉の全体」とは、段落【0024】の「本実施形態に係る大扉1は、鋼製の大型扉であって、・・・いわゆる狭幅で横長の台車10と、・・・いわゆる狭幅で縦長の扉本体20とを一体化した上で、それらの前後両面を隙間なく薄板(表面材)27,27で覆っだ構造となっている」と記載されていることからすれば、少なくとも台車と扉本体から構成されることを意味している。よって、上記組み立て時間やスペースの有利性の効果は、予め工場で製作した台車と扉本体の各パーツを工事現場に搬送し、そこで台車上で各パーツから扉本体を組み立てる本件特許の方法が、台車のパーツや扉本体のパーツを現地に搬送して現地でそれらのパーツから台車と扉本体を含む大扉を組み立てる場合に比べて有利であるということを意味するにすぎない。当然ながら台車を予め工場で製作して現場に搬送すれば、台車を現場で製作する地組スペースや時間も不要となるからである。従って、上記組み立て時間やスペースの有利性に関する作用・効果(三)は、構成要件Dの解釈や台車上で扉本体の各パーツをどのように組み立てるかを限定解釈するような事項にはならず、一方で本件工事現場の施工においても予め製作された台車が本件工事現場に搬送されている以上、同様に生じる作用・効果に過ぎない。甲14号証の「扉地組ヤード」は現場の作業スペースの極一部にしか過ぎず、本件施工方法で地組をするのは、各ブロックを2個又は3個縦に組み立てて細長い新たなブロックとするためであり、その大きさは大扉全体の約3分の1未満であるから、「組み立て時に広範囲の平地スペースがいらない」という本件発明の効果が十分現れている。
(3)作業車(レッカー車)の吊り上げ動力や作業の安全性に関する作用・効果(四)もまた、構成要件Dの解釈や台車上で扉本体の各パーツをどのように組み立てるかを限定解釈するような事項にはならず、一方で本件工事現場の施工においても予め製作された台車が本件工事現場に搬送されている以上、同様に生じている作用・効果に過ぎない。
(4)よって、「台車上で各パーツを、縦すなわち垂直方向に組立てることが必須である」との本件発明の誤った解釈に基づいて、本件発明が新規性及び進歩性を具備するとの主張もまた誤っており、本件発明の構成要件A?Dの全ては、甲第14号証の図、甲第17号証、甲第23号証?甲第41号証などに示される本件工事現場における施工で既に実施されていたのである。
(5)万が一、被請求人が主張するように本件特許において「台車上で各パーツを、縦すなわち垂直方向に組立てることが必須である」解釈がされ、本件工事において実施された大扉施工方法と本件発明とが、台車上に各パーツを組み立てる点てわずかに相違しているとしても、それは本件発明が本件工事おいて実施された大扉施工方法に対して進歩性を具備するような相違にはなりえない。本件工事現場では、台車(ブロック1)の左側(三分の一の領域)上に、ブロック2の上に予めブロック3が組み合わされた組合せブロックが組み付けられており、台車の中央部(三分の一の領域)の上に、ブロック4?6が予め組み合わされた組合せブロックが組み付けられており、さらに、台車の右側(三分の一でも、ブロック7及び8が予め組み合わされた組合せブロックが組み付けられた。このように予め複数のブロックを組み合わせて台車上に積載したのは、証人尋問における証人福田康孝氏が証言したように、安全上や作業の効率の点からであり、元々は甲第1号証に記載のように台車上にブロックが一つずつ順に組み込まれる予定であった。しかし、一旦、台車が下レール上に載置されたならばその上に各ブロックをどのような順序で組み込むかは現場の作業においていかようにでも変えられる作業に過ぎない。現場の作業者であれば、現場に地組するスペースがあれば、作業の安全性や効率を優先して、ブロックを一つずつ台車上に組み立てる代わりに、いくつかのブロックを地組にしてクレーンで吊り上げる方法を考えるであろう。被請求人も口頭審理要領陳述書(第3頁11?13行)や上申書(第5頁19?25行)で認めているように扉本体のパーツの地組を行うことで本件発明の範囲から除外されるものでもない。従って、本件工事において実施された大扉施工方法と本件発明とが台車上に各パーツを組み立てる点でわずかに相違しているとしても、本件発明の構成は、当業者であれば、甲第14号証の図、甲第17号証、甲第23号証?甲第41号証などから本件工事現場にて実施されていた施工方法から容易に予測できたものある。
本件発明の効果のうち、組み立て時間やスペースの有利性に関する効果(三)と上記作業車(レッカー車)の吊り上げ動力や作業の安全性に関する効果(四)は、本件工事現場にて実施されていた施工方法でも同様の効果が生じていた。
(6)以上のことより、本件発明と本件工事現場における施工方法とが発明の構成において相違があったとしても当業者が容易に予測できる範囲のものであり、その効果においては同一である。それゆえ、本件発明は、本件特許の出願前に公然と行われた本件工事現場における施工方法から当業者が容易に想到できたものである。よって、本件特許は無効にされるべきである。
(平成29年2月21日付け上申書第5?12頁)

第4 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張に対して、概ね以下のとおり反論している(平成28年5月20日付け答弁書、同年12月22日付け口頭審理陳述要領書、平成29年2月8日付け上申書を参照。)。また、証拠方法として乙第1号証ないし乙第5号証を提出している。

(証拠方法)
提出された証拠は、以下のとおりである。
乙第1号証:本件発明と各甲号証で開示された構成との対比表
乙第2号証:新技術情報提供システム、「大型扉台車方式建て方設置工法」
乙第3号証:「大型扉現場建て方」の比較表
乙第4号証:甲第14号証(電子データ)のプロパティ
乙第5号証:兵庫県弁護士会を介して得られた照会先・佐世保重工業株式会社からの回答書

1 無効理由1について
(1)甲第1号証は公知文献たりえない。すなわち、甲第1号証は明らかに非売品であり、配布先や配布日については記載されていない。また、請求人の主張によれば、甲第1号証の各頁右下には「文化シャッター株式会社」と記載してあるが、実際には、この施工計画書は尾浜プレス株式会社により平成21年10月23日に作成された(甲第7号証にて証明)とあるのに対して、甲第1号証の表紙に「平成21年10月」とある以外には、日付の記載がほとんどなく、甲第1号証に添付された別図1の右下の名称欄に「別図1 10/30.31」と、上記作成された「10月23日」よりも後で、しかも甲第7号証において、配布事実とするところの「10月30日まで」から外れた日付「10月31日」と推認される記載がなされている。また、甲第7号証において、甲第1号証の実際の配布先とするところの、「佐世保重工業 第5ブラスト・塗装工場新築工事における大扉工事関係者」との記載が抽象的である。さらに、甲第1号証に添付されているはずの別図2がなく、表紙の営業・担当・施工管理欄にサイン又は職制印の記載がなされていない。したがって、甲第7号証の信憑性に疑義があり、甲第1号証は公知文献たりえない、といわざるをえない。
(答弁書6頁9?22行)
(2)仮にこの点をさしおいても、甲第1号証の実質的証拠力に問題がある。すなわち、本件発明1の構成BないしD、本件発明2の構成E、本件発明3の構成G、本件発明4の構成Gについては、以下のとおり甲第1号証に開示されていない。したがって、本件発明1ないし4は、甲第1号証に記載されたものと同一ではなく、新規性を有している。
ア 構成B
甲第1号証では、トレーラー1車で下部レール、2車で扉本体を建物のある所定場所(地組するものは「扉地組ヤード」、地組しないものは「扉本体ストックヤード」)に搬入しており、単体の台車と該台車以外のパーツを搬送するとの記載はない(甲第1号証の第5頁、その本文文末から第3-11枚目に添付された図面参照)。この点、請求人は、用語「扉本体」は組立てられた扉ではなく、台車とそれ以外のブロックを含む扉のパーツを意味している。・・・図2の右図には、「扉地組ヤード」を設け、この中に扉本体の一部であるブロック1(台車)を配置した様子が示されていると主張することから、台車が地組するものであることを認めている。
イ 構成C
請求人は、甲第1号証には、搬送されたブロック(大扉台車部)を、本件工場の下部レール上に搭載することが開示されていると主張するが、甲第1号証では、上記のように、建物の扉地組ヤードで前記搬送された扉本体から大扉台車部を地組しており、ここでも単体の台車の形で搬送されたとの記載はない(甲第1号証の第8頁参照)。
ウ 構成D
請求人は、甲第1号証には、搬送されたブロック2ないしブロック8から扉本体を、ブロック1の上に位置合わせをしてボルトを入れることにより組み立てる大扉施工方法・・・が開示されていると主張するが、甲第1号証では、扉地組ヤード又は扉本体ストックヤードで前記搬送された扉本体を地組又はストックしており、前記搬送された各パーツから扉本体を、この単体の台車上に・・・組み立てるとの記載はない(甲第1号証の8頁、その本文文末から第3-11枚目の添付図参照)。
エ 構成E
甲第1号証には、本件発明1の構成BないしDとさらに一体不可分となっている構成Eの前記台車設置工程では、前記単体の台車は、前記建物開口部の下レール周りの地上から仮支持可能であることは開示されていない。
オ 構成F
甲第1号証には、本件発明1の構成BないしDとさらに一体不可分となっている構成Fの前記扉本体組立工程では、前記扉本体は、前記建物開口部の上レールと前記単体の台車との間に枠組み可能であることは開示されていない。
カ 構成G
甲第6号証は従来の扉構造の補強例を記載しているにすぎず、また本件発明4は本件発明3を引用するものである。したがって、甲第1号証には、本件発明1の構成BないしDとさらに一体不可分となっている構成Gの前記扉本体の枠組みは補強可能であることは開示されていない。
(答弁書6頁23行?7頁22行、9頁下から4行?10頁14行)
(3)甲第1号証「大扉施工計画書」の内容及び、請求人が主張する作成経緯に疑わしい点が多々あるほか、この証拠能力を裏付けるとされる各証拠も不自然な点が多々存している。よって、平成21年当時に何らか工事がなされていたとして、その際に存在した「計画書」が甲第1号証と同じものであったか、きわめて疑わしいというものである。よって、甲第1号証の計画書が関係者に配布されたことを前提とした判断は避けられるべきであり、したがって請求人による「公知」の主張は前提が崩れるものである。請求人は、当該工事の際に実際に存在したと確信が持てる「大扉施工計画書」を証拠提出するべきであり(せめて表紙に関係者の押印が必要であろう)、これが提出されない限りは、平成21年の工事当時に存在した「計画書」は杳として知れぬ=立証がない、というかたちで判断がなされるべきである。
(口頭審理陳述要領書10頁20行?11頁1行)
(4)請求人が提出した証拠である、注文書及び注文請書(甲第18,19号証)の約款第15条(機密保持)の記載があるところ、工事関係者には工事内容について守秘義務が課されて、これが守られていたと考えるのが相当である。
よって、仮に甲第1号証が存在していたとしても、それが秘密状態を脱していないことは明らかであるから、本件発明の「公知」には該当せず、請求人の主張するところの無効理由1は存在しないから、請求人のかかる主張は認められない。
(口頭審理陳述要領書11頁5?13行)

2 無効理由2について
(1)甲第1号証は、(甲第5号証の黒板に撮影された)下部レール取付け時の(安全)対策として、玉掛け作業の専任作業、仮囲いなどの作業範囲の確保、周囲の確認、人払いの徹底といった記載をしており(甲第1号証の第7頁第14-17行目参照)、該甲第1号証の本文の文末から第1、3-11、14枚目の添付図には、区画防護フェンスを設けるとともに、その内部に立入禁止区域を設けているから、「甲第5号証に示すとおり、尾浜プレス株式会社は、大扉施工計画書に従う工事を行うに際して、外部から見えないようにする措置は特段取っていない」とは言い難く、「(ブロックなどの重量物を取り扱い、しかも高所作業を含む危険な)作業場所に、工事関係者のみならず工事現場に立ち入った不特定人にも知り得る状況で作業は行われていた」ことが事実である場合には、安全上大いに問題がある。この点、甲第5号証では、区画防護フェンスが撮影されていることから、むしろ工事関係者以外の不特定人が立ち入ることを禁止している証左であるといえる。したがって、本件発明1ないし4は、その出願前に日本国内で公然実施されたものとはいえず、新規性を有している。(答弁書10頁下から4行?11頁9行)
(2)実際に施工した工事が本件発明の実施にはならないこと
請求人が主張する施工工事の内容を立証写真から読み解くに、甲第14号証の図と甲第17号証の作業手順にしたがって扉本体を現場の地面で地組し、地組された(つながった状態の)大扉を大型クレーンで建て込み作業をしており、台車上で扉本体の組立がなされていないことが認められる(甲第31?38号証の写真I?Pは写真である以上、実際になされた工事の様子を示しているものと思われる)。すなわち、本件発明1の構成Dが実施されていないわけである。
ここで、本件発明では、台車を製作工場でユニット化し、現場にて台車をクレーンで建て方作業をし、その台車の上に大扉のパーツである上部骨構造をノックダウン方式で建て方作業をする。そのため、上記のような本件発明1の構成Dを備えており、本件発明の実施においては扉本体の地組を必ずしも必要としないことを特徴とするものである(なお、少しでも地組があれば本件特許の請求の範囲から外れるとまで主張するものではない)。
その一方、請求人が立証写真において示している工事は、あくまで従来技術に拠るものである。これは、国土交通省により新技術の活用のため新技術に関わる情報の共有及び提供を目的としてインターネット上などで整備された新技術情報提供システム(New Technology Information System:NETIS)における従来技術の「大型扉地組方式建て方設置工法」に相当するものである(乙第3号証の右欄参照)。
すなわち、立証写真に現れている工事は、甲第14号証の図と甲第17号証の作業手順にしたがって扉本体を現場で地組し、大型クレーンで建て込み作業をしており、従来技術の「大型扉地組方式建て方設置工法」そのものである。ここでは、新技術の「大型扉台車方式建て方設置工法」(乙第2号証,乙第3号証の左欄参照)のごとく、台車上で扉本体を組み立てるという、従来技術にはなかった作業手順での施工がなされていない。この新技術は、被請求人が、本件発明に係る特許出願について、その出願日(平成23年2月28日)直後にNETISに申請して登録されたものである(NETIS登録番号 KK-110059-A)。
(口頭審理陳述要領書3頁1行?下から4行)
(3)公然実施でないこと
ア 同時に、立証写真のとおりの施工が行われたとしても、これによって本件発明が「公然」となったことを示す事情にはならない。
なぜなら、請求人が審尋回答書において提出した証拠である、注文書及び注文請書(甲第18,19号証) の約款第15条(機密保持)の記載があるところ、工事関係者には工事内容について守秘義務が課されて、これが守られていたと考えるのが相当であるためである。この点、上記第15条(機密保持)における「機密」の範囲が必ずしも明確に定義されているわけではない。しかし、上記第15条を上記第14条(受注者に関する情報)とのセットで読めば、第14条第15条の例外規定として位置づけられていることから、第14条で指定された「個別契約において入手する受注者の個人情報」は当然に、第15条における「機密」に該当すると解される。とすれば、第15条における「機密」とは、(公になっていること以外の)およそ契約の内容に関する事項を示すと考えるのが、この契約書の文言から読み取ることができる、当事者の合理的意思である。
そして、これら注文書及び注文請書(甲第18,19号証)は文化シャッター株式会社と尾浜プレス株式会社との間の契約書になる。ただ、尾浜プレス株式会社より下位の各当事者(甲第1号証3頁)に対しては、同社の履行補助者の立場になるため、当然に尾浜プレス株式会社と同様の守秘義務を課されていることになる。また、これら契約書において何故に、文化シャッター株式会社が下請けの尾浜プレス株式会社に守秘義務を課したのかを考えるに、それは文化シャッター株式会社が自らより上位の事業者に対して、やはり守秘義務を負っていたためと考えるのが自然である。なにより工事の規模に鑑みれば、同様の義務を各工事関係者が負っていたものと考えるのが社会通念に合致する(仮に、請求人は、他の工事関係者が守秘義務を負わされていなかったと主張するのであれば、各工事関係者間の契約書を証拠提出して、これを立証するべきものと考える)。 各工事関係者は当該施工について、公にすることはできない義務を課されていたことに鑑みれば、「公然」を否定する事情であると捉えるのが自然である。
この点請求人は、工事関係者は大扉の施工に関して守秘義務は課されていなかったと主張する。これは、工事関係者が揃って、契約違反をしていたと主張するに等しく、社会通念に照らして極めて不自然な主張になる。契約書という客観的な証拠において、守秘義務が課されている旨の記載があった以上、これが守られていたと考えるのが社会通念であり、これが守られていなかった、かつ守られていなかったことが許容されていたと主張するのであれば、こうした社会通念に照らして例外的な事態の存在を主張する側(請求人)が、具体的な証拠をもって、そうした実態が存在したことを立証するべきものと考える。そして、こうした立証が一切存在しない以上、立証写真のとおりの施工がなされていたとしても、本件特許発明が「公然」となったことは否定されるべきと考えるのが相当である。
イ 請求人は、甲第1号証等に記載された仮囲いや、周囲の安全確認、人払いの徹底、区画防護フェンスなどについてはいずれも安全上の見地から設けられたものであり、外部から見えないようにするための措置ではないと主張し、甲第5号証の写真の「白い建物」からは下部レールを含む工事現場がよく見える状況にあったと主張している。
しかし、当該仮囲いが仮に、外部から見えないようにするための措置ではなかったとしても、安全上(そこに人を寄せ付けないようにするため)の措置であったことは、請求人も認めるところである。大型扉の工事をする以上、安全上の見地から、最低限の工事関係者のみがその場に居合わせたものであることは想像に難くなく、少なくとも「誰でも自由に見ることができる」状態ではなかったことは明白である。
また請求人が主張する「白い建物」についても、写真(甲第4、5号証)によると3階建て程度の低層の建物であり、そこに殊更実際に施工した工事を狙い撃ちするべく双眼鏡を持った産業スパイでもいるのであればいざ知らず、「白い建物」から工事現場が見えたとしても、果たして工事内容を正確に把握できる程度に見えていたのか疑わしい。
仮に工事内容を正確に把握できたとしても、実際に施工した工事とは異なる本件特許の「大扉システムの生産方法」が実施されたことを認識できたとは考えられず、この建物の存在によって「公然性(秘密の範囲を脱出したこと)」が認められるというのは、あまりに無理がある。むしろ、ブラスト・塗装工場の近傍に第三者の建物があるのは環境上問題であるところ、「白い建物」は第三者が自由に立ち入ることのない工場敷地内の建物の1つであると推認すらされるところである。
ウ 以上より、実際に施工した工事は本件発明の「公然実施」には該当せず、請求人の主張するところの無効理由2は存在しないから、請求人のかかる主張は認められない。
(口頭審理陳述要領書4頁13行?6頁15行)

3 無効理由3について
(1)甲第1号証では、上記したように、「扉地組ヤード」及び「扉本体ストックヤード」の記載があるが(甲第1号証の本文文末から第3-11枚目の添付図参照)、本件発明では、単体の台車が搬送されているから、その搬送先である建物の敷地内で地組するための「扉地組ヤード」は不要であるといえる。
したがって、甲第1号証の技術だけでは、「従来例のような複数の台車を扉本体に取り付ける場合のように、台車の扉本体への取り付け精度が大扉の開閉不良を生じることはありえない。大扉の全体を現地で組み立てる場合に比べて、組み立て時間を短縮できるとともに、組み立て時に広範囲の平地スペースがいらないため、天候(降雨など)に工程が左右されず、また、電装製品を雨風から守れる。」との、本件発明のごとき格別の作用・効果を奏することができない。
よって、本件発明1ないし4は、甲第1号証などより公然知られた大扉施工方法に基づいて、あるいは、甲第1号証などより公然実施された大扉施工方法に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明できたものとはいえず、進歩性を有している。
(答弁書11頁17行?12頁2行)

4 無効理由4について
(1)甲第6号証は、従来の扉構造の補強例を記載しているものに過ぎず、本件発明1の構成AないしDを備えていないことは明らかである。よって、たとえ甲第6号証と甲第1号証とを組み合わせたとしても、本件発明1の構成AないしDを備えることにはならず、本件発明のごとき格別の作用・効果を奏することができない以上、請求人の主張は不当である。
したがって、本件発明4は、甲第1号証などより公然知られた大扉施工方法に基づいて、あるいは、甲第1号証などより公然実施された大扉施工方法に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明できたものとはいえず、進歩性を有する。
(答弁書12頁11?18行)

5 秘密保持義務について
請求人は本件工事に関し、関係者に秘密保持義務は課せられていなかったと主張するが、これまで被請求人が主張してきたとおり、文化シヤッター株式会社と尾浜プレス株式会社は互いに秘密保持義務を負っていた(甲第18,19号証15条)。
尾浜プレス株式会社の下請けである橋本竜二は、その履行補助者である以上、より上位の文化シヤッター株式会社に対して秘密保持義務を負っていたと解される。同人は秘密保持義務を負っていなかった旨を証言するが、これは同人の意識が及んでいないだけである。
また、現代社会において大規模な工事当事者において、一定の秘密保持義務が当事者間に発生するのは社会通念である。仮にこれが課せられていないと主張される場合、課せられていないと主張する側が積極的に契約内容をもって立証をするべきである。
この点、弁護士法23条の2に基づき、兵庫県弁護士会を通じて、本件工事の施主である佐世保重工業株式会社に照会したところ、同社は一般論として工事を発注するにあたって、請負人に対して「取引基本契約書」によって秘密保持義務を負わせることを回答した(乙第5号証3枚目記載の3項、添付3(原文は丸数字)第26条)。よって、本件工事の請負人である大成建設株式会社においても、佐世保重工業株式会社に対して秘密保持義務を負っていたことは容易に想定できる。とすれば、大成建設株式会社よりも下位の事業者(不二サッシ株式会社、文化シャッター株式会社等)も履行補助者として大成建設株式会社と同様に佐世保重工業株式会社に対して、秘密保持義務を負っていたと解するのが相当である。また、丸福建設株式会社もやはり大成建設株式会社の履行補助者として、同様に秘密保持義務を負っていたと言える。大成建設株式会社の稲永真人は本件工事において秘密保持義務を負っていなかった旨を陳述するが、証拠調べにおける反対尋問を通じた検証を受けていないものであり、この陳述通りの事実認定は避けられるべきである。
以上より、本件工事の各当事者には秘密保持義務が課せられていたものであるところ、工事内容について秘密の範囲を脱したとは評価しえない。よって、公知性は認められず、また公然実施がなされたとも認めることができない。
(平成29年2月8日付け上申書第2?3頁)

6 本件発明の要旨認定について
(1)本件発明1の要旨は、「特許請求の範囲」に記載のとおりであり、以下の作用・効果(三)(四)を奏する。
(三)大扉の全体を現地で組み立てる場合に比べて、組み立て時間を短縮できるとともに組み立て時に広範囲の平地スペースがいらないため、天候(降雨など)に工程が左右されず、また、電装製品を雨風から守れる。
(四)組み立て用の作業車(レッカー車)の吊り上げ動力も軽減できるとともに工場に比べて条件の悪い現地での作業の安全をも考慮することができる。
(2)ところで、従来は、工場での製作過程において、各台車の取り付けまでしてほぼ完成状態とした大扉を、トラックやコンテナなどで現地に搬送して、そこに設置するのが一般的であった。しかし、近年の扉の天型化につれて、工場で製作した大扉をそのまま現地に搬入しようとすると、トラックやコンテナなどで搬送できる寸法制限を超えるものがでてきた。その揚合心大扉を適当に分解して現地に搬送することが考えられる(本件特許明細書の段落【0002】,【0003】参照)。
例えば、国土交通省により新技術の活用のため新技術に関わる情報の共有及び提供を目的としてインターネット上などで整備された新技術隋報提供システム(NETIS)における従来技術の「大型扉地組方式建て方設置工法」では、現場にて鉄骨を地組し、大型クレーンで建て方作業をする(乙第2号証、乙第3号証の右欄参照)。
ここで、本件工事は、製作工場で製作した台車と扉本体の構成要素となる複数のブロックを現場に搬送し、この搬送された複数のブロックのうち少なくとも扉本体の構成要素となるブロック同士を現場の地面で連結(鉄骨を地組)しており、この連結したブロックを一体として大型クレーンで吊り上げることにより台車の構成要素となるブロック上に乗せてボルトで該ブロックとの連結(建て方作業)をするものであるから、上記従来技術そのものである(甲第14号証、甲第17号証、甲第31?38号証を参照)。
(3)この点、本件発明では、「台車上」で扉本体の各パーツを「組み立てる」ことが重要な要素となっており、それ故に「組み立てスペースが少なくて済む」、「組み立て用の作業車の吊り上げ動力も軽減できる」(本件特許明細書の段落【0009】)などとされている。
したがって、従来技術のような、扉本体の各パーツを台車上で組み立てずに台車外で「組み合わせ」、それをクレーンで縦に「立てて」そのまま設置する方法では、このような作用・効果を奏することはおよそ不可能である以上、本件発明においては、台車外で組んだものをそのまま縦に立てる代わりに、「台車上」で各パーツを、縦すなわち垂直方向に「組み立てる」ことが必須条件となる。
ところが、本件工事では、従来技術と同様に台車上で各パーツを縦すなわち垂直方向に組み立てることなく、クレーンでそのまま縦に立てて設置している(甲31?38)。そして、このような台車外で組み合わせたものを縦に立てて設置する方法では、台車外のどこかで各パーツの組み合わせをしなければならず、通常は各パーツを地組ヤードで地組せざるを得なくなる。現に、本件工事の実際の施工方法に沿っているとされる甲14号証の図面では、「扉地組ヤード」という広い組み立てスペースが設けられており、本件発明の作用・効果は全く発揮されていない。
この点、理論的には、各パーツを施工現場とは全く別の場所で組み合わせた上で現場に搬送し、それを縦に立てて設置することも考えられ、その場合は現場での地組は不要となる。しかし、現場での地組が不要だとしても、そのまま縦に立てて設置する方法では、作業車の吊り下げ動力の軽減もできず、台車上で縦すなわち垂直方向に各パーツを組み立てるという本件発明の必須条件を満たしていないため、やはり本件特許の対象から外れることになる(もっとも、扉本体の寸法からして、現場と別の場所で組み合わせて搬送することは事実上不可能であるから、上記のとおり、「通常は」地組ヤードで扉の地組をせざるを得ない。)。
したがって、本件発明にあたるかどうかの決定的なメルクマールは、「台車外」で「組んだ」ものをそのまま縦に「立てる」のか、「台車上」で各パーツを縦すなわち垂直方向に「組み立てる」のかであり、地組を行ったかどうかとは必ずしもリンクしない。あえて本件発明と地組との関係を言えば、本件工事のように台車外で「組んだ」ものをそのまま縦に「立てる」ためには、通常、台車外で組むためのスペースにおける地組が必要となることから、地組をしている場合には本件発明の対象から外れることが「多く」なり、逆に、本件発明では、「台車上」で各パーツを縦すなわち垂直方向に「組み立てる」ことができるので、通常、地組をする必要はない、ということになる。
(4)このように、本件工事は、従来技術と同様に、現場で鋼材を地組し、大型クレーンで吊り上げることにより建て方作業をするものであるから、本件発明の構成要素D「前記搬送された各パーツから扉本体を、この単体の台車上に合わしてボルトを入れることにより組み立てる扉本体組立工程」を必須としていないことは明らかである。ゆえに本件工事は、従来技術と同様に、本件発明において認められる格別の作用効果(三)(四)は到底奏し得ない。すなわち、組み立て時間を短縮できるとともに組み立て時に広範囲の平地スペースが要らないため、天候(降雨など)に工程が左右されず、また、電装製品を雨風から守れる。組み立て用の作業車(レッカー車)の吊り上げ動力も軽減できるとともに、工場に比べて条件の悪い現地での作業の安全をも考慮することができるといった格別の作用効果(三)(四)を認めることができないものである。
(平成29年2月8日付け上申書第3?6頁)

第5 証拠について
1 甲第1号証
甲第1号証は、「工事名称」を「佐世保重工業 第5ブラスト・塗装工場 新築工事作業所」とする「大扉施工計画書」であって、以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同様。)。
(1)表紙
工事名称及び書類名の他に、「平成21年10月」、「営業」「担当」「施工監理」の押印欄、「文化シヤッター株式会社」と記載されている。
(2)「第1章 総則」(Page1)
「1-1 適用範囲
本施工計画書は、佐世保重工業 第5ブラスト・塗装工場新築工事のうち、大扉工事の、運搬から施工完成までの工事に適用する。」
(3)「第2章 工事概要」(Page2)
「2-1 工事名称
佐世保重工業 第5ブラスト・塗装工場新築工事
2-2 工事場所
長崎県佐世保市立神町17-1
2-3 発注者
佐世保重工業株式会社
2-4 設計管理
丸福建設株式会社 一級建築士事務所
2-5 工事施工者
大成建設株式会社 九州支店
2-6 全体工期
平成21年6月6日 ? 平成22年3月31日
当社工期
平成21年10月30日 ? 平成21年12月31日 」
(4)「第3章 施工体制」(Page3)
「設計管理 丸福建設株式会社 一級建築士事務所」
「総合施工 大成建設株式会社 九州支店
現場代理人 吉村和夫
監理技術者 稲永真人」
「施工 一次 不二サッシ株式会社」
「施工 二次 文化シヤッター株式会社
担当 土井添邦夫」
「施工 三次 尾浜プレス株式会社」
「設計・品質管理・生産 担当 増本隆生」
「営業 担当 増本良登」
「工事 担当 吉貞秀晴」
「電気 担当 橋本竜二」
(5)「第5章 運搬」(Page5)
「5-1 搬入計画
工事に先立ち、工場より現場までの道路事情を考慮し、鉄骨搬入ブロックを決める。」
「5-2 搬入台数
下部レール トレーラー 1車
扉本体 トレーラー 2車」
(6)「第7章 取付工事」(Page7、8)
「7-2 取付要領
1(原文では丸数字)下部レール取付」
「2(原文では丸数字)ケーブルレール取付」
「3(原文では丸数字)大扉建込(別図3・4参照)
扉1枚(8ブロック)で構成されている。
建込順序は、建屋内部側より外部側へと進む。
・大扉台車部を建込み、鋼材及びワイヤーで固定する。
・図3のように、固定台車と次のブロックをボルト(HTB)で固定する(介錯ワイヤーで固定)
・一枚目を建込むと、2枚目はタンカン及びクランプで固定し建込む。」
(7)下欄に文化シヤッター株式会社、第5ブラスト・塗装工場新築工事と記載されているNo.1/7ないし7/7からなる7枚の図面
ア No.1/7図面
「大扉工事作業エリア」が示されている。
イ No.2/7図面
(ア)左側に「1(原文は丸数字)搬入時 作業区画及び立入禁止区画」と題する図面が図示されており、図中に「ラフター」及びその「旋回範囲」、「扉本体ストックヤード」が示されている。
(イ)右側に「2(原文は丸数字)仮置時 作業区画及び立入禁止区画」と題する図面が図示されており、図中に「ラフター」及びその「旋回範囲」、「扉建込位置」、「扉地組ヤード」が示されている。
ウ No.3/7図面
「3(原文は丸数字)下部ブロック1(原文は丸数字)据付時」と題する図面が図示されており、左側の平面図には「ラフター」及びその「旋回範囲」、「高所作業車」、「扉地組ヤード」が示されおり、また、右上側に「扉建込断面」、右下側に「1(原文は丸数字)ブロック固定」と題する図面が示されている。
エ No.4/7図面
「4(原文は丸数字)各ブロック据付時」と題する図面が図示されており、左側の平面図には「ラフター」及びその「旋回範囲」、「高所作業車」、「扉地組ヤード」が示されており、また、右側に「扉建込断面」と題する図面が示されている。
オ No.5/7図面
「5(原文は丸数字)各ブロック据付時」と題する図面が図示されており、左側の平面図には「ラフター」及びその「旋回範囲」、「高所作業車」、「扉地組ヤード」が示されており、また、右上側に「扉建込断面」、右下側に「A詳細」「B詳細」と題する図面が示されている。
カ No.6/7図面
「6(原文は丸数字)ブロック建込順及び各ブロック重量」と題する図面が図示されており、左上側に建て込まれた大扉が、左下側にブロックの建込順が、右上側に各ブロックが図示されている。
上記(6)を踏まえてブロックの建込順の図を見ると、台車のブロック1の上に、扉のブロック2?8が1つづつ順に取り付けられていることが見て取れる。
キ No.7/7図面
「6(原文は丸数字)2枚目据付時」と題する図面が図示されており、左側の平面図には「ラフター」及びその「旋回範囲」、「高所作業車」、「扉地組ヤード」が示されており、また、右側に「扉建込断面」と題する図面が示されている。
(8)別図4
別図4には、建込ステップ1ないし建込ステップ8の8つの図が示されており、上記(6)及び上記(7)カを踏まえてそれらの図を見ると、台車のブロック1の上に、扉のブロック2?8が1つづつ順に取り付けられていることが見て取れる。

2 甲第2号証
甲第2号証の4頁左欄の「佐世保重工業」欄に「佐世保重工業(株)佐世保造船所にて、昨年6月より着工していました第5ブラスト・塗装工場が本年3月19日竣工しました。」と記載されているとともに、「外観」と「ブラスト・塗装室」の写真が掲載されている。
甲第2号証は、2010年発行であるから、第5ブラスト・塗装工場は、2009年(平成21年)6月より着工して、2010年(平成22年)3月19日に竣工したと認められる。

3 甲第13号証
甲第13号証は、「工事名称」を「佐世保重工業 第5ブラスト塗装工場 新築工事作業所」とする「跳上扉施工計画書」であって、以下のとおり記載されている。
(1)表紙
工事名称及び書類名の他に、「平成21年10月」、「営業」「担当」「施工監理」の押印欄、「文化シヤッター株式会社」と記載されている。
(2)「第1章 総則」(Page1)
「1-1 適用範囲
本施工計画書は、佐世保重工業 第5ブラスト塗装工場新築工事のうち、大扉工事の、運搬から施工完成までの工事に適用する。」
(3)「第2章 工事概要」(Page2)
「2-1 工事名称
佐世保重工業 第5ブラスト塗装工場新築工事
2-2 工事場所
長崎県佐世保市
2-3 発注者
佐世保重工業株式会社
2-4 設計管理
丸福建設株式会社 一級建築士事務所
2-5 工事施工者
大成建設株式会社 九州支店
2-6 工期
平成 年 月 日 ? 平成 年 月 日」
(4)「第3章 施工体制」(Page3)
「設計管理 丸福建設株式会社 一級建築士事務所」
「総合施工 大成建設株式会社 九州支店」
「施工 一次 文化シヤッター株式会社」
「施工 二次 尾浜プレス株式会社」
「設計・品質管理・生産 担当 増本隆生」
「営業 担当 増本良登」
「工事 担当 吉貞秀晴」
「電気 担当 橋本竜二」
(5)「第5章 運搬」(Page6)
「5-1 搬入計画
工事に先立ち、工場より現場までの道路事情を考慮し、鉄骨搬入ブロックを決める。」
「5-2 搬入台数
下部レール 15tトラック 1車
扉本体 トレーラー 2車」
(6)「第7章 取付工事」(Page8、9)
「7-2 取付要領
1(原文では丸数字)下部レール取付」
「2(原文では丸数字)ケーブルレール取付」
「3(原文では丸数字)大扉建込(別図3・4参照)
扉1枚(8ブロック)で構成されている。
建込順序は、建屋内部側より外部側へと進む。
・大扉台車部を建込み、鋼材及びワイヤーで固定する。
・図3のように、固定台車と次のブロックをボルト(HTB)で固定する(介錯ワイヤーで固定)
・一枚目を建込むと、2枚目はタンカン及びクランプで固定し建込む。」
(7)別図4
別図4には、建込ステップ1ないし建込ステップ8の8つの図が示されており、上記(6)を踏まえてそれらの図を見ると、台車のブロックの上に、扉の8つのブロックが1つづつ順に取り付けられていることが見て取れる。

4 甲第14号証
甲第14号証は、下欄に文化シヤッター株式会社、第5ブラスト・塗装工場新築工事と記載されているNo.1/7ないし7/7(5/7は欠番)からなる6枚の図面である。
ア No.1/7図面
「大扉工事作業エリア」が示されている。
イ No.2/7図面
(ア)左側に「1(原文は丸数字)搬入時 作業区画及び立入禁止区画」と題する図面が図示されており、図中に「ラフター」及びその「旋回範囲」、「扉本体ストックヤード」が示されている。
(イ)右側に「2(原文は丸数字)仮置時 作業区画及び立入禁止区画」と題する図面が図示されており、図中に「ラフター」及びその「旋回範囲」、「扉建込位置」、「扉地組ヤード」が示されている。
ウ No.3/7図面
「3(原文は丸数字)下部ブロック1(原文は丸数字)据付時」と題する図面が図示されており、左側の平面図には「ラフター」及びその「旋回範囲」、「高所作業車」、「扉地組ヤード」が示されおり、また、右上側に「扉建込断面」、右下側に「1(原文は丸数字)ブロック固定」と題する図面が示されている。
エ No.4/7図面
「4(原文は丸数字)各ブロック据付時」と題する図面が図示されており、左側の平面図には「ラフター」及びその「旋回範囲」、「高所作業車」、「扉地組ヤード」が示されており、また、右上側に「扉建込断面」、右下側に「A詳細」「B詳細」と題する図面が示されている。
オ No.6/7図面
「6(原文は丸数字)ブロック建込順及び各ブロック重量」と題する図面が図示されており、左上側に建て込まれた大扉が、左下側にブロックの建込順が、右上側に各ブロックが図示されている。
ブロックの建込順の図を見ると、下部ブロック1の上に、ブロック2と3、ブロック4ないし6、ブロック7と8が順に取り付けられていることが見て取れる。
カ No.7/7図面
「6(原文は丸数字)2枚目据付時」と題する図面が図示されており、左側の平面図には「ラフター」及びその「旋回範囲」、「高所作業車」、「扉地組ヤード」が示されており、また、右側に「扉建込断面」と題する図面が示されている。

5 甲第17号証
甲第17号証は「作業手順書」であって、以下の事項が記載されている。
「工事名称 佐世保重工業 第5ブラスト・塗装工場新築工事
作業名 大扉取付作業
作業期間 平成21年10月30日?平成21年11月30日
作成年月日 平成21年10月273日
作成者 増本隆生 」(1枚目の左上欄)
「施工会社名 一次 文化シヤッター株式会社
二次 尾浜プレス株式会社
担当職長名 吉貞秀晴 」(1枚目の右上欄)
「(作業工程)
2製品搬入
(作業の手順)
移動式クレーンによる荷降ろし
仮置き 」(2?3枚目)
「(作業工程)
3下部レール取付
(作業の手順)
墨出し
移動式クレーンによる下部レール
位置決め
溶接作業 」(3枚目)
「(作業工程)
4扉搬入
(作業の手順)
移動式クレーンによる荷降ろし
仮置き 」(4枚目)
「(作業工程)
5扉立込
(作業の手順)
移動式クレーンによる組立
扉材1(原文は丸数字、以下同様)を建屋内部側のレール上に固定する
扉材2と3を地組ヤードにて地組み
扉材2と3を1の上に乗せボルト及びガイドローラーで固定する。
扉材4、5、6を地組ヤードで地組
扉地組4、5、6を1、2、3とボルトにて接続する。
扉7と8を地組ヤードで地組
扉7、8と1?6をボルト及びガイドローラーにて固定
1の固定材を外部側のみ取外す。
以上の立込みを二枚目・三枚目と繰り返す
但し、二枚目は一枚目より単管及びクランプにて固定して立込む」(4?5枚目)

6 甲第18号証
甲第18号証は、その記載内容から、(受注者)尾浜プレス株式会社が(発注者)文化シャッター株式会社から受けた、第5ブラスト塗装工場新築工事に関する、2009年(平成21年)9月1日付けの注文書及び工事指示書であると認められる。
甲第18号証の注文書及び工事指示書には、納品場所及び工事場所として「佐世保市立神町17-1」と記載されているから、「第5ブラスト塗装工場」は「佐世保重工業」の工場であると認められる。
また、納期及び工期として、「2009年10月10日?2010年3月30日」と記載されている。
加えて、それらの「約款」の「第15条(機密保持)」には、「発注者・受注者は、この取引で知り得た相手方の機密に属することを第三者に漏洩してはならない。」と記載されている。

7 甲第19号証
甲第19号証は、その記載内容から、(受注者)尾浜プレス株式会社が(発注者)文化シャッター株式会社から受けた、第5ブラスト塗装工場新築工事に関する、2009年(平成21年)9月1日付けの注文請書であると認められる。
甲第19号証の注文請書には、納品場所として「佐世保市立神町17-1」と記載されているから、「第5ブラスト塗装工場」は「佐世保重工業」の工場であると認められる。
また、納期として、「2009年10月10日?2010年3月30日」と記載されている。
加えて、その「約款」の「第15条(機密保持)」には、「発注者・受注者は、この取引で知り得た相手方の機密に属することを第三者に漏洩してはならない。」と記載されている。

8 甲第23?41号証(写真AないしS)
甲第23?41号証は、「佐世保重工業第5ブラスト塗装工場新築工事における大扉工事」を撮影した写真である。
(1)甲第23?26号証(写真A?D)
甲第24号証(写真B)に写っている黒板には「佐世保重工業第5ブラスト塗装工場新築工事」と記載されているから、写真に写っている工事は、「佐世保重工業第5ブラスト塗装工場新築工事」であると認められる。
また、甲第23?26号証(写真A?D)に写っている黒板には、「大扉下部レール取付状況」と記載されているから、これらの写真は「大扉下部レール取付状況」を撮影したものと理解でき、これらの写真からは、三列の下部レールが配置されていることが見て取れる。
(2)甲第27号証(写真E)
甲第27号証(写真E)からは、車輪のようなものが設けられたブロックが置かれていることが見て取れる。
(3)甲第28号証?甲第30号証(写真F?H)
甲第28号証(写真F)からは、扉材(ブロック)がクレーンによってトラックの荷台から降ろされ、フェンスで囲まれた置き場に移されて、積み重なっている様子が見て取れる。
また、甲第29号証(写真G)及び甲第30号証(写真H)に写っている黒板には「材料搬入」と記載されている。
(4)甲第31号証?甲第38号証(写真I?P)
甲第31号証?甲第34号証(写真I?L)に写っている黒板には「大扉建込み」「H21.11.17」と記載されているから、写真に写っている工事の工程は、「大扉建込み」であって、平成21年11月17日に行われたものであると認められる。
そして、甲第31号証?甲第38号証(写真I?P)からは、奥側に2枚の扉が既に建て込まれており、手前側の扉においては、下部ブロックの左側部の上にブロックが既に組み付けられているとともに、扉の上端までの高さ(長さ)を有するブロックがクレーンにより持ち上げられて、下部ブロックの中央部の上に組み付けられる様子が見て取れる。
加えて、扉の下方には上記(1)で述べたように下部レールが存在し、下部ブロックには上記(2)で述べたように車輪のようなものが設けられていることを考慮すると、下部ブロックは台車であると解される。
また、甲第31号証?甲第38号証(写真I?P)の建て込まれる扉材は、甲第28号証(写真F)の搬入された扉材(ブロック)に比べてその長さが明らかに長いことが理解できるので、建て込まれる扉材は、搬入されたブロックを地組みした組合せブロックであると解される。
さらに、奥側の既に建て込まれた扉と、下部ブロックの左側部の上にブロックが既に組み付けられていることを考慮すると、下部ブロックの上に組み付けられる組合せブロックは3つであり、下部ブロックの上に順に組み付けられるものと解される。
そうすると、甲第31号証?甲第38号証(写真I?P)には、予め地組みされた組合せブロックがクレーンにより持ち上げられて、台車上に組み付けられていること、及び、組合せブロックは3つであり、下部ブロックの上に順に組み付けられることが開示されているといえる。

9 乙第5号証
乙第5号証は、兵庫県弁護士会を介して得られた照会先・佐世保重工業株式会社からの回答書であり、次の事項が記載されている。
(1)回答書
「照会事項
1 貴社が下記工事を大成建設株式会社九州支店に発注したという事実はありますか。
工事名称 佐世保重工業 第5ブラスト・塗装工場新築工事
工事場所 長崎県佐世保市立神町1番地
発注者 佐世保重工業株式会社
工事施工者 大成建設株式会社 九州支店
全体工期 平成21年6月6日?平成22年3月31日
(大扉施工に関する工期平成21年:10月30日?平成21年12月31日)
【弊社回答】
本件工事について、弊社が大成建設株式会社九州支店に発注したことは事実です。但し、工期については弊社の記録と若干異なります。添付1(原文は丸数字)「請書」(写)を参照下さい。
2 1項の工事が発注されていた場合、大成建設株式会社九州支店との契約において、大成建設株式会社九州支店が秘密保持義務を課せられていましたか。両者の契約書の該当箇所の写しをもって回答に代えてくださってもけっこうです。
【弊社回答】
添付1(原文は丸数字)「請書」において、添付2(原文は丸数字)「民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款」を準用する取り決めを行っております。
3 一般論として、貴社が工事に関して請負契約を締結する場合、請負人に秘密保持義務を課しますか。
【弊社回答】
一般的には、添付3(原文は丸数字)「基本契約書」において秘密保持義務を課しています。」
(2)添付1(原文は丸数字)「請書」
添付1(原文は丸数字)の請書には、「3.工期」として、「着手 平成21年4月1日」「竣工 平成22年3月31日」と記載されている。
(3)添付2(原文は丸数字)「民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款」
添付2(原文は丸数字)「民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款」には、「工事請負契約約款」について記載されている。
(4)添付3(原文は丸数字)「取引基本契約書」
添付3(原文は丸数字)「取引基本契約書」には、「第6節 一般事項」の「第26条(秘密保持)」として「甲及び乙は、相互にこの基本契約又は個別契約により知り得た相手方の業務上の機密を相手方の承諾を得ない限り、第三者に漏洩してはならない。」と記載されている。

第6 無効理由1(公知による新規性欠如)の検討
1 公知について
(1)「大扉施工計画書」が配布されたか否かについて
ア 甲第1号証の「佐世保重工業第5ブラスト・塗装工場新築工事作業所 大扉施工計画書」(以下「大扉施工計画書」という。)について、実際に配布された「大扉施工計画書」の原本は証拠として提出されていない。
イ 証拠として提出された甲第1号証は、請求人である金剛産業株式会社の社員である増本良登が保管していた「大扉施工計画書」の電子データを印字したものである(請求人の回答書、及び、証拠調べ調書を参照。)。
ウ 増本良登は、平成25年3月31日まで勤務していた尾浜プレス株式会社の社員として、平成21年10月に甲第1号証を作成し、発注者である文化シャッター株式会社の土井添邦夫氏に渡したと証言している。しかしながら、渡したとする書面の原本は証拠として提出されておらず、そのような書面を受領したことを推認させる他の証拠も提出されていない。
エ 増本良登は、甲第1号証を本件施工の電気工事担当である橋本電設株式会社の橋本竜二氏にも渡した証言している。しかしながら、渡したとする書面の原本は証拠として提出されていない。橋本竜二は「大扉施工計画書」を受け取ったと証言するが、その「大扉施工計画書」の施工手順が甲第1号証に記載の施工手順と同一であったかについては記憶していない(証拠調べ調書参照。)。
オ 元請けである大成建設株式会社の稲永真人が自身のパソコン内に保存していた「工事名称 佐世保重工業 第5ブラスト塗装工場 新築工事作業所 跳上扉施工計画書」(甲第13号証)は、甲第1号証と同様の施工手順が開示されているとしても、書面の名称(表題)が「跳上扉施工計画書」であって甲第1号証の「大扉施工計画書」とは異なる。また、稲永真人が同様に保存していた「扉施工計画図」(甲第14号証)は、請求人も認めるように、甲第1号証に記載の施工手順とは異なる。加えて、増本良登は「扉施工計画図」(甲第14号証)を作成していないし、知らなかったと証言している(証拠調べ調書参照。)。
カ 甲第1号証に記載の施工手順は、請求人も認めているように、「佐世保重工業第5ブラスト塗装工場新築工事における大扉工事」(以下「本件工事」という。)の実際に施工した手順とは異なる。すなわち、甲第1号証に記載の施工手順では、台車の上にブロック2を載せ、その後にブロック2上にブロック3を載せ、さらにその後にブロック3上にブロック4を載せるのに対して、実際に施工した手順では、ブロック2、ブロック3、ブロック4を地組して一体とした後に、その一体としたものを台車上に載せる点で異なる(後記する第7を参照。)。
キ 以上のとおり、配布したとされる「大扉施工計画書」の原本は証拠として提出されておらず、また、証人の証言や間接証拠によっても甲第1号証の「大扉施工計画書」が配布されたことを推認できず、さらには、甲第1号証に記載の施工手順は本件工事の実際に施工した手順とは異なるから、甲第1号証の「大扉施工計画書」が配布されたと認めることはできない。
(2)公然に知られたか否かについて
上記(1)のとおり、甲第1号証の「大扉施工計画書」が配布されたと認めることはできないから、甲第1号証に記載された大扉施工方法が本件特許出願前に公然に知られたとはいえない。
また、仮に工事関係者に甲第1号証の「大扉施工計画書」の原本が配布されていたとしても、後記第7の2及び4(1)(2)で説示するように工事関係者は当該施工に関して守秘義務を負っていると解するのが合理的であるといえる。

2 請求人の主張について
請求人は、甲第1号証に加えて、本件工事に関連する書類、工事関係者の陳述書、人証(証人による証明)、工事現場を撮影した写真を証拠として提出し、本件発明1ないし4は、その出願前に公然知られた「佐世保重工業第5ブラスト・塗装工場新築工事作業所 大扉施工計画書」に記載された施工方法と同一であるから、特許を受けることができないと主張する。

しかしながら、請求人の主張は、新たな書面を提出する度に変遷があり、また、矛盾するところも多く、さらに、証拠の出所や証拠同士に矛盾するところも多い。
具体的には、甲第1号証の「大扉施工計画書」の配布について、回答書においては増本良登が文化シャッター株式会社の土井添邦夫と大成建設株式会社の稲永真人に手渡したと主張したが、口頭審理陳述要領書においては、増本良登は土井添邦夫に配布し、稲永真人は文化シヤッター株式会社または不二サッシ株式会社から受理したと主張し、増本良登は証人尋問において土井添邦夫にのみ渡したと証言した(証拠調べ調書参照。)。また、本件工事について、請求書においては甲第7号証の増本良登による証明書に記載のとおり、甲第1号証である大扉施工計画書にしたがって大扉を施工したと主張したが、口頭審理陳述要領書においては、本件工事を撮影した写真を新たに証拠として提出し、甲第1号証に記載の施工手順とは異なる甲第14号証の「扉施工計画図」や甲第17号証の「作業手順書」に表されている施工手順で行ったと主張した。さらには、甲第14号証の「扉施工計画図」について、口頭審理陳述要領書においては増本良登が作成し稲永真人に配布したと主張したが、増本良登は証人尋問において「扉施工計画図」(甲第14号証)を作成していないし、知らなかったと証言した(証拠調べ調書参照。)。
そもそも、配布したとされる「大扉施工計画書」の原本は証拠として提出されていない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

3 むすび
上記1のとおり、甲第1号証に記載された大扉施工方法が本件特許出願前に公然に知られたとはいえないから、本件発明1ないし4は、請求人が主張する理由及び証拠により新規性がないとはいえず、特許法第29条第1項第1号に該当しない。

第7 無効理由2(公然実施による新規性欠如)の検討
1 実施された工事について
(1)工事が実施されたか否かについて
「佐世保重工業」の「第5ブラスト・塗装工場」が、2009年(平成21年)6月より着工して、2010年(平成22年)3月19日に竣工したことは、甲第2号証(上記第5の2を参照。)から明らかなことに加えて、甲第18号証(上記第5の6を参照。)の「注文書及び工事指示書」、甲第19号証(上記第5の7を参照。)の「注文請書」、甲第23?41号証(上記第5の8を参照。)として提出された本件工事現場を撮影した写真、及び、乙第5号証の「佐世保重工業株式会社からの回答書」(上記第5の9を参照。)から、本件工事が本件特許出願前である平成22年3月19日までに実施されたことは認められる。

(2)工事の内容について
ア 本件工事に関する証拠について
請求人は、本件工事の実際の作業は、甲第23?41号証の写真A?S、甲第14号証の「扉施工計画図」、甲第17号証の「作業手順書」に表されている旨主張するので、甲第23?41号証として提出された本件工事現場を撮影した写真に開示されている事項(上記第5の8を参照。)と、甲第14号証の「扉施工計画図」(上記第5の4を参照。)及び甲第17号証の「作業手順書」(上記第5の5を参照。)に記載されている事項から、本件工事の施工方法(手順)について検討する。
イ 甲第17号証の「作業手順書」
甲第17号証の「作業手順書」には、「(作業工程)4扉搬入」として「(作業の手順)移動式クレーンによる荷降ろし」「仮置き」と、、また、「(作業工程)5扉立込」として「(作業の手順)移動式クレーンによる組立」「扉材1(原文は丸数字、以下同様)を建屋内部側のレール上に固定する」「扉材2と3を地組ヤードにて地組み」「扉材2と3を1の上に乗せボルト及びガイドローラーで固定する。」「扉材4、5、6を地組ヤードで地組」「扉地組4、5、6を1、2、3とボルトにて接続する。」「扉7と8を地組ヤードで地組」「扉7、8と1?6をボルト及びガイドローラーにて固定」と記載されている。
したがって、甲第17号証には、扉材1ないし8を搬入し、扉材1をレール上に固定し、扉材2ないし8のうちの2または3枚を地組ヤードにて地組みした後、地組みした(組み合わせた)扉材を扉材1の上に乗せてボルトで固定した、施工方法(手順)が開示されていると認められる。
ウ 甲第14号証の「扉施工計画図」
No.2/7図面には、「1(原文は丸数字)搬入時 作業区画及び立入禁止区画」及び「2(原文は丸数字)仮置時 作業区画及び立入禁止区画」と題する図面が図示されており、図中に「扉本体ストックヤード」が示されている。
No.3/7図面には「3(原文は丸数字)下部ブロック1(原文は丸数字)据付時」、No.4/7図面には「4(原文は丸数字)各ブロック据付時」と題する図面が図示されている。
No.6/7図面には「6(原文は丸数字)ブロック建込順及び各ブロック重量」と題し、左上側に建て込まれた大扉が、左下側にブロックの建込順が、右上側に各ブロックが図示されており、ブロックの建込順の図を見ると、下部ブロック1の上に、ブロック2と3、ブロック4ないし6、ブロック7と8が順に取り付けられていることが見て取れる。
以上のことから、甲第14号証には、扉を構成するブロック1ないし8を搬入し、下部ブロック1を据え付け、ブロック2ないし8のうちの2または3枚を下部ブロック1の上に順に取り付けた、施工方法(手順)が開示されていると認められる。
エ 甲第23?41号証の写真
甲第23?26号証(写真A?D)からは、三列の下部レールが配置されていることが見て取れる。
甲第27号証(写真E)からは、車輪のようなものが設けられたブロックが置かれていることが見て取れる。そして、上記写真に写っているブロックは、甲第14号証のブロック1と同様の形状であると認識できる。
甲第28号証(写真F)からは、扉材(ブロック)がクレーンによってトラックの荷台から降ろされ、フェンスで囲まれた置き場に移されて、積み重なっている様子が見て取れる。
甲第31号証?甲第38号証(写真I?P)からは、上記のとおり、予め地組みされた組合せブロックがクレーンにより持ち上げられて、台車上に組み付けられていること、及び、組合せブロックは3つであり、下部ブロックの上に順に組み付けられることが開示されている。そして、上記写真に写っている組合せブロックは、甲第14号証のブロック4ないし6と同様の形状であると認識できる。
以上のことから、甲第23?41号証の写真には、扉材を搬入し、下部レール上に台車を据え付け、3枚の扉材を台車の上に順に取り付けた、施工方法(手順)が開示されていると認められる。
オ まとめ
甲第23?41号証の写真は、本件工事を撮影したものと認められるところ(上記第5の8(1)を参照。)、それらの写真に写っている施工方法は、上記イないしエのとおり、甲第17号証の「作業手順書」及び甲第14号証の「扉施工計画図」に開示されている施工方法とおおむね一致しているといえる。
よって、本件工事は、甲第17号証の「作業手順書」及び甲第14号証の「扉施工計画図」に開示されている方法(手順)で施工されたものと推認できる。
すなわち、本件工事は、次の施工(生産)方法により実施されたと推認できる。

「a 建物開口部に設けられ、台車が扉本体全体を単体で支持するように構成される大扉システムの生産方法であって、
b 単体の台車と該台車以外の各扉材(扉ブロック)とを前記建物のある所定場所に搬送する搬送工程と、
c 前記搬送された単体の台車を、前記建物開口部の下部レール上に搭載する台車設置工程と、
d 前記搬送された各扉材(扉ブロック)の2枚又は3枚を地組ヤードで地組し、地組みした扉材(組み合わせた扉ブロック)を、台車上に合わしてボルトを入れることにより組み立てる扉本体組立工程とを備えた、大扉システムの生産方法。」(以下「実施発明」という。)

2 工事が公然に実施されたか否かについて
(1)守秘義務があったか否かについて
本件工事の「注文書及び工事指示書」及び「注文請書」の「約款」に「第15条(機密保持)」「発注者・受注者は、この取引で知り得た相手方の機密に属することを第三者に漏洩してはならない。」と記載されていることからすれば(甲第18号証、甲第19号証)、本件工事の工事関係者は、当該工事に関して守秘義務があったと解するのが合理的である。
そのことは、本件工事の発注者である佐世保重工業が、工事に関して請負契約を締結する場合、一般的には「基本契約書」において秘密保持義務を課すこと(乙第5号証)からも裏付けられる。
なお、「約款」において「機密に属すること」の範囲が証拠からは明確でないが、本件工事の施工方法が公知または周知であったとの証拠はないから、該施工方法が機密に属するものではないとの根拠を見いだすことができない。したがって、本件工事の施工方法が「機密に属する」ものではないと推認することはできない。

(2)本件工事が公然に実施されたか否か
ア 本件工事の工事現場は、私有地であり、また、危険なため立入禁止とされていたことから、工事関係者以外の者が本件工事を近くで見ることは不可能であったと推認できる。
イ 甲第23?41号証、甲第46ないし50号証の本件工事を撮影した写真や、甲第51ないし75号証の佐世保重工業第5ブラスト塗装工場周辺を平成29年1月7日に撮影した写真からは、本件工事の様子を、工事現場に隣接する道路や離れた高台から見ることが可能であったといえる。
しかしながら、離れた場所からでは、甲第46ないし50号証の写真のように、個々の扉材の構成や具体的な作業内容について把握することは困難である。また、上記aないしdに係る工程に関して、個別の工程を見たとしても、実施発明に係る一連の全ての工程を見なければ、実施発明を理解することはできないというべきである。
したがって、実施発明を把握するには、時間を掛けて見る必要があるが、工事関係者以外の者が離れた場所から、長時間にわたって本件工事を観察し、実施発明を把握することは困難といえる。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件工事は、公然に実施されたとはいえない。

3 実施発明が本件発明と同一であるか否かについて
(1)対比
本件発明1と実施発明を対比すると、実施発明の「各扉材(扉ブロック)」は本件発明1の「各パーツ」に相当する。
よって、本件発明1と実施発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。

(一致点)
「建物開口部に設けられ、台車が扉本体全体を単体で支持するように構成される大扉システムの生産方法であって、
単体の台車と該台車以外の各パーツとを前記建物のある所定場所に搬送する搬送工程と、
前記搬送された単体の台車を、前記建物開口部の下レール上に搭載する台車設置工程と、
前記搬送された各パーツから扉本体を組み立てる扉本体組立工程とを備えた大扉システムの生産方法。」

(相違点)
扉本体組立工程において、
本件発明1では、「前記搬送された各パーツから扉本体を、この単体の台車上に合わしてボルトを入れることにより組み立てる」のに対して、
実施発明は、「前記搬送された各扉材(扉ブロック)の2枚又は3枚を地組ヤードで地組し、地組みした扉材(組み合わせた扉ブロック)を、台車上に合わしてボルトを入れることにより組み立てる」点。

(2)相違点の判断
ア 本件発明1
本件発明1は、本件特許明細書に記載されているように、「近年の扉の大型化につれて、工場で製作した大扉をそのまま現地に搬入しようとすると、トラックやコンテナなどで搬送できる寸法制限を超えるものがでてきた。その場合に、仮に大扉を適当に分解して現地に搬送したとすると、各台車の取り付け精度の確保が困難となることに加えて、現地で大扉を組み立てる作業が最低限必要となり、工場に比べて条件の悪い現地での作業上の安全を考慮する必要があった。また、大扉の場合には、組み立て作業を行うための広い作業場が必要となるが、他業者の混在作業もあることから、かかる広い作業場の確保は困難となることが多いなど、種々の問題があった。」(段落【0003】)ので、「大扉を現地で施工する場合に、作業場所の確保を最小限にし、作業上の安全をも考慮した大扉システムの生産方法を提供すること」(段落【0004】)を目的として、本件発明1の構成を採用したことにより、「大扉の全体を現地で組み立てる場合に比べて、組み立て時間を短縮できるとともに、組み立て時に広範囲の平地スペースがいらないため、天候(降雨など)に工程が左右されず、また、電装製品を雨風から守れる。」(段落【0008】)、「単体の台車上に扉本体を組み立てるのであるから、複数の台車を扉本体に取り付ける場合のように、台車の扉本体への取り付け精度が大扉の開閉不良を生じることはありえない。」(段落【0018】)、「また、大扉の全体を現地で組み立てる場合に比べて、組み立て時間を短縮できるとともに、組み立て時に広範囲の平地スペースがいらないため、天候(降雨など)に工程が左右されず、また、電装製品を雨風から守れる。」(段落【0019】)との作用効果を奏するものである。
本件発明1の「前記搬送された各パーツから扉本体を、この単体の台車上に合わしてボルトを入れることにより組み立てる」との構成は、その文言上、扉本体を構成する各パーツを台車上に組み立てるものと解することができるところ、本件特許明細書の上記記載事項を考慮すると、扉本体を構成する各パーツを現地で地組み(組立て)して、地組みした(組立てた)パーツを台車上に組み立てることは、排除されていることが明らかである。
イ 実施発明は、「各扉材(扉ブロック)の2枚又は3枚を地組ヤードで地組し、地組みした扉材(組み合わせた扉ブロック)を、台車上に合わしてボルトを入れることにより組み立てる」の対して、本件発明1は、上記アで述べたとおり、扉本体を構成する各パーツを台車上に組み立てるものであって、各パーツを現地で地組み(組立て)して、地組みした(組立てた)パーツを台車上に組み立てることは、排除されているから、両者は上記相違点で明らかに相違する。
ウ また、各パーツを台車上に組み立てることに代えて、各扉材(扉ブロック)の2枚又は3枚を地組ヤードで地組し、地組みした扉材(組み合わせた扉ブロック)を台車上に組み立てるようにすることは、地組という別工程を加えることになり、かつ、そのための施工スペースを必要とするから、当業者にとって設計事項であるともいえない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、本件発明1は実施発明と同一であるとはいえない。
また、本件発明2ないし4は、本件発明1のすべての構成を含むものであるから、本件発明2ないし4も同様に実施発明と同一であるとはいえない。

4 請求人の主張について
(1)請求人は、本件工事の大扉施工方法は、増本良登が「この取引」(本件工事の受注)の前から知っていた方法であり、また、尾浜プレス株式会社にとって機密に属する事項ではなかったので、甲第18、19号の約款の15条の対象となる、「この取引で知り得た」「相手方の機密に属すること」には該当せず、また、佐世保重工業株式会社の回答や提示した「請書」には、本件工事についての秘密保持義務があったことは全く記されておらず、民間(旧四会)連合協定工事請負契約約款にも何ら機密保持義務に関する記載や条項は存在していないので、本件工事における佐世保重工業株式会社と大成建設株式会社九州支店との契約(請書)において大成建設株式会社九州支店が秘密保持義務を課せられていたとは言えない旨主張する。

しかしながら、請求人の上記主張は、以下のとおり採用できない。
上記2で述べたように、本件工事の「注文書及び工事指示書」及び「注文請書」の「約款」に「第15条(機密保持)」「発注者・受注者は、この取引で知り得た相手方の機密に属することを第三者に漏洩してはならない。」と記載されているところ(甲第18号証、甲第19号証)、本件工事の大扉施工方法が「この取引で知り得た相手方の機密に属すること」ではないことを示す書面は証拠として提出されていない。「約款」において「機密に属すること」の範囲が証拠からは明確でないが、本件工事の施工方法が公知または周知であったとの証拠はないから、該施工方法が機密に属するものではないとの根拠を見いだすことができない。したがって、本件工事の施工方法が「機密に属する」ものではないと推認することはできない。
また、佐世保重工業株式会社の回答や提示した「請書」には、本件工事についての秘密保持義務があったことは明記されていないとしても、一般的には「基本契約書」において秘密保持義務を課すとし、その「取引基本契約書」には、「第6節 一般事項」の「第26条(秘密保持)」として「甲及び乙は、相互にこの基本契約又は個別契約により知り得た相手方の業務上の機密を相手方の承諾を得ない限り、第三者に漏洩してはならない。」と記載されていることからすると、本件工事についても当然秘密保持義務があったと推認できる。

(2)請求人は、本件工事に秘密保持義務があったのであれば、本件工事を外部から見えなくするような何らかの措置、例えば大掛かりな足場を組んでシートで覆うなど、秘密を保持するための手段を講じていたはずであったであろうが、何らそのような措置は取られておらず、本件工事は工事現場の周囲に存在する一般道や住宅から極めてよく見える状況で行われており、そのような状況からしても、本件工事、特に大扉の施工に関して秘密保持義務があったとは考えられない旨主張する。

しかしながら、請求人の上記主張は、以下のとおり採用できない。
上記2で述べたように、本件工事の工事現場は、私有地であり、また、危険なため立入禁止とされていたことから、工事関係者以外の者が本件工事を近くで見ることは困難であり、また、本件工事の様子を、工事現場の周囲に存在する一般道や住宅から見える状況で行われていたとしても、離れた場所からでは、個々の扉材の構成や具体的な作業内容について把握することは困難であったといえる。
このように「公然知られ」にはあたらないことを踏まえると、大掛かりな足場を組んでシートで覆うなどの外部から見えなくする手段を講じていなかったとしても、本件工事に秘密保持義務がなかったと解することはできない。

(3)請求人は、「台車上で各パーツを、縦すなわち垂直方向に組立てることが必須である」との本件発明の誤った解釈に基づく、本件発明が新規性及び進歩性を具備するとの被請求人の主張は誤っており、本件発明の構成要件A?Dの全ては、甲第14号証の図、甲第17号証、甲第23号証?甲第41号証などに示される本件工事現場における施工で既に実施されていた旨主張する。

しかしながら、上記3で述べたように、本件発明1の「前記搬送された各パーツから扉本体を、この単体の台車上に合わしてボルトを入れることにより組み立てる」との構成は、その文言上、扉本体を構成する各パーツを台車上に組み立てるものと解することができるところ、本件特許明細書の記載事項を考慮すると、扉本体を構成する各パーツを現地で地組み(組立て)して、地組みした(組立てた)パーツを台車上に組み立てることは、排除されているから、請求人の上記主張は採用できない。

(4)請求人は、被請求人が主張するように本件特許において「台車上で各パーツを、縦すなわち垂直方向に組立てることが必須である」解釈がされ、本件工事において実施された大扉施工方法と本件発明とが、台車上に各パーツを組み立てる点でわずかに相違しているとしても、台車が下レール上に載置されたならばその上に各ブロックをどのような順序で組み込むかは現場の作業においていかようにでも変えられる作業に過ぎず、現場の作業者であれば、現場に地組するスペースがあれば、作業の安全性や効率を優先して、ブロックを一つずつ台車上に組み立てる代わりに、いくつかのブロックを地組にしてクレーンで吊り上げる方法を考えるものであるから、本件発明の構成は、当業者であれば、本件工事現場にて実施されていた施工方法から容易に予測できたものである旨主張する。

しかしながら、請求人の上記主張は、以下のとおり採用できない。
先にも述べたように、甲第1号証の原本が工事関係者に配布されたことは請求人が提出した証拠からは確認できないので、本件工事が、台車上にブロックが一つずつ順に組み込まれる予定であったとは認められない。
そして、台車が下レール上に載置されたならばその上に各ブロックをどのような順序で組み込むかは現場の作業においていかようにでも変えられる作業に過ぎないとの主張は、本件工事が台車上にブロックを一つずつ順に組み込まれる予定であったことを前提とするものであるところ、その前提は上述のとおり認められないから、当該主張も認められない。
請求人は、現場の作業者であれば、現場に地組するスペースがあれば、作業の安全性や効率を優先して、ブロックを一つずつ台車上に組み立てる代わりに、いくつかのブロックを地組にしてクレーンで吊り上げる方法を考えるものであると主張するが、そもそもブロックを一つずつ台車上に組み立てることが本件工事の前から知られていたとする証拠はなく、根拠が見いだせない。

5 むすび
以上のとおり、本件発明1ないし4が本件特許出願前に公然に実施されたとはいえないから、本件発明1ないし4は、請求人が主張する理由及び証拠により新規性がないとはいえず、特許法第29条第1項第2号に該当しない。

第8 無効理由3(進歩性欠如)の検討
無効理由3は、本件発明1ないし4は、その出願前に公然知られた発明(理由1の公知発明)、または公然実施をされた発明(理由2の公然実施発明)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるというものであるので、無効理由1の公知発明、または無効理由2の公然実施発明が前提であるところ、上記第6及び第7で述べたように、それぞれ「公然知られ」、「公然実施」に該当しないので、無効理由3についても同様に理由がない。
また、上記第7で述べたように、本件発明1と実施発明とは相違点で相違するところ、その相違点については、各パーツを台車上に組み立てることに代えて、各扉材(扉ブロック)の2枚又は3枚を地組ヤードで地組し、地組みした扉材(組み合わせた扉ブロック)を台車上に組み立てるようにすることは、地組という別工程を加えることになり、かつ、そのための施工スペースを必要とするから、当業者にとって設計事項であるともいえず、また、台車上に各ブロックをどのような順序で組み込むかは現場の作業においていかようにでも変えられる作業に過ぎないとの根拠もないから、当業者にとって容易に想到できたものではない。本件発明1のすべての構成を含む本件発明2ないし4についても同様である。以上のことからも、無効理由3には理由がない。
よって、本件発明1ないし4は、請求人が主張する理由及び証拠により進歩性がないとはいえず、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

第9 無効理由4(進歩性欠如)の検討
無効理由4は、本件発明4は、その出願前に公然知られた発明(理由1の公知発明)、または公然実施をされた発明(理由2の公然実施発明)と、甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるというものであるので、無効理由1の公知発明、または無効理由2の公然実施発明が前提であるところ、上記第6及び第7で述べたように、それぞれ「公然知られ」、「公然実施」に該当しないので、無効理由4についても同様に理由がない。
また、上記第7で述べたように、本件発明1と実施発明とは相違点で相違するところ、その相違点は当業者にとって容易に想到できたものではなく、本件発明1のすべての構成を含む本件発明4についても同様であるから、このことからも無効理由4には理由がない。
よって、本件発明4は、請求人が主張する理由及び証拠により進歩性がないとはいえず、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

第10 むすび
以上のとおり、上記第6ないし第9において検討したとおり、本件発明1ないし4について、請求人の主張する無効理由1ないし4には無効とする理由がないから、その特許は無効とすべきものではない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-13 
結審通知日 2017-03-15 
審決日 2017-03-30 
出願番号 特願2011-41249(P2011-41249)
審決分類 P 1 113・ 111- Y (E05D)
P 1 113・ 112- Y (E05D)
P 1 113・ 121- Y (E05D)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 小野 忠悦
赤木 啓二
登録日 2013-02-15 
登録番号 特許第5198599号(P5198599)
発明の名称 大扉システムの生産方法  
代理人 上田 孝治  
代理人 藤本 謙二  
代理人 志波 邦男  
代理人 藤原 唯人  
代理人 川北 喜十郎  

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