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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1328537
審判番号 不服2016-3242  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-02 
確定日 2017-06-19 
事件の表示 特願2014-525947「偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月28日国際公開、WO2013/027981、平成26年 9月22日国内公表、特表2014-524596、請求項の数(20)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年8月17日(優先権主張外国庁受理 2011年8月19日(KR)韓国、2011年8月19日(KR)韓国、2012年8月17日(KR)韓国)を国際出願日とする出願であって、平成27年1月26日付けで拒絶理由が通知され、同年5月1日に意見書が提出されたが、同年10月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年3月2日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、その後、当審において、平成29年1月23日付けで拒絶理由が通知され、同年5月1日に手続補正がなされるとともに意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし20に係る発明は、平成29年5月1日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20(以下、それぞれ「補正後の請求項1ないし20」ともいう。)に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりである。
なお、請求項2ないし20は、いずれも請求項1の記載を直接又は間接的に引用して記載された請求項である。

「順次配置された偏光子と;厚さが0.1μm?30μmの活性エネルギー線硬化型接着剤層と;厚さが10μm?80μmの粘着剤層と;を含み、
前記接着剤層は、エポキシ化合物5重量部?80重量部及びアクリル系単量体10重量部?200重量部を含む接着剤組成物を硬化した状態で含み、
前記粘着剤層は、25℃で100MPa?500MPaの引張弾性率を有する第1表面と、25℃で0.03MPa?0.2MPaの引張弾性率を有する第2表面を有し、
前記第1表面が第2表面に比べて高い引張弾性率を示し、前記第1表面が前記接着剤層に直接付着されている、偏光板。」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

第3 原査定の理由の概要
原査定の理由は、概ね、本件出願の請求項1ないし23(原査定時)に係る発明は、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
なお、原査定時の請求項1を引用する請求項3と請求項1及び12を引用する請求項13とを合わせたものが補正後の請求項1に対応し、原査定時の請求項2が補正後の請求項2に対応し、原査定時の請求項4ないし11が、それぞれ補正後の請求項3ないし10に対応し、原査定時の請求項14ないし23が、それぞれ補正後の請求項11ないし20に対応している。



引用文献1.特開2009-205141号公報
引用文献2.特公平2-16942号公報
引用文献3.特開2008-183812号公報
引用文献4.特開2009-227804号公報
引用文献5.特開2010-78699号公報
引用文献6.特開平9-33723号公報
引用文献7.特開平10-44292号公報
引用文献8.特開2001-294828号公報
引用文献9.国際公開第2011/065779号
引用文献10.特開2010-60787号公報
引用文献11.特開2009-265646号公報

第4 原査定の理由についての当審の判断
1 刊行物に記載された事項
(1)引用例1に記載された発明
本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であって、原査定において引用文献1として引用された特開2009-205141号公報(以下「引用例1」という。)の段落【0006】?【0016】、【0102】、【0117】、【図1】等には、次の発明が記載されていると認められる。
「偏光子の片面にのみ透明保護フィルムが第一接着剤層を介して設けられており、前記偏光子の他の片面には、第二接着剤層を介して粘着剤層が設けられている粘着型偏光板であって、
前記第二接着剤層は、当該第二接着剤層を形成する接着剤が固化していない状態で前記偏光子と前記粘着剤層を貼り合わせた後に前記接着剤を固化することにより形成したものであり、
前記第二接着剤層を形成する接着剤は、ポリビニルアルコール系接着剤、イソシアネート系接着剤、シアノアクリート系接着剤又はアジリジン系接着剤であり、
前記粘着剤層の厚さは3?100μm程度であり、
前記第二接着剤層の固化後の厚さは0.01?5μm程度である、
粘着型偏光板。」(以下「引用発明」という。)

(2)引用例に記載された事項
本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であって、原査定において引用文献6として引用された特開平9-33723号公報(以下「引用例2」という。)の段落【0002】?【0005】、【0007】、【0022】、【0034】?【0041】等には、次の事項が記載されていると認められる。
「粘着剤層付偏光板の粘着剤層であって、基材の収縮等により生じる応力を緩和し、応力集中を軽減するために、粘着剤層が基材層に密着する第1の層と離型シートが貼着される第2の層とを含む複数の層の積層体で構成され、前記第2の層の剪断弾性率及び/又は緩和弾性率が、前記第1の層の剪断弾性率及び/又は緩和弾性率より低いこと。」(以下「引用例2の記載事項」という。)

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「偏光子」、「第二接着剤層」、「粘着剤層」及び「粘着型偏光板」は、本願発明の「偏光子」、「接着剤層」、「粘着剤層」及び「偏光板」に相当する。

(2)引用発明の「第二接着剤層」(本願発明の「接着剤層」に相当。以下、「」中に引用発明の構成を記し、かつ、当該「」の後に()を記したときは、()中に引用発明の構成に対応する本願発明の構成を記す。)及び「粘着剤層」(粘着剤層)は、「偏光子」(偏光子)の他の片面に、「第二接着剤層」(接着剤層)を介して「粘着剤層」(粘着剤層)が設けられているから、引用発明の「粘着型偏光板」(偏光板)が、順次配置された「偏光子」(偏光子)と;「第二接着剤層」(接着剤層)と;「粘着剤層」(粘着剤層)と;を含むことは自明である。

(3)引用発明の「第二接着剤層」(接着剤層)の固化後の厚さは0.01?5μm程度であるから、本願発明の「接着剤層」の厚さと、0.1μm?5μmの範囲で一致する。
また、引用発明の「粘着剤層」(粘着剤層)の厚さは、3?100μmであるから、本願発明の「粘着剤層」の厚さと、10μm?80μmの範囲で一致する。

(4)引用発明の「粘着剤層」(粘着剤層)が二つの表面を有することは自明であるところ、引用発明の「粘着型偏光板」(偏光板)が、順次配置された「偏光子」(偏光子)と;「第二接着剤層」(接着剤層)と;「粘着剤層」(粘着剤層)と;を含むのであるから、引用発明の「粘着剤層」(粘着剤層)の二つの表面のうちの一つの面が「第二接着剤層」(接着剤層)に直接付着されていることは明らかである。そして、「粘着剤層」(粘着剤層)の「第二接着剤層」(接着剤層)に直接付着されている面を第1表面と称することにすれば、他の面が自ずと第2表面となることも自明である。

(5)上記(1)ないし(4)からみて、本願発明と引用発明とは、
「順次配置された偏光子と;厚さが0.1μm?5μmの接着剤層と;厚さが10μm?80μmの粘着剤層と;を含み、
前記粘着剤層は、第1表面と、第2表面を有し、
前記第1表面が前記接着剤層に直接付着されている、偏光板。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記「接着剤層」が、
本願発明では、「活性エネルギー線硬化型」であって、「エポキシ化合物5重量部?80重量部及びアクリル系単量体10重量部?200重量部を含む接着剤組成物を硬化した状態で含」むのに対し、
引用発明では、ポリビニルアルコール系接着剤、イソシアネート系接着剤、シアノアクリート系接着剤又はアジリジン系接着剤である点。

相違点2:
前記「粘着剤層」の、「第1表面」の「25℃」での「引張弾性率」及び「第2表面」の「25℃」での「引張弾性率」が、
本願発明では、それぞれ「100MPa?500MPa」及び「0.03MPa?0.2MPa」であり、かつ、前者が後者に比べて高いのに対し、
引用発明では、不明である点。

3 判断
(1)相違点について
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
上記1(2)に示したとおり、引用例2には、「粘着剤層付偏光板の粘着剤層であって、基材の収縮等により生じる応力を緩和し、応力集中を軽減するために、粘着剤層が基材層に密着する第1の層と離型シートが貼着される第2の層とを含む複数の層の積層体で構成され、前記第2の層の剪断弾性率及び/又は緩和弾性率が、前記第1の層の剪断弾性率及び/又は緩和弾性率より低いこと。」が記載されている。
ここで、緩和弾性率は、引用例2の【0039】に記載された当該緩和弾性率の定義からみて、本願明細書(段落【0198】、【0199】参照。)に記載された貯蔵弾性率に類似するパラメータであり、貯蔵弾性率が引張弾性率と比例関係にある(本願明細書の段落【0200】の換算式参照。)のであるから、緩和弾性率も引張弾性率と比例関係にあるものと認められる。以上のことからみて、本件優先日前に、粘着剤層付偏光板の粘着剤層の離型シートが貼着される側の面の引張弾性率をその反対側の面の引張弾性率よりも低くすることは公知であったものと認められる。
引用発明の「粘着型偏光板」において、離型シートを適用する場合、「粘着剤層」の二つの表面のうち「第二粘着剤層」に直接付着されている面の反対側の面(すなわち第2表面)が、離型シートが貼着される面となることは明らかである。そうすると、引用発明において、「粘着剤層」の第1表面の25℃での引張弾性率を第2表面の25℃での引張弾性率より高くすることは、当業者が引用例2の記載事項に基づいて容易に想到し得たことであるといえる。
しかしながら、引用発明において、「粘着剤層」の第1表面の25℃での引張弾性率を具体的に100MPa?500MPaの範囲内の値とするとともに、第2表面の25℃での引張弾性率を具体的に0.03MPa?0.2MPaの範囲内の値とすることは、引用例1及び2のみならず、原査定が引用する他の刊行物にも記載も示唆もないから、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(2)小括
上記(1)からみて、相違点1について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明及び引用例2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本願の請求項2ないし20に係る発明について
上記第2で述べたとおり、本願の請求項2ないし20は、いずれも請求項1の記載を直接又は間接的に引用して記載された請求項であるから、当該請求項2ないし20に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明及び引用例2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 当審の拒絶理由の概要
当審が平成29年1月23日付けで通知した拒絶理由は、理由1及び2からなり、当該理由1及び2は、概ね、次のとおりのものである。

理由1:
平成28年3月2日(審判請求と同時)になされた手続補正による補正後の請求項1の「粘着剤層は、25℃で1MPa?1,000MPaの引張弾性率を有する第1表面と、25℃で0.01MPa?0.5MPaの引張弾性率を有する第2表面を有し」という事項に関し、本願明細書の発明の詳細な説明には、請求項1の粘着剤層であって第1表面が第2表面に比べて高い引張弾性率を示す粘着剤層の実施例(本願の課題が解決できることを当業者が理解することができるように記載された実施例)として、25℃引張弾性率400MPaの第1粘着剤層と25℃引張弾性率0.2MPaの第2粘着剤層とをラミネートした2層構造の粘着剤層の一例しか記載がなく、本願優先日当時の技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明における粘着剤層の第1表面と第2表面の25℃引張弾性率に関する開示内容を、本願の請求項1に係る発明の偏光板の粘着剤層の第1表面と第2表面の25℃引張弾性率の範囲にまで、拡張又は一般化することはできないから、請求項1ないし20に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。よって、本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由2:
本件出願の請求項1ないし20に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1.特開2009-205141号公報
引用文献2.特開2011-154267号公報
引用文献3.特開2008-165200号公報
引用文献4.特開平9-33723号公報
引用文献5.特開2001-294828号公報
引用文献6.特開2010-237678号公報
引用文献7.特公平2-16942号公報
引用文献8.特開2008-183812号公報
引用文献9.特開2009-227804号公報
引用文献10.特開2010-78699号公報
引用文献11.国際公開第2011/065779号

第6 当審の拒絶理由についての当審の判断
(1)平成29年5月1日になされた手続補正により補正された請求項1(すなわち「補正後の請求項1」)は、上記第2において掲げたとおりのものである。

(2)補正後の請求項1では、補正前の「粘着剤層は、25℃で1MPa?1,000MPaの引張弾性率を有する第1表面と、25℃で0.01MPa?0.5MPaの引張弾性率を有する第2表面を有し」という事項における、「1MPa?1,000MPa」及び「0.01MPa?0.5MPa」が、それぞれ、「100MPa?500MPa」及び「0.03MPa?0.2MPa」となっている。
本願明細書の段落【0111】には、粘着剤層の第1表面及び第2表面の25℃でのより好ましい引張弾性率として、「100MPa?500MPa」及び「0.03MPa?0.2MPa」が記載されている。また、当審の拒絶の理由1で述べたとおり、本願明細書(段落【0176】?【0178】)には、請求項1の粘着剤層であって第1表面が第2表面に比べて高い引張弾性率を示す粘着剤層の実施例(本願の課題が解決できることを当業者が理解することができるように記載された実施例)として、25℃での引張弾性率が400MPaの第1粘着剤層と25℃引張弾性率0.2MPaの第2粘着剤層とをラミネートした2層構造の粘着剤層の例が記載されている。
そうすると、当業者は、粘着剤層の第1表面及び第2表面の25℃での引張弾性率が「100MPa?500MPa」及び「0.03MPa?0.2MPa」である補正後の請求項1に係る発明が、本願の課題を解決できることを理解することができるから、発明の詳細な説明における粘着剤層の第1表面と第2表面の25℃引張弾性率に関する開示内容を、補正後の請求項1に係る発明の偏光板の粘着剤層の第1表面と第2表面の25℃引張弾性率の範囲にまで、拡張又は一般化することができないとはいえなくなった。
したがって、当審が通知した拒絶の理由1に係る記載不備はもはや存在しない。

(3)当審の拒絶の理由2において引用文献4として引用した特開平9-33723号公報(すなわち「引用例2」)には、上記第4の1(2)に掲げた引用例2の記載事項が記載されている。
また、当審の拒絶の理由2において引用文献6として引用した特開2010-237678号公報(以下「引用例3」という。)の【請求項3】には、光学フィルム用粘着剤層において、粘着剤層の23℃引張弾性率を1?3.5MPaとすることが記載されている。
上記第4の3(1)で説示したとおり、引用発明において、「粘着剤層」の第1表面の25℃での引張弾性率を第2表面の25℃での引張弾性率より高くすることは、当業者が引用例2の記載事項に基づいて容易に想到し得たことであるといえるものの、当該第1表面の25℃での引張弾性率を具体的に100MPa?500MPaの範囲内の値とするとともに、当該第2表面の25℃での引張弾性率を具体的に0.03MPa?0.2MPaの範囲内の値とすることは、引用例1ないし3のみならず、当審の拒絶の理由2が引用する他の刊行物にも記載も示唆もないから、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(4)上記(1)ないし(3)のとおりであるから、当審の拒絶の理由1及び2は、いずれも解消している。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし20に係る発明は、いずれも、当業者が引用発明及び引用例2の記載に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-06-02 
出願番号 特願2014-525947(P2014-525947)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 南 宏輔薄井 義明  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 河原 正
西村 仁志
発明の名称 偏光板  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡部 崇  

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