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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1328617
審判番号 不服2016-15050  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-06 
確定日 2017-05-25 
事件の表示 特願2012-182037「波長選択性経路切換素子」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月 6日出願公開、特開2014- 41175〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成24年8月21日の出願であって、平成28年1月28日付けで拒絶理由が通知され、同年4月4日に特許請求の範囲が補正され、同年8月31日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年10月6日に拒絶査定不服審判が請求されたものであり、本願の請求項に係る発明は、請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「第1光導波路と第2光導波路とが平行に配置され、
前記第1光導波路と前記第2光導波路の厚み、幅、及び当該第1光導波路と当該第2光導波路との中心間距離は、TE(Transverse Electric Wave)偏波の光電場の空間振幅分布が反対称の形状でカップリングして伝播する反対称伝播モードがカットオフされない範囲に設定され、
前記第1光導波路及び前記第2光導波路の幅は、厚みより狭く設定され、
前記厚み、前記幅、及び前記中心間距離によって決定される、前記TE偏波及びTM(Transverse Magnetic Wave)偏波に対する結合長について、
前記TE偏波に対する結合長と前記TM偏波に対する結合長が等しい値を与える当該第1及び第2光導波路の幅の値を中心値として、前記TE偏波に対する結合長と前記TM偏波に対する結合長との差が偏波無依存とみなせる程度に小さくなる範囲に設定されていることを特徴とする波長選択性経路切換素子。」

第2 引用文献
(1)原査定の拒絶理由において、引用文献1として引用された特開2011-43567号公報(以下「引用文献1」という。)には、図とともに次の記載がある(なお、下線は、当審による。以下同様。)。

ア 「【0001】
この発明は、偏波無依存なSi製の方向性結合器と、この方向性結合器を利用した光学素子、マッハツェンダ干渉器及びリング共振器に関する。」

イ 「【0027】
(構造)
まず、図1,図2(A)及び(B)を参照して方向性結合器10の構造について説明する。図1は、方向性結合器の構造を概略的に示す斜視図である。図2(A)は、方向性結合器の構造を概略的に示す平面図である。図2(B)は、図2(A)のA-A線で切断した切断端面図である。なお、図1及び図2(A)において、方向性結合器10は、クラッド14に埋め込まれているために、直接目視することはできないが、その存在を強調するために、実線で描いて示してある。
【0028】
方向性結合器10は、基板12の第1主面12a上に形成されたクラッド14中に埋め込まれた第1及び第2光導波路16_(1)及び16_(2)とから構成されている。
【0029】
方向性結合器10には、第1光導波路16_(1)から、波長が1.31μmの第1光L1と波長が1.49μmの第2光L2との混合光LMが入力され、この混合光LMを偏波無依存で伝播する。
【0030】
より詳細には、方向性結合器10は、第1光導波路16_(1)から入力された混合光LMを伝播しながら偏波無依存で波長分離して、第1光L1(波長1.31μm)を第1光導波路16_(1)から出力し、及び第2光L2(波長1.49μm)を第2光導波路16_(2)から出力する。
【0031】
以降、第1光L1のように、第1光導波路16_(1)から入力された光が、第2光導波路16_(2)にパワーが移行せず、第1光導波路16_(1)から出力されることを、「バー状態」で出力されると称する。また、第2光L2のように、第1光導波路16_(1)から入力された光が、第2光導波路16_(2)にパワーが移行して、第2光導波路16_(2)から出力されることを、「クロス状態」で出力されると称する。
【0032】
以下、方向性結合器10の構成要素を順に説明する。
【0033】
基板12は、この実施形態に示す例では、矩形状の平行平板とする。基板12を構成する材料に特に限定はないが、この実施形態では、好ましくは、例えば単結晶Siとする。
【0034】
クラッド14は、基板12の第1主面12a上に積層されたほぼ平行平板状の積層体である。詳しくは後述するが、クラッド14の屈折率nは1.46?2.0の範囲の値とする。この実施形態に示す例では、クラッド14は、屈折率nが1.46のSiO_(2)とするのが好適である。
【0035】
第1及び第2光導波路16_(1)及び16_(2)と基板12との間に介在するクラッド14の厚み、すなわち第1及び第2光導波路16_(1)及び16_(2)の下面と基板12の第1主面12aとの距離は、好ましくは約1μm以上の大きさとするのがよい。クラッド14の厚みをこの範囲の値とすることにより、第1及び第2光導波路16_(1)及び16_(2)を伝播する第1光L1及び第2光L2の基板12への放射による損失を抑えることができる。この実施形態に示す例では、第1及び第2光導波路16_(1)及び16_(2)と基板12との間に介在するクラッド14の厚みは、例えば約2μmとするのが好適である。
【0036】
第1及び第2光導波路16_(1)及び16_(2)は、基板12の第1主面12aに平行な面内で、光結合可能な間隔を隔てて平行に配置された単結晶Siからなるチャネル型光導波路である。
【0037】
より詳細には、第1光導波路16_(1)は、光伝播方向に沿った全長がLaであり、一端部16_(1)aと他端部16_(1)bとを備えた直線状に形成されている。同様に第2光導波路16_(2)は、光伝播方向に沿った全長がLaであり、一端部16_(2)aと他端部16_(2)bとを備えた直線状に形成されていている。
【0038】
また、第1及び第2光導波路16_(1)び16_(2)の一端部16_(1)a及び16_(2)a同士は光伝播方向に沿った位置が揃っている。つまり、一端部16_(1)a及び16_(2)aの端面は、光伝播方向に直交する同一の平面内に位置している。同様に、第1及び第2光導波路16_(1)及び16_(2)の他端部16_(1)b及び16_(2)b同士も光伝播方向に沿った位置が揃っている。つまり、他端部16_(1)b及び16_(2)bの端面は、光伝播方向に直交する同一の平面内に位置している。
【0039】
すなわち、第1及び第2光導波路16_(1)及び16_(2)は、全長Laにわたって互いの側面同士が向かい合うように配置されている。ここで、第1及び第2光導波路16_(1)及び16_(2)の全長La、すなわち光伝播方向に沿った長さを、「結合器長La」と称する。具体的な数値を挙げると、この実施の形態に示す例では、結合器長Laは、好ましくは、例えば約11.2μmとする。
【0040】
詳しくは(設計条件)の項で後述するが、この実施の形態のように、第1光L1の波長が1.31μmであり、第2光L2の波長が1.49μmである場合、結合器長Laは、導波路寸法sと中心軸間距離Gとが決定されると、これらの値に応じて一意に定まる。
【0041】
より詳細には、結合器長Laは、波長1.49μmの第2光L2の結合長に一致した長さとする。つまり、結合器長Laは、第2光L2がクロス状態で出力されるような長さとする。結合器長Laをこのように設定することにより、方向性結合器10において、第1光L1と第2光L2とを消光比よく波長分離することができる。なお、結合器長Laの決定に当たり、波長が1.31μmの第1光L1について考慮しない理由については(設計条件)の項で後述する。
【0042】
図2(B)に示すように、第1及び第2光導波路16_(1)及び16_(2)は、光伝播方向に直交した横断面形状が互いに等しい正方形状である。ここで、第1及び第2光導波路16_(1)及び16_(2)の横断面がなす正方形の1辺の長さを、「導波路寸法s」と称する。また、第1及び第2光導波路16_(1)及び16_(2)の中心軸C1及びC2の間の距離を「中心軸間距離G」と称する。
【0043】
なお、第1及び第2光導波路16_(1)及び16_(2)の中心軸C1及びC2とは、それぞれの正方形状の横断面において、2本の対角線が交差する交点を第1及び第2光導波路16_(1)及び16_(2)の延在方向に結ぶことでそれぞれ形成される直線のことを示す。
【0044】
詳しくは(設計条件)の項で後述するが、中心軸間距離Gは、0.6?0.9μmの範囲の値とする。この実施形態に示す例では、中心軸間距離Gは、好ましくは、例えば約0.7μmとする。
【0045】
詳しくは(設計条件)の項で後述するが、導波路寸法sは、上述の中心軸間距離Gの値に応じて、0.21?0.35μmの範囲の値に一意に定められている。この実施形態に示す例では、導波路寸法sは、好ましくは、例えば約0.255μmとする。
【0046】
中心軸間距離G及び導波路寸法sをこのように設定することにより、方向性結合器10は、波長1.31μmの第1光L1と、波長1.49μmの第2光L2とを偏波無依存で波長分離することができる。
【0047】
ここで、「偏波無依存」とは、第2光L2のTE成分及びTM成分とで方向性結合器10の結合長が実質的に一致していることを示す。なお、この定義において、第1光L1を考慮しない理由については、(設計条件)の項で後述する。
【0048】
第1及び第2光導波路16_(1)及び16_(2)には、入出力用のチャネル型光導波路である第1?第4入出力用光導波路18_(1)?18_(4)が接続されている。
【0049】
より詳細には、第1光導波路16_(1)の一端部16_(1)aには、第1入力用光導波路18_(1)が光学的に接続されている。第1光導波路16_(1)の他端部16_(1)bには、第3出力用光導波路18_(3)が光学的に接続されている。第2光導波路16_(2)の一端部16_(2)aには、第2入力用光導波路18_(2)が光学的に接続されている。第2光導波路16_(2)の他端部16_(2)bには、第4出力用光導波路18_(4)が光学的に接続されている。

ウ 「【0050】
(動作)
続いて、図1及び図2(A)を参照して、方向性結合器10の動作について説明する。
【0051】
第1入力用光導波路18_(1)に入力された第1光L1及び第2光L2の混合光LMは、方向性結合器10に向けて伝播し、第1光導波路16_(1)に至る。
【0052】
第1及び第2光導波路16_(1)及び16_(2)が光結合可能な間隔を隔てて平行に配置されていることから、第1光導波路16_(1)に至った第1光L1及び第2光L2は、第1及び第2光導波路16_(1)及び16_(2)の間で相互作用を行い、結合器長Laに応じて、第1光導波路16_(1)→第2光導波路16_(2)へとパワーが移行する。
【0053】
上述のように、方向性結合器10の結合器長Laは第2光L2の結合長に一致しているので、第2光L2は、第1光導波路16_(1)を伝播する過程で、第2光導波路16_(2)に全てのパワーが移行する。つまり、第2光L2は、第4出力用光導波路18_(4)からクロス状態で出力される。
【0054】
一方、第1光L1(波長:1.31μm)は、結合器長Laが第1光L1の結合長と大きくずれていることから、第2光導波路16_(2)へのパワー移行がほとんど生ぜず、第1光導波路16_(1)をそのまま伝播し、ほとんどの成分が第3出力用光導波路18_(3)からバー状態で出力される。
【0055】
このようにして、方向性結合器10は、第1光導波路16_(1)から入力された第1光L1及び第2光L2を偏波無依存で波長分離する。」

エ 「【0099】
図6(A)及び(B)は、方向性結合器10の導波路寸法sを式(1)の範囲外まで変化させたときの第2光L2の結合長の変化を偏波ごとに示す特性図である。図6(A)及び(B)に共通して、縦軸は第2光L2の結合長(μm)を示し、及び横軸は導波路寸法s(μm)を示す。
【0100】
なお、図6(A)及び(B)に示したTE波及びTM波の結合長は、表1及び表2のLaを求めたと同じ手法で算出した。
【0101】
まず、図6(A)について説明する。図6(A)は、クラッド14の屈折率nを1.46とし、中心軸間距離を0.7μmとした場合の特性図である。図5を参照すると、この条件においては、導波路寸法sの最適値は0.255μmである。
【0102】
図6(A)中には、2本の曲線I及びIIが描かれている。曲線Iは、第2光L2のTE波に対応している。曲線IIは、第2光L2のTM波に対応している。また、図6(A)には、上述した導波路寸法sの最適値(0.255μm)を示す矢印Aと、この設計条件における式(1)の導波路寸法範囲(0.21?0.27μm)を示す点線(好適範囲)とを描いてある。
【0103】
図6(A)を参照すると、導波路寸法sが式(1)の範囲内(0.21?0.27μm)の場合には、TE波とTM波の結合長は±5%の範囲内で一致している。それに対して、導波路寸法sが式(1)の範囲から外れると、TE波とTM波の結合長は、大きくずれ始め、例えば、s=0.30μmにおいては、TE波とTM波の結合長の差は約20%に達する。
【0104】
なお、図6では、導波路寸法sが0.21μm未満の領域については計算を行っていない。これは、これ以下の導波路寸法sでは、奇モードがカットオフとなるために、方向性結合器10が正常に動作しないためである。
【0105】
続いて、図6(B)について説明する。図6(B)は、クラッド14の屈折率nを2.0とし、中心軸間距離を0.7μmとした場合の特性図である。図4を参照すると、この条件においては、導波路寸法sの最適値は0.32μmである。
【0106】
図6(B)中には、2本の曲線III及びIVが描かれている。曲線IIIは、第2光L2のTE波に対応している。曲線IVは、第2光L2のTM波に対応している。また、図6(B)には、上述した導波路寸法sの最適値(0.32μm)を示す矢印Bと、この設計条件における式(1)の導波路寸法範囲(0.29?0.35μm)を示す点線(好適範囲)とを描いてある。
【0107】
図6(B)を参照すると、導波路寸法sが式(1)の範囲内(0.29?0.35μm)の場合には、TE波とTM波の結合長は±5%の範囲内で一致している。それに対して、導波路寸法sが式(1)の範囲から外れると、TE波とTM波の結合長は、大きくずれ始め、例えば、s=0.37μmにおいては、TE波とTM波の結合長の差は約20%に達する。
【0108】
表1、表2及び図6(A)及び(B)より明らかなように、この実施形態の方向性結合器は、ONUに用いられる波長1.31μmの第1光L1及び波長1.49μmの第2光L2を、実用上充分なレベルの偏波無依存性で波長分離することができる。」

オ 図2は、以下のものである。


カ 図6は、以下のものである。


(2)引用文献1に記載された発明
ア 上記(1)イの「(構造)」に関する記載を踏まえて、図2を見ると、
図2に示された「方向性結合器10」は、クラッド14中に、間隔を隔てて埋め込まれた、直線状の第1光導波路16_(1)及び第2光導波路16_(1)を備え、それぞれの光導波路の一端部(左側)に「入力用光導波路」が接続され、他端部(右側)に「出力用光導波路」が接続されていることが見てとれる。
上記「方向性結合器10」を、符合を付して表すと、以下のとおりのものである。

「第1光導波路16_(1)及び第2光導波路16_(2)が光結合可能な間隔を隔てて平行に配置され、
第1光導波路16_(1)は、光伝播方向に沿った全長がLaであり、一端部16_(1)aと他端部16_(1)bとを備えた直線状に形成されており、
第2光導波路16_(2)は、光伝播方向に沿った全長がLaであり、一端部16_(2)aと他端部16_(2)bとを備えた直線状に形成されており、
第1光導波路16_(1)及び第2光導波路16_(2)の光伝播方向に直交した横断面形状は、一辺の長さが導波路寸法sの正方形状であり、また、第1光導波路16_(1)及び第2光導波路16_(2)の中心軸C1と中心軸C2の間の距離は、中心軸間距離Gであり、
第1光導波路16_(1)の一端部16_(1)aには、第1入力用光導波路18_(1)が光学的に接続され、第1光導波路16_(1)の他端部16_(1)bには、第3出力用光導波路18_(3)が光学的に接続され、
第2光導波路16_(2)の一端部16_(2)aには、第2入力用光導波路18_(2)が光学的に接続され、第2光導波路16_(2)の他端部16_(2)bには、第4出力用光導波路18_(4)が光学的に接続されている、方向性結合器10」

イ 上記(1)ウの「(動作)」に関する記載を踏まえて、図2を見ると、
図2に示された「方向性結合器10」の「第1入力用光導波路18_(1)」(左上側)に入力された「第1光L1及び第2光L2の混合光LM」は、
第4出力用光導波路18_(4)(右下側)からクロス状態で出力される第2光L2と、
第3出力用光導波路18_(3)(右上側)からバー状態で出力される第1光L1とに、波長分離されることが理解できる。
上記「混合光LM」の波長分離を、順を追って説明すると、以下のとおりである。

「第1入力用光導波路18_(1)に入力された第1光L1及び第2光L2の混合光LMは、第1光導波路16_(1)に至り、第1光導波路16_(1)及び第2光導波路16_(2)の間で相互作用を行い、結合器長Laに応じて、第1光導波路16_(1)→第2光導波路16_(2)へとパワーが移行し、第2光L2(波長:1.49μm)は、結合器長Laが第2光L2の結合長に一致しているので、第1光導波路16_(1)を伝播する過程で、第2光導波路16_(2)に全てのパワーが移行して、第4出力用光導波路18_(4)からクロス状態で出力され、
一方、第1光L1(波長:1.31μm)は、結合器長Laが第1光L1の結合長と大きくずれていることから、第2光導波路16_(2)へのパワー移行がほとんど生ぜず、第1光導波路16_(1)をそのまま伝播し、ほとんどの成分が第3出力用光導波路18_(3)からバー状態で出力される」

ウ 上記(1)エの「導波路寸法s」と「第2光L2の結合長の変化」に関する記載を踏まえて、図6(A)及び図6(B)を見ると、 図6(A)において、曲線I(第2光L2のTE波)と曲線II(第2光L2のTM波)とが矢印Aの最適値で交差し、図6(B)において、曲線III(第2光L2のTE波)と曲線IV(第2光L2のTM波)とが矢印Bの最適値で交差していることから、最適値に設計した「導波路寸法s」の場合に、偏波無依存性で波長分離できることが理解できる。
上記設計を具体的に記載すると、以下のとおりである。

「クラッド14の屈折率nを1.46とし、中心軸間距離を0.7μmとした場合、導波路寸法sが最適値(0.255μm)で第2光L2のTE波の結合長と第2光L2のTM波の結合長が一致し、導波路寸法sが(0.21?0.27μm)の範囲で、TE波とTM波の結合長が±5%の範囲内で一致し、
また、クラッド14の屈折率nを2.0とし、中心軸間距離を0.7μmとした場合、導波路寸法sが最適値(0.32μm)で第2光L2のTE波の結合長と第2光L2のTM波の結合長が一致し、導波路寸法sが(0.29?0.35μm)の範囲で、TE波とTM波の結合長が±5%の範囲内で一致し、
波長1.31μmの第1光L1及び波長1.49μmの第2光L2の混合光LMを、偏波無依存性で波長分離する」

エ 以上のことから、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「第1光導波路16_(1)及び第2光導波路16_(2)が光結合可能な間隔を隔てて平行に配置され、
第1光導波路16_(1)は、光伝播方向に沿った全長がLaであり、一端部16_(1)aと他端部16_(1)bとを備えた直線状に形成されており、
第2光導波路16_(2)は、光伝播方向に沿った全長がLaであり、一端部16_(2)aと他端部16_(2)bとを備えた直線状に形成されており、
第1光導波路16_(1)及び第2光導波路16_(2)の光伝播方向に直交した横断面形状は、一辺の長さが導波路寸法sの正方形状であり、また、第1光導波路16_(1)及び第2光導波路16_(2)の中心軸C1と中心軸C2の間の距離は、中心軸間距離Gであり、
第1光導波路16_(1)の一端部16_(1)aには、第1入力用光導波路18_(1)が光学的に接続され、第1光導波路16_(1)の他端部16_(1)bには、第3出力用光導波路18_(3)が光学的に接続され、
第2光導波路16_(2)の一端部16_(2)aには、第2入力用光導波路18_(2)が光学的に接続され、第2光導波路16_(2)の他端部16_(2)bには、第4出力用光導波路18_(4)が光学的に接続されており、
第1入力用光導波路18_(1)に入力された第1光L1及び第2光L2の混合光LMは、第1光導波路16_(1)に至り、第1光導波路16_(1)及び第2光導波路16_(2)の間で相互作用を行い、結合器長Laに応じて、第1光導波路16_(1)→第2光導波路16_(2)へとパワーが移行し、第2光L2(波長:1.49μm)は、結合器長Laが第2光L2の結合長に一致しているので、第1光導波路16_(1)を伝播する過程で、第2光導波路16_(2)に全てのパワーが移行して、第4出力用光導波路18_(4)からクロス状態で出力され、
一方、第1光L1(波長:1.31μm)は、結合器長Laが第1光L1の結合長と大きくずれていることから、第2光導波路16_(2)へのパワー移行がほとんど生ぜず、第1光導波路16_(1)をそのまま伝播し、ほとんどの成分が第3出力用光導波路18_(3)からバー状態で出力され、
クラッド14の屈折率nを1.46とし、中心軸間距離を0.7μmとした場合、導波路寸法sが最適値(0.255μm)で第2光L2のTE波の結合長と第2光L2のTM波の結合長が一致し、導波路寸法sが(0.21?0.27μm)の範囲で、TE波とTM波の結合長が±5%の範囲内で一致し、
また、クラッド14の屈折率nを2.0とし、中心軸間距離を0.7μmとした場合、導波路寸法sが最適値(0.32μm)で第2光L2のTE波の結合長と第2光L2のTM波の結合長が一致し、導波路寸法sが(0.29?0.35μm)の範囲で、TE波とTM波の結合長が±5%の範囲内で一致し、
波長1.31μmの第1光L1及び波長1.49μmの第2光L2の混合光LMを、偏波無依存性で波長分離する、方向性結合器10。」

(3)原査定の拒絶理由において、周知技術を示す文献として引用された特開2009-211032号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。

ア 「【0027】…方向性結合器部分を構成する第1及び第2光導波路の光伝播方向に直交する断面形状は、基板の主面に垂直な方向の長さが、基板の主面に平行な方向の長さよりも長い長方形状であることが好ましい。
【0028】
このように構成することにより、光合分波素子を偏波無依存にすることができる。」

イ 「【0066】
…、方向性結合器部分18aにおいては、第1及び第2光導波路14及び16の横断面形状は、曲がり導波路部分18bよりも幅が狭くなった長方形状としてあるので、幅W2よりも高さH1の方が大きい。」

ウ 「【0137】…、方向性結合器部分18a?24aの光導波路の幅W2が、曲がり導波路部分18b?24bの光導波路の幅W1よりも僅かに小さいことを説明した。このようにした理由は、光合分波素子10を偏波無依存にするためである。」

エ 「【0141】
方向性結合器部分18a?24aを偏波無依存とするためには、第1及び第2光導波路14及び16の横断面形状と、方向性結合器部分18a?24aの結合長(光伝播方向に沿った長さ)とを調整する必要がある。
【0142】
より詳細には、発明者らは、波長λ_(2V)(=1.49μm)の第2光L_(2)について、結合長と第1及び第2光導波路14及び16の幅を変化させてシミュレーションを行い、方向性結合器部分18a?24aが偏波無依存となる結合長及び導波路幅を決定した。
【0143】
図6(A)及び(B)に、そのシミュレーション結果を示す。図6(A)及び(B)の両者に共通して、縦軸は結合長(μm)を示し、及び横軸は第1及び第2光導波路14及び16の幅(μm)を示す。
【0144】
また、図6(A)は、第1及び第2光導波路14及び16の間の間隔を0.3μmとした場合を示し、及び図6(B)は、第1及び第2光導波路14及び16の間の間隔を0.35μmとした場合を示す。
【0145】
また、図6(A)及び(B)において、実線で示す曲線1は、TE偏波に関する結合長と導波路幅との関係を示し、鎖線で示す曲線2は、TM偏波に関する結合長と導波路幅との関係を示す。
【0146】
なお、図6(A)及び(B)に共通して、第1及び第2光導波路14及び16の高さHは、曲がり導波路部分18b?24bと同様に0.3μmとしてシミュレーションを行っている。
【0147】
図6(A)を参照すると、方向性結合器部分18a?24aにおいて、第1及び第2光導波路14及び16の間隔が0.3μmの場合、結合長(縦軸)が約13μm、及び導波路幅(横軸)が約0.28μmの点において、曲線1及び2が交差することが分かる。
【0148】
また、図6(B)を参照すると、方向性結合器部分18a?24aにおいて、第1及び第2光導波路14及び16の間隔が0.35μmの場合、結合長(縦軸)が約21μm、及び導波路幅が約0.287μmの点において、曲線1及び2が交差することが分かる。
【0149】
このことは、これらの曲線1と曲線2との交差点において、方向性結合器部分18a?24aは、偏波無依存となることを意味する。ただし、図6(A)と(B)とを比較すると、曲線1及び曲線2の両者とも、図6(A)の方が図6(B)よりも傾きが緩やかであるので、第1及び第2光導波路14及び16の間隔が0.3μmの方が、間隔が0.35μmよりも偏波依存性が小さいことが分かる。」

(4)原査定の拒絶理由において、周知技術を示す文献として引用された特開2010-134065号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。

ア 「【0006】 …方向性結合器を構成する光導波路と、それ以外の光導波路の横断面形状を、高さの方が幅よりも大きい矩形状とすることにより、偏波無依存を達成できることに想到し、この発明を完成するに至った。」

イ 「【0027】…、第1光導波路20a及び20bと、第2光導波路22a及び22bは、光伝播方向に直交する横断面形状がそれぞれ等しく、第1クラッド14の表面に直交する方向の長さすなわち高さHの方が、第1クラッド14の表面に平行な方向の長さすなわち幅Wよりも大きく形成されている。
【0028】
この実施の形態に示す例では、第1及び第2光導波路20a,20b,22a及び22bの幅Wは、好ましくは、例えば約0.29μmとする。また、第1及び第2光導波路20a,20b,22a及び22bの高さHは、好ましくは、例えば、約0.30μmとする。また、方向性結合器18の領域において、第1光導波路20a及び20bの導波路中心間距離は、好ましくは、例えば約0.8μmとする。」

ウ 「【0052】
図2(B)には、2本の曲線が示されている。曲線IIIが、TE波に対応するものであり、直線IVがTM波に対応するものである。
【0053】
図2(B)に示された波長範囲(約1.45?1.65μm)で、曲線III及びIVは、よい一致を示している。これは、この波長範囲において、TE波とTM波の結合長が一致していることを示してる。つまり、方向性結合器18において、光伝播方向に沿った単位長さ当たりのパワー移行の程度が、TE波とTM波とで等しいことを示している。よって、方向性結合器18の領域においてもTE波とTM波の光伝播特性が等しい、つまり偏波依存性がないことがわかる。」

第3 対比・判断
(1)本願発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「方向性結合器10」は、「第1入力用光導波路18_(1)に入力された」「第2光L2(波長:1.49μm)」が「第4出力用光導波路18_(4)から」出力され、また、「第1入力用光導波路18_(1)に入力された」「第1光L1(波長:1.31μm)」が「第3出力用光導波路18_(3)から」出力されるものであるから、本願発明と同様に「波長選択性経路切換素子」といえる。

イ 引用発明の「第1光導波路16_(1)」及び「第2光導波路16_(2)」がそれぞれ、本願発明の「第1光導波路」及び「第2光導波路」に相当するところであり、これらは、本願発明と同様に「平行に配置され」ているものである。

ウ 引用発明の「第1光導波路16_(1)及び第2光導波路16_(2)の光伝播方向に直交した横断面形状」は、一辺の長さが導波路寸法sの正方形状であるから、該「導波路寸法s」は、本願発明の「前記第1光導波路と前記第2光導波路の厚み」及び「(前記第1光導波路と前記第2光導波路の)幅」に相当する。
また、引用発明の「第1光導波路16_(1)及び第2光導波路16_(2)の中心軸C1及び中心軸C2の間の距離」は、本願発明の「当該第1光導波路と当該第2光導波路との中心間距離」に相当する。

エ 本願発明の「前記第1光導波路と前記第2光導波路の厚み、幅、及び当該第1光導波路と当該第2光導波路との中心間距離は、TE(Transverse Electric Wave)偏波の光電場の空間振幅分布が反対称の形状でカップリングして伝播する反対称伝播モードがカットオフされない範囲に設定され」との事項について検討する。

引用文献1の【0104】に「奇モードがカットオフとなるために、方向性結合器10が正常に動作しない」と記載されているように、反対称伝播モードがカットオフされた場合には、第1光導波路から前記第2光導波路へのカップリングすなわちパワーの移行が行われないものと認められるところ、引用発明において、「第2光L2(波長:1.49μm)は、…第1光導波路16_(1)を伝播する過程で、第2光導波路16_(2)に全てのパワーが移行」し、この移行は、偏波無依存であり、TE波もTM波も移行するから、引用発明も本願発明と同様に「前記第1光導波路と前記第2光導波路の厚み、幅、及び当該第1光導波路と当該第2光導波路との中心間距離は、TE(Transverse Electric Wave)偏波の光電場の空間振幅分布が反対称の形状でカップリングして伝播する反対称伝播モードがカットオフされない範囲に設定され」ていると認められる。

オ 引用発明は、中心軸間距離を0.7μmとし、導波路寸法s、すなわち、導波路の高さ寸法s及び幅寸法sを変化させた場合の第2光L2のTE波の結合長及びTM波の結合長について、クラッド14の屈折率nが1.46の場合、導波路の幅寸法sが最適値の0.255μmで第2光L2のTE波の結合長と第2光L2のTM波の結合長が一致し、幅寸法sが(0.21?0.27μm)の範囲で、TE波とTM波の結合長が±5%の範囲内で一致し、また、クラッド14の屈折率nが2.0の場合、導波路の幅寸法sが最適値の0.32μmで第2光L2のTE波の結合長と第2光L2のTM波の結合長が一致し、幅寸法sが(0.29?0.35μm)の範囲で、TE波とTM波の結合長が±5%の範囲内で一致しているというものであるから、引用発明も本願発明と同様に「前記厚み、前記幅、及び前記中心間距離によって決定される、前記TE偏波及びTM(Transverse Magnetic Wave)偏波に対する結合長について、前記TE偏波に対する結合長と前記TM偏波に対する結合長が等しい値を与える当該第1及び第2光導波路の幅の値を中心値として、前記TE偏波に対する結合長と前記TM偏波に対する結合長との差が偏波無依存とみなせる程度に小さくなる範囲に設定されている」ものといえる。

カ 以上のとおりであるから、両者は、
「第1光導波路と第2光導波路とが平行に配置され、
前記第1光導波路と前記第2光導波路の厚み、幅、及び当該第1光導波路と当該第2光導波路との中心間距離は、TE(Transverse Electric Wave)偏波の光電場の空間振幅分布が反対称の形状でカップリングして伝播する反対称伝播モードがカットオフされない範囲に設定され、
前記厚み、前記幅、及び前記中心間距離によって決定される、前記TE偏波及びTM(Transverse Magnetic Wave)偏波に対する結合長について、
前記TE偏波に対する結合長と前記TM偏波に対する結合長が等しい値を与える当該第1及び第2光導波路の幅の値を中心値として、前記TE偏波に対する結合長と前記TM偏波に対する結合長との差が偏波無依存とみなせる程度に小さくなる範囲に設定されている波長選択性経路切換素子。」の点で一致する。

キ 一方、両者は、
第1光導波路及び第2光導波路の幅に関して、
本願発明では、「前記第1光導波路及び前記第2光導波路の幅は、厚みより狭く設定され」ているのに対し、
引用発明では、第1光導波路16_(1)及び第2光導波路16_(2)の光伝播方向に直交した横断面形状は、一辺の長さが導波路寸法sの正方形状、すなわち、幅と厚みが同じとされている点で相違する。

(2)判断
上記相違点について検討する。
ア 引用発明は、正方形状の光導波路、つまり、「矩形の光導波路」でなる光結合部分におけるパワーの移行を偏波無依存で行うものと認められるところ、
光結合部分におけるパワーの移行を偏波無依存で行う「矩形の光導波路」において、その横断面形状を「長方形状」としたものは、引用文献2及び引用文献3に記載されているように本願の出願日時点で周知であることから、引用発明において、「第1光導波路16_(1)及び第2光導波路16_(2)の光伝播方向に直交した横断面形状」として「長方形状」を採用して上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることに格別の困難性は、認められない。
また、その採用を妨げる特段の事情も認められない。

イ 本願発明の奏する効果についても、引用発明の奏する効果及び周知技術から予測し得る範囲内のものである。

第5 むすび
以上のとおりであって、本願発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものと認められることから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-24 
結審通知日 2017-03-28 
審決日 2017-04-10 
出願番号 特願2012-182037(P2012-182037)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 百瀬 正之  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 星野 浩一
近藤 幸浩
発明の名称 波長選択性経路切換素子  
代理人 大垣 孝  
代理人 岡田 宏之  

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