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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60C
管理番号 1328657
審判番号 不服2016-3436  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-04 
確定日 2017-06-13 
事件の表示 特願2011-241406号「乗用車用空気入りラジアルタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年5月20日出願公開、特開2013-95326号、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年11月2日の出願であって、平成27年8月12日付けで拒絶理由通知がされ、同年10月16日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月30日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成28年3月4日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、平成29年2月16日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、平成29年4月24日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願請求項1-3に係る発明は、以下の引用文献A-Dに基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.国際公開第2011/065018号
B.特開2005-297859号公報
C.特開2000-190706号公報
D.特開2007-186123号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

本願請求項1-3に係る発明は、以下の引用文献1-9に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.国際公開第2011/122170号(当審で新たに引用した文献)
2.特開2000-190706号公報(原査定時の引用文献C)
3.特開2011-162166号公報(当審で新たに引用した文献)
4.特開2007-55578号公報(当審で新たに引用した文献)
5.特開2009-184371号公報(当審で新たに引用した文献)
6.特開2007-186123号公報 (原査定時の引用文献D)
7.国際公開第2011/065018号(原査定時の引用文献A)
8.特開2005-219537号公報(当審で新たに引用した文献)
9.特開2005-132247号公報(当審で新たに引用した文献)

第4 本願発明
本願請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、平成29年4月24日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-3は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
一対のビード部間でトロイダル状に跨るラジアル配列のカーカスコードのプライからなるカーカスを有し、該カーカスのタイヤ径方向外側に、1層以上のベルト層からなるベルトと、タイヤ周方向に延びるコードのゴム引き層からなる1層以上のベルト補強層とを備えた、乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、
前記タイヤの断面幅SWが135mm以上であり、且つ、前記タイヤの断面幅SWと外径ODとの比SW/ODが0.24以下であり、
前記ベルト補強層のタイヤ幅方向の幅をW1とし、前記ベルト層のうち最もタイヤ幅方向の幅が狭いベルト層のタイヤ幅方向の幅をW2とするとき、比W1/W2は、
0.8≦W1/W2≦1.05
を満たし、
タイヤのエアボリュームは、15000cm^(3)以上であり、
タイヤ幅方向断面にて、タイヤ赤道面CLにおけるトレッド表面上の点をPとし、点Pを通りタイヤ幅方向に平行な直線をm1とし、接地端Eを通りタイヤ幅方向に平行な直線をm2とし、直線m1と直線m2とのタイヤ径方向の距離を落ち高L_(CR)とするとき、トレッド幅TWに対する比L_(CR)/TWが0.045以下であり、
前記ベルト層は、タイヤ周方向に対して、45°以上の角度で傾斜して延びるベルトコードからなり、層間で前記ベルトコードが互いに交差する、複数の傾斜ベルト層であり、
前記ベルト補強層のコードのヤング率は、15000MPa以上であることを特徴とする、乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記W2は、タイヤのトレッド幅に対して0.85?1.10倍であることを特徴とする、請求項1に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
2層の前記ベルト層と、1層の前記ベルト補強層とを備えた、請求項1又は2に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。」

第5 引用文献、引用発明等
(1)引用文献1について
当審拒絶理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与。以下同様。)
(1-1)「[0001] 本発明は、転がり抵抗の低減に貢献しうるタイヤに関する。」

(1-2)「[0004] 上述したような方法によれば、一般的なタイヤよりも転がり抵抗が低減し、自動車の省燃費に対して一定の貢献が見込まれる。しかしながら、近年、環境への配慮が高まるに連れて、自動車の省燃費に対する貢献度がより高いタイヤが求められていた。
[0005] そこで、本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、転がり抵抗の低いゴムを用いる方法や、トレッド幅方向断面の形状を特徴的な形状とする方法以外の方法によって転がり抵抗を低減できるタイヤの提供を目的とする。」

(1-3)「[0006] 上述した課題を解決するため、本発明の特徴は、トレッドにタイヤ周方向に連続して形成された周方向溝部と、トレッド幅方向に延びる横溝部とが形成されたタイヤであって、前記タイヤの幅SW、前記タイヤの外径ODとが、SW≦175mm かつOD/SW≧3.6を満たし、前記タイヤの接地面積に対する前記周方向溝部と前記横溝部とを含む溝面積の比率である溝面積比率が25%以下であることを要旨とする。」

(1-4)「[0007] タイヤは、外径が大きいほど、トレッドの路面への入射角度が緩やかになるため、同じ荷重がかかったときの変形量が少なくなる。そのため、本発明の特徴によれば、ヒステリシスロスが低減し、転がり抵抗を低下させることができる。
[0008] また、タイヤの外径が大きいほど、接地面の形状は、回転方向に縦長になる。また、同じ接地面積であれば、タイヤの幅SWが狭い方が転がり抵抗は小さくなる。従って、本発明に係るタイヤによれば、転がり抵抗を低減させることができる。」

(1-5)「[0029] 空気入りタイヤ1は、路面と接するトレッド10を備える。空気入りタイヤ1の内部構成は、ビード部やカーカス、ベルトなどを備える一般的なタイヤと同じである。空気入りタイヤ1の断面において、空気入りタイヤ1の外縁は、トロイド状である。空気入りタイヤ1には、空気でなく、窒素ガスなどの不活性ガスが充填されてもよい。」

以上の記載事項から次の事項が認定できる。
(1-6)記載事項(1-5)の記載内容と空気入りタイヤの技術常識から、一対のビード部間でトロイド状に跨るカーカスと、トレッド10とを備えた、自動車用空気入りタイヤが開示されているといえる。

(1-7)記載事項(1-3)の「OD/SW≧3.6を満たし」との記載から、式を変換すると、SW/ODが0.28以下であることがいえる。

これら記載事項、認定事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「一対のビード部間でトロイド状に跨るカーカスと、トレッド10とを備えた、自動車用空気入りタイヤであって、
前記タイヤの幅SWが175mm以下であり、且つ、前記タイヤの幅SWと外径ODとの比SW/ODが0.28以下である自動車用空気入りタイヤ。」

(2)引用文献2について
当審拒絶理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
(2-1)「【0002】
【従来の技術】ソーラーカー等の省エネルギー走行車両には、従来よりバイアスタイヤが使用されていた。その後、特開平7-304308号等にも開示されているように、タイヤのラジアル化により更なる低転がり化が可能になった。」

(3)引用文献3について
当審拒絶理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
(3-1)「【請求項1】
左右一対のビード部にそれぞれ埋設された一対のビードコア間に跨ってトロイド状に延在するカーカスを骨格とし、該カーカスのクラウン部の外周側に配設され、タイヤ周方向に対し傾斜して延びる複数本のコードを配列してなる1層の傾斜スチールベルト層と、該傾斜スチールベルト層の外周側に配設され、タイヤ周方向に対し実質的に平行に複数本のコードを配列してなる1層の周方向ベルト層と、を備える空気入りタイヤにおいて、
前記傾斜スチールベルト層のコードが、スチールフィラメントの複数本を引き揃えた束を単位としてベルト幅方向に並置され、かつ、前記周方向ベルト層のコードが、複数本のフィラメントを撚り合わせてベルト幅方向に並置されてなることを特徴とする空気入りタイヤ。」

(3-2)「【請求項6】
前記周方向ベルト層のベルト幅方向の幅B1と、前記傾斜スチールベルト層のベルト幅方向の幅B2とが下記式(3)、
0.8×B2<B1<0.95×B2 (3)
で表わされる関係を満足する請求項1?5のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。」

(3-3)「【0006】
特許文献1?5に記載の傾斜スチールベルト層および周方向スチールベルト層に、特許文献6?9に記載の金属モノフィラメントを撚らずにベルト用コードとして使用する技術を適用することによって、さらなる軽量化および省燃費化を可能としたタイヤが考えられるが、上記構造は単純に適用することはできない。それは、特許文献6?9に記載のベルト構造は、無撚りのスチールフィラメントを並列配置しており、並列スチールフィラメントに垂直にかかる変形に弱いためである。そのため、周方向ベルトがタイヤ接地時に圧縮変形を受けた際に座屈変形をおこしやすく、タイヤの耐久性の面では必ずしも十分とはいえなかった。」


(4)引用文献4について
当審拒絶理由に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。
(4-1)「【0004】
しかし、特許文献1に開示された技術では、ショルダー部の膨径を抑制する周方向補強ベルト層の幅が空気入りタイヤのショルダー部付近まで必要になるため、周方向補強ベルト層を挟む2枚の交差するベルト層は、ショルダーバットレス部付近まで必要になる。その結果、周方向補強ベルト層を挟む2枚の交差するベルト層間におけるせん断ひずみが大きくなり、2枚の交差するベルト層の幅方向外側端部において両者が分離する、いわゆるベルトエッジセパレーションを引き起こしやすい。」

(4-2)「【0007】
この空気入りタイヤは、ショルダー部の膨径を抑制する周方向補強ベルト層を備え、かつ第1ベルト層と第2ベルト層とによって周方向補強ベルト層を挟むとともに、第1ベルト層と第2ベルト層との間であって、空気入りタイヤの幅方向における周方向補強ベルト層の外側端部よりも幅方向外側に応力緩和層を設ける。これによって、応力緩和層により第1ベルト層と第2ベルト層との間におけるせん断ひずみを抑制できるので、ベルトエッジセパレーションを抑制できる。また、第1ベルト層及び第2ベルト層と、周方向補強ベルト層とのせん断ひずみを抑制することにより発熱を抑制できるので、発熱による周方向補強ベルト層の疲労破断を抑制できる。」

(4-3)「【0034】
図3-1に示すように、周方向補強ベルト層3の幅(幅方向における周方向補強ベルト層3の大きさ、周方向補強ベルト幅)W_(BC)は、第1ベルト層5Aの幅(幅方向における第1ベルト層5Aの大きさ、第1ベルト層幅)W5_(A)、及び第2ベルト層5Bの幅(幅方向における第2ベルト層5Bの大きさ、第2ベルト層幅)W_(5B)よりも小さい。そして、周方向補強ベルト層3の幅方向外側における端部(以下外側端部)3tは、いずれも第1ベルト層5Aの幅方向外側における端部(以下外側端部)5At及び第2ベルト層5Bの幅方向外側における端部(以下外側端部)5Btよりも幅方向内側に配置される。すなわち、第1ベルト層5Aの外側端部5At及び第2ベルト層5Bの外側端部5Btは、周方向補強ベルト層3の外側端部3tよりも幅方向外側まで延出する。」

(4-4)段落【0081】【表2】、段落【0083】【表3】及び段落【0085】【表4】を参酌すると、周方向補強ベルト層3の幅W_(BC)の第2ベルト層5Bの幅W_(5B)に対する比を、本発明例4、5、8、9では約0.8に、本発明例10では約0.86に、本発明例7では約1.04に設定することが開示されている。

(5)引用文献5について
当審拒絶理由に引用された引用文献5には、図面とともに次の事項が記載されている。
(5-1)「【0004】
そこで、偏平率の低いタイヤでは、トレッドショルダ部付近での径成長量が特に多くなることから、周方向に延在する補強素子からなるベルト強化層を、そのトレッドショルダ部付近に至るまで広範囲に亘って配設することが提案されているが、ベルト強化層をむやみに広幅化したときは、そのベルト強化層と、それの半径方向に隣接して位置するベルト層との間の層間ゴムに、接地時に大きな周方向剪断力が作用する。なぜなら、タイヤが接地するとベルトは半径方向の内外に曲げられ、そのときのベルトの周方向伸びが、ベルト強化層とベルト層とで大きくことなるからである。従って、この剪断力が層間セパレーションを惹起することになる。」

(5-2)「【0007】
前記目的を達成するため、この発明は、一対のビードコアに係留した、トロイド状のカーカスのクラウン部の外周上に、タイヤ周方向に延びるゴム被覆したコードからなる一層以上のベルト強化層と、かかるベルト強化層のタイヤ径方向外側に、タイヤ周方向に対し傾斜して延びるゴム被覆したコードからなる二層以上のベルト層とを具え、ベルト層のうち、タイヤ径方向に隣接する少なくとも二層のベルト層はコードがタイヤ赤道面を挟んで互いに交差する交差ベルト域を形成してなる空気入りタイヤにおいて、ベルト強化層の幅は、タイヤ断面幅の60?85%の範囲内にあり、交差ベルト域の幅は、タイヤ断面幅の65?90%の範囲内にあり、ベルト強化層のうちタイヤ径方向で最も外側に位置するベルト強化層である最外ベルト強化層のタイヤ幅方向端と、タイヤ幅方向端からタイヤ幅方向内側に向かって20mm以上離れた位置との間で、ベルト層のうちタイヤ径方向で最も内側に位置するベルト層である最内ベルト層を構成するコードの中心位置と、最外ベルト強化層を構成するコードの中心位置とのタイヤ径方向距離が2.0?5.0mmの範囲内にあることを特徴とする。かかる構成では、タイヤ断面幅に対するベルト強化層の幅及び交差ベルト域の幅を充分に確保して、トレッド部の剪断剛性を向上することで、タイヤの耐偏摩耗性を向上させている。また、最外ベルト強化層のタイヤ幅方向端と最内ベルト層との間のタイヤ径方向距離を充分に確保して、ベルト層のタイヤ幅方向端及びベルト強化層のタイヤ幅方向端に集中するタイヤ周方向剪断歪を充分に低減することができるので、タイヤ周方向剪断歪に起因したベルト層とベルト強化層との間の層間ゴムの破壊を防止することができる。このとき、ベルト層がタイヤ径方向に外側過ぎる配置とはならず、かつ、ベルト強化層がタイヤ径方向に内側過ぎる配置とはならずに、最外ベルト強化層のタイヤ幅方向端と最内ベルト層のタイヤ幅方向端との離間距離を充分に確保することができるので、トレッド部の摩耗が進行しても、ベルト層が早期に露出することなく、タイヤ寿命を延ばすことができ、かつ、内圧充填時にベルト強化層のタイヤ幅方向端における径成長量が増大することに起因した、ベルト強化層のタイヤ幅方向端とその近傍にあるゴムとのセパレーションを抑制することができる。更にまた、最外ベルト強化層のタイヤ幅方向端と、そこからタイヤ幅方向内側に向かって20mmは離れた位置との間で、最外ベルト層と隣接するベルト層のコード中心間距離を5.0mm以下とすることによりゴム内での発熱量を抑制することができる。なお、ここでいう「ベルト強化層の幅」とは、ベルト強化層の両タイヤ幅方向端間をタイヤ幅方向に沿って計測した距離をいうものとする。」

(5-3)「【0010】
更にまた、ベルト強化層の幅は、ベルト層の幅よりも小さいことが好ましい。ここでいう「ベルト層の幅」とは、ベルト層の両タイヤ幅方向端間をタイヤ幅方向に沿って計測した距離をいうものとする。」

(5-4)段落【0030】【表1】を参酌すると、ベルト強化層の幅のベルト層の幅に対する比を、実施例タイヤ1?4では約0.88に設定することが開示されている。

(6)引用文献6について
当審拒絶理由に引用された引用文献6には、図面とともに次の事項が記載されている。
(6-1)「【0023】
上記周方向スパイラルベルト層に用いるコードは、引張弾性率が30GPa以上であることを要するが、30?70GPaの範囲であることが好ましい。引張弾性率が70GPaを超えると、タイヤ成型時に拡張できず、製品不良となる。」

(7)引用文献7について
当審拒絶理由に引用された引用文献7には、図面とともに次の事項が記載されている。
(7-1)段落[0007]には、第1の傾斜ベルトをタイヤ周方向に対し45?90°の角度で傾斜させることが開示されている。

(8)引用文献8について
当審拒絶理由に引用された引用文献8には、図面とともに次の事項が記載されている。
(8-1)段落【0020】、段落【0030】【表1】及び【図2】を参酌すると、ベルト層の幅とタイヤのトレッド幅の比を1.04に設定することが開示されている。

(9)引用文献9について
当審拒絶理由に引用された引用文献9には、図面とともに次の事項が記載されている。
(9-1)「【0010】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、トレッド表面形状を従来にない特有の形状にすることによって、制動性能と、その背反性能である摩耗性能や転がり抵抗性能などとを両立させることができる空気入りラジアルタイヤを提供することを目的とする。」

(9-2)【図1】には、タイヤ径方向における落ち込み量/接地幅を0.04に設定することが開示されている。

第6.対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、
後者の「一対のビード部間でトロイド状に跨るカーカスを有する自動車用空気入りタイヤ」と前者の「一対のビード部間でトロイダル状に跨るラジアル配列のカーカスコードのプライからなるカーカスを有し、該カーカスのタイヤ径方向外側に、1層以上のベルト層からなるベルトと、タイヤ周方向に延びるコードのゴム引き層からなる1層以上のベルト補強層とを備えた、乗用車用空気入りラジアルタイヤ」とは、「一対のビード部間でトロイダル状に跨るカーカスを有する自動車用空気入りタイヤ」という限度で共通する。

そうすると、両者は、本願発明1の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「一対のビード部間でトロイダル状に跨るカーカスを有する自動車用空気入りタイヤ。」
そして、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
本願発明1は、「カーカス」が「ラジアル配列のカーカスコードのプライからな」り、「自動車用空気入りタイヤ」が「乗用車用空気入りラジアルタイヤ」であり、「タイヤのエアボリュームは、15000cm^(3)以上である」のに対し、
引用発明は、「カーカス」の態様が特定されておらず、「自動車用空気入りタイヤ」であり、タイヤのエアボリュームが特定されていない点。

[相違点2]
本願発明1は、「前記タイヤの断面幅SWが135mm以上であり、且つ、前記タイヤの断面幅SWと外径ODとの比SW/ODが0.24以下であ」るのに対し、
引用発明は、「前記タイヤの幅SWが175mm以下であり、且つ、前記タイヤの幅SWと外径ODとの比SW/ODが0.28以下であ」る点。

[相違点3]
本願発明1は、「該カーカスのタイヤ径方向外側に、1層以上のベルト層からなるベルトと、タイヤ周方向に延びるコードのゴム引き層からなる1層以上のベルト補強層とを備え」、「前記ベルト補強層のタイヤ幅方向の幅をW1とし、前記ベルト層のうち最もタイヤ幅方向の幅が狭いベルト層のタイヤ幅方向の幅をW2とするとき、比W1/W2は、0.8≦W1/W2≦1.05を満たし」、「タイヤ幅方向断面にて、タイヤ赤道面CLにおけるトレッド表面上の点をPとし、点Pを通りタイヤ幅方向に平行な直線をm1とし、接地端Eを通りタイヤ幅方向に平行な直線をm2とし、直線m1と直線m2とのタイヤ径方向の距離を落ち高L_(CR)とするとき、トレッド幅TWに対する比L_(CR)/TWが0.045以下であり、前記ベルト層は、タイヤ周方向に対して、45°以上の角度で傾斜して延びるベルトコードからなり、層間で前記ベルトコードが互いに交差する、複数の傾斜ベルト層であり、前記ベルト補強層のコードのヤング率は、15000MPa以上である」のに対し、
引用発明は、かかる構造が特定されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点3について先に検討する。
ア.本願発明1の上記相違点3に係る「前記ベルト補強層のタイヤ幅方向の幅をW1とし、前記ベルト層のうち最もタイヤ幅方向の幅が狭いベルト層のタイヤ幅方向の幅をW2とするとき、比W1/W2は、0.8≦W1/W2≦1.05を満たし」との構成(以下、「構成A」という。)の技術的意味は、本件明細書の段落【0009】及び段落【0033】に記載されているように、狭幅化及び大径化したタイヤにおいて、最狭幅交差ベルトのタイヤ幅方向の幅に対して、周方向ベルトのタイヤ幅方向の幅をほぼ同等ないし若干狭く設定することにより、周方向ベルトの剛性が低減し、交差ベルトと周方向ベルトとの間の剛性差による歪みの発生を抑えることである。
他方、引用文献3-5に記載されているタイヤも、タイヤ接地時の交差ベルトと周方向ベルトの変形を抑えタイヤの耐久性を向上させるという課題(記載事項(3-3)、(4-1)、(5-1)を参照。)を有するものであるから、本願発明1の課題と共通する点もみられ、また、本願発明1の「比W1/W2」に相当する比の数値においても、引用文献3-5は、記載事項(3-2)、(4-4)、(5-4)に示されているように充足している。
しかしながら、引用文献3-5に記載されているタイヤは、いずれも本願発明1が特定しているような狭幅化及び大径化したタイヤではない。
また、引用文献3に記載されているタイヤは、傾斜ベルト層(本願発明1のベルト層に相当)のコードが、複数本を引き揃えた束を単位としてベルト幅方向に並置され、かつ、前記周方向ベルト層(本願発明1のベルト補強層に相当)のコードが、複数本のフィラメントを撚り合わせてベルト幅方向に並置されている構成(記載事項(3-1)を参照。)であるから、傾斜ベルト層と周方向ベルト層には剛性差が存在している。引用文献4に記載されているタイヤは、応力緩和層を配置してベルト層とベルト強化層との間の層間ゴムの破壊を防止するもの(記載事項(4-2)を参照。)である。引用文献5に記載されているタイヤは、最外ベルト強化層のタイヤ幅方向端と最内ベルト層との間のタイヤ径方向距離を充分に確保して、ベルト層のタイヤ幅方向端及びベルト強化層のタイヤ幅方向端に集中するタイヤ周方向剪断歪を充分に低減するもの(記載事項(5-2)を参照。)であるから、引用文献3-5に記載されている技術的事項は、いずれも上記課題を解決するための技術思想が本願発明1とは異なっている。
このように、引用文献3-5は、狭幅化及び大径化したタイヤではなく、かつ上記課題を解決するための技術思想が異なっているから、引用発明に引用文献3-5に記載されている技術的事項を適用する契機はないので、上記構成Aを導き出すことはできない。

イ.本願発明1の上記相違点3に係る「タイヤ幅方向断面にて、タイヤ赤道面CLにおけるトレッド表面上の点をPとし、点Pを通りタイヤ幅方向に平行な直線をm1とし、接地端Eを通りタイヤ幅方向に平行な直線をm2とし、直線m1と直線m2とのタイヤ径方向の距離を落ち高L_(CR)とするとき、トレッド幅TWに対する比L_(CR)/TWが0.045以下であり」との構成(以下、「構成B」という。)の技術的意味は、本件明細書の段落【0009】及び段落【0036】に記載されているように、狭幅化及び大径化したタイヤにおいて、比L_(CR)/TWを0.045以下とすることにより、タイヤのクラウン部がフラット化(平坦化)し、接地面積が増大して、路面からの入力(圧力)を緩和して、タイヤ径方向の撓み率を低減し、タイヤの耐久性及び耐磨耗性をさらに向上させることである。
他方、引用文献9に記載されているタイヤは、制動性能と、その背反性能である摩耗性能や転がり抵抗性能などとを両立させることを課題としているところ、トレッド表面形状を特有の形状にすることによって解決するものであり、本願発明1のように狭幅化及び大径化したタイヤにおいて、接地端でのタイヤ径方向の落ち高に着目したものではないから、引用発明に引用文献9に記載されている技術的事項を適用する契機はないので、上記構成Bを導き出すことはできない。

したがって、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明は、当業者であっても引用発明及び引用文献2-9に開示された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 原査定についての判断
平成29年4月24日に提出された手続補正書の補正により、補正後の請求1は、「前記タイヤの断面幅SWが135mm以上であり」、「タイヤのエアボリュームは、15000cm3以上であり、タイヤ幅方向断面にて、タイヤ赤道面CLにおけるトレッド表面上の点をPとし、点Pを通りタイヤ幅方向に平行な直線をm1とし、接地端Eを通りタイヤ幅方向に平行な直線をm2とし、直線m1と直線m2とのタイヤ径方向の距離を落ち高L_(CR)とするとき、トレッド幅TWに対する比L_(CR)/TWが0.045以下であり、前記ベルト層は、タイヤ周方向に対して、45°以上の角度で傾斜して延びるベルトコードからなり、層間で前記ベルトコードが互いに交差する、複数の傾斜ベルト層であり、前記ベルト補強層のコードのヤング率は、15000MPa以上であること」という技術的事項を有するものとなった。当該技術的事項は、原査定における引用文献A-Dには記載されておらず、本願出願前における周知技術でもないので、本願発明は、当業者であっても、原査定における引用文献A-Dに基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-05-30 
出願番号 特願2011-241406(P2011-241406)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 森本 康正梶本 直樹  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 島田 信一
一ノ瀬 覚
発明の名称 乗用車用空気入りラジアルタイヤ  
代理人 山口 雄輔  
代理人 杉村 憲司  

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