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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  E05B
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E05B
管理番号 1328659
審判番号 無効2015-800069  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-03-20 
確定日 2017-06-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第4008302号発明「ロータリーディスクタンブラー錠及び鍵」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第4008302号(以下「本件特許」という。平成14年8月5日出願、平成19年9月7日登録、請求項の数は3である。)の請求項2に係る発明についての特許を無効にすることを求める事案である。

第2 手続の経緯
本件の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成14年 8月 5日 本件出願(特願2002-226833号、優先権主張番号:特願2001-316885号、優先日:平成13年10月15日)
平成19年 9月 7日 本件特許の設定登録(特許第4008302号)

平成23年10月27日 訂正審判請求(訂正2011-390118号)
平成23年12月20日 訂正審判審決(訂正を認める)
平成24年 4月 2日 訂正を認める審決の確定の通知書

平成27年 3月20日 本件無効審判請求(無効2015-800069号)
平成27年 5月28日 審判事件答弁書(同年5月29日差出)
上申書(被請求人)(同年5月29日差出)
平成27年 8月 6日 口頭審理陳述要領書(被請求人)(同年8月7日受付)
平成27年 8月 7日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成27年 9月 9日 上申書(請求人)
平成27年 9月14日 訂正口頭審理陳述要領書(被請求人)(同年9月15日受付)
平成27年 9月16日 上申書(請求人)
平成27年 9月17日 上申書(被請求人)(同年9月18日受付)
平成27年 9月18日 口頭審理
平成27年10月 8日 上申書(被請求人)(同年10月9日受付)
平成27年10月13日 上申書(請求人)

第3 本件特許発明
本件特許の請求項2に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、平成23年12月20日の審決(訂正2011-390118号)で訂正することが認められ、確定登録された訂正明細書(以下「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝を形成した外筒と、
この外筒に回転自在に嵌合し、間隙を介して中心軸線方向に積層された複数の仕切板を設けると共に、中心軸線に沿って鍵孔を貫通させた内筒と、
この内筒の母線に沿って延在し、内筒の外周部において半径方向に移動可能に案内されると共に、上記カム溝と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロッキングバーとを有し、
上記仕切板の間の各スロットに、中央部に前記内筒の中心軸線に関して点対称に形成された鍵孔を包囲し得る大きさの鍵挿通孔26を形成した環状ロータリーディスクタンブラーを挿設し、
その実体部の1ヵ所を、内筒を軸線方向に貫通する支軸に揺動可能に軸支すると共に、鍵挿通孔を挟んで上記支軸と対峙するロータリーディスクタンブラーの実体部であり、円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切欠を形成し、
一方、鍵挿通孔の開口端縁に、先端の移動軌跡が鍵孔に挿入されたリバーシブルである合鍵のブレードの平面部と干渉する係合突起を一体に突設し、各ロータリーディスクタンブラーをこの係合突起が合鍵に近接する方向に付勢すると共に、常態では内筒を軸線方向に貫通するバックアップピンに係止し、
他方、これらのタンブラー群の係合突起の夫々が鍵孔に挿通された合鍵のブレードに形成された対応する窪みと係合したとき、各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにしたロータリーディスクタンブラー錠の合鍵であって、
鍵孔に挿入されたときロータリーディスクタンブラーの突出量が一定である前記係合突起の先端と整合するブレードの平面部に、有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成し、
この窪みが対応する前記係合突起と係合したとき、該タンブラー群が前記摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わることにより、各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにし、
以て、合鍵と一体的に内筒を回動させたさせたとき、カム溝とロッキングバーとの間に生じる楔作用によりロッキングバーを内筒中心軸方向に移動させ、内筒を外筒に対し相対回動できるようにしたことを特徴とするロータリーディスクタンブラー錠用の鍵。」

第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、本件特許発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(審判請求書、平成27年8月7日付け口頭審理陳述要領書、同年9月9日付け上申書、同年9月16日付け上申書及び同年10月13日付け上申書を参照。また、第1回口頭審理調書も参照。)、証拠方法として甲第1号証ないし甲第21号証の2を提出している。

(1)サポート要件違反
本件特許の請求項2の「係合突起の先端と整合するブレードの平面部に、有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成し」の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同請求項に係る発明についての特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである(以下「無効理由1」という。)。

(2)進歩性欠如
本件特許発明は、甲第2号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明、甲第6号証、甲第14号証及び甲第15号証に記載された周知技術、甲第4号証、甲第5号証及び甲第13号証?甲第18号証に記載された周知技術、甲第4号証及び甲第5号証に記載された周知技術、並びに甲第4号証?甲第11号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、同請求項に係る発明ついての特許は無効とすべきである(以下「無効理由2」という。)。
なお、甲第1号証に記載された発明を主引用発明とする進歩性欠如の無効理由については、平成27年9月18日に行われた口頭審理において、取り下げられた(第1回口頭審理調書を参照。)。

2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

甲第1号証:実願昭54-27530号(実開昭55-128848)のマイクロフイルム
甲第2号証:特開平9-144398号公報
甲第3号証:特公昭60-6432号公報
甲第4号証:英国特許出願公告第1417054号明細書
甲第5号証:米国特許第3、928、992号明細書
甲第6号証:実公平6-28616号公報
甲第7号証:実公昭55-32998号公報
甲第8号証:意匠登録第965697号公報
甲第9号証:意匠登録第1110356号公報
甲第10号証:実願昭57-149628号(実開昭59-51958号)のマイクロフィルム
甲第11号証:実開平6-51443号公報
甲第12号証:実公昭51-15730号公報
甲第13号証:特開2000-96889号公報
甲第14号証:特開昭62-194374号公報
甲第15号証:実開平7-14041号公報
甲第16号証:特開昭62-189269号公報
甲第17号証:特開平6-346639号公報
甲第18号証:特開平9-41742号公報
甲第19号証:各種錠とそれを開閉可能な鍵の対応表
甲第20号証:MIWA総合カタログ(1999-2000)
甲第21号証の1:被告第2準備書面
甲第21号証の2:手続補正書の明細書
甲第21号証の3:手続補正書の図面
甲第22号証:DVD(請求人代表者後藤秀昭 平成27年8月5日作成)

3 請求人の具体的な主張
(1)無効理由1について
ア 本件特許発明の錠用の鍵は、基本的には、前回の無効審判の無効2010-800013審決(以下「前回審決」という。)の審決取消訴訟(知的財産高等裁判所 平成26年(行ケ)第10339号)の判決も認定したように、「先端の移動軌跡が合鍵のブレードの平面部と干渉する係合突起を有し、ロータリーディスクタンブラーの開口端縁に一体に突出量が一定に突設した係合突起と、合鍵のブレードの平面部に形成された有底で複数種類の大きさと深さを有する摺り鉢形の窪みが係合したときに、タンブラー群が摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わることにより、ディスクタンブラーの解錠切欠とロッキングバーの内側縁とを整合を行う錠、すなわち、ロータリーディスクタンブラーが回転によってわずかに上下に動くことを利用して、その係合突起を鍵のブレード平面部に設けた窪みに円弧に沿って当接させる錠用の鍵」(判決32頁5?13行)という構成(以下「本発明構成」という。)のものとされている。

イ 本件特許の明細書の段落【0044】には、「係合突起29の突出量を一定にしておき、換言すれば、支軸23の中心に関し係合突起29の先端の位置を一定にしておき、係合突起29の先端が合鍵のブレードの窪み25に係入してその底面に当接したとき、窪み25の深さに応じてロータリーディスクタンブラー27の揺動角度を変化させ、図8に示す複数の解錠切欠9、9の内選択されたものをロッキングバー6の内側縁に整合させるようにしている」という本件特許発明の実施に関する記載がある。

ウ そこで、上記段落【0044】の記載を基にロータリーディスクタンブラー27及びこれと一体の係合突起29の窪み25底面への当接による揺動角度の変化を示すと別紙図Aのようになり、「本発明構成」が発明の詳細な説明の段落【0044】の記載によってサポートされていることは一応は是認出来る。

<別紙図A>


エ しかしながら、発明の一部が発明の詳細な説明によってサポートされていても、クレームに係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を一般化できない場合は、サポート要件違反となる。
しかるところ、「本発明構成」では、係合突起と係合する窪みは「平面部に形成された摺り鉢形の窪み」とされているものであり、決して別紙図Aのような傾斜したり、端縁部側も開放されているといった特別な形状の「平面部に形成された摺り鉢形の窪み」に限定されているものではない。すなわち、「平面部に垂直に形成された窪み」のような、普通に想定される摺り鉢形の窪みも当然その対象となっている。
「本発明構成」の係合突起と係合する窪みが、別紙図Aの窪みのような特別な窪みではなく、「平面部を垂直に削って形成された普通の摺り鉢形の窪み」であるならば、タンブラー群の係合突起の先端の移動軌跡は、別紙図Bのとおりに、摺り鉢形の窪みの底部から離間していくものであって、突起先端が摺り鉢形の窪みの底部に当接することはできない。
なお、念のため付言しておけば、本件特許の請求項2には「係合突起の先端と整合するブレードの平面部に、有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成」と明記されているのであるから、かかる係合突起の先端の当接位置からの離間(ずれ)が許容されるわけがない。まして、本件特許発明は、「……円弧に沿っている。すなわち、鍵の窪みの深さに応じて……微妙に変化する」とされ、また、「ロータリーディスクタンブラーが回転によってわずかに上下に動くことを利用して、その係合突起を合鍵のブレード平面部に設けた窪みに円弧に沿って当接させる」特徴があるとされているものであるが、そのように「微妙に」とか「わずかに」といったまさに微妙な作用効果も、ずれなど無くて係合突起の先端との整合あってこそ奏するはずのものということでなければ到底理屈に合わない。

<別紙図B>


オ すなわち、本件特許発明は、その一部しか発明の詳細な説明によってサポートされていないものである。

(2)無効理由2について
ア 本件特許発明
本件特許発明をそれぞれ構成要件ごとに分説すれば次のとおりとなる。
「A.内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝を形成した外筒と、
B.この外筒に回転自在に嵌合し、間隙を介して中心軸線方向に積層された複数の仕切板を設けると共に、中心軸線に沿って鍵孔を貫通させた内筒と、
C.この内筒の母線に沿って延在し、内筒の外周部において半径方向に移動可能に案内されると共に、上記カム溝と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロッキングバーとを有し、
D.上記仕切板の間の各スロットに、中央部に前記内筒の中心軸線に関して点対称に形成された鍵孔を包囲し得る大きさの鍵挿通孔26を形成した環状ロータリーディスクタンブラーを挿設し、
E.その実体部の1ヵ所を、内筒を軸線方向に貫通する支軸に揺動可能に軸支すると共に、鍵挿通孔を挟んで上記支軸と対峙するロータリーディスクタンブラーの実体部であり、円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切欠を形成し、
F.一方、鍵挿通孔の開口端縁に、先端の移動軌跡が鍵孔に挿入されたリバーシブルである合鍵のブレードの平面部と干渉する係合突起を一体に突設し、
G.各ロータリーディスクタンブラーをこの係合突起が合鍵に近接する方向に付勢すると共に、常態では内筒を軸線方向に貫通するバックアップピンに係止し、
H.他方、これらのタンブラー群の係合突起の夫々が鍵孔に挿通された合鍵のブレードに形成された対応する窪みと係合したとき、各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠かロッキングバーの内側縁と整合するようにしたロータリーディスクタンブラー錠の合鍵であって、
I.鍵孔に挿入されたときロータリーディスクタンブラーの突出量が一定である前記係合突起の先端と整合するブレードの平面部に、有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成し、この窪みが対応する前記係合突起と係合したとき、該タンブラー群が前記摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わることにより、各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにし、
J.以て、合鍵と一体的に内筒を回動させたさせたとき、カム溝とロッキンクバーとの間に生じる楔作用によりロッキングバーを内筒中心軸方向に移動させ、内筒を外筒に対し相対回動できるようにしたことを特徴とする
K.ロータリーディスクタンブラー錠用の鍵。」

イ 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、次のようなレバータンブラー錠用の鍵の発明が記載されている。
「A.内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝21を形成した外筒22と、
B.この外筒22に回転自在に嵌合し、間隙を介して中心軸線方向に積層された複数の仕切板23を設けると共に、中心軸線に沿って鍵孔24を貫通させた内筒部25と、
C.この内筒部25の母線に沿って延在し、内筒部25の外周部において半径方向に移動可能に案内されると共に、上記カム溝21と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロッキンクバー27とを有し、
D’.上記仕切板23の間の各スロットに、中央部に点対称に形成された鍵孔24を包囲し得る大きさの鍵挿通切欠を形成したC字状のレバータンブラー29を挿設し、
E.その実体部の1ヵ所を、内筒部25を軸線方向に貫通する支軸31に揺動可能に軸支すると共に、鍵挿通切欠を挟んで上記支軸31と対峙するレバータンブラー29の実体部であり、円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切欠き28を形成し、
F’.一方、鍵挿通切欠の開口端縁に、先端の移動軌跡が鍵孔24に挿入されたリバーシブルである合鍵のブレードの平面部及び端縁部と干渉する係合縁部を一体に突設し、
G.各レバータンブラー29をこの係合縁部が合鍵に近接する方向にタンブラーばね32で付勢すると共に、常態では内筒部25を軸線方向に貫通するバックアップピン33に係止し、
H.他方、これらのレバータンブラー29群の係合縁部の夫々が鍵孔24に挿通された合鍵のブレードに形成された対応する凹みと係合したとき、各レバータンブラー29の揺動角度が変わって解錠切欠き28がロッキングバー27の内側縁と整合するようにしたレバータンブラー錠用の合鍵であって、
I’.鍵孔24に挿入されたときレバータンブラー29の前記係合縁部の先端と整合するブレートの平面部及び端縁部に、有底の複数種類の大きさと深さを有する内に凸の曲面の傾斜面の凹みを形成し、この凹みが対応する前記係合縁部と係合したとき、前記凹みに対応して各タンブラー29の揺動角度が変わることにより、各レバータンブラー29の解錠切欠き28がロッキンクバー27の内側縁と整合するようにし、
J.以て、合鍵と一体的に内筒部25を回動させたとき、カム溝21とロッキングバー27との間に生じる楔作用によりロッキングバー27を内筒部25中心軸方向に移動させ、内筒部25を外筒22に対し相対回動できるようにしたことを特徴とする
K.レバータンブラー錠用の鍵。」

ウ 本件特許発明と甲第2号証に記載された発明との対比
本件特許発明と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、両者は、A、B、C、E、G、H、J及びKの構成で共通し、相違点はD、F及びIの構成に係る次の3点である。
(ア)本件特許発明では、「内筒の中心軸線に関して点対称に形成」されている鍵孔を有する錠用の鍵であるのに対し、甲第2号証に記載された発明ではそのような鍵孔を有しない点(相違点1)。
(イ)本件特許発明では、鍵挿通部が「鍵挿通孔」であって、この「鍵挿通孔」を中央部に形成したロータリーディスクタンブラーが「環状ロータリーディスクタンブラー」である錠用の鍵であるのに対して、甲第2号証に記載された発明では、鍵挿通部が「鍵挿通切欠」であって、この「鍵挿通切欠」を中央部に形成したディスクタンブラーが「C字状のレバータンブラー」である’点(相違点2)。
(ウ)本件特許発明では、ディスクタンブラーの「突出量が一定」である「係合突起」先端の移動軌跡が合鍵のブレードの「平面部」に形成された「摺り鉢形の窪み」とが係合したとき、タンブラー群が「前記窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応」して揺動角度が変わるのに対して、甲第2号証に記載された発明では、ディスクタンブラーの「係合縁部」先端の移動軌跡が合鍵のブレートの「平面部及び端縁部」に形成された「内に凸の曲面の傾斜面の凹み」とが係合したとき、タンブラーは「前記凹みに対応して揺動角度が変わる」ものである点(相違点3)。

エ 本件特許発明と甲第2号証に記載された発明との相違点1について
鍵孔を「内筒の中心軸線に関して点対称に形成」することは、甲第6号証、甲第14号証、甲第15号証等から周知であり、表裏を逆にして鍵孔に挿入することができるリバージフルキーである甲第2号証に記載された発明においてかかる構成を用いることは当業者が容易になし得たことである。
また、甲第2号証に記載された発明は鍵の発明であり、錠の構成である鍵孔の位置によって鍵の構成に差異が生じるものでもなく、実質的な相違点でもない。

オ 本件特許発明と甲第2号証に記載された発明との相違点2について
中央部に「鍵挿通孔」を形成した「環状」のロータリーディスクタンブラー、ディスクタンブラーは、本件特許発明の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証、甲第5号証、及び甲第13?18号証等周知であり、ディスクタンブラーとして高い剛性が必要な甲第2号証に記載された発明にかかる構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。
また、甲第2号証に記載された発明は鍵の発明であり、錠の構成であるディスクタンブラーの形状が「鍵挿通孔」を形成した「環状のロータリーディスクタンブラー」、「鍵挿通切欠」を形成した「C字状のレバータンブラー」のいずれであるかによって鍵の構成に差異が生じるものでもなく、実質的な相違点でもない。

カ 本件特許発明と甲第2号証に記載された発明との相違点3について
(ア)ディスクタンブラーの係合部の「突出量が一定」
ディスクタンブラーの係合部の「突出量が一定」である点は、甲第1号証に記載されている。甲第1、2号証に記載された発明は大部分が同様な構成であるので、これを組み合わせてディスクタンブラーは甲第1号証に記載された発明のものを用いるならば、突出量は一定になる。そして、この点は、甲第2号証の段落【0017】にも、「このようなレバータンブラー錠は……特公昭60-6432号公報等にも示されている」と出願人同一の甲第3号証が引用されており、その甲第3号証を見ると、甲第3号証が出願人同一の甲第1号証の改良発明であってその基本的構成は甲第1号証と同じであることが開示されているものである。甲第1、2号証に記載された発明を組み合わせてタンブラーを甲第1号証に記載された発明の「突出量が一定」の係合部のものにすること、すなわち本件特許発明と同じく係合部の突出量をー定にすることは、当業者が簡単に選択する技術にほかならない。

(イ) 係合部の先端の移動軌跡が「ブレードの平面部(の窪み)と干渉」
ブレードの刻みや凹みは、甲第1号証に記載された発明においてはブレードの「端縁部」に設けられ、甲第2号証に記載された発明ではブレードの「平面部及び端縁部」に設けられている。これは、甲第1号証に記載された発明においてはブレートの「端縁部」に設けられていた刻みが、甲第2号証に記載された発明ではブレードの「平面部及び端縁部」に設ける凹み(「端縁部」から「平面部」にかけて設けた凹み)へと、「(合鍵の)不正な複製を困難にする」(甲第2号証の段落【0037】)技術が進んでいったということであるから、これをもう一歩進めて本件特許発明のように「平面部」に凹み・窪みを設けて「ブレードの平面部と干渉」する構成にすることは当業者が容易に思いつくことである。なお、ロータリーディスクタンブラーに係合突起を一体に突設し合鍵のブレードの平面部と干渉させることは、甲第4号証及び甲第5号証等で当業者にとって周知の構成であった。
特に、甲第2号証に記載された発明は、上記のように「平面部」の凹みと「端縁部」の凹みとで成るものであるが、「平面部」の凹みが「dl凹み」「d2凹み」等複数存在しているのであるから、「端縁部」の凹みをはずしてディスクタンブラーの係合縁部と多数の「平面部」の凹みのみで構成する着想は容易である。

(ウ) 「摺り鉢形」
甲第2号証に記載された発明のブレードの刻みないし凹みは「摺り鉢形」ではない。しかしながら、甲第1号証に記載された発明においては曲面状ではなく平面状の「刻み」であったものが、甲第2号証に記載された発明ではその平らな刻みの面を凹ませて「内に凸の曲面の凹み」へと技術が発展していったものであるから、その凹みの程度を強めて「摺り鉢形」の窪みへと構成にすることも、着想は容易である。上記のとおり甲第2号証の段落【0021】には「傾斜面を平面ではなく曲面にするとキーの不正な複製を一層難しくする」旨凹みにすることの利点も明示されているのであるから、その利点を強化しようとして緩やかな「内に凸の曲面の凹み」をより急な曲面である「摺り鉢形」にすることは容易に考えられることである。
ことに、ブレードの平面部に設けた窪みが「摺り鉢形」となっているいわゆるディンプルキーは、甲第6号証?12号証等で周知であり、ロータリーディスクタンブラーに一体に突設した係合突起と干渉するブレードの平面部の窪みを「摺り鉢形」のディンプルキーにすることも甲第4号証及び甲第5号証等で当業者のよく知っている構成であったから、ブレードの凹みを周知・汎用の「摺り鉢形」にすることは当業者が容易に設計できたことである。
本件特許の明細書の段落【0071】、【0072】には、「窪みの深さによって鍵違いを得るようにしたので……鍵溝間の間隔を短くすることができ」とあり、従来のレバータンブラー錠には高々7枚のタンブラーしか入らなかったが11枚入るようになりカキ違いが大きくできるようになったとあるが、本件特許出願前の平成11年(1999年)被請求人発行の甲第20号証の56頁の図-1、図-2に11のタンブラーが描かれている通り、ディンプルキー採用の結果タンブラーが11枚入るようになったことは、本件特許出願前に被請求人自身開示していることであり、鍵違い数をできるだけ多くすることが必要と記載されている甲第2号証に記載された発明等に「摺り鉢形」の窪みを設けることは当業者ならば極めて容易に想到できたものである。

(エ) ディスクタンブラーの「係合突起」
甲第2号証に記載された発明は、上記「摺り鉢形の窪み」と係合するディスクタンブラーの係合部は、「係合突起」ではなく「係合縁部」である。しかしながら、窪みが内に凸の曲面の凹み等ではなく、もっと傾斜が急な摺り鉢形の構成になれば、これと係合するディスクダンプラーの係合部も突出度が緩やかな「係合縁部」ではなく、「係合突起」でなければ係合できないことは物理的に当然のことである。上記各ディンプルキーでも「摺り鉢形の窪み」との係合部は本件特許発明と同じく「係合突起」になっている。

(オ) タンブラー群の揺動角度が「窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応」
甲第2号証に記載された発明は、タンブラー群が、「窪みや凹みの深さやブレードの幅方向の位置に対応」して揺動角度が変わり「ブレードに設けた窪みに円弧に沿って当接させる」ことは明示されてはいない。
しかしながら、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明とを組み合わせて、甲第1号証に記載された発明の突出量が一定のディスクタンブラーの係合縁部と甲第2号証に記載された発明の内に凸の曲面の凹みのブレードとの係合状態を見るならば、タンブラー群の係合縁部の先端の移動軌跡は、円弧のとおりに動くものであり、タンブラー群の揺動角度の変動も、「ブレードの凹みの底面における、係合縁部の当接する部位」(以下「当接凹部」という。)の深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わっているものである。
一方、本件特許発明はタンブラー群が「窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応」して揺動角度が変わるものであるが、これをより正確に言うならば、タンブラー群の揺動角度の変動は、「当接鉢部」(すなわち「ブレードの窪みの底面における、係合突起の当接する部位」)の深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わっているものである。
両者は、いずれも、「ブレードのくぼみの底面における、係合部の当接する部位」(「当接鉢部」、「当接凹部」)の深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わっており、くぼみに円弧に沿って当接させるものであり、実質的に相違はない。

キ 本件特許発明の作用効果について
(ア) 本件特許発明は、訂正によって「本発明構成」のような構成になったことにより、「ロータリーディスクタンブラーが回転によってわずかに上下に動くことを利用して、その係合突起を合鍵のブレード平面部に設けた窪みに円弧に沿って当接させる」特徴があるものとされる。
しかしながら、甲第1、2号証に記載された発明とを組み合わせるならば、本件特許発明が「ブレードの窪みの底面における、係合部の当接する部位」(「当接鉢部」)の深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わっているのと同じく、「ブレードの凹みの底面における、係合部の当接する部位」(「当接凹部」)の深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わっていくものであり、本件特許発明とその動きに変わりはない。
なお、甲第1、2号証に記載された発明の単なる組み合わせだけなら、ブレードの刻みや凹みは「摺り鉢形」ではない。これを「摺り鉢形」の窪みにすることは当業者が容易に設計できたことは上記のとおりであるが、ここで重要なことは、特に「摺り鉢形」の窪みにしなくても、上記の特徴ないし作用効果なるものは奏することができるということである。「係合突起と平面部との干渉」とは、本件特許の図10に示すような係合突起先端と窪みの底部との当接のことであって、肝心なのは「当接鉢部」や「当接凹部」の深さやブレードの幅方向の位置であり、「摺り鉢形」といった窪みの形状ではない。窪みが摺り鉢形の形状である必然性は何らなく、「内に凸の曲面の傾斜面の凹み」で構わないのである。
それどころか、ブレードに形成されているのが、甲第1号証に記載された発明のような「傾斜面ではない刻み」であってさえも、上記特徴ないし作用効果なるものを奏すことは可能である。重要なのはくぼみや刻みの深さやブレードの幅方向の位置であって、その形状ではないからである。
更に付言しておけば、「摺り鉢形の窪み」ばかりでなく、係合突起の「突出量を一定」にすることも、上記の特徴ないし作用効果なるものは奏す為に必要な要件ではない。

(イ) また、本件特許発明は、訂正によって端縁部の窪みを削除し平面部の窪みに限定したことより、「当接部(係合突起)の回転半径が小さくなっており、わずかな窪み位置や深さの違いで解錠できなくなって、合鍵を製造しにくい効果がある」との特徴があるものとされる。
しかしながら、そもそも、本件特許の明細書の段落【0044】に「図示の実施例では、係合突起29の突出量を一定にして」とあるが、ここで言う「図示の実施例」とは、「図8に示す平面部と干渉する係合突起29」と「図9に示す端縁部と干渉する係合突起29」の両方を指すものである(段落【0039】?【0043】)。したがって、平面部の窪みと端縁部の窪みの突出量が一定、すなわち平面部でも端縁部においても当接部の回転半径が同じであることが明示されているのである。しかも、他に平面部と端縁部の回転半径が異なることやその利点についての記載は本件特許の明細書のどこにもない。
のみならず、結局のところ支軸の位置、刻みやくぼみの位置や深さ、合鍵やタンブラーの形状等の諸条件により回転半径は決まることであって、平面部の当接部の方が端縁部の当接部の方より回転半径が小さくなるという理屈はない。
要するに、上記効果なるものも、発明の実施の態様によってはそのような効果を奏することがあるとしてもそれはその実施態様の構成の効果であって、本件特許発明の構成に基づく効果とは言えないのみならず、本件特許発明が何たるかを示す実施例にもそのような効果が発生するという構成とは逆の構成しか示されていないのである。

(ウ) 結局のところ、本件特許発明の効果とされるものも、本件特許発明特有の効果ではないことは明らかである。

第5 被請求人の主張
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張に対して、概ね以下のとおり反論している(平成27年5月28日付け審判事件答弁書、平成27年8月6日付け口頭審理陳述要領書、同年9月14日付け訂正口頭審理陳述要領書、同年9月17日付け上申書及び同年10月8日付け上申書を参照。)。

2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

乙第1号証:知的財産高等裁判所、平成24年(行ケ)平成25年5月23日判決(確定審決を含む)
乙第2号証:平成25年(行ヒ)第356号、平成25年10日月4日の最高裁決定
乙第3号証:特開2003-193715号公報(出願当初の明細書)
乙第4号証:特許第4008302号公報(特許明細書)
乙第5号証:特許明細書の「特許訂正明細書」(訂正審判の審決公報)

3 被請求人の具体的な主張
(1)一事不再理の効力について
ア 請求人は、前審決(無効2010-800013号)の請求人と同一であるものの、同一事実、同一証拠でなければ、再び無効審判を請求することができることから、本審判を請求してきたものと推測するが、無効理由2は、甲第1号証又は甲第2号証を論理づけに最も適する主文献として選び、これに周知技術を適用し、本件特許発明に対する進歩性を否定する論理づけを試み、しかも、前審決の理由に対して不服である旨の反論を試みているに過ぎないので、一事不再理の効力が及ぶと解すべきである。
前審決の甲第1号証と本件審判の甲第2号証は同一であり、また本件審判の甲第2号証は本件審判の甲第1号証と実質的に同一である。であるから、請求人は、前審決の甲第1号証のレバータンブラー錠と本件審判の主文献と認められる甲第1号証のレバータンブラー錠又は本件審判の主文献と認められる甲第2号証とがそれぞれ実質的に同一でないことを合理的に説明しない限り、単に周知技術の補強として甲第4、5号証等の新たな証拠をその余の各甲号証に加味したとしても、本件審判は特許法第167条違反になる、というべきである。

イ 次に、請求人はサポート要件を具備しない旨の主張をしている。請求人の該主張は、前審決の中の「第2の無効理由(明細書の記載不備)」の請求理由の中で「明細書に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないか、もしくは特許を受けようとする発明が明確でない……(前審決の第4頁)」ことを主張した際にも、実質的に同一の理由でもって争っていることから、たとえ本件審判で適用条文が相違するとしても、これもまた一事不再理の効力が及ぶと解すべきである。
よって、請求人の主張は、特許法第167条違反として、「棄却」すべきである。

(2)無効理由1について
ア 乙第4号証の特許明細書と乙第5号証の特許訂正明細書とを比較すると、訂正後の【特許請求の範囲】との整合を得るために【課題を解決するための手段】を訂正したものの、【発明の属する技術分野】、【従来の技術】、【発明が解決しようとする課題】、【実施例】、【発明の効果】及び図面は何ら訂正をしていないから、訂正事項が新規事項の追加か否かを問題とする個所が存在しない。

イ 請求人は、サポート要件違反の理由として、図Aを作図し、係合突起の先端と摺り鉢形の窪みの底面との「整合」とは係合突起の先端(係合突起の中心軸線のこと)と窪みの底面の中心位置が、必ず一致しなければならないことを理由としている。
しかしながら、段落0044は、係合突起29が前記窪み25に係入したとき、その底面に係合突起29の先端が当接したとき」と記載しているだけであるから、係合突起の先端(中心軸線)と窪みの底面の中心位置は、必ず(常に)一致する必要はない。
前審決の認定判断に基づくならば、特許請求の範囲に記載されている係合突起の窪みに対する「整合」とは、請求人の主張する如く、「一過性、つまり、係合突起の中心軸線と窪みの底面の中心位置が重なる場合」も含み、例えば係合突起29の先端が窪み25に触れながら係入したとき、該先端が窪みの底面のどこかに支持されるように接し、もうそれ以上下がれなくなった係合状態をいうものと解釈することができる。

(3)無効理由2について
ア 甲第1号証及び甲第2号証の揺動障害子の係合縁部は、共にブレードの平面部の窪みと係合状態に係合する係合縁部ではなく、ブレードの「端縁部」に形成された「刻み」に係合するものであり、それ故に、甲第1号証及び甲第2号証にはブレードの平面部の摺り鉢形の窪みに揺動障害子の係合突起を係合させる事項は何ら示唆されていない(結合の動機付けがない)。

イ 本件特許発明の揺動障害子27は、支軸23に揺動自在に軸支されているのに対して、甲第4号証の回動障害子(セキュリティー・メンバー)21は、内筒(バレル)13と一体の仕切板(キャリア)22の前面に形成された凹所51の内周面51aと該仕切板22の鍵穴と同様の矩形開口23を有する中心軸(ボス)22aの外周面51bに挟まれた状態で、該仕切板22の前面凹所51に摩擦回転することができるように組み込まれている。したがって、両発明の基本的な解決原理が相違する。

ウ 本件特許発明は、支軸23が発明の特定要件であり、該支軸23と揺動障害子27の突起29との位置関係によって、「窪みの位置が深くなるほど外側から内側に向かってズレる」のであるから、前記支軸23が揺動中心となる本件特許発明と、内筒の中心が回転中心となる甲第4号証の回動障害子21とは作用・効果が相違する。

エ 甲第1号証及び甲第2号証と甲第4号証(甲第5号証も同様)とでは、錠本体の錠機構の「発明の解決原理」の類型が異なるから、発明の効果の相違が全く見られない等の特段の理由或いは合理的な理由が認められない限り、原則として進歩性を肯定する方向に働くものというべきである。

第6 当審の判断
1 一事不再理について
被請求人は、本件は、審決が確定した無効2010-800013号(以下、当該無効審判事件を「前審判」という。)と請求人が同一であり、請求人の主張する無効理由1は、前審判の無効理由(明細書の記載不備)と実質的に同一の理由であるから、一事不再理の効力が及ぶと主張する。
また、被請求人は、前審判の甲第1号証と本件の甲第2号証は同一であるところ、無効理由2は、甲第2号証を論理づけに最も適する主文献として選び、これに周知技術を適用し、本件特許発明に対する進歩性を否定するものであるから、一事不再理の効力が及ぶと主張する。
しかし、無効理由1は、特許法第36条第6項第1号違反であるのに対し、前審判において主張された無効事由は、特許法第36条第4項、同6項第2号違反であるから、同一事実に基づく審判請求とはいえない。
また、無効理由2は、前審判では証拠として提出されていない甲第4号証及び甲第5号証を提出し、前審判では主張されなかった、回動するタンブラー錠用の鍵において、摺り鉢形の窪みを有した鍵が周知であることを主張するものであるから、前審判と同一の証拠に基づく審判請求とはいえない。
よって、本件の審判請求は、特許法第167条の規定に違反するとはいえない。

2 無効理由1について
(1)本件特許の請求項2に記載された「窪み」について
本件特許の請求項2には、「窪み」に関し、「鍵孔に挿入されたときロータリーディスクタンブラーの突出量が一定である前記係合突起の先端と整合するブレードの平面部に、有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成し、この窪みが対応する前記係合突起と係合したとき、該タンブラー群が前記摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わることにより、各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにし」と記載されている。
上記記載に照らせば、本件特許の請求項2に記載された「窪み」は、
ア 「鍵孔に挿入されたときロータリーディスクタンブラーの」「係合突起の先端と整合するブレードの平面部に」「形成」され、
イ 「有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形」であり、
ウ 「対応する」「係合突起と係合したとき」、「タンブラー群」が、その「深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わることにより、各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合する」、
ものであると認められる。

(2)本件特許の明細書及び図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載された「窪み」について
本件特許の明細書等には、次の記載がある。

ア 「【発明の属する技術分野】
この発明は、新規なロータリーディスクタンブラー錠に関する。」(段落【0001】)

イ 「【従来の技術】
シリンダ錠には種々の型式のものがあるが、本出願人の主力製品であり、比較的安全性が高いと認められているシリンダ錠に例えばレバータンブラー錠がある。
……
そして、これらのタンブラー群の夫々が鍵孔に挿通された合鍵の対応する鍵溝と係合したとき、各レバータンブラー11の解錠切欠9がロッキングバー6の内側縁と整合する(図示せず)ように構成されている。」(段落【0002】ないし【0005】)

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
……
また、合鍵の鍵孔内に挿入される本体部(以下ブレードという)の側端縁に鍵溝を形成するから、鍵溝の形成箇所を多くすることができず、したがって鍵違いの数にも限界がある。
……
そこでこの発明は、……鍵違いも大きな新規なロータリーディスクタンブラー錠及びその鍵を提供することを目的としている。」(段落【0012】ないし【0016】)

エ 「【0026】
そして、この発明によるロータリーディスクタンブラー錠の施解錠操作に用いられる合鍵24は、図6及び図7に示すように、鍵孔4に挿入される本体部(以下単にブレードという)の……図6に示す平面部……の所定の箇所に窪み25が形成されている。
【0027】
この窪み25の断面形状は、……有底の逆台形であり、複数種類の深さ(図示の実施例では4種類)がある。」

オ 「【0043】
……鍵孔4に合鍵24が挿入され、各ロータリーディスクタンブラー27の係合突起29が対応する合鍵の窪み25に係入したとき、……全ロータリーディスクタンブラー27、27の解錠切欠9、9がロッキングバー6の内側縁と整合するように、……窪み25の深さ及び解錠切欠9の角度位置が設定されている。
【0044】
図示の実施例では、係合突起29の突出量を一定にしておき、換言すれば、支軸23の中心に関し係合突起29の先端の位置を一定にしておき、係合突起29の先端が合鍵のブレードの窪み25に係入してその底面に当接したとき、窪み25の深さに応じてロータリーディスクタンブラー27の揺動角度を変化させ、図8に示す複数の解錠切欠9、9の内選択されたものをロッキングバー6の内側縁に整合させるようにしている。」

カ 「【0074】
また、ロータリーディスクタンブラーの係合突起の突出量を一定にする場合でも、……窪みの深さに応じてその中心位置をブレードの幅方向……において微妙に変化させなくてはならない……」

キ 本件特許の図5及び図6をみると、ブレードの平面部に、有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みが形成されていることがみてとれる。

(3)判断
ア 上記(2)の摘記事項アないしウに照らせば、本件特許は、ロータリーディスクタンブラー錠の鍵に関し、従来技術に鑑み、鍵のブレードの側端縁に鍵溝を形成するから、鍵溝の形成箇所を多くすることができず、鍵違いの数にも限界があるという点を解決すべき課題とし、当該課題を解決する手段として、鍵孔に挿入されたときロータリーディスクタンブラーの係合突起の先端と整合する、鍵のブレードの平面部に、有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成し、この窪みが対応する前記係合突起と係合したとき、該タンブラー群が前記摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わることにより、各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにするとの構成を採用した発明であると認められる。

イ 次に、「窪み」に関し、本件特許の請求項2に記載された上記(1)アないしウの構成が、本件特許の明細書等に記載されているか否かについて検討する。

(ア)上記(1)アの構成について
上記(2)エの摘記事項に照らせば、「窪み」は、合鍵24のブレードの平面部の所定の箇所に形成されるものと認められる。また、同オの摘記事項に照らせば、「窪み」は、鍵孔4に合鍵24が挿入されたときに、各ロータリーディスクタンブラー27の対応する係合突起29が係入できる位置に形成されるものと認められる。よって、本件特許明細書等には、「窪み」が、鍵孔4に合鍵24が挿入されたときに、合鍵24のブレードの平面部の、各ロータリーディスクタンブラー27の対応する係合突起29が係入できる位置に形成されることが記載されていると認められる。
他方、上記(1)アの(「窪み」を)「鍵孔に挿入されたときロータリーディスクタンブラーの」「係合突起の先端と整合するブレードの平面部に」「形成」するとは、本件特許の請求項2に、「この窪みが対応する前記係合突起と係合したとき、……各ロータリーディスクタンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合する」と記載されていることを踏まえれば、ブレードの平面部において、鍵孔に挿入されたときに、係合突起の先端が一致する位置、すなわち係合突起の先端が係入可能となる位置に窪みを形成することを意味するものと認められる。
してみると、本件特許明細書等には、「窪み」が、「鍵孔に挿入されたときロータリーディスクタンブラーの」「係合突起の先端と整合するブレードの平面部に」「形成」されることが記載されていると認められる。
なお、請求人は、本件特許の請求項2には、「係合突起の先端と整合するブレードの平面部に、有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成」と明記されているから、係合突起の先端が窪みの底面の当接位置からの離間することは許容されない旨主張する。
しかし、「係合突起の先端と整合するブレードの平面部に」「窪みを形成」するとは、上記のとおり、ブレードの平面部における窪みの形成位置を特定するものであって、係合突起の先端と窪みの底面の当接関係を特定するものとは認められないから、請求人の主張は採用できない。

(イ)上記(1)イの構成について
上記(2)エ、オの摘記事項及びキの図示事項に照らせば、本件特許明細書等には、「窪み」が、有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形であることが記載されていると認められる。

(ウ)上記(1)ウの構成について
上記(2)オの摘記事項に照らせば、ロータリーディスクタンブラー27の係合突起29が対応する合鍵の窪み25に係入したとき、ロータリーディスクタンブラー27、27の解錠切欠9、9がロッキングバー6の内側縁と整合するように、窪み25の深さ及び解錠切欠9の角度位置が設定されており、窪み25の深さに応じてロータリーディスクタンブラー27の揺動角度を変化させ、解錠切欠9をロッキングバー6の内側縁に整合させるものと認められる。また、同ウの摘記事項に照らせば、窪みは、深さに応じてその中心位置がブレードの幅方向において微妙に変化するものと認められる。
してみると、本件特許明細書等には、ロータリーディスクタンブラー27の係合突起29が対応する合鍵の窪み25に係入したとき、窪み25の深さとブレードの幅方向の位置に応じてロータリーディスクタンブラー27の揺動角度を変化させ、ロータリーディスクタンブラー27の解錠切欠9をロッキングバー6の内側縁に整合させること、すなわち、上記(1)ウの構成が記載されていると認められる。

(4)小括
以上のとおりであって、本件特許の請求項2に記載された「窪み」は、本件特許明細書等に記載されたものであり、本件特許発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとも認められない。
よって、本件特許の請求項2の「(鍵孔に挿入されたとき)係合突起の先端と整合するブレードの平面部に、有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みを形成し」との記載は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、本件特許発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとすることはできない。

3 無効理由2について
3-1 各甲号証の記載
(1)甲第2号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、レバータンブラー錠用のリバーシブルキー及びその製作方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来のレバータンブラー錠用のリバーシブルキー、すなわち、任意数のC字状のレバータンブラーに当接して各レバータンブラーを解錠位置に整合変位させるための選択された深さの刻みを、平板状のキー本体の両側辺に設けたリバーシブルキーとしては、図12に示されるようなものが知られている。
【0003】リバーシブルキーは、そのキー本体の平板面14、14の表裏を逆にしても鍵孔に挿入することができ、かつ錠を施解錠することができる利便さがある。
【0004】しかしながら、図12に示す従来のリバーシブルキーにおいては、両側辺で対をなす刻み20、20の谷の底部30、30が、キー本体の平板面14、14と直角をなしかつキー本体の中心軸線lを含む平面Pに関し互に平行をなすように形成され、また、キー本体の横断端面が前記平面Pに関し面対称をなすように形成してある。
【0005】その為、一つには、ならい鍵切り機等により複製が不正に行われ易いこと、他の一つには、レバータンブラー錠でC字状のレバータンブラーを表裏逆に入れても(レバータンブラーは、鍵違いを増やす為、それを表裏逆にしてC字状又は逆C字状として装着できるようにしてある)、同じリバーシブルキーによって施解錠可能であるから鍵違い数の減少が余儀なくされることなど、未解決の問題がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】この発明はレバータンブラー錠用として提供されるリバーシブルキーは、前記の問題を悉く解決しようとするものである。すなわち、キー本体の刻みの形状を新規なものに変えることによって複製をしにくくし、かつ鍵違い数の減少を排除することを目的とする。」

イ 「【0011】
【発明の実施の形態】以下、図面に示す実施例に基いてこの発明について説明する。図1?図3において、符号1はつまみ11及び平板状のキー本体12から成るリバーシブルキー、13はキー本体12の長さ方向に沿ってその平板面14、14に設けた横断面を任意形状としたウォードである。…
【0012】この発明のリバーシブルキー1が差し込まれて用いられるレバータンブラー錠2は、図3?図6に示すように、内周面の母線に沿ってカム溝21を形成した外筒22と、その外筒22に回転自在に嵌合し、間隙を隔てて列設された複数の仕切板23を備えると共に、前後方向に鍵孔24を貫通させた内筒部25と、その内筒部25の母線に沿って延在し、内筒部25の半径方向に移動可能に装着されると共に、押しばね26により外方に向け付勢されたロッキングバー27とを有する。
【0013】そして、前記の仕切板23が形成する複数のスロット内に、それぞれの先端部分にロッキングバー27を選択的に受け入れる解錠切欠き28を形成したC字状のレバータンブラー29を支軸31で枢着し、各レバータンブラー29は、鍵孔24に差し込まれるキーの側辺部と干渉する方向にタンブラーばね32で付勢される。
【0014】レバータンブラー錠は、合鍵が鍵孔24に挿入されたとき、これらのタンブラー群29のそれぞれが鍵孔24に挿通された合鍵の対応する刻みと係合し、各タンブラー29の解錠切欠き28がロッキングバー27の内側縁と整合するようにしてある。
【0015】そしてその状態で合鍵を回すと、カム溝21とロッキングバー27との間に生じる楔作用によりロッキングバー27が内筒半径方向に移動するので、バックアップピン33を含み、前方のキーガイド34、仕切板23、周囲を囲むリテーナ35及び後方の尾栓36等から成る内筒部25は全体として解錠方向又は施錠方向に回動できる。
【0016】なお、前記のC字状のタンブラー29はその開口部を任意に逆方向に向けて、換言すれば逆C字状をなすようにして装着され得ることは言うまでもない。
【0017】このようなレバータンブラー錠は実公昭59-19099号公報又は特公昭60-6432号公報等にも示され周知であるから、構造や作動についての更に詳しい説明は省略する。」

ウ 「【0018】この発明に係るリバーシブルキーに戻って説明を加えると、そのキーの特徴はキー本体12の両側辺に共に設けた刻みにある。
【0019】キー本体12の両側辺において中心軸線lと直角をなす平面上で対をなすようにして設けた刻みの谷の底部3、3aは、図2に明示するように、キー本体12の厚さ方向でともに傾斜させてあり、一対の谷の底部3、3aの傾斜は、図2に示す平面P、すなわち、キー本体12の平面板14、14と直角をなしかつキー本体12の中心軸線lを含む平面、に関し互に逆向きにしてある。
【0020】言い換えると、前記の対をなす谷の底部3、3aにおける傾斜は、キー本体12の平板面14、14と直角をなしかつキー本体12の中心軸線lを含む平面Pに関し面対称ではなく、キー本体12の横断端面において点対称をなすように形成されている。
【0021】更にまた、傾斜させた各谷の底部3(3a)は図示例では内に凸の曲面に形成してある。底部3(3a)の傾斜面をこのように曲面にすると、キーの不正な複製を一層難しくするが、その傾斜面は平面としてもよい。
【0022】キー本体12の各刻みにおける底部3(3a)の傾斜面は、それが対応するタンブラー29の正面形の違いに応じて形成されるが、例えば、図2に示すように、切削前のキー本体(図7に示す鍵材10の本体のこと)に対しある定点Aを通る直線がその定点Aを中心として角度を変えた時、キー本体(12)の一側辺の稜線とぶつかる直線AOを基準として、角度を変える直線がキー本体(12)をよぎる角度的深さd1、d2、・・・dnを対応するタンブラー29の種類に応じて選択し、その深さdnの刻みを切削する。図2で示す谷の底部3、3aの深さはd2である。
【0023】前記のような構成のこの発明のリバーシブルキーは、両側辺で対をなす1組の刻みにおいても鍵違いを生ずる。その鍵違いについて図5及び図6で説明する。
【0024】図5に示すレバータンブラー29はC字状をなすように装着されており、また、図6に示すレバータンブラー29は同じ列で正面形が同じものを表裏を逆にして逆C字状をなすようにして装着してある。
【0025】図5のC字状のタンブラー29は、本発明のキーにおける長さ方向の所定位置の刻みで押されて解錠切欠き28が解錠位置に至っているが、図6の逆C字状のタンブラー29は同じキーを用いても傾斜している刻みの底部3aの浅い部分が衝接することになる。
【0026】その為、図12の従来のリバーシブルキーとは異なり、解錠切欠き28は解錠位置を占めることにはならず、内筒部25は外筒22に対し回動不能である。このことは本発明のキーがリバーシブルであるに関わらず、鍵違い数の減少を排除していることを示している。」

エ 「【0029】前記の鍵材10は、図8に示すように、特定の固定した軸線mの回りに揺動可能に設けたワーク台4に対して着脱可能に固定する。ワーク台4上の鍵材10はその平板面14、14がワーク台4の軸線mに対し平行をなすようにして取り付ける。
【0030】そして、ワーク台4上の鍵材10におけるキー本体の一側辺を、ワーク台4の軸線mと平行をなす特定の固定した別の軸線rの回りに回転する円板状の回転刃5に押し付ける。回転刃5の刃先にはキーの刻みにおける誘導斜面6、6aを形成するためのテーパ部51を備えている。
【0031】そこで、図9に示すように、キー本体12に対して設けるべき所要の刻みについて谷の底部3を内に凸の曲面として直線AOを基準とする選択された深さdn(図9でd3)の斜面に切削形成する。
【0032】この際、誘導斜面6が同時に形成される。但し、この誘導斜面6はキー本体12の幅方向並びに軸線方向の両方向に対し傾斜して形成される。勿論、キー本体12の一側辺の他の刻みについても同様にして切削形成する。」

オ 「【0037】
【発明の効果】以上に説明したこの発明のリバーシブルキーによれば、両側辺の刻みにおける対をなす谷の底部を互に逆向き傾斜面に形成してあるから、不正な複製を困難にするほか、リバーシブルキーにしたことによる鍵違い数の減少を排除できる効果を奏する。
【0038】また、前記底部の斜面を曲面としたものは、不正な複製を更に難しいものとする。
【0039】更に、この発明では、傾斜させた谷の底部を内に凸の曲面とした特殊なリバーシブルキーを正確にして効率よく製作する方法を提案している。」

カ 図1ないし6は次のものである。

図1

図2

図3

図4

図5

図6


キ そして、特に、上記イの摘記事項を踏まえて、図1?6をみると、
カム溝21が略V字形の横断面形状であること、複数の仕切板23が錠の中心軸線方向に間隙を介して積層されて内筒部25に設けられていること、鍵孔24が錠の中心軸線に沿って貫通されて内筒部25に設けられていることは、何れも明らかであり、
また、ロッキングバー27が、内筒部25の外周部において半径方向に移動可能に案内されると共に、カム溝21と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されて装着されるものであって、合鍵と一体的に内筒部25を回動させたとき、内筒部25を外筒22に対し相対回動できるように、内筒部25の中心軸方向に移動するものであることは、明らかであり、
さらに、レバータンブラー29が、その中央部に鍵孔24を包囲し得る大きさの鍵挿通切欠が形成されて、この鍵挿通切欠の開口端縁に鍵孔24に挿入されたリバーシブルである合鍵のキー本体12の端縁部と干渉する係合縁部が設けられ、この係合縁部が合鍵に近接する方向にタンブラーばね32で付勢されると共に、常態では内筒部25を軸線方向に貫通するバックアップピン33に係止するものであって、その実体部の1ヵ所としての一端部が内筒部25を軸線方向に貫通する支軸31に揺動可能に軸支されると共に、その実体部としての先端部分が鍵挿通切欠を挟んで支軸31と対峙する円弧の一部をなす自由端部となっており、その外側端縁に解錠切欠き28が形成されるものであることは、明らかである。
そして、係合縁部の夫々が鍵孔24に挿通された合鍵のキー本体12に谷の底部3、3aを内に凸の曲面の傾斜面として形成された刻みと係合したとき、当該刻みに対応して各レバータンブラー29の揺動角度が変わって解錠切欠き28がロッキングバー27の内側縁と整合することも明らかである。
また、上記ウの【0021】、【0022】の記載、及び上記カの図5からみて、係合縁部は凸状であって、開口端縁に一体的に突設されていると認められる。

ク 上記アないしキによれば、甲第2号証には、以下の発明が記載されていると認められる(以下「甲2発明」という。)。
なお、甲2発明は鍵の発明であるが、本件特許発明との比較のために便宜的に鍵の構成に影響しない錠の構成も記載する。

「内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝21を形成した外筒22と、
この外筒22に回転自在に嵌合し、間隙を介して中心軸線方向に積層された複数の仕切板23を設けると共に、中心軸線に沿って鍵孔24を貫通させた内筒部25と、
この内筒部25の母線に沿って延在し、内筒部25の外周部において半径方向に移動可能に案内されると共に、上記カム溝21と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロッキングバー27とを有し、
上記仕切板23の間の各スロットに、中央部に点対称に形成された鍵孔24を包囲し得る大きさの鍵挿通切欠を形成したC字状のレバータンブラー29を挿設し、
その実体部の1ヵ所を、内筒部25を軸線方向に貫通する支軸31に揺動可能に軸支すると共に、鍵挿通切欠を挟んで上記支軸31と対峙するレバータンブラー29の実体部であり、円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切欠き28を形成し、
一方、鍵挿通切欠の開口端縁に、先端の移動軌跡が鍵孔24に挿入されたリバーシブルである合鍵のキー本体12の端縁部と干渉する係合縁部を設け、
各レバータンブラー29をこの係合縁部が合鍵に近接する方向にタンブラーばね32で付勢すると共に、常態では内筒部25を軸線方向に貫通するバックアップピン33に係止し、
他方、これらのレバータンブラー29群の係合縁部の夫々が鍵孔24に挿通された合鍵のキー本体12の端縁部に谷の底部3、3aを内に凸の曲面の傾斜面として形成された刻みと係合したとき、当該刻みに対応して各レバータンブラー29の揺動角度が変わって解錠切欠き28がロッキングバー27の内側縁と整合するようにしたレバータンブラー錠用の合鍵であって、
鍵孔24に挿入されたときレバータンブラー29の係合縁部と整合するキー本体12の部位に、谷の底部3、3aを内に凸の曲面の傾斜面として形成された刻みを形成し、この刻みが係合縁部と係合したとき、各レバータンブラー29の解錠切欠き28がロッキングバー27の内側縁と整合するようにし、
以て、合鍵と一体的に内筒部25を回動させたとき、カム溝21とロッキングバー27との間に生じる楔作用によりロッキングバー27を内筒部25中心軸方向に移動させ、内筒部25を外筒22に対し相対回動できるようにしたレバータンブラー錠用の鍵。」

(2)甲第1号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の事項が記載されている(なお、丸付き数字は、括弧付き数字に置き換えた。以下同じ。)。

ア 「(1)仕切板7両側挿入部a,a’が仕切板止め8に挿入されて内筒部を形成し、
仕切板7の間には仕切板7を貫通する支軸3に回動自在に吊架されたレバータンブラー1が挿入され、
内筒部を形成する仕切板止め8に外筒9が嵌め込まれ、
かつ解錠時ロッキングバー5がレバータンブラー1の係合溝14に係合するように仕切板7外筒9の形成するシャーライン上に設けられており、
前記仕切板7仕切板止め8、レバータンブラー1、が少なくともプレス部材で作られている、
ことを特徴とするレバータンブラーシリンダー錠。
(2)レバータンブラー1の上部に支軸3が貫通され、レバータンブラー1はその下部が彎曲部1Aを形成する弧状である実用新案登録請求の範囲第1項記載のレバータンブラー錠。」(実用新案登録請求の範囲)

イ 「以下その組立順序を説明する。
(1) まづ内筒フロント12にバックアップピン4と支軸3が固定される。
(2) つぎに支軸3とバックアップピン4がレバータンブラー1仕切板7が挿通される。
レバータンブラー1には支軸3の挿通孔b’が穿設され、かつロツキングバー係合溝14位置決めスプリング2の係止溝eが凹設されている。
また仕切板7には両側に仕切板止8への挿入部a,a’支軸3の挿通孔b、バックアップピン4の挿通孔c、ロツキングバー5の嵌入切込dが設けられている。
(3) つぎに内筒連動部13が支軸3、バックアップピン4に固定される。
(4) つぎに仕切板7の両側の挿入部a,a’に仕切板止8が挿入される。かくして内筒部が形成される。また予めタンブラー位置決めスプリング2はその一端がタンブラー1の係止溝eに挿入され、他端が仕切板止め8に係止され、固定される。
(5) つぎに仕切板7の切込dにロツキングバー5を、内筒フロント12連動部13にロツキングバーけん引スプリング6を挿入する。
しかる後外筒9を仕切板止8の外側に嵌め込み、錠の内外筒が形成される。
(6) 最後に外筒9の前方のカバー11、錠ケースカバー10が内外筒を被覆して本考案錠は形成される。」(明細書3頁20行?5頁8行)

ウ 「つぎに本考案の作用について説明する。
(1) 本考案錠は前記したように主要部材がプレス部材で作られ容易に組立てられるので大量生産が可能であり、低コストのレバータンブラーシリンダー錠が得られる。
(2) いま鍵を鍵穴hに挿入すると、レバータンブラー1は支軸3を中心として回動し、タンブラー1の係合溝14はロツキングバー5が係合できる位置に直線的にそろい、続いて内筒部を回転すればロツキングバー5は、係合溝に入り込み回動可能となる。
(3) 本考案錠は施錠状態においてはレバータンブラー1は位置決めスプリング2によりタンブラー1の係合溝14がロッキングバー5と異なる位置に保持されている。
またバックアップピン4はレバータンブラー1が外部から攻撃されてもその回動を阻止する働らきをしている。すなわち鍵穴hにマイナスドライバー等を挿入し内筒を強制的に回動させようとした時に、ロッキングバー5が内筒中心向きにレバータンブラー1の彎曲部1Aを押圧する力が掛る。もしバックアップピン4が無ければその押圧力がレバータンブラー1の彎曲部1Aを曲げ破壊してロッキングバー5が外筒よりはずれ回動可能に至ることが考えられる。
しかるにバックアップピン4があることにより前記押圧力に対してレバータンブラー1だけでなく、バックアップピン4でも抵抗するのでレバータンブラー1の回動は困難となり、外部からの攻撃に対して安全である。
(4) レバータンブラー1は上部に位置する支軸3を中心として揺動し下端に彎曲部1Aを有する弧状に形成されているので、彎曲部1Aの回動範囲が広くとれ、彎曲部1Aの長さが大きくとれる。したがって彎曲部1Aに多くのロッキングバ-5の係合溝14がとれ、鍵違いの数が多く取れる利点がある。」(明細書5頁10行?7頁7行)

エ 第1図は、次のものである。


(3)甲第3号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている(なお、丸付き数字は括弧付き数字で表記した。以下甲第14号証も同じ。)。

ア 「1 仕切板7両側挿入部a,a’が仕切板止め8に挿入されて内筒部を形成し、
仕切板7の間には仕切板7を貫通する支軸3に回動自在に吊架されたレバータンブラー1が挿入され、
内筒部を形成する仕切板止め8に外筒9が依め込まれ、
かつ解錠時ロッキングバー5がレバータンブラー1の係合溝14に係合するように仕切板7外筒9の形成するジャーライン上に設けられており、
レバータンブラー1の上部に支軸3が貫通され、レバータンブラー1はその下部が弧状の湾曲部1Aを形成し、該湾曲部1Aの上面にはシリンダーを貫通するパックアップピン4が接しているレバータンブラー錠において、
パックアップピン4の先端は起立して先端湾曲部4aを形成し、かつ後部所定数の仕切板7とレバータンブラー1のコンス状態における位置に対応して凸部17、凹部16が設けられ、一方後部所定数のレバータンブラー1の湾曲部1Aにはバックアップピン4の凸部17に嵌合可能のバックアップピン係合溝15が凹状に設けられており、
コンス状態においては後部所定数のレバータンブラー1の凹状のパックアップピン係合溝15にバックアップピン4の凸部17が係合して後部所定数のレバータンブラー1は回動不能であり、
コンス状態を解除するには、バックアップピン4を後方に向けて押動することにより、パックアツプピン4の凹部16がレバータンブラー1の位置に移動ずるように構成した、
ことを特徴とするレバタンブラーシリンダー錠におけるコンストラクションキー装置。」(特許請求の範囲)

イ 「(2) いま鍵を鍵穴hに挿入すると、レバータンブラー1は支軸3を中心として回動し、レバータンブラー1の係合溝14はロツキンクバー5が係合できる位置に直線的にそろい、続いて内筒部を回転すればロッキングバー5は、係合溝に入り込み回動可能となる。
(3) 前記考案の錠は施錠状態においてはレバータンブラー1は位置決めスプリング2によりレバータンブラー1の係合溝14がロッキングバー5と異なる位置に保持されている。」(5欄19?28行)

(4)甲第4号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、次の事項が記載されている(翻訳は、請求人が提出したものによる。以下同じ。)。

ア 「Within the barrel 13 is a pluralitv of disclike security members 21 with each of which is associated one of an equal numberof carriers 22.」(2頁左欄15行?18行)
(翻訳)
「円筒13内には、複数のディスク(円板)状のセキュリティ部材21があり、それぞれが同数の回し金22の1つと組み合わされる。」

イ 「Each security member 21 has a central aperture journalled about the boss 22a of its associated carrier. Moreover, extending into the central aperture in a substantially circumferential direction, and in the region of the segmental cut-away portion of the carrier, is an integral projection 24 which is adapted to engage within one of a plurality of depressions 25 formed in the side walls of the shank of the key 16. 」(2頁左欄34行?43行)
(翻訳)
「それぞれのセキュリティ部材21は、その組み合わされる回し金のハブ22aの周りに軸支される中央部開口を有している。さらに、中央部開口内に入り込んで、実質的に周り方向に延びる、また回し金の部分的切欠きの領域で延びる一体の突起24があり、それは鍵16のブレードの側壁に形成された複数の窪み25のうちの1つに係合するように組み合わされる。」

(5)甲第5号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、次の事項が記載されている。

「Referring now to FIG. 7, the lock 10 is operated by a key 80 which has depressions 82 on the shank thereof. The depressions 82 have different depths and are spaced on the shank of key 80 so as to coincide with projections 76 on the locking discs 58 when the key 80 is fully inserted into the lock 10. 」(4欄29行?34行)
(翻訳)
「ここで図7を参照すると、錠10は、ブレード上に窪み82を有する鍵80により操作される。窪み82は、異なる深さを有しており、鍵80が錠10に完全に挿入されたときにロッキングディスク58上の突起76と場所が一致するように、鍵80のブレードの上に間隔を置いて配置されている。」

(6)甲第6号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、次の事項が記載されている。

ア 「(作用)
このシリンダ錠装置では、内筒5の鍵孔7に鍵板9を挿入すると、鍵板9の操作凹部13又は操作凹部14或いは該操作凹部間の鍵板側面に各受動突起14が押されて、各ディスクタンブラ2が内筒5の受溝6に沿って上下摺動し、鍵板9が所定長さだけ充分に挿入された段階では、特定のディスクタンブラ2の受動突起14が特定の操作凹部13、14に係合する。
これによって各ディスクタンブラ2の錠止端部が錠本体1の溝部3、4から脱出するため、錠本体1に対する内筒5の錠止が解除され、内筒5は錠本体1内で回転可能となる。そこで、鍵板9を所定方向に回すと、止め金板20が解錠位置に回動し、固定枠体に対する取付パネル23の施錠が解除される。」(4欄18?31行)

イ 「前記鍵孔7も該横方向中心線1_(1)に関して上下対称で該縦方向中心線1_(2)に関して左右対称に形成されている。」(5欄3?4行)

ウ 「(考案の効果)
以上のように本考案のディスクタンブラ型シリンダ錠装置では、内筒5の受溝6を上下対称及び左右対称に形成し、該受溝6の中央部に鍵孔7を貫通させ、バネ受孔8を該鍵孔7の上下両側部分の中央部に縦長に設け、ディスクタンブラ2の外周形状を左右対称に形成し、該ディスクタンブラ2の中央部に鍵板9の挿入用透孔10を設け、バネ受切欠11を該透孔10の錠止端部2a側の孔縁部中央に縦長に設け、錠止端部2aとは反対側の透孔10の孔縁部に受動突起14を左右一側にずらせて突設してあるため、受溝6に対するディスクタンブラ2の組込み方向が一方向に限定されず、複数枚のディスクタンブラ2の一部又は全部を上下半転して挿入したり、表裏半転して挿入したり、上下半転と表裏半転を共にして挿入することができ、これによって複数の受動突起14で形成されるキーウェイを様々に変更することができ、鍵違いを飛躍的に多くすることができる。」(6欄1?17行)

エ 第3、4、6?9図をみると、鍵板9の操作凹部12、13が有底で、複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪みとして形成されていることがみてとれる。

(7)甲第7号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、次の事項が記載されている。

ア 「鍵1の側面に任意位置と任意深さに解錠穴2a、2b、2c……を設け、錠前3のシリンダー4に鍵孔5を穿設し、該鍵孔5に直交する方向を有する数個のタンブラー嵌入孔9を穿設し、該タンブラー嵌入孔9にタンブラー6を発条7を介して埋設し、該タンブラー6に前記鍵1の解錠穴に適合すべき位置と突出度を夫々有し、該解錠穴に挿入可能に先端を先細状に成形した解錠穴と同数の解錠突起8を錠前3の鍵孔5方向に突出するよう斜状に突設したことを特徴とする解錠装置。」(実用新案登録請求の範囲)

イ 「本案は鍵に解錠穴と又之に適合すべき斜状の突起を錠前のタンブラーに設け、両者の複雑な適合によってのみ解錠出来る様にした解錠装置に係るもので、使用者以外の者の解錠の困難な解錠装置を提供せんとするものである。」(1欄27?31行)

ウ 「…タンブラー6の中央部には下方より鍵貫通孔15を穿設する。該鍵貫通孔15に解錠突起8を、該孔15を一部遮る如く突設する…」(2欄33?35行)

エ 第2?4図をみると、タンブラー6の鍵貫通孔15の開口端縁に先端を先細状に成形した解錠突起8が一体に突設されていること、また、鍵1の解錠穴2a、2b、2cが有底で所定の深さの摺り鉢形の窪みとして形成されていることがみてとれる。

(8)甲第8号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第8号証には、「電気機器用錠の鍵」(意匠に係る物品)の意匠について、次の事項が記載されている。

ア 正面図及びA-A線断面図は次のものである。


イ 正面図、A-A線断面図をみると、ブレードに有底で複数種類の大きさを有する摺り鉢形の窪みを形成した「電気機器用錠の鍵」がみてとれる。

(9)甲第9号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第9号証には、「鍵材」(意匠に係る物品)の意匠について、次の事項が記載されている。

ア 山切り加工状態を示す参考正面図は次のものである(審決で右90°回転させた。)。


イ 山切り加工状態を示す参考正面図をみると、ブレードに有底で複数種類の大きさの摺り鉢形の窪みを形成した「鍵材」がみてとれる。

(10)甲第10号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第10号証には、次の事項が記載されている。

「鍵(A)は断面大略矩形状の帯板状で、その鍵片部における側面(A_(1))に鍵部(10)を、ピンタンブラ(6)をレベル合致状態に作動し得るよう所定の深さ関係に凹設する、一方板面(A_(2))にはその両面に鍵部(11)(11)を、ピンタンブラ(7)(7)をレベル合致状態に作動し得るよう所定の深さ関係に凹設する。
各鍵部(10)(11)(11)は夫々大略倒円錐台形状に凹設形成する。」(明細書4頁3?10行)

(11)甲第11号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第11号証には、次の事項が記載されている。

「【0012】

鍵孔11に挿入されるキーKは、先端に傾斜面14が形成され、挿入されたときに各タンブラピン13と相対するディンプル15a?15eが設けられる(図2及び図4参照)。
【0013】
ディンプル15a?15eは、小判形状のアウトラインをもった凹状に形成され、底面には楔状の斜面を有する楔状凹部16が設けられる(図5参照)。
楔状凹部16の向きは、それぞれキーの幅方向に対して設定した角度を有し、本実施例では、ディンプル15aの楔状凹部16は反時計方向に15度、ディンプル15bの楔状凹部16は時計方向に15度、ディンプル15cの楔状凹部16は反時計方向に30度、ディンプル15dの襖状凹部16は0度、ディンプル15eの楔状凹部16は時計方向に15度の角度を有する(図4参照)。」

(12)甲第12号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第12号証には、次の事項が記載されている。

ア 「第1図、第2図及び第3図を説明すると、キー1の平面にタンブラーピン4、17に合致し、鍵違いを構成する挿入穴11とタンブラーピン4、17を挿入させない部分10とタンブラーピン4、17を途中までしか挿入させない様に穴11を皿もみして面取りした穴12と穴13がある。」(1欄28?33行)

イ 「…又、キーの穴は図面に示すものは貫通穴になっているが凹穴にしてしもよく、又皿穴の様に面取りだけで円錐状になっていてもよい。」(4欄27?30行)

(13)甲第13号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第13号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0021】図において、1は、錠の鍵2によって回動可能な錠シリンダ3を収容する錠本体を示す。特に、本発明の両方向に操作可能な実施例を示す図1を参照して、錠シリンダ3は、錠の開放組合せを決め且つ錠シリンダ3に回動不能に支持された中間円板5によって互いから分離された、一組のコードロック円板4を囲う。さらに、円板4、5を含む円板の組の各端に、錠の中で鍵が回動されるとき、鍵と共に連続的に回動する、所謂リフトゼロのロック円板6がある。ロック作用の観点からは、特に最前部ゼロロック円板が該円板の組の鍵挿入端で最初の円板である必要がないが、実際にはしばしばこれがあり得る。ロック円板4及び6は、鍵用の対抗面を含む、それぞれ、鍵開口4a及び6a並びに両回動方向に、それぞれ、周辺切欠き4b及び6bを有する。」

イ 「【0026】図1の錠機構の基本作用によれば、該機構を開け又は解放すべきときは、錠の鍵2によってロック円板4及び6が回動される。特に、各ロック円板が問題のロック円板のために該鍵に作った組合せ面によって決る通りに回動し、周辺切欠き4b又は6bがそれぞれ錠シリンダ3のスロット8及びロックバー7の位置にあるようにする。それで、周辺切欠き4b及び6bで一様なチャンネルができ、その中へロックバー7が動け、それによって錠シリンダ3を錠本体1に対して回動できるように解放する。」

ウ 図5a?5g、図7、図8a?8c、及び図9a、9bをみると、コードロック円板4が、その中央部に鍵用の対抗面を含む鍵開口4aを有するとともに、その周囲にロックバー7が入る周辺切欠き4bを有し、環状に成形されたものであることがみてとれる。

(14)甲第14号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第14号証には、次の事項が記載されている。

ア 「(1)外筒と内筒との間にサイドバー、内筒中に前記サイドバーの動作を規制する複数のディスクを配備した錠装置において、前記各ディスクは、サイドバーと直交して往復動自在に配備され、それぞれ面内にはスリット状鍵孔および鍵孔の対角線上に位置したコーナ部に鍵の傾斜刻みに適合する高さおよび傾斜角の突部を形成すると共に、一側辺にはサイドバーの係合する凹部、他の側辺には、該凹部をサイドバー位置からずらせるバネを連繋して成るを特徴とする錠装置。
(2)ディスクは、金属板の打抜き成形体である特許請求の範囲第1項記載の錠装置。
(3)ディスクの凹部はサイドバーの端部断面形状に適合する形状に形成されている特許請求の範囲第1項記載の錠装置。」(特許請求の範囲)

イ 「…ディスク4は、内筒1の装填部21に適合する幅および内筒直径より摺動分だけ短い長さの金属製平板に形成し、装填部21中ヘサイドバー3に直交してそれぞれ往復可能に配備され、面内には、鍵軸断面と一致するスリット状の鍵孔41および鍵孔41の対角線上に位置したコーナ部に、鍵を挿入したとき、対応する鍵の傾斜刻みに適合する高さおよび傾斜角の突部42を形成している。また各ディスク4のサイドバー3と対応する側辺には、突部42の高さに応じて鍵孔方向に位置をずらせてサイドバー3の適合する凹部43、該凹部の側方には多数のV状凹凸部45を形成している。更に、他の側辺には凹部44を形成して内筒2のバネ装填部23に係合したU状復帰バネ7の両バネ片71を係合し、各凹部43をサイドバー3の位置からずらせている。」(3頁左上欄14行?右上欄10行)

ウ 第1、3、4図をみると、鍵孔16は内筒2の中心軸線に関して点対称であることがみてとれる。

(15)甲第15号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第15号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0009】
ケース1に回動可能に嵌挿されるロータ5は、前端部に鍔部6が周設され後部に角軸部7が延設され、角軸部の角に雄ねじ8が螺設される(図1参照)。
鍔部6の外周面に、鍵孔9を有するキャップ10が嵌着され、ロータ5の前端部の開口11にピン12の両端部が固着され、ピン12に枢着されるシャック13が、ピン12に巻回されるスプリング14により、鍵孔9を閉鎖する方向に付勢される(図6参照)。
【0010】
ロータ5の内部に形成される収容室15は、前部の開口11に連通し、収容室15に設けられる隔壁16により4つの区画に区分される(図1参照)。
ロータ5の外周面に設けられるバー挿入孔18は、ロータ5の長手方向に平行な長溝18aと、長溝18aより収容室15に貫通する細長孔18bとにより構成される(図2参照)。
収容室15の内壁面には、バー挿入孔18の反対側に穿設された孔により、後述するディスクタンブラ23の突起26が係合する突起係合部19が形成される。
……
【0013】
収容室15の各区画にそれぞれ挿入されるディスクタンブラ23は、ほぼ中央部にキー挿入孔24が設けられ、外周面のー側(図2において右側)に、サイドバー20の後端部20bが係脱する係合溝25が設けられ、他側に突起26が形成される。
突起26は、収容室15の突起係合部19に係入するが、突起係合部19に対して滑り接触が可能である。
【0014】
ディスクタンブラ23の右側上面と収容室15の上壁面との間にスプリング27が挿入され、ディスクタンブラ23は、突起26を支点として時計方向に付勢され(図2参照)、キー挿入孔24がキーに押されたときに、ディスクタンブラ23が反時計方向に回動して、係合溝25とバー挿入孔18が一致し、サイドバー20が係合溝25に係入するようになっている。
【0015】
キー挿入孔24は、突起26と係合溝25のほぼ中央に位置するので、突起26を支点としてディスクタンブラ23が回動するとき、係合溝25の移動量はキー挿入孔24の移動量の約2倍になる。
…」

イ 「【0019】
正規のキーを鍵孔9に挿通すると、キーが各ディスクタンブラ23のキー挿入孔24の内面を押動し、各ディスクタンブラ23は突起26を支点として反時計方向に回動し、係合溝25がバー挿入用孔18に一致する(図3参照)。
次に、キーに解錠方向の回動力を加えると、ロータ5と共に回動しようとするサイドバー20の先端部20aがケース1のバー挿入溝22から押し出され、後端部20bが係合溝25に挿入されるので、ロータ5が回動可能になり(図4参照)、キーにより解錠操作することができる。」

ウ 上記アを踏まえて図6をみると、鍵孔9はロータ5の中心軸線に関して点対称であることがみてとれる。

(16)甲第16号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第16号証には、次の事項が記載されている。

ア 「扉に固定される外筒1と、該外筒1に回転可能に収容される内筒2と、該内筒2に設けた溝状孔部3に収容され、外筒1の内壁面の溝部4に一部を没入することにより内筒2を錠止するロックバー5と、内筒2に収容され、鍵6の挿入時にその外周面の錠止受溝7がロックバー5の内側突部が没入可能な位置、すなわち、ロックバー5が外筒の前記溝部4から脱出可能な位置に来るまで回転する複数枚のディスクタンブラー8と、内筒2の前面の内筒カバー9と内筒2の後部の2箇所で固定され、該ディスクタンブラー8の中心部を貫く案内軸棒10とから成る回転ディスク型シリンダー錠装置。」(特許請求の範囲)

イ 「(作用)
施錠状態においてディスクタンブラー8は、各ディスクタンブラー8のバネ入れ凹部11に収容されて一端が該凹部11の壁面12に当接し、他端がスペーサー13のバネ受突起14に当接したコイルバネ15の弾発作用を受けている。ディスクタンブラー8の該バネ15による回転は、ディスクタンブラー8の停止用突起16が内筒2に設けた回転切欠17の端面に衝接することによって規制され、内筒2はロックバー5の介在によって外筒1に対して回転不能に錠止されている。
装置正面の鍵挿入口24より鍵6を挿入するとディスクタンブラー8の鍵孔18の一端面が鍵6の先端部に形成されている斜面によって押されるので、各ディスクタンブラー8は前記バネ15の弾発作用に抗して回転する。鍵山形状に対応した角度だけ各ディスクタンブラー8がそれぞれ回転したとき、各ディスクタンブラー8の錠止受溝7はロックバー5の内側凸部19が没入可能なように一直線上に整列している。
ロックバー5は上記凸部19と内筒の溝状孔部3との間に挿入されたコイルバネ20の弾発作用によって、その一部を外筒1の溝部4に没入させている。ここで、鍵6を操作して内筒2を外筒1に対して回転させる力を加えると、ロックバー5が上記溝部4の斜面に押されて該溝部4から脱出して、内側凸部19が錠止受溝に没入する。これによって内筒2とディスクタンブラー8は一体回転可能となり、案内軸棒10を中心に回転する。」(2頁左上欄19行?左下欄7行)

ウ 第3?5図、第13図をみると、ディスクタンブラー8は環状であることがみてとれる。

(17)甲第17号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第17号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0015】
【実施例】図中、1は、回転可能な内部シリンダ2をその内部に有するシリンダハウジングを示す。内部シリンダ2は、円板の堆積を包囲する。この堆積は、ロック機構の開口部の組合わせを決定する周辺ノッチ20とキー開口部7とを有し錠のキー12で回転可能な幾つかの標準的なロック用円板4と、キー開口部6を有する少くとも1つの持上げ0-ロック用円板3とを含む。ロック用円板は、キー開口部8を有する中間円板5によって相互に分離される。また、ロック機構は、その施錠位置でシリンダハウジング1に対する内シリンダ2の回転を阻止する様にシリンダハウジング1の溝30に部分的に配置されて、内部シリンダのスロット9に部分的に配置されるロック用バー10を有している。ロック用円板は、所定の位置へ錠のキー12によって回転されてもよく、その位置では、周辺ノッチ20は、均等なチャンネルを錠の軸線方向において内部シリンダ2のスロット9の位置に形成する。ロック用バー10は、シリンダハウジング1の溝30からこのチャンネルへ進入し、これにより、シリンダハウジング1に対してキーと一緒に回転する様に内部シリンダ2を解放する。…」

イ 「【0019】図2は、錠に含まれる標準的なロック用円板4を示す。ロック用円板4のキー開口部7は、2つの対称的に配置された段21を有し、段21は、キーにおいて切削されるべき組合わせ面27(図5参照)と協働する組合わせ面22と、戻し面23とを有し、戻し面23は、キーがロック機構のロックを解いた後に最初の位置に戻されるとき、案内要素14の作用の下で、上述の様にロック機構の施錠位置に対応するロック用円板4の最初の位置に戻る円板4の回転を生じさせる。また、キー開口部7は、周辺ノッチ20とキー開口部7との間の距離Aが製造技術および強さの点で充分である様に、即ち、距離Aが好ましくは少くとも1mmである様に、形成された彎曲面24を有している。」

(18)甲第18号証
請求人が無効理由2に係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第18号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、ピンタンブラー錠、ディスクタンブラー錠及びレバータンブラー錠(ロータリーディスクタンブラー錠)を含むシリンダー錠に係り、特にピッキングによる不正解錠を不可能にした新規なシリンダ錠に関する。」

イ 「【0030】…レバータンブラー錠は、合鍵の鍵溝によりタンブラー3を動かして、その自由外端縁に形成された解錠切欠19を、内筒2の母線に沿って延在するロッキングバー21の内端縁に整合させ、内筒の回動時、外筒1の内周面の母線に沿って形成された断面V字形の溝に係合するロッキングバー21を楔作用により内筒の半径方向に変位させて、内筒を回動可能にするものであり、‥」

ウ 図6をみると、従来技術のタンブラー3が、ほぼ中央に鍵穴4を形成した環状のものであることがみてとれる。

3-2 対比
本件特許発明と甲2発明とを対比する。

(1)甲2発明の「内筒部25」は、本件特許発明の「内筒」に相当し、以下同様に、「解錠切欠き28」は「解錠切欠」に相当し、「キー本体12」は「ブレード」に相当する。

(2)甲2発明の「鍵挿通切欠」と本件特許発明の「鍵挿通孔」とは、「鍵挿通部」である点で共通し、甲2発明の「C字状のレバータンブラー(29)」は回転するタンブラーであるから、本件特許発明の「環状ロータリーディスクタンブラー」と「ロータリータンブラー」である点で共通する。

(3)甲2発明の「キー本体12の端縁部と干渉」し、「キー本体12に谷の底部3、3aを内に凸の曲面の傾斜面として形成された刻みと係合したとき、当該刻みに対応して各レバータンブラー29の揺動角度が変わ」る「係合縁部」と、
本件特許発明の「ブレードの平面部と干渉」し、「ブレードの平面部に形成された対応する有底で複数種類の大きさと深さを有する摺り鉢形の窪みと係合したとき、該タンブラー群が前記摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わる」「係合突起」とは、
「ブレードと干渉」し、「ブレードに形成された対応する有底で複数種類の大きさと深さを有する窪みと係合したとき、タンブラー群が前記窪みの深さや位置に対応して揺動角度が変わる」「係合部」である点で共通する。

(4)そうすると、両者は、
「内周面の母線に沿って横断面形状が略V字形のカム溝を形成した外筒と、
この外筒に回転自在に嵌合し、間隙を介して中心軸線方向に積層された複数の仕切板を設けると共に、中心軸線に沿って鍵孔を貫通させた内筒と、
この内筒の母線に沿って延在し、内筒の外周部において半径方向に移動可能に案内されると共に、上記カム溝と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロッキングバーとを有し、
上記仕切板の間の各スロットに、中央部に点対称に形成された鍵孔を包囲し得る大きさの鍵挿通部を形成したロータリータンブラーを挿設し、
その実体部の1ヵ所を、内筒を軸線方向に貫通する支軸に揺動可能に軸支すると共に、鍵挿通部を挟んで上記支軸と対峙するロータリータンブラーの実体部であり、円弧の一部をなす自由端部外側端縁に解錠切欠を形成し、
一方、鍵挿通部の開口端縁に、先端の移動軌跡が鍵孔に挿入されたリバーシブルである合鍵のブレードと干渉する係合部を一体的に突設し、
各ロータリータンブラーをこの係合部が合鍵に近接する方向に付勢すると共に、常態では内筒を軸線方向に貫通するバックアップピンに係止し、
他方、これらのタンブラー群の係合部の夫々が鍵孔に挿通された合鍵のブレードに形成された対応する窪みと係合したとき、各ロータリータンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにしたロータリータンブラー錠の合鍵であって、
鍵孔に挿入されたときロータリータンブラーの係合部と整合するブレードに対応する窪みを形成し、この窪みが対応する係合部と係合したとき、各ロータリータンブラーの解錠切欠がロッキングバーの内側縁と整合するようにし、
以て、合鍵と一体的に内筒を回動させたとき、カム溝とロッキングバーとの間に生じる楔作用によりロッキングバーを内筒中心軸方向に移動させ、内筒を外筒に対し相対回動できるようにした
ロータリータンブラー錠用の鍵。」
の点で一致し、次の点で相違、又は一応相違する。

<相違点1>
本件特許発明では、「内筒の中心軸線に関して」点対称に形成されている鍵孔を有する錠用の鍵であるのに対し、甲2発明ではそのような鍵孔を有しない錠用の鍵である点。

<相違点2>
本件特許発明では、鍵挿通部が「鍵挿通孔」であって、この「鍵挿通孔」を中央部に形成したロータリータンブラーが「環状ロータリーディスクタンブラー」である錠用の鍵であるのに対して、
甲2発明では、鍵挿通部が「鍵挿通切欠」であって、この「鍵挿通切欠」を中央部に形成したロータリータンブラーが「C字状のレバータンブラー」である錠用の鍵である点。

<相違点3>
ロータリータンブラーの解錠切欠とロッキングバーの内側縁とを整合させるための構成について、
本件特許発明では、「ロータリーディスクタンブラー」の開口端縁に一体に「突出量が一定」に突設した「係合突起」の、その先端と、合鍵のブレード「平面部」に形成された「有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪み」との係合により、「タンブラー群が摺り鉢形の窪みの深さやブレードの幅方向の位置に対応して揺動角度が変わることにより」上記整合を行うものであるのに対して、
甲2発明では、「C字状のレバータンブラー」の開口端縁に一体に突設した「係合縁部」と、合鍵のブレードの端縁部と干渉して、当該端縁部に形成された対応する「キー本体12の端縁部に谷の底部3、3aを内に凸の曲面の傾斜面として形成された刻み」との係合により、「当該刻みに対応して各レバータンブラー29の揺動角度が変わって」上記整合を行うものである点。

3-3 判断
(1)上記相違点1及び2について
本件特許発明は「鍵」であり、錠の構成要素である鍵孔の位置やロータリータンブラーが環状かC字状かによって鍵の構成自体に差異が生じるものではないから、上記相違点1及び2は、実質的に相違点ではない。

(2)上記相違点3について
ア 本件特許発明における上記相違点3に係る構成により、錠の係合突起の先端と合鍵のブレード平面部に形成された対応する窪みとの関係は以下の図から理解されるように、係合突起の先端が深い窪みに入るほどブレードの平面幅方向中心にずれるものである。

<図:本件特許の図10>


解錠切欠9とその右側に点線で表された3つの切欠は、解錠切欠9の形成角度が異なる4種類のロータリーディスクタンブラーが用いられることを表している。係合突起29の突出量は一定であり、換言すれば、支軸23の中心と係合突起29の先端との距離は一定であって、係合突起29が合鍵のブレードの窪み25に係入してその底面に当接したとき、窪み25の深さに応じてロータリーディスクタンブラー27の揺動角度を変化させ、解錠切欠9をロッキングバー6の内側縁に整合させるようにしている。
そうすると解錠状態では、一番左に解錠切欠9があるロータリーディスクタンブラーでは係合突起29は図のように右下に下がり、解錠切欠を右側に設けたロータリーディスクタンブラーほど左へ回転した位置となって係合突起29は左上に上がるから、係合突起と係合する鍵の窪みの位置と深さは、鍵のブレードの中心に寄るものほど深くなり、支軸23を中心とする円弧に沿っている。
すなわち、鍵の窪みの深さに応じてその位置がブレードの幅方向において微妙に変化することとなる。
なお、本件特許の図13の実施例においても、係合突起と係合する鍵の窪みの位置と深さが、支軸23を中心とする円弧に沿ったものとなる点では同様であるので、便宜上図10の実施例に基づいて検討した。

イ 上記アを踏まえると、上記相違点3の本件特許発明に係る構成は、鍵としては以下のa、bのとおりと解され、これらの構成が甲2発明にはない点で、両者は相違している。
a 「合鍵」の「ブレードの平面部に、有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪み」が形成されている。
b さらに、「ロータリーディスクタンブラー」の開口端縁に一体に「突出量が一定」に突設した「係合突起」の、その先端と係合する、合鍵のブレード「平面部」に形成された「有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪み」を有するから、「鍵の窪みは、その深さとブレードの幅方向の位置が、揺動による円弧に沿ったものである」との構成を有する。

ウ そして、甲第6号証ないし甲第11号証に示されるブレードの「平面部」に「有底で複数種類の大きさと深さの摺り鉢形の窪み」を有した鍵が周知であったとしても、それは直線的に動作するタンブラー錠用の鍵又はタンブラーの構成が不明な錠用の鍵であって、鍵の「端縁部」における「刻み」で係合する回転するタンブラー錠用の鍵である甲2発明の鍵を、甲第6号証ないし甲第11号証の鍵のブレード平面部に設けた窪みを設けたものとすることが当業者にとって容易になし得たということはできない。また、回動する円板状のタンブラーの係合突起をブレードの平面部の窪みに係合する錠及び鍵が甲第4号証及び甲第5号証に記載のように周知であったとしても、それは、シリンダーの中心軸回りに回転する円板状のタンブラー錠用の鍵であり、甲2発明の支軸31に揺動可能に軸支するC字状のレバータンブラー29と甲第4号証及び甲第5号証に記載された円板状のタンブラーとは、タンブラーの形状及び動作機構(揺動軸又は回動軸と係合突起と解錠切欠との位置関係等)が異なるから、甲第4号証及び甲第5号証に記載のものから、係合突起とそれと係合するブレードの窪みのみを取り出し、甲2発明のレバータンブラー29及びブレードに適用することが当業者にとって容易になし得たということはできないし、そもそも、甲第4号証及び甲第5号証には、窪みの位置と深さが、円弧に沿うものであることを認識するような記載もない。
また、甲第1号証には、甲2発明と同様に、C字状のレバータンブラーの開口端縁に一体に突設した係合縁部が合鍵のブレードの端縁部と係合することが開示され、甲第14及び15号証は、点対称の鍵穴が周知であること、環状のタンブラーが周知であることの根拠として提示されたものであり、甲第13号証、甲第16号証ないし甲第18号証は、環状のタンブラーが周知であることの根拠として提示されたものであって、それらに記載された事項(上記1(2)及び上記1(13)ないし(18)を参照。)も、甲2発明において、上記相違点3に係る本件特許発明の構成とすることを教示するものではない。

(3)請求人の主張について
請求人は、上記相違点3に係る本件特許発明の構成に関し、
ア 甲第1号証に記載のブレートの「端縁部」に設けられていた刻みが、甲第2号証に記載のブレードの「平面部及び端縁部」に設ける凹み(「端縁部」から「平面部」にかけて設けた凹み)へと、「(合鍵の)不正な複製を困難にする」技術が進んでいったということであるから、これをもう一歩進めて本件特許発明のように「平面部」に窪みを設けて「ブレードの平面部と干渉」する構成にすることは当業者にとって容易である旨、
イ 鍵の技術分野においてきわめてありふれた「摺り鉢形の窪み」を回動運動する「係合突起」と組合せることは、甲第4号証及び甲第5号証に記載されたように周知であって、当該周知の技術を甲2発明に適用することは容易である旨主張する。
しかし、アの主張については、甲第2号証に記載された発明は、従来のリバーシブルキーにおいて、平板状のキー本体の両側辺で対をなす刻みの谷の底部が、キー本体の平板面と直角をなしかつキー本体の中心軸線を含む平面に関し互に平行をなすように形成され、また、キー本体の横断端面が前記平面に関し面対称をなすように形成してあるため、レバータンブラー錠でC字状のレバータンブラーを表裏逆に入れても、同じリバーシブルキーによって施解錠可能であり鍵違い数の減少が余儀なくされるという課題を解決する手段として、キー本体の両側辺における対をなす刻みの谷の底部をキー本体の厚さ方向に傾斜させ、一対の谷の底部の傾斜を、キー本体の平板面と直角をなしかつキー本体の中心軸線を含む平面に関し互に逆向きにするとの構成を採用したものであって、甲第2号証に記載されたキー本体の「刻み」を発展させて、本件特許発明の如く「ブレードの平面部」に形成された「摺り鉢形の窪み」とすることが甲第2号証に示唆されているとは認められないから、採用できない。
また、イの主張については、上記(2)において検討したとおりであって採用できない。

3-4 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲第2号証に記載された発明、甲第1号証に記載された発明、甲第6号証、甲第14号証及び甲第15号証に記載された周知技術、甲第4号証、甲第5号証及び甲第13号証?甲第18号証に記載された周知技術、甲第4号証及び甲第5号証に記載された周知技術、並びに甲第4号証?甲第11号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、審判請求人の主張する無効理由によっては、本件特許発明の特許を無効とすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-10 
結審通知日 2015-11-13 
審決日 2015-11-25 
出願番号 特願2002-226833(P2002-226833)
審決分類 P 1 123・ 537- Y (E05B)
P 1 123・ 121- Y (E05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 住田 秀弘多田 春奈  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 中田 誠
谷垣 圭二
登録日 2007-09-07 
登録番号 特許第4008302号(P4008302)
発明の名称 ロータリーディスクタンブラー錠及び鍵  
代理人 三浦 光康  
代理人 栢原 崇行  
代理人 皆川 由佳  
代理人 橘高 郁文  

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