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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K
管理番号 1328743
審判番号 不服2016-2326  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-16 
確定日 2017-05-29 
事件の表示 特願2014-115772「風力発電機」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月25日出願公開、特開2014-180209〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成23年3月17日(優先権主張平成22年3月23日)の出願である特願2011-59350号の一部を平成26年6月4日に新たな特許出願としたものであって、平成27年3月36日付けの拒絶理由の通知に対し、平成27年6月1日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成27年11月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成28年2月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、その後、当審において平成28年11月28日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成29年1月23日に意見書(以下、単に「意見書」という。)が提出されたものである。

2.本願発明

本願の請求項に係る発明は、平成28年2月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「回転翼と、
ロータコア内部に周方向に設けられた複数の挿入孔の各々に1以上の永久磁石が埋め込まれた直径が500mm以上、ロータ最大回転数が2000rpm以下の回転子であって、上記永久磁石の固定子側表面領域の保磁力が、該永久磁石の外形面から少なくとも5mmの深さの内部中央部分の保磁力よりも300kA/m以上大きいことを特徴とする永久磁石式回転機用回転子と、該回転子の外周面に空隙を介して配置された、複数のスロットを有するステータコアに巻線を巻いた固定子とを備える永久磁石回転機と
を備えてなる、定格が1MW以上の風力発電機。」

3.引用例の記載事項

(1)引用例1
(1-1)当審拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2009-254092号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の記載がある(下線は、当審で付加した。)。
(ア)「【0001】
本発明は、複数個の永久磁石セグメントがロータコア内部に埋め込まれた回転子と、複数のスロットを有するステータコアに巻き線を巻いた固定子とが空隙を介して配置された永久磁石回転機に用いる回転子(いわゆる磁石埋込構造回転機(IPM回転機:IPM:Interior Permanent Magnet))、・・・(中略)・・・特に、高速回転を行う電気自動車用モータや発電機、FAモータ等に最適な永久磁石構造型回転機用回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd系焼結磁石は、その優れた磁気特性のために、ますます用途が広がってきている。近年、モータや発電機などの回転機の分野においても機器の軽薄短小化、高性能化、省エネルギー化に伴いNd系焼結磁石を利用した永久磁石回転機が開発されている。回転子の内部に磁石を埋め込んだ構造をもつIPM回転機は、磁石の磁化によるトルクに加えてロータヨークの磁化によるリラクタンストルクを利用することができるので、高性能な回転機として研究が進んでいる。珪素鋼板等で作られたロータヨークの内部に磁石が埋め込まれているので、回転中にも遠心力で磁石が飛び出すことがなく、機械的な安全性が高く、電流位相を制御して高トルク運転や広範囲な速度での運転が可能であり、省エネルギー、高効率、高トルクモータとなる。近年は、電気自動車、ハイブリッド自動車、高性能エアコン、産業用、電車用等のモータや発電機としての利用が急速に拡大している。」
(イ)「【0004】
回転機中の永久磁石は、巻き線や鉄心の発熱により高温に曝され、更に巻き線からの反磁界により極めて減磁しやすい状況下にある。このため、耐熱性、耐減磁性の指標となる保磁力が一定以上あり、磁力の大きさの指標となる残留磁束密度ができるだけ高いNd系焼結磁石が要求されている。
【0005】
更に、Nd系焼結磁石の電気抵抗は100?200μΩ・cmの導体であり、回転子が回転すると磁石の磁束密度が変動し、それに伴う渦電流が生じる。渦電流低減のために有効な手段は、渦電流経路を分断するために磁石体を分割することである。細分化するほど渦電流損失低減になるが、製造コストの増加や隙間による磁石体積減少で出力が低下する等を考慮することが必要である。
【0006】
渦電流の経路は、磁石の磁化方向に垂直な面内に流れ、外周部ほど電流密度が高くなっている。また、固定子に近い面で電流密度が高くなっている。即ち、渦電流による発熱量は、磁石表面付近ほど大きく、より高温になるため、この部分で特に減磁しやすい状態にある。渦電流による減磁を抑えるために、磁石表面部において耐減磁性の指標となる保磁力が磁石内部より高いNd系焼結磁石が要求される。」
(ウ)「【0019】
本発明に係る永久磁石式回転機は、複数個の永久磁石セグメントがロータコア内部に埋め込まれた回転子と、複数のスロットを有するステータコアに巻き線を巻いた固定子とが空隙を介して配置された永久磁石回転機に用いる回転子、又は複数個の永久磁石セグメントをロータコア表面に取り付けた回転子と、複数のスロットを有するステータコアに巻き線を巻いた固定子とが空隙を介して配置された永久磁石回転機に用いる回転子(いわゆる表面磁石型回転機)であり、本発明においては上記複数個の永久磁石セグメントのそれぞれが更に細かく分割された永久磁石(分割磁石)の集合体で構成されていると共に、各永久磁石集合体の分割磁石の表面近傍における保磁力又は耐熱性が内部の保磁力又は耐熱性より大きく又は高くなっているものである。
【0020】
ここで、このようなIPM回転機としては、図1に示すものが例示される。即ち、図1において、1は回転子(ロータ)、2は固定子であり、回転子(ロータ)1は、電磁鋼板を積層したロータヨーク11に永久磁石セグメント12が埋め込まれた4極構造を示した例示であるが、単に長方形の磁石を4極に配置してもよい。極数は、回転機の目的に合わせて選択する。固定子2は、電磁鋼板を積層した6スロット構造で、各ティースには集中巻きでコイル13が巻かれており、コイル13はU相,V相,W相の3相Y結線となっている。なお、図中14はステータヨークである。図1に示すU,V,Wの添え字の+と-はコイルの巻き方向を示すもので、+は紙面に対し出る方向、-は入る方向を意味する。回転子と固定子の位置関係が図1の状態で、U相に余弦波の交流電流、V相にU相より120°位相の進んだ交流電流、W相にU相より240°位相の進んだ交流電流を流すことで、永久磁石の磁束とコイルの磁束の相互作用で回転子は反時計回りに回転する。なお、図中、永久セグメント12に付随させた矢印方向が磁化方向である。」
(エ)「【0021】
本発明において、上記永久磁石セグメント12は、例えば図3(B)に示すように、それぞれ分割された複数の永久磁石(分割磁石)12aの集合体から構成される。
【0022】
この場合、分割磁石12aは、Nd系希土類焼結磁石であることが好ましい。Nd系焼結磁石は、常法に従い、母合金を粗粉砕、微粉砕、成形、焼結させることにより得た焼結磁石が用いられるが、本発明においては、上述したとおり、個々の焼結磁石の表面近傍における保磁力又は耐熱性を内部の保磁力又は耐熱性を大きく又は高くしたものを用いるが、これは磁石表面から内部に向かってDy又はTbを拡散させること、この場合主に結晶粒界を経由して拡散させることによって形成し得る。」
(オ)「【0026】
・・・(中略)・・・
積層された磁石集合体は、ロータ内に配置されている穴に挿入されて、磁石埋め込み型のロータが得られる。」
(カ)「【0026】
・・・(中略)・・・
IPM回転機は、永久磁石を通る磁束は回転子の回転と共に時々刻々変化しており、この磁場変動により磁石内部に渦電流が発生する。渦電流の経路は、磁石の磁化方向に垂直な面内に流れる。
【0027】
分割磁石12aであっても、渦電流は磁化方向に垂直な面に流れる。渦電流の流れ方と磁石内部の温度分布を、図5に模式図としてまとめた。図5に示すように、渦電流の密度が、個々の磁石の外周部で高くなり、温度が上がる。ステータ側での磁場変動が大きいため、磁化方向の温度分布はステータ側の方が回転軸の中心側より若干高くなっている。渦電流による減磁を抑えるためには、磁石外周部にあたる磁石表面近傍で耐減磁性の指標となる保磁力が磁石内部より高いNd磁石が要求される。磁石内部は、渦電流の発熱が少ないので、必要以上の保磁力はいらない。
図3は、分割磁石12aの全表面からDy又はTbを拡散させ(図中、斜線部分がDy又はTbを拡散させた表面である)[図3(A)]、磁石表面近傍の保磁力を上げた5個の分割磁石12aを接着剤で一体化した[図3(B)]例示である。
【0028】
・・・(中略)・・・図3又は図6のような形態であっても、磁石外周部にあたる磁石表面近傍で耐減磁性の指標となる保磁力が、磁石内部より高いNd磁石を得ることができる。なお、表面近傍とは表面から6mm程度までの領域を意味する。
【0029】
焼結磁石体の表面から結晶磁気異方性を高める効果の特に大きい元素であるDy、Tbなどの拡散吸収処理の結果、残留磁束密度の低減をほとんど伴わずにNd系焼結磁石の保磁力が効率的に増大されるので、焼結磁石体の保磁力に分布ができる。図3に示した磁石表面全面からの拡散吸収処理で得られた磁石の保磁力分布の様子を図4にまとめた。磁石表面近傍の保磁力が、磁石内部の保磁力より高くなっている。」
(キ)「【0034】
[実施例及び比較例]
<実施例及び比較例の磁気特性>
純度99質量%以上のNd、Co、Al、Feメタルとフェロボロンを所定量秤量してAr雰囲気中で高周波溶解し、この合金溶湯をAr雰囲気中で銅製単ロールに注湯するいわゆるストリップキャスト法により薄板状の合金とした。得られた合金の組成はNdが13.5原子%、Coが1.0原子%、Alが0.5原子%、Bが5.8原子%、Feが残部であり、これを合金Aと称する。合金Aに水素を吸蔵させた後、真空排気を行いながら500℃まで加熱して部分的に水素を放出させる、いわゆる水素粉砕により30メッシュ以下の粗粉とした。更に純度99質量%以上のNd、Tb、Fe、Co、Al、Cuメタルとフェロボロンを所定量秤量し、Ar雰囲気中で高周波溶解した後、鋳造した。得られた合金の組成はNdが20原子%、Tbが10原子%、Feが24原子%、Bが6原子%、Alが1原子%、Cuが2原子%、Coが残部であり、これを合金Bと称する。合金Bは窒素雰囲気中、ブラウンミルを用いて30メッシュ以下に粗粉砕された。
【0035】
続いて、合金A粉末を90質量%、合金B粉末を10質量%秤量して、窒素置換したVブレンダー中で30分間混合した。この混合粉末は高圧窒素ガスを用いたジェットミルにて、粉末の平均粉末粒径4μmに微粉砕された。得られた混合微粉末を窒素雰囲気下15kOeの磁界中で配向させながら、約1ton/cm^(2)の圧力で成形した。次いで、この成形体をAr雰囲気の焼結炉内に投入し、1,060℃で2時間焼結し、永久磁石ブロックを作製した。永久磁石ブロックをダイヤモンド砥石により図3に示すような直方体磁石に全面研削加工した。その寸法はL=18mm、W=70mm、T=20mm(Tは磁気異方性化した方向)である。図10に示すようなC型の磁石も全面研削加工にて製作した。その寸法はL=22.5mm、W=100mm、T=11mmである。研削加工された磁石体をアルカリ溶液で洗浄した後、酸洗浄して乾燥させた。各洗浄の前後には純水による洗浄工程が含まれている。
【0036】
次に、平均粉末粒径が5μmのフッ化ディスプロシウムを質量分率50%でエタノールと混合し、これに超音波を印加しながら前記の直方体及びC型磁石体を1分間浸した。引き上げた磁石は直ちに熱風により乾燥させた。この時のフッ化ディスプロシウムによる磁石表面空間の占有率は45%であった。これにAr雰囲気中900℃で1時間という条件で吸収処理を施し、更に500℃で1時間時効処理して急冷することで、直方体磁石体M1とC型磁石体M3を得た。比較のために熱処理のみ施した直方体磁石体をP1、C型磁石体をP2とした。
・・・(中略)・・・
【0038】
これらの磁石体の磁気特性(VSM測定)を表1に示した。下記のように一辺1mmの立方体に磁気特性評価用試料を切り出し、磁石各部の磁気特性を評価した。
磁気特性サンプルの位置
磁気特性サンプルは1mm角であって
表面から1mmまでの1mm角
M1,M2,P1はW方向の中央、T方向の中央、L方向の表面1mmまで
M3,M4,P2はW方向の中央、L方向の中央、T方向の表面1mmまで
中央部
文字通り中央部の1mm角
M1,M2,P1はW方向の中央、T方向の中央、L方向の中央(表面から9mm)
M3,M4,P2はW方向の中央、L方向の中央、T方向の中央(表面から5.5mm)
【0039】
ディスプロシウムの吸収処理を施していない磁石体P1の保磁力に対して本発明による永久磁石体M1は最外周部で500kAm^(-1)の保磁力増大が認められた。磁石内部は、表面から9mmの距離があるので、ディスプロシウムが吸収されず、保磁力に変化がなかった。詳細に保磁力の分布を調べたところ、表面から6mmまで保磁力増大が認められた。また、テルビウムの吸収処理を施した磁石体M2も表面から6mmまで保磁力の増大が認められ、施していない磁石体P1の保磁力に対して800kAm^(-1)の保磁力増大が認められる。本発明の永久磁石の残留磁束密度の低下は5mTと僅かなものであった。・・・(中略)・・・
【0042】
<実施例1,2及び比較例1の磁石を用いたIPMモータ特性>
本発明の磁石体M1、M2及び比較例の磁石体P1を永久磁石モータに組み込んだ時のモータ特性について説明する。
永久磁石モータは図1に示すIPMモータである。回転子は、0.5mmの電磁鋼板を積層したロータヨークに永久磁石が埋め込まれた4極構造である。ロータヨークの寸法は外径312mm、高さ90mmとなっている。埋め込まれる永久磁石の寸法は、幅70mm、磁気異方性化方向の寸法20mm、軸方向の寸法90mmである。軸方向5分割された磁石を用いた。固定子は、0.5mmの電磁鋼板を積層した6スロット構造で、各ティースには集中巻きでコイルが60ターン巻かれており、コイルはU相,V相,W相の3相Y結線となっている。」
(ク)「【0048】
なお、実施例は永久磁石モータであるが、永久磁石発電機も同じ構造であり、本発明の効果は同様である。」
そして、記載事項(ウ)及び(オ)並びに図1の記載から、次の事項が理解できる。
(ケ)「永久磁石セグメントが積層された磁石集合体で構成され、複数個の穴がロータコア内部に周方向に配置され、前記複数個の穴のそれぞれに前記永久磁石セグメントが挿入されて、複数個の前記永久磁石セグメントがロータコア内部に埋め込まれた回転子を得る。」
さらに、記載事項(キ)にあるように、直方体磁石体M1が、フッ化ディスプロシウムをエタノールと混合したものに浸す工程を経て得られることを考慮すれば、記載事項(キ)から、次の事項が理解できる。
(コ)「直方体磁石体M1は、その全ての表面について、表面から1mmまでの表面近傍における保持力が表面から6mmよりも深い内部の保持力よりも500kAm^(-1)大きい。」
記載事項(ウ)及び図1の記載から、次の事項が理解できる。
(サ)「回転子と固定子とは、回転子の外周面と固定子との間に空隙を介するように配置されている。」
(1-2)そうすると、これらの事項からみて、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ロータコア内部に周方向に配置された複数個の穴のそれぞれに永久磁石セグメントが挿入されてなる、複数個の永久磁石セグメントがロータコア内部に埋め込まれた回転子と、複数のスロットを有するステータコアに巻き線を巻いた固定子とが、前記回転子の外周面と前記固定子との間に空隙を介して配置された永久磁石発電機であって、
前記永久磁石セグメントのそれぞれが積層された磁石集合体で構成され、該磁石集合体の個々の永久磁石が、その全ての表面について、表面から1mmまでの表面近傍における保持力が表面から6mmよりも深い内部の保持力よりも500kAm^(-1)大きい、
永久磁石発電機。」
(2)引用例2
(2-1)当審拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-303435号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(シ)「【0001】
本発明は、磁石体表層部の保磁力が内部より高い傾斜機能を有し、効率的に耐熱性を向上させた高性能希土類永久磁石に関する。」
(ス)「【0002】
Nd-Fe-B系永久磁石は、その優れた磁気特性のために、ますます用途が広がってきている。近年、環境問題への対応から家電をはじめ、産業機器、電気自動車、風力発電へ磁石の応用の幅が広がったことに伴い、Nd-Fe-B系磁石の高性能化とともに高い耐熱性が要求されている。」
(2-2)そうすると、これらの事項からみて、引用例2には次の技術が記載されていると認められる。
「希土類永久磁石、特に磁石体表層部の保磁力が内部より高い傾斜機能を有する高性能希土類永久磁石を風力発電に用いる。」
(3)引用例3
(3-1)当審拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である国際公開03/055045号(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付加した。)。
(セ)「数kWを超える大型機においては、これまでは、分布巻が用いられることが多かったが、コイルエンドの小さい集中巻の必要性が大型機においても高まりつつある。例えば、風力発電、特に、ギヤレス型の風力発電システムに永久磁石型同期発電機を採用する場合、分布卷と比較して、集中巻は、コイルエンドが小さいため軸方向の長さを低減でき、さらに電機子卷線に発生する銅損が小さいため高効率化が実現できるという点で、集中卷を選択した方がよいと言える。」(第1ページ第17-23行(空白行除く、以下同じ))
(ソ)「集中卷の大容量機、特に、回転子の直径が1mを超えるような永久磁石型回転電機や風力発電用永久磁石型同期発電機では、回転子に発生する渦電流損が無視できないレベルに達することがあり、この渦電流損により回転機の効率が著しく下がったり、この渦電流損によって回転子の温度が上昇し、磁石の減磁を招くという課題があった。また、減磁には至らなくとも温度上昇によって残留磁束密度が低下し、その結果、磁石が発生する磁束が減少する。そのため、温度上昇のない状態と同じ出力を出すためには電機子電流を多く流す必要があり、銅損が増加し、効率が低下してしまうという課題もあった。」(第2ページ第5-13行)
(タ)「図1に、本発明の実施の形態1の例を示す。図1はインナーロータ型の永久磁石型同期発電機である。すなわち、図1においては、回転子100の外側に固定子101が位置している。図1において、1は固定子101を構成している固定子鉄心、2は固定子鉄心1に設けられた複数個のティース、3は隣接するティース2間に形成された凹部であるスロット、4は回転子100に設けられた複数の永久磁石、5は永久磁石4が等間隔に取り付けられている一体型の塊状の回転子ヨーク、6は回転子100の回転軸である。
図1に示すように、回転子外径は3mであり、回転子100に設けられた永久磁石4の個数(すなわち、回転子磁極の極数)は64、固定子101のティース2およびスロット3の個数は共に96である。回転子100の塊状のヨーク5の表面に永久磁石4が配置された表面磁石型の同期発電機であり、固定子101は96個のティース2を有し、図1においては図示は省略しているが、各ティース2に電機子卷線が集中的に卷き回されたいわゆる集中卷の卷線方式を採用している。」(第6ページ第22-28行)
(チ)「回転子100の外径D[m]」(第8ページ第18行)
(ツ)「ギヤレス型の風力発電機など低速で回転子が回転し、大きなトルクを必要とする発電機では式(16)からわかるように、軸長Lを大きくするより直径Dを大きくするほうが有利である。」(第13ページ第14-16行)
(テ)「図16に発電機の出力Poutに対するDをL=D、L=0.8D、L=0.5Dとした場合について示す。出力が大きくなるにつれて、Dを大きくする必要があることが分かる。また、風力発電用としては、先に述べた機械剛性や熱設計の観点からはL=Dとした場合の曲線より上の領域に設計されることが望ましく、さらにL=0.8Dとした場合より上の領域であることが望ましく、さらにはL=0.5Dとした場合より上の領域であることがより望ましい。したがって、図16から、出力が2000kWの場合、D≧2.2[m]、より好ましくは D≧2.3[m]、さらにより好ましくはD≧2.7[m]として設計されるのが望ましいことがわかる。」(第14ページ第3-12行)
(ト)「また、ここでは回転子の表面に磁石を備えた表面磁石型の回転電機について述べたが、回転子鉄心に磁石を埋め込んだ埋め込み磁石型についても電機子起磁力の非同期成分が磁石等の渦電流損の原因になっている点では共通である。したがって、埋め込み磁石型の回転電機についても本実施の形態の構成にすることによって同様の効果が得られることは言うまでもない。」(第16ページ第14-19行)
(ナ)「本発明の永久磁石型回転電気は、風力発電等の種々の発電に用いると有用である。」(第27ページ第3-4行)
(3-2)そうすると、これらの事項からみて、引用例3には次の技術が記載されていると認められる。
「回転子100の外側に固定子101が位置しているインナーロータ型の永久磁石型同期発電機であって、回転子の表面に磁石を備えた表面磁石型あるいは回転子鉄心に磁石を埋め込んだ埋め込み磁石型のいずれかの型式であって、外径Dが2.2m以上の回転子と、固定子鉄心で構成され、該固定子鉄心に複数個のティースが設けられ、各ティースに電機子卷線が卷き回された固定子とを備え、出力が2000kWの永久磁石型同期発電機を、低速で回転子が回転するギヤレス型風力発電機に用いる。」

4.本願発明と引用発明の対比・判断

(1)対比
引用発明の「穴」は、本願発明の「挿入孔」に相当し、「1以上」は、当然、複数を包含するから、引用発明の、「積層された磁石集合体で構成され」る「永久磁石セグメント」、及び「磁石集合体の個々の永久磁石」は、それぞれ、本願発明の「1以上の永久磁石」、及び該「1以上の永久磁石」の個々の永久磁石に相当する。
本願の請求項1の記載からみて、本願発明は、「1以上の永久磁石」の個々の永久磁石の「固定子側表面領域の保磁力が、該永久磁石の外形面から少なくとも5mmの深さの内部中央部分の保磁力よりも300kA/m以上大きい」ものである。一方、引用発明は、永久磁石セグメントを構成する磁石集合体の個々の永久磁石が、その全ての表面について、表面から1mmまでの表面近傍における保持力が表面から6mmよりも深い内部の保持力よりも500kAm^(-1)大きいものであるから、当然、該個々の永久磁石は、その固定子側表面についても、表面から1mmまでの表面近傍における保持力が表面から6mmよりも深い内部の保持力よりも500kAm^(-1)大きくなっている。そして、本願明細書、特に段落0008及び0026の記載からみて、引用発明の「表面から1mmまでの表面近傍」は、本願発明の「表面領域」に相当する。
そうすると、引用発明の、「ロータコア内部に周方向に配置された複数個の穴のそれぞれに永久磁石セグメントが挿入されてなる、複数個の永久磁石セグメントがロータコア内部に埋め込まれた回転子」であって「前記永久磁石セグメントのそれぞれが積層された磁石集合体で構成され、該磁石集合体の個々の永久磁石が、その全ての表面について、表面から1mmまでの表面近傍における保持力が表面から6mmよりも深い内部の保持力よりも500kAm^(-1)大きい」ものと、本願発明の「ロータコア内部に周方向に設けられた複数の挿入孔の各々に1以上の永久磁石が埋め込まれた直径が500mm以上、ロータ最大回転数が2000rpm以下の回転子であって、上記永久磁石の固定子側表面領域の保磁力が、該永久磁石の外形面から少なくとも5mmの深さの内部中央部分の保磁力よりも300kA/m以上大きいことを特徴とする永久磁石式回転機用回転子」とは、「ロータコア内部に周方向に設けられた複数の挿入孔の各々に1以上の永久磁石が埋め込まれた回転子であって、上記永久磁石の固定子側表面領域の保磁力が、該永久磁石の外形面から少なくとも5mmの深さの内部中央部分の保磁力よりも300kA/m以上大きい永久磁石式回転機用回転子」である点で一致している。
引用発明の「複数のスロットを有するステータコアに巻き線を巻いた固定子」は、本願発明の「複数のスロットを有するステータコアに巻線を巻いた固定子」に相当する。そして、引用発明の、「回転子と、」「固定子とが、前記回転子の外周面と前記固定子との間に空隙を介して配置された」態様は、本願発明の、「固定子」が「回転子の外周面に空隙を介して配置された」態様に相当する。
さらに、本願発明は、「永久磁石回転機」を備えてなる「風力発電機」であるから、引用発明の「永久磁石発電機」は、本願発明の「永久磁石回転機」を備えてなる「風力発電機」と、「永久磁石回転機を備えてなる、発電機」であるである点で一致している。

以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
ロータコア内部に周方向に設けられた複数の挿入孔の各々に1以上の永久磁石が埋め込まれた回転子であって、上記永久磁石の固定子側表面領域の保磁力が、該永久磁石の外形面から少なくとも5mmの深さの内部中央部分の保磁力よりも300kA/m以上大きい永久磁石式回転機用回転子と、該回転子の外周面に空隙を介して配置された、複数のスロットを有するステータコアに巻線を巻いた固定子と備える永久磁石回転機を備えてなる、発電機。
【相違点】
本願発明は、回転翼を備え、永久磁石回転機の回転子の直径が500mm以上、ロータ最大回転数が2000rpm以下である、定格が1MW以上の風力発電機であるのに対し、
引用発明は、発電機ではあるが、その用途が特定されておらず、永久磁石回転機の回転子の直径、ロータ最大回転数及び定格も特定されていない点。

なお、審判請求人は、意見書において、引用例1には、永久磁石の「外形面から」少なくとも5mmの深さの内部中央部分の保磁力よりも300kA/m以上大きい永久磁石式回転子についての開示はあるとしても、「固定子側表面領域」の保磁力について、何ら開示も示唆もない旨主張している(【意見の内容】(3)(ii)(引用文献1との比較))。
しかしながら、先に検討したとおり、引用例1には、永久磁石の固定子側表面領域の保磁力が、該永久磁石の外形面から少なくとも5mmの深さの内部中央部分の保磁力よりも300kA/m以上大きいものが開示されているといえる。

(2)判断
相違点について検討する。
風力発電は、本件出願時において発電機の用途として一般的なものである。さらに、引用例2、特に記載事項(シ),(ス)を参照すると、引用例2には磁石体表層部の保磁力が内部より高い希土類永久磁石を風力発電に応用することが記載されている。そして、風力発電機が回転翼を備えることは、技術常識である。
さらに、永久磁石を用いた発電機の形式は、通常、いわゆる磁石埋込構造回転機あるいは表面磁石型回転機のいずれかであって、回転翼と、ロータコア内部に周方向に設けられた複数の挿入孔の各々に1以上の永久磁石が埋め込まれた直径が500mm以上、ロータ最大回転数が2000rpm以下の永久磁石式回転機用回転子と、該回転子の外周面に空隙を介して配置された、複数のスロットを有するステータコアに巻線を巻いた固定子とを備える永久磁石回転機とを備えてなる、定格が1MW以上の風力発電機は、例えば引用例3に記載されているように、本件出願時において風力発電機として一般的なものであって、特別なものではなく、風力発電に用いられる発電機が回転翼と結合されることは技術常識である。(ほかにも、例えば上田悦紀、ほか2名,“三菱重工の新型風車(MWT-1000A,MWT-S2000)の開発と運転実績”,三菱重工技報,三菱重工業株式会社,2003年,第40巻,第4号,p.238-241(以下、単に「三菱重工技報」という。)には、2000kW風車 MWT-S2000に関して、「同期発電機の直径を4.2m以下にコンパクトにまとめるという厳しい目標を設定した。・・・(中略)・・・設計努力により2000kWという大型同期発電機を直径4m未満に仕上げることに成功した.」(第240ページ右欄第3-15行)と記載されるとともに、表1の「MWT-S2000(大型風車)」の欄に「定格出力 2000kW,発電機形式 永久磁石式多極同期発電機,回転数 8?24rpm」と記載され、「ロータと、回転数が8?24rpmの回転子を備え、直径が4mに近い4m未満である可変速ギアレス永久磁石式同期発電機とを備えてなる、風車。」が紹介されており(「三菱重工技報」の記載全体をみれば、発電機の直径が4m未満ではあるが、4mに近い値であることが推認される。)、直径が4m程度の発電機の回転子の直径が500mm以上となることは、技術常識からみて、明らかである。)
そうすると、引用発明を風力発電に用い、かつその体格として回転子の直径が500mm以上、ロータ最大回転数が2000rpm以下、定格が1MW以上の範囲に入るものを採用することは、引用例2に記載された技術及び技術常識に基いて、当業者が容易になし得る事項である。
そして、本願明細書を参照しても、本願発明において、永久磁石回転機の回転子の直径を500mm以上、ロータ最大回転数を2000rpm以下、定格を1MW以上とした点に臨界的意義は見いだせず、相違点に基いて本願発明が奏する作用効果は、引用発明及び引用例2に記載された技術が奏する作用効果並びに技術常識から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術並びに技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、意見書において、引用例3について、「ロータ最大回転数が2000rpm以下の回転子」を開示も示唆もしていない旨(【意見の内容】(3)(ii)(引用文献3との比較)),及び「ロータコア内部に周方向に設けられた複数の挿入孔の各々に1以上の永久磁石が埋め込まれ」た回転子は具体的に開示されていない旨(【意見の内容】(3)(iii))主張している。
確かに、引用例3には回転子の回転数について具体的に記載されていない。しかしながら、引用例3には、ギヤレス型の風力発電機では回転子が低速で回転することが記載されている。そして、ギヤレス型の風力発電機において回転子の回転数が2000rpm以下であることは技術常識である(例えば「三菱重工技報」参照)。
また、引用例3には、回転子の表面に磁石を備えた表面磁石型の回転子について具体的に開示されており(記載事項(テ))、さらに回転子鉄心に磁石を埋め込んだ埋め込み磁石型の回転子も当該形態の構成を採り得ることが記載されているから(記載事項(ト))、引用例3には回転子鉄心に磁石を埋め込んだ埋め込み磁石型の回転子について具体的に開示しているといえる。
さらに、審判請求人は、意見書において、引用例1、2を引用例3に組み合わせる動機付けは存在しない旨主張している。
しかしながら、平成28年11月28日付け拒絶理由通知書に記載したとおり、当審拒絶理由は、回転翼と、ロータコア内部に周方向に設けられた複数の挿入孔の各々に1以上の永久磁石が埋め込まれた直径が500mm以上、ロータ最大回転数が2000rpm以下の永久磁石式回転機用回転子及び該回転子の外周面に空隙を介して配置された、複数のスロットを有するステータコアに巻線を巻いた固定子を備える永久磁石回転機とを備えてなる、定格が1MW以上の風力発電機が、本件出願時において風力発電機として一般的なものであることを示すために、引用例3を引用したものである。
そして、引用発明を風力発電に用いるにあたり、一般的に用いられている風力発電機の体格を採用することは、当業者が通常発揮する創作能力の範囲内のものである。

5.むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-31 
結審通知日 2017-04-04 
審決日 2017-04-17 
出願番号 特願2014-115772(P2014-115772)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塩治 雅也上野 力  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 久保 竜一
堀川 一郎
発明の名称 風力発電機  
代理人 松島 鉄男  
代理人 河村 英文  
代理人 中村 綾子  
代理人 奥山 尚一  
代理人 有原 幸一  

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