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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F16B 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16B |
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管理番号 | 1328799 |
審判番号 | 不服2016-9020 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-06-16 |
確定日 | 2017-06-20 |
事件の表示 | 特願2014-551186「緩み防止ナット及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔2013年7月18日国際公開、WO2013/105751、平成27年3月5日国内公表、特表2015-507149、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2012年12月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年1月10日、大韓民国)を国際出願日とする出願であって、平成27年6月10日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年9月16日に手続補正されたが、平成28年2月12日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。発送日:同年2月16日)され、これに対し、同年6月16日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正され、その後、当審において平成29年1月16日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、その指定期間内の同年4月10日に手続補正されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、平成29年4月10日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 本体が少なくとも1回巻かれる螺旋状を成して弾性を有し、内周面にネジ山が少なくとも2個形成されてボルトに結合される緩み防止ナットであって、 前記ナットは、本体を螺旋状に切開する螺旋状の切開溝が長さ方向に沿って形成されることで螺旋状を成し、 前記螺旋状の切開溝は、前記本体の末端まで貫通される構成であって、 前記螺旋状の切開溝は、前記本体の末端部分で進行方向が屈折して傾く傾斜溝を形成した ことを特徴とする緩み防止ナット。 【請求項2】 前記ナットの中間地点に形成される螺旋状の切開溝の間隔を空けて、その切開溝で断絶されたネジ山のピッチが、空けられた間隔の寸法だけ変わるように形成されたことを特徴とする、請求項1に記載の緩み防止ナット。 【請求項3】 一定の直径を有する長棒に一定の深さで螺旋状の切開溝を形成する段階と、 螺旋状の切開溝が形成された長棒を一定の長さに切断する段階と、 前記螺旋状の切開溝の末端に、前記切断された長棒の末端部分で進行方向が屈折して傾く傾斜溝を形成する段階と、 前記切断された長棒の内部に穴を開けて内径を加工した後、ネジ山を形成する段階と、 を含んで螺旋状のナットを形成することを特徴とする緩み防止ナットの製造方法。 【請求項4】 切断された長棒にネジ山を形成する前に、長さ方向に加圧して長さを調節する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項3に記載の緩み防止ナットの製造方法。 【請求項5】 前記切断された長棒の内部にネジ山を形成した後、前記ナットの中間地点に形成される螺旋状の切開溝の間隔を空けて、その切開溝で断絶されたネジ山のピッチが、空けられた間隔の寸法だけ変わるように形成する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項3又は4に記載の緩み防止ナットの製造方法。」 第3 刊行物 1 刊行物1 原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された特開2011-33047号公報(以下「刊行物1」という。)には、「ロックナットおよびその締結構造」に関して、図面(特に、図1、図2(A)、図2(B)、図2(C)、図3ないし図6、図9参照)とともに、次の事項が記載されている。 (1)「【0001】 本発明は、緩み止めに用いられるロックナットおよびその締結構造に関する。」 (2)「【0020】 (作用) 図1及び図2(A)に示すロックナットの上下両面に、図2(B)の如く圧縮力を加えると、弾性変形して、第1スリット1,第2スリット2の隙間が狭まる。即ち、各第1スリット1,第2スリット2の各スリット入口1b, 2bの隙間が、各スリット端1a、2aよりも縮小する。さらに加圧力を加えると、図2(C)の如く、各スリット入口1b,2b側の隙間が殆ど無くなると共に、両第1スリット1,2の重なり部分に形成された薄片部13が偏平なS字状に弾性変形する。 このようなロックナット11で、図3?図5に示す如く、通常のボルト7と通常のナット10とを用い、一対の被締結部材8,9締結する場合に付き述べる。 【0021】 被締結部材8,9には、予め整合するボルト挿通孔が形成されており、そこにボルト7を挿通し、先ず、そのボルト7の雄ネジ16に本発明のロックナット11のみを螺着締結する。このときの締結状態は、図10における通常のナット10と同一である。次いで、そのロックナット11の上側(外側)に通常のナット10を雄ネジ16に螺着締結する。この状態を示したのが図5及び図6である。するとナット10の締結力により、ロックナット11の上面が下方に押圧される。すると、第1スリット1,第2スリット2の隙間が弾性的に変形すると共に、薄片部13が弾性変形する。そして、第1スリット1,第2スリット2より上方のロックナット11の上半分が下方に移動し、その内ネジの下側が雄ネジ16の上側に圧接する。それと共に、ボルト7部分が引き伸ばされる。 【0022】 その結果、ロックナット11の上半分とナット10との間に強力なダブルナット効果が形成される。 何故ならば、外側ナット10とロックナット11の上半分とが互いにボルト7を逆向きに引っ張り合うと共に、両ナットが互いに反発方向に移動可能であるから、外側ナット10と雄ネジ16とが圧接すると共に、ロックナット11の上半分と雄ネジ16とも圧接するからである。 次に、ロックナット11の下半分は、被締結部材8の押圧力により上方に押さえられて相対的に上方に移動する。その下半分の雌ネジの上面とボルト7の雄ネジ16の下面との間に接触部14が形成され、そこが圧接する。その結果、ロックナット11の上半分、下半分共にボルト7に咬着され且つ、ナット10とロックナット11の上半分との間にダブルナット効果が生じて緩むことがない。このことは、本発明者の振動実験で確かめられている。 【0023】 これは、本発明の第1スリット1,第2スリット2及び薄片部13の弾性変形の作用によるものである。即ち、その弾性変形がロックナット11の上半分の下方への相対移動と、下半分の上方への相対移動とを可能にするからである。」 (3)「【実施例3】 【0025】 次に、図9はナット本体3の軸方向中間位置に螺旋状の螺旋スリット6を形成したものである。 この螺旋スリット6は、ネジ孔を横断して周方向に360度以上形成されている。この例では、周方向に400度?600度程度形成されている。 実施例2の作用及び、実施例3の作用も実施例1のそれと同一である。」 (4)上記(3)の「この螺旋スリット6は、ネジ孔を横断して周方向に360度以上形成されている。この例では、周方向に400度?600度程度形成されている。」との記載、及び同「実施例3の作用も実施例1のそれと同一である」との記載、上記(2)の「本発明の第1スリット1,第2スリット2及び薄片部13の弾性変形の作用によるものである」(段落【0023】)との記載、並びに図3ないし図6を踏まえると、図9には、ナット本体3が周方向に360度以上巻かれる螺旋状を成して弾性を有し、内周面に内ネジが少なくとも2個形成されてボルト7に結合されるロックナットが図示されているといえる。 上記記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、実施例3に関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「ナット本体3が周方向に360度以上巻かれる螺旋状を成して弾性を有し、内周面に内ネジが少なくとも2個形成されてボルト7に結合されるロックナットであって、 前記ロックナットは、ナット本体3を螺旋状に切開する螺旋状の螺旋スリット6が長さ方向に沿って形成されることで螺旋状を成し、 前記螺旋スリット6は、前記ナット本体3の軸方向中間位置に設けられるロックナット。」 2 刊行物2 原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された仏国特許発明第788148号明細書(以下「刊行物2」という。)には、緩み止めナットに関して、図面(Fig.1ないしFig.6参照)とともに、次の事項が記載されている。仮訳は当審が作成し、下線は当審が付した。以下同様。 (1)2ページ左欄7行?16行 (仮訳) 本発明の目的は、上記の観察を利用して安上がりに、もはや同心的ではなく、螺旋の抵抗力作用や問題とされる鋳造での螺旋の変形によって、ねじ棒の主軸方向に沿ってねじ棒が締められる全寸法の緩み止めナットを製作することである。 (2)2ページ右欄74行?3ページ左欄14行 (仮訳) 例として-図1は、適切な機械で、断面が長方形状のバーを巻きつけ、螺旋バーがナットを締めるのに十分な大きさになると、裁断機で切断して製作された螺旋を示している。 この螺旋は、中心に穴を作るためのマンドレルが中央に入っている間に、ナットの両面EとF上を押しながら、鋳型内でプレスして鍛造もしくは加工される。金属は、鋳型を押し返し、充たし、螺旋は、図3と4が示しているように変形する。通常のナットの外形を有するナットを、鋳型から取り出す。 ナットは次に、ねじ棒の螺旋山より若干短い螺旋山を有するねじ切りで、ねじを切られる。 ねじ棒にナットを固定しながら、ナット体の螺旋は広がり、ナットは、図5の断面を描いた形状をとる。 ナット体の螺旋は広がりながら、ねじ棒の主軸に対して平行な矢印(↓↑)方向に、強烈な締め付け作用を及ぼす。ナットはその時、完全に歯止めされ、衝撃や振動によっても全く緩まない。 図6は、締め付け作用によって識別される、ナット内側の螺旋の広がりを示している。締め付け作用によって開かれた二重線の螺旋、そして点線のねじ山の跡がわかる。 ねじ山の刻目は、ナット体の螺旋が鋳造によって変形される場所を通過し、ねじ山の両側(ABCD)に、ねじ留め時の螺旋の広がりによって得られる歯止め作用が一層高まる弾性締め付けが生じる点に気づく。 ナットは、ナット体螺旋の弾性品質を高めるために、機械加工後に焼入れが可能である。 (3)上記(2)の「ねじ棒にナットを固定しながら、ナット体の螺旋は広がり、ナットは、図5の断面を描いた形状をとる」との記載によれば、ねじ棒にナットを固定しない状態(Fig.3、Fig.4)ではナットの螺旋は広がっていないことが理解できる。 また、同「図1は、適切な機械で、断面が長方形状のバーを巻きつけ、螺旋バーがナットを締めるのに十分な大きさになると、裁断機で切断して製作された螺旋を示している。この螺旋は、中心に穴を作るためのマンドレルが中央に入っている間に、ナットの両面EとF上を押しながら、鋳型内でプレスして鍛造もしくは加工される。金属は、鋳型を押し返し、充たし、螺旋は、図3と4が示しているように変形する。通常のナットの外形を有するナットを、鋳型から取り出す」との記載から理解される加工方法よれば、Fig.4及びFig.6において、ナットの螺旋は、ナットの両面E,F部分で進行方向が屈折しないといえる。 上記記載事項及び図面の図示内容を総合すると、刊行物2には、次の事項が記載されている(以下「刊行物2に記載された事項」という。)。 「ナットの螺旋は、ナット体の両面E,Fまで貫通される構成であって、前記ナットの螺旋は、前記ナット体の両面E,F部分で進行方向が屈折しないナット。」 3 刊行物3 原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された仏国特許発明第1422324号明細書(以下「刊行物3」という。)には、振動作用下の緩み止めナットに関して、図面(FIG.1ないしFIG.4参照)とともに、次の事項が記載されている。 (1)1ページ右欄11行?2ページ右欄3行 (仮訳) 図面上に描かれた製作例において、ナット1は、上部にバンドカラー、厳密には円筒形もしくは軽く円錐形をした部位3を携えた締め付け部位(例えば六角)2、を備えている。 このバンドカラーに、振動作用或いは他の突発的原因の下で、ナットの緩み防止をもたらすことに充てられる弾性舌片4が刻まれる。 弾性舌片4は、一方では、中間面が即ちナットの中心線Xを通る直径面Dである溝5を刻むことによって、他方では、図2で概略的に描いたように、ねじ固定時のねじ進行方向に中間面がD面と鋭い角度αを作る亀裂6を刻むことによって成り立つ。この図は、図面を複雑にしないよう、亀裂6一つを刻んでいるP面しか示していない。他の面は、ナットの中心線Xに対して最初対称である。 角度αは、およそ60°から90°の間に、試験において最も良い結果を与えるのに値するのは、むしろ70°から80°の間に含まれる。 弾性舌片の裁断後、ナットの中心線に向けて、弾性舌片のそのままの先端を押しながら放射状方向へ、そして亀裂6を狭めながら縦線方向へと、同時に弾性舌片4に恒常的な変形がなされる。 図3に描かれているような、ナット軸に対して側辺がほぼ角度45°のV字形千枚通し或いはフォーク7を用いて、たった一度の操作で、弾性舌片の先端を同時に押し返しながら、この二重の変形を楽に実践できる。弾性舌片の先端の近くに千枚通し或いはフォークを置き、ハンマーやプレスで、ナットの中心線方向に十分な力をかける。 本論文冒頭の内容回顧により、P面とD面が互いに直交する既知のナットに対する当該ナットの優越性は発明に相応する。その優越性は、一方では亀裂6が刻まれる角度の傾斜が、円筒3がもはや円形状ではなく楕円形状に裁断されるので、ねじ山との接触で生じる弾性舌片の辺の長さを増やし、他方ではナット内側に差し込まれるねじ8と同じ接触面に対して、この断面は長方形状に代わってほぼ台形状であると図3において理解できるように、弾性舌片の抵抗断面はより大きくなることによって説明づけることができる。それは、ねじとの最良の接着であり、緩み防止に関して実現された進歩を主張している。 その一方で、図4で示しているように、ナット内側に差し込まれるねじ8の先端は、亀裂6が図2に描かれているD面と直角であるならば、もっと鋭い角度で弾性舌片4の断面9に当たって来る。弾性舌片の間隔は従って、ナットの締め付けに必要とされるトルクの低下を引き起こし、その上、ねじ或いはナットの破損回避を可能にする、漸進的なカムの効力によって作られる。 (2)FIG.1には、亀裂6が、ナット1の上面部分で進行方向が屈曲して傾く溝5に接続することが示されている。 上記記載事項及び図面の図示内容を総合すると、刊行物3には、次の事項が記載されている(以下「刊行物3に記載された事項」という。)。 「溝5及び亀裂6は、ナット1の上面まで貫通される構成であって、前記溝5及び亀裂6は、前記ナット1の上面部分で進行方向が屈折して傾く溝5を形成したナット1。」 4 刊行物4 原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された特開2003-321744号公報(以下「刊行物4」という。)には、「耐火性に優れた高強度ボルト、ナットおよびその製造方法」に関して、図面(特に、図1参照)とともに、次の事項が記載されている。 「【0047】3.製造条件 図1は本発明に係るボルト、ナットの概略製造工程図でS1はバーインコイル(以下、BIC)製造工程、S2は搬送工程、S3は製品(ボルト,ナット)仕上げ工程を示す。バーインコイル製造工程(S1)で鋼塊を熱間圧延し30mmφ以下の棒鋼とし長尺のままコイル巻きにし、品質検査後、出荷する。 【0048】製品(ボルト、ナット)仕上げ工程(S3)で、該棒鋼を引抜き加工後、冷間鍛造し、製品形状に成形後、焼入れ焼戻しを行う。」 第4 対比・判断 1 本願発明1について 本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「ロックナット」は前者の「緩み防止ナット」に相当し、以下同様に、「ナット本体3」は「本体」に、「螺旋スリット6」は「螺旋状の切開溝」に、ナット本体3が「周方向に360度以上巻かれる螺旋状を成」すことは本体が「少なくとも1回巻かれる螺旋状を成」すことに、「内ネジ」は「ネジ山」に、「ボルト7」は「ボルト」にそれぞれ相当する。 したがって、両者は、 「本体が少なくとも1回巻かれる螺旋状を成して弾性を有し、内周面にネジ山が少なくとも2個形成されてボルトに結合される緩み防止ナットであって、 前記ナットは、本体を螺旋状に切開する螺旋状の切開溝が長さ方向に沿って形成されることで螺旋状を成す緩み防止ナット。」 で一致し、次の点で相違する。 〔相違点〕 本願発明1は、「前記螺旋状の切開溝は、前記本体の末端まで貫通される構成であって、前記螺旋状の切開溝は、前記本体の末端部分で進行方向が屈折して傾く傾斜溝を形成した」ものであるのに対し、 引用発明は、「前記螺旋スリット6は、前記ナット本体3の軸方向中間位置に設けられる」点。 そこで、相違点について検討する。 刊行物2に記載された事項は、ナットの螺旋がナット体の両面E,Fまで貫通される構成であるが、前記ナットの螺旋は、ナット体の両面E,F部分で進行方向が屈折しないものであるから、相違点に係る本願発明1の「前記本体の末端部分で進行方向が屈折して傾く傾斜溝を形成した」との発明特定事項を少なくとも備えていない。 また、刊行物3に記載された事項は、溝5及び亀裂6がナット1の上面まで貫通される構成であって、前記溝5及び亀裂6がナット1の上面部分で進行方向が屈折して傾く溝5を形成したものであるが、刊行物3の「弾性舌片の裁断後、ナットの中心線に向けて、弾性舌片のそのままの先端を押しながら放射状方向へ、そして亀裂6を狭めながら縦線方向へと、同時に弾性舌片4に恒常的な変形がなされる。図3に描かれているような、ナット軸に対して側辺がほぼ角度45°のV字形千枚通し或いはフォーク7を用いて、たった一度の操作で、弾性舌片の先端を同時に押し返しながら、この二重の変形を楽に実践できる。弾性舌片の先端の近くに千枚通し或いはフォークを置き、ハンマーやプレスで、ナットの中心線方向に十分な力をかける」との記載及び同「それは、ねじとの最良の接着であり、緩み防止に関して実現された進歩を主張している」との記載、並びにFIG.3及びFIG.4からみて、刊行物3に記載された事項の溝5及び亀裂6は、一度の操作によりナットの中心線方向に十分な力をかけ、弾性舌片4を変形させることで、ねじとの緩み防止を行うためのものである。 そうすると、引用発明の螺旋スリット6及び刊行物2に記載された事項のナットの螺旋は、一度の操作により十分な力をかけ変形によって緩み防止を行うものではないから、引用発明及び刊行物2に記載された事項に刊行物3に記載された事項を適用する動機付けはない。 また、刊行物4には、相違点に係る本願発明1の発明特定事項に関する記載はない。 そして、本願発明1の傾斜溝は、本願明細書によれば、螺旋状に形成される本体の両末端の地点の厚さが末端に行くほど薄くなるところ、このような構成によって、外力によって曲がったり破損されてしまう恐れがある(段落【0029】)ので、傾斜溝は、螺旋状に形成される本体の末端が一定な厚さを有するようにする役割をすると共に、本体の末端が外部に露出されないようにする役割をもつ(段落【0032】)ものである。 このような本願発明1が奏する効果は、引用発明及び刊行物2ないし刊行物4に記載された事項から、当業者が予測できるものではない。 したがって、引用発明において、当業者が刊行物2ないし刊行物4に記載された事項を適用して、相違点に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想到し得たとはいえない。 よって、本願発明1は、引用発明及び刊行物2ないし刊行物4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 本願発明3について 本願発明3は、「前記螺旋状の切開溝の末端に、前記切断された長棒の末端部分で進行方向が屈折して傾く傾斜溝を形成する段階」を含む緩み防止ナットの製造方法であって、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を実質的に備えているから、本願発明1と同様に、引用発明及び刊行物2ないし刊行物4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 本願発明2、4及び5について 本願発明2、4及び5は、本願発明1又は3の発明特定事項を全て含むものであるから、それぞれ本願発明1又は3と同様に、引用発明及び刊行物2ないし刊行物4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 原査定は、平成27年9月16日の手続補正により補正された請求項1ないし5について上記刊行物1ないし4に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 しかしながら、平成29年4月10日の手続補正により補正された請求項1及び3は、それぞれ「前記螺旋状の切開溝は、前記本体の末端まで貫通される構成であって、前記螺旋状の切開溝は、前記本体の末端部分で進行方向が屈折して傾く傾斜溝を形成した」との事項及び「前記螺旋状の切開溝の末端に、前記切断された長棒の末端部分で進行方向が屈折して傾く傾斜溝を形成する段階」との事項を備えるものとなっており、上記のとおり、本願発明1ないし5は、引用発明及び刊行物2ないし刊行物4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原査定を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由について 当審では、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとの拒絶の理由を通知している。 (1)請求項2の「互いに行き違う」との記載及び請求項5の「行き違うようにする」との記載は不明瞭であるとともに、その記載の前に記載される「ネジ山の中、一部は同一の螺旋上に形成され」ないこと及び「ネジ山が同一の螺旋上に形成され」ないこととの関連も不明瞭である。 これに対して、平成29年4月10日の手続補正により、請求項2及び請求項5は「前記ナットの中間地点に形成される螺旋状の切開溝の間隔を空けて、その切開溝で断絶されたネジ山のピッチが、空けられた間隔の寸法だけ変わるように形成」すると補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 (2)請求項3の「前記本体の末端において屈折して貫通する」との記載に関して、 ア その記載より前に「本体」が「前記」されておらず、 イ そもそも「本体」が何を指しているのか不明瞭であり、 ウ 何に対して「屈折して」いるのかも不明瞭である。 これに対して、平成29年4月10日の手続補正により、請求項3は「前記切断された長棒の末端部分で進行方向が屈折して傾く」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 (3)請求項5の「また引いて」との記載はどのような製造方法なのか不明瞭である。 これに対して、平成29年4月10日の手続補正により、請求項5から「また引いて」との記載が削除された結果、この拒絶の理由は解消した。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明1ないし5は、いずれも、引用発明及び刊行物2ないし刊行物4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-06-07 |
出願番号 | 特願2014-551186(P2014-551186) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(F16B)
P 1 8・ 121- WY (F16B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 長谷井 雅昭 |
特許庁審判長 |
中村 達之 |
特許庁審判官 |
中川 隆司 冨岡 和人 |
発明の名称 | 緩み防止ナット及びその製造方法 |
代理人 | 新保 斉 |
代理人 | 新保 斉 |