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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08J |
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管理番号 | 1328830 |
審判番号 | 不服2014-19836 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-10-02 |
確定日 | 2017-06-06 |
事件の表示 | 特願2009-539508「繊維強化複合材料」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月 5日国際公開、WO2008/067531、平成22年 4月15日国内公表、特表2010-511751〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成19年11月30日(パリ条約による優先権主張 2006年11月30日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成25年1月31日付けで拒絶理由が通知され、同年8月5日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲及び明細書が補正され、平成26年5月27日付けで拒絶査定がされたところ、これに対して、同年10月2日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに特許請求の範囲が補正され、平成28年5月10日付けで拒絶理由が通知され、同年11月16日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲及び明細書が補正されたものである。 第2 本願発明 平成28年11月16日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりであると認められる。 「PLLA繊維材料、 前記繊維材料と同じ化学元素組成を有さないマトリックス材料、及び 繊維材料及び/またはマトリックス材料の分解反応を遅らせる、前記マトリックス材料内に分散された分解制御物質 を含む、骨折が治ることを可能にするための骨折固定に使用される繊維強化複合材料であって、 前記マトリックス材料が、生体吸収性であり、 前記複合材料が、少なくとも250MPaの初期引張強度を有し、少なくとも8週間の間、前記初期引張強度の少なくとも75%を保持する ことを特徴とする繊維強化複合材料。」 第3 平成28年5月10日付けの拒絶理由の概要 当審における平成28年5月10日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)は、以下のものを含むものである。 1.本願の請求項1?20に係る発明は、その優先日前に頒布された刊行物である特表平1-501289号公報に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2.本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 第4 当審拒絶理由についての判断 1 理由2(特許法第36条第6項第2号) (1)請求項1には「PLLA繊維材料、前記繊維材料と同じ化学元素組成を有さないマトリックス材料」と記載されている。 本願の明細書には当該「PLLA」についての説明はないが、当該技術分野の技術常識からみて、当該「PLLA」とはL体の乳酸のポリマーのことであり、その化学元素組成はC_(3)H_(6)O_(3)であると認められる。 そうしてみると、請求項1の記載によれば、請求項1に係る発明のマトリックス材料は、PLLA繊維材料の化学元素組成(C_(3)H_(6)O_(3))と「同じ化学元素組成を有さない」ものと認められる。 一方、本願の明細書の段落【0029】には、請求項1の「繊維材料と同じ化学元素組成を有さないマトリックス材料」として、ポリグリコリド(PGA)等の他に、ポリ(L-ラクチド)及びポリ(D,L-ラクチド)も例示されている。当該技術分野の技術常識からみて、当該「ポリ(L-ラクチド)」とはL体のラクチドのポリマーのことであり、また、当該「ポリ(D,L-ラクチド)」とはD体のラクチドとL体のラクチドからなるポリマーのことであり、それらの化学元素組成はいずれもC_(3)H_(6)O_(3)であるから、これらの化合物はPLLA繊維材料の化学元素組成と「同じ化学元素組成を有する」とすべきものである。 そうしてみると、本願の明細書の段落【0029】の記載によれば、請求項1に係る発明のマトリックス材料は、PLLA繊維材料の化学元素組成と「同じ化学元素組成を有する」場合も含むと解される。 したがって、請求項1に係る発明の「繊維材料と同じ化学元素組成を有さないマトリックス材料」について、請求項1の記載から当該技術分野の技術常識を踏まえて理解される内容と、本願の明細書の段落【0029】の記載から理解される内容が整合していないので、請求項1の記載は不明である。また、当該請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?20の記載も不明である。 なお、本願の明細書の段落【0029】には、請求項1の「繊維材料と同じ化学元素組成を有さないマトリックス材料」としてポリグリコリド(PGA)が例示されているところ、当該技術分野の技術常識からみて、当該「ポリグリコリド(PGA)」とはポリグリコール酸のことであって、その化学元素組成はC_(2)H_(2)O_(2)である。 そうしてみると、ポリグリコリド(PGA)はPLLA繊維材料と「同じ化学元素組成を有さない」マトリックス材料であるから、繊維材料がPLLA繊維材料で、且つ、マトリックス材料がPGAである場合(下記第4 2(2)の引用発明の場合)が、請求項1に記載されている「PLLA繊維材料、前記繊維材料と同じ化学元素組成を有さないマトリックス材料」を満足することは、請求項1の記載や本願の明細書の段落【0029】の記載から明確に理解できることを付言する。 (2)ところで、審判請求人は、平成28年11月16日に提出した意見書において、繊維材料がL体の乳酸のポリマーのみからなり、且つ、マトリックス材料がD体の乳酸のポリマーのみからなる場合は、生体に対するそれぞれのポリマーの振る舞いが異なるので、D体の乳酸のポリマーからなるマトリックス材料はL体の乳酸のポリマーからなる繊維材料と「同じ化学元素組成を有さない」と主張している。 しかし、一般的に、化合物が「同じ化学元素組成を有する」か否かは、その化学元素の組成が同じか否かによってのみ決まるものであり、生体に対する振る舞いが異なるか否かによって決まるものではない。 また、一般的に、鏡像異性体とは原子の立体配置が互いに鏡像の関係となっている化合物のことであり、鏡像異性体の関係にある化合物は同じ化学元素組成を有するものであること、例えば、鏡像異性体の関係にあるL体の乳酸とD体の乳酸は、いずれも同じ化学元素組成(C_(3)H_(6)O_(3))を有するものであることを踏まえると、繊維材料がPLLAからなり、且つ、マトリックス材料がPDLAからなる場合、言い換えると、繊維材料がL体の乳酸のポリマーのみからなり、且つ、マトリックス材料がD体の乳酸のポリマーのみからなる場合は、繊維材料とマトリックス材料は「同じ化学元素組成を有する」のであって、請求項1に記載されている「繊維材料と同じ化学元素組成を有さないマトリックス材料」を満足しないと解するのが相当である。 そうしてみると、L体の乳酸のポリマーからなる繊維材料とD体の乳酸のポリマーからなるマトリックス材料は「同じ化学元素組成を有する」ものであり、仮に審判請求人が主張するように生体に対するそれぞれのポリマーの振る舞いが異なるとしても、L体の乳酸のポリマーからなる繊維材料とD体の乳酸のポリマーからなるマトリックス材料が「同じ化学元素組成を有さない」ことになるものではない。 したがって、審判請求人の前記主張は不合理であるし、審判請求人の前記主張に基づくならば、請求項1に記載されている「繊維材料と同じ化学元素組成を有さないマトリックス材料」が、「繊維材料と同じ化学元素組成を有するマトリックス材料」までも包含することになるので、請求項1に記載されている「繊維材料と同じ化学元素組成を有さないマトリックス材料」が射程する範囲が不明となる。また、当該請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?20の記載も不明となる。 2 理由1(特許法第29条第2項) (1)刊行物及び刊行物の記載事項 特表平1-501289号公報(以下、「引用文献」という。) 引用文献には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。 ア「本発明の材料において、手術中及び手術後の所望の期間(少なくとも、安全な治療が要求される期間)、材料の良好な機械的性質(例えば剛性、靱性、強度及び一体性)、そしてまた手術中の試験片の容易で安全な取扱いを驚くべき方式で相互に組み合せている。」(第4頁左上欄第1?5行) イ「本発明の生体複合材の素材成分は吸収可能な熱可塑性又は反応性熱硬化性のポリマー、コポリマー又はポリマー混合物を含有する。 吸収可能なポリマー、コポリマー及びポリマー混合物は高分子量有機物質であり、これは物理化学的加水分解及び/又は酵素活性によって組織条件中で解重合される。モノマー又はオリゴマーに解重合される物質は、細胞の通常の代謝によって、例えば生きている細胞中でのエネルギー発生反応又は蛋白質分子の合成によって生きている組織から除去される。吸収可能なポリマーで製作された外科手術用製品及び装置(移植片)の利益は、生体安定性物質(例えば金属)で製作した移植片がしばしば必要とするような別個の取り出し手術を必要とすることなしで、それらの仕事を実行した後に生きている組織から除去されるという事実である。 第1表は本発明の生体複合材に通用することのできる今日知られているいくらかの重要な吸収可能なポリマーを示している。 第1表 吸収可能ポリマー ポリマー ---------------------------- ポリグリコリド(PGA) グリコリドのコポリマー: グリコリド/L-ラクチドコポリマー(PGA/PLLA) グリコリド/トリメチレンカーボネートコポリマー(PGA/TMC) ポリラクチド(PLA) PLAのステレオコポリマー: ポリ-L-ラクチド(PLLA) ポリ-DL-ラクチド(PDLLA) L-ラクチド/DL-ラクチドコポリマー PLAのコポリマー: ラクチド/テトラメチルグリコリドコポリマー ラクチド/トリメチレンカーボネートコポリマー ラクチド/δ-バレロラクトンコポリマー ラクチド/ε-カブロラクトンコポリマー ポリデプシペプチド PLA/ポリエチレンオキシドコポリマー 非対称に3,6-置換したポリ-1,4-ジオキサン-2,5-ジオン ポリ-β-ヒドロキシブチレート(PHBA) PHBA/β-ヒドロキシバレレートコポリマー(PHBA/HVA) ポリ-β-ヒドロキシプロビオネート(PHPA) ポリ-p-ジオキサノン(PDS) ポリ-δ-バレロラクトン ポリ-ε-カプロラクトン メチルメタクリレート-N-ビニルピロリドンコポリマー ポリエステルアミド 修酸のポリエステル ポリジヒドロビラン ポリアルキル-2-シアノアクリレート ポリウレタン(PU) ポリビニルアルコール(PVA) ポリペプチド ポリ-β-リンゴ酸(PMLA) ポリ-β-アルカン酸」(第4頁左下欄第6行?第5頁左上欄第5行) ウ「本発明の生体複合材においては、少なくとも数週間?数ヶ月に亘り機械的強度を維持し、かつ数ヶ月または数年間で再吸収されるような再吸収性ポリマー、コポリマーまたはポリマー混合物あるいはこれらから構成される構造体を特に良く利用できる。特別な注意を払って、より急速な再吸速度をもつポリマーも使用でき、他方より緩慢な再吸収速度のポリマーを使用しても外科用途における諸欠点を生じない。 本発明の生体複合材における材料成分として、例えばガラス、炭素、酸化アルミニウム、燐酸および他の生体安定性もしくは再吸収性繊維、アラミド、ポリエステル、ポリアミドおよび他の生体安定性ポリマー繊維および/または再吸収性ポリマー繊維、例えばポリラクチド、ポリグリコリド、グリコライド/ラクチドコポリマー、ポリジオキサン、ポリ-β-ヒドロキシブチレート、グリコライド/トリメチレンカーボネートまたはε-カプロラクトン繊維または第1表に与えたポリマーから作られた他の繊維あるいは、例えばキチンポリマー(キトサン)繊維およびある再吸収性ポリマー、コポリマーまたはポリマー混合物と結合した上記の繊維などを用いることができる。 当業者にとって、ポリマーおよび/または繊維に、加工または材料の使用を容易にし、もしくは該材料の特性を改良する種々の添加剤を混合し得ることは自明である。このような添加剤は、例えば着色剤、安定化剤、またはセラミック粉末などである。 本発明の生体複合材のセラミックは多孔質または非多孔質セラミックブロックであり得、これは例えば、燐酸カルシウム、フルオロアパタイト、炭酸カルシウム、燐酸マグネシウムカルシウム、バイオガラス、ガラスセラミックまたはセラミック混合物などの側面1に与えられたセラミックを焼結するこよにより作製されている。」(第5頁左上欄第23行?右上欄第23行) エ「第1a図は、斜視図として、板状の生体複合材試料を示すものであり、該試料は板状のバイオセラミック成分(1)およびポリマー成分(2)から形成され、該ポリマー成分(2)は繊維(L)で構成される繊維で強化され、かつ該ポリマー成分は該バイオセラミック成分の表面上に固定されている。 これに関連して、他の強化要素構造、例えば平行な繊維または該バイオセラミックの表面上にランダムに配向されている繊維(フェルト、不織ガーゼ、短繊維など)およびフィルム-繊維なども適用できる。この強化は、該強化要素が該バイオセラミック成分の表面上にあるように利用できる。その後、この強化要素は、加熱、加圧、溶媒、照射または接触反応に基く技術を利用して、モノマー、オリゴマー、ポリマーもしくはこれらの混合物で含浸できる。この強化要素は該ポリマー成分と同時に、上記バイオセラミック成分の表面上に配置できる。結局、いずれの場合においても、生体複合材が得られ、該複合材には該材料成分(2)の繊維強化により予想外に高い強度が付与される。」(第6頁左上欄第21行?右上欄第9行) オ「第1?11図の態様において、非多孔質または多孔質の、生物的に安定もしくは再吸収性バイオセラミック成分および非多孔質または多孔質のポリマー、生体安定性および/または再吸収性繊維、フィルム・繊維などの強化材もしくはこれらから構成された他の強化要素または構造体を用いることが可能である。 生体複合体のバイオセラミック成分と強化材成分との両者が再吸収性材料で作られている場合には、骨折部の固定、骨切り術、関節固定術または関節損傷に、該複合体を用いることが有利である。このような場合において、全生体複合体は、該複合体の固定作用が骨折部の治癒、骨切り、関節固定または対応する処置後に最早不要となった後に、新たな骨または他の生組織により置換されかつ再吸収される。骨欠陥部の補充、骨形状の変更、骨の強化などの再建外科において、少なくともバイオセラミック成分が生体安定性でありかつ組織適合性であり、成長骨組織細胞を固定し得る生体複合材を用いることが有利である。 第1?11図に示した以外の、バイオセラミック成分と強化材成分との組合せも可能でありかつ外科用途で有効であることは当業者には明らかである。しかしながら、本発明のすべての生体複合材に共通の特徴は、バイオセラミック成分および強化材成分が少なくとも一つの共通の境界面をもち、これを介して該成分の特性が伝達されて高強度、強靱かつ安全な生体複合材を与えることである。 以下の非限定的実施例により、本発明を説明する。 実施例1 第1図に示した生体複合材を、非多孔質(S)(有意な開放孔をもたない)または多孔質(P)(開放多孔率20?70%)バイオセラミック板(寸法:30×10×4mm)および平行な繊維で強化した生体安定性または再吸収性ポリマーから、以下の方法によって製造した。 ・・・ (2) 強化繊維をBPの表面上に置き、ポリマーフィルム(厚さ約2mm)を該強化繊維上に置き、該フィルムが溶融し、該強化繊維を湿潤させかつBPの表面に浸透するように、加熱板によって上方から該フィルムを加圧した。かくして、この強化材成分(ポリマーおよび強化材)の厚さは1mmであり、かつ繊維の重量分率は約40%であった。この生体複合材を加圧下で冷却した。」(第8頁左上欄第6行?右上欄第21行) カ「実施例2 実施例1の製法(2)を用いて、第1a図に模式的に示した生体複合材を作製した。使用した材料は非多孔質(S)および多孔質(P)(開放孔多孔率=20?70%)のバイオセラミック板(寸法=30×10×4mm)および再吸収性ポリマー複合体であった。第4表はバイオセラミック成分としてヒドロキシアパタイトを用いた場合の生体複合材のいくつかの機械強度測定値を示すものである。生体複合材の相対的衝撃強さおよび曲げ強さの値は、生体複合材の強度値を純ヒドロキシアパタイトバイオセラミックの対応する強度値で割ることにより得た。 数種の多孔質バイオセラミックス(多孔率40?70%)および第4表の繊維強化材とポリマーを用いて、第4表に示したものに対応する生体複合体を作製した。以下のようなバイオセラミックスを用いた。トリカルシウムホスフェート、ジカルシウムホスフェート、マグネシウム/カルシウムホスフェート、フルオロアパタイト、アルミニウムオキサイドおよび炭酸カルシウム。これら生体複合材の相対的衝撃強さは85?220の範囲で変化し、かつ相対的曲げ強さは1.4?3.8の範囲で変化した。対応する複合材をポリマー成分の繊維強化なしに作製した場合、強度は2?12(相対的衝撃強さ)の範囲および1.0?1.6(相対的曲げ強さ)の範囲で変化した。」(第9頁左下欄第11行?第10頁左上欄第11行) (2)引用文献に記載された発明 引用文献には、(1)オ及びカより、「骨折部の固定に用いることが有利であり、強化繊維をバイオセラミック片の表面上に置き、ポリマーフィルムを該強化繊維上に置き、該フィルムが溶融し、該強化繊維を湿潤させかつバイオセラミック片の表面に浸透するように、加熱板によって上方から該フィルムを加圧したものであり、該フィルムのポリマー成分としてPGA(ポリグリコリド)及び該強化繊維のポリマー成分としてPLLAを用いた生体複合材」(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 (3)本願発明と引用発明との対比・判断 引用発明のポリマー成分がPLLAである「強化繊維」は、本願発明の「PLLA繊維材料」に相当すると認められる。 また、引用発明の「PGA(ポリグリコリド)」は、PLLA繊維材料と同じ化学元素組成を有さないものであるから、本願発明の「繊維材料と同じ化学元素組成を有さないマトリックス材料」に相当すると認められる。 さらに、引用発明の「PGA(ポリグリコリド)」は、(1)イより、生体吸収性であると認められる。 加えて、引用発明の「骨折部の固定に用いることが有利であ」る「生体複合材」は、本願発明の「骨折が治ることを可能にするための骨折固定に使用される繊維強化複合材料」に相当すると認められる。 そうしてみると、本願発明と引用発明とは、 「PLLA繊維材料、及び、前記繊維材料と同じ化学元素組成を有さないマトリックス材料を含み、前記マトリックス材料が、生体吸収性であり、骨折が治ることを可能にするための骨折固定に使用される繊維強化複合材料。」の点で一致し、以下の点で一応相違する。 (相違点1) 本願発明では、繊維材料及び/またはマトリックス材料の分解反応を遅らせる、マトリックス材料内に分散された分解制御物質を含むのに対して、引用発明では、そのような特定がされていない点。 (相違点2) 本願発明では、複合材料が、少なくとも250MPaの初期引張強度を有するのに対して、引用発明では、そのような特定がされていない点。 (相違点3) 本願発明では、複合材料が、少なくとも8週間の間、前記初期引張強度の少なくとも75%を保持するのに対して、引用発明では、そのような特定がされていない点。 上記各相違点について検討する。 (相違点1) ア 本願の明細書の段落【0025】には、本願発明の「分解制御物質」として、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸二カルシウム等が列挙されている。 そして、(1)ウ及びカのように、引用文献には、生体複合材のバイオセラミックとして、燐酸カルシウムや炭酸カルシウムやトリカルシウムホスフェートやジカルシウムホスフェートを含むものを用いることも記載されている。 そうしてみると、引用発明において、本願発明の「分解制御物質」に相当するものをバイオセラミック成分に含ませることは、当業者が容易になし得たことであるといえる。 イ あるいは、(1)ウのように、引用文献には、生体複合材において、数週間?数ヶ月に亘り機械的強度を維持し、かつ数ヶ月又は数年間で再吸収されるような再吸収性ポリマー、コポリマーまたはポリマー混合物あるいはこれらから構成される構造体を特に良く利用できることが記載され、また、材料の特性を改良する安定化剤等の添加剤を混合し得ることも記載されている。 そして、骨折固定等に使用される生体吸収性の複合材料において、繊維材料及び/またはマトリックス材料の分解反応を遅らせるために分解制御物質をマトリックス材料内に分散させることは周知である(例えば、国際公開第2006/050119号:16頁4行、Example 1、Figure 1、特開平10-298435号公報:段落【0002】、【0085】、【0101】、国際公開第2005/061617号:5頁9?17行、7頁16行、8頁25行?9頁8行、Example 11、国際公開第2006/020922号:9頁10行?11頁6行参照)。 そうしてみると、引用発明において、生体複合材が長期間に亘って再吸収されるようにその特性を改良するために、繊維材料及び/またはマトリックス材料の分解反応を遅らせる分解制御物質をマトリックス材料内に分散させることは、当業者が容易になし得たことでもある。 ウ また、相違点1に関する発明特定事項により奏される効果は、当業者が予測し得ない格別顕著なものでもない。 (相違点2) ア 本願の請求項1の記載からみて、本願発明の繊維強化複合材料において、その初期引張強度に影響するのは、PLLA繊維材料及び前記繊維材料と同じ化学元素組成を有さないマトリックス材料であると認められるところ、引用発明の生体複合材も、本願発明の繊維強化複合材料と同様にPLLA繊維材料及び前記繊維材料と同じ化学元素組成を有さないマトリックス材料を有しているのであるから、引用発明の生体複合材は、本願発明の繊維強化複合材料と同等の初期引張強度を有すると認められる。 また、(1)エ及びオのように、引用文献には、生体複合材には強化繊維により高い強度が付与されることや、本発明の生体複合材の特徴として高強度、強靱かつ安全な生体複合材を与えることが記載されていることからも、引用発明の生体複合材は、本願発明の繊維強化複合材料と同等の初期引張強度を有すると認められる。 よって、本願発明と引用発明は、この点では実質的に相違していない。 イ 仮にそうでないとしても、骨折固定に使用される生体吸収性の複合材料において、初期引張強度を大きくすることは周知の課題である(例えば、特開平3-103429号公報:特許請求の範囲、4頁右上欄9行?右下欄13行、特開2002-78790号公報:【特許請求の範囲】、段落【0007】、【0021】参照)。 また、骨折固定等に使用され、且つ、PLLA繊維とそれと同じ組成を有さないマトリックス材料を含む生体吸収性の複合材料において、引張強度が250MPa以上であるものは周知でもある(例えば、特開平11-192298号公報:段落【0051】のPDLLAで被覆したPLLA繊維の束を参照、特表平1-501847号公報:第6頁左下欄第15?18行参照)。 そうしてみると、骨折固定に使用される引用発明の生体複合材において、初期引張強度を本願発明の程度に設定することは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、相違点2に関する発明特定事項により奏される効果は、当業者が予測し得ない格別顕著なものでもない。 (相違点3) ア (1)ア及びウのように、引用文献には、手術後の所望の期間(少なくとも、安全な治療が要求される期間)、強度等の材料の良好な機械的性質を備えていることや、少なくとも数週間?数ヶ月に亘り機械的強度を維持することが記載されている。 また、骨折固定に使用される生体吸収性の複合材料において、少なくとも8週間の間、初期引張強度の少なくとも75%を保持することは周知の課題である(例えば、特開平3-103429号公報:特許請求の範囲、4頁右上欄9行?右下欄13行、特開2002-78790号公報:【特許請求の範囲】、段落【0007】、【0021】参照)。 そうしてみると、骨折固定に使用されるものであって、手術後の所望の期間(少なくとも、安全な治療が要求される期間)、強度等の材料の良好な機械的性質を備え、少なくとも数週間?数ヶ月に亘り機械的強度を維持することを意図する引用発明の生体複合材において、少なくとも8週間の間、初期引張強度の少なくとも75%以上に設定することは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、相違点3に関する発明特定事項により奏される効果は、当業者が予測し得ない格別顕著なものでもない。 イ なお、上記相違点1について検討したように、引用発明において、繊維材料及び/またはマトリックス材料の分解反応を遅らせる分解制御物質をマトリックス材料内に分散させることは、当業者が容易になし得たことであるところ、これにより、繊維材料及び/またはマトリックス材料の分解反応が遅くなることで、引用発明の生体複合材が、少なくとも8週間の間、初期引張強度の少なくとも75%を保持することになる蓋然性が高いとも認められるし、相違点3に関する発明特定事項により奏される効果が、当業者が容易に予測し得たものにすぎないとも認められる。 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)平成28年11月16日に提出された意見書における審判請求人の主張 ア 審判請求人は、平成28年11月16日に提出された意見書において、炭酸カルシウムのようなバッファー材料が、ポリマーマトリックスと強化用繊維との間の界面を不利に干渉することが予測される(本願明細書の段落[0006])ことから、たとえ、当業者が分解制御物質をマトリックス材料内に分散させることが可能であっても、そのように分解制御物質をマトリックス材料内に分散させるという動機付けを、当業者が持つことがない旨主張している。 確かに、本願の明細書の段落【0006】には「炭酸カルシウムの有益な効果を得るためには、組成の約30重量%の高いレベルにあることが必要とされる。繊維ポリマー複合材料が、少なくとも50容量%の繊維を含むため、炭酸カルシウム-含有マトリックスが、ポリマーマトリックスと強化用繊維との間の界面を不利に干渉することが予測される。」と記載されている。 しかしながら、本願の請求項1では、繊維強化複合材料が分解制御物質を組成の約30重量%の高いレベルで含有することは特定されていないし、少なくとも50容量%の繊維を含むことも特定されていないところ、引用発明の生体複合材は、必ずしも少なくとも50容量%の繊維を含むものではないし、組成の約30重量%の高いレベルにある炭酸カルシウムを加えるものでもないのであるから、引用発明において分解制御物質を分散させる際に、炭酸カルシウムのようなバッファー材料が、ポリマーマトリックスと強化用繊維との間の界面を不利に干渉することが予測されるとは認められない。 よって、審判請求人の前記主張は失当である。 イ 審判請求人は、平成28年11月16日に提出された意見書において、特開平3-103429号公報においては、45N/mm^(2)の初期引張強度しか得られておらず、この値は本願発明の複合材料の初期引張強度の5分の1を下回っており、特開平3-103429号公報の技術事項は、本願請求項1に係る発明とは関連性がない旨主張している。 しかしながら、初期引張強度に関する周知文献として提示した特開平3-103429号公報及び特開2002-78790号公報には、初期引張強度としてそれぞれ、45N/mm^(2)以上、60MPa以上が開示されているのであるから、本願発明の初期引張強度と重複するものであり、関連性がないとはいえない。 よって、審判請求人の前記主張は失当である。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 したがって、本願は拒絶すべきものである。 加えて、本願発明、すなわち、平成28年11月16日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について更に検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-01-05 |
結審通知日 | 2017-01-10 |
審決日 | 2017-01-24 |
出願番号 | 特願2009-539508(P2009-539508) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(C08J)
P 1 8・ 121- WZ (C08J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 増田 亮子 |
特許庁審判長 |
小柳 健悟 |
特許庁審判官 |
前田 寛之 大島 祥吾 |
発明の名称 | 繊維強化複合材料 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 実広 信哉 |