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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02G
管理番号 1328843
審判番号 不服2016-6426  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-28 
確定日 2017-06-27 
事件の表示 特願2012-152776「建物の改修方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月30日出願公開、特開2014- 17940、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年7月6日の出願であって、平成27年11月12日付けで拒絶理由通知がなされ、同年12月22日付けで手続補正がされ、平成28年3月8日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年4月28日付けで拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、当審において同年11月1日付けで拒絶理由通知がされ、同年12月8日付けで手続補正がされ、平成29年2月1日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、同年4月3日付けで手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成28年3月8日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-8に係る発明は、以下の引用文献A-Cに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2005-304187号公報
B.特開2007-209170号公報
C.特開平11-196525号公報


第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由(平成29年2月1日付け拒絶理由通知)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-8に係る発明は、以下の引用文献1-4に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2011-234561号公報(当審において新たに引用した文献)
2.特開2007-236023号公報(当審において新たに引用した文献)
3.特開2007-209170号公報(拒絶査定時の引用文献B)
4.特開平11-196525号公報(拒絶査定時の引用文献C)


第4 本願発明
本願請求項1-9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明9」という。)は、平成29年4月3日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-9は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
既設建物内に非常用空間を形成するための建物の改修方法であって、
分散型発電装置及び蓄電装置の両方が備わるように不足分があれば設置する工程と、
前記既設建物内に非常時に住人が集まって非常時の限られた電力で生活するために電力供給を集中させる非常用空間としてリビングを設定する工程と、
前記分散型発電装置及び蓄電装置を直接又は間接的に前記非常用空間の電力線への接続に前記蓄電装置側で自動的に切り替え可能にする工程とを備えたことを特徴とする建物の改修方法。
【請求項2】
既設建物内に非常用空間を形成するための建物の改修方法であって、
分散型発電装置及び蓄電装置の両方が備わるように不足分があれば設置する工程と、
前記既設建物内に非常時に住人が集まって非常時の限られた電力で生活するために電力供給を集中させる非常用空間としてキッチンを設定する工程と、
前記分散型発電装置及び蓄電装置を直接又は間接的に前記非常用空間の電力線への接続に前記蓄電装置側で自動的に切り替え可能にする工程とを備えたことを特徴とする建物の改修方法。
【請求項3】
前記分散型発電装置として太陽光発電装置を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の建物の改修方法。
【請求項4】
前記非常時に、前記太陽光発電装置で発電された電力が、前記太陽光発電装置から前記蓄電装置を経由するルートを辿って分電盤に向けて流れるように設定する工程を備えたことを特徴とする請求項3に記載の建物の改修方法。
【請求項5】
前記蓄電装置用の分電盤の増設工事を行う工程を備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の建物の改修方法。
【請求項6】
前記非常用空間に冷蔵庫が設置されていない場合に、前記分散型発電装置及び蓄電装置に直接又は間接的に接続される冷蔵庫用コンセントを設ける工程を備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の建物の改修方法。
【請求項7】
前記非常用空間以外にトイレ及び廊下の照明を、前記分散型発電装置及び蓄電装置に直接又は間接的に接続させる工程を備えたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の建物の改修方法。
【請求項8】
前記既設建物には建物内に配線される電力線のジョイントボックスが複数設けられ、前記ジョイントボックスと分電盤とがそれぞれ接続されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の建物の改修方法。
【請求項9】
前記既設建物はユニット住宅であって、ユニット住宅を構成する建物ユニット毎にそこに配線される電力線のジョイントボックスが少なくとも1箇所設けられ、前記ジョイントボックスと分電盤とがそれぞれ接続されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の建物の改修方法。」


第5 引用文献・引用発明等
(1)引用文献1について
平成29年2月1日付けの当審で通知した拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに以下の記載がある。(下線部は当審において付加した。以下、同様。)

ア.「【請求項8】
給電系統の停電を検知するステップと、
前記給電系統が停電した際に、給電系統を遮断するステップと、
停電を通知するステップと、
前記給電系統の給電に代わって分散型電源から受電し、前記分散型電源から負荷側に給電するステップと、
を含むことを特徴とする分電方法。」(2頁40-46行)

イ.「【技術分野】
【0001】
本発明は、商用電源等の給電系統の停電時における分電に関し、例えば、停電時、ハイブリッド車等の給電機能を活用するインテリジェント分電盤、分電装置、停電対策システム及び分電方法に関する。」(2頁48行-3頁2行)

ウ.「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、商用電源等の給電系統が停電した場合、電気自動車やハイブリッド車等に搭載された蓄電池や発電機能を利用した補助的な給電の利用が考えられる。このような補助的な給電を給電系統に直結した場合、給電系統が復旧した際に補助給電を継続すると補助給電が直接給電系統に流れ込むことにより、給電系統の安定的な給電に対して大きな影響を与えることになる。このため、従来の分電盤では、給電系統の停電時、蓄電池、太陽電池、燃料電池等の分散型電源から給電供給への切替えを行うことが出来なかった。
【0006】
従来のインテリジェントな分電盤では、給電系統からの電力で稼動する構成であり、系統の停電時には制御機能や通信機能が停止する不都合があった。
【0007】
また、既存の分電盤を設置している場合、従来のインテリジェントな分電盤を導入するには、分電盤の交換が必要であるため、導入コストが掛かる。
【0008】
斯かる要求や課題について、特許文献1や特許文献2にはその開示や示唆はなく、それを解決する構成等についての開示や示唆はない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、給電系統への影響を回避できるとともに、停電時に分散型電源から負荷への給電を可能にし、給電系統の給電復旧時には給電系統からの給電に安全に切り替えることにある。」(3頁19-39行)

エ.「【0024】
〔第1の実施の形態〕
【0025】
第1の実施の形態は、停電対策システムであって、本発明のインテリジェント分電盤を備えた構成例である。
【0026】
本発明の第1の実施の形態について、図1を参照する。図1は停電対策システムの一例を示している。
【0027】
この停電対策システム2は、本発明の停電対策システムの一例であって、家屋4の内部に既存の住宅用分電盤6を備え、家屋4の外壁に拡張分電盤8を備えている。拡張分電盤8は、本発明のインテリジェント分電盤の一例である。この場合、電力系統10は給電系統の一例であるが、自家発電等の給電系統を用いてもよい。
【0028】
分電盤6は、電力系統10からの受電手段の一例であって、電力系統10から受電し、負荷12のうち一般負荷12Aへの給電、拡張分電盤8への給電、充放電コンセント14への給電を行う。一般負荷12Aは、洗濯機、テレビ等、家電製品が含まれる。充放電コンセント14は、電力系統10からのハイブリッド車16(以下「HEV16」と称する。)への充電出力、HEV16からの放電出力を受ける手段の一例である。
【0029】
拡張分電盤8は、電力系統10の停電時、HEV16の接続に基づき、蓄電池18の放電による電力を充放電コンセント14から受電し、負荷12のうち特定負荷12Bに給電する。そこで、この拡張分電盤8には、電力系統10の停電検出機能と、停電検出時、通信部20により停電情報をHEV16等に通知する機能とを備えている。特定負荷12Bには、電灯、冷蔵庫、エアコン等、停電を回避したい負荷が含まれる。
【0030】
HEV16は、分散型電源の一例であって、既述の蓄電池18、通信部22とともに、電子制御ユニット(ECU)24、コンバータ(DC→AC、AC→DC)26、インバータ28、モータ30等を備えている。通信部22は既述の通信部20と無線又は有線により接続され、電力系統10の停電時、通信部20からの停電通知を受け、ECU24に電力系統10の停電を通知する。ECU24は、インバータ28、モータ30等のHEV16の制御の他、停電時、コンバータ26を動作させる。コンバータ26には充放電ケーブル31及び充放電プラグ32が接続され、この充放電プラグ32が充放電コンセント14に接続される。従って、通常時には、充放電コンセント14から充放電プラグ32を介して電力系統10からの電力が蓄電池18に給電されるが、電力系統10の停電時には、蓄電池18の放電によるコンバータ26の出力が充放電プラグ32から充放電コンセント14に給電される。
【0031】
コンバータ26は、電力系統10からの交流ACを直流DCに変換して蓄電池18を充電する機能と、蓄電池18の放電出力である直流DCを交流ACに変換して出力する機能とを備えている。このような機能は、ECU24によって切り替えられる。
【0032】
なお、蓄電池18の放電出力はインバータ28を介してモータ30に加えられ、走行出力に変換される。
【0033】
斯かる構成では、通常時、電力系統10から家屋4内の負荷12の一般負荷12Aに給電するともに、拡張給電盤8に給電する。この場合、分電盤6から充放電コンセント14に給電されるので、充放電プラグ32を接続すれば、HEV16の蓄電池18が電力系統10からの電力によって充電される。
【0034】
また、停電時には、拡張分電盤8に対する電力系統10からの給電が停止されるので、その停電を通信部20から通知し、この通知により通信部22はHEV16のECU24に停電を通知する。ECU24はコンバータ26を動作させ、蓄電池18を放電状態に切り替える。蓄電池18の放電はコンバータ26によって交流出力に変換され、この放流出力は充放電プラグ32及び充放電コンセント14を介して拡張分電盤8に供給される。蓄電池18の放電により、負荷12の特定負荷12Bに対する給電が開始される。停電時の不都合が解消される。
【0035】
そして、電力系統10の復旧時には、負荷12の一般負荷12Aには電力系統10からの給電が開始され、通信部20からの復旧通知によりHEV16からの給電が解除される。このとき、HEV16の蓄電池18は充電が開始される。」(5頁14行-6頁24行)

オ.「【0094】
〔上記実施の形態の特徴事項及び他の実施の形態〕
【0095】
(1) 停電時に電力系統10を切り離してから分散型電源を接続することができ、分散型電源による給電とともに、分散型電源を用いることによる電力系統10への影響を回避できる。上記実施の形態に記載した通り、第2の実施の形態では、分岐ブレーカ10を介在し、第3及び第4の実施の形態では、分岐ブレーカ40に加え、電磁開閉器42、52(図4、図6)を介在したことにより、電力系統10に対して分散型電源が直結されることがなく、電力系統10に対する安全性を維持することができる。
【0096】
(2) 停電発生や復旧を拡張分電盤8からHEV16に通知し、電力系統10とHEV16との接続、その接続遮断の信頼性を高めている。しかも、通信部20には電力系統10と完全に独立した電池64を電源に用いているので、通信部20の動作が電力系統10と独立させることができ、動作の信頼性を確保している。この電池64が消耗したことによる動作不良が生じた場合でも、第3及び第4の実施の形態ではHEV16が遮断されたあとで電力系統10が復帰するため、不都合を生じることはない。
【0097】
(3) 拡張分電盤8は既設の住宅用分電盤6と分離独立しているので、分散型電源を使用する場合には、拡張分電盤8の増設のみで停電対策システム2(図1)を実現することができる。
【0098】
(4) 上記実施の形態では、家屋4に拡張分電盤8を常設する形態で説明したが、この拡張分電盤8を家屋4に着脱可能な分電装置として構成し、必要に応じて住宅用分電盤6に着脱し、停電時、特定負荷12Bに給電する構成としてもよい。」(11頁21-44行)

(ア)上記ア.、上記イ.の記載によれば、引用文献1には、停電時の分電方法が記載されている。
また、上記エ.の段落【0029】には、拡張分電盤8によって、停電時に給電を行うものであり、さらに、上記エ.の段落【0027】、オ.の段落【0097】の記載によれば、既存の分電盤6を備える家屋4に対して拡張分電盤8を増設するものである。
してみれば、引用文献1には、既存の分電盤6を備える家屋4に対して停電時に給電を行うために拡張分電盤8を増設する分電方法が記載されているといえる。

(イ)上記エ.の段落【0028】の記載によれば、分電盤6は、電力系統10から受電し、負荷12のうち一般負荷12A、拡張分電盤8への給電を行うものである。

(ウ)上記ア.、上記エ.の段落【0029】の記載によれば、拡張分電盤8は、電力系統10の停電検出機能と、停電検出時、通信部20により分散型電源に通知する機能とを備え、電力系統10の停電時、分散型電源から受電し、負荷12のうち特定負荷12Bに給電するものである。

(エ)上記エ.の段落【0030】の記載によれば、HEV16は、分散型電源の一例であり、HEV16は、電力系統10の停電時、通信部20からの停電通知を受ける通信部22と蓄電池18を有すること、また、上記ウ.の段落【0005】によれば、分散型電源として、蓄電池、太陽電池、燃料電池があることが記載されており、そして、引用文献1のHEV16の蓄電池18の代わりに、太陽電池、燃料電池が用いられなくないことは明らかである。
してみると、引用文献1には、分散型電源は、電力系統10の停電時、通信部20からの停電通知を受ける通信部22を有し、蓄電池、太陽電池、燃料電池が用いられることが記載されているといえる。

(オ)上記エ.の段落【0029】の記載によれば、特定負荷12Bには、電灯、冷蔵庫、エアコン等、停電を回避したい負荷が含まれるものである。

(カ)上記ア、上記エ.の段落【0034】によれば、拡張分電盤8は、停電を分散型電源に通知し、前記電力系統10の給電に代わって分散型電源から受電し、前記分散型電源から特定負荷12B側に給電することが記載されているといえる。


以上総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

「既存の分電盤6を備える家屋4に対して停電時に給電を行うために拡張分電盤8を増設する分電方法であって、
前記分電盤6は、電力系統10から受電し、負荷12のうち一般負荷12A、拡張分電盤8への給電を行い、
前記拡張分電盤8は、前記電力系統10の停電検出機能と、停電検出時、通信部20により分散型電源に通知する機能とを備え、電力系統10の停電時、前記分散型電源から受電し、負荷12のうち特定負荷12Bに給電を行い、
前記分散型電源は、前記電力系統10の停電時、前記通信部20からの停電通知を受ける通信部22を有し、蓄電池、太陽電池、燃料電池が用いられ、
前記特定負荷12Bには、電灯、冷蔵庫、エアコン等、停電を回避したい負荷が含まれるものであって、
前記拡張分電盤8は、停電を前記分散型電源に通知し、前記電力系統10の給電に代わって前記分散型電源から受電し、前記分散型電源から特定負荷12B側に給電する、
分電方法。」

(2)引用文献2について
平成29年2月1日付けの当審で通知した拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに以下の記載がある。

ア.「【0009】
商用電力の供給停止時(停電時)に給電を要する部屋をあらかじめ指定しておき、その部屋に対応する系統を対象に電源装置から給電を行わせるようにすると良い。例えば、住宅においては、停電時にリビング、ダイニング、キッチン、トイレなど、住居者が共用する部屋や共有スペースを対象にして給電を行わせると良い。」(4頁20-24行)

イ.「【0025】
ここで、動力源であるエンジン及びモータと、オルタネータと、バッテリとを備えたハイブリッドタイプの車両を電源装置として用いることが考えられる。この場合、建物側への給電時においてバッテリの電気残量が多い場合には該バッテリに蓄えられた電力を建物側に供給させ、バッテリの電気残量が少ない場合にはエンジンを始動させてオルタネータにより発生する電力を建物側に供給させると良い。上記のように車両のエネルギ管理が行われることにより、長期にわたって車両から建物側への給電を好適に行わせることができる。」(6頁2-9行)

上記引用文献2の記載事項、図面、及び、この分野の技術常識を考慮すると、引用文献2には、次の技術事項(以下、「引用文献2記載の技術事項」という。)が開示されていると認められる。

「停電時には、リビング、ダイニング、キッチン、トイレなど、住居者が共用する部屋や共有スペースを対象にして給電を行わせると良いこと。」

(3)引用文献3について
平成29年2月1日付けの当審で通知した拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに以下の記載がある。

ア.「【0024】
各配線ユニット10A,10Bの電源供給線12は、分電盤1に設けられた開閉器2(例えば、ノーヒューズブレーカ)にそれぞれ好ましくは直接接続される。なおこの間を別のジョイントボックス(図示せず)を介して間接的に接続してもよい。
【0025】
節電器具用枝線14は、この例では第1配線ユニット10A用に1系統、第2配線ユニット10B用に3系統設けられ、それぞれ外出時に切断する節電器具3に配線するために必要な長さに設定されている。この例では、節電器具3はすべて照明器具である。
【0026】
常用器具用枝線16は、この例では第1配線ユニット10A用に2系統、第2配線ユニット10B用に4系統設けられ、それぞれ外出時に切断しない常用器具4に配線するために必要な長さに設定されている。この例では、常用器具4は例えばコンセントである。
【0027】
玄関スイッチ用枝線18は、各配線ユニット10A,10Bにそれぞれ1系統設けられ、それぞれ住宅の玄関部に設けられた玄関スイッチ22に接続される。
【0028】
ジョイントボックス20は、各配線ユニット10A,10Bにそれぞれ1つ設けられる。このジョイントボックス20は、その内部で電源供給線12と常用器具用枝線16を常時接続している。またこのジョイントボックス20は、その内部で、電源供給線12と節電器具用枝線16を玄関部に設けられた玄関スイッチ22の接点22aを介してON-OFF可能に接続している。
なお、ジョイントボックス20は、結線後に接続部を樹脂等で固めたいわゆるモールドジョイントボックスであるのがよい。」(5頁33行-6頁5行)

上記引用文献3の記載事項、図面、及び、この分野の技術常識を考慮すると、引用文献3には、次の技術事項(以下、「引用文献3記載の技術事項」という。)が開示されていると認められる。

「ジョイントボックスが各配線ユニットにそれぞれ設けられ、分電盤に接続されること。」

(4)引用文献4について
平成29年2月1日付けの当審で通知した拒絶の理由に引用された引用文献4には、図面とともに以下の記載がある。

ア.「【0014】これらの図に示されるように、「建物ユニット」としての各居室用ユニット10の適宜位置にはコンセント14、スイッチ16、照明器具18等の負荷が設置されており、これらの負荷からは負荷側配線20が引き出されている。また、特定の居室用ユニット10の壁面上部には分電盤22が設置されており、この分電盤22からは電源側配線24が引き出されている。「ユニット建物」としてのユニット住宅12は、これらの直方体形状の居室用ユニット10を妻方向及び桁方向に隣接配置して相互に連結することにより構成されている。」(3頁3欄)

イ.「【0031】作業者は、下向き作業にて、右側の居室用ユニット10及び左側の居室用ユニット10から間隙部46内へ既にそれぞれ導かれている一階部分の負荷側配線20並びに電源側配線24を、ジョイントボックス54に接続する。なお、このとき、各居室用ユニット10の負荷側配線20並びに電源側配線24を保守点検時に識別し易い程度に分類して束ね、天井大梁42の上フランジの小孔を通して結び付けたばん線56で吊っておく。このようにすれば、負荷側配線20の重みで、天井板44が撓んだりするのを防止することができる。」(4頁5欄)

上記引用文献4の記載事項、図面、及び、この分野の技術常識を考慮すると、引用文献4には、次の技術事項(以下、「引用文献4記載の技術事項」という。)が開示されていると認められる。

「ユニット住宅を構成する各居室ユニット毎にジョイントボックスが設けられ分電盤に接続されること。」


第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対 比
本願発明1と引用発明とを対比すると次のことがいえる。

a.引用発明の「分電方法」は、「既存の分電盤6を備える家屋4に対して」「拡張分電盤8を増設する」ものであるから、本願発明1と同様の建物を改修する方法を含むものと認められる。
また、引用発明の「停電時」は、本願発明1の「非常時」に相当するといえる。
そして、引用発明において「停電時」にのみ「特定負荷12B」に給電をおこなうのは、停電時の電力が限られているために電力供給の集中を行なうためであることは明らかであり、さらに、引用発明の「特定負荷12B」は「停電を回避したい負荷」であり、該「停電を回避したい負荷」が生活に必要な負荷であることも明らかであり、当然、停電時には生活に必要な負荷である「停電を回避したい負荷」の周りに住人は集まって生活するものと認められる。
してみれば、引用発明の「特定負荷12B」と、本願発明1の「既設建物内に非常時に住人が集まって非常時の限られた電力で生活するために電力供給を集中させる非常用空間」は、「既設建物内に非常時に住人が集まって非常時の限られた電力で生活するために電力供給を集中させる非常時電力の集中先」の点では共通する。
そして、引用発明の「分電方法」と、本願発明1の「既設建物内に非常用空間を形成するための建物の改修方法」とは、「既設建物内に非常時電力の集中先を形成するための建物を改修する方法」の点では共通する。

b.引用発明において「分散型電源」は、少なくとも「拡張分電盤8を増設する」時に設けられるものと認められ、さらに、引用発明の「分散型電源」のうち「太陽電池、燃料電池」は、本願発明1の「分散型発電装置」に相当し、引用発明の「分散型電源」のうち「蓄電池」は、本願発明1の「蓄電装置」に相当する。
したがって、引用発明の「分散型電源」が設けられることと、本願発明1の「分散型発電装置及び蓄電装置の両方が備わるように不足分があれば設置する工程」とは、「分散型電源が備わるように設置する工程」の点では共通する。

c.引用発明においては「特定負荷12B」として、「拡張分電盤8を増設する」際に「電灯、冷蔵庫、エアコン等、停電を回避したい負荷」の設定を行うものと認められ、引用発明の「特定負荷12B」の該設定と、本願発明1の「既設建物内に非常時に住人が集まって非常時の限られた電力で生活するために電力供給を集中させる非常用空間としてリビングを設定する工程」とは、「既設建物内に非常時に住人が集まって非常時の限られた電力で生活するために電力供給を集中させる非常時電力の集中先を設定する工程」の点では共通する。

d.引用発明の「前記拡張分電盤8は、前記電力系統10の給電に代わって前記分散型電源から受電し、前記分散型電源から特定負荷12B側に給電する」構成と、本願発明1の「前記分散型発電装置及び蓄電装置を直接又は間接的に前記非常用空間の電力線への接続に前記蓄電装置側で自動的に切り替え可能にする工程」とは、「前記分散型電源を直接又は間接的に前記非常時電力の集中先の電力線への接続に自動的に切り替え可能にする工程」の点では共通する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「既設建物内に非常時電力の集中先を形成するための建物を改修する方法であって、
分散型電源が備わるように設置する工程と、
前記既設建物内に非常時に住人が集まって非常時の限られた電力で生活するために電力供給を集中させる非常時電力の集中先を設定する工程と、
前記分散型電源を直接又は間接的に前記非常時電力の集中先の電力線への接続に自動的に切り替え可能にする工程とを備えた建物の改修方法。」

(相違点1)
上記「設置する工程」が、本願発明では、「分散型発電装置及び蓄電装置の両方が備わるように不足分があれば」設置するのに対し、引用発明では、「前記分散型発電装置及び蓄電装置」のいずれかを設置する点。

(相違点2)
上記「非常時電力の集中先」が、本願発明では「非常用空間」であって、当該「非常用空間」として「リビングを設定する」ものであり、「非常用空間を形成するための建物の改修方法」であるのに対して、引用発明では、「特定負荷12B」であって、当該「特定負荷12B」として「電灯、冷蔵庫、エアコン等、停電を回避したい負荷」の設定をするものであり、「拡張分電盤8を増設する分電方法」である点。

(相違点3)
本願発明では、「前記分散型発電装置及び蓄電装置」を「前記非常用空間の電力線への接続に」「前記蓄電装置側で自動的に切り替え可能に」行うのに対し、引用発明では、「前記分散型発電装置及び蓄電装置」のいずれかを特定負荷の電力線への接続に拡張分電盤8で自動的に切り替えを行う点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点3について先に検討すると、相違点3に係る本願発明1の「前記分散型発電装置及び蓄電装置」を「前記非常用空間の電力線への接続に前記蓄電装置側で自動的に切り替え可能にする」という構成は、上記引用文献1-4には記載されておらず、本願出願日前において周知技術であるともいえない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明及び引用文献2-4記載の技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の「非常用空間」を設置する工程の「リビング」を「キッチン」として記載したに過ぎず、本願発明1の「前記分散型発電装置及び蓄電装置」を「前記非常用空間の電力線への接続に前記蓄電装置側で自動的に切り替え可能にする」という構成と同一の構成を有するものであるから、引用発明及び引用文献2-4記載の技術事項に基づいて容易に発明できたものとは認められない。

3.本願発明3-9について
本願発明3-本願発明9は、本願発明1又は本願発明2の「前記分散型発電装置及び蓄電装置」を「前記非常用空間の電力線への接続に前記蓄電装置側で自動的に切り替え可能にする」という構成と同一の構成を有するものであるから、引用発明及び引用文献2-4記載の技術事項に基づいて容易に発明できたものとは認められない。


第7.原査定について
平成29年4月3日付けの補正により、補正後の請求項1-9は、「前記分散型発電装置及び蓄電装置」を「前記非常用空間の電力線への接続に前記蓄電装置側で自動的に切り替え可能にする」という技術的事項を有するものとなった。当該技術的事項は、原査定における引用文献A-Cには記載されておらず、本願出願日前における周知技術でもないので、本願発明1-9は、当業者であっても、原査定における引用文献A-Cに基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。


第8.むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-06-13 
出願番号 特願2012-152776(P2012-152776)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岡北 有平月野 洋一郎  
特許庁審判長 和田 志郎
特許庁審判官 土谷 慎吾
山澤 宏
発明の名称 建物の改修方法  
代理人 弁護士法人クレオ国際法律特許事務所  

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