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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61K
審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) A61K
管理番号 1328865
審判番号 不服2015-4218  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-03 
確定日 2017-06-07 
事件の表示 特願2011-535158「医薬エアロゾル組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月14日国際公開、WO2010/052466、平成24年 3月29日国内公表、特表2012-507574〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,国際出願日である平成21年11月4日(パリ条約に基づく優先権主張 平成20年11月4日及び同月14日(インド),平成21年10月29日(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国))にされたとみなされる特許出願であって,平成26年10月24日付けで拒絶査定がされ,これに対して,平成27年3月3日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲が補正され,平成28年4月26日付けで拒絶理由(以下「本件拒絶理由」という。)が通知されたものである。

第2 本願発明及び本件拒絶理由について
本願の請求項1?21に係る発明は,平成27年3月3日に補正された特許請求の範囲の請求項1?21に記載されている事項により特定されるとおりのものである。
また,本件拒絶理由の内容は,本審決末尾に掲記のとおりである。

第3 むすび
請求人は,本件拒絶理由に対して,指定期間内に特許法159条2項で準用する同法50条所定の意見書を提出するなどの反論を何らしていない。そして,本件拒絶理由を覆すに足りる根拠は見いだせず,本願は本件拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。

以下,本件拒絶理由の内容を掲記する。

1)この出願の下記の請求項に記載されたものは,下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。
2)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3)この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
4)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

1.本願発明
この出願の請求項1?21に係る発明は,平成27年3月3日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定されるとおりのものと認める(以下「本願発明1?21」という。)。

2.理由1
本願発明18は,「予防的治療の方法」の発明であるから,産業上利用できる発明とは認められない。

3.理由2
(1)本願発明1?8,10?21
ア.本願発明1?8,10?20
本願発明1は「活性剤と補助剤との複合体」(以下,単に「複合体」という。)の形状が特定されていないから不明確である。
本願発明1の複合体は,医薬エアロゾル組成物の成分の一つであると共に,【0031】で「薬剤-補助剤は,粒子状(微粉化形態)である。」とも記載されているから,粒子状であることを特定されたい。
よって,本願発明1,及び,当該発明を引用し,複合体の形状が粒子状に特定されていない本願発明2?8,10?20は不明確である。
イ.本願発明21
本願発明21において複合体の形状が特定されておらず不明確である。【0031】で「薬剤-補助剤は,粒子状(微粉化形態)である。」と記載されているから,粒子状であることを特定されたい。
よって,本願発明21は不明確である。

(2)本願発明1?21
本願発明1,4,5,21の「例えば」,本願発明4,5,16?18の「など」との記載は発明の内容を不明確にしている。
また,本願発明1,21の「又はそれらの混合物」は,補助剤に関する特定なのか,界面活性剤に関する特定なのかが不明である。
よって,本願発明1,4,5,16?18,21,及び,当該発明を引用する本願発明2,3,6?15,19,20は不明確である。

(3)本願発明1?16,19
本願発明1は,「医薬エアロゾル組成物」という物の発明であるが,「該活性剤が,下記工程を含む方法により,該補助剤と複合体化されているものである,前記組成物:(a) 該活性剤を有機溶媒中で混合する工程;(b) 工程(a)から得た混合物を適当な温度に加熱し,水を添加して透明溶液を形成する工程;(c) 該補助剤を工程(b)から得た溶液に添加する工程;(d) 工程(c)から得た溶液を真空濃縮して残渣を形成させる工程;(e) 工程(a)で使用したものと同じ溶媒を用いて,工程(d)から得た残渣を洗浄する工程;及び,(f) 工程(e)から得た洗浄済残渣を乾燥させて,薬剤-補助剤複合体を形成する工程」との記載は,製造に関して経時的な要素の記載がある場合に該当するため,当該本願発明1にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで,物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号,平成24年(受)第2658号)。
しかしながら,本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく,当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるともいえない。
よって,本願発明1,及び,当該発明を引用する本願発明2?16,19は明確でない。

4.理由3
(1)本願発明1?21(複合体の製法)
本願発明1?21は複合体の製法を特定している。
そこで,本願明細書をみると,本願発明1?21は安定であることが記載されており(【0001】,【0020】?【0022】),実施例として,「(臭化チオトロピウム-PVP複合体の製造方法)」(【0058】?【0059】),「(医薬エアロゾル組成物の実施例)」(【0060】?【0075】),「(薬剤-補助剤複合体及びHFAを含有する医薬エアロゾル組成物の安定性試験データ)」(【0076】,以下,単に「安定性試験データ」という。)が記載されている。
しかしながら,安定性試験データは,どのような製法で得られた複合体の実施例であるのかが明らかでなく,その評価方法(どのような粒度分布の微粒子を,どのような容器等に貯蔵し,初期と所定期間後の微粒子重量をどのように測定したのかなど。)も不明なものであるから,本願明細書には,本願発明1?21の安定性を客観的なデータで示した実施例が記載されていないといえる。[上記「(医薬エアロゾル組成物の実施例)」も,どのような製法で得られた複合体の実施例であるのかが不明である点に留意されたい。]
ここで,医薬エアロゾル組成物や複合体の安定性は,組成等によって異なるのが技術常識であるから,安定性に関する客観的なデータが何も記載されていない本願明細書の記載から,当業者が安定である本願発明1?21を実施するのには過度の試行錯誤を要するといえる。
よって,本願明細書には,当業者が本願発明1?21を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

以下では,上記「(医薬エアロゾル組成物の実施例)」及び安定性試験データは,本願発明1?21の複合体の製法で得られた複合体の実施例であると共に,安定性試験データの評価方法も,例えば,医薬エアロゾル組成物の安定性に関する公的な評価手法に基づくもので明確であることから,本願明細書には,本願発明1?21の安定性を客観的なデータで示した実施例が記載されているものと仮定して検討する。(意見書において,上記仮定に沿った主張をする際には,上記公的な評価手法が存在することを示す文献等の根拠を示されたい。)

(2)本願発明1?5,8?21(補助剤の種類)
本願発明1?5,8?21は,補助剤をポリビニルピロリドンに特定していない。
そこで,本願明細書の実施例をみると,いずれの実施例も補助剤はポリビニルピロリドンである。
ここで,本願明細書(【0026】?【0029】)には,ポリビニルピロリドン以外の補助剤を使用できることが記載されているが,ポリビニルピロリドン以外の補助剤でも,安定性試験データで示された安定性と同程度の安定性を得られることを合理的に技術的に説明した記載はない。むしろ,補助剤がポリビニルピロリドンでなければ,安定性試験データで示された安定性が得られないことを伺わせる記載がある(【0024】)。
そして,ポリビニルピロリドン以外の補助剤を包含する本願発明1?5,8?21のような組成等でも,安定性試験データで示された安定性と同程度の安定性が得られるというような技術常識は存在しない。
そうすると,本願明細書には,補助剤をポリビニルピロリドンに特定していない本願発明1?5,8?21が,明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(3)本願発明1?21(複合体の形状)
本願発明1?8,10?21は,複合体の形状を特定していないが,形状が粒子状である態様を包含していると解され,また,本願発明9は,複合体の形状を粒子状に特定している。[複合体の形状を粒子状に特定した場合の本願発明1等における「(f) 工程(e)から得た洗浄済残渣を乾燥させて,薬剤-補助剤複合体を形成する工程」は,「(f) 工程(e)から得た洗浄済残渣を乾燥させて,粒子状である薬剤-補助剤複合体を形成する工程」となる。そうすると,工程(f)は, 工程(e)から得た洗浄済残渣を乾燥すれば,粒子状である薬剤-補助剤複合体が形成されることを意味すると解釈することもできる点に留意されたい。]
そこで,本願明細書の実施例をみると,安定性試験データは複合体の形状が粒子状の実施例であり,「(医薬エアロゾル組成物の実施例)」も,医薬エアロゾル組成物の実施例であるから,複合体の形状が粒子状の実施例であると解される。
しかしながら,「(臭化チオトロピウム-PVP複合体の製造方法)」をみても,「1) 5gの臭化チオトロピウムを反応容器に導入した。アセトンを加えた。反応混合物を50?55℃の温度に加熱した。更なる水(15ml)を該反応混合物に加えて,透明溶液を得た。この溶液に,2.5gのPVP-K-17を加えた。該溶液を,真空下で濃縮して,残渣を得た。該残渣をアセトン(15ml)で洗浄し,真空下50℃で乾燥して,表題化合物(6g)を得た。」(【0058】)と記載されているだけで,当該「表題化合物(6g)」の形状は明らかにされていない。[上記3.(3)で指摘した不明確さはあるが,「(臭化チオトロピウム-PVP複合体の製造方法)」の1)?5)のうち,本願発明1?21の複合体の製法の特定を満たすのは1)のみである。]
ここで,本願明細書には,【0031】で複合体の形状が粒子状である旨が記載されているが,上記「表題化合物(6g)」の形状が粒子状であることを合理的に技術的に説明した記載はない。[本願明細書には,上記「表題化合物(6g)」の形状によらず,上記「表題化合物(6g)」の形状を粒子状とすることができる手法は記載されていない。]
そして,本願発明1?21の製法で得られた複合体の形状が粒子状であるというような技術常識は存在しない。[なお,【0059】の5)の「固体生成物」は,噴霧乾燥により製造されたものであるから,技術常識から,その形状は粒子状であると解される。]
そうすると,本願明細書には,複合体の形状が粒子状である態様を包含する本願発明1?8,10?21,及び,複合体の形状が粒子状である本願発明9が,明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(4)本願発明1?21(活性剤の種類)
本願発明1?21は,活性剤を臭化チオトロピウムに特定していない。
そこで,本願明細書の実施例をみると,安定性試験データは,活性剤が臭化チオトロピウムの実施例である。
ここで,本願明細書(【0032】?【0043】)には,臭化チオトロピウム以外の活性剤が例示されているが,臭化チオトロピウム以外の活性剤でも,安定性試験データで示された安定性と同程度の安定性を得られることを合理的に技術的に説明した記載はない。
そして,臭化チオトロピウム以外の活性剤も包含する本願発明1?21の組成等でも,安定性試験データで示された安定性と同程度の安定性を得られるというような技術常識は存在しない。
そうすると,本願明細書には,活性剤を臭化チオトロピウムに特定していない本願発明1?21が,明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(5)本願発明21(医薬エアロゾル組成物と複合体との関係)
本願発明21は,複合体が「少なくとも1のヒドロフルオロアルカン(HFA)噴霧剤;少なくとも1の,活性剤と補助剤との複合体;及び任意に,1以上の医薬として許容し得る賦形剤;を含む,医薬エアロゾル組成物」(本願発明1参照)における成分の一つとしての複合体である旨を特定していない。
そこで,本願明細書の実施例をみると,安定性試験データは,上記医薬エアロゾル組成物における成分の一つとしての複合体の実施例である。
ここで,本願明細書(【0046】?【0049】)には,複合体の製造方法が記載されているが,上記医薬エアロゾル組成物における成分の一つとしての複合体ではない複合体でも,安定性試験データで示された安定性と同程度の安定性を得られることを合理的に技術的に説明した記載はない。
そして,上記医薬エアロゾル組成物における成分の一つとしての複合体ではない本願発明21の組成等でも,安定性試験データで示された安定性と同程度の安定性を得られるというような技術常識は存在しない。
そうすると,本願明細書には,上記医薬エアロゾル組成物における成分の一つとしての複合体である旨を特定していない本願発明21が,明確かつ十分に記載されているとはいえない。

5.理由4
(1)本願発明1
本願発明1の解決しようとする課題は,【0001】,【0017】等からみて,「ヒドロフルオロカーボン噴霧剤を利用する安定なエアロゾル組成物を提供すること」にあるものと認められる。
本願明細書の実施例の安定性試験データは,上記4.で指摘したとおり,補助剤がポリビニルピロリドで,複合体形状が粒子状で,活性剤が臭化チオトロピウムである実施例である。
そして,本願明細書の他の記載をみても,安定性試験データで示された安定性を本願発明1にまで拡張乃至一般化できることを合理的に技術的に説明した記載は何もない。
また,本願発明1のような組成等の医薬エアロゾル組成物が上記課題を解決できるというような技術常識は存在しない。
そうすると,本願発明1は,本願明細書において,当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲を超えている。
よって,本願発明1は,本願の発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。

(2)本願発明2?21
本願発明21について付言する。
安定性試験データは,上記4.指摘したとおり,補助剤がポリビニルピロリドで,複合体形状が粒子状で,活性剤が臭化チオトロピウムである実施例であって,複合体が「少なくとも1のヒドロフルオロアルカン(HFA)噴霧剤;少なくとも1の,活性剤と補助剤との複合体;及び任意に,1以上の医薬として許容し得る賦形剤;を含む,医薬エアロゾル組成物」(本願発明1参照)における成分の一つとしての複合体である実施例である。
上記(1)と同様の理由で,本願発明2?21は,本願の発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。

6.請求人の主張について
審判請求書の3.(c)で特許法第29条第2項の要件と関連してではあるが,「(4)本願発明は,複合体の形成に際し,活性剤が補助剤の表面に吸着されるものであり,当該本願発明に係る複合体は,活性剤及び補助剤の非極性領域間で会合している非共有的スタッキング構造を有するものである」と述べているが,本願明細書の記載に基づかない主張であるから,本拒絶理由通知書の理由2?4の判断において,参酌できない。
また,同上において,XRDのデータを示して,「このように,上記データは,補正後請求項に係る本願発明に従って形成された臭化チオトロピウム及びPVP複合体の構造は,臭化チオトロピウムとPVPとを単純に混合した場合と比較して,顕著に異なる構造を有していることを実証的に示すものである。したがって,補正後請求項に係る本願発明に従って形成された複合体における活性剤の結晶度がより低度であることは,本願発明に係る医薬エアロゾル組成物の安定性を増加させるという非常に優れた効果をもたらし得る。」と述べているが,本願明細書の記載に基づかない主張であるから,本拒絶理由通知書の理由2?4の判断において,参酌できない。
 
審理終結日 2016-12-27 
結審通知日 2017-01-10 
審決日 2017-01-23 
出願番号 特願2011-535158(P2011-535158)
審決分類 P 1 8・ 536- WZF (A61K)
P 1 8・ 14- WZF (A61K)
P 1 8・ 537- WZF (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池上 京子杉江 渉  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 関 美祝
須藤 康洋
発明の名称 医薬エアロゾル組成物  
代理人 石川 徹  

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