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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1328891 |
審判番号 | 不服2016-7367 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-05-19 |
確定日 | 2017-06-07 |
事件の表示 | 特願2013-268028「多価抗体フラグメントおよびその三量体化複合体」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月 7日出願公開、特開2014-124186〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25(2013)年12月25日(パリ条約による優先権主張 2012年12月26日 台湾(TW),2013年2月7日 米国(US),2013年10月9日 台湾(TW))の出願であって、主な経緯は以下のとおりである。 平成27年 1月16日付け 拒絶理由通知書 平成27年 8月 3日 意見書・手続補正書 平成28年 1月15日付け 拒絶査定 平成28年 5月19日 審判請求書 第2 本願発明 本願請求項1?24,27に係る発明は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?24,27に記載された事項により特定されるとおりのものであり、本願請求項25?26,28に係る発明は、平成27年8月3日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項25?26,28に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。そのうち、本願請求項11に係る発明(以下、「本願発明11」という)は、以下のとおりのものである。 「【請求項11】 (1)Fabフラグメントの重鎖部分およびインフレーム融合コラーゲン様ペプチドを含むアミノ酸配列と、 (2)ヒトIgGの軽鎖可変領域およびカッパ軽鎖定常ドメインを含むアミノ酸配列と、 を含む多価抗体フラグメント。」 第3 引用例の記載事項 1.引用例1 原査定の拒絶理由で文献1として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2009-131237号公報(以下、「引用例1」という)には、次の事項が記載されている。 また、下線は当審にて付記したものである。以下、同様である。 (1)「3つのポリペプチドを含む三量体可溶性抗体であって、各ポリペプチドが、 (a)少なくとも10個のG-X-Yリピートを含むコラーゲン足場ドメインと、 (式中、Gはグリシンであり、Xは任意のアミノ酸であり、かつYは任意のアミノ酸であり、前記G-X-Yリピートのうちの少なくとも10個はG-P-PまたはG-P-Oであり、前記G-X-Yリピートのうちの少なくとも6個はG-P-Oであり、かつ、PはプロリンでありかつOはヒドロキシプロリンである) (b)抗体ドメインと、を含み、 前記3つのポリペプチドの前記コラーゲン足場ドメインが互いに相互作用して少なくとも10^(7)M^(-1)のアビディティーでリガンドに特異的に結合する三量体可溶性抗体を形成する、三量体可溶性抗体。」(請求項1) (2)「本発明は、部分的にはコラーゲン足場ドメインにインフレームで融合された抗体ドメインが足場ドメインの三量体化による三量体抗体の産生を可能にするという試験結果に基づいており、得られる三量体抗体の結合アビディティー(binding avidity)は二価IgGおよび一価scFvの形式の場合よりも高められる。本発明に従って作製された三量体抗体は、そのリガンドに対して10^(9)M^(-1)よりも大きい機能親和性(アビディティー)を有しうる。」(【0030】) (3)「「抗体ドメイン」は、免疫グロブリンの1つもしくは複数の相補性決定領域(CDR)を含む。したがって、抗体ドメインはVHドメインおよびFabなどの抗体の抗原結合部分を含みうる。一実施形態では、第1の抗体ドメインは、例えばCluster Designation 3(CD3)、表皮成長因子受容体(EGFR)、HER2/neuまたは腫瘍壊死因子-α(TNF-α)に特異的な抗原結合断片または一本鎖抗体の配列を有する。第1のポリペプチド鎖は、第1の足場ドメインの他端にインフレームで融合される第2の抗体ドメインをさらに有しうる。」(【0042】) (4)「本明細書で用いられる「免疫グロブリン」という用語は、実質的に免疫グロブリン遺伝子によってコードされた1つもしくは複数のポリペプチドよりなるタンパク質を示す。認識されたヒト免疫グロブリン遺伝子は、カッパー、ラムダ、アルファ(IgA1およびIgA2)、ガンマ(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)、デルタ、イプシロン、およびミュー定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。完全長免疫グロブリン「軽鎖」(約25kDまたは214のアミノ酸)は、NH_(2)末端(約110アミノ酸)での可変領域遺伝子およびCOOH末端でのカッパーまたはラムダ定常領域遺伝子によってコードされる。完全長免疫グロブリン「重鎖」(約50kDまたは446のアミノ酸)は、可変領域遺伝子(約116のアミノ酸)および上記の他の定常領域遺伝子の1つ、例えば(約330アミノ酸をコードする)ガンマによって同様にコードされる。」(【0080】 (5)「本発明の実施形態では、第1の足場ドメインの融合タンパク質は(GPP)_(10)とEGFRに特異的な抗体との融合物である。本発明のさらなる実施形態では、コラーゲン足場ドメインの融合タンパク質は(GPP)_(10)とEGFRに特異的な抗体の断片との融合物であり、この場合の断片はscFv、 VL、 VH、またはFab断片であってもよいがこれらに限定されない。 本発明の別の実施形態では、第1のコラーゲン足場ドメインの融合タンパク質は(GPP)_(10)とCD3に特異的な抗体との融合物である。本発明のさらなる実施形態では、コラーゲン足場ドメインの融合タンパク質は(GPP)_(10)とCD3に特異的な抗体の断片との融合物であり、この場合の断片はscFv、 VL、 VH、またはFab断片であってもよいがこれらに限定されない。」(【0123】?【0124】) 2.引用例1に記載された発明 上記記載事項(1)及び(2)より、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているものと認められる。 「3つのポリペプチドを含む三量体可溶性抗体であって、各ポリペプチドがコラーゲン足場ドメインにインフレームで融合された抗体ドメインを含む、三量体可溶性抗体。」 第4 対比 本願発明11と引用発明を対比すると、上記記載事項(3)より、引用発明の「抗体ドメイン」が抗体の断片、すなわちフラグメントをも意味することは明らかであるから、引用発明の「三量体可溶性抗体」は、本願発明11の「多価抗体フラグメント」に相当する。 また、タンパク質がアミノ酸配列からなることも自明であるから、両者は 「インフレーム融合コラーゲン様ペプチドを含むアミノ酸配列を含む多価抗体フラグメント。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点: 本願発明11は、「(1)Fabフラグメントの重鎖部分およびインフレーム融合コラーゲン様ペプチドを含むアミノ酸配列と、(2)ヒトIgGの軽鎖可変領域およびカッパ軽鎖定常ドメインを含むアミノ酸配列と、を含む」のに対して、引用発明は、コラーゲン足場ドメインにインフレームで融合された抗体ドメインを含む点。 第5 当審の判断 上記相違点について検討する。 上記記載事項(3),(5)にあるとおり、引用例1には、「抗体ドメイン」としてFabを選択できることが明確に記載されており、Fabが抗体の軽鎖定常領域を含む部分であることは文献を挙げるまでもなく当業者に周知の事項であるから、引用例1において「抗体ドメイン」としてFabを選択すれば、必然的に軽鎖定常領域は包含されるものと認められる。 また、上記記載事項(2)にもあるとおり、引用例1の三量体可溶性抗体がIgGを意図していることは明白であり、上記記載事項(4)にもあるとおり、ヒト免疫グロブリン(抗体)の軽鎖定常領域にカッパ及びラムダの二種類が存在することも当業者に広く知られている。 以上を勘案すれば、引用発明において、「抗体ドメイン」としてヒトIgGタイプのFabを選択し、軽鎖定常領域をカッパタイプとすることで、「(1)Fabフラグメントの重鎖部分およびインフレーム融合コラーゲン様ペプチドを含むアミノ酸配列と、(2)ヒトIgGの軽鎖可変領域およびカッパ軽鎖定常ドメインを含むアミノ酸配列と、を含む」抗体とすることは、当業者であれば容易に想到し得るものである。 そして、本願発明11の効果についても、Fabフラグメントを用いることで引用例1の記載から格別顕著な効果を奏しているものとも認められない。 第6 審判請求人の主張 平成28年5月19日付け審判請求書において審判請求人は、主に以下の2点を主張している。 主張1: 多量体scFv融合体の精製は、市販のアフィニティカラムが利用できない為、困難な作業となっていた。本願発明1は、特に軽鎖定常ドメインとしてヒトIgGのカッパ軽鎖定常ドメインを含む多価抗体フラグメントを使用することにより、この課題を解決できた。この点は、本願明細書の実施例2?17で、本願発明の多価抗体フラグメントが市販のアフィニティカラム(例えばKappaSelect column(GE Healthcare))により効率的に精製することができ、本願発明の多価抗体フラグメントが所望される優れた生物活性を有することからも明らか。 引用文献1は、生物学的機能を有するコラーゲン様ペプチド上に重鎖及び軽鎖の定常ドメイン(ヒトIgGのカッパ軽鎖定常ドメインを含む)を含むFabフラグメントを如何に構築するかを何ら教示していない。 主張2: プロコラーゲンとIgG分子のフォールディングと分泌に関与する多くの分子シャペロンが存在する為、Fabフラグメントの重鎖部分(VH-CH1)とコラーゲン様ペプチドが安定して多価抗体フラグメントを形成するかどうかは不明であり、たとえ首尾良く多価抗体フラグメントを形成しても、軽鎖部分が重鎖部分に首尾良く結合でき、細胞から分泌される事も明らかではない。 上記主張1,2について検討する。 主張1について: これは精製効率の向上についての主張であり、そもそも「多価抗体フラグメント」という物の発明である本願発明11の進歩性を検討する上で何ら考慮することのできない主張である。 仮に精製効率について考慮したとしても、審判請求人の主張する市販のアフィニティカラム(KappaSelect)は、下記参考例1のカタログにも記載されているように、カッパフラグメントを精製するためのアフィニティークロマトグラフィー媒体として当業者に周知のものであり、市販のアフィニティカラムによる精製のためカッパ軽鎖定常ドメインを含ませることに格別の困難性はない。 参考例1:KappaSelect LamdaFabSelect, GE Healthcare Life Sciences, Mar.2012, Data file 28-9448-22 AB, p.1-4 「KappaSelect及びLamdaFabSelectは、カッパ及ラムダFabフラグメントをそれぞれ精製するためのアフィニティークロマトグラフィー媒体である。」(1頁6?8行目) よって、上記主張1は採用できない。 主張2について: Fabフラグメントについては、上記記載事項(3),(5)に、引用例1における「抗体ドメイン」の選択肢として明確に記載されているのであるから、Fabフラグメントの重鎖部分(VH-CH1)とコラーゲン様ペプチドが安定して多価抗体フラグメントを形成するかどうかは不明であること、また、たとえ首尾良く多価抗体フラグメントを形成しても軽鎖部分が重鎖部分に首尾良く結合でき、細胞から分泌される事も明らかではないことが、Fabフラグメントを選択する動機付けの阻害要因となるとまではいえない。 よって、上記主張2も採用できない。 なお、審判請求人は、引用例1はFabフラグメントを如何に構築するかを何ら教示していない旨主張しているものの、引用例1は、審判請求人本人による特許文献であり、Fabを含む抗体ドメインを含む三量体可溶性抗体の発明として既に特許が付与されているため、当該主張は、引用例1に係る特許(特許第5543070号)の有効性に影響する可能性がある点にも留意されたい。 したがって、本願発明11は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものである。 第7 結び 以上のとおりであるから、本願請求項11に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-01-04 |
結審通知日 | 2017-01-10 |
審決日 | 2017-01-23 |
出願番号 | 特願2013-268028(P2013-268028) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 渡邉 潤也、星 浩臣、田中 晴絵 |
特許庁審判長 |
田村 明照 |
特許庁審判官 |
三原 健治 佐々木 秀次 |
発明の名称 | 多価抗体フラグメントおよびその三量体化複合体 |
代理人 | 植木 久一 |
代理人 | 菅河 忠志 |
代理人 | 伊藤 浩彰 |
代理人 | 植木 久彦 |