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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1328972
審判番号 不服2017-2803  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-27 
確定日 2017-06-27 
事件の表示 特願2012-524431「三次元画像表示対応液晶表示装置に適した偏光板及び液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月22日国際公開、WO2012/157662、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年5月16日(優先権主張平成23年5月18日)を国際出願日とする出願であって、平成28年2月18日に拒絶理由が通知され、同年6月21日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年11月22日に拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して、平成29年2月27日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、当審において、同年4月7日に拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年5月15日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成29年5月15日になされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載の事項によりそれぞれ特定されるものと認められるところ、請求項1ないし6に係る発明(以下、本願の請求項1ないし6に係る発明をそれぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」といい、本願発明1ないし6を総称して「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配置された液晶セルを有する液晶表示装置であって、
液晶セルの視認側の偏光板は、偏光子及びその視認側偏光子保護フィルムとして配向フィルムを有し、
前記偏光子の偏光軸に対する、前記配向フィルムの配向軸又は配向軸と直交する軸の傾きは1°以上10°以下であり、
前記配向フィルムのリタデーションが3000?30000nmであり、
バックライト光源は少なくとも450?650nmの波長領域において発光スペクトルの強度がゼロになることがない白色光源である、
液晶表示装置。
【請求項2】
前記配向フィルムがポリエステル樹脂もしくはポリカーボネート樹脂から形成される、請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記配向フィルムのリタデーションと厚さ方向のリタデーションの比(Re/Rth)が0.2?1.2である、請求項1又は2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記配向フィルムが少なくとも3層からなり、
最外層以外の層に紫外線吸収剤を含有し、
380nmの光線透過率が20%以下である、請求項1?3のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記光源が白色発光ダイオードである請求項1?4のいずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項6】
偏光フィルタを介して三次元画像を視認するための請求項1?5のいずれかに記載の液晶表示装置。」

第3 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
本件出願は、平成29年2月27日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


請求項1には「バックライト光源は連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色光源である」と記載されているが、当該記載では、「連続的」が単に途切れていないことだけを意味するのか否か、また「幅広い」がどの程度の広さのものを意味するのか不明であり、如何なる発光スペクトルであれば、「連続的で幅広い発光スペクトル」に含まれるのか否かが特定できない。
よって、請求項1及び該請求項1の記載を引用する請求項2ないし6に係る発明は明確でない。

2 当審拒絶理由の判断
平成29年5月15日付け手続補正(以下単に「補正」という。)によって、補正前の請求項1の「バックライト光源は連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色光源である」は、補正後の請求項1において「バックライト光源は少なくとも450?650nmの波長領域において発光スペクトル
の強度がゼロになることがない白色光源である」と補正されることにより、当審拒絶理由は解消した。
よって、本願発明は、明確である。

第4 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
(1)この出願の平成28年6月21日付け手続補正により補正された請求項1及び2に係る発明は、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(2)この出願の平成28年6月21日付け手続補正により補正された請求項1ないし15に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2011-59488号公報
引用文献2.特開2010-277028号公報
引用文献3.特開2008-3425号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4.特開2009-160830号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5.特開2000-208815号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6.特開平10-161108号公報(周知技術を示す文献)
引用文献7.特開2005-157082号公報(周知技術を示す文献)
引用文献8.Daisuke Kobayashi et al., "A High-Retardation Polymer Film for Viewing Liquid Crystal Displays through Polarized Sunglasses without Chromaticity Change in the Image", Japanese Journal of Applied Physics, 2011年4月11日, 第50巻, 第4号, p.042501.1-042602.6(周知技術を示す文献)

本願発明は「連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色光源がバックライト光源である液晶表示装置用」偏光板であるのに対し、引用文献1、2には、かかる特定事項が記載されていない点において(以下、「相違点」とする。)、引用文献1、2と本願発明の構成は異なり、またこの構成によって引用文献1、2に比して有利な効果を有する旨を主張している。
上記相違点について検討する。
本願発明は「偏光板」の発明であるところ、どのような液晶表示装置に用いられるかという「連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色光源がバックライト光源である液晶表示装置用」との用途の特定は、「偏光板」という物の構成に差異をもたらすものではない。
よって、本願発明は、依然として、引用文献1、2に記載された発明と同一である。
また、「液晶表示装置」の技術分野において、光源として、連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色LEDを使用することは、例えば、引用文献5、8に記載されているように、周知技術である。
よって、引用文献1、2に記載された偏光板を、上記周知技術の液晶表示装置に適用することにより、本願発明を構成することは当業者が容易になし得たことであるともいえる。

2 原査定の理由の判断
(1)引用例1の記載事項
原査定に引用文献1として引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2011-59488号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと、
前記偏光フィルムの片面に、第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと、を備え、
前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、面内の遅相軸方向の屈折率をn_(x)、面内で遅相軸と直交する方向の屈折率をn_(y)、厚み方向の屈折率をn_(z)としたときに、(n_(x)-n_(z))/(n_(x)-n_(y))で表されるNz係数が2.0未満であることを特徴とする偏光板。
【請求項2】
前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、面内の位相差値が200?1200nmもしくは2000?7000nmの値である請求項1に記載の偏光板。
・・・略・・・」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板およびそれを用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費電力が低く、低電圧で動作し、軽量でかつ薄型の液晶表示装置が、携帯電話、携帯情報端末、コンピュータ用のモニター、およびテレビ等の情報用表示デバイスとして急速に普及している。さらに、液晶技術の発展に伴い、様々なモードの液晶表示装置が提案され、従来、応答速度、コントラスト、および視野角等の液晶表示装置の問題とされていた点が解消されつつある。
【0003】
一方で、液晶表示装置のさらなる薄型軽量化を望む強い市場要求を受けて、液晶表示装置を構成する液晶パネル、拡散板、バックライトユニット、および駆動IC等の薄型化や小型化が進められている。このような状況下、液晶パネルを構成する部材である偏光板も10μmの単位で薄型化することが求められている。
【0004】
同時に、液晶表示装置の普及に伴って、市場からのコストダウン要求も日増しに強くなっており、偏光板においてもさらなるコストダウンや生産性の向上が必須となっている。
【0005】
これらの要求を満足すべく、これまでに様々な提案がなされてきた。たとえば、偏光板は通常、偏光フィルムの片面または両面に透明保護フィルムが設けられた構成を有し、その透明保護フィルムとしてトリアセチルセルロースが一般的に使用されているが、特開平8-43812号公報(特許文献1)のように、その保護フィルムに位相差を持たせて光学補償機能を付与することにより、構成部材の削減と生産工程の簡便化を図る試みが広くなされている。このような構成とすることで、偏光板と位相差板との積層物である複合偏光板を薄型軽量化することができ、さらに液晶表示装置の構成部材点数が削減されることで、生産工程を簡素化し、歩留まりを向上させてコストダウンに繋げることが可能となる。
【0006】
さらには、保護フィルムをトリアセチルセルロース以外の他の樹脂で置き換える試みも積極的に進められている。たとえば、特開平7-77608号公報(特許文献2)には、トリアセチルセルロースに代えて、環状オレフィン系樹脂を使用する手段が開示されている。しかしながら、環状オレフィン系樹脂は一般的に高価であるため、現状は、より付加価値の高い位相差フィルムに用いられており、単なる保護フィルムとして使用するには、コスト削減の点から釣り合いがとれないという問題を有している。
【0007】
上記要求を満足できる技術として、ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする手法が提案されている。ポリエチレンテレフタレートは機械的強度に優れることから、薄膜化に適しており、偏光板の薄型化を実現できる。さらに、トリアセチルセルロースや環状オレフィン系樹脂と比較して、一般的にコストの面からも優位性を有する。加えて、トリアセチルセルロースと比較して、低透湿性で低吸水性といった特徴を有することから、耐湿熱性や耐冷熱衝撃性にも優れ、環境変化に対して高い耐久性を持つことも期待できる。
【0008】
しかしながら、一方で、ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとした偏光板を液晶表示装置に搭載した場合、トリアセチルセルロースフィルムを保護フィルムとする一般的な偏光板に比べて、その高いレタデーション値に由来する斜め方向からの色ムラ(干渉ムラ、虹ムラとも言う)が目立ち、視認性に劣るという問題を有している。この問題について、たとえば特開2009-109993号公報(特許文献3)では、ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとした偏光板と、ヘイズ値を制御した防眩層を付与した偏光板とを組み合わせて液晶表示装置を構成することで、色ムラを低減する手法が開示されている。しかしながら、この手法を用いても色ムラの低減は不十分であり、より効果的な手法の確立が望まれていた。
・・・略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする偏光板であって、液晶表示装置に搭載した際の色ムラが少なく視認性に優れ、かつ薄型化を実現し、コストパフォーマンスや生産性にも優れる偏光板を提供することにある。また、本発明のもう一つの目的は、前記の偏光板を用いた視認性に優れる液晶表示装置を提供することにある。」
ウ 「【0074】
本発明の偏光板においては、偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸の軸ズレ角度は目的や生産上の制約等に応じて任意に選択することができる。たとえば、本発明の偏光板を、偏光性の強いバックライト光源を備える液晶表示装置のバックライト光源側(入射側)偏光板として適用する場合、延伸ポリエチレンテレフタレートの面内位相差に由来する正面方向からの干渉色の発現を防ぐため、偏光フィルムと延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの軸ズレ角度は小さい方が好ましい。好ましくは、偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度は、0度以上15度以下の範囲とすることが好ましい。かかる場合においても、Nz係数を2.0未満とすることが、色ムラの低減に効果的である。
【0075】
偏光性の強いバックライト光源として、たとえば、バックライトユニット内に反射型偏光分離フィルムを備えるもの等が挙げられる。反射型偏光分離フィルムとは、バックライトの光を選択的に反射させ、再利用することで可視範囲の輝度を向上させる機能を有するフィルムである。反射型偏光分離フィルムに相当する市販品としては、米国の3M Company〔日本では住友スリーエム(株)〕から販売されている「DBEF」(商品名)などがある。
【0076】
一方で、上記以外の場合には、偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度が大きいものも好ましく用いることができる。中でも、20度以上50度以下のズレ角度であるものがより好ましい。偏光フィルムと延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの軸ズレ角度を上記の範囲とすることで、より効果的に液晶表示装置の色ムラを低減することができる。
・・・略・・・
【0081】
(機能層)
本発明に用いられる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムには、そのフィルムが偏光板の視認側に用いられる場合、偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に、防眩層、ハードコート層、反射防止層、および帯電防止層から選ばれる少なくとも1つの機能層を設けることが好ましい。
【0082】
防眩層は、外光の映り込みやギラツキを防ぐために設けられる。ハードコート層は、表面の耐擦傷性などを改善するために設けられる。反射防止層は、外光の反射を防ぐために設けられる。また帯電防止層は、静電気の発生を防ぐために設けられる。これらの機能層を本発明の偏光板に形成する場合、塗工など公知の方法で直接延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上に設けてもよいし、基材上にこれらの機能層が設けられたフィルムを延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに貼合してもよい。また、これらの機能層を予め延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに形成しておき、これをその機能層とは反対側の面で偏光フィルムに貼合する方法も採用できる。」
エ 「【0217】
<液晶表示装置>
以上のようにしてなる偏光板、すなわち、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム/第一の接着剤層/偏光フィルム/第二の接着剤層/[保護フィルムまたは光学補償フィルム]/粘着剤層/剥離フィルムとの層構造を有する偏光板は、粘着剤層から剥離フィルムを剥離して、液晶セルの片面または両面に貼合し、液晶パネルとすることができる。この液晶パネルは、液晶表示装置に適用することができる。
【0218】
本発明の偏光板は、たとえば、液晶表示装置において、光出射側(視認側)に配置される偏光板として用いることができる。光出射側とは、液晶セルを基準に、液晶表示装置のバックライト側とは反対側を指す。光出射側の偏光板として本発明の偏光板が採用される場合、当該偏光板は、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムにおける偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に、防眩層、ハードコート層、反射防止層、および帯電防止層から選ばれる少なくとも1つの機能層を備えることが好ましい。また、液晶表示装置の光入射側(バックライト側)に配置される偏光板は、本発明の偏光板であってもよいし、従来公知の偏光板であってもよい。
【0219】
本発明の偏光板は、また、液晶表示装置において、光入射側に配置される偏光板として用いることもできる。この場合、液晶表示装置の光出射側に配置される偏光板は、本発明の偏光板であってもよいし、従来公知の偏光板であってもよい。
【0220】
液晶表示装置を構成する液晶セルは、透過光量をスイッチングするために、液晶が2枚の透明基板の間に封入され、電圧印加により液晶の配向状態を変化させる機能を有する部材であって、その中に封入された液晶層の配向状態と、電極間に電圧を印加したときの液晶層の配向状態によって、たとえば、ツイステッドネマティック(TN)モードや垂直配向(VA)モードなど、各種方式のものがある。本発明の偏光板は、一般的な液晶表示装置に広く使用されている各種モードの液晶セルに対して、有効に適用することができる。
【0221】
偏光フィルムに積層されている保護フィルムまたは光学補償フィルムの性能は、上記液晶セルの動作モードや特性に応じて適宜選択することができる。
【0222】
液晶表示装置を構成するバックライトも、一般の液晶表示装置に広く使用されているものでよい。たとえば、拡散板とその背後に配置された光源で構成され、光源からの光を拡散板で均一に拡散させたうえで前面側に出射するように構成されている直下型のバックライトや、導光板とその側方に配置された光源で構成され、光源からの光を一旦導光板の中に取り込んだうえで、その光を前面側に均一に出射するように構成されているサイドライト型のバックライトなどを挙げることができる。バックライトにおける光源としては、蛍光管を使って白色光を発光する冷陰極蛍光ランプや、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)などを採用することができる。」
オ 「【実施例】
【0223】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0224】
以下の例において、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みは、メーカー呼称値で示した。面内位相差値R_(0)およびNz係数は、位相差フィルム・光学材料検査装置RETS(大塚電子株式会社製)にて測定した。また、環状オレフィン系樹脂からなる光学補償フィルムの厚み、面内位相差値R0および厚み方向位相差値R_(th)はメーカー呼称値で示した。環状オレフィン系樹脂からなる光学補償フィルムのR_(0)およびR_(th)は位相差フィルム・光学材料検査装置RETS(大塚電子株式会社製)を用いて実測もしているが、ほぼ同様の値が得られている。
【0225】
<実施例1>
(a)偏光フィルムの作製
平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%以上で厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを、30℃の純水に浸漬した後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.02/2/100の水溶液に30℃で浸漬した。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が12/5/100の水溶液に56.5℃で浸漬した。引き続き8℃の純水で洗浄した後、65℃で乾燥して、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムを得た。延伸は、主に、ヨウ素染色およびホウ酸処理の工程で行ない、トータル延伸倍率は5.3倍であった。
【0226】
(b)粘着剤付き偏光板の作製
厚み38μmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(Nz係数:1.0、R_(0):2160nm)の貼合面に、コロナ処理を施した後、脂環式エポキシ化合物を含有する無溶剤の活性エネルギー線硬化性接着剤組成物を、チャンバードクターを備える塗工装置によって厚さ2μmで塗工した。また、厚み73μmの環状オレフィン系樹脂からなる光学補償フィルム(面内位相差値R_(0):63nm、厚み方向位相差値R_(th):225nm)の貼合面に、コロナ処理を施した後、上記と同じ接着剤組成物を同様の装置にて厚さ2μmで塗工した。
【0227】
次いで、直ちに上記(a)にて得られた偏光フィルムの片面に上記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを、もう一方の面に上記光学補償フィルムを、各々接着剤組成物の塗工面を介して貼合ロールによって貼合した。この際、偏光フィルムの透過軸と延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレは0度とした。その後、この積層物の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム側から、メタルハライドランプを320?400nmの波長における積算光量が600mJ/cm^(2)となるように照射し、両面の接着剤を硬化させた。さらに、得られた偏光板の光学補償フィルムの外面に、厚み25μmのアクリル系粘着剤の層(セパレートフィルム付き)を設けた。
【0228】
(c)液晶表示装置の作製
ソニー(株)製の垂直配向モードの液晶表示装置“BRAVIA”(対角寸法40インチ=約102cm)の液晶パネルから光出射側偏光板を剥がし、その代わりに、市販の偏光板(スミカランSRW842E-GL5、住友化学(株)製)を、オリジナルの偏光板と同じ軸方向で、その粘着剤層側にて貼り付けた。また、光入射側偏光板も剥がし、その代わりに、上記(b)で作製した粘着剤層付き偏光板からセパレートフィルムを剥がしたものを、オリジナルの偏光板と同じ軸方向で、その粘着剤層を用いて貼り付けた。得られた液晶表示装置について、目視にて観察したところ、斜め方向の色ムラ(干渉ムラ)は小さく、視認性は良好であった。
【0229】
<実施例2>
Nz係数が1.4、面内位相差値R_(0)が3360nmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、偏光フィルムの透過軸と延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度が40度となるよう接着貼合したこと以外は実施例1の(b)と同様にして偏光板を作製し、さらに、実施例1の(c)と同様にして、液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置について、目視にて観察したところ、斜め方向の色ムラ(干渉ムラ)は小さく、視認性は良好であった。
【0230】
<実施例3>
Nz係数が1.8、面内位相差値R_(0)が3950nmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、偏光フィルムの透過軸と延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度が40度となるよう接着貼合したこと以外は実施例1の(b)同様にして偏光板を作製し、さらに、実施例1の(c)と同様にして、液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置について、目視にて観察したところ、斜め方向の色ムラ(干渉ムラ)は比較的小さく、視認性は比較的良好であった。
【0231】
<実施例4>
Nz係数が1.4、面内位相差値R_(0)が1600nmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、偏光フィルムの透過軸と延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度が40度となるよう接着貼合したこと以外は実施例1の(b)同様にして偏光板を作製し、さらに、実施例1の(c)と同様にして、液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置について、目視にて観察したところ、斜め方向の色ムラ(干渉ムラ)は上記実施例2と比べるとやや強かったものの、比較的小さく、視認性は比較的良好であった。
【0232】
<実施例5>
Nz係数が1.4、面内位相差値R_(0)が800nmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、偏光フィルムの透過軸と延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度が40度となるよう接着貼合したこと以外は実施例1の(b)と同様にして偏光板を作製し、さらに、実施例1の(c)と同様にして、液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置について、目視にて観察したところ、斜め方向の色ムラ(干渉ムラ)は小さく、視認性は良好であった。」
カ 上記アないしオから、引用例1には、実施例3として次の発明が記載されているものと認められる。
「ソニー(株)製の垂直配向モードの液晶表示装置“BRAVIA”(対角寸法40インチ=約102cm)において、
液晶パネルから光出射側偏光板を剥がし、その代わりに市販の偏光板(スミカランSRW842E-GL5、住友化学(株)製)をオリジナルの偏光板と同じ軸方向で貼り付け、
偏光フィルムの片面に、Nz係数が1.4、面内位相差値R_(0)が3360nmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り付け、偏光フィルムのもう一方の面に光学補償フィルムを貼合し、この際、偏光フィルムの透過軸と延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度が40度となるよう貼合して粘着剤層付き偏光板を作製し、
前記液晶パネルの光入射側偏光板も剥がし、その代わりに、前記粘着剤層付き偏光板をオリジナルの偏光板と同じ軸方向で、その粘着剤層を用いて貼り付けた、
液晶表示装置。」(以下「引用発明」という。)

(2)引用例2の記載事項
原査定に引用文献2として引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2010-277028号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
一軸配向芳香族ポリエステルフィルムにおいて、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(-105)面の配向度、フィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度αおよびフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきβの関係が下記式(1)、(2)を満たすことを特徴とする偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルム。
fc_(TD)(-105)≧0.35 ・・・(1)
(式(1)中、fc_(TD)(-105)は、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(-105)面の配向度を表わす)
0≦α+β≦15° ・・・(2)
(式(2)中、αはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度を表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の平均値で表わされ、βはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきを表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の標準偏差値の3倍で表わされる)
・・・略・・・」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムに関する。更に詳しくは液晶ディスプレイの色シフト及び色斑を防止することができる光軸の安定性を確保した偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムに関する。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、一軸配向ポリエステルフィルムにおいて、従来はフィルムの配向方向が不均一になりやすくかったフィルム両端の部位についても配向方向が均一に制御された高度な光軸安定性を有し、フィルム両端部まで支持基材として使用しても液晶ディスプレイの色シフト及び色斑を防止することができる偏光子支持基材用一軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、従来の一軸延伸ポリエステルフィルムでは、フィルム製膜中に生じるボーイング現象のためにフィルム両端部位までフィルムの配向方向を均一に制御することが難しく、偏光子支持基材用途に提案されながら実用レベルでの使用が制限されていたところ、本願発明では延伸工程時に延伸速度および張力も含めて制御することにより、クリップ部分がスリットされる以外はフィルム両端部までフィルムの配向方向が均一に制御され光軸の安定したフィルムが得られ、偏光子支持基材用フィルムとして用いることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明の目的は、一軸配向芳香族ポリエステルフィルムにおいて、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(-105)面の配向度、フィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度αおよびフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきβの関係が下記式(1)、(2)を満たす偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムによって達成される。
fc_(TD)(-105)≧0.35 ・・・(1)
(式(1)中、fc_(TD)(-105)は、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(-105)面の配向度を表わす)
0≦α+β≦15° ・・・(2)
(式(2)中、αはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度を表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の平均値で表わされ、βはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきを表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の標準偏差値の3倍で表わされる)」
エ 「【0025】
(遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβ)
また、本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムは、フィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度α(以下、遅相軸角度αと称することがある)およびフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきβ(以下、遅相軸角度のばらつきβと称することがある)の関係が下記式(2)を満たすことが必要である。
0≦α+β≦15° ・・・(2)
(式(2)中、αはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度を表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の平均値で表わされ、βはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきを表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の標準偏差値の3倍で表わされる)
(α+β)で表わされる値がかかる範囲を超えるものは、フィルム両端部において色シフトが生じるのみならず色斑が生じる。
遅相軸角度α単独の値は15°以下であることが好ましく、より好ましくは10°以下、さらに好ましくは8°以下、特に好ましくは5°以下、最も好ましくは3°以下である。また、遅相軸角度のばらつきβ単独の値は5°以下であることが好ましく、より好ましくは2°以下、さらに好ましくは1°以下、特に好ましくは0.5°以下、最も好ましくは0°である。式(2)で表わされる(α+β)の好ましい範囲は、α、βそれぞれの好ましい範囲内から導かれ、その中でも特に好ましくは5°以下であり、最も好ましくは3°以下である。
【0027】
延伸製膜して得られたフィルムは、通常フィルムの両端になるほどボーイング現象により延伸方向と配向軸とのずれが大きくなり、遅相軸角度α及び遅相軸角度のばらつきβが大きくなる傾向にある。本発明においては、フィルムの製膜方法をコントロールすることにより、クリップ部分をスリットして得られたフィルム両端部についても遅相軸角度α及び遅相軸角度のばらつきβを小さくしたものであり、その結果、フィルム両端部まで使用しても液晶ディスプレイの色シフト及び色斑を防止することができる光軸の安定性を確保することができ、表示画像品位の画面内のばらつきの少ない、より高性能の表示画像品位が発現するものである。
【0028】
式2で表される(α+β)を得るためには、フィルム製造方法において詳述するように、フィルムTD方向およびフィルムMD方向の延伸倍率比(R^(TD)/R^(MD))が3.0を超え7.0以下となる範囲で延伸処理を行い、かかるフィルムMD方向の延伸倍率(R^(MD))を0.7倍以上2.0倍以下の範囲で行うことにより一軸配向ポリエステルフィルムを得た後、該ポリエステルのガラス転移点以上、(融点-15℃)以下の範囲で熱固定処理を行い、さらにTD方向の延伸速度を高め、延伸工程におけるMD方向の張力を適度に高くすることによって達成される。
【0029】
(面内位相差)
本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムは、フィルムの面内位相差が1000nm以上であることが好ましい。また、かかる面内位相差は、より好ましくは3000nm以上、さらに好ましくは5000nm以上、特に好ましくは7000nm以上である。」
オ 「【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
・・・略・・・
【0061】
(2)遅相軸角度α
得られたフィルムの最端部から、0.5°の精度でMDおよびTDに平行な、60mm四方の正方形のサンプルを切り出した。該サンプルを、エリプソメーター(日本分光製 装置名 M-220)の複屈折測定用サンプルステージに、0.5°の精度で取り付けた後、自動測定にて550nm入射光に対して最大の位相差を示すサンプルステージ回転移動角度を計測し、遅相軸角度(°)を求めた。TD方向を0°とし、反時計回りに正の値をとるようにした。
両端部にてフィルム製膜方向に100mmおきの5点、合計10点のサンプリングを行い、それらの測定値の絶対値の平均にて評価した。
【0062】
(3)遅相軸角度のばらつきβ
(2)の方法に従って得られた10点の測定結果の標準偏差を求め、この値を3倍してβとした。
【0063】
(4)面内位相差
得られたフィルムの両最端部、中央部、それらの中間位置、の幅方向5点、それら幅方向5箇所の位置について、フィルム製膜方向に100mmおきに5点ずつ、合計25枚のサンプルを切り出し、(2)と同様の測定方法で計測されたサンプルごとの最大位相差をもとに、全サンプルの平均値を求め、フィルムの面内位相差(nm)とした。
また、上記n=25測定におけるサンプルごとの最大位相差の最大値と最小値の差をもって、面内位相差のばらつきとした。
・・・略・・・
【0069】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート(PET)99.93重量%に平均粒径0.15μmのシリカ粒子 0.07重量%を混合したもののペレット(帝人ファイバー(株)製、固有粘度(o-クロロフェノール、25℃)=0.6dl/g)を170℃で3時間乾燥後、一軸混練押出機に供給し、溶融温度285℃で溶融後、フィルターで濾過し、ダイから押出した。
この溶融物を、表面温度25℃の回転冷却ドラム上に押出し、厚み320μmの未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムを、テンター直前の搬送ロールの回転速度がテンターのフィルム把持クリップ移動速度の0.996となるようにテンターに供給し、85℃にて横方向に750%/分の延伸速度で4.0倍に延伸し、引き続きテンター内で定幅を保ったまま、200℃にて1分間の熱処理を施した。テンターから出てきたフィルムを、フィルム把持クリップ移動速度の1.008倍の速度の搬送ロールにて引き取り、さらにフィルムの両端から5%の位置でスリットしてテンタークリップ把持部を取り除き、一定幅の80μm厚みの延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0070】
[実施例2?5、比較例1?3]
表1に示した製造条件以外は、実施例1と同様の条件で、それぞれ延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
・・・略・・・
【0072】
【表2】



(3)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「液晶表示装置」は、ソニー(株)製の垂直配向モードの液晶表示装置“BRAVIA”(対角寸法40インチ=約102cm)の液晶パネルから光出射側及び光入射側の偏光板をそれぞれ別の偏光板に貼り替えただけのものであり、液晶表示装置として、バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配置された液晶セルを有することは技術常識からみて明らかである。
してみると、本願発明1と引用発明とは、
「バックライト光源、2つの偏光板、及び前記2つの偏光板の間に配置された液晶セルを有する液晶表示装置」である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点1
本願発明1では、「液晶セルの視認側の偏光板は、偏光子及びその視認側偏光子保護フィルムとして配向フィルムを有し、前記偏光子の偏光軸に対する、前記配向フィルムの配向軸又は配向軸と直交する軸の傾きは1°以上10°以下であり、前記配向フィルムのリタデーションが3000?30000nmであ」るのに対し、
引用発明では、液晶パネルの光入射側偏光板は、偏光フィルムの片面に面内位相差値R_(0)が3360nmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り付け、この際、偏光フィルムの透過軸と延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度が40度となるよう貼合しているものであるが、液晶パネルの光出射側偏光板は、市販の偏光板(スミカランSRW842E-GL5、住友化学(株)製)であり、該市販の偏光板は、「偏光子及びその視認側偏光子保護フィルムとして配向フィルムを有し」ているかどうか不明であり、「前記偏光子の偏光軸に対する、前記配向フィルムの配向軸又は配向軸と直交する軸の傾きは1°以上10°以下であるか、又、前記配向フィルムのリタデーションが3000?30000nmであ」るかも不明である点。

・相違点2
本願発明1では、「バックライト光源は少なくとも450?650nmの波長領域において発光スペクトルの強度がゼロになることがない白色光源である」のに対し、
引用発明では、「バックライト光源は少なくとも450?650nmの波長領域において発光スペクトルの強度がゼロになることがない白色光源である」かどうか明らかでない点。

(4)判断
上記相違点1について検討する。
ア 引用例1には「【0081】・・・本発明に用いられる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムには、そのフィルムが偏光板の視認側に用いられる場合、偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に、防眩層、ハードコート層、反射防止層、および帯電防止層から選ばれる少なくとも1つの機能層を設けることが好ましい。」(上記(3)ウ)と記載されており、当該記載からみて、引用発明において、光入射側に用いられている延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り付けた粘着剤層付き偏光板を光出射側の偏光板に採用することまでは容易になし得るといえる。
イ 引用例1の【0074】及び【0076】(上記(3)ウ)の記載からみて、引用発明の前記粘着剤層付き偏光板を、光入射側偏光板として適用する場合、偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度は、0度以上15度以下の範囲とすることが好ましいが、光出射側偏光板として適用する場合、偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度が大きいものも好ましく用いることができ、具体的には20度以上50度以下のズレ角度であるものがより好ましいといえる。
ウ してみると、引用発明において、上記アのように、前記粘着剤層付き偏光板を光出射側の偏光板に採用した際に、偏光フィルムの透過軸に対する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸のズレ角度、すなわち、偏光子の偏光軸に対する配向フィルムの配向軸又は配向軸と直交する軸の傾きを1°以上10°以下となすことは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
エ したがって、引用例1には、上記相違点1に係る事項が開示されてなく、しかも、当該事項が原査定で引用された他の引用文献から想到容易であるともいえないから、上記相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者が容易に発明することができたものではない。

(5)引用例2に記載された発明に基づく本願発明1の新規性及び進歩性について
ア 引用例2には、その【0012】に、発明の解決しようとする課題として、一軸配向ポリエステルフィルムにおいて、従来はフィルムの配向方向が不均一になりやすくかったフィルム両端の部位についても配向方向が均一に制御された高度な光軸安定性を有し、フィルム両端部まで支持基材として使用しても液晶ディスプレイの色シフト及び色斑を防止することができる偏光子支持基材用一軸配向ポリエステルフィルムを提供することが記載されている。
イ また、引用例2には、その【0013】及び【0014】に、課題を解決するための手段として、従来の一軸延伸ポリエステルフィルムでは、フィルム製膜中に生じるボーイング現象のためにフィルム両端部位までフィルムの配向方向を均一に制御することが難しく、偏光子支持基材用途に提案されながら実用レベルでの使用が制限されていたところ、延伸工程時に延伸速度および張力も含めて制御することにより、クリップ部分がスリットされる以外はフィルム両端部までフィルムの配向方向が均一に制御され光軸の安定したフィルムが得られ、偏光子支持基材用フィルムとして用いることができることを見出し、具体的には、一軸配向芳香族ポリエステルフィルムにおいて、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(-105)面の配向度、フィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度αおよびフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきβの関係が下記式(1)、(2)を満たす偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムが記載されている。
fc_(TD)(-105)≧0.35 ・・・(1)
(式(1)中、fc_(TD)(-105)は、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(-105)面の配向度を表わす)
0≦α+β≦15° ・・・(2)
(式(2)中、αはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度を表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の平均値で表わされ、βはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきを表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の標準偏差値の3倍で表わされる)。
ウ 引用例2全体の記載を参照しても、上記イのとおり、偏光子支持基材用一軸配向芳香族ポリエステルフィルムの両端部におけるフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度αの記載しかなく、引用例2には、本願発明1の「液晶セルの視認側の偏光板は、偏光子及びその視認側偏光子保護フィルムとして配向フィルムを有し、前記偏光子の偏光軸に対する、前記配向フィルムの配向軸又は配向軸と直交する軸の傾きは1°以上10°以下であり、前記配向フィルムのリタデーションが3000?30000nmであ」るとの構成が記載も示唆もされていない。
エ してみると、引用例2には、上記ウで示した本願発明1の構成が開示されてなく、しかも、当該構成が原査定で引用された他の引用文献から想到容易であるともいえないから、本願発明1は、引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。

(6)本願発明2ないし6について
本願発明1が、引用例1又は引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえないのであるから、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加した本願発明2ないし16も同様に、引用例1又は引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-06-12 
出願番号 特願2012-524431(P2012-524431)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡▲辺▼ 純也後藤 亮治  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 清水 康司
鉄 豊郎
発明の名称 三次元画像表示対応液晶表示装置に適した偏光板及び液晶表示装置  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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