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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1329003
審判番号 不服2016-13045  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-30 
確定日 2017-06-08 
事件の表示 特願2012- 18513「炭化ケイ素半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月15日出願公開、特開2013-157539〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成24年1月31日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年 1月23日 審査請求
平成27年11月 6日 拒絶理由通知
平成28年 1月18日 意見書・手続補正
平成28年 5月25日 拒絶査定
平成28年 8月30日 審判請求・手続補正

第2 補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年8月30日に審判請求と同時にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正により,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1は,本件補正後の請求項1へ補正された。
(1)本件補正前
本件補正前の,特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
炭化ケイ素半導体の(000-1)面,あるいは(11-20)面上に,少なくとも酸素と水分を含むガス中での熱酸化が含まれる工程で前記炭化ケイ素半導体の(000-1)面あるいは(11-20)面に接するようにゲート絶縁膜を形成するゲート絶縁膜形成工程と,
前記ゲート絶縁膜を形成した後に,水素を含んだ雰囲気で熱処理する第1の熱処理工程と,
前記第1の熱処理工程の後に,水素を含んだ雰囲気で熱処理する第2の熱処理工程と,
を含み,
前記第1の熱処理工程の熱処理温度が,前記第2の熱処理工程の熱処理温度以上であることを特徴とする炭化ケイ素半導体装置の製造方法。」
(2)本件補正後
本件補正後の,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。(当審注。補正個所に下線を付した。下記(3)も同じ。)
「【請求項1】
炭化ケイ素半導体の(000-1)面,あるいは(11-20)面上に,少なくとも酸素と水分を含むガス中での熱酸化が含まれる工程で前記炭化ケイ素半導体の(000-1)面あるいは(11-20)面に接するようにゲート絶縁膜を形成するゲート絶縁膜形成工程と,
前記ゲート絶縁膜を形成した後に,水素を含んだ雰囲気で熱処理する第1の熱処理工程と,
前記第1の熱処理工程の後に,前記ゲート絶縁膜形成工程において形成した前記ゲート絶縁膜の一部を除去し開口部を形成する開口部形成工程と,
前記開口部の少なくとも一部にコンタクトメタルを堆積するコンタクトメタル堆積工程と,
前記コンタクトメタル堆積工程において堆積した前記コンタクトメタルと炭化ケイ素の反応層を形成するための,水素を含んだ雰囲気で熱処理する第2の熱処理工程と,
を含み,
前記第1の熱処理工程の熱処理温度が,前記第2の熱処理工程の熱処理温度以上であることを特徴とする炭化ケイ素半導体装置の製造方法。」
(3)補正事項
本件補正は,本件補正前の請求項1に「前記ゲート絶縁膜形成工程において形成した前記ゲート絶縁膜の一部を除去し開口部を形成する開口部形成工程と,
前記開口部の少なくとも一部にコンタクトメタルを堆積するコンタクトメタル堆積工程と,
前記コンタクトメタル堆積工程において堆積した前記コンタクトメタルと炭化ケイ素の反応層を形成するための,」を付加する補正(以下,「本件補正事項」という。)を含むものである。
2 補正の適否
本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項2の記載からみて,本件補正事項は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであるから,特許法17条の2第3項の規定に適合する。
また,本件補正事項は,特許請求の範囲の減縮を目的とするから,特許法17条の2第4項の規定に適合し,同条5項2号に掲げるものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項)につき,更に検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は,本件補正後の請求項1に記載された,次のとおりのものと認める。(再掲)
「炭化ケイ素半導体の(000-1)面,あるいは(11-20)面上に,少なくとも酸素と水分を含むガス中での熱酸化が含まれる工程で前記炭化ケイ素半導体の(000-1)面あるいは(11-20)面に接するようにゲート絶縁膜を形成するゲート絶縁膜形成工程と,
前記ゲート絶縁膜を形成した後に,水素を含んだ雰囲気で熱処理する第1の熱処理工程と,
前記第1の熱処理工程の後に,前記ゲート絶縁膜形成工程において形成した前記ゲート絶縁膜の一部を除去し開口部を形成する開口部形成工程と,
前記開口部の少なくとも一部にコンタクトメタルを堆積するコンタクトメタル堆積工程と,
前記コンタクトメタル堆積工程において堆積した前記コンタクトメタルと炭化ケイ素の反応層を形成するための,水素を含んだ雰囲気で熱処理する第2の熱処理工程と,
を含み,
前記第1の熱処理工程の熱処理温度が,前記第2の熱処理工程の熱処理温度以上であることを特徴とする炭化ケイ素半導体装置の製造方法。」
(2)引用文献1の記載
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された,特開2008-244456号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
(ア)「【請求項15】
前記熱処理工程を、前記ゲート絶縁膜形成工程の後に前記ゲート絶縁膜(6、38、68)と前記チャネル領域(2、34、64)との界面の特性改善のためのアニール処理として行うことを特徴とする請求項6ないし14のいずれか1つに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
・・・
【請求項18】
前記アニール処理の昇温時から降温時にかけて、650℃以上の温度域でウェット雰囲気もしくは水素雰囲気を維持し続けることを特徴とする請求項15ないし17のいずれか1つに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は,MOS構造において界面準位密度の低減を図ることができる炭化珪素(以下,SiCという)半導体装置およびその製造方法に関するものである。」
(ウ)「【0005】
本発明は上記点に鑑みて、(000-1)C面において界面準位密度を低減して、チャネル移動度の向上を図ることができるSiC半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。」
(エ)「【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため,本発明者らは,(000-1)C面を主表面とするSiC基板を用いてMOS構造の半導体素子を製造するに際し,特許文献1に示される従来手法,つまりウェットアニール,または,水素アニールを実施した場合に界面準位密度の低減が図れるかについて検討を行ったところ,単にゲート酸化膜をウェット雰囲気で所定濃度もしくは所定温度で形成するだけ,もしくは,単に水素アニールを所定濃度もしくは所定温度で行っただけでは界面準位密度を低減できないことが確認された。
【0007】
界面準位密度を低減させるには,SiCとゲート酸化膜との界面のダングリングボンドがHもしくはOHの元素で終端されるようにすることが考えられる。具体的には,ゲート酸化膜のうちSiCと接する下層部の欠陥箇所にHもしくはOHが入り込んだ状態が保たれると,界面準位密度を低減させることが可能となる。
【0008】
このような構造を実現すべく,本発明者が鋭意検討を行ったところ,SiCとゲート酸化膜との界面のダングリングボンドをHもしくはOHにより終端する温度,言い換えると脱離する温度(以下,終端・脱離温度という)が決まっており,その終端・脱離温度において,HもしくはOHが脱離してしまわない雰囲気となっているか否かが,上記構造を実現する上で重要であることが確認された。
【0009】
すなわち,終端・脱離温度では,HもしくはOHの終端,脱離が行われるため,この温度で終端よりも脱離が優位な状況下であれば脱離が生じることになり,脱離よりも終端が優位な状況下であれば脱離を防ぐことが可能となる。
【0010】
このため,ウェット雰囲気でゲート酸化を行ったとしても,終端・脱離温度となるときにウェット雰囲気でなくなっていれば,ダングリングボンドからHもしくはOHが脱離してしまい,上記構造を実現できない。また,水素アニールを行ったとしても,終端・脱離温度を超えるような温度下で常に水素雰囲気となっていなければHもしくはOHが脱離していき,結局上記構造を実現できなくなる。」
(オ)「【0137】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について説明する。本実施形態は、プレーナ型MOSFETに対して本発明の一実施形態を適用したものである。図14に、プレーナ型MOSFETの断面構成を示すと共に、図15?図19に、図14に示すプレーナ型MOSFETの製造工程を示し、これらを参照して、本実施形態のプレーナ型MOSFETの構造および製造方法について説明する。
【0138】
図14に示すように、一面側を主表面とするSiCからなるn^(+)型の基板61にプレーナ型MOSFETが形成されている。n^(+)型の基板61には、例えば、4H-SiCで主表面が(000-1)C面で、不純物濃度が5×10^(18)cm^(-3)程度のものが用いられている。
・・・
【0149】
次に、図15?図19を用いて、図14に示すプレーナ型MOSFETの製造方法について説明する。
【0150】
まず、図15(a)に示されるように、n^(+)型の基板61を用意したのち、図15(b)に示されるように、基板61の主表面にn型ドリフト層62を不純物濃度が1×10^(16)cm^(-3)程度、厚さが10μmとなるようにエピタキシャル成長させる。
【0151】
その後、図15(c)に示されるように、例えばLTO80を成膜したのち、フォトリソグラフィ工程を経て、p型ベース領域63の形成予定領域上においてLTO80を開口させる。そして、LTO80をマスクとして、n型ドリフト層62の表層部にp型不純物となるAlをイオン注入する。その後、図15(d)に示されるように、LTO80を除去し、1600℃、30分間の活性化アニールを行うことで、例えば、不純物濃度が1×10^(19)cm^(-3)程度の濃度、深さが0.7μmとなるp型ベース領域63を形成する。
【0152】
続いて、このp型ベース領域63の上に、図16(a)に示されるように、例えば、1×10^(16)cm^(-3)程度の濃度、膜厚(深さ)を0.3μmとしたチャネルエピ層64をエピタキシャル成長させる。

・・・
【0157】
続いて、ゲート酸化膜形成工程を行い、図17(c)に示すようにゲート酸化膜68を形成する。具体的には、ウェット雰囲気を用いたパイロジェニック法によるゲート酸化によりゲート酸化膜68を形成している。このとき、ゲート酸化膜形成工程の雰囲気および温度コントロールを第1実施形態で示した図4のようにして行っている。
・・・
【0164】
この後,図19(a)に示すように,層間絶縁膜70をパターニングする。これにより,層間絶縁膜70およびゲート酸化膜68に,コンタクト領域65やn^(+)型ソース領域66,67に繋がるコンタクトホール71が形成される。
【0165】
そして,図19(b)に示すように,コンタクトホール71内を埋め込むようにNi膜を成膜したのち,Ni膜をパターニングすることで,各種ソース電極72のコンタクト部72aを形成する。さらに,図19(c)に示すように,ドレインコンタクト領域73と接するように,基板61の裏面側にNiによるドレイン電極74を形成する。
【0166】
この後,コンタクト部72aおよびドレイン電極74をオーミック接触とするために,Ar雰囲気中で650℃以下のアニール処理を行う。このとき,コンタクト領域65,n^(+)型ソース領域66,67が上記のように高濃度とされているため,高温の熱処理工程などを行わなくても,十分に各種電極72aとオーミック接触となる。
【0167】
ただし,水素雰囲気中でアニール処理を行うようにすれば,650℃以上の熱処理を行うことも可能となる。このように水素雰囲気を用いれば,例えば1000℃のアニール処理を行うことも可能となり,ゲート酸化膜68とチャネルエピ層64の界面のダングリングボンドからHもしくはOHの脱離を抑制し,コンタクト抵抗の低減を図ることが可能となる。」
(カ)「【0177】
(2)上記各実施形態では,ゲート酸化膜形成工程の降温時にウェット雰囲気とする場合を示したが,ゲート酸化膜形成工程の後に,ウェット雰囲気もしくは水素雰囲気を用いて特性改善のためのアニール処理を行うようにしても良い。
【0178】
例えば,第1実施形態の図3(a)に示す工程を以下のように行った後,続けて,ウェット雰囲気を用いたアニール処理を行う。図20は,ウェット雰囲気を用いたアニールプロセスの雰囲気および温度コントロールの概略を示したものである。
【0179】
まず,例えばCVD装置などを用い,800℃にてN_(2)OおよびSiH_(4)ガスを導入することでHTOを成膜し,ゲート酸化膜6を形成する。この後,ウェット雰囲気を用いたアニールプロセスを行う。
【0180】
すなわち,室温から1080℃までの間は,窒素(N_(2))雰囲気として10℃/minの温度勾配で昇温させる。そして,1080℃に至ったらウェット(H_(2)O)雰囲気にして10分間温度を保持することでアニール処理を行う。その後,ウェット雰囲気を維持したまま,10℃/minで降温させる。このとき,600℃以下に降温するまでウェット雰囲気を維持する。
【0181】
このように,ゲート酸化膜形成工程後にアニール処理を行い,アニール処理の降温時にウェット雰囲気を維持する。これにより,ゲート酸化膜6とチャネル領域を構成するp型ベース層2の界面のダングリングボンドをHもしくはOHの元素で終端させることができる。
【0182】
このようにしても,上記各実施形態と同様の効果を得ることができる。なお,このようにゲート酸化膜形成工程後にアニール処理を行うのであれば,上記のように,ゲート酸化膜をウェット酸化以外の手法で形成しても良いし,酸化膜ではなく他の種類の絶縁膜によってゲート絶縁膜を形成しても良い。
【0183】
勿論,ゲート酸化膜6,38,68をウェット雰囲気によって形成した後に,更なる特性改善を目的として,このようなアニール処理を行っても有効である。」
(キ)図17(c)には,n^(+)型の基板61,n型ドリフト層62及びチャネルエピ層64の主表面に接するようにゲート酸化膜68を形成することが,記載されていると認められる。
イ 引用発明
前記アより,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「4H-SiCで主表面が(000-1)C面のn^(+)型の基板,n型ドリフト層及びチャネルエピ層の主表面に接するようにゲート酸化膜を形成する,ウェット雰囲気を用いたパイロジェニック法によるゲート酸化膜形成工程と,
ゲート酸化膜に,コンタクトホールが形成され,コンタクトホール内を埋め込むようにNi膜を成膜しオーミック接触とするために水素雰囲気中で1000℃のアニール処理を行う,MOSFETの製造方法で,
ゲート酸化膜形成工程の後に,水素雰囲気を用いて特性改善のためのアニール処理を行うこと。」
(3)本願補正発明と引用発明との対比
ア 引用発明の「4H-SiCで主表面が(000-1)C面のn^(+)型の基板,n型ドリフト層及びチャネルエピ層の主表面に接するようにゲート酸化膜を形成する,ウェット雰囲気を用いたパイロジェニック法によるゲート酸化膜形成工程」は,本願補正発明の「炭化ケイ素半導体の(000-1)面上に,少なくとも酸素と水分を含むガス中での熱酸化が含まれる工程で前記炭化ケイ素半導体の(000-1)面に接するようにゲート絶縁膜を形成するゲート絶縁膜形成工程」に相当すると認められる。
イ 引用発明の「ゲート酸化膜形成工程の後に,水素雰囲気を用いて特性改善のためのアニール処理を行うこと」は,本願補正発明の「前記ゲート絶縁膜を形成した後に,水素を含んだ雰囲気で熱処理する第1の熱処理工程」に相当すると認められる。
ウ 引用発明の「ゲート酸化膜に,コンタクトホールが形成され,コンタクトホール内を埋め込むようにNi膜を成膜しオーミック接触とするために水素雰囲気中で1000℃のアニール処理を行う」は,本願補正発明の「前記第1の熱処理工程の後に,前記ゲート絶縁膜形成工程において形成した前記ゲート絶縁膜の一部を除去し開口部を形成する開口部形成工程と,前記開口部の少なくとも一部にコンタクトメタルを堆積するコンタクトメタル堆積工程と,前記コンタクトメタル堆積工程において堆積した前記コンタクトメタルと炭化ケイ素の反応層を形成するための,水素を含んだ雰囲気で熱処理する第2の熱処理工程」に相当すると認められる。
エ 引用発明の「MOSFETの製造方法」は,下記相違点を除いて,本願補正発明の「炭化ケイ素半導体装置の製造方法」に相当すると認められる。
オ すると,本願補正発明と引用発明とは,下記カの点で一致し,下記キの点で相違すると認められる。
カ 一致点
「炭化ケイ素半導体の(000-1)面上に,少なくとも酸素と水分を含むガス中での熱酸化が含まれる工程で前記炭化ケイ素半導体の(000-1)面に接するようにゲート絶縁膜を形成するゲート絶縁膜形成工程と,
前記ゲート絶縁膜を形成した後に,水素を含んだ雰囲気で熱処理する第1の熱処理工程と,
前記第1の熱処理工程の後に,前記ゲート絶縁膜形成工程において形成した前記ゲート絶縁膜の一部を除去し開口部を形成する開口部形成工程と,
前記開口部の少なくとも一部にコンタクトメタルを堆積するコンタクトメタル堆積工程と,
前記コンタクトメタル堆積工程において堆積した前記コンタクトメタルと炭化ケイ素の反応層を形成するための,水素を含んだ雰囲気で熱処理する第2の熱処理工程と,
を含むことを特徴とする炭化ケイ素半導体装置の製造方法。」
キ 相違点
本願補正発明では「前記第1の熱処理工程の熱処理温度が,前記第2の熱処理工程の熱処理温度以上である」のに対し,引用発明では「水素雰囲気を用いて特性改善のためのアニール処理」の熱処理温度が不明で,したがって,「オーミック接触とするために水素雰囲気中で1000℃のアニール処理」における1000℃以上であるか不明である点。
(4)相違点についての検討
引用発明において「水素雰囲気を用いて特性改善のためのアニール処理」を行うためにはその処理温度を設定しなければならないが,引用文献1において,特性改善のためのアニール処理はウェット雰囲気にして1080℃であること(前記(2)ア(カ)),終端・離脱温度が決まっており,水素アニールは終端・離脱温度を超えるような温度下で常に水素雰囲気とすべきこと(前記(2)ア(エ)),特性改善のためのアニール処理は650℃以上の温度域でウェット雰囲気もしくは水素雰囲気を維持し続けること(前記(2)ア(ア))が開示されているから,ウェット雰囲気での1080℃と同様に水素雰囲気においても1080℃程度でアニール処理を行うことは,当業者が容易に思いつくことである。してみると,相違点に係る構成は当業者が容易に導出できることである。
(5)本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は,引用文献1における開示(前記(2)ア(ウ))を参照すれば,引用発明の構成から当業者が予測できる程度のもので,格別なものではない。
(6)まとめ
本願補正発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 むすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明の特許性の有無について
1 本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成28年1月18日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された,次のとおりのものと認める。
「炭化ケイ素半導体の(000-1)面,あるいは(11-20)面上に,少なくとも酸素と水分を含むガス中での熱酸化が含まれる工程で前記炭化ケイ素半導体の(000-1)面あるいは(11-20)面に接するようにゲート絶縁膜を形成するゲート絶縁膜形成工程と,
前記ゲート絶縁膜を形成した後に,水素を含んだ雰囲気で熱処理する第1の熱処理工程と,
前記第1の熱処理工程の後に,水素を含んだ雰囲気で熱処理する第2の熱処理工程と,
を含み,
前記第1の熱処理工程の熱処理温度が,前記第2の熱処理工程の熱処理温度以上であることを特徴とする炭化ケイ素半導体装置の製造方法。」
2 引用発明
引用発明は,前記第2の2(2)のとおりである。
3 判断
本願発明は,本願補正発明から「前記ゲート絶縁膜形成工程において形成した前記ゲート絶縁膜の一部を除去し開口部を形成する開口部形成工程と,前記開口部の少なくとも一部にコンタクトメタルを堆積するコンタクトメタル堆積工程と,前記コンタクトメタル堆積工程において堆積した前記コンタクトメタルと炭化ケイ素の反応層を形成するための,」という発明特定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明にさらに前記発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が,前記第2の2のとおり,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様に,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第4 結言
したがって,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-10 
結審通知日 2017-04-11 
審決日 2017-04-24 
出願番号 特願2012-18513(P2012-18513)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 市川 武宜川原 光司岩本 勉  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 深沢 正志
小田 浩
発明の名称 炭化ケイ素半導体装置の製造方法  
代理人 酒井 昭徳  
代理人 酒井 昭徳  

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