• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23B
管理番号 1329060
異議申立番号 異議2016-700858  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-13 
確定日 2017-04-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5889310号発明「農作物の鮮度保持方法および生鮮農作物の生産方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5889310号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。 特許第5889310号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5889310号の請求項1、2に係る特許についての出願は、2012年8月30日(優先権主張2011年8月30日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年2月26日に特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人西林博より特許異議の申立がされ、平成28年11月25日付けで取消理由が通知され、平成29年1月27日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、その後、特許法第120条の5第5項の規定により期間を指定して特許異議申立人に意見書の提出する機会を与えたが、意見書は提出されなかったものである。

2.訂正の請求についての判断
(1)訂正の内容
平成29年1月27日の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第5889310号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?2について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。

(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1に「前記近赤外光が700?1000nmの範囲の単波長光であるか、または、前記近赤外光が波長分布を有し、中心波長が700?1000nmの範囲であり」とあるのを、「前記近赤外光が800nmを超え1000nm以下の範囲の単波長光であるか、または、前記近赤外光が波長分布を有し、中心波長が800nmを超え1000nm以下の範囲であり」に訂正する。

(訂正事項2)
明細書の【発明の名称】に「農作物の鮮度保持方法」とあるのを、「農作物の鮮度保持方法および生鮮農作物の生産方法」に訂正する。

(訂正事項3)
明細書の【0001】に「本発明は、農作物の鮮度保持方法に関する。」とあるのを、「本発明は、農作物の鮮度保持方法および生鮮農作物の生産方法に関する。」に訂正する。

(訂正事項4)
明細書の【0006】に「そこで、本発明は、簡単かつ低コストで、薬剤を使用することなく、加熱を伴わず、広範囲の農作物に適用可能で、対象農作物全体に均一な鮮度保持効果が得られる農作物の鮮度保持方法を提供することを目的とする。」とあるのを、「そこで、本発明は、簡単かつ低コストで、薬剤を使用することなく、加熱を伴わず、広範囲の農作物に適用可能で、対象農作物全体に均一な鮮度保持効果が得られる農作物の鮮度保持方法および生鮮農作物の生産方法を提供することを目的とする。」に訂正する。

(訂正事項5)
明細書の【0007】に「前記目的を達成するために、本発明の農作物の鮮度保持方法は、農作物に近赤外光を照射することを特徴とする。」とあるのを、「前記目的を達成するために、本発明の農作物の鮮度保持方法は、農作物に近赤外光を照射し、前記農作物が、生鮮野菜類(根菜類およびニンニクを除く)、生鮮果実類および生鮮花卉類からなる群から選択された少なくとも1つであり、前記近赤外光が800nmを超え1000nm以下の範囲の単波長光であるか、または、前記近赤外光が波長分布を有し、中心波長が800nmを超え1000nm以下の範囲であり、前記近赤外光を、0.1μmol/m^(2)/s?10μmol/m^(2)/sで1分以上、10μmol/m^(2)/sを超え200μmol/m^(2)/s未満で10秒以上、または、200μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sで1ナノ秒?10秒照射することを特徴とする。また、本発明の生鮮農作物の生産方法は、生鮮農作物の生産方法であって、収穫後の農作物に対し、鮮度保持処理を行う鮮度保持処理工程を含み、前記鮮度保持処理工程が、本発明の農作物の鮮度保持方法により行われることを特徴とする。」に訂正する。

(訂正事項6)
明細書の【0012】に「本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の波長は、700nm?2500nmの範囲であることが好ましい。」とあるのを、「本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の波長は、前述のとおり、前記近赤外光が800nmを超え1000nm以下の範囲の単波長光であるか、または、前記近赤外光が波長分布を有し、中心波長が800nmを超え1000nm以下の範囲である。」に訂正する。
(訂正事項7)
明細書の【0013】に「本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の照射光強度は、0.1μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sの範囲であることが好ましい。」とあるのを、「本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の照射光強度は、前述のとおり、0.1μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sの範囲である。」に訂正する。

(訂正事項8)
明細書の【0014】に「本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の照射時間は、1ナノ秒?72時間の範囲であることが好ましい。」とあるのを、「本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の照射時間は、前述のとおり、0.1μmol/m^(2)/s?10μmol/m^(2)/sで1分以上、10μmol/m^(2)/sを超え200μmol/m^(2)/s未満で10秒以上、または、200μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sで1ナノ秒?10秒の範囲である。」に訂正する。

(訂正事項9)
明細書の【0015】に「本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記農作物は、野菜類、果実類、花卉類であることが好ましい。」とあるのを、「本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記農作物は、前述のとおり、生鮮野菜類(根菜類およびニンニクを除く)、生鮮果実類および生鮮花卉類からなる群から選択された少なくとも1つである。」に訂正する。

(訂正事項10)
明細書の【0024】に「本発明の生産方法は、生鮮農作物の生産方法であって、収穫後の農作物に対し、鮮度保持処理を行う鮮度保持処理工程を含み、前記鮮度保持処理工程が、本発明の農作物の鮮度保持方法により行われることを特徴とする。」とあるのを、「本発明の生鮮農作物の生産方法は、前述のとおり、生鮮農作物の生産方法であって、収穫後の農作物に対し、鮮度保持処理を行う鮮度保持処理工程を含み、前記鮮度保持処理工程が、本発明の農作物の鮮度保持方法により行われることを特徴とする。」に訂正する。

(訂正事項11)
明細書の【0027】に「本発明の適用対象である農作物は、特に制限されないが、例えば、前述のとおり、通常行われている利用部位による分類(園芸的分類または人為的分類と呼ばれる)における、野菜類、果実類、花卉類であることが好ましい。」とあるのを、「本発明の適用対象である農作物は、前述のとおり、生鮮野菜類(根菜類およびニンニクを除く)、生鮮果実類および生鮮花卉類からなる群から選択された少なくとも1つであり、例えば、通常行われている利用部位による分類(園芸的分類または人為的分類と呼ばれる)における、生鮮野菜類、生鮮果実類、生鮮花卉類である。」に訂正する。

(訂正事項12)
明細書の【0028】に「ネギ、細ネギ、アサツキ、ニラ、アスパラガス、ウド、コールラビ、ザーサイ、タケノコ、ニンニク、ヨウサイ、ネギ、ワケギ、タマネギなどの茎菜類、」とあるのを、「ネギ、細ネギ、アサツキ、ニラ、アスパラガス、ウド、コールラビ、ザーサイ、タケノコ、ヨウサイ、ネギ、ワケギ、タマネギなどの茎菜類、」に訂正し、「根菜類(カブ、ダイコン、ハツカダイコン、ワサビ、ホースラディッシュ、ゴボウ、チョロギ、ショウガ、ニンジン、ラッキョウ、レンコン、ユリ根などに加えて、サツマイモ、サトイモ、ジャガイモ、ナガイモ(大和芋)、ヤマノイモ(山芋、自然薯)などのイモ類を含む)、」とあるのを、「、」に訂正する。

(訂正事項13)
明細書の【0032】に「前述のように、本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の波長は、700nm?2500nmの範囲であることが好ましい。前記近赤外光の波長は、より好ましくは750nm?1100nmの範囲であり、さらに好ましくは750nm?1000nmの範囲である。本発明において、照射する近赤外光は、レーザーのような単波長のものでもよいし、波長分布を有するものでもよい。蛍光灯、LED等のように前記波長分布を有するものの場合、中心波長(ピーク波長)が前記の範囲内にあることが好ましい」とあるのを、「前述のように、本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の波長は、前記近赤外光が800nmを超え1000nm以下の範囲の単波長光であるか、または、前記近赤外光が波長分布を有し、中心波長が800nmを超え1000nm以下の範囲である。本発明において、照射する近赤外光は、レーザーのような単波長のものでもよいし、波長分布を有するものでもよい。蛍光灯、LED等のように前記波長分布を有するものの場合、中心波長(ピーク波長)が前記の範囲内にある。」に訂正する。

(訂正事項14)
明細書の【0033】に「前述のように、本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の照射光強度は、0.1μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sの範囲であることが好ましい。前記近赤外光の照射光強度は、より好ましくは1μmol/m^(2)/s?200μmol/m^(2)/sの範囲であり、さらに好ましくは1μmol/m^(2)/s?150μmol/m^(2)/sの範囲である。」とあるのを、「前述のように、本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の照射光強度は、0.1μmol/m^(2)/s?10μmol/m^(2)/sで1分以上、10μmol/m^(2)/sを超え200μmol/m^(2)/s未満で10秒以上、または、200μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sで1ナノ秒?10秒の範囲である。」に訂正する。

(訂正事項15)
明細書の【0035】に「また、本発明において、例えば、200μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sの範囲のような大光量、例えば、フラッシュのような光量で照射する場合には、照射時間は、例えば、1ナノ秒?10秒の範囲であることが好ましく、より好ましくは1マイクロ秒?1秒の範囲である。」とあるのを、「また、本発明において、例えば、200μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sの範囲の大光量、例えば、フラッシュのような光量で照射する場合には、照射時間は、1ナノ秒?10秒の範囲であり、好ましくは1マイクロ秒?1秒の範囲である。」に訂正する。

(訂正事項16)
明細書の【0039】に「前記照射器具は、レーザーのように単波長を照射するものであってもよいし、波長700nm?2500nmに中心波長をもつ光を照射するものであってもよい。」とあるのを、「前記照射器具は、レーザーのように単波長を照射するものであってもよいし、波長800nmを超え1000nm以下の範囲に中心波長をもつ光を照射するものであってもよい。」に訂正する。

(訂正事項17)
明細書の【0066】に「中心波長700nmから1000nmの近赤外光を、照射光強度を100μmol/m^(2)/s、15μmol/m^(2)/sとして5分間照射し、蒸散量を求めた。」とあるのを、「参考例として中心波長700nmから800nm、および実施例として800nmを超え1000nm以下の近赤外光を、照射光強度を100μmol/m^(2)/s、15μmol/m^(2)/sとして5分間照射し、蒸散量を求めた。」に訂正する。

(2)訂正の適否
(訂正事項1について)
ア 訂正の目的
上記訂正事項1は、近赤外光に関して、単波長光のものにおいて、波長を「700?1000nm」から「800nmを超え1000nm以下」へとその範囲を狭め、波長分布を有するものにおいて、中心波長を「700?1000nm」から「800nmを超え1000nm以下」へとその範囲を狭めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項1は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、訂正前の請求項1に近赤外光について「700?1000nm」の範囲であることが記載されているところ、当該「700?1000nm」の範囲から単に700?800nmの範囲を除いたものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(訂正事項2?4、10について)
ア 訂正の目的
上記訂正事項2?4、10は、訂正後の請求項1が「農作物の鮮度保持方法」であって、請求項2が「生鮮農作物の生産方法」であることから、【発明の名称】、【0001】、【0006】及び【0024】の記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項2?4、10は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2?4、10は、請求項1に「農作物の鮮度保持方法」が、請求項2に「生鮮農作物の生産方法」が記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(訂正事項5について)
ア 訂正の目的
上記訂正事項5は、訂正後の請求項1の「前記近赤外光が800nmを超え1000nm以下の範囲の単波長光であるか、または、前記近赤外光が波長分布を有し、中心波長が800nmを超え1000nm以下の範囲であ」ること及び訂正後の請求項2に、【0007】の記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項5は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項5は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(訂正事項6、13、16、17について)
ア 訂正の目的
上記訂正事項6、13、16、17は、訂正後の請求項1の「前記近赤外光が800nmを超え1000nm以下の範囲の単波長光であるか、または、前記近赤外光が波長分布を有し、中心波長が800nmを超え1000nm以下の範囲であ」ることに、【0012】、【0032】、【0039】及び【0066】の記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項6、13、16、17は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項6、13,16,17は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(訂正事項7、8、14、15について)
ア 訂正の目的
上記訂正事項7、8、14、15は、訂正後の請求項1の「前記近赤外光を、0.1μmol/m^(2)/s?10μmol/m^(2)/sで1分以上、10μmol/m^(2)/sを超え200μmol/m^(2)/s未満で10秒以上、または、200μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sで1ナノ秒?10秒照射する」ことに、【0013】、【0014】、【0033】及び【0035】の記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項7、8、14、15は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項7、8、14、15は、上アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(訂正事項9、11、12について)
ア 訂正の目的
上記訂正事項9、11、12は、訂正後の請求項1の「前記農作物が、生鮮野菜類(根菜類およびニンニクを除く)、生鮮果実類および生鮮花卉類からなる群から選択された少なくとも1つであ」ることに、【0015】、【0027】及び【0028】の野菜類の列挙の記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項9,11、12は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項9、11、12は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1、2についての訂正を認める。

3.本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された以下の事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
農作物に近赤外光を照射し、
前記農作物が、生鮮野菜類(根菜類およびニンニクを除く)、生鮮果実類および生鮮花卉類からなる群から選択された少なくとも1つであり、
前記近赤外光が800nmを超え1000nm以下の範囲の単波長光であるか、または、前記近赤外光が波長分布を有し、中心波長が800nmを超え1000nm以下の範囲であり、
前記近赤外光を、0.1μmol/m^(2)/s?10μmol/m^(2)/sで1分以上、10μmol/m^(2)/sを超え200μmol/m^(2)/s未満で10秒以上、または、200μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sで1ナノ秒?10秒照射することを特徴とする農作物の鮮度保持方法。
【請求項2】
生鮮農作物の生産方法であって、
収穫後の農作物に対し、鮮度保持処理を行う鮮度保持処理工程を含み、
前記鮮度保持処理工程が、請求項1記載の農作物の鮮度保持方法により行われることを特徴とする生産方法。」

4.当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について(特許法第29条第2項)ア 取消理由の概要
平成28年11月25日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。

請求項1、2に係る特許は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから取り消すべきものである

甲第1号証:特開平3-22946号公報
甲第2号証:特開2010-187598号公報

イ 取消理由についての判断
(ア)甲第1号証記載の発明
甲第1号証(2頁右下欄18行?3頁左上欄9行)には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

「穀物に760ナノメートル±20の光線を所定時間照射し、
穀物を長期間保存に適した状態とする方法。」

(イ)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「穀物」は、本件特許明細書の【0028】を参照すると本件発明1の「生鮮野菜類(根菜類およびニンニクを除く)」及び「農作物」に相当し、同様に、「穀物を長期間保存に適した状態とする方法」は「農作物の鮮度保持方法」に相当する。また、甲1発明の「760ナノメートル±20の光線を所定時間照射」することと本件発明1の「近赤外光を照射し、」「前記近赤外光が800nmを超え1000nm以下の範囲の単波長光であるか、または、前記近赤外光が波長分布を有し、中心波長が800nmを超え1000nm以下の範囲であり、前記近赤外光を、0.1μmol/m^(2)/s?10μmol/m^(2)/sで1分以上、10μmol/m^(2)/sを超え200μmol/m^(2)/s未満で10秒以上、または、200μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sで1ナノ秒?10秒照射すること」とは、「光線を所定時間照射」することの限りで一致する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「農作物に光線を所定時間照射し、
前記農作物が、生鮮野菜類(根菜類およびニンニクを除く)、生鮮果実類および生鮮花卉類からなる群から選択された少なくとも1つである、
農作物の鮮度保持方法。」

<相違点>
光線を所定時間照射することについて、本件発明1では、「近赤外光を照射し、」「前記近赤外光が800nmを超え1000nm以下の範囲の単波長光であるか、または、前記近赤外光が波長分布を有し、中心波長が800nmを超え1000nm以下の範囲であり、前記近赤外光を、0.1μmol/m^(2)/s?10μmol/m^(2)/sで1分以上、10μmol/m^(2)/sを超え200μmol/m^(2)/s未満で10秒以上、または、200μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sで1ナノ秒?10秒照射すること」であるのに対して、甲1発明では、760ナノメートル±20の光線であり、照射強度及び照射時間は特定されていない点。

(ウ)当審の判断
上記相違点に関し、照射強度及び照射時間を好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎないといえるとしても、800nmを超え1000nm以下の範囲の単波長光であるか、または、中心波長が800nmを超え1000nm以下の範囲である波長分布を有する近赤外光を照射することで、生鮮野菜類(根菜類およびニンニクを除く)、生鮮果実類および生鮮花卉類の鮮度を保持することは、甲第1号証及び甲第2号証に記載及び示唆されておらず、また、周知であるとも認められない。
よって、甲1発明において、760ナノメートル±20の光線を上記相違点に係る本件発明1の範囲内のものに変更する動機付けがあるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含む生鮮農作物の生産方法であるから、同様の理由により、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4.むすび
以上のとおり、特許異議申立の理由及び証拠によっては、請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
農作物の鮮度保持方法および生鮮農作物の生産方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物の鮮度保持方法および生鮮農作物の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物の生産・流通・貯蔵において、収穫後の鮮度の保持は、商品価値に大きく影響するため極めて重要である。農作物の鮮度は、例えば、重量減少量(蒸散量)などによって評価することができる。多くの農作物において、収穫時の重量に対し5%の減量がおこると、商品としての品質が、著しく損なわれる。農作物の鮮度を保持する技術として、農作物の呼吸および蒸散を抑制するために、古くから冷蔵が汎用されている。しかしながら、冷蔵にはコストがかかる上に、輸送中などで冷蔵が十分にできないケース、または冷蔵によっても鮮度が十分に保てないケースがあり、あらたな鮮度保持方法が研究され、一部では実用化されている。例えば、非特許文献1には、フィルム等を用いたガス環境の制御方法が提案されている。また、非特許文献2には、農作物の鮮度、老化、成熟に関与する植物ホルモンであるエチレンの作用を抑制するために、アミノエトキシビニルグリシン(AVG)などのエチレン生成阻害剤、またはチオ硫酸銀錯塩もしくは1-メチルシクロプロパン(MCP)などのエチレン作用阻害剤が、農作物の鮮度保持および貯蔵に効果があることが示されている。そして、特許文献1には、収穫後予措中のスダチに遠赤外線を照射する、スダチの鮮度保持方法が、開示されている。これは、スダチの果皮表面を遠赤外線によって加熱することで、色つやがなくなる・黄色味を帯びる等の果皮障害の発生を抑制する技術である。さらに、特許文献2には、葉菜類を収納する収納容器を備え、収納容器の上方に弱光照射装置を配置した冷蔵庫が、開示されている。これは、弱光照射によりクロロフィルの分解を抑制して、緑色葉菜類の緑色を維持し、かつ、ビタミンCの減少を抑制する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-90659号公報
【特許文献2】特開2002-267348号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】岩元睦夫他、「青果物・花き鮮度管理ハンドブック」、(株)サイエンスフォーラム(東京)、1991年発行、p181?p193
【非特許文献2】小柴共一他、「新しい植物ホルモンの科学」、(株)講談社サイエンティフィク(東京)、2002年発行、p99?p100
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1記載の技術は、フィルムによる包装等が必要であるため、実施するには手間とコストがかかる。また、非特許文献2記載の技術は、薬剤の安全性の点から、食用に供する農作物では使用上大きな制約を受ける。一方、特許文献1記載の技術は、フィルムによる包装等、および薬剤の使用を伴わないが、遠赤外線照射による加熱を伴うものであるため、例えば、冷蔵庫などにおける低温貯蔵の冷却効率を下げる。また、特許文献1記載の技術は、適用対象が果物のみに限定され、野菜類などには効果がなく、適用できる農作物の範囲が狭い。そして、特許文献2記載の技術は、例えば、対象農作物が二段に重ねられて収納容器に入れられた場合、上段の農作物のみに光があたり、下段の農作物には光があたらないため、収納された農作物全体に鮮度保持効果を得ることができない。さらに、特許文献2記載の技術は、適用対象が緑色葉菜類のみに限定されており、特許文献1記載の技術同様、適用できる農作物の範囲が狭い。なお、これらの問題点は、本発明者が検討し、見出したものである。
【0006】
そこで、本発明は、簡単かつ低コストで、薬剤を使用することなく、加熱を伴わず、広範囲の農作物に適用可能で、対象農作物全体に均一な鮮度保持効果が得られる農作物の鮮度保持方法および生鮮農作物の生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の農作物の鮮度保持方法は、農作物に近赤外光を照射し、前記農作物が、生鮮野菜類(根菜類およびニンニクを除く)、生鮮果実類および生鮮花卉類からなる群から選択された少なくとも1つであり、前記近赤外光が800nmを超え1000nm以下の範囲の単波長光であるか、または、前記近赤外光が波長分布を有し、中心波長が800nmを超え1000nm以下の範囲であり、前記近赤外光を、0.1μmol/m^(2)/s?10μmol/m^(2)/sで1分以上、10μmol/m^(2)/sを超え200μmol/m^(2)/s未満で10秒以上、または、200μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sで1ナノ秒?10秒照射することを特徴とする。また、本発明の生鮮農作物の生産方法は、生鮮農作物の生産方法であって、収穫後の農作物に対し、鮮度保持処理を行う鮮度保持処理工程を含み、前記鮮度保持処理工程が、本発明の農作物の鮮度保持方法により行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
前述のように、遠赤外線による農作物の鮮度保持技術は検討されてきたが、本発明者が検討したところ、意外にも、近赤外光にも鮮度保持効果があることを初めて見出すことができた。近赤外光の照射による本発明の鮮度保持方法は、包装などが必要ないため、簡単かつ低コストで実施することが可能である。また、近赤外線の照射による本発明の鮮度保持方法は、薬剤を使用しないため、安全性に問題がない。そして、近赤外光の照射による本発明の鮮度保持方法は、加熱を伴わないため、低温貯蔵の冷却効率に影響を及ぼすことがない。さらに、近赤外光の照射による本発明の鮮度保持方法は、野菜類、果実類、花卉類など、適用できる農作物の範囲が非常に広い。また、本発明によれば、近赤外光は、適用対象の農作物自身および収納容器壁などの物体を透過する性質があるため、対象農作物に均一に照射することができ、適用対象の農作物全体に鮮度保持効果を付与することが可能である。農作物への近赤外線の照射は、収穫後に行ってもよいし、収穫直前に圃場やハウス内で行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の農作物の鮮度保持装置の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の輸送手段の一例を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明の一実施例における明所での近赤外光の照射光強度と蒸散量との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明の一実施例における近赤外光照射による結球レタスの軟化抑制結果を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明の一実施例における近赤外光照射によるイチゴの軟化抑制結果を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の一実施例における近赤外光照射による結球レタスの腐敗抑制結果を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明の一実施例における近赤外光照射による結球レタスの腐敗抑制結果を示す別のグラフである。
【図8】図8は、本発明の一実施例における近赤外光照射によるイチゴの腐敗抑制結果を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明の一実施例における、植物工場で生産されるリーフレタスへの本発明の適用試験結果を示すグラフである。
【図10】図10(a)(b)は、本発明の一実施例におけるコマツナの目視による観察結果を示す写真である。
【図11】図11は、本発明の一実施例におけるオオバの目視による観察結果を示す写真である。
【図12】図12は、本発明の一実施例におけるホウレンソウの目視による観察結果を示す写真である。
【図13】図13は、前記図12の写真を模式化した図である。
【図14】図14は、本発明の一実施例におけるアスパラガスの目視による観察結果を示す写真である。
【図15】図15は、本発明の一実施例における青ネギの目視による観察結果を示す写真である。
【図16】図16は、本発明の一実施例におけるキャベツの目視による観察結果を示す写真である。
【図17】図17は、本発明の一実施例におけるピーマンの目視による観察結果を示す写真である。
【図18】図18は、本発明の一実施例におけるナスの目視による観察結果を示す写真である。
【図19】図19(a)は、トマトの上向き保存の状態を示す模式図、図19(b)は、トマトの下向き保存の状態を示す模式図である。
【図20】図20は、本発明の一実施例におけるトマトの目視による観察結果を示す写真である。
【図21】図21は、前記図20の写真を模式化した図である。
【図22】図22(a)?(d)は、本発明の一実施例におけるモモの目視による観察結果を示す写真である。
【図23】図23は、本発明の一実施例におけるキクの外観を撮影した写真である。
【図24】図24は、前記図23の写真を模式化した図である。
【図25】図25(a)(b)は、本発明の農作物の鮮度保持装置のその他の例を示す模式図である。
【図26】図26は、本発明の農作物の鮮度保持装置のその他の例を示す模式図である。
【図27】図27(a)(b)は、本発明の収納庫の一例である冷蔵庫の例を示す模式図である。
【図28】図28は、本発明の陳列装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、「農作物」とは、農業的手法によって収穫できる作物全般をいう。農作物の詳細については、後述する。
【0011】
本発明において、「鮮度保持」とは、収穫直前の農作物の状態を出来るだけ保持することをいう。必要とされる鮮度保持効果は、農作物の種類および商品価値によって異なる。農作物の種類と鮮度保持効果との関係については、後述する。
【0012】
本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の波長は、前述のとおり、前記近赤外光が800nmを超え1000nm以下の範囲の単波長光であるか、または、前記近赤外光が波長分布を有し、中心波長が800nmを超え1000nm以下の範囲である。
【0013】
本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の照射光強度は、前述のとおり、0.1μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sの範囲である。
【0014】
本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の照射時間は、前述のとおり、0.1μmol/m^(2)/s?10μmol/m^(2)/sで1分以上、10μmol/m^(2)/sを超え200μmol/m^(2)/s未満で10秒以上、または、200μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sで1ナノ秒?10秒の範囲である。
【0015】
本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記農作物は、前述のとおり、生鮮野菜類(根菜類およびニンニクを除く)、生鮮果実類および生鮮花卉類からなる群から選択された少なくとも1つである。
【0016】
本発明の農作物の鮮度保持装置は、本発明の農作物の鮮度保持方法に使用する農作物の鮮度保持装置であって、近赤外光を照射する光源を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の農作物の鮮度保持装置は、さらに、光強度制御手段および照射時間制御手段を備え、前記光強度制御手段により前記光源の照射光強度が制御され、前記照射時間制御手段により前記光源の照射時間が制御されることが好ましい。
【0018】
本発明の農作物の鮮度保持装置において、前記光源は、可視光とともに近赤外光を照射する光源であってもよい。
【0019】
本発明の収納庫は、農作物を収納する収納庫であって、本発明の農作物の鮮度保持装置を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の輸送手段は、農作物を輸送する輸送手段であって、本発明の収納庫を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明の収納庫および輸送手段において、前記収納庫は、輸送コンテナであることが好ましい。
【0022】
本発明の収納庫は、冷蔵庫であることが好ましい。
【0023】
本発明の陳列装置は、農作物を陳列する陳列装置であって、本発明の農作物の鮮度保持装置を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明の生鮮農作物の生産方法は、前述のとおり、生鮮農作物の生産方法であって、収穫後の農作物に対し、鮮度保持処理を行う鮮度保持処理工程を含み、前記鮮度保持処理工程が、本発明の農作物の鮮度保持方法により行われることを特徴とする。
【0025】
次に、本発明について、例をあげて詳細に説明する。但し、本発明は、以下の説明によって限定および制限されない。
【0026】
前述のように、本発明の農作物の鮮度保持方法は、農作物に近赤外光を照射することを特徴とする。
【0027】
本発明の適用対象である農作物は、前述のとおり、生鮮野菜類(根菜類およびニンニクを除く)、生鮮果実類および生鮮花卉類からなる群から選択された少なくとも1つであり、例えば、通常行われている利用部位による分類(園芸的分類または人為的分類と呼ばれる)における、生鮮野菜類、生鮮果実類、生鮮花卉類である。
【0028】
前記野菜類とは、例えば、果菜類(ナス、ペピーノ、トマト、ミニトマト、タマリロ、タカノツメ、トウガラシ、シシトウガラシ、ハバネロ、ピーマン、パプリカ、カラーピーマン、カボチャ、ズッキーニ、キュウリ、ツノニガウリ、シロウリ、ゴーヤ、トウガン、ハヤトウリ、ヘチマ、ユウガオ、オクラ、イチゴ、スイカ、メロン、マクワウリなどに加えて、トウモロコシなどの穀物類、アズキ、インゲンマメ、エンドウ、エダマメ、ササゲ、シカクマメ、ソラマメ、ダイズ、ナタマメ、ラッカセイ、レンズマメ、ゴマなどのマメ類を含む)、葉茎類(アイスプラント、アシタバ、カラシナ、キャベツ、クレソン、ケール、コマツナ、サラダナ、サニーレタス、サイシン、サンチュ、山東菜、シソ、シュンギク、ジュンサイ、シロナ、セリ、セロリ、タアサイ、ダイコンナ(スズシロ)、タカナ、チシャ、チンゲンサイ、ツケナ、菜の花、野沢菜、白菜、パセリ、ハルナ、フダンソウ、ホウレンソウ、ホトケノザ、ミズナ、ミドリハコベ、コハコベ、ウシハコベ、ミブナ、ミツバ、メキャベツ、モロヘイヤ、リーフレタス、ルッコラ、レタス、ワサビナなどの葉菜類、ネギ、細ネギ、アサツキ、ニラ、アスパラガス、ウド、コールラビ、ザーサイ、タケノコ、ヨウサイ、ネギ、ワケギ、タマネギなどの茎菜類、アーティチョーク、ブロッコリー、カリフラワー、食用菊、なばな、フキノトウ、ミョウガなどの花菜類、スプラウト、モヤシ、かいわれ大根などの発芽野菜を含む)、菌茸類(エノキタケ、エリンギ、キクラゲ、キヌガサタケ、シイタケ、シメジ、シロキクラゲ、タモギタケ、チチタケ、ナメコ、ナラタケ、ハタケシメジ、ヒラタケ、ブナシメジ、ブナピー、ポルチーニ、ホンシメジ、キシメジ、マイタケ、マッシュルーム、マツタケ、ヤマブシタケ、ショウロ、トリュフなど)などが挙げられる。ただし、これらは例示にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
また、前記果実類とは、例えば、ミカンなど各種柑橘類、リンゴ、モモ、ナシ、西洋ナシ、バナナ、ブドウ、サクランボ、グミ、キイチゴ、ブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリー、クワ、ビワ、イチジク、カキ、アケビ、マンゴー、アボカド、ナツメ、ザクロ、パッションフルーツ、パイナップル、バナナ、パパイア、アンズ、ウメ、スモモ、モモ、キウイフルーツ、カリン、ヤマモモ、クリ、ミラクルフルーツ、グァバ、スターフルーツなどが挙げられる。ただし、これらは例示にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
また、前記花卉類とは、例えば、ホリホック、ブーバルジア、ゴデチア、ツキミソウ、ストック、ハボタン、ルナリア、アシダンセラ、イリス、グラジオラス、ハナビシソウ、ペペロミア、カルセオラリア、キンギョソウ、トレニア、サクラソウ、シクラメン、マツバギク、アンスリウム、カラー、カラジウム、ショウブ、シンゴニウム、スパシフィルム、ディーフェンバキア、フィロデンドロン、サボテン類、アジュガ、カクトラノオ、サルビア、ベゴニア、クルクマ、スイレン、ポーチュラカ、スミレ、フワイトレースフラワー、セトクレアセア、ムラサキオモト、ムラサキツユクサ、ホウセンカ、ツノナス、ペチュニア、ホオズキ、カーネーション、ナデシコ、セキチク、カスミソウ、宿根カスミソウ、ムシトリナデシコ、グズマニア、ストレリチア、シバザクラ、フロックス、オイランソウ、キョウカノコ、アマクリナム、アマリリス、キク、クンシラン、キルタンサス、スイセン、スノーフレーク、タマスダレ、ネリネ、ハマオモト、ユーチャリス、リコリス、リュウゼツラン、ケイトウ、センニチコウ、アサガオ、エボルブルス、クレオメ、ゼラニウム、カランコエ、スカビオサ、スイートピー、ルピナス、ルリジオ、ワスレナグサ、アスチルベ、ユキノシタ、アガパンサス、アマドコロ、アロエ、オーニソガルム、オモト、オリズルラン、ギボウシ、クロユリ、グロリオーサ、コルチカム、サンセベリア、サンダーソニア、ジャノヒゲ、チューリップ、ツルバキア、ドイツスズラン、ドラセナ、トリテレイア、ナルコユリ、ニューサイラン、バイモ、ヒアシンス、ホトトギス、ヤブカンゾウ、ヤブラン、ユリ、アルストロメリア、ルスカス、アツモリソウ、エビネ、オンシジウム、カトレア、コルマナラ、シラン、シンビジウム、セロジネ、デンドリビウム、ドリテノプシス、ナゴラン、パフィオペディルム、バンダ、ビルステケラ、ファレノプシス、ブラウナウ、ミルトニア、エキザカム、トルコギキョウ、リンドウ、ランタナ、バラ、サクラ、ガーベラなどが挙げられ、さらには葉を鑑賞するために用いられるサカキ、ソテツ、シダ、ドラセナ、ハラン、モンステラ、ポトス、コンパクター、ポリシャス、ジャングルブッシュ、リキュウソウ、ベアグラス、ピトスポラムなどが挙げられる。ただし、これらは例示にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
農作物と鮮度保持効果との関係において、例えば、レタスやホウレンソウなどの葉部または茎部を主に利用する野菜(葉菜類)においては、しおれ防止(蒸散量抑制)、変色(褐変など)防止、軟化防止、腐敗防止が重要となる。また、イチゴ、トマトなどの果実を主に利用する野菜(果菜類)、またはリンゴなどの果樹類においては、変色(褐変など)防止、軟化防止、腐敗防止が重要となる。さらに、花卉類では、しおれ防止(蒸散量抑制)、変色(褐変など)防止が重要となる。ただし、これらは例示にすぎず、本発明はこれらに限定されない。
【0032】
前述のように、本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の波長は、前記近赤外光が800nmを超え1000nm以下の範囲の単波長光であるか、または、前記近赤外光が波長分布を有し、中心波長が800nmを超え1000nm以下の範囲である。本発明において、照射する近赤外光は、レーザーのような単波長のものでもよいし、波長分布を有するものでもよい。蛍光灯、LED等のように前記波長分布を有するものの場合、中心波長(ピーク波長)が前記の範囲内にある。
【0033】
前述のように、本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の照射光強度は、0.1μmol/m^(2)/s?10μmol/m^(2)/sで1分以上、10μmol/m^(2)/sを超え200μmol/m^(2)/s未満で10秒以上、または、200μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sで1ナノ秒?10秒の範囲である。
【0034】
前述のように、本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の照射時間は、1ナノ秒?72時間の範囲であることが好ましい。前記近赤外光の照射時間は、より好ましくは1秒?60分の範囲であり、さらに好ましくは1秒?10分の範囲である。なお、本発明は、例えばストロボ等のように、非常に大きい光量を瞬間的に照射する方法であっても良い。また、本発明は、低光量で、長時間照射する方法であっても良い。例えば、スーパーマーケットの店頭等で使用する場合には、例えば、低光量で、スーパーマーケットの営業時間中連続的に照射しつづけてもよい。
【0035】
本発明において、例えば、0.1μmol/m^(2)/s?10μmol/m^(2)/sの範囲のような低光量で照射する場合には、照射時間は、例えば、1分?72時間の範囲であることが好ましく、より好ましくは5分?24時間の範囲である。また、本発明において、例えば、200μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sの範囲の大光量、例えば、フラッシュのような光量で照射する場合には、照射時間は、1ナノ秒?10秒の範囲であり、好ましくは1マイクロ秒?1秒の範囲である。
【0036】
本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の照射は、連続照射であっても、間欠照射であってもよい。連続照射とは、例えば、近赤外光を連続して所定時間(例えば、5分間)照射することである。間欠照射とは、例えば、10秒間の照射と10秒間の非照射を、照射時間が合計5分間になるよう30回繰り返すことである。
【0037】
本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の照射は、周囲の光環境が暗黒である必要はなく、例えば蛍光灯などの人工的な照明下でもよいし、太陽光下でもよい。また、照射後の光環境も暗黒である必要はなく、例えば蛍光灯などの人工的な照明下でもよいし、太陽光下でもよい。
【0038】
本発明の農作物の鮮度保持方法において、前記近赤外光の照射は、農作物に対して前処理的に行うだけでなく、例えば小売店の店内などにおいて連続的に行ってもよい。この場合、他の波長を持つ白色LEDまたは白色蛍光灯などの光源と組み合わせて照射してもよい。
【0039】
本発明に用いる近赤外光照射器具は、近赤外光に該当する波長を放射できるものであれば特に制限されない。前記照射器具は、レーザーのように単波長を照射するものであってもよいし、800nmを超え1000nm以下の範囲に中心波長をもつ光を照射するものであってもよい。前記照射器具は、例えば、発光ダイオード(LED)、蛍光管、メタルハライドランプ、ナトリウムランプ、ハロゲンランプ、ネオン管、無機エレクトロルミネッセンス、有機エレクトロルミネッセンスなどが使用できる他、前記該当波長域のみを透過する分光フィルターを透過させた前記光源から発せられる光または太陽光でもよい。
【0040】
本発明の具体的な使用方法としては、例えば、農作物の生産現場において収穫前もしくは収穫後に近赤外光を照射する方法、農作物の箱詰め・袋詰め前に近赤外光を照射する方法、または、箱詰め後、蓋を閉めるまでの間に、近赤外光を照射する方法などが挙げられる。また、近赤外光は、農作物の収納容器に使われる一般的な材質(例えば、ポリエチレンなど)を透過するため、農作物が箱詰め・袋詰めされた後であっても、上から照射することによって箱および袋の中の農作物全体に均一に照射することが可能である。また、近赤外光は、農作物自身も透過するため、農作物が重ねられて収納されていても、収納された農作物全体に均一に照射することができる。したがって、箱詰めおよび袋詰めされた後、出荷前に、近赤外光を照射することもできる。また、農作物の栽培中に近赤外光を照射してもよい。さらに、店頭で本発明を用いることによって、陳列棚での鮮度をより長期間保持することができる。また、例えば、小売店の店内などにおいては、陳列棚に並べた農作物に対し、店舗の営業時間中連続的に近赤外光を照射してもよい。また、例えば、店舗または家庭内において、冷蔵庫等の収納庫に貯蔵している農作物に対し、貯蔵中連続的に近赤外光を照射してもよい。
【0041】
次に、本発明の農作物の鮮度保持装置について説明する。
【0042】
前述のように、本発明の農作物の鮮度保持装置は、本発明の農作物の鮮度保持方法に使用する農作物の鮮度保持装置であって、近赤外光を照射する光源を備えることを特徴とする。
【0043】
本発明において、前記光源は、近赤外光のみを照射する光源であってもよいし、前述のように、可視光とともに近赤外光を照射する光源であってもよい。本発明において、可視光とともに近赤外光を照射する光源としては、例えば、白色光光源と近赤外光光源とを組み合わせた光源、または、単一の光源であって、白色光と近赤外光とをともに照射可能な光源等が挙げられる。具体的には、例えば、白色LEDと近赤外LEDとを組み合わせて構成された光源、または、従来の白色LEDの近赤外成分を有意に増加させたLED光源等が挙げられる。このような光源を用いることにより、視覚を損なうことがないため、例えば、スーパーマーケット等で陳列された農作物に対して、ディスプレー機能と鮮度保持機能と備えた照明として使用することができ、好ましい。ここで、「有意に増加させた」とは、近赤外光照射による鮮度保持効果を得られる程度に近赤外成分が増加されていることを意味する。本発明において、近赤外成分の増加の割合は、特に制限されないが、例えば、LED、自然光及び蛍光灯いずれの場合においても、400nm?700nmの可視光成分の合計強度に対して近赤外成分が5%?1000%増加されていることが好ましく、より好ましくは5%?500%増加であり、さらに好ましくは5%?250%増加である。ここで、「可視光成分の合計強度に対して近赤外成分が5%増加されている」とは、例えば、可視光成分の合計強度が100μmol/m^(2)/sである場合、近赤外成分を5μmol/m^(2)/s追加することをいう。しかし、本発明はこれに限定されず、例えば、箱詰め時の照射、店頭でのディスプレーを兼ねた照射等の場面に応じて、照射する光における近赤外成分の割合を適宜決定することができる。
【0044】
図1に、本発明の農作物の鮮度保持装置の一例を示す。図示のとおり、この鮮度保持装置10は、光源11と、コントローラ12とを備える。光源11は、農作物(図1においては、イチゴ)13の上方から近赤外光を照射する。光源11は、特に制限されず、例えば、前記近赤外光照射器具を使用することができる。また、光源11は、前記の可視光とともに近赤外光を照射する光源であってもよく、例えば、白色LEDと近赤外LEDとを組み合わせて構成された光源、または、従来の白色LEDの近赤外成分を有意に増加させたLED光源等を使用することができる。コントローラ12は、光源11の照射光強度および照射時間を制御する。コントローラ12は任意の構成部材であり、無くてもよいが、あることが好ましい。図1においては、照射光強度制御、照射時間制御双方を行うコントローラ12を示しているが、コントローラ12は、それぞれを行う別の部材で構成されていてもよい。また、図1では、コントローラ12は、光源11と別部材となっているが、光源11の内部に組み込まれていてもよい。コントローラ12は、特に制限されず、例えば、従来の公知のものを用いればよい。
【0045】
本例において、さらに、農作物を設置する設置台を有してもよい。前記設置台は、ベルトコンベアであってもよい。設置台がベルトコンベアである場合、農作物13は、ベルトコンベアの上で搬送方向に移送されながら近赤外光の照射を受ける。
【0046】
図25に、本発明の農作物の鮮度保持装置のその他の例を示す。図25において、図1と同一部分には同一の符号を付している。図25(a)は、本例の農作物の鮮度保持装置101の外観の模式図であり、図25(b)は、本例の農作物の鮮度保持装置101を、図25(a)におけるI-I方向に見た断面を模式的に示した図である。図示のとおり、本例の農作物の鮮度保持装置101は、照射装置本体15の内部を、ベルトコンベア16が通っており、照射装置本体15の内部に、図1に示す鮮度保持装置10が配置されている。本例の場合、農作物13は、ベルトコンベア16の上で、照射装置本体15の内部を通過中に、近赤外光の照射を受ける。
【0047】
以上、本発明の農作物の鮮度保持装置について例を挙げて説明したが、本発明はこれに限られず、例えば、持ち運び可能なハンディタイプのものとすることも可能である。図26に、ハンディタイプの本発明の農作物の鮮度保持装置の一例を示す。図26は、本例の農作物の鮮度保持装置201の模式図である。図26において、図1と同一部分には同一の符号を付している。本例の場合、把持部17を手に持ち、農作物13に近赤外光を照射する。本例において、コントローラ12は、図示していないが、光源11の内部に組み込まれていてもよいし、コントローラ12が光源11と別部材であってもよい。本例の農作物の鮮度保持装置201は、手で持てる大きさであり、持ち運び可能であるため、例えば、必要に応じて照射する際に便利である。
【0048】
次に、本発明の収納庫および輸送手段について説明する。
【0049】
前述のように、本発明の収納庫は、農作物を収納する収納庫であって、本発明の農作物の鮮度保持装置を含むことを特徴とする。前記収納庫は、特に制限されないが、例えば、輸送コンテナ、冷蔵庫、保冷庫などが好ましい。前記収納庫は、農作物を専用に収納する貯蔵庫や予冷庫に限定されるものではなく、家庭や厨房などで使用する冷蔵庫や収納庫でも好適に使用できる。
【0050】
また、本発明の輸送手段は、農作物を輸送する輸送手段であって、本発明の収納庫を含むことを特徴とする。本発明の輸送手段としては、例えば、車両、飛行機、船などが挙げられる。車両には、列車および自動車が含まれる。
【0051】
図2に、本発明の輸送手段の一例を示す。図2において、図1と同一部分には同一の符号を付している。本例の輸送手段はトラック20である。図示のとおり、このトラック20は、輸送コンテナ21を含み、輸送コンテナ21は、図1に示す鮮度保持装置10を含んでいる。
【0052】
図27(a)に、本発明の収納庫の例である、冷蔵庫の一例を示す。図27(a)において、図1と同一部分には同一の符号を付している。図示のとおり、本例の冷蔵庫30は、野菜室31を含み、野菜室31は、図1に示す鮮度保持装置10を含んでいる。本例において、光源11は、野菜室31の後面上部に配置されている。本例において、コントローラ12は、図示していないが、光源11の内部に組み込まれていてもよいし、コントローラ12が光源11と別部材であってもよい。また、本例では、野菜室31に仕切りが設けられていないが、本発明はこれに限られない。例えば、本発明では、野菜室が仕切り板によって複数のエリアに区分され、収納する野菜の種類に応じて、光源11を配置する区分と配置しない区分とに分けたり、区分毎に光源11からの照射光強度および照射時間を調節可能にするものであってもよい。また、本例において、光源11は、図1でも説明したとおり、可視光とともに近赤外光を照射する光源であってもよく、例えば、白色LEDと近赤外LEDとを組み合わせて構成された光源、または、従来の白色LEDの近赤外成分を有意に増加させたLED光源等であってもよい。
【0053】
図27(b)に、本発明の収納庫の例である、冷蔵庫のその他の例を示す。図27(b)は、本例の冷蔵庫40を横方向から見た断面図である。本例の冷蔵庫40では、図27(b)に示すように、野菜室41の前側の上面に、本発明の鮮度保持装置10が配置されている。その他は、前記冷蔵庫30と同様である。このように、本発明では、冷蔵庫の設計に応じて、鮮度保持装置の位置を調整することが可能である。
【0054】
次に、本発明の陳列装置について説明する。
【0055】
前述のように、本発明の陳列装置は、農作物を陳列する陳列装置であって、本発明の農作物の鮮度保持装置を含むことを特徴とする。前記陳列装置は、農作物を陳列可能であれば、特に制限されないが、例えば、ショーケース、陳列棚などがあげられる。
【0056】
図28に、本発明の陳列装置の一例を示す。図28において、図1と同一部分には同一の符号を付している。本例の陳列装置は、ショーケース50である。図28は、ショーケース50を横方向から見た断面図である。図示のとおり、本例のショーケース50は、開口部51にフロントガラス等の透明部材52が嵌め込まれた断熱箱体53に、農作物を収納する収納室54が設けられており、収納室54の上部に、本発明の鮮度保持装置10が配置されている。本例において、コントローラ12は、図示していないが、光源11の内部に組み込まれていてもよいし、コントローラ12が光源11と別部材であってもよい。本例では、光源11は、収納室54の上部に配置されているが、本発明はこれに限られず、光源11は、収納室内を照射可能な位置に配置されていればよい。また、本例において、光源11は、図1でも説明したとおり、可視光とともに近赤外光を照射するものであってもよく、例えば、白色LEDと近赤外LEDとを組み合わせて構成された光源、または、従来の白色LEDの近赤外成分を有意に増加させたLED光源等であってもよい。このような光源11であれば、視覚を損なうことがないため、鮮度保持機能とともに、ショーケース内の農作物のディスプレー機能も実現することができ、ショーケース内の照明として好適に用いることができる。
【0057】
本例では、開口部と透明部材とを有するショーケースを例に挙げて説明したが、本発明はこれに限られず、透明部材なしで、陳列されているものに直接手を触れることが可能となっているショーケースであってもよい。
【0058】
前述のように、近赤外光に農作物の鮮度保持効果があることは、本発明者が初めて見出したものである。これまで、光を利用した農作物の鮮度保持方法のメカニズムとして、植物が持つ種子の発芽等に関与することが知られている、赤色光・遠赤色光センサーであるフィトクロームの関与が推測されてきた。しかし、近赤外光は、フィトクロームの吸収域から外れている。したがって、近赤外光の照射による本発明の鮮度保持方法は、フィトクロームのメカニズムとは別の、新規のメカニズムによるものであると推測される。ただし、この推測は、本発明を制限および限定しない。
【実施例】
【0059】
つぎに、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例により限定および制限されない。
【0060】
[実施例1]
(1)近赤外光照射によるミドリハコベの蒸散量の抑制
暗所(0Lx)・低温(10℃)条件において、照射光強度を100μmol/m^(2)/sとして、中心波長850nm、940nmおよび1015nmを持つLEDから発せられる近赤外光を、ミドリハコベにそれぞれ10分間照射し、蒸散量を求めた。蒸散量は、初期のミドリハコベの重量を計測し、前記の光照射の後、暗所・低温条件において貯蔵し、1日貯蔵後の重量変化により算出した。蒸散量は、無照射を1.00とした場合の相対値で表示した。また、比較例として、近赤外光に代えて、LEDから発せられる赤色光、緑色光、青色光を照射した以外は同様にして、蒸散量を求めた。本実施例では、前記波長850nmおよび1015nmではn=4の平均値、前記波長940nmではn=5の平均値としての蒸散量を求めた。また、無照射および全比較例では、n=5の平均値としての蒸散量を求めた。
【0061】
その結果を表1に示す。表1に示すように、近赤外光を照射した場合の蒸散量は、0.47?0.61であり、無照射(ブランク)との比較で有意に蒸散量が抑制された。これに対し、赤色光、青色光では蒸散量が抑制されなかった。また、緑色光では蒸散量が0.93であり、近赤外光と比べて蒸散量抑制効果が小さかった。
【0062】
【表1】

【0063】
(2)近赤外光照射によるレタスの蒸散量の抑制
レタスを用い、試料数(n)を表2のように変更したこと以外は、ミドリハコベと同様にして、蒸散量を求めた。前記レタスとしては、以下の手順で自家栽培した幼苗を用いた。まず、育苗用ウレタンマットにレタス(品種:シスコ)の種子を播種した。そして、恒温条件(22℃?23℃)・16時間日長(明期:1万Lx(植物育成用ランプ))に設定したグロースチャンバーにて、大塚水耕栽培溶液(EC:1.2)を用いた水耕栽培にて10日間の栽培を行った。そして、本葉2枚がでた時点で地上部を切断し、試験用レタスとした。
【0064】
その結果を表2に示す。表2に示すように、近赤外光を照射した場合の蒸散量は0.84?0.85であり、無照射(ブランク)との比較で有意に蒸散量が抑制された。これに対し、赤色光、青色光では蒸散量が抑制されなかった。また、緑色光では蒸散量が0.96であり、近赤外光と比べて蒸散量抑制効果が小さかった。
【0065】
【表2】

【0066】
次に、LEDに代えて、波長範囲のより狭い単色光を用いて、レタスの蒸散量を求めた。すなわち、LEDに代えて、キセノンショートアークランプを光源とした高精度多目的標準灯具「OPTICAL MODULEX」(ウシオ電機製)と、透過半値幅10nmの干渉フィルター(FWHM:10nm)とを組み合わせて得られる単色光を用い、参考例として中心波長700nmから800nm、および実施例として800nmを超え1000nm以下の近赤外光を、照射光強度を100μmol/m^(2)/s、15μmol/m^(2)/sとして5分間照射し、蒸散量を求めた。蒸散量の算出方法および表示方法は、前述のとおりである。また、試料数(n)は、表3および表4に示すとおりとした。その結果を表3および表4に示す。表3および表4に示すように、蒸散量の減少が認められた。このことから、蒸散量抑制効果は、近赤外光に起因するものであることを確認できた。
【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
(3)近赤外光の照射光強度と蒸散量との関係
暗所(0Lx)・低温(10℃)条件において、照射光強度を1μmol/m^(2)/s、2μmol/m^(2)/s、3μmol/m^(2)/s、4μmol/m^(2)/s、5μmol/m^(2)/s、8μmol/m^(2)/s、10μmol/m^(2)/s、100μmol/m^(2)/s、200μmol/m^(2)/sおよび300μmol/m^(2)/sとして、LEDから発せられる中心波長850nmおよび940nmの近赤外光を、前述のレタスにそれぞれ10分間照射し、蒸散量を求めた。蒸散量の算出方法および表示方法は、前述のとおりであり、試料数(n)は、表5に示すとおりとした。その結果を表5に示す。表5に示すように、850nmでは、4μmol/m^(2)/s、940nmでは、2μmol/m^(2)/sの照射光強度において、最も高い蒸散量抑制効果が得られた。
【0070】
【表5】

【0071】
(4)近赤外光の照射時間と蒸散量との関係
前述した照射光強度と蒸散量との関係をもとに、前述のレタスに、暗所(0Lx)・低温(10℃)条件において、LEDから発せられる中心波長および照射光強度を、(i)850nm(100μmol/m^(2)/s)、(ii)940nm(300μmol/m^(2)/s)、(iii)940nm(100μmol/m^(2)/s)とし、1秒間、5秒間、10秒間、30秒間、1分間、5分間、10分間および60分間照射して、それぞれ蒸散量を求めた。蒸散量の算出方法および表示方法は、前述のとおりであり、試料数(n)は、表6?8に示すとおりとした。その結果を、表6?8に示す。表6は前記条件(i)での結果を示し、表7は前記条件(ii)での結果を示し、表8は前記条件(iii)での結果を示す。表6?8に示すように、(i)の条件では5分間、(ii)の条件では1分間、(iii)の条件では30秒間の照射において、最も高い蒸散量抑制効果が得られた。
【0072】
【表6】

【0073】
【表7】

【0074】
【表8】

【0075】
(5)明所での近赤外光照射
(5-1)近赤外光の照射光強度と蒸散量との関係
白色蛍光灯下での明所(1000Lx)・低温(10℃)条件において、照射光強度を10μmol/m^(2)/s、100μmol/m^(2)/s、200μmol/m^(2)/sおよび300μmol/m^(2)/sとして、LEDから発せられる中心波長850nmおよび940nmの近赤外光を前述のレタスにそれぞれ10分間照射し、蒸散量を求めた。蒸散量の算出方法および表示方法は、前述のとおりである。本実施例では、n=24の平均値としての蒸散量を求めた。その結果を図3に示す。図3に示すように、850nm、940nmともに10μmol/m^(2)/s以上の照射光強度で顕著な蒸散量の減少が認められた。このことから明所条件においても、近赤外光の照射により蒸散量が減少することが明らかになった。
【0076】
(5-2)近赤外光の照射時間と蒸散量との関係
前述した照射光強度と蒸散量との関係をもとに、白色蛍光灯下での明所(1000Lx)・低温(10℃)条件において、LEDから発せられる中心波長および照射光強度を(iv)850nm(100μmol/m^(2)/s)、(v)940nm(200μmol/m^(2)/s)、(vi)940nm(100μmol/m^(2)/s)として、照射時間を変えて前述のレタスに照射し、それぞれ蒸散量を求めた。蒸散量の算出方法および表示方法は、前述のとおりであり、試料数(n)は表9に示すとおりとした。その結果を表9に示す。表9に示すように、(iv)の条件では10分間、(v)の条件では1分間?5分間、(vi)の条件では5分間の照射において、最も高い蒸散抑制効果が得られた。
【0077】
【表9】

【0078】
(5-3)各種光条件下での近赤外光照射と蒸散量との関係
さらに強い強度の明所条件下での近赤外光の効果を調べるため、白色蛍光灯下での明所(10000Lx)、白色LED下での明所(10000Lx)、自然光(太陽光)下での明所(40000Lx)条件において、照射光強度を100μmol/m^(2)/sとして、LEDから発せられる中心波長850nmの近赤外光を前述のレタスにそれぞれ5分間照射し、蒸散量を求めた。蒸散量の算出方法および表示方法は、前述のとおりである。本実施例では、n=4?6の平均値としての蒸散量を求めた。その結果を表10に示す。表10に示すように、白色蛍光灯下、白色LED下および自然光(太陽光)下のいずれの明所条件においても、近赤外光の照射により蒸散量が減少することが明らかになった。
【0079】
【表10】

【0080】
(5-4)連続照射条件下での近赤外光照射と蒸散量との関係
明所条件下で近赤外光をさらに連続照射した場合の効果を調べるため、白色LED下での明所(10000Lx)条件において、照射光強度を60μmol/m^(2)/sとして、LEDから発せられる中心波長850nmの近赤外光を前述のレタスにそれぞれ24間照射し、蒸散量を求めた。蒸散量の算出方法および表示方法は、前述のとおりである。本実施例では、n=7の平均値としての蒸散量を求めた。その結果を表11に示す。表11に示すように、連続24時間明所条件下において近赤外光を照射しても、蒸散量が減少することが明らかになった。このことは、白色LEDからの光に近赤外光成分を加えることにより、鮮度保持効果を発揮できることを示すものである。
【0081】
【表11】

【0082】
(6)気孔開閉への効果
前述のレタスに、暗所(0Lx)・低温(10℃)条件において、LEDから発せられる中心波長850nmの近赤外光を、照射光強度10μmol/m^(2)/sおよび100μmol/m^(2)/sとして、10分間照射した。照射後、10℃・暗所に静置し、30分後にレタスの葉をホモゲナイザーで部分的に破砕し、光学顕微鏡を用いて気孔開度を測定した。本実施例では、各5個体のレタスを用い、それぞれホモゲナイザーで破砕した5断片を対象に、それぞれ5つの気孔を観察し(各試験区で合計125の気孔を観察)、その平均値を求めた。その結果を表12に示す。表12に示すように、近赤外光を照射した場合には、いずれの光強度においても無照射に比べて気孔が閉じる傾向にあることが明らかになり、このことが蒸散量を低下させる理由のひとつであると推察された。
【0083】
【表12】

【0084】
[実施例2]
各種葉茎類、果菜類、果実類、菌茸類に、暗所(0Lx)・低温(10℃)条件下において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を5分間照射した。その後、暗所・低温条件下で1日間?2週間貯蔵し、蒸散量を求めた。蒸散量の表示方法は、前述のとおりであり、試料数(n)は表13に示すとおりとした。その結果を表13に示す。表13に示すように、リーフレタス、ホウレンソウ、キャベツ、青ネギ、アスパラガス、ブロッコリー、コマツナ、オオバ、キュウリ、ミニトマト、ミディトマト、トマト、ピーマン、ナス、イチゴ、サクランボ、モモ、シイタケ、ブナシメジにおいても、蒸散量抑制効果が見られた。
【0085】
【表13】

【0086】
さらに、各種花卉類について、蒸散量抑制効果を調べた。各種花卉類(切り花)に、暗所(0Lx)・低温(10℃)条件下において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を5分間照射した。その後、キク、アジサイ、カーネーション、ランタナでは、水にいけた状態で室温にて3日から2週間、明るい室内に放置し、その間の重量変化を測定した。また、バラは、照射後に新聞紙に包み、4℃の暗所に2日間放置し、重量変化を測定した。試料数(n)は表14に示すとおりとした。その結果を表14に示す。表14に示すとおり、いずれの花卉類(切り花)でも重量減少(蒸散量)が抑制された。
【0087】
【表14】

【0088】
[実施例3]
(1)近赤外光照射による結球レタスの軟化抑制
暗所(0Lx)・低温(10℃)条件において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)および940nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を結球レタスに10分間照射した。その後、暗所・低温条件において20日間貯蔵し、果実硬度計(株式会社藤原製作所製、KM-5、商品名円錐ブランジャー)での硬度測定によって、葉の硬度値を測定した。葉の硬度値は、無照射を1.00とした相対値で表示した。無照射および本実施例において、n=5の平均値としての葉の硬度を求めた。その結果を表15および図4に示す。表15および図4に示すように、850nm、940nmの双方において、1回照射、毎日照射の双方で、無照射の場合よりも葉の硬度値が高く、軟化が抑制できた。また、毎日照射するよりも、1回照射の方が、高い軟化抑制効果が得られた。
【0089】
【表15】

【0090】
(2)近赤外光照射によるイチゴの軟化抑制
暗所(0Lx)・低温(10℃)条件において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光をイチゴに5分間照射した。その後、暗所・低温条件下で1週間貯蔵し、前記果実硬度計を用いてイチゴの果実硬度を測定した。無照射および本実施例において、n=11の平均値としての果実硬度を求めた。その結果を表16および図5に示す。図5において、aとbとの間で、Tukey検定により5%水準の有意差を示した。表16および図5に示すように、光照射をした方が、無照射の場合と比較して高い果実硬度を保つことができ、軟化が抑制できた。
【0091】
【表16】

【0092】
[実施例4]
(1)近赤外光照射による結球レタスの腐敗抑制
結球レタスを用い、4段階評価(1:健全、2:褐変している、3:一部に腐敗あり、4:腐敗している)による鮮度評価を行った。暗所(0Lx)・低温(10℃)条件において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)および940nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を、結球レタスに10分間照射した。その後、暗所・低温条件において20日間貯蔵し、前記4段階評価に従い、目視による鮮度評価を行った。その結果を図6および図7に示す。図6は、1回のみ照射した場合の結果を示し、図7は、20日間毎日照射した場合の結果を示す。図示のように、850nm、940nmの双方において、1回照射、毎日照射の双方で、無照射の場合よりも一部腐敗および腐敗の割合が低く、腐敗抑制効果が得られた。また、毎日照射するよりも、1回照射の方が、一部腐敗および腐敗の割合が低く、高い腐敗抑制効果が得られた。
【0093】
(2)近赤外光照射によるイチゴの腐敗抑制
暗所(0Lx)・低温(10℃)条件において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を、イチゴに5分間照射した。この際、イチゴを二段に重ねてパック詰めした状態で、前記近赤外光を照射した。その後、暗所・低温条件下で1週間貯蔵し、前記4段階評価に従い、目視による鮮度評価を行った。その結果を図8に示す。図示のように、光照射をした方が、無照射の場合と比較して、腐敗を抑制することができた。
【0094】
[実施例5]
近赤外光照射による結球レタスの褐変抑制
暗所(0Lx)・低温(10℃)条件において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)および940nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を、結球レタスに10分間照射した。その後、暗所・低温条件において20日間貯蔵し、色彩色差計(株式会社ミノルタ製、CR-200)を用いて褐変度合いを測定した。褐変度合いは、L^(*)a^(*)b^(*)表色系におけるa^(*)値およびb^(*)値の比であるa/bの値が大きいほど葉が赤く褐変している。その結果を表17に示す。表17に示すように、無照射の場合と比較して褐変が抑制された。
【0095】
【表17】

【0096】
[実施例6]
本発明の実用性を評価するために、植物工場で生産されるリーフレタスへの適用試験を行った。収穫直後のリーフレタスに、近赤外光照射装置(LED:315個、消費電力:65W)を用いて、暗所(0Lx)・低温(10℃)条件、明所(1000Lx)・常温(22℃)条件それぞれにおいて、中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を、10分間照射した。その後、暗所・低温条件において5日間貯蔵し、蒸散量を求めた。蒸散量の表示方法は、前述のとおりである。その結果を図9に示す。図示のように、暗所・低温条件での照射、明所・常温条件での照射の双方において、無照射の場合と比較して蒸散量が抑制された。特に、暗所・低温条件での近赤外光照射の蒸散量抑制効果は顕著であった。
【0097】
次に、暗所での照射と明所での照射を対比するため、暗所下、明所下双方において、850nm(100μmol/m^(2)/s)5分間照射、940nm(300μmol/m^(2)/s)1分間照射、940nm(100μmol/m^(2)/s)10分間照射を行った。本例において、前記各波長は中心波長を意味する。その後、暗所・低温条件において3日間貯蔵し、蒸散量を測定した。蒸散量の表示方法は、前述のとおりである。その結果を表18に示す。表18に示すように、明所(1000Lx)下で照射するより、暗所下で照射した方が、高い蒸散量抑制効果が得られた。一方、照射光強度を高めた940nm(300μmol/m^(2)/s)では、暗所下で照射した場合と、明所下で照射した場合とで、同程度の蒸散量抑制効果が得られた。また、850nm(100μmol/m^(2)/s)5分間の照射では、25℃での照射においても、蒸散量抑制効果が得られた。
【0098】
【表18】

【0099】
[実施例7]
コマツナに、暗所(0Lx)・低温(10℃)条件下において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を5分間照射した。その後、暗所・23℃条件下で4日間貯蔵し、外観を目視により観察した。本実施例において、試料数は、10個とした。また、比較のために、無照射のコマツナについても前記と同様の条件で貯蔵し、外観を目視により観察した。図10(a)(b)は、その結果を示す写真である。図10(a)(b)において、左側の写真Xが無照射のコマツナであり、右側の写真Yが本実施例に係る近赤外光を照射したコマツナである。図10(a)に示すように、無照射の場合、Aで示す部分に萎れが見られたのに対し、近赤外光を照射したコマツナでは、無照射の場合と比較して葉先の萎れが少なく、葉先の乾燥を抑制できた。また、図10(a)に示すように、無照射の場合、Bで示す部分において葉の色が黄色く変化しており、葉が退色している部分が多く見られたのに対し、近赤外光を照射したコマツナでは、葉の色が黄色く変化している箇所がほとんどなく、葉の退色を抑制することができた。また、図10(b)に示すように、無照射の場合、Cで示す部分に茎細りが見られたのに対し、近赤外光を照射したコマツナでは、無照射の場合と比較して茎細りを抑制することができた。
【0100】
[実施例8]
オオバに、暗所(0Lx)・低温(10℃)条件下において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を5分間照射した。その後、暗所・4℃条件下で1日間貯蔵し、外観を目視により観察した。本実施例において、試料数は10個とした。また、比較のために、無照射のオオバについても前記と同様の条件で貯蔵し、外観を目視により観察した。図11は、その結果を示す写真である。図11において、左側の写真Xが無照射のオオバであり、右側の写真Yが本実施例に係る近赤外光を照射したオオバである。また、図11において、Aで示す部分は、黒点が見られた部分であり、Bで示す部分は、萎れが見られた部分である。まず、無照射では、葉の黒点の数が1枚あたり平均3.9個であったのに対し、近赤外光を照射したオオバでは、1.7個であり、黒点の発生を抑制することができた。また、図11に示すように、近赤外光を照射したオオバの方が、無照射の場合と比較して、葉先の萎れが少なく、葉先の乾燥を抑制することができた。さらに、無照射の場合、葉が全体的に褐変したのに対し、近赤外光を照射したオオバでは、葉が褐変している箇所がほとんどなく、葉の褐変を抑制することができた。
【0101】
[実施例9]
ホウレンソウに、暗所(0Lx)・低温(10℃)条件下において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を5分間照射した。その後、暗所・10℃条件下で7日間貯蔵し、外観を目視により観察した。本実施例において、試料数は、15個とした。また、比較のために、無照射のホウレンソウについても前記と同様の条件で貯蔵し、外観を目視により観察した。その結果を、図12および図13に示す。図12は、外観を撮影した写真であり、図13は、図12の写真を模式化した図である。図12および図13において、左側の図Xが無照射のホウレンソウであり、右側の図Yが本実施例に係る近赤外光を照射したホウレンソウである。図12および図13に示すように、ホウレンソウの茎の下部を持った場合、近赤外光を照射したホウレンソウでは、株のほとんどの茎がまっすぐ立っていたのに対し、無照射の場合は、ほとんどの茎が垂れた。このように、近赤外光を照射することにより、茎のしおれを抑制することができた。また、近赤外光を照射したホウレンソウの方が、無照射の場合と比較して、葉先の萎れが少なく、葉先の乾燥を抑制することができた。さらに、近赤外光を照射したホウレンソウの方が、無照射の場合と比較して、茎細りを防ぐことができた。
【0102】
[実施例10]
アスパラガスに、暗所(0Lx)・低温(10℃)条件下において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を5分間照射した。その後、暗所・10℃条件下で5日間貯蔵し、外観を目視により観察した。本実施例において、試料数は、22個とした。また、比較のために、無照射のアスパラガスについても前記と同様の条件で貯蔵し、外観を目視により観察した。図14は、その結果を示す写真である。図14において、左側の写真Xが無照射のアスパラガスであり、右側の写真Yが本実施例に係る近赤外光を照射したアスパラガスである。図14に示すように、無照射では、Aで示す部分に皺が見られ、芯部分の皺が目立ったのに対し、近赤外光を照射したアスパラガスでは、芯部分に目立つ皺が入っておらず、芯部分の皺を抑制することができた。また、無照射では、Bで示す部分に茶色く変色した腐りが見られ、茎下部の切り口の部分に腐りが生じているものが複数見られたのに対し、近赤外光を照射したアスパラガスでは、切り口の部分が腐ったものはなく、切り口の腐りを軽減することができた。
【0103】
[実施例11]
青ネギに、暗所(0Lx)・低温(10℃)条件下において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を5分間照射した。その後、暗所・10℃条件下で5日間貯蔵し、外観を目視により観察した。本実施例について、試料数は、3束とした。また、比較のために、無照射の青ネギについても前記と同様の条件で貯蔵し、外観を目視により観察した。図15は、その結果を示す写真である。図15において、左側の写真Xが無照射の青ネギであり、右側の写真Yが本実施例に係る近赤外光を照射した青ネギである。図15に示すように、無照射では、Aで示す芯部分に腐りが見られたのに対し、近赤外光を照射した青ネギでは、芯部分の腐りはなく、芯部分の腐りが抑制された。
【0104】
[実施例12]
キャベツに、暗所(0Lx)・低温(10℃)条件下において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を5分間照射した。その後、暗所・10℃条件下で1日間貯蔵し、外観を目視により観察した。本実施例において、試料数は、2個とした。また、比較のために、無照射のキャベツについても前記と同様の条件で貯蔵し、外観を目視により観察した。図16は、その結果を示す写真である。図16において、上の2つの写真Xが無照射のキャベツであり、下の2つの写真Yが本実施例に係る近赤外光を照射したキャベツである。図16に示すように、無照射の場合、Aで示す部分において外葉が萎れて縮んだのに対し、近赤外光を照射したキャベツでは、葉の萎れがなく、萎れを抑制できた。
【0105】
[実施例13]
ピーマンに、暗所(0Lx)・低温(10℃)条件下において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を5分間照射した。その後、明所・23℃条件下で5日間貯蔵し、外観を目視により観察した。本実施例において、試料数は、7個とした。また、比較のために、無照射のピーマンについても前記と同様の条件で貯蔵し、外観を目視により観察した。図17は、その結果を示す写真である。図17において、左側の写真Xが無照射のピーマンであり、右側の写真Yが本実施例に係る近赤外光を照射したピーマンである。図17に示すように、無照射では、ピーマンの表面が萎れ、つや感が失われたのに対し、近赤外光を照射したピーマンでは、表面に張りがあってつや感が失われておらず、つや感を維持することができた。
【0106】
[実施例14]
ナスに、暗所(0Lx)・低温(10℃)条件下において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を5分間照射した。その後、明所・10℃条件下で7日間貯蔵し、外観を目視により観察した。本実施例において、試料数は、10個とした。また、比較のために、無照射のナスについても前記と同様の条件で貯蔵し、外観を目視により観察した。図18は、その結果を示す写真である。図18において、左側の写真Xが無照射のナスであり、右側の写真Yが本実施例に係る近赤外光を照射したナスである。図18に示すように、無照射では、ナスの表面が萎れ、つや感が失われたのに対し、近赤外光を照射したナスの方では、表面に張りがあってつや感が失われておらず、つや感を維持することができた。
【0107】
[実施例15]
へたの向きを上にしたトマト(以下、「上向き保存」ともいう。)、および、へたの向きを下にしたトマト(以下、「下向き保存」ともいう。)それぞれに、暗所(0Lx)・低温(10℃)条件下において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を5分間照射した。その後、暗所・10℃条件下で3日間貯蔵して、蒸散量を求めた。本実施例において、試料数は、上向き保存および下向き保存それぞれ5個とした。なお、図19(a)に示す状態が上向き保存であり、図19(b)に示す状態が下向き保存である。蒸散量の表示方法は、前述のとおりである。その結果を、表19に示す。表19に示すように、無照射を1.00とした場合の蒸散量の相対値は、上向き保存の場合は、0.67であり、下向き保存の場合は、0.87であり、いずれの場合にも蒸散量抑制効果が見られた。
【0108】
【表19】

【0109】
また、無照射のトマトおよび本実施例に係る近赤外光を照射した上向き保存のトマトについて、前記と同様にして8日間貯蔵した後、外観を目視により観察した。その結果を、図20および図21に示す。図20は、外観を撮影した写真であり、図21は、図20の写真を模式化した図である。図20および図21において、左側の図Xが無照射のトマトであり、右側の図Yが本実施例に係る近赤外光を照射したトマトである。図20および図21に示すように、無照射ではへた部分が萎れたのに対し、近赤外光を照射したトマトでは、へた部分が萎れておらず、へたの萎れを抑制することができた。
【0110】
[実施例16]
モモに、暗所(0Lx)・低温(10℃)条件下において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を5分間照射した。その後、暗所・10℃条件下で8日間貯蔵し、外観を目視により観察した。本実施例において、試料数は5個とした。また、比較のために、無照射のモモについても前記と同様の条件で貯蔵し、外観を目視により観察した。図22(a)(b)は、その結果を示す写真である。図22(a)(b)において、左側の写真Xが無照射のモモであり、右側の写真Yが本実施例に係る近赤外光を照射したモモである。まず、図22(a)に示すように、皮付きの状態で観察した結果、無照射では、皮の表面においてAで示す部分に大きな傷みが見られたのに対し、近赤外光を照射したモモの方では、目立つ傷みは見られなかった。次に、図22(b)に示すように、皮をむいて観察したところ、無照射では、Aで示す部分が傷んで茶色く変色しており、傷んだ部分が広く見られたのに対し、近赤外光を照射したモモの方では、傷みはほとんど見られなかった。このように、近赤外光の照射により、傷みを軽減できた。
【0111】
また、前記の8日間貯蔵した後の無照射のモモおよび本実施例に係る近赤外光を照射したモモについて、細かく切断し、暗所・10℃条件下で1時間放置した後、外観を目視により観察した。図22(c)(d)は、その結果を示す写真である。図22(c)に示す写真Xは、無照射のモモ、図22(d)に示す写真Yは、本実施例に係る近赤外光を照射したモモであり、両図において、左側の写真が切断直後の状態、右側の写真が切断後1時間放置した後の状態である。図22(c)(d)において、Bで示す部分は、褐変が見られた部分である。図22(c)(d)に示すように、無照射では、各断片が全体的に褐変したのに対し、近赤外光を照射したモモは、僅かに褐変したものの褐変の進行度合いが少なかった。このように、近赤外光の照射により、褐変を抑制することができた。
【0112】
[実施例17]
キクに、暗所(0Lx)・低温(10℃)条件下において、LEDから発せられる中心波長850nm(100μmol/m^(2)/s)の近赤外光を5分間照射した。その後、明所・23℃条件下で、茎の切断面を水につけた状態で2週間貯蔵し、蒸散量を求めた。本実施例において、試料数は2以上とし、同様の試験を4回行った。蒸散量の表示方法は、前述のとおりである。その結果を、表20に示す。表20に示すように、無照射を1.00とした場合の蒸散量の相対値は、試験4回の平均が0.94であり、蒸散量抑制効果が見られた。
【0113】
【表20】

【0114】
また、無照射のキクおよび本実施例に係る近赤外光を照射したキクについて、前記のように2週間貯蔵した後の葉および花の萎れを評価した。萎れは、葉および花それぞれについて、0点から3点の4段階で評価し(0点:萎れなし、1点:萎れ少、2点:萎れ多、3点:枯れ)、葉の萎れと花の萎れとの合計点で評価した。その結果を、表21に示す。表21に示すように、無照射の場合、葉および花の萎れは平均3.8点であったのに対し、近赤外光を照射したキクでは0.7点であり、萎れを抑制することができた。また、図23に、本評価に用いたキクの外観を撮影した写真を示し、図24に、図23の写真を模式化した図を示す。図23および図24において、左側の図Xが無照射のキクであり、右側の図Yが本実施例に係る近赤外光を照射したキクである。図23および図24に示すように、無照射では、葉および花ともに萎れが見られたのに対し、近赤外光を照射したキクでは、萎れが少なく、開花後の状態を維持することができた。
【0115】
【表21】

【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の農作物の鮮度保持方法は、簡単かつ低コストで、薬剤を使用することなく、加熱を伴わず、広範囲の農作物に適用可能で、対象農作物全体に均一な鮮度保持効果を得ることができる。したがって、本発明は、例えば、出荷前の使用、店頭における使用において、有効に利用することができるが、その用途は限定されず、広い分野で使用することができる。
【符号の説明】
【0117】
10、101、201 農作物の鮮度保持装置
11 光源
12 コントローラ
13 農作物
20 トラック
21 輸送コンテナ
15 照射装置本体
16 ベルトコンベア
17 把持部
30、40 冷蔵庫
31、41 野菜室
50 ショーケース
51 開口部
52 透明部材
53 断熱箱体
54 収納室
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
農作物に近赤外光を照射し、
前記農作物が、生鮮野菜類(根菜類およびニンニクを除く)、生鮮果実類および生鮮花卉類からなる群から選択された少なくとも1つであり、
前記近赤外光が800nmを超え1000nm以下の範囲の単波長光であるか、または、前記近赤外光が波長分布を有し、中心波長が800nmを超え1000nm以下の範囲であり、
前記近赤外光を、0.1μmol/m^(2)/s?10μmol/m^(2)/sで1分以上、10μmol/m^(2)/sを超え200μmol/m^(2)/s未満で10秒以上、または、200μmol/m^(2)/s?10000μmol/m^(2)/sで1ナノ秒?10秒照射することを特徴とする農作物の鮮度保持方法。
【請求項2】
生鮮農作物の生産方法であって、
収穫後の農作物に対し、鮮度保持処理を行う鮮度保持処理工程を含み、
前記鮮度保持処理工程が、請求項1記載の農作物の鮮度保持方法により行われることを特徴とする生産方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-04-20 
出願番号 特願2013-531409(P2013-531409)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中澤 真吾  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 佐々木 正章
山崎 勝司
登録日 2016-02-26 
登録番号 特許第5889310号(P5889310)
権利者 四国電力株式会社 株式会社四国総合研究所
発明の名称 農作物の鮮度保持方法および生鮮農作物の生産方法  
代理人 辻丸 光一郎  
代理人 中山 ゆみ  
代理人 辻丸 光一郎  
代理人 伊佐治 創  
代理人 中山 ゆみ  
代理人 中山 ゆみ  
代理人 辻丸 光一郎  
代理人 伊佐治 創  
代理人 伊佐治 創  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ