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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1329079
異議申立番号 異議2016-700270  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-31 
確定日 2017-05-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5876962号発明「外用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5876962号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕〔7〕〔8?12〕〔13〕について訂正することを認める。 特許第5876962号の請求項5、12に係る発明についての特許異議の申立てを却下する。 特許第5876962号の請求項1?4、6、7、8?11、13に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5876962号の請求項1?13に係る特許についての出願は、平成23年 7月12日(優先権主張 2010年 7月16日)に出願した特願2011-154200号の一部を平成27年 8月31日に新たな特許出願としたものであって、平成28年 1月29日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 田中俊子により特許異議の申立てがされるとともに、特許異議申立人 中川賢治により特許異議の申立てがされ、平成28年11月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年 1月27日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、特許異議申立人 田中俊子から平成29年 3月13日に意見書及び上申書が提出されるとともに、特許異議申立人 中川賢治から平成29年3月10日に意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のア?キのとおりである。
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含み、ビタミンA類の含有量が、組成物の全量に対して、0.3?1重量%であり、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、リニメント剤、又はパップ剤の形態の医薬品用であるか、又は基礎化粧料、洗浄用化粧料、又はメークアップ化粧料の形態の医薬部外品又は化粧品用である、皮膚外用組成物。」と記載されているのを、「ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含み、ビタミンA類の含有量が、組成物の全量に対して、0.3?1重量%であり、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、リニメント剤、又はパップ剤の形態の医薬品用であるか、又は基礎化粧料、洗浄用化粧料、又はメークアップ化粧料の形態の医薬部外品又は化粧品用である、皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための、皮膚外用組成物。」に訂正する。

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に、「肌荒れが乾皮症又は角化症である、請求項5に記載の皮膚外用組成物。」と記載されているのを、「肌荒れが乾皮症又は角化症である、請求項1に記載の皮膚外用組成物。」に訂正する。

エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に、「ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含み、ビタミンA類の含有量が、組成物の全量に対して、0.3?1重量%であり、pHが4?9である、皮膚外用組成物。」と記載されているのを、「ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含み、ビタミンA類の含有量が、組成物の全量に対して、0.3?1重量%であり、ヘパリン類似物質の含有量が、組成物の全量に対して、0.1重量%以上0.5重量%以下であり、pHが5?8である、皮膚外用組成物。」に訂正する。

オ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8に、「ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含み、ビタミンA類の含有量が、組成物の全量に対して、0.3?1重量%であり、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、リニメント剤、又はパップ剤の形態の医薬品用であるか、又は基礎化粧料、洗浄用化粧料、又はメークアップ化粧料の形態の医薬部外品又は化粧品用である、肌荒れ改善用外用組成物。」と記載されているのを、「ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含み、ビタミンA類が、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、及びδ-レチノイン酸トロフェロールからなる群より選択される少なくとも1種を含有するビタミンA油の形態であり、ビタミンA類の含有量が、組成物の全量に対して、0.3?1重量%であり、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、リニメント剤、又はパップ剤の形態の医薬品用であるか、又は基礎化粧料、洗浄用化粧料、又はメークアップ化粧料の形態の医薬部外品又は化粧品用である、肌荒れ改善用外用組成物。」に訂正する。

カ.訂正事項6
特許請求の範囲の請求項12を削除する。

キ.訂正事項7
特許請求の範囲の請求項13に、「ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含み、ビタミンA類の含有量が、組成物の全量に対して、0.3?1重量%であり、pHが4?9である、肌荒れ改善用外用組成物。」と記載されているのを、「ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含み、ビタミンA類の含有量が、組成物の全量に対して、0.3?1重量%であり、ヘパリン類似物質の含有量が、組成物の全量に対して、0.1重量%以上0.5重量%以下であり、pHが5?8である、肌荒れ改善用外用組成物。」に訂正する。

(2)一群の請求項、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.一群の請求項について
訂正事項1?3に係る訂正は、いずれも訂正前の請求項1?6について訂正するものであるところ、請求項2は請求項1を、請求項3?4は請求項1及びその前に記載されたいずれかの請求項を、請求項6は請求項5をそれぞれ引用している関係にあるから、訂正前の請求項1?6は、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
また、訂正事項5?6に係る訂正は、いずれも訂正前の請求項8?12について訂正するものであるところ、請求項9は請求項8を、請求項10?12は請求項8及びその前に記載されたいずれかの請求項を引用している関係にあるから、訂正前の請求項8?12は、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、訂正事項1?3、5?6に係る訂正は、一群の請求項ごとにされたものである。

イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(ア)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明に対して、「皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための」ものに特定するものである。また、訂正前の請求項2?6は請求項1を引用するものであって、訂正事項1は、請求項2?4、6に係る発明についても、「皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための」ものに特定するものである。
そして、上記特定に関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、ビタミンA類、及びヘパリン類似物質を含む皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための外用組成物を包含する。」(段落0012)との記載があることから、訂正前の請求項1?6に係る発明において、「皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための」皮膚外用組成物であることは明細書に記載されているものと認める。また、訂正前の請求項5に、「皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための、請求項1?4の何れかに記載の皮膚外用組成物」と記載されていることからも、訂正前の請求項1に係る発明には、訂正前の請求項5記載の「皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための」ものが含まれているものと認める。
よって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(イ)訂正事項2
訂正事項2は、請求項5を削除するものである。
よって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(ウ)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項6に係る発明が訂正前の請求項5を引用していたものを、訂正後の請求項6に係る発明が訂正後の請求項1を引用するとしたものである。
ここで、訂正事項1は、請求項1に訂正前の請求項5に記載の「皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための」との記載を加えることにより、特許請求の範囲を減縮するものであり、訂正事項2は、請求項5を削除することにより、特許請求の範囲を減縮するものである。
そうすると、請求項6が引用する請求項を請求項1から同5へ変更するものといえる訂正事項3は、訂正事項1、2と一体となって、特許請求の範囲を減縮するものといえる。
よって、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(エ)訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項7に係る発明に対して、「ヘパリン類似物質の含有量が、組成物の全量に対して、0.1重量%以上0.5重量%以下であり」と記載し、ヘパリン類似物質の含有量を特定するとともに、pHについて、「pHが4?9である」との記載を「pHが5?8である」と特定するものである。
そして、訂正事項4のうち、「ヘパリン類似物質の含有量が、組成物の全量に対して、0.1重量%以上0.5重量%以下であり」とする点に関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には、「本発明の外用組成物中のヘパリン類似物質の含有量は、組成物の全量に対して、・・・0.1重量%以上がさらにより好ましい。また、・・・0.5重量%以下がさらにより好ましい。」(段落0016)との記載があることから、訂正前の請求項7に係る発明において、ヘパリン類似物質の含有量が、組成物の全量に対して、0.1重量%以上0.5重量%以下であ」ることは、明細書に記載されているものと認める。また、「pHが5?8である」とする点に関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には、「本発明の外用組成物のpHは、約4?9が好ましく、約5?8がより好ましい。」(段落0038)と記載されていることから、訂正前の請求項7に係る発明において、「pHが5?8である」ことは明細書に記載されているものと認める。
よって、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(オ)訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項8に係る発明に対して、「ビタミンA類が、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、及びδ-レチノイン酸トロフェロールからなる群より選択される少なくとも1種を含有するビタミンA油の形態であり、」と特定するものである。また、また、訂正前の請求項9?11は請求項8を引用するものであって、訂正事項5は、請求項9?11に係る発明についても、「ビタミンA類が、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、及びδ-レチノイン酸トロフェロールからなる群より選択される少なくとも1種を含有するビタミンA油の形態であ」るものに特定するものである。
そして、上記特定に関連する記載として、明細書の発明の詳細な説明には、「本発明におけるビタミンA類には、・・・・が挙げられる。中でも、レチノール又はレチノイン酸のエステルが好ましく、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、δ-レチノイン酸トコフェロールがより好ましい。・・・また、ビタミンA類は、ビタミンA油の形態で用いることもできる。」(段落0013)と記載されていることから、訂正前の請求項8に係る発明において、「ビタミンA類が、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、及びδ-レチノイン酸トロフェロールからなる群より選択される少なくとも1種を含有するビタミンA油の形態であ」ることは明細書に記載されているものと認める。
よって、訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(カ)訂正事項6
訂正事項6は、請求項12を削除するものである。
よって、訂正事項6は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(キ)訂正事項7
訂正事項7は、訂正前の請求項13に係る発明に対して、「ヘパリン類似物質の含有量が、組成物の全量に対して、0.1重量%以上0.5重量%以下であり」と記載し、ヘパリン類似物質の含有量を特定するとともに、pHについて、「pHが4?9である」との記載を「pHが5?8である」と特定するものである。
上記訂正事項が、明細書に記載されているものといえることは、上記(エ)においてすでに説示したとおりである。
よって、訂正事項7は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1?7は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕〔7〕〔8?12〕〔13〕について訂正することを認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求による訂正後の請求項1?13に係る発明(以下、請求項順に、「本件発明1」、「本件発明2」・・・、「本件発明13」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含み、ビタミンA類の含有量が、組成物の全量に対して、0.3?1重量%であり、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、リニメント剤、又はパップ剤の形態の医薬品用であるか、又は基礎化粧料、洗浄用化粧料、又はメークアップ化粧料の形態の医薬部外品又は化粧品用である、皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための、皮膚外用組成物。
【請求項2】
ビタミンA類の含有量に対するヘパリン類似物質の含有量が、重量比で、1:0.01?10である、請求項1に記載の皮膚外用組成物。
【請求項3】
ヘパリン類似物質の含有量が、組成物の全量に対して、0.0001?10重量%である、請求項1又は2に記載の皮膚外用組成物。
【請求項4】
ビタミンA類がパルミチン酸レチノールである、請求項1?3の何れかに記載の皮膚外用組成物。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
肌荒れが乾皮症又は角化症である、請求項1に記載の皮膚外用組成物。
【請求項7】
ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含み、ビタミンA類の含有量が、組成物の全量に対して、0.3?1重量%であり、ヘパリン類似物質の含有量が、組成物の全量に対して、0.1重量%以上0.5重量%以下であり、pHが5?8である、皮膚外用組成物。
【請求項8】
ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含み、ビタミンA類が、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、及びδ-レチノイン酸トロフェロールからなる群より選択される少なくとも1種を含有するビタミンA油の形態であり、ビタミンA類の含有量が、組成物の全量に対して、0.3?1重量%であり、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、リニメント剤、又はパップ剤の形態の医薬品用であるか、又は基礎化粧料、洗浄用化粧料、又はメークアップ化粧料の形態の医薬部外品又は化粧品用である、肌荒れ改善用外用組成物。
【請求項9】
肌荒れが乾皮症又は角化症である、請求項8に記載の肌荒れ改善用外用組成物。
【請求項10】
肌荒れ改善がバリア機能の改善である、請求項8又は9に記載の肌荒れ改善用外用組成物。
【請求項11】
ビタミンA類の含有量に対するヘパリン類似物質の含有量が、重量比で、1:0.01?10である、請求項8?10の何れかに記載の肌荒れ改善用外用組成物。
【請求項12】
(削除)
【請求項13】
ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含み、ビタミンA類の含有量が、組成物の全量に対して、0.3?1重量%であり、ヘパリン類似物質の含有量が、組成物の全量に対して、0.1重量%以上0.5重量%以下であり、pHが5?8である、肌荒れ改善用外用組成物。」

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1?13に係る特許に対して、平成28年11月25日付けで特許権者に通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。

ア.請求項1?3、7?11、13に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1:特開2002-205937号公報に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

イ. 請求項1?3、7?11、13に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物2:特開2003-95984号公報に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(3)刊行物の記載
ア.刊行物1: 特開2002-205937号公報(特許異議申立人 中川賢治により提出された甲第1号証)の記載
刊行物1には、以下の記載がある。
・記載事項1-1
「前記薬効成分としては、特に制限はないが、特に、荒れ肌改善効果を有し、かつ、高分子であるため安定性に寄与する点で、コンドロイチンの多硫酸エステル化合物等が好ましい。
前記コンドロイチンの多硫酸エステル化合物としては、日本薬局方外医薬品規格に定義されたヘパリン類似物質、コンドロイチン硫酸D、コンドロイチン硫酸E、コンドロイチン硫酸F、コンドロイチン硫酸H、等が挙げられる。」(段落0016、0017)

・記載事項1-2


」(段落0067?0069の実施例29)

記載事項1-2によれば、刊行物1には、「水相成分として、ヘパリン類似物質 0.30g/100g、尿素 3.00g/100g、アミノ酸 0.10g/100g、ジエチレングリコール 0.10g/100g及び精製水 76.50g/100gを含有し、総水相量 80.00g/100gであり、油相成分として、ビタミンA油 0.50g/100g、トリ-2-エチルヘキサン酸グリセリル 3.70g/100g、メチルフェニルポリシロキサン(100mm2/s) 2.00g/100g、スクワラン 5.40g/100g、ラウリルアルコール 1.60g/100g、ミツロウ 1.50g/100g、グリセリン脂肪酸エステル 2.50g/100g、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル 2.50g/100g及びパラベン 0.30g/100gを含有し、総油相量 20.00g/100gである、ビタミン配合保湿クリーム。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

イ. 刊行物2:特開2003-95984号公報(特許異議申立人 中川賢治により提出された甲第2号証)の記載
刊行物2には、以下の記載がある。
・記載事項2-1
「〔実施例1?17及び比較例1〕表1?表3に示す組成について常法に準じて各油性液状組成物を調製し、下記方法により、油浮き性(離油性)及び使用感の評価を行った。結果を表1?3に併記する。」(段落0032)

・記載事項2-2
「【表3】

」(段落0036の実施例12)

記載事項2-1、及び2-2によれば、刊行物2には、「(a)形質流動パラフィン(CRYSTOL70、12.4cSt/40℃) 残量、(b)低融点ポリエチレン(サンテックPAK0025、融点104℃) 3.5質量%、(c)有機変性粘土鉱物(ニューエスベンD) 1.5質量%、(d)ステアリン酸アルミニウム(モノアルミニウムタイプ) 1.0質量%、(e)モノステアリン酸グリセリル 0.4質量%、(f)ポリスチレン粒子(平均粒子径6μm) 20.0質量%、(g)ヘパリン類似物質 1質量%、ビタミンA 1質量%、及びユーカリ油 0.05質量%である油性液状組成物。」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。

(4)判断
ア.取消理由通知に記載した取消理由について
以下においては、取消理由を通知していない請求項についてもあわせて説示する。

(ア)前記(2)アについて
(ア)-1 請求項1?4、6
本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1は、「皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための」組成物であると規定していない。引用発明1は、ヘパリン類似物質を含有しているから、刊行物1の記載事項1-1を参酌すると、肌荒れを改善するための組成物であると認めることはできるが、刊行物1のその他の記載を参酌しても、引用発明1が、ビタミンAによる「皮膚刺激性を抑え」ることができるものであるとは認められないことから、引用発明1は「皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための」との事項を有するものではない。
そして、本件発明1を引用する一群の請求項である本件発明2?4、6についても上記と同様に判断される。
したがって、本件発明1?4、6は、引用発明1ではない。

(ア)-2 請求項7
本件発明7と引用発明1とを対比すると、引用発明1は、「pHが5?8である」と規定していない。
異議申立人 田中俊子は、平成29年 3月13日付け意見書において、アミノ酸としてアルギニンを配合した場合には引用発明1のpHは5?8である蓋然性が極めて高く相違点とはなりえないと主張する。
しかし、引用発明1記載の組成物のアミノ酸の種類は不明であるから、該組成物のpHの値がいずれであるかは不明であり、刊行物1の記載を参酌しても引用発明1が「pHが5?8である」ものとは認められないことから、引用発明1は「pHが5?8である」との事項を有するものではない。
したがって、本件発明7は、引用発明1ではない。

(ア)-3 請求項8?11
本件発明8と引用発明1とを対比すると、引用発明1は、ビタミンA油が「酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、及びδ-レチノイン酸トロフェロールからなる群より選択される少なくとも1種を含有する」ものであると規定していない。
異議申立人 田中俊子は、平成29年 3月13日付け意見書において、甲第6号証?甲第8号証を提示の上、引用発明1におけるビタミンA油はパルミチン酸レチノールを含むものであると当業者が当然に認識するから相違点とはならないと主張する。
しかし、ビタミンA油を構成するビタミンAは種々あり、引用発明1におけるビタミンAが本件発明8記載のものであるとただちにいえるものとは認められないから、引用発明1は、「ビタミンA類が、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、及びδ-レチノイン酸トロフェロールからなる群より選択される少なくとも1種を含有するビタミンA油の形態であり、」との事項を有するものではない。
したがって、本件発明8は、引用発明1ではない。
そして、本件発明8を引用する一群の請求項である本件発明9?11についても上記と同様に判断される。

(ア)-4 請求項13
本件発明13と引用発明1とを対比すると、引用発明1は、「pHが5?8である」と規定していない。
そして、引用発明1が「pHが5?8である」ものとは認められないことから、引用発明1は「pHが5?8である」との事項を有するものではないことは、すでに上記(ア)-2で説示したとおりである。
したがって、本件発明13は、引用発明1ではない。

(イ)前記(2)イについて
(イ)-1 請求項1?4、6
本件発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2は、「皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための」組成物であると規定していない。また、刊行物2の記載を参酌しても、引用発明2が、ビタミンAによる「皮膚刺激性を抑え」ることができるものであるとは認められないことから、引用発明2は「皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための」との事項を有するものではない。
そして、本件発明1を引用する一群の請求項である本件発明2?4、6についても上記と同様に判断される。
したがって、本件発明1?4、6は、引用発明2ではない。

(イ)-2 請求項7
本件発明7と引用発明2とを対比すると、本件発明7は、「ヘパリン類似物質の含有量が、組成物の全量に対して、0.1重量%以上0.5重量%以下であり」との事項を有することにより、引用発明2とは異なる。
したがって、本件発明7は、引用発明2ではない。

(イ)-3 請求項8?11
本件発明8と引用発明2とを対比すると、引用発明2は、ビタミンAが「酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、及びδ-レチノイン酸トロフェロールからなる群より選択される少なくとも1種を含有するビタミンA油の形態であ」るとの事項を有するものではない。
したがって、本件発明8は、引用発明2ではない。
そして、本件発明8を引用する一群の請求項である本件発明9?11についても上記と同様に判断される。

(イ)-4 請求項13
本件発明13と引用発明2とを対比すると、本件発明13は、「ヘパリン類似物質の含有量が、組成物の全量に対して、0.1重量%以上0.5重量%以下であり」との事項を有することにより、引用発明2とは異なる。
したがって、本件発明13は、引用発明2ではない。

イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(ア)特許異議申立人 田中俊子の申立理由について
特許異議申立人 田中俊子は、特許異議申立書において、以下の甲第1号証?甲第4号証を提出の上、訂正前の請求項1?13に係る発明に関して、(i)明確性要件違反、(ii)サポート要件違反、(iii)実施可能要件違反、(iv)進歩性欠如及び(v)分割要件違反を前提とする新規性欠如を主張する。また、平成29年 3月13日付け意見書及び上申書を提出し、同意見書とともに、技術常識を示すものとして以下の甲第6号証?甲第10号証を提出する。

甲第1号証:「日本医薬品集 一般薬 2009-10年版」、平成20年9月1日発行、株式会社じほう、761頁、表紙及び奥付
甲第2号証:「医薬品製造販売指針 2008」、平成20年10月10日発行、株式会社じほう、70-71頁、表紙及び奥付
甲第3号証:特開2004-307491号公報
甲第4号証:久保亮五 他3名、「岩波 理化学事典 第4版」、1987年10月12日発行、1042?1043頁、表紙及び奥付
甲第5号証:特開2012-36176号公報
甲第6号証:薬事法・薬剤師法 毒物及び劇物取締法解説 第20版、295?296頁、株式会社薬事日報社、平成22年2月14日発行
甲第7号証:第十五改正日本薬局方解説書 医薬品各条【た行】?【わ行】、C-3222?C-3223、株式会社廣川書店、2006年発行
甲第8号証:理研ビタミン株式会社のホームページ (http://www.rikenvitamin.jp/business/health/medicinal.html)の写し
甲第9号証:日本医薬品集 医療薬 2010年版、1677頁、1982頁、2384頁、株式会社じほう、平成21年8月1日発行
甲第10号証:第十五改正日本薬局方解説書 医薬品各条【た行】?【わ行】、C-4736?C-4738、株式会社廣川書店、2006年発行

申立理由(i)について
本件発明1、7、8、13の「ビタミンA類の含有量が、組成物の全量に対して、0.3?1重量%であり、」における「ビタミンA類の含有量」は、明細書の発明の詳細な説明の段落0014の記載によれば、通常は文言どおり「ビタミンA類の含有量」と解され、ただし、ビタミンA類がビタミンA油の形態で組成物に含まれる場合は、ビタミンA類を溶解させたビタミンA油の重量であると解されるから、不明確であるとはいえない。また、他に、訂正後の各請求項の記載に不明確な点も見出せない。
したがって、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものであり、特許異議申立人 田中俊子による明確性要件違反との主張は理由がない。

申立理由(ii)及び(iii)について
明細書の発明の詳細な説明の段落0006の記載によれば、本件発明1?4、6、7、8?11、13は、いずれも、ビタミンA類による皮膚刺激性を軽減するためのものであって、同段落0009の記載によれば、ビタミンA類の皮膚刺激性が生じるのは、その濃度が高いときであるから、ビタミンA類の含有量が過少であるために所望の効果が生じないような態様は、当然含まれないと解され、本件発明1?4、6、7、8?11、13には、発明の課題を解決できない範囲が包含されるとも、明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?4、6、7、8?11、13を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとも、いえない。
したがって、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものであり、明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号の要件を満たすものであって、特許異議申立人 田中俊子によるサポート要件違反及び実施可能要件違反との主張は理由がない。

申立理由(iv)について
特許異議申立人 田中俊子が提出した甲第3号証:特開2004-307491号公報(特に、第6頁表1及び第10頁表3)には、ヘパリン類似物質0.3重量%及びビタミンA-パルミテート(パルミチン酸レチノール)0.118重量%を含むローション液及びクリームが記載されている。甲第3号証に記載されたローション液及びクリームを、本件発明1?4、6、7、8?11、13と対比すると、少なくとも、前者は、ビタミンA-パルミテートの濃度が0.118重量%であるのに対し、後者は、ビタミンA類の濃度が0.3?1重量%である点で相違する。
そして、甲第3号証の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来技術によると、保湿効果等の経時安定性が不充分であった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、保湿性成分等の有効成分を含む皮膚外用剤において、長期保存後もpH上昇その他の品質劣化を防ぐことができ、保湿等の効果を持続することのできる皮膚外用剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の皮膚外用剤は、ヘパリン類似物質と、リドカインと、アミノアルコール(アルカノールアミン)とを含むことを特徴とする。また、本発明の皮膚外用剤は、別の態様において、ヘパリン類似物質と、ピロリドンカルボン酸塩とを含むことを特徴とする。」(段落0007?段落0010)

上記の記載によれば、甲第3号証には、皮膚外用剤に対して、ヘパリン類似物質と、リドカインと、アミノアルコールとを含ませることにより、保湿効果等の経時安定性の向上を図ることが記載されていると認められるところ、上記のヘパリン類似物質0.3重量%及びビタミンA-パルミテート0.118重量%を含むローション液及びクリームにおいて、ビタミンA-パルミテートの含有量を変更する動機づけも、ビタミンA-パルミテートをビタミンA油に変更する動機づけも、見出せない。
そして、本件発明1?4、6、7、8?11、13は、ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含む皮膚外用組成物であって、ビタミンA類をその全量に対して0.3?1重量%と、甲第3号証記載におけるよりも多く含有する組成物にヘパリン類似物質を添加することにより、ビタミンA類による皮膚刺激を効果的に抑制するとの当業者の予想し得ない効果を奏するものと認める。
したがって、本件発明1?4、6、7、8?11、13は、特許異議申立人 田中俊子が提出した甲3号証に記載された発明及び他の甲号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないので、特許異議申立人 田中俊子による進歩性欠如との主張は理由がない。

申立理由(v)について
本申立理由は、本件出願の原出願:特願2011-154200の願書に最初に添付した明細書には、「皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための」という用途限定のある外用組成物が記載されるのみであり、用途が限定されていない皮膚外用組成物について、原出願の当初明細書から把握できないので、本件出願は特許法第44条第1項に規定される要件を満たさない出願であるから、本件発明7は、原出願の公開公報である甲第5号証に記載された発明であるというものである。
本件出願の原出願:特願2011-154200の願書に最初に添付した明細書には、同明細書に記載されている皮膚外用組成物の使用に関して、「手指などの肌荒れ;ひじ、ひざ、かかと、くるぶしの角化症;手足のひび、あかぎれ;乾皮症;小児の乾燥性皮膚;しもやけ;きず、やけどの後の皮膚のしこり、つっぱり;打身、ねんざ後の腫れ、筋肉痛、関節痛、皮脂欠乏症、肥厚性瘢痕、ケロイドなどの予防、治療、又は改善のために好適に使用できる」(段落0039、0066)との記載があり、肌荒れ以外にも種々の用途に用いられることが記載されている。
したがって、この出願は、本申立理由によっては、特許法第44条第1項に規定される要件を満たしていないとはいえず、特許異議申立人 田中俊子による新規性違反との主張は理由がない。

なお、本件発明1?4、6は、「皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための、」と、その用途が特定されているから、皮膚外用組成物の用途が特定されていないことを前提とする本件申立の理由は、本件発明1?4、6については、本件訂正によっても解消している。

(イ)特許異議申立人 中川賢治 の申立理由について
特許異議申立人 中川賢治 は、特許異議申立書において、以下の甲第1号証?甲第12号証を提出の上、訂正前の請求項1?3に係る発明に関し、(i)新規性欠如を主張し、訂正前の請求項1?13に係る発明に関し、(ii)進歩性欠如を主張する。また、平成29年3月10日付け意見書において、以下の参考資料1、2を提出の上、訂正後の本件発明1?4、6、7、8?11、13に関し、(ii)進歩性欠如を主張する。

甲第1号証:特開2002-205937号公報
甲第2号証:特開2003-95984号公報
甲第3号証:日本美容皮膚科学会監修「美容皮膚科プラクティス」、2000年1月20日2刷発行、株式会社南山堂、550?553頁
甲第4号証:西日本皮膚科、第69巻第1号、2007年発行、44?49頁
甲第5号証:特開2004-307491号公報
甲第6号証:ヒルドイド(R)ゲル0.3%添付文書、2008年12月改訂第4版(なお、この「(R)」の字は、原文では下付きの○内にRの文字)
甲第7号証:皮膚、第34巻第1号、平成4年2月発行、97?103頁
甲第8号証:西日本皮膚科、第57巻第2号、1995年発行、311?314頁
甲第9号証:特開平6-32728号公報
甲第10号証:日本医薬品集 一般薬 2009-10年版、平成20年9月1日発行、株式会社じほう、683頁、802頁
甲第11号証:一般薬 日本医薬品集 2004-05年版、平成15年7月30日発行、株式会社じほう、587頁、588頁、590頁
甲第12号証:西日本皮膚科、第69巻第1号、2007年発行、51?56頁

参考資料1:皮膚の科学、第8巻、第6号、2009年12月発行、日本皮膚学会大阪地方会・京滋地方会、793?798頁
参考資料2:第十五改正日本薬局方解説書 医薬品各条【た行】?【わ行】、C-4731?C-4736、株式会社廣川書店、2006年発行

申立理由(i)について
特許異議申立人 中川賢治が提出した、甲第1号証は、取消理由通知で引用した刊行物1であり、甲第2号証は、取消理由通知で引用した刊行物2であり、本件発明1?3が、刊行物1に記載された発明ではなく、刊行物2に記載された発明ではないことは、前記3(4)アに説示したとおりである。

申立理由(ii)について
(イ)-1 請求項1?4、6
本件特許発明1?4、6は、「皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための、皮膚外用組成物」に係る発明であって、その解決しようとする課題は、訂正後の請求項1?4、6の記載及び明細書の発明の詳細な説明の段落0006、段落0012、段落0016、段落0066などの記載から、ビタミンA類を含有する皮膚外用組成物において、ビタミンA類による肌への刺激性を抑制し、肌荒れを改善するための皮膚外用組成物を提供することであると認める。
しかし、甲第1号証?甲第12号証のいずれにも、その課題は記載されておらず、また、当業界における周知の課題であるとも認められない。
特許異議申立人 中川賢治は、平成29年3月10日付け意見書において、「皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための、」は、皮膚外用組成物の効果であり、また、その効果は、ヘパリン類似物質が本来的に有している機能であると主張し、その証拠として、レチノイン酸受容体に結合してレチノイドと同様の作用を有することが知られているアダパレンを使用した場合に出現した副作用が、ヒルドイドソフトやヒルドイドローションなどの保湿剤により改善がみられたことが参考資料1に記載されていることを挙げて(タイトル、797頁)、ビタミンA類について請求項1記載の上記効果を規定することは当業者が容易になしうることであると主張する。
しかし、「皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための、」は、効果ではなく、発明特定事項である。さらに、ビタミンAがアダパレンと同様の副作用を有することや、同様の処置により該副作用を改善することは参考資料1に記載されておらず、不明である。そして、アダパレンがレチノイドと同様、レチノイン酸受容体に結合して作用を示すものであるとしても、副作用の発現も該機構により出現するものとは限らないから、特許異議申立人の主張は理由がない。
明細書の発明の詳細な説明又は図面(特に、段落0040?0055及び図1?図3)の記載から、本件発明1?4、6は、その発明特定事項を採用することにより、ビタミンA類を含有する皮膚外用組成物において、ビタミンA類による肌への刺激性を抑制し、肌荒れを改善するという、上記課題を解決できるものと認める。
したがって、本件発明1?4、6は、甲第1号証?甲第12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)-2 請求項7
甲第1号証には、引用発明1のpHが5?8であることは記載されていない。
特許異議申立人 中川賢治は、皮膚刺激性を低減するためにpHを中性領域に設定することは、皮膚外用剤における周知の技術常識にすぎないし、ビタミンA類とヘパリン類似物質を含むpH5?8の値を満足する皮膚外用組成物が甲第5号証に記載されているから、引用発明1のpHを5?8とすることは当業者が容易になしうることであると主張する。
しかし、皮膚外用組成物のpHを中性領域に設定することが、特許異議申立人の主張のとおり、本件出願の優先日当時、周知の技術常識であるとしても、明細書の発明の詳細な説明又は図面(特に、段落0040?0055及び図1?図3)の記載から、本件発明7は、その発明特定事項を採用することにより、ビタミンA類を含有する皮膚外用組成物において、ビタミンA類による肌への刺激性を抑制し、肌荒れを改善するという、甲第1号証?甲第12号証の記載から、引用発明1のpHを5?8とすることは、当業者が予想し得ない、顕著な効果を奏するものと認める。
したがって、本件発明7は、甲第1号証?甲第12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)-3 請求項8?11
甲第1号証には、ビタミンA油が「酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、及びδ-レチノイン酸トロフェロールからなる群より選択される少なくとも1種を含有する」ものであることは記載されていない。
甲第3号証には、ビタミンA誘導体にレチノールがあり、該レチノールにはパルミチン酸レチノールと酢酸レチノールがあることが記載されている(550頁)。また、甲第5号証には、ヘパリン類似物質とビタミンA-パルミテートとを含有するローション液が記載されている(表2)。
特許異議申立人 中川賢治は、平成29年3月10日付け意見書において、参考資料2を提示の上、第十五改正日本薬局方解説書 医薬品各条【た行】?【わ行】、株式会社廣川書店、2006年発行に記載される、ビタミンA油がレチノール酢酸エステル及びレチノールパルミチン酸エステルの夫々を標準品として評価されることから、医薬用途に供される引用発明1におけるビタミンA油として、出願当時、ビタミンA油に含有されていることが周知の成分である、レチノール酢酸エステル及びパルミチン酸とすることは当業者が容易になしうると主張する。
しかし、そもそも、ビタミンA油の種類に関わらず、明細書の発明の詳細な説明又は図面(特に、段落0040?0055及び図1?図3)の記載から、本件発明8?11は、その発明特定事項を採用することにより、ビタミンA類を含有する皮膚外用組成物において、ビタミンA類による肌への刺激性を抑制し、肌荒れを改善するという、甲第1号証?甲第12号証の記載から当業者が予想し得ない、顕著な効果を奏するものと認める。
したがって、本件発明8?11は、甲第1号証?甲第12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)-4 請求項13
引用発明1において、そのpHを5?8とすることは、上記(イ)-2において説示のとおり、当業者が容易になし得たものとはいえない。
したがって、本件発明13は、甲第1号証?甲第12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

以上のとおり、本件発明1?4、6、7、8?11、13は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないので、特許異議申立人 中川賢治による進歩性欠如との主張は理由がない。

4.むすび
以上のとおりであるから、
請求項5、12に係る発明についてする特許異議申立は、不適法な申立であり、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8第1項の規定において準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
取消理由通知に記載した取消理由、並びに特許異議申立人 田中俊子が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、及び特許異議申立人 中川賢治が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?4、6、7、8?11、13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?4、6、7、8?11、13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含み、ビタミンA類の含有量が、組成物の全量に対して、0.3?1重量%であり、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、リニメント剤、又はパップ剤の形態の医薬品用であるか、又は基礎化粧料、洗浄用化粧料、又はメークアップ化粧料の形態の医薬部外品又は化粧品用である、皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための、皮膚外用組成物。
【請求項2】
ビタミンA類の含有量に対するヘパリン類似物質の含有量が、重量比で、1:0.01?10である、請求項1に記載の皮膚外用組成物。
【請求項3】
ヘパリン類似物質の含有量が、組成物の全量に対して、0.0001?10重量%である、請求項1又は2に記載の皮膚外用組成物。
【請求項4】
ビタミンA類がパルミチン酸レチノールである、請求項1?3の何れかに記載の皮膚外用組成物。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
肌荒れが乾皮症又は角化症である、請求項1に記載の皮膚外用組成物。
【請求項7】
ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含み、ビタミンA類の含有量が、組成物の全量に対して、0.3?1重量%であり、ヘパリン類似物質の含有量が、組成物の全量に対して、0.1重量%以上0.5重量%以下であり、pHが5?8である、皮膚外用組成物。
【請求項8】
ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含み、ビタミンA類が、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、及びδ-レチノイン酸トコフェロールからなる群より選択される少なくとも1種を含有するビタミンA油の形態であり、ビタミンA類の含有量が、組成物の全量に対して、0.3?1重量%であり、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、リニメント剤、又はパップ剤の形態の医薬品用であるか、又は基礎化粧料、洗浄用化粧料、又はメークアップ化粧料の形態の医薬部外品又は化粧品用である、肌荒れ改善用外用組成物。
【請求項9】
肌荒れが乾皮症又は角化症である、請求項8に記載の肌荒れ改善用外用組成物。
【請求項10】
肌荒れ改善がバリア機能の改善である、請求項8又は9に記載の肌荒れ改善用外用組成物。
【請求項11】
ビタミンA類の含有量に対するヘパリン類似物質の含有量が、重量比で、1:0.01?10である、請求項8?10の何れかに記載の肌荒れ改善用外用組成物。
【請求項12】
(削除)
【請求項13】
ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含み、ビタミンA類の含有量が、組成物の全量に対して、0.3?1重量%であり、ヘパリン類似物質の含有量が、組成物の全量に対して、0.1重量%以上0.5重量%以下であり、pHが5?8である、肌荒れ改善用外用組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-05-01 
出願番号 特願2015-170711(P2015-170711)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 今村 明子  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 前田 佳与子
穴吹 智子
登録日 2016-01-29 
登録番号 特許第5876962号(P5876962)
権利者 ロート製薬株式会社
発明の名称 外用組成物  
代理人 勝又 政徳  
代理人 岩谷 龍  
代理人 勝又 政徳  
代理人 岩谷 龍  

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