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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J |
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管理番号 | 1329091 |
異議申立番号 | 異議2017-700318 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-03-28 |
確定日 | 2017-06-06 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5999674号発明「冷間成形用二軸延伸ナイロンフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5999674号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯等 特許第5999674号(請求項の数は5。以下、「本件特許」という。)は、平成22年2月12日に出願された特許出願に係るものであって、平成28年9月9日に設定登録された。 特許異議申立人 野田澄子(以下、単に「異議申立人」という。)は、平成29年3月28日(受理日:同月30日)、本件特許の請求項1ないし5に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。 第2 本件発明 本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明5」という。これらを総称して「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 170?210℃における熱収縮応力の最大値がMD、TDともに5.0MPa以下で、かつ一軸引張試験(試料幅15mm、チャック間距離100mm、引張速度200mm/min.)における4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての破断強度が240MPa以上であることを特徴とする電池ケース包材用二軸延伸ナイロンフィルム。 【請求項2】 一軸引張試験(試料幅15mm、チャック間距離100mm、引張速度200mm/min.)における4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての50%モジュラス値が120MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の電池ケース包材用二軸延伸ナイロンフィルム。 【請求項3】 少なくとも基材層、バリア層、シーラント層により形成された冷間成形用電池ケース包材において、前記基材層として、請求項1又は請求項2に記載の二軸延伸ナイロンフィルムを用いることを特徴とする冷間成形用電池ケース包材。 【請求項4】 請求項3に記載の冷間成形用電池ケース包材を使用し、シーラント層が内面になる凹部部分を有する電池ケース。 【請求項5】 請求項4に記載の電池ケースの凹部分に電池本体を収納し、密封されていることを特徴とする電池。」 第3 申立理由の概要 異議申立人の主張は、概略、次のとおりである。 1 本件特許に係る特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合しない(以下、「取消理由1」という。)、又は、明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合しない(以下、「取消理由2」という。)。 具体的には、発明の詳細な説明に具体的に記載されている実施例及び比較例の記載を検討すると、本件特許の特許請求の範囲には、発明の課題を解決できない範囲の発明が包含されており、本件特許の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。また、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が本発明について所期の効果を奏するものとして実施できる程度に明確且つ十分に記載されたものとはいえない。 2 主たる証拠として特開2008-44209号公報(以下、「甲1」という。)、従たる証拠として特開2000-190387号公報(以下、「甲2」という。)、特開平2-141225号公報(以下、「甲3」という。)、特開平6-913号公報(以下、「甲4」という。)、「食品・衣料品包装ハンドブック」,21世紀包装研究協会編,株式会社幸書房,第58頁,2000年7月15日初版第1刷発行(以下、「甲5」という。)、特開2002-355889号公報(以下、「甲6」という。)、特開2008-288117号公報(以下、「甲7」という。)を提出し、本件発明1ないし5は、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲7に記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(以下、「取消理由3」という。)。 3 そして、上記取消理由1ないし3にはいずれも理由があるから、本件特許の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、特許法113条2号及び4号に該当し、取り消されるべきものである。 第4 当審の判断 当審は、以下述べるように、取消理由1ないし3にはいずれも理由はないと解する。 1 取消理由1及び取消理由2(サポート要件及び実施可能要件)について 本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、発明が解決しようとする課題として 「積層体タイプ、特に冷間成形タイプの電池用外装体の主たる品質的な課題、すなわち優れた冷間成形性の確保と各層間でのデラミネーションの抑制」(段落【0007】)できることとされ、 「鋭意研究の結果、基材層であるナイロンフィルムの熱収縮応力、および引張強度をある範囲に限定することにより」(段落【0010】)課題が解決できるとされるとともに、その具体的な数値範囲について、 「ONyフィルムの4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)における一軸引張破断強度、および50%モジュラス値は、一軸引張試験(試料幅15mm、標点間距離50mm、引張速度200mm/min)により得られた応力-ひずみ曲線から求める。この応力-ひずみ曲線において、4方向における引張破断強度は、いずれも240MPa以上であることが好ましく、さらに好ましくは280MPa以上である。これにより、一般的に成形しにくいとされる成形深さが大きい金型形状の場合においても、冷間成形時にONyフィルム、およびアルミニウム箔が破断し難くなり、安定して優れた成形性を確保することが出来る。4方向のうち、いずれか一方向でも引張破断強が240MPa未満の場合、冷間成形時にONyフィルムが容易に破断するようになり、特に高伸度時の引張強度が要求される成形深さが大きい金型形状を成形する場合に、安定した成形性が得られない。さらに、応力-ひずみ曲線において、4方向における50%モジュラス値は、いずれも120MPa以上であることが好ましく、さらに好ましくは150MPa以上である。これにより、特に成形深さが比較的小さい金型形状を成形する場合において、安定した成形性を確保出来る。4方向のうち、いずれか一方向でも50%モジュラス値が120MPa以上未満の場合、冷間成形時にONyフィルムが容易に破断するようになり、安定した成形性は得られない。」(段落【0022】)、 「ONyフィルムの170?210℃における熱収縮応力の最大値は、MD、TDともに、5.0MPa以下が好ましく、成形後、ヒートシール等の二次加工時においても安定した品質を維持することができる。熱収縮応力の最大値がMD、TDいずれか一方でも5.0MPaより大きくなると、基材の熱収縮応力が大きくなり、特に200℃前後の熱が基材層に加わるヒートシール時に、バリア層と基材層間で容易にデラミネーション(剥離)が発生するため好ましくない。」(段落【0023】) と記載されている。 そして、具体的な実施例において、本件発明1の「170?210℃における熱収縮応力の最大値」及び「一軸引張試験(試料幅15mm、チャック間距離100mm、引張速度200mm/min.)における4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての破断強度」の記載範囲に該当する実施例において、デラミネーションの抑制と冷間成形性の確保の効果が確認されている。 そうすると、上記記載に接した当業者は、本件特許の請求項1に記載の電池ケース包材用二軸延伸ナイロンフィルムが、発明が解決しようとする課題を解決できると認識できるといえる。 してみれば、本件特許の特許請求の範囲には、発明の課題を解決できない範囲の発明が包含されていて、本件特許の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。 また、当業者の技術常識及び本件特許の明細書の具体的な実施例の記載を踏まえれば、本件発明を当業者が実施できると認められる。 そうすると、異議申立人が主張する取消理由1及び2には、理由がない。 2 取消理由3(進歩性)について (1) 甲1の記載及び甲1に記載された発明 甲1の段落【0001】、【0002】、【0008】、【0016】、【0018】?【0020】、【0026】、【0028】?【0030】、【0036】、【0037】の記載から、実施例2に記載されている二軸延伸ナイロンフィルムとして、以下の甲1発明が記載されているといえる。 <甲1発明> 「宇部興産(株)製ナイロン6〔UBEナイロン 1023FD(商品名)、相対粘度 ηr=3.6〕ペレットを押出機中、270℃で溶融混練した後、溶融物をダイスから円筒状のフィルムとして押出し、引き続き水で急冷して原反フィルムを作製し、チューブラー法によるMD方向及びTD方向の同時二軸延伸を行い、延伸の際の倍率は、MD方向では3.0倍、TD方向では3.2倍であり、この延伸フィルムをテンター式熱処理炉に入れ、210℃で熱固定を施した、厚さが、25μm、インストロン社製5564型を使用し、試料幅15mm、チャック間50mm、100mm/minの引張速度で実施した、フィルムのMD方向/TD方向/45°方向/135°方向のそれぞれについての破断強度が、MD:265、TD:299、45°:284、135°:262(B))MPaである冷間成形用包材等の主要基材としての二軸延伸ナイロンフィルム。」 (2) 異議申立人が提出した甲2ないし甲7に記載されている事項 甲2には、以下の記載がある。 ア 「チューブラー法二軸延伸ポリアミドフィルムの製造法…チューブラーニ軸延伸後、…熱ロールを段階的に通過させて熱処理する工程…熱ロールによる熱処理後、…テンターにより熱処理する工程。」(請求項1) イ 「ナイロン6フィルムに代表される二軸延伸ポリアミドフィルムは…ポリエチレンなどのシーラント材と貼り合わせた積層フィルムを用いて製袋したものが冷凍、冷蔵やレトルト食品等の包装材料に盛んに利用されている。このような用途では、…貼り合わせ等の加工工程や加熱下でのフィルムの寸法安定性に優れていることが必要であり、そのためにはフィルムの熱収縮率が小さく、かつ、フィルム面内における熱収縮率が均一であることが求められる」(【0002】) ウ 「いずれの方法においても、フィルムの融着等の製造工程における問題がなく、かつ、得られるフィルムを用いて作製した袋をレトルト処理した後のS字カールがなく、ボーイング変形に優れたフィルムを製造するためには、さらに改良の余地が残されていることを確認した。」(【0011】) エ 「ナイロン6樹脂(融点220℃、98%硫酸、温度25℃,濃度1g/dlでの相対粘度3.5)をサーキュラーダイより溶融押出し…チューブ状未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを延伸塔に導入し、熱風および遠赤外線を併用してフィルムを加熱し、延伸した。延伸倍率は、MD方向は塔頂部および下部のピンチロール周速差により3倍、また、TD方向は空気圧によるチューブの膨張により3.2倍延伸した。次に、延伸フィルムを…熱ロール設備により熱処理を行った。…ロール熱処理を終えた2枚の延伸フィルムをガイドロールにより重ね合わせた後、フィルムの両端部をクリップで把持しながらテンターに導入し、210℃、5秒間ずつ4段階の熱処理を行った。)(【0030】) 甲3には、以下の記載がある。 オ 「チューブラー法で二軸延伸した結晶性熱可塑性樹脂フイルムを…熱処理する工程と…熱処理する工程と…を有することを特徴とする」(請求項1) カ 「高い寸法安定性を得ようとして180℃以上の温度で熱処理すると、バブルが揺れて安定した熱処理が困難になるという問題が生じる、この問題を回避するために、低い温度で熱処理すれば、逆に良好な寸法安定性が得られなくなる」(第2頁左下第2-6行) キ 「本発明に係る結晶性熱可塑性樹脂フイルムの熱処理方法及び装置によれば、…高い寸法安定性を有するフイルムを安定して供給することができる」(第6頁左下第2-6行) ク 「結晶性熱可塑性樹脂としてポリアミド系のナイロン-6…を使用し、…チューブ状ナイロンフィルム…を作成した。この原反フィルム1を…延伸倍率MD(フィルムの移動方向)/TD(直交方向)=3.0/3.2で同時2軸延伸した。次に、このナイロンフィルム1を…第1弾の熱処理を施して予め熱固定を行った。次に、…第2の熱風式加熱炉11で両端部をテンダー10で把持しながら、…第2弾の熱処理を施して熱固定を行った。」(第4頁左下第16行-第5頁左上第2行) 甲4には、以下の記載がある。 ケ 「湿度特性の優れた芳香族ポリアミドフィルムと金属とを複合して、複合後の平面形状が良好で接着性の持続性の良い複合体を得ることを目的とする。」(【0003】) コ 「熱収縮率とは、250℃の無荷重下の収縮率であり原寸法に対し%で表示するもの」(【0016】) サ 「本発明のフィルムは等方的な性質を持ち…電気的性質、特に電気絶縁性にすぐれている」(【0026】) シ 「複合される金属としては、銅、ステンレス、コバルト、ニッケル、チタン、アルミ、クロム、鉄が代表例として挙げられ」(【0027】) ス 「このフィルムを…MDおよびTDに延伸を種々行ない乾燥、熱固定温度も種々変更してフィルムを採取した。…このフィルムの特性およびこのフィルム上に20μのエポキシ-ナイロン系の接着剤を塗布乾燥後、30μの電解銅箔を230℃にてプレスした複合積層物の特性を表1、表2に示す。)(【0039】) 甲5には、以下の記載がある。 セ 「高分子固体は変形を受けると、分子鎖の解きほぐれが生じる.分子鎖は折りたたまれた状態のほうがエネルギー的に安定であるため、熱運動によって元の状態に戻ろうとする。このために、熱収縮が生じる、延伸フィルム、シート成形容器、延伸ブローボトルなどの熱収縮性は、このように分子配向に伴う内部応力と密接に関係している。熱安定性を向上させるには、熱処理による内部応力の緩和が必要となる. 」(左欄下から2行-右欄7行) 甲6には、以下の記載がある。 ソ 「収縮率や収縮応力が高い場合、シーラント層とのデラミネーションが発生」(【0003】) タ 「熱収縮性を有する二軸延伸ポリアミドフィルムの少なくとも片面に易接着プライマーを塗工した、熱水収縮率が23?26%、熱水収縮応力が、厚み1μmあたり46?85mN/cmである二軸延伸ポリアミドフィルムを用いることにより、上記の課題が解決される」(【0004】) チ 「・ボイル耐性;ラミネートフィルムを…切り出し、…ロケット包装袋を作製し、100℃の熱水中で2時間浸漬した後、背シール部でのデラミネーションの有無を確認した。」(【0024】) ツ 「・レトルト耐性;ラミネートフィルムを…切り出し、…ロケット包装袋を作製し、120℃の熱水レトルト処理を30分間施した後、背シール部でのデラミネーションの有無を確認した。」(【0025】) テ 「二軸延伸ポリアミドフィルム(A)、シーランドフィルム(G)(PE;東セロ社製TUX-FCS 厚み50μm)を使用し、接着剤として、芳香族エステル系接着剤(武田薬品工業社製タケラック A-515/A-50 二液型)を用いたドライラミネート(接着剤塗布量4g/m^(2))によりラミネートフィルムを作製した。」(【0031】) 甲7には、以下の記載がある。 ト 「外側層としての2軸延伸ポリアミドフィルム層と、内側層としての熱可塑性樹脂未延伸フィルム層と…を含む電池ケース用包材」(請求項1) ナ 「内側層…は、リチウムイオン二次電池等で…包材にヒートシール性を付与する」(【0020】) ニ 「電池ケース用包材(1)を成形…することにより、電池用ケースを得る」(【0029】) (3) 本件発明1と甲1発明との対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、 「二軸延伸ナイロンフィルム。」の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> 本件発明1は、「170?210℃における熱収縮応力の最大値がMD、TDともに5.0MPa以下」と特定するのに対し、甲1発明は、この点を特定しない点。 <相違点2> 本件発明1は、「一軸引張試験(試料幅15mm、チャック間距離100mm、引張速度200mm/min.)における4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての破断強度が240MPa以上である」と特定するのに対し、甲1発明は、「インストロン社製5564型を使用し、試料幅15mm、チャック間50mm、100mm/minの引張速度で実施した、フィルムのMD方向/TD方向/45°方向/135°方向のそれぞれについての破断強度が、MD:265、TD:299、45°:284、135°:262(B))MPaである」点。 <相違点3> 本件発明1は、「電池ケース包材用」と特定するのに対し、甲1発明は、「冷間成形用包材等の主要基材」としてのものである点。 以下、相違点について検討する。 相違点1について 甲1発明及び甲1の全ての記載をみても二軸延伸ナイロンフィルムにおける「170?210℃における熱収縮応力の最大値」については言及がなされていない。 一方、異議申立人が提出した甲2ないし甲7には、上記(2)における記載から、以下の技術事項が記載されている。 <甲2> ナイロン6の二軸延伸フィルムを熱ロール及びテンダーにより熱固定することで、最大熱水収縮率Smaxが小さく、かつ熱水収縮率斜め差Sdが小さくS字カールがないボーイング変形に対し優れたフィルムが得られたこと。 <甲3> 結晶性熱可塑性樹脂フイルムの熱処理方法に関する技術に関し、解決すべき課題及び達成すべき効果の1つが寸法安定性であることが示されるとともに、請求項1に、チューブラーニ軸延伸した結晶性熱可塑性樹脂フイルムを2段階で熱処理することが記載されていて、実施例4及び実施例9に、チューブラーニ軸延伸したナイロン-6フィルムに第1弾の熱処理及びテンター式による第2弾の熱処理を行うことで、カール度合が小さくかつ熱収縮率が小さいフィルムが得られたことが示されている。 <甲4> 芳香族ポリアミドフィルム複合体に関する技術が開示されていて、実施例1、2には、絶縁性に優れアルミが複合されていてよい二軸延伸ポリアミドフィルムにおいて、230℃でプレスした二軸延伸ポリアミドフィルムと金属との複合体の接着性の持続性が、熱固定条件の調整などで当該二軸延伸ポリアミドの250℃での熱収縮率を小さくするほど良好となることが示されている。 <甲5> 延伸フィルムを熱処理することによって内部応力を緩和し(熱収縮応力を下げ)、これによって熱安定性を向上させる(熱収縮率を下げる)ことが示されている。 <甲6> 熱収縮性の二軸延伸ポリアミドフィルムに関する技術に関し、二軸延伸ポリアミドフィルムの熱収縮応力を適宜調整することで、シーラント層とのデラミネーションを抑制すること、及び、ドライラミネート接着剤を介在させた二軸延伸ポリアミドとシーラントフィルムとのラミネートフィルムから作製したロケット包装袋において、ヒートシールされた背シール部におけるデラミネーションを抑制したことが示されている。 <甲7> 電池ケース用包材及び電池用ケースに関する技術が開示されており、2軸延伸ポリアミドフィルム層内側にヒートシール性を有する層を有する態様で電池用ケースに成形された包材が示されている。 しかし、上記甲2ないし7のいずれの文献にも、二軸延伸ナイロンフィルムが「170?210℃における熱収縮応力の最大値がMD、TDともに5.0MPa以下」である点についての記載はない。 そうすると、甲1発明の二軸延伸ナイロンフィルムが、「170?210℃における熱収縮応力の最大値がMD、TDともに5.0MPa以下」であることを証拠として示しているのであればともかく、甲1発明のナイロンフィルムの物性を、甲1において全く言及のない「170?210℃における熱収縮応力の最大値」を「MD、TDともに5MPa以下」とすることが想到容易とはいえない。 相違点2について 本件発明1における破断強度の測定条件と、甲1発明における破断強度の測定条件は、チャック間距離及び引張速度において相違していて、異議申立人から提出された証拠からは、それらの測定条件の違いにより、測定される破断強度がどのようなものとなるかは不明であるから、実際に本件発明1の測定条件で測定されたデータを示して主張するのであればともかく、甲1発明において、数値として全て240MPa以上であっても、本件発明1の条件を満足しているとまでは断定することはできないから、相違点2は、実質上の相違点である。 そして、相違点1及び2に係る効果について、本件特許の明細書の段落【0007】【0009】【0010】【0016】、実施例及び比較例の記載からみて、上記相違点に係る発明特定事項を有することにより、冷間成形タイプの電池用外装体の主たる品質的な課題であった優れた冷間成形性の確保と各層間でのデラミネーションの抑制を両立できるものといえ、当該効果は、具体的な実施例において確認されている。 一方、異議申立人が提出した甲1ないし甲7のいずれの証拠にも、基材層である二軸延伸ナイロンフィルムの熱収縮応力、および引張強度をある範囲に限定することと上述の効果についての記載はなく、示唆もされていないから、上記効果は、当業者が予測し得ない格別の効果といえる。 してみれば、相違点1及び2は当業者が容易に想到し得たものではない。 そうすると、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明から容易に想到し得た発明とはいえない。 (4) 異議申立人の主張の検討 異議申立人は、甲1に基づく進歩性に関して、本件発明1と甲1発明との相違点は、甲1発明で行われているテンター式の熱処理に代えて、甲2の熱ロールとテンター方式とを組み合わせた熱処理を適用することで容易に想到し得たことであると主張するが、本件発明1と甲1発明との相違点は上記(3)での検討のとおり、二軸延伸ナイロンフィルムの物性であって、製造方法は無関係であるし、特定の製造方法で製造することで「170?210℃における熱収縮応力の最大値がMD、TDともに5.0MPa以下」であるフィルムが得られるとの技術常識があったとも認められず、異議申立人が主張する特定の熱処理によって「170?210℃における熱収縮応力の最大値がMD、TDともに5.0MPa以下」であるフィルムが得られるとの証拠も示されていないから、当該主張は失当であって採用できない。 (5) まとめ よって、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲7に記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、進歩性を有する。異議申立人が主張する甲1に基づく取消理由3には理由がない。本件発明1を引用する本件発明2ないし5についても同様である。 第5 むすび したがって、異議申立人の主張する申立ての理由及び証拠によっては、特許異議の申立てに係る特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許が特許法113条各号のいずれかに該当すると認め得る理由もない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-05-22 |
出願番号 | 特願2010-28651(P2010-28651) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C08J)
P 1 651・ 536- Y (C08J) P 1 651・ 121- Y (C08J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 佐藤 玲奈、平井 裕彰 |
特許庁審判長 |
小柳 健悟 |
特許庁審判官 |
橋本 栄和 大島 祥吾 |
登録日 | 2016-09-09 |
登録番号 | 特許第5999674号(P5999674) |
権利者 | 興人フィルム&ケミカルズ株式会社 |
発明の名称 | 冷間成形用二軸延伸ナイロンフィルム |