• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01K
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01K
管理番号 1329095
異議申立番号 異議2017-700165  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-23 
確定日 2017-05-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第5976186号発明「1200℃膜抵抗体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5976186号の請求項1ないし20に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5976186号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし20に係る特許についての出願は、平成20年9月29日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2007年9月28日(以下、「優先日」という。) 独国)に出願した特願2008-249692号の一部を、平成26年3月4日に新たな特許出願とした特願2014-041721号の一部を、さらに平成27年10月20日に新たな特許出願としたものであって、平成28年7月29日に特許権の設定登録がされ、平成29年2月23日にその特許に対して、特許異議申立人平林恭子により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし20の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された次のとおりのものである(以下、請求項1、・・・・・・、20の特許に係る発明を、それぞれ、「本件特許発明1」、・・・・・・、「本件特許発明20」という。)。

「【請求項1】
白金抵抗膜パターンを金属酸化物基板上に堆積させ、前記抵抗膜パターン上にセラミック中間層を設ける、高温センサの製造方法において、
ガラスセラミックにより該セラミック中間層上に自立するセラミックカバーを結合するか、又は前記セラミック中間層の全面にガラスセラミックを取り付け、
その際、前記セラミック中間層上に前記自立するセラミックカバーを結合する前記ガラスセラミックは温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)であるか、または前記セラミック中間層の全面に取り付けられている前記ガラスセラミックは温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)であることを特徴とする、高温センサの製造方法。
【請求項2】
前記自立するセラミックカバーをセラミック中間層の全面に結合することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記セラミック中間層上に前記自立するセラミックカバーを結合する前記ガラスセラミック、または前記セラミック中間層の全面に取り付けられている前記ガラスセラミックを前記セラミック中間層を越えて抵抗膜パターンのカソードにまで設けることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記セラミック中間層上に前記自立するセラミックカバーを結合する前記ガラスセラミック、または前記セラミック中間層の全面に取り付けられている前記ガラスセラミックは750℃を越えると導電性であるか又はイオン伝導性であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記自立するセラミックカバーを金属でドープされたガラスセラミックで結合し、前記ガラスセラミックは前記セラミック中間層を越えて抵抗膜パターンのカソードにまで設けられることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記セラミック中間層上に前記自立するセラミックカバーを結合する前記ガラスセラミック、または前記セラミック中間層の全面に取り付けられている前記ガラスセラミックは、温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)であり、750℃を越えて初めて作用することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
抵抗膜のためのコンタクトフィールド(パッド)を前記セラミック中間層で覆わず、前記セラミック中間層を設けた後でかつ前記セラミックカバーを結合する前に端子線を前記コンタクトフィールドに接続することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記セラミック中間層を、PVD(物理蒸着)、IAD(イオンアシスト蒸着)、IBAD(イオンビームアシスト蒸着)、PIAD(プラズマイオンアシスト蒸着)、CVD(化学蒸着)又はマグネトロンスパッタ法による薄膜法で設ける、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
エピタキシャル法によりサファイアに堆積されたPt抵抗構造を、セラミック中間層で被覆し、該セラミック中間層上に、石英ガラスセラミックを結合するか、又はセラミックカバーを石英ガラスセラミックで結合する、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記セラミック中間層が、Al_(2)O_(3)からなる薄膜として設けられる、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
セラミック中間層が、パッシベーション層又は拡散バリアである、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
金属酸化物基板上にコンタクトパッドと前記パッドに接続するPt抵抗膜パターンとを備え、前記抵抗膜パターン上にセラミック中間層を備え、かつ前記セラミック中間層の全面に取り付けられるガラスセラミックを備えている高温センサチップにおいて、前記ガラスセラミックは温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)であることを特徴とする、高温センサチップ。
【請求項13】
前記ガラスセラミックは石英ガラスセラミックであることを特徴とする、請求項12記載の高温センサチップ。
【請求項14】
前記ガラスセラミックはセラミック中間層を越えてカソードにまで延在することを特徴とする、請求項12または13記載の高温センサチップ。
【請求項15】
高温センサチップは配線された膜抵抗体であることを特徴とする、請求項12から14までのいずれか1項記載の高温センサチップ。
【請求項16】
前記セラミック中間層により覆われていない抵抗膜のためのコンタクトパッドが、それぞれ端子線と接続されていることを特徴とする、請求項15記載の高温センサチップ。
【請求項17】
電気絶縁性表面を有する金属酸化物基板と、前記表面に配置された白金測定抵抗体とからなり、電気端子と、前記白金測定抵抗体を覆うが前記電気端子を覆っていない、前記電気絶縁性セラミック中間層とを有し、その際、前記電気絶縁性セラミック中間層はガラスセラミック又は金属でドープされたガラスセラミックで被覆されていて、前記ガラスセラミック又は金属でドープされたガラスセラミックは850℃以上で高くても1メガオーム/スクエアの抵抗率を有し、かつ温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)である、請求項12から16までのいずれか1項記載の高温センサチップ。
【請求項18】
前記セラミック中間層が、Al_(2)O_(3)又はMgO又はTa_(2)O_(5)を含む、請求項17記載の高温センサチップ。
【請求項19】
前記セラミック中間層が、Al_(2)O_(3)からなる薄膜である、請求項12から18までのいずれか1項記載の高温センサチップ。
【請求項20】
前記セラミック中間層が、パッシベーション層又は拡散バリアである、請求項12から19までのいずれか1項記載の高温センサチップ。」

第3 申立理由の概要
理由1 特許異議申立人は、本件特許発明1ないし20は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないので、同法第113条第4号により取り消されるべきである旨主張している。

理由2 特許異議申立人は、本件特許発明1ないし20は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないので、同法第113条第4号により取り消されるべきである旨主張している。

理由3
1
(1)特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として甲第3号証ないし甲第5号証を提出し、請求項1、3、4、6、8、10-12、14、15、18-20に係る特許は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。

(2)特許異議申立人は、主たる証拠として甲第2号証及び従たる証拠として甲第3号証ないし甲第5号証を提出し、請求項1、3、4、6、8、10-12、14、15、18-20に係る特許は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。

2 特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として甲第3号証ないし甲第5号証を提出し、請求項2,7に係る特許は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。

3
(1)特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として甲第2号証ないし甲第7号証を提出し、請求項9に係る特許は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。

(2)特許異議申立人は、主たる証拠として甲第2号証及び従たる証拠として甲第3号証ないし甲第7号証を提出し、請求項9に係る特許は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。

4
(1)特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として甲第2号証ないし甲第5号証を提出し、請求項13、16に係る特許は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。

(2)特許異議申立人は、主たる証拠として甲第2号証及び従たる証拠として甲第3号証ないし甲第5号証を提出し、請求項13、16に係る特許は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。

<証拠方法>
甲第1号証:特表2003-517574号公報
甲第2号証:特表2002-535610号公報
甲第3号証:特開2001-58849号公報
甲第4号証:特開平9-188544号公報
甲第5号証:特開2001-10843号公報
甲第6号証:特開昭61-181104号公報
甲第7号証:特開平10-26559号公報

第4 理由1について
1 異議申立人は、異議申立書第14頁第25行?第15頁12行において、
「本件特許発明1,12では、「ガラスセラミックは温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)である」と規定されている。しかし、特許請求の範囲の記載から、この「ガラスセラミック」が、全体がゲッタであるものなのか、一部がゲッタで構成されているものなのか不明である。
すなわち、上記規定は、文言上は「ガラスセラミック全体がゲッタである」と解釈されるものの、本件の明細書では、例えば段落0053に「石英ガラスセラミックからなるパッシベーション層10」と記載されているように、「ガラスセラミック」が石英ガラスセラミックであることが明記されている。石英ガラスは、カチオン捕捉機能を奏さないと考えられることから、明細書の記載からは「ガラスセラミック全体がゲッタである」とは解釈されず、上記特許請求の範囲における文言上の解釈とは矛盾する。
このため、「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)であるガラスセラミックがどのような状態のものを示すのか不明瞭であり、当業者であっても本件特許発明1,12を認識することができない。」
と主張している。

しかし、本件明細書の段落【0053】に「図1の場合には、測定抵抗体として利用される抵抗膜3は薄膜としてサファイア1の平坦な表面上に存在する。・・・(中略)・・・前記抵抗膜3は、その基板1とは反対側に拡散遮断膜7が中間層7として設けられていて、前記拡散遮断膜7は石英ガラスセラミックからなるパッシベーション層10で覆われている。」と記載されているとおり、本件明細書の段落【0053】の記載は、図1の「サファイア上に端子面を備えた測定抵抗体の展開図」(本件明細書の段落【0045】)を説明したものであって、「ガラスセラミック」が「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)であること」の技術的内容を説明したものではない。
よって、特許請求の範囲の請求項1、12の「ガラスセラミックは温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)である」との記載は、本件明細書の段落【0053】の「石英ガラスセラミックからなるパッシベーション層10で覆われている。」との記載と何ら矛盾するものではない。
よって、異議申立人の主張は採用できない。
また、異議申立人の主張は、本件特許発明1、12における「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)」が、「ガラスセラミック」の「全部」または「一部」のどちらか一方のみを意味していることを前提としているが、そのような前提が成り立つ根拠は見いだせないから、異議申立人の主張は理由がない。

2 異議申立人は、異議申立書第15頁第13?18行において、
「また、「温度依存性のカチオン捕捉材」について、「温度依存性」の指すものが不明瞭である。「温度依存性のカチオン捕捉材」は、「温度変化に伴って何らかの性質(パラメータ、機能等)が変化するカチオン捕捉材」と推量されるが、この性質がどのようなものなのか、特許請求の範囲の記載、及び明細書の記載から不明である。そのため、当業者であっても本件特許発明1,12を認識することができない。」
と主張している。

しかし、本件特許発明1、12は、それぞれ「高温センサの製造方法」、「高温センサチップ」に係る発明であるから、本件特許発明1、12における「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)であること」とは、「カチオン捕捉材(ゲッタ)」として機能が「温度依存性」を有し、「高温」において「カチオン捕捉材(ゲッタ)」として機能する意味であることは、明らかである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

3 したがって、本件特許発明1,12及びこれらを引用する本件特許発明2-11,13-20は、特許法第36条6項2号に規定する要件を満たしているから、特許法第113条第4号により取り消すことはできない。

第5 理由2について
1 異議申立人は、異議申立書第16頁第9?19行において、
「本件特許発明1,12では、「ガラスセラミックは温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)である」と規定されている。
しかし、本件の明細書の「課題を解決する手段」には、上記ゲッタとして、「酸化ジルコニウム」のみが記載され(段落0018、0020参照)、その他のゲッタは開示されていない。また、本件の明細書の実施の形態(段落0046以降)には、ゲッタをガラスセラミックとして使用すること自体が記載されていない。
したがって、本件の明細書には、酸化ジルコニウム以外のゲッタを用いても、750℃?1200℃の適用領域内でセンサのドリフトが低下され、かつ有利に電流接続に関して敏感でないセンサを提供できることが、何ら示されていない。」
と主張している。

しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明には、「金属でドープされたガラスセラミック又はガラスセラミックを使用し、前記ガラスセラミックは750℃より高くでは導電性であるか又はイオン伝導性であり、その際、場合により金属でドープされた前記ガラスセラミックは前記抵抗膜を覆うセラミック膜上で、前記セラミック膜を越えて前記抵抗膜のカソードと結合されている。このように、カソードポテンシャルを備えるか又は接地されたガラスセラミックは、カチオンがPt測定抵抗体へ移行することを防止する。」(段落【0016】)、「前記カチオン捕捉材は、有利に酸化ジルコニウムを有する。」(段落【0018】)、「セラミック状又はガラス状のイオン捕捉材が使用される。酸化ジルコニウムが有利な材料である。」(段落【0020】)、「特に高品質なガラスセラミックは、ガラス成分として石英ガラスを有し、これは白金でドープされている。」(段落【0026】)、「金属、特に白金でドープされたガラスセラミック10上にセラミックプレート11が結合される。」(段落【0056】)、「金属でドープされたガラスセラミック10で覆われている。」(段落【0057】)と記載されている。
よって、本件特許発明1,12の「ガラスセラミックは温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)」について、
本件明細書の発明の詳細な説明には、「ゲッタをガラスセラミックとして使用すること」、及び、その例としては、「酸化ジルコニウムを有する」もののみではなく、「白金でドープされたガラスセラミック」が示されているので、本件特許発明1,12は、発明の詳細な説明に記載された発明である。

2 異議申立人は、異議申立書第16頁第20?23行において、
「さらに、上述したように、「温度依存性のカチオン捕捉材」には、「温度によって何らかの性質が変化し、カチオンを捕捉する素材」が全て含まれ得る。このような全ての素材が上記課題を解決できる証拠についても本件の明細書には開示されていない。」
と主張している。

しかし、本件特許発明1、12における「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)であること」とは、「カチオン捕捉材(ゲッタ)」として機能が「温度依存性」を有し、「高温」において「カチオン捕捉材(ゲッタ)」として機能するという意味であるから、「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)」により、「高温」において、白金にとって有害なカチオンが「カチオン捕捉材(ゲッタ)」により補足され、高温におけるセンサの安定性を得るという課題が達成できることは明らかである。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

3 異議申立人は、異議申立書第16頁第24?26行において、
「以上より、本件の明細書には、ゲッタとして酸化ジルコニウムのみが開示されており、本件特許発明1,12の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」
と主張している。

しかしながら、上記「1」に記載したように、本件明細書の発明の詳細な説明には、「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)」として機能する「ガラスセラミック」について、「特に高品質なガラスセラミックは、ガラス成分として石英ガラスを有し、これは白金でドープされている。」(段落【0026】)、「金属、特に白金でドープされたガラスセラミック10上にセラミックプレート11が結合される。」(段落【0056】)、「金属でドープされたガラスセラミック10で覆われている。」(段落【0057】)と記載されているから、本件明細書の発明の詳細な説明には、「ゲッタとして酸化ジルコニウムのみが開示されて」いるわけではない。
よって、異議申立人の主張は理由がない。

4 したがって、本件特許発明1,12及びこれらを引用する本件特許発明2-11,13-20は、特許法第36条6項1号に規定する要件を満たしているから、特許法第113条第4号により取り消すことはできない。

第6 理由3について
1 甲第1号証?甲第7号証の記載事項
(1)甲第1号証には、以下のように記載されている。(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)
a 「【0001】
[技術分野]
本発明は、温度依存性抵抗の製造方法および電気的温度センサに関し、特定すると、白金を含む(含白金)温度依存性抵抗であって、電気絶縁性材料より成る表面をもつキャリヤ上に抵抗層を厚膜として被着して成る温度依存性抵抗の製造方法ならびにそれを使用した電気的温度センサに関する」(第6頁)

b 「【0009】
好ましい実施形態においては、抵抗層をセラミック塊好ましくはアルミ酸化物上に被着し、ついでこれに拡散障壁ないし不動態層としてセラミック塊(同様にアルミニウム酸化物)で遮蔽被覆する。その際、抵抗層は焼成セラミックサブストレート上に被着してもよいが、その際には、抵抗層の構造体の幾何形態が変動しないという利点が得られる。拡散障壁は、好ましくは中間層として被着されるのがよい。」(第7頁)

c 「【0030】
[発明の好ましい態様]
以下、図面を参照して本願発明を好ましい具体例について説明する。
図1の構成に従うと、測定用抵抗として働く抵抗層1がアルミニウム酸化物より成るセラミックサブストレート2の平坦な表面上に厚膜として設けられている。抵抗層1は、例えばDE 40 26 061 C1またはEP 0 471 138 B1 から周知のように、接続接触面5、6をもつ蛇行形態として構成されている。接続接触面は抵抗層と同じ材料から成る。抵抗層1は、そのサブストレートと反対側に中間層10としての拡散遮断層を備えており、そして拡散遮断層それ自体はガラスより成る不動態層3で遮蔽被覆されている。白金を含む抵抗層1の繊細な構造体は、ガラス不動態層により、環境の大気による毒作用に抗して有効に保護される。このような多層構造で、白金を含む抵抗層1に対して非常に有害な珪素イオンは抑制される。珪素イオンは、高温度において白金を物理的拡散により非常に迅速に汚染し、そのためそれから生ずる白金合金の温度/抵抗関数に劇的に影響し、その結果温度測定のための抵抗層1の耐高温度性がもはや賦与されなくなる。中間層ないし拡散障壁10として作用し第1の熱力学的に安定でかつ純粋なアルミ酸化物層により、珪素イオンその他の白金に毒作用を及ぼす物質ないしイオンの侵入は阻止され、したがって例えば蛇行状に構成された抵抗層は汚染から保護される。中間層ないし拡散障壁10の被着は、物理的蒸着により達成される。アルミ酸化物層は、純粋のアルミ酸化物(Al_(2)O_(3))の非常に安定な層が抵抗層1の白金構造体を遮断被覆するような方法で過化学量論的に被着される。ガラスから成り珪素イオンを含む不動態層3は、活性の白金抵抗層と全然接触しないから、外部の汚染要素に対する機械的保護手段としての抵抗層1の遮断被覆がそれにより保証される。」(第13頁?第14頁)

d 「【図1】
セラミック基板上に接続面をもつ測定用抵抗を示す断面図で、抵抗が蛇行状構造体として構成され、拡散遮断層および不動態層により遮蔽被覆された状態を示す図である。」(第17頁)

e 図1から、測定用抵抗がチップ状であること、不動態層3が接続接触面5及び6に接触していることが見て取れる。(第18頁)

したがって、上記の記載事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(括弧内は、甲第1号証の記載箇所を示す。)。
「測定用抵抗として働く白金を含む抵抗層1がアルミニウム酸化物より成るセラミックサブストレート2の平坦な表面上に厚膜として設けられており、
白金を含む抵抗層1は、接続接触面5、6をもつ蛇行形態として構成され、サブストレートと反対側に中間層10としての拡散遮断層を備えており、
拡散遮断層それ自体はガラスより成る不動態層3で遮蔽被覆されており、
中間層ないし拡散障壁10として作用し第1の熱力学的に安定でかつ純粋なアルミ酸化物層により、高温度において白金を物理的拡散により非常に迅速に汚染する珪素イオン、その他の物質ないしイオンの侵入は阻止される(【0030】)、
電気的温度センサチップ(【0001】、【図1】)。」

(2)甲第2号証には、以下のように記載されている。
a 「【0001】
本発明は、プラチナ温度センサおよびその製造方法に関し、特にセラミック基板上に温度検出のために用いられるプラチナ薄膜抵抗体が設けられたプラチナ温度センサに関する。」

b 「【0002】
図2は公知のプラチナ温度センサを示す。このプラチナ温度センサにおいては、プラチナ薄膜抵抗体2が、通常は酸化アルミニウムまたはアルミナ(Al_(2)O_(3)) からなるセラミック基板4の上に設けられている。プラチナ薄膜抵抗体2が形成されている領域内には、セラミック基板4の表面上に保護グレーズ(protective glaze ) 6が設けられている。このプラチナ層、即ち通常はプラチナ薄膜抵抗体2が曲折状に形成されているプラチナ層は、さらに接続部8を持つようにパターン化されている。この接続部8には、センサの信号を受け取るためのリード線10が電気的に導通接続されている。また、リード線10を固定するため、グレーズ(glaze)12が設けられている。」

c 「【0010】
本発明が提供するプラチナ温度センサは、セラミック基板と、そのセラミック基板の主面に設けられたプラチナ薄膜抵抗体とを備える。保護中間層は、セラミック基板の主面上に少なくともプラチナ薄膜抵抗体が設けられた領域を全て覆うように蒸着されたセラミック層と、その蒸着されたセラミック層の上に設けられた焼結セラミックペースト層(sintered ceramic paste layer)とを備える。この保護中間層の上には、保護グレーズが設けられる。」

d 「【0015】
図1に示された本発明に係る実施例に見られるように、セラミック基板4の上に配置されパターン化されたプラチナ層は、プラチナ薄膜抵抗体2と接続部8とで構成されている。プラチナ層の上にはアルミナ層(Al_(2)O_(3) layer) 14が蒸着されている。この層14は、上記プラチナ薄膜抵抗体2を全て覆うように蒸着されている。この蒸着された層14の上にはさらなる層16が配置されるが、この層16は、例えばスクリーン印刷法により設けられ、中間段階まで焼結されたセラミックペーストによって形成されたものである。この層16は、先に蒸着形成されたアルミナ層を補強する役割を果たす。その後、層16の上には、プラチナ膜抵抗体2が周囲から気密状態でシールされるような状態で、グレーズ(glaze)18が設けられる。
【0016】
図1に示された本発明に係るプラチナ温度センサを製造するため、まず最初に、パターン化されたプラチナ膜層が配置されたセラミック基板4の表面上で、少なくともプラチナ膜抵抗体2の領域内に、アルミナ層14が蒸着される。この層14は次に、スクリーン印刷法を利用したセラミックペーストにより補強される。その後、セラミックペーストは望ましくは中間段階まで焼結される。蒸着されたアルミナ層14の厚みは、1?3μmの範囲内、望ましくは約1.5μmである。上述のように、約10?30μmの厚みのセラミックペーストによる中間層の補強は、800℃を越える高温においても信頼性のある封止性を実現するために実行される。このセラミックペーストは、例えばアルミナ, 酸化マグネシウム(MgO), 二酸化珪素(SiO_(2))等、複数のセラミックパウダーと石英パウダー(quartz powder) との混合物によって構成することができる。」

したがって、上記の記載事項を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる(括弧内は、甲第2号証の記載箇所を示す。)。
「セラミック基板4の上に配置されパターン化されたプラチナ層は、プラチナ薄膜抵抗体2と接続部8とで構成されており(【0015】)、
プラチナ薄膜抵抗体が設けられた領域を全て覆うように蒸着されたセラミック層(【0010】)であるアルミナ層(Al_(2)O_(3) layer) 14が蒸着されており(【0015】)、
層14の上に、セラミックペーストによって形成された層16が配置され、
層16の上には、グレーズ(glaze)18が設けられ(【0015】)、
セラミックペーストによる中間層の補強は、高温においても信頼性のある封止性を実現するために実行され、セラミックペーストは、複数のセラミックパウダーと石英パウダー(quartz powder) との混合物によって構成された(【0016】)、
プラチナ温度センサ(【0001】)。」

(3)甲第3号証には、以下のように記載されている。
a 「【請求項1】下記酸化物基準の質量百分率表示で、実質的に
B_(2)O_(3) 5?35%、
SiO_(2) 0.5?30%、
BaO 25?75%、
Al_(2)O_(3) 0.5?13%、
SnO_(2) 0?2%、
CeO_(2) 0?2%、
MgO+CaO+SrO 0?10%、
ZnO 0?20%、
TiO_(2) 0?5%、
ZrO_(2) 0?5%、
Li_(2)O 0?5%、
Na_(2)O 0?5%、
K_(2)O 0?5%、
からなるバリウムホウケイ酸ガラス。」

b 「【0020】TiO_(2)、ZrO_(2)はいずれも必須ではないが、化学的耐久性を高くするためにそれぞれ5%まで含有してもよい。5%超ではガラス溶解時に失透するおそれがある。好ましくはそれぞれ3%以下、より好ましくは2%以下である。」

(4)甲第4号証には、以下のように記載されている。
a 「【請求項1】重量%表示で実質的に、
ZnO 15?55、
P_(2) O_(5) 30?75、
Li_(2) O+Na_(2) O+K_(2 )O 0?2.8、
Al_(2) O_(3) 0.1?5、
SnO_(2) +TiO_(2) +ZrO_(2) 0.1?2、
Bi_(2 )O_(3 ) 0?30、
SiO_(2) 0?5、
B_(2) O_(3) 0?10、
V_(2) O_(5) +Tl_(2) O_(3) 0?5、
F 0?2、
からなることを特徴とするガラス組成物。」

b 「【0012】SnO_(2) 、TiO_(2) 、ZrO_(2) ;化学的耐候性向上のために少なくとも1種を必須成分とする。合量で0.1%より少ないと効果が少ない。一方、合量で2%を超えると軟化点が高くなりすぎ好ましくない。望ましくは合量で0.5?1.5%である。」

(5)甲第5号証には、以下のように記載されている。
a 「【請求項1】 酸化物基準のモル%で表して、
P_(2)O_(5) 20?45%、
SnO 45?75%、
WO_(3) 0.5?10%、
MgO 0?10%、
CaO 0?10%、
SrO 0?10%、
BaO 0?10%、
SiO_(2) 0? 5%、
B_(2)O_(3) 0? 5%、
Al_(2)O_(3) 0? 5%、
ZrO_(2) 0.1? 5%、
Nb_(2)O_(5) 0.1?10%の組成からなることを特徴とする結晶性低融点ガラス。」

b 「【0022】ZrO_(2)成分は、ガラスの結晶化を促進させる効果があるが、その量が0.1%未満では、その効果が充分ではなく、5%を超えると結晶化傾向が大きくなりすぎ、封着時にガラスが充分に流動しなくなる。」

(6)甲第6号証には、以下のように記載されている。
「まず、アルミナ、サファイヤ等の絶縁基板1の表面に、スパッタリング法、イオンブレーティング法によって、白金膜2を数千オングストロームないし数ミクロン付着する(第2図)。その上にフォトレジストパターン3を形成した後(第3図スパッタエツチング法によって、白金膜2をパターニングする(第4図)。フォトレジストを除去したのち、1000 °C付近の高温で大気中熱処理を行ない、トリミングによる抵抗調整、リード線4の溶接を行なう(第5図)。最後に、スパッタリング法又はイオンブレーティング法で、酸化アルミニウム膜5を数千オングストロームないし数ミクロン付着する(第1図)。」(第2頁右下欄第9行?第3頁左上欄第1行)

(7)甲第7号証には、以下のように記載されている。
a 「【0025】具体的に実験結果を説明すると、マグネトロンスパッタリング法によって絶縁物上に白金薄膜を成膜する際、スパッタリング中の絶縁物の温度を変え、同じ膜厚(0.12μm)で、(100)面方位と(111)面方位の強度が異なる白金測温抵抗体を作成し、TCRを測定した。その測定結果を下記表1に示す。」

b 「【0044】比較例として、絶縁物にサファイア基板とアルミナ基板とを用い、上述のマグネトロンスパッタリングの条件と同じ条件で白金薄膜を成膜し、パターニングによって白金測温抵抗体を形成してTCRの値を測定した。その結果を下記表4、表5に示す。」

2 対比・判断
(1)本件特許発明12について
ア 甲第1号証を主たる証拠とした場合
(ア)対比
本件特許発明12と甲1発明を対比する。
a 甲1発明の「アルミニウム酸化膜より成るセラミックサブストレート2」、「接続接触面5、6」は、それぞれ、本件特許発明12の「金属酸化物基板」、「コンタクトパッド」に相当する。

b 甲1発明の「接続接触面5、6をもつ蛇行形態として構成され」た「白金を含む抵抗層1」は、本件特許発明12の「コンタクトパッドと前記パッドに接続するPt抵抗膜パターン」に相当するので、
甲1発明の「アルミニウム酸化物より成るセラミックサブストレート2の」「表面上に」「接続接触面5、6をもつ蛇行形態として構成され」た「白金を含む抵抗層1」は、本件特許発明12の「金属酸化物基板上に」備えられる「コンタクトパッドと前記パッドに接続するPt抵抗膜パターン」に相当する。

c 甲第1号証の「抵抗層をセラミック塊好ましくはアルミ酸化物上に被着し、ついでこれに拡散障壁ないし不動態層としてセラミック塊(同様にアルミニウム酸化物)で遮蔽被覆する。」(上記「1 (1)b」)の記載を参酌すると、甲1発明の「中間層ないし拡散障壁10として作用」する「アルミ酸化物層」は、「セラミック」といえるので、
甲1発明の「白金を含む抵抗層1」が「サブストレートと反対側に中間層10としての拡散遮断層を備え」ることは、本件特許発明12の「前記抵抗膜パターン上にセラミック中間層を備え」ることに相当する。

d 甲1発明において、「高温度において白金を物理的拡散により非常に迅速に汚染する珪素イオン、その他の物質ないしイオンの侵入は阻止される」ので、甲1発明は、高温での使用を想定しているといえ、甲1発明の「電気的温度センサチップ」は、本件特許発明12の「高温センサチップ」に相当する。
そして、甲1発明の「ガラスより成る不動態層3」に対応する本件特許発明12の「ガラスセラミック」について、本件明細書の発明の詳細な説明に「セラミック状又はガラス状のイオン捕捉材」(段落【0020】)、「特に高品質なガラスセラミックは、ガラス成分として石英ガラスを有し、これは白金でドープされている。」(段落【0026】)と記載されていることを踏まえると、
甲1発明の「拡散遮断層」を「遮蔽被覆」する「ガラスより成る不動態層3」を備えている「電気的温度センサチップ」と、本件特許発明12の「前記セラミック中間層の全面に取り付けられるガラスセラミックを備えている高温センサチップ」とは、「前記セラミック中間層の全面に取り付けられるガラスを備えている高温センサチップ」である点で共通する。

したがって、本件特許発明12と甲1発明とは、次の一致点、相違点を有する。
(一致点)
「金属酸化物基板上にコンタクトパッドと前記パッドに接続するPt抵抗膜パターンとを備え、
前記抵抗膜パターン上にセラミック中間層を備え、
かつ前記セラミック中間層の全面に取り付けられるガラスを備えている高温センサチップ。」

(相違点)
セラミック中間層の全面に取り付けられる「ガラス」が、本件特許発明12は、「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)である」「ガラスセラミック」であるのに対して、甲1発明は、このような特定がない点。

(イ)判断
相違点について検討する。
甲1発明は、「拡散遮断層」を「遮蔽被覆」する「ガラスより成る不動態層3」を備えているが、「ガラス」が、温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)であることは特定されておらず、甲第1号証にも、そのような記載は無い。

甲第3号証及び甲第4号証には、化学的耐久性を高くするためにガラスに、酸化ジルコニウムを添加すること、甲第5号証には、ガラスの結晶化を促進させるために、酸化ジルコニウムを添加することが記載されている(上記「1 (3)」?「1 (5)」)。
この点に関して、異議申立人は、「一方で、電子部品に用いられるガラスセラミックに対し、化学的耐性を高めるために本件の明細書においてゲッタとされている酸化ジルコニウムを添加することは、甲第3号証ないし甲第5号証に記載された周知技術に過ぎない。」(異議申立書第27頁第20?23行)と主張している。
しかし、本件特許発明12の「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)」は、本件明細書の発明の詳細な説明に「前記ガラスセラミックは750℃より高くでは導電性であるか又はイオン伝導性であり、・・・前記抵抗膜のカソードと結合されている。このように、カソードポテンシャルを備えるか又は接地されたガラスセラミックは、カチオンがPt測定抵抗体へ移行することを防止する。」(段落【0016】)とされるのもであり、甲1発明において、化学的耐性を高めるために酸化ジルコニウムを添加したからといって、これにより直ちに、甲1発明における「不動態層3」が温度依存性のカチオン捕捉材として機能することにはならない。
さらに、甲1発明では、不動態層3により、拡散遮断層を露出することなく遮蔽被覆する為に、不動態層3は、接続接触面5と6の両方に接触して配置されている(上記「1 (1)e」)のであるから、不動態層3を導電性とすることはそもそも想定されておらず、甲1発明の「不動態層3」を、高温で導電性となるものとし、さらにカソードポテンシャルを備えるか又は接地として「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)」とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

また、甲第3号証ないし甲第5号証にも、温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)であるガラスセラミックは記載されていない。

したがって、本件特許発明12は、本件の優先日前に当業者が甲1発明及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、容易になし得たものとすることができない。

イ 甲第2号証を主たる証拠とした場合
(ア)対比
本件特許発明12と甲2発明を対比する。
a プラチナ温度センサにおいては、通常は酸化アルミニウムまたはアルミナ(Al_(2)O_(3)) からなるセラミック基板4を用いるので(上記「1(2)b」)、甲2発明の「セラミック基板4」は、本件特許発明12の「金属酸化物基板」に相当し、甲2発明の「接続部8」は、本件特許発明12の「パッド」に相当する。

b 甲2発明の「プラチナ薄膜抵抗体2と接続部8とで構成され」た「パターン化されたプラチナ層」は、本件特許発明12の「コンタクトパッドと前記パッドに接続するPt抵抗膜パターン」に相当するので、
甲2発明の「セラミック基板4の上に配置され」た「プラチナ薄膜抵抗体2と接続部8とで構成され」た「パターン化されたプラチナ層」は、本件特許発明12の「金属酸化物基板上に」備えられる「コンタクトパッドと前記パッドに接続するPt抵抗膜パターン」に相当する。

c 甲2発明の「プラチナ薄膜抵抗体が設けられた領域を全て覆うように蒸着されたセラミック層」は、本件特許発明12の「前記抵抗膜パターン上に」備えられる「セラミック中間層」に相当する。

d 甲2発明の「セラミックペーストによる中間層の補強は、高温においても信頼性のある封止性を実現するために実行され」るので、甲2発明の「プラチナ温度センサ」は、高温での使用を想定している。
そして、甲2発明の「セラミックペーストによって形成された層16」に対応する本件特許発明12の「ガラスセラミック」について、本件明細書の発明の詳細な説明に「石英ガラスセラミック10のセラミック成分及び石英ガラス成分」(段落【0054】)と記載されていることを踏まえると、
甲2発明の「層14の上に、」「複数のセラミックパウダーと石英パウダー(quartz powder) との混合物によって構成された」「セラミックペーストによって形成された層16が配置され」た「プラチナ温度センサ」と、本件特許発明12の「かつ前記セラミック中間層の全面に取り付けられるガラスセラミックを備えている高温センサチップ」とは、「かつ前記セラミック中間層に取り付けられるガラスセラミックを備えている高温センサ」である点で共通する。

したがって、本件特許発明12と甲2発明とは、次の一致点、相違点を有する。
(一致点)
「金属酸化物基板上にコンタクトパッドと前記パッドに接続するPt抵抗膜パターンとを備え、
前記抵抗膜パターン上にセラミック中間層を備え、
かつ前記セラミック中間層に取り付けられるガラスセラミックを備えている高温センサ」

(相違点1)
本件特許発明12は、「ガラスセラミック」が「導前記セラミック中間層の全面に取り付けられる」のに対して、甲2発明は、「層14の上に、セラミックペーストによって形成された層16が配置され」ているが、「セラミックペーストによって形成された層16」が、「層14」の全面に取り付けられることが特定されていない点。
(相違点2)
「ガラスセラミック」が、本件特許発明12は、「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)である」「ガラスセラミック」であるのに対して、甲2発明の「セラミックペーストによって形成された層16」は、このような特定がない点。
(相違点3)
本件特許発明12は、「高温センサチップ」であるのに対して、甲2発明は、高温での使用を想定している「プラチナ温度センサ」ではあるが、高温センサチップであることが特定されていない点。

(イ)判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲2発明は、「複数のセラミックパウダーと石英パウダー(quartz powder) との混合物によって構成され」た「セラミックペーストによって形成された層16」を備えているが、「セラミックペーストによって形成された層16」が、温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)であることは特定されておらず、甲第2号証にも、そのような記載は無い。

甲第3号証及び甲第4号証には、化学的耐久性を高くするためにガラスに、酸化ジルコニウムを添加すること、甲第5号証には、ガラスの結晶化を促進させるために、酸化ジルコニウムを添加することが記載されている(上記「1 (3)」?「1 (5)」)。
この点に関して、異議申立人は、「一方で、電子部品に用いられるガラスセラミックに対し、化学的耐性を高めるために本件の明細書においてゲッタとされている酸化ジルコニウムを添加することは、甲第3号証ないし甲第5号証に記載された周知技術に過ぎない。」(異議申立書第27頁第20?23行)と主張している。
しかし、本件特許発明12の「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)」は、本件明細書の発明の詳細な説明に「前記ガラスセラミックは750℃より高くでは導電性であるか又はイオン伝導性であり、・・・前記抵抗膜のカソードと結合されている。このように、カソードポテンシャルを備えるか又は接地されたガラスセラミックは、カチオンがPt測定抵抗体へ移行することを防止する。」(段落【0016】)とされるのもであり、甲2発明において、化学的耐性を高めるために酸化ジルコニウムを添加したからといって、これにより直ちに、甲2発明における「セラミックペーストによって形成された層16」が温度依存性のカチオン捕捉材として機能することにはならない。
さらに、甲2発明では、セラミックペーストによって形成された層16は、層14の上に配置されており、プラチナ薄膜抵抗体2の接続部8と電気的に接続されていないのであるから、セラミックペーストによって形成された層16を導電性とすることはそもそも想定されておらず、甲2発明の「セラミックペーストによって形成された層16」を、高温で導電性となるものとし、さらにカソードポテンシャルを備えるか又は接地して「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)」とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

また、甲第3号証ないし甲第5号証にも、温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)は記載されていない。

したがって、本件特許発明12は、本件の優先日前に当業者が甲2発明及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、容易になし得たものとすることができない。

ウ 小括
よって、本件特許発明12は、本件の優先日前に当業者が、甲1発明及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、容易になし得たものとすることができず、また、甲2発明及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、容易になし得たものとすることができない。

(2)本件特許発明14、15及び18ないし20について
本件特許発明12を直接又は間接的に引用する本件特許発明14、15及び18ないし20は、本件特許発明12をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明12についての判断と同様の理由により、本件の優先日前に当業者が、甲1発明及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、容易になし得たものとすることができず、また、甲2発明及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、容易になし得たものとすることができない。

(3)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明又は甲2発明を対比すると、甲1発明又は甲2発明のいずれも、「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)である」「ガラスセラミック」を有していない。
この点は、本件特許発明12と甲1発明を対比した際の相違点(上記「(1)ア(ア)」)、又は本件特許発明12と甲2発明を対比した際の相違点2(上記「(1)イ(ア)」)と同様であるので、
本件特許発明1は、本件の優先日前に当業者が、甲1発明及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、容易になし得たものとすることができず、また、甲2発明及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、容易になし得たものとすることができない。

(4)本件特許発明2及び7について
本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2及び7は、本件特許発明1をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件の優先日前に当業者が、甲1発明及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、容易になし得たものとすることができない。

(5)本件特許発明3,4,6,8,10及び11について
本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明3,4,6,8,10及び11は、本件特許発明1をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件の優先日前に当業者が、甲1発明及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、容易になし得たものとすることができず、また、甲2発明及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、容易になし得たものとすることができない。

(6)本件特許発明9について
ア 甲第1号証を主たる証拠とした場合
本件特許発明9と甲1発明を対比すると、甲1発明は、「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)である」「ガラスセラミック」を有していない。
この点は、本件特許発明12と甲1発明を対比した際の相違点(上記「(1)ア(ア)」)と同様であり、また、甲第2号証、甲第6号証及び甲第7号証にも記載されていないので、
本件特許発明9は、本件の優先日前に当業者が甲1発明及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された技術に基づいて、容易になし得たものとすることができない。

イ 甲第2号証を主たる証拠とした場合
本件特許発明9と甲2発明を対比すると、甲2発明は、「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)である」「ガラスセラミック」を有していない。
この点は、本件特許発明12と甲2発明を対比した際の相違点2(上記「(1)イ(ア)」)と同様であり、また、甲第6号証及び甲第7号証にも記載されていないので、
本件特許発明9は、本件の優先日前に当業者が甲2発明及び甲第3号証ないし甲第7号証に記載された技術に基づいて、容易になし得たものとすることができない。

(7)本件特許発明13について
ア 甲第1号証を主たる証拠とした場合
本件特許発明13と甲1発明を対比すると、甲1発明は、「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)である」「ガラスセラミック」を有していない。
この点は、本件特許発明12と甲1発明を対比した際の相違点(上記「(1)ア(ア)」)と同様であり、また、甲第2号証にも記載されていないので、
本件特許発明13は、本件の優先日前に当業者が甲1発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、容易になし得たものとすることができない。

イ 甲第2号証を主たる証拠とした場合
本件特許発明13と甲2発明を対比すると、甲2発明は、「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)である」「ガラスセラミック」を有していない。
この点は、本件特許発明12と甲2発明を対比した際の相違点2(上記「(1)イ(ア)」)と同様であるので、
本件特許発明13は、本件の優先日前に当業者が甲2発明及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、容易になし得たものとすることができない。

(8)本件特許発明16について
ア 甲第1号証を主たる証拠とした場合
本件特許発明16と甲1発明を対比すると、甲1発明は、「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)である」「ガラスセラミック」を有してない。
この点は、本件特許発明12と甲1発明を対比した際の相違点(上記「(1)ア(ア)」)と同様であり、また、甲第2号証にも記載されていないので、
本件特許発明16は、本件の優先日前に当業者が甲1発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、容易になし得たものとすることができない。

イ 甲第2号証を主たる証拠とした場合
本件特許発明16と甲2発明を対比すると、甲2発明は、「温度依存性のカチオン捕捉材(ゲッタ)である」「ガラスセラミック」を有していない。
この点は、本件特許発明12と甲2発明を対比した際の相違点2(上記「(1)イ(ア)」)と同様であるので、
本件特許発明16は、本件の優先日前に当業者が甲2発明及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、容易になし得たものとすることができない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし4、6ないし16及び18ないし20は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。

第7 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし20に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし20に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-05-18 
出願番号 特願2015-206268(P2015-206268)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01K)
P 1 651・ 537- Y (G01K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深田 高義  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 中塚 直樹
須原 宏光
登録日 2016-07-29 
登録番号 特許第5976186号(P5976186)
権利者 ヘレーウス ゼンゾール テクノロジー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
発明の名称 1200℃膜抵抗体  
代理人 二宮 浩康  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ