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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1329100
異議申立番号 異議2017-700077  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-01-31 
確定日 2017-05-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第5989124号発明「パワー半導体装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5989124号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1. 手続の経緯
特許第5989124号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、2012年(平成24年)9月7日を国際出願日とする出願であって、平成28年8月19日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対して、平成29年1月31日に特許異議申立人 番場 大円により特許異議の申立てがされたものである。

2. 本件発明
特許第5989124号の請求項1ないし6の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1ないし6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
モールド樹脂で封止されたパワー半導体装置であって、
配線パターン状に成型された複数のリードフレームと、
前記リードフレーム上に接合されたパワー半導体素子と、
互いに隣接した2つの前記リードフレームの間に配置されたコンデンサと、
前記コンデンサの外部電極と前記リードフレームとが接続された接続構造部とを備え、
前記接続構造部は、前記コンデンサの前記外部電極に接続した導電性の応力緩和構造部と、前記応力緩和構造部と前記リードフレームを接続するはんだとを有し、
前記コンデンサは、当該コンデンサの前記外部電極における前記リードフレームに対向する側において、前記応力緩和構造部が接続されない非接続部を有し、
前記応力緩和構造部は、前記コンデンサ及び前記はんだよりも剛性が低く、かつ前記コンデンサの前記外部電極に接続しない電極非接続部を有し、
前記コンデンサの前記外部電極における前記非接続部と前記応力緩和構造部の前記電極非接続部との間に前記モールド樹脂が充填されていることを特徴とするパワー半導体装置。
【請求項2】
前記コンデンサは、前記非接続部における前記外部電極に前記応力緩和構造部が接続しないようにすると共に前記はんだが接続しないようにする部材が形成されたことを特徴とする請求項1記載のパワー半導体装置。
【請求項3】
モールド樹脂で封止されたパワー半導体装置であって、
配線パターン状に成型された複数のリードフレームと、
前記リードフレーム上に接合されたパワー半導体素子と、
互いに隣接した2つの前記リードフレームの間に配置されたコンデンサとを備え、
前記コンデンサは、当該コンデンサの外部電極が、当該コンデンサよりも剛性が低い応力緩和構造部を介して前記リードフレームに接続されており、
前記応力緩和構造部は、前記リードフレーム上に配置されると共に当該リードフレームと絶縁された第2のリードフレームであり、
前記第2のリードフレームは、前記コンデンサの前記外部電極に接続されると共に、配線部材により前記リードフレームに接続されたことを特徴とするパワー半導体装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のパワー半導体装置は、車載用の回転電機に設置され、前記回転電機の電機子に電流を供給することを特徴とするパワー半導体装置。
【請求項5】
前記パワー半導体素子は、ワイドバンドギャップ半導体材料により形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のパワー半導体装置。
【請求項6】
前記ワイドバンドギャップ半導体材料は、炭化珪素、窒化ガリウム系材料、またはダイヤモンドのうちいずれかであることを特徴とする請求項5記載のパワー半導体装置。」

3. 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、特開2003-243595号公報(以下、「甲1」という。)、特開2004-31768号公報(以下、「甲2」という。)、特開2004-179568号公報(以下、「甲3の1」という。)、国際公開第2008/001542号(以下、「甲3の2」という。)、特開2009-238923号公報(以下、「甲4の1」という。)、特開2006-210597号公報(以下、「甲4の2」という。)、特開2012-170304号公報(以下、「甲5」という。)を提出し、請求項1ないし6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反したものであるから、請求項1ないし6に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

4.刊行物の記載事項
(1)甲1
甲1には、「受動部品内蔵型半導体装置」について、図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

(ア)「【請求項1】半導体チップと、受動部品と、接続端子を有する複数のリードからなり該複数のリードのうちの第1のリードの上面に前記半導体チップが接着搭載され該第1のリードと他のリードとの間に前記受動部品が掛け渡されて機械的電気的に接着搭載されたリードフレームと、前記半導体チップを前記リードフレームに配線する配線部材と、前記リードフレームの少なくとも前記接続端子が露出するよう全体をパッケージ化する封止樹脂とからなることを特徴とする受動部品内蔵型半導体装置。」

(イ)「【請求項5】請求項1乃至4のいずれか1において、
前記受動部品は、セラミック製のコンデンサ又はセラミック製の抵抗体からなることを特徴とする受動部品内蔵型半導体装置。」

(ウ)「【0015】
【発明の実施の形態】[第1の実施形態]図1は本発明の第1の実施形態の半導体装置を示す図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のb-b線断面図、(c)は(a)のc-c線断面図、(d)は(a)のd-d線断面図である。1は電圧レギュレータ回路を内蔵した半導体チップ、2,3はセラミック製のコンデンサである。また、4はリードフレームであって、1個の半導体装置当り3個のリード4a,4b,4cからなる。中央のリード4aはアイランド4a1と端子4a2を有し、左側のリード4bはアイランド4b1と端子4b2を有し、右側のリード4cはアイランド4c1と端子4c2を有する。このうち、リード4b、4cは、そのアイランド4b1,4c1の部分がリード4aのアイランド4a1の部分よりも若干浮き上がった形状に曲折され(図1(b)、(d))、且つリード4aの中心に対して対称関係を持つような配置形状(図1(a)?(c))となっている。4a3,4a4は半導体チップ1への湿気侵入防止用の溝である。5a?5cは金線からなるワイヤ、6はパッケージングのための封止樹脂である。
【0016】半導体チップ1はアイランド4a1に接着搭載され、コンデンサ2,3はこのアイランド4a1とアイランド4b1,4c1との間に各々掛け渡して機械的電気的に接着搭載されている。また、半導体チップ1からは、アイランド4a1に対しては接地用ワイヤ5aが、アイランド4b1に対しては入力用ワイヤ5bが、アイランド4c1に対しては出力用ワイヤ5cが各々配線されている。コンデンサ2,3にはワイヤは接続されていない。そして、半導体チップ1、コンデンサ2,3およびアイランド4a1,4b1,4c1は一括して封止樹脂6によりパッケージ化されている。この状態で、アイランド4a1はその裏面が封止樹脂6の外面に露出するが、アイランド4b1,4c1は露出しない。また、各端子4a2,4b2,4c2は一列に並んで封止樹脂6から露出する。
【0017】これを製造するには、半導体チップ1を導電ペースト(エポキシ樹脂に銀ペースト等を混入したもの)を介在してアイランド4a1に搭載し加熱接着させる。次に、コンデンサ2,3をアイランド4a1と4b1の間、4a1と4c1の間に各々掛け渡すように導電ペーストを介在して搭載し加熱接着させる。次に、各ワイヤ5a,5b,5cをボンディングにより配線する。
【0018】なお、コンデンサ2,3の接着工程は、ワイヤ5a,5b,5cの配線工程の後で行うこともできる。また、半導体チップ1の接着工程とコンデンサ2,3の接着工程は同時に行うこともできる。また、コンデンサ2,3の接着には通常の導電ペーストの他に、弾力性をもつ導電ゴム等の柔軟な導電接着材料を用いることもできる。導電ゴムはシリコーンゴム等の合成ゴムに銀ペースト等を混入させた導電接着材料ものであり、これを使用すると樹脂封止前にリード4a,4b,4cの変形等によりコンデンサ2,3の接合部に外力が加わったとき、その外力を分散させることができる。
【0019】そして、リードフレーム4上に半導体チップ1とコンデンサ2,3とワイヤ5a?5cの組が複数組分構成されると、そのまま続けて、或いは一旦保管して別の場所で、封止樹脂6によりパッケージ化される。これは、半導体チップ1、コンデンサ2,3、リードフレーム4、およびワイヤ5a,5b,5cの組をモールド金型内にセットしてから、樹脂を注入して行う。このとき、樹脂注入口を図1(a)に仮想線で示すようにコンデンサ2の近くのA部に設けると、注入樹脂がそのコンデンサ2に衝突するので、その樹脂が均一にモールド金型内に行き渡るようになり、金型内にエアが残留して発生するボイドを抑制することができる。最後に、端子4a2,4b2,4c2の部分がカッティングされることにより、各半導体装置が個別化される。
【0020】なお、この封止樹脂として、いわゆる低応力樹脂(例えば、エポキシ樹脂中に海島状にシリコーンを加えた樹脂等)を用いれば、樹脂封止の後の樹脂応力による半導体チップ1への悪影響を緩和することができる。特に、コンデンサとしてセラミック製のものを使用する場合の封止樹脂とセラミックの熱膨張係数の違いにより生じる応力の緩和に効果的である。」

・甲1は、上記(ア)及び(ウ)並びに【図1】によれば、半導体チップと、受動部品と、接続端子を有する複数のリードからなり該複数のリードのうちの第1のリードの上面に前記半導体チップが接着搭載され該第1のリードと他のリードとの間に前記受動部品が掛け渡されて機械的電気的に接着搭載されたリードフレームと、前記半導体チップを前記リードフレームに配線する配線部材と、前記リードフレームの少なくとも前記接続端子が露出するよう全体をパッケージ化する封止樹脂とからなることを特徴とする受動部品内蔵型半導体装置である。

・上記(イ)によれば、受動部品は、セラミック製のコンデンサからなることを特徴とする受動部品内蔵型半導体装置である。

以上の点を踏まえて、上記記載事項および図面を総合的に勘案すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。

「半導体チップと、コンデンサと、接続端子を有する複数のリードからなり該複数のリードのうちの第1のリードの上面に前記半導体チップが接着搭載され該第1のリードと他のリードとの間に前記コンデンサが掛け渡されて機械的電気的に接着搭載されたリードフレームと、前記半導体チップを前記リードフレームに配線する配線部材と、前記リードフレームの少なくとも前記接続端子が露出するよう全体をパッケージ化する封止樹脂とからなることを特徴とする受動部品内蔵型半導体装置。」

(2)甲2
甲2には、「電子装置の実装方法」について、図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

(カ)「【0021】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)
以下、本発明を図に示す実施形態について説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る電子部品の実装構造を示す概略断面図である。基板20の一面上に電子部品10が搭載され実装されている。
【0022】
本実施形態の電子部品10としては、フリップチップ、CSP(チップサイズパッケージ)、セラミック部品、モールド部品などを用いることができる。図示例では電子部品10は、エポキシ樹脂などの樹脂にてモールドされたダイオードとして示されており、樹脂モールド部10aの両端には部品電極11が設けられている。
【0023】
部品電極11は樹脂モールド部10aの両端から基板20側に向かって延びており、その先端部は後述する基板20の電極ランド21と対向する面11aを有するように折り曲げられた形となっている。この部品電極11の材質は、42アロイやCuなどの母材表面にSnめっきやはんだめっきを施したものなどを採用することができる。
【0024】
基板20はアルミナや窒化アルミニウムなどのセラミック基板やプリント基板などの配線基板あるいはリードフレームなどを採用することができるが、本例では、アルミナ基板を採用している。
【0025】
基板20の一面上には、電子部品10の部品電極11に対応した電極ランド21が形成されている。この電極ランド11はめっき法や厚膜印刷法などを用いてAu、Ag、Cuなどから形成されている。
【0026】
そして、電子部品10は基板20の一面上に搭載されており、電子部品10の部品電極11と基板20の電極ランド21とは、はんだまたは導電性接着剤からなる接合材30を介して電気的・機械的に接続されている。こうして、電子部品10と基板20とは、部品電極11、接合材30、電極ランド21を介して電気的に接続されている。」

(キ)「【0032】
ここで、接合材30となるはんだもしくは導電性接着剤は、印刷法により供給することができ、その供給厚さは例えば50?300μm程度にすることができる。」

・上記(カ)によれば、電子部品10は、エポキシ樹脂などの樹脂にてモールドされた電子部品であり、樹脂モールド部10aの両端には部品電極11が設けられ、部品電極11は樹脂モールド部10aの両端から基板20側に向かって延びており、その先端部は基板20の電極ランド21と対向する面11aを有するように折り曲げられた形であり、電子部品10と基板20とは、部品電極11、接合材30、電極ランド21を介して電気的に接続されたものである。また、基板20は、リードフレームである。

・上記(キ)によれば、接合材30ははんだである。

以上の点を踏まえて、上記記載事項および図面を総合的に勘案すると、甲2には、次の技術事項が記載されている。

「エポキシ樹脂などの樹脂にてモールドされた電子部品10において、部品電極11は樹脂モールド部10aの両端からリードフレーム側に向かって延びており、その先端部はリードフレームの電極ランド21と対向する面11aを有するように折り曲げられた形であり、電子部品10とリードフレームとは、部品電極11、はんだ、電極ランド21を介して電気的に接続される」こと。

5.対比・判断
(1)請求項1に係る発明について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

a.甲1発明の「半導体チップ」、「リード」は、本件特許発明1の「パワー半導体素子」、「リードフレーム」に相当する。また、甲1の【図1】に複数の「リード」がアイランドと端子を有していることが記載されていることを鑑みれば、甲1発明も、本件特許発明1と同様に「配線パターン状に成型された複数のリードフレーム」を有しているといえる。そして、甲1発明は、「接続端子を有する複数のリードからなり該複数のリードのうちの第1のリードの上面に前記半導体チップが接着搭載され」ていることから、本件特許発明1の「配線パターン状に成型された複数のリードフレームと、前記リードフレーム上に接合されたパワー半導体素子」を有しているといえる。さらに、甲1発明は、「該第1のリードと他のリードとの間に前記コンデンサが掛け渡されて機械的電気的に接着搭載されたリードフレーム」を有しており、また、甲1の図1を鑑みれば、本件特許発明1の「互いに隣接した2つの前記リードフレームの間に配置されたコンデンサ」を有しているといえる。
ただし、本件特許発明1は、「前記コンデンサの外部電極と前記リードフレームとが接続された接続構造部とを備え、前記接続構造部は、前記コンデンサの前記外部電極に接続した導電性の応力緩和構造部と、前記応力緩和構造部と前記リードフレームを接続するはんだとを有し、前記コンデンサは、当該コンデンサの前記外部電極における前記リードフレームに対向する側において、前記応力緩和構造部が接続されない非接続部を有し、前記応力緩和構造部は、前記コンデンサ及び前記はんだよりも剛性が低く、かつ前記コンデンサの前記外部電極に接続しない電極非接続部を有し、前記コンデンサの前記外部電極における前記非接続部と前記応力緩和構造部の前記電極非接続部との間に前記モールド樹脂が充填されている」を備えると特定しているのに対して、甲1発明には、そのような特定がなされていない。

b.甲1発明は、「全体をパッケージ化する封止樹脂」を有していることを鑑みれば、本件特許発明1と同様に「モールド樹脂で封止された」ものであるといえる。

c.上記a.及びb.を鑑みれば、甲1発明の「パワー半導体装置」は、本件特許発明1の「パワー半導体装置」に相当する。

そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「モールド樹脂で封止されたパワー半導体装置であって、
配線パターン状に成型された複数のリードフレームと、
前記リードフレーム上に接合されたパワー半導体素子と、
互いに隣接した2つの前記リードフレームの間に配置されたコンデンサとを備える
ことを特徴とするパワー半導体装置。」

<相違点1>
パワー半導体装置について、本件特許発明1には、「コンデンサの外部電極と前記リードフレームとが接続された接続構造部」を備えると特定しているのに対して、甲1発明には、外部電極が明記されておらず、そのような特定がなされていない点。

<相違点2>
接続構造物について、本件特許発明1には、「前記コンデンサの前記外部電極に接続した導電性の応力緩和構造部と、前記応力緩和構造部と前記リードフレームを接続するはんだとを有」すると特定しているのに対して、甲1発明には、<相違点1>のとおり、接続構造部が特定されていないので、そのような特定がなされていない点。

<相違点3>
コンデンサについて、本件特許発明1には、「当該コンデンサの前記外部電極における前記リードフレームに対向する側において、前記応力緩和構造部が接続されない非接続部を有」すると特定しているのに対して、甲1発明には、外部電極が明記されていないので、そのような特定がなされていない点。

<相違点4>
応力緩和構造部について、本件特許発明1には、「前記コンデンサ及び前記はんだよりも剛性が低く、かつ前記コンデンサの前記外部電極に接続しない電極非接続部を有し、前記コンデンサの前記外部電極における前記非接続部と前記応力緩和構造部の前記電極非接続部との間に前記モールド樹脂が充填されてい」ると特定しているのに対して、甲1発明には、そのような特定がなされていない点。

上記相違点3について検討する。
甲2の図1には、樹脂モールドされた電子部品10が示されているだけであり、コンデンサの外部電極がどのような構成であるか不明であることを勘案すると、コンデンサの外部電極におけるリードフレームに対向する側において、応力緩和構造部が接続されない非接続部を有するという上記相違点3の構成が記載されているとはいえない。また、甲3の1ないし甲5のいずれにも、この点について記載されていない。
したがって、甲1発明に対して、甲2ないし甲5に記載の技術事項を適用して、相違点3の構成とすることは容易であるとはいえない。

なお、特許異議申立人は、
「なお、甲2における「電極非接続部」は、例えば「基板20の電極ランド21と対向する面11aを含む部分である(下図も参照)。」」
と主張している。
しかしながら、甲2には、コンデンサの外部電極の構成について記載されておらず、そもそも、コンデンサの外部電極におけるリードフレームに対向する側を有するか否かさえ不明であり、コンデンサの外部電極におけるリードフレームに対向する側において、応力緩和構造部が接続されない非接続部を有しているとまではいえない。

したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2ないし5に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)請求項2に係る発明について
本件特許発明2は、本件特許発明1を更に減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、上記甲1発明及び甲2ないし甲5に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)請求項3に係る発明について
本件特許発明3と甲1発明とを対比する。

d.甲1発明の「半導体チップ」、「リード」は、本件特許発明3の「パワー半導体素子」、「リードフレーム」に相当する。また、甲1の【図1】に複数の「リード」がアイランドと端子を有していることが記載されていることを鑑みれば、甲1発明も、本件特許発明3と同様に「配線パターン状に成型された複数のリードフレーム」を有しているといえる。そして、甲1発明は、「接続端子を有する複数のリードからなり該複数のリードのうちの第1のリードの上面に前記半導体チップが接着搭載され」ていることから、本件特許発明3の「配線パターン状に成型された複数のリードフレームと、前記リードフレーム上に接合されたパワー半導体素子」を有しているといえる。さらに、甲1発明は、「該第1のリードと他のリードとの間に前記コンデンサが掛け渡されて機械的電気的に接着搭載されたリードフレーム」を有しており、また、甲1の図1を鑑みれば、本件特許発明3の「互いに隣接した2つの前記リードフレームの間に配置されたコンデンサ」を有しているといえる。
ただし、本件特許発明3は、「前記コンデンサは、当該コンデンサの外部電極が、当該コンデンサよりも剛性が低い応力緩和構造部を介して前記リードフレームに接続されており、前記応力緩和構造部は、前記リードフレーム上に配置されると共に当該リードフレームと絶縁された第2のリードフレームであり、前記第2のリードフレームは、前記コンデンサの前記外部電極に接続されると共に、配線部材により前記リードフレームに接続された」と特定しているのに対して、甲1発明には、そのような特定がなされていない。

e.甲1発明は、「全体をパッケージ化する封止樹脂」を有していることを鑑みれば、本件特許発明3と同様に「モールド樹脂で封止された」ものであるといえる。

f.上記d.及びe.を鑑みれば、甲1発明の「パワー半導体装置」は、本件特許発明3の「パワー半導体装置」に相当する。

そうすると、本件特許発明3と甲1発明とは、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「モールド樹脂で封止されたパワー半導体装置であって、
配線パターン状に成型された複数のリードフレームと、
前記リードフレーム上に接合されたパワー半導体素子と、
互いに隣接した2つの前記リードフレームの間に配置されたコンデンサとを備える
ことを特徴とするパワー半導体装置。」

<相違点5>
コンデンサについて、本件特許発明3には、「当該コンデンサの外部電極が、当該コンデンサよりも剛性が低い応力緩和構造部を介して前記リードフレームに接続されており」と特定しているのに対して、甲1発明には、外部電極が明記されておらず、応力緩和構造部が特定されていないので、そのような特定がなされていない点。

<相違点6>
応力緩和構造部について、本件特許発明3には、「前記リードフレーム上に配置されると共に当該リードフレームと絶縁された第2のリードフレームであり、前記第2のリードフレームは、前記コンデンサの前記外部電極に接続されると共に、配線部材により前記リードフレームに接続された」と特定しているのに対して、甲1発明には、外部電極が明記されておらず、応力緩和構造部が特定されていないので、そのような特定がなされていない点。

上記相違点6について検討する。
甲2には、リードフレームと絶縁された第2のリードフレームについて記載されていない。また、甲3の1ないし甲5のいずれにも、この点について記載されていない。
したがって、甲1発明に対して、甲2ないし甲5に記載の技術事項を適用して、相違点6の構成とすることは容易であるとはいえない。

なお、特許異議申立人は、
「また、リードフレーム20と電極ランド21のように導電性部材同士の間に絶縁物を設けることは周知技術であり(甲4の1及び甲4の2参照)、当業者であれば容易である。
したがって、本件発明1に関して述べた甲2発明において電極ランド21とリードフレーム20との間に絶縁部材を設けた態様を採用した場合には、以下の構成になる。」
と主張している。
しかしながら、甲2の段落【0026】の「電子部品10と基板20とは、部品電極11、接合材30、電極ランド21を介して電気的に接続されている。」との記載を鑑みれば、甲2の電極ランド21とリードフレーム20とは電気的に接続されるべきものであることから、甲2の電極ランド21とリードフレーム20の間に絶縁部材を設ける動機付けがない。

したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲1発明及び甲2ないし甲5に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)請求項4ないし6に係る発明について
本件特許発明4ないし6に係る発明は、本件特許発明1ないし本件特許発明3のいずれかを更に減縮したものであるから、上記本件特許発明1ないし本件特許発明3についての判断と同様の理由により、上記甲1発明及び甲2ないし甲5に記載された技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

以上のとおり、請求項1ないし6に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲5に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によって、請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-05-19 
出願番号 特願2014-534126(P2014-534126)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小山 和俊多賀 和宏  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 國分 直樹
安藤 一道
登録日 2016-08-19 
登録番号 特許第5989124号(P5989124)
権利者 三菱電機株式会社
発明の名称 パワー半導体装置  
代理人 大岩 増雄  
代理人 竹中 岑生  
代理人 村上 啓吾  
代理人 吉澤 憲治  

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