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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1329121
異議申立番号 異議2017-700238  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-07 
確定日 2017-06-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第5987996号発明「フェライト系ステンレス鋼およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5987996号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5987996号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成27年1月7日の出願(優先権主張平成26年1月8日、平成26年11月11日)であって、平成28年8月19日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人千且和也により特許異議の申立てがなされたものである。

2 本件発明
特許第5987996号の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
質量%で、C: 0.01?0.05%、Si: 0.02?0.50%、Mn: 0.2?1.0%、P: 0.04%以下、S: 0.01%以下、Cr: 16.0?18.0%、Al: 0.001?0.10%、N: 0.01?0.06%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、El≧25%、平均r値≧0.70かつ|Δr|≦0.20であって、下記(1)に示す耐食性を有するフェライト系ステンレス鋼。
(1)表面を#600エメリーペーパーにより研磨仕上げした後に端面部をシールした鋼板にJIS H 8502に規定された塩水噴霧サイクル試験を8サイクル行った場合の鋼板表面における発錆面積率が25%以下である。
【請求項2】
質量%で、さらに、Cu:0.1?1.0%、Ni: 0.1?1.0%、Mo: 0.1?0.5%、Co: 0.01?0.5%のうちから選ばれる1種または2種以上を含む請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
質量%で、さらに、V: 0.01?0.25%、Ti: 0.001?0.028%、Nb: 0.001?0.10%、Mg: 0.0002?0.0050%、B: 0.0002?0.0050%、REM: 0.01?0.10%、Ca: 0.0002?0.0020%のうちから選ばれる1種または2種以上を含む請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼の製造方法であって、
鋼スラブに対して、熱間圧延を施し、次いで900?1000℃の温度範囲で5秒?15分間保持する焼鈍を行い熱延焼鈍板とし、次いで冷間圧延を施した後、800?950℃の温度範囲で5秒?5分間保持する冷延板焼鈍を行うフェライト系ステンレス鋼の製造方法。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人千且和也は、主たる証拠として特開2008-274329号公報(以下「刊行物1」という。)、及び、従たる証拠として特開2004-149916号公報(以下「刊行物2」という。)、特開平10-121205号公報(以下「刊行物3」という。)、特開2007-77496号公報(以下「刊行物4」という。)、特開2005-330580号公報(以下「刊行物5」という。)、特開平7-268485号公報(以下「刊行物6」という。)、「18%Crステンレス鋼板の腐食差による縞状模様とリジングについて」、鉄と鋼、1977年、Vol.63、第5号、p.855-864(以下「刊行物7」という。)、「SUS430のリジング及びr値に及ぼす(α+γ)温度域での熱処理を伴う製造プロセスの影響」、日新製鋼技報、2004年、No.85、p.1-10(以下、「刊行物8」という)を提出した。
そして、請求項1?3に係る特許は、刊行物1に記載された発明と刊行物2?6に記載される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか、又は、刊行物1に記載された発明と刊行物2?6に記載される公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとして、請求項1?3に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
また、請求項4に係る特許は、刊行物1に記載された発明と刊行物2?8に記載される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか、又は、刊行物1に記載された発明と刊行物2?8に記載される公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとして、請求項4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

4 刊行物の記載
(1) 刊行物1の記載
ア 刊行物1には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同様である。)
「【請求項1】
C:0.01?0.07質量%、Si:0.1?0.4質量%、Mn:0.3?0.9質量%、P:0.05質量%以下、S:0.01質量%以下、Al:0.01質量%以下、Cr:14?18質量%、Ni:0.6質量%以下、B:0.003?0.08質量%およびN:0.01?0.06質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする低炭フェライト系ステンレス鋼。」
「【0001】
本発明は、凝固組織を微細化し、等軸晶率を高めることによって、リジングの発生を防止できる低炭フェライト系ステンレス鋼およびその製造方法に関するものである。」
「【0029】
溶銑を転炉に装入して脱炭精錬を行ない、さらにVODを用いて脱ガス精錬を行なった後、Siを添加して脱酸した。次いでBを添加して、得られた溶鋼を取鍋に収容して造塊鋳造設備へ運搬した。そこで取鍋から鋳型に溶鋼を鋳込んで鋼塊とした。得られた鋼塊の成分は表1に示す通りである。表1中の発明例は成分が本発明の範囲を満足する例であり、比較例はBが本発明の範囲を外れる例である。」
「【表1】


「【0031】
厚み220mmのスラブを35mmまでリバース圧延で粗圧延してバーとした後に、タンデム仕上圧延機で厚み4.0mmまで圧延した。得られた熱延鋼板を950℃で連続焼鈍した後、酸洗して熱延焼鈍板を作成し、これを1.0mmまで冷間圧延した。この冷延鋼板をさらに900℃で連続焼鈍して冷延焼鈍板とした。
得られた冷延焼鈍板の任意の断面における等軸晶が占める面積を測定した。等軸晶の面積を測定するにあたって、冷延焼鈍板の断面をVILELLA試薬や飽和第2鉄に塩酸または硝酸を加えた腐食液で腐食し、結晶粒のアスペクト比が1/2以下のものを等軸晶として、その面積を測定した。そして断面の面積に対する等軸晶の面積の比率を百分率で算出し、等軸晶率とした。その結果を表1に併せて示す。」
イ 刊行物1の表1の「成分」の欄は、溶鋼を鋳込んで得られた鋼塊の成分を示しているが、各鋼塊の成分は、圧延等を経て最終的に製造されるフェライト鋼の成分に一致しているものと認められる。また、各鋼塊は、「成分」に記載されている各元素と、Fe及び不可避的不純物とから構成されるものと認められる。
ウ 前記ア及びイに示した事項を踏まえ、刊行物1において比較例10として開示された組成に基づくと、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「質量%で、C:0.041%、Si:0.24%、Mn:0.65%、P:0.028%、S:0.004%、Cr:16.2%、Al:0.002%、N:0.048%、Ni:0.28%を含有し、残部Feと不可避的不純物からなる、フェライト系ステンレス鋼。」(以下、「甲1(10)発明」という。)
エ また、刊行物1の段落【0031】に記載された製造方法を踏まえると、刊行物1には、甲1(10)発明の製造方法として、以下の発明が記載されていると認められる。
「質量%で、C:0.041%、Si:0.24%、Mn:0.65%、P:0.028%、S:0.004%、Cr:16.2%、Al:0.002%、N:0.048%、Ni:0.28%を含有し、残部Feと不可避的不純物からなる、フェライト系ステンレス鋼の製造方法であって、スラブに対し熱間圧延を施し、得られた熱延鋼板を950℃で連続焼鈍し酸洗して熱延焼鈍板を作成し、次いで冷間圧延を施した後、900℃で連続焼鈍して冷延焼鈍板を得る。」(以下、甲1(10)製法発明という。)
オ 前記ア及びイに示した事項を踏まえ、刊行物1において比較例11として開示された組成に基づくと、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「質量%で、C:0.043%、Si:0.26%、Mn:0.59%、P:0.025%、S:0.002%、Cr:17.8%、Al:0.001%、N:0.050%、B:0.0023%を含有し、残部Feと不可避的不純物からなる、フェライト系ステンレス鋼。」(以下、甲1(11)発明という。)
なお、比較例11では、Niの含有量が「tr」となっている。刊行物1には「tr」が意味する内容は説明されていないが、これは、通常、試料の組成を分析する際に、痕跡量(トレース)を意味する用語として使用されることを踏まえると、比較例11において、Niの含有量は検出限界以下の微量となっているものと認められる。そのため、Niは不可避的不純物に含まれるといえる。
カ また、刊行物1の段落【0031】に記載された製造方法を踏まえると、刊行物1には、甲1(11)発明の製造方法として、以下の発明が記載されていると認められる。
「質量%で、C:0.043%、Si:0.26%、Mn:0.59%、P:0.025%、S:0.002%、Cr:17.8%、Al:0.001%、N:0.050%、B:0.0023%を含有し、残部Feと不可避的不純物からなる、フェライト系ステンレス鋼の製造方法であって、スラブに対し熱間圧延を施し、得られた熱延鋼板を950℃で連続焼鈍し酸洗して熱延焼鈍板を作成し、次いで冷間圧延を施した後、900℃で連続焼鈍して冷延焼鈍板を得る。」(以下、甲1(11)製法発明という。)


(2) 刊行物2の記載
刊行物2には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
質量%において、
C:0.02%以下,
Si:0.7?1.1%,
Mn:0.8%以下,
Ni:0.5%以下,
Cr:8.0?11.0%未満,
N:0.02%以下,
Nb:0.10?0.50%,
Ti:0.07?0.25%,
Cu:0.02?0.5%,
B:0.0005?0.02%,
V:0(無添加)?0.20%,
CaおよびMgの1種または2種:合計0(無添加)?0.01%,
YおよびREMのうち1種以上の元素:合計0(無添加)?0.20%であり、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記(1)?(3)式をすべて満たす化学組成を有する成形性と耐高温酸化性・高温強度・低温靱性とを同時改善したフェライト系鋼板。
3Cr+40Si≧61 ……(1)
Cr+10Si≦21 ……(2)
420C-11.5Si+7Mn+23Ni-11.5Cr-12Mo+9Cu-49Ti-25(Nb+V)-52Al+470N+189≦70 ……(3)」
「【0001】
本発明は、800?900℃の高温雰囲気において使用可能な自動車エンジンの排気ガス経路部材に適した鋼板であって、深絞り性・張出し性等の成形性と、高温強度・耐高温酸化性・低温靱性とを同時改善したフェライト系鋼板に関する。」
「【0003】
最近の自動車エンジンは排気ガス浄化効率や出力の向上を目的として、排気ガス温度を上昇させる傾向にあり、エキマニ,フロントパイプ,触媒担体外筒などのエンジンに近い部材には特に高い耐熱性(高温強度,耐高温酸化性)が要求される。また、近年、排気ガス経路部材の形状は複雑化する傾向がある。特に、エキマニや触媒担体外筒は、メカプレス成形,サーボプレス成形,スピニング加工,ハイドロフォーム等の様々な方法で複雑な形状に成形される。このため、それに使用される材料は、単に引張伸びや曲げ性が良好であるだけでは足りず、深絞り性や張出し性に代表される成形性に優れ、かつ加工性の面内異方性が小さいことも要求されるようになってきた。また、二次加工・三次加工での延性割れや脆性割れの防止を考慮する必要があることから、低温靱性にも優れなければならない。さらに、形状が複雑化するとエンジンの起動・停止に伴う熱歪が1箇所に集中して熱疲労破壊が起こりやすくなるとともに、局所的に材料温度が上昇し異常酸化も生じやすくなるので、成形性や低温靱性の改善を図る上で耐熱性を犠牲にすることはできない。」
「【0055】
各冷延焼鈍板から試験片を切り出し、引張試験,シャルピー衝撃試験,高温引張試験,高温酸化試験に供した。
引張試験により0.2%耐力,破断伸び,塑性歪み比を求め、成形性を評価した。圧延方向に平行な方向,圧延方向に対し45°の方向,圧延方向に対し90°の方向に沿って各供試鋼板からJIS Z 2201に規定される13B号試験片を切り出し、引張試験片とした。0.2%耐力および破断伸びは、圧延方向に45°方向の試験片を用い、JIS Z 2241に規定される試験を行って求めた。塑性歪み比は、上記3方向の試験片を用い、JIS Z 2254に準拠した引張試験で求めた。すなわち、15%の単軸引張予歪みを与えたときの横歪みおよび板厚歪みの比から各方向の塑性歪み比を算出し、次式に従って平均塑性歪み比r_(AV)および面内異方性Δrを求めた。
r_(AV)=(r_(L)+2r_(D)+r_(T))/4
Δr=(r_(L)-2r_(D)+r_(T))/2
ただし、
r_(L):圧延方向に平行な方向の塑性歪み比
r_(D):圧延方向に対し45°方向の塑性歪み比
r_(T):圧延方向に対し90°方向の塑性歪み比」
「【表3】


(3) 刊行物3の記載
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建築物の外装材、厨房器具、化学プラント、貯水槽等の使途に好適なフェライト系ステンレス鋼板に関し、とくに、機械的性質の面内異方性が小さく、耐リジング性に優れるフェライト系ステンレス鋼板(以下、鋼帯も含む。)およびその製造方法に関するものである。」
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これらの従来の既知技術は、主としてr値と延性の向上を目指したものであり、これらの特性改善については効果が見られるものの、機械的性質の異方性は大きく、また耐リジング性も十分ではないという問題があった。このため、プレス加工等深絞りをほどこす用途においては、美観, 研磨負荷軽減などの観点から強く改善が望まれていた。」
「【0005】そこで、本発明の目的は、上記既知技術が抱えていた問題を解決し、機械的性質の面内異方性が小さく、また耐リジング性に優れるフェライト系ステンレス鋼板とその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、r値が1.4 以上、伸びが30%以上のほか、r値の面内異方性Δrが 0.2以下、伸びの面内異方性ΔElが 2.0%以下、うねり高さで10μm以下の耐リジング性を有するフェライト系ステンレス鋼板とその製造方法を提供することにある。」
「【0039】なお、上記各特性値の測定は、次の方法に従い行った。
・El、ΔEl、r値、Δr
鋼板の圧延方向、圧延方向に対して45°の方向、圧延方向に対して90°の各方向から、JIS13号B試験片を採取し、それぞれの引張試験から破断伸びを測定して、次式により、ElおよびΔElを求めた。
El=(El_(L) +2El_(D) +El_(T) )/4
ΔEl=(El_(L) -2El_(D) + El_(T) )/2
ただし、El_(L) 、El_(D) およびEl_(T) は、それぞれ圧延方向、圧延方向に対して45°の方向、圧延方向に対して90°の方向の破断伸びを表す。同様にして、各方向から採取したJIS13号B試験片に、5?15%の単軸引張予歪を与えた時の横ひずみと板厚ひずみの比から各方向のランクフォード値を測定し、次式により、r値、Δrを求めた。
r=(r_(L) +2r_(D) +r_(T ))/4
Δr=(r_(L) -2r_(D )+ r_(T) )/2
ただし、r_(L) 、r_(D) およびr_(T) は、それぞれ圧延方向、圧延方向に対して45°の方向、圧延方向に対して90°の方向のランクフォード値を表す。
・エリクセン値
JISZ2247に準拠し、グラファイトグリースを塗布して測定した。
・リジングのうねり高さ
リジングのうねり高さは、引張荷重により発生させた、リジングのうねり高さを引張方向に対して垂直の方向に測定して求めた。具体的には、圧延方向からJIS5号引張試験片を採取し、この試験片の片面を湿式#600で仕上げ研磨し、20%の単軸予歪を与えたのち、発生したリジングのうねり高さ (リジングの凹凸)を、試験片中央部で、引張方向(圧延方向)に対して90°の方向に、粗度計を用いて測定し、その平均値から求めた。」
「【0045】これらの結果から、成分組成と製造条件を適正化して、冷延板の(222)/(310)値を制御することによって、Elが30%以上、ΔElが2.0 %以下、r値が1.4 以上、Δrが0.2 以下、エリクセン値が10以上で、うねり高さで10μm以下の、良好な成形加工性を有するほか、機械的性質の異方性が少なく、耐リジング性にも優れたフェライト系ステンレス鋼板を製造できることがわかる。」

(4) 刊行物4の記載
「【0001】
本発明は、耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法に関するものである。」
「【0031】
以上により得られた比較例11?13を除く残りの供試材(本発明例1?8と21?25、比較例14?16)と、SUS304、SUS436LおよびSUS430J1Lの0.8mm厚の冷延焼鈍板から採取した試験片に対して、JIS G 0577に準じて3.5%NaCl溶液、30℃中で孔食電位を測定するとともに、塩水噴霧サイクル試験を行った。塩水噴霧サイクル試験は、600番の研磨紙で表面を研磨した供試材(20mm×30mm)に対して、塩水噴霧(5%NaCl、35℃、噴霧2h)→乾燥(60℃、4h、相対湿度40%)→湿潤(50℃、2h、相対湿度≧95%)を1サイクルとして、45サイクルを行った。得られた結果を表1に併せて示す。」
「【表1】


「【0034】
なお、表1において、各試験の判定基準は以下の通りである。
(1)シャルピー衝撃試験:25℃での吸収エネルギーが50J/cm^(2)以上が○(合格)、50J/cm^(2)未満が×(不合格)と判定した。
(2)冷延板焼鈍:880℃の焼鈍後の伸びが20%以上が○(合格)、880℃の焼鈍後の伸びが20%未満が×(不合格)と判定した。
(3)塩水噴霧サイクル試験:試験片の片面(60mm×80mm)に対して、発錆面積が20%未満が○(合格)、20%以上が×(不合格)と判定した。
(4)隙間腐食試験結果:試験片の隙間部に発生した腐食孔のうち深い10点の平均値が300μm未満が○(合格)、300μm以上が×(不合格)と判定した。なお、腐食孔の深さは、レーザー顕微鏡で測定した。 表1より、本発明例では、孔食電位はSUS304、SUS436Lと同等以上であり、塩水噴霧サイクル試験の結果も良好で、耐食性に優れていることがわかる。また、隙間腐食試験での腐食孔の平均深さも300μm未満であり、耐隙間腐食性も優れている。」

(5) 刊行物5の記載
「【0001】
本発明は、高強度でかつ耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼板に係わり、特に自転車リム等の車輪用鋼板として好適な、曲げ加工性に優れ、高強度でかつ耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法に関する。」
「【0026】
板厚が0.8mmのステンレス冷延鋼板(組成:質量%で、C:0.012%、Si:0.31%、Mn:0.46%、P:0.030%、S:0.005%、Al:0.003%、Cr:17.5%、N:0.014%を含有し、残部実質的にFe)を素材として、該素材に表1に示す条件の連続焼鈍炉により仕上熱処理を施し、酸洗して自転車リム用鋼板とした。得られた鋼板について、(1)引張試験、(2)腐食試験、(3)曲げ試験を実施した。試験方法はつぎのとおりとした。
(1)引張試験
得られた鋼板から引張方向が圧延方向となるようにJIS13号B引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、引張強さ(TS)と伸び(El)を求めた。
(2)腐食試験
得られた鋼板から腐食試験片(大きさ:板厚×70mm×150mm)を採取し、片面を試験面として、下記に示す条件で複合サイクル腐食試験(Cyclic Corrosion Test:以下、CCTともいう)を実施した。試験後、各鋼板の試験面における発錆面積を画像解析により求め、CCT発錆面積がSUS430(16%massCr)より良好な場合、実用上問題のない耐食性を有しているといえ、耐食性の評価を○とし、それ以下の場合、耐食性の評価を×とした。」
「【0027】
試験条件:
塩水(5%NaCl水溶液、液温:35℃)2時間噴霧→4時間乾燥(60℃、湿度:30%以下)→2時間湿潤(50℃、湿度:95%以上)を1サイクルとして、20サイクル行う。
(3)曲げ試験
得られた鋼板から長手方向が圧延方向と平行となるように曲げ試験片(板厚×25mm幅×70mm長さ)を採取し、内側半径1.0mm、2.0mm、3.0mmで180℃曲げを行い、曲げの外側を拡大鏡で観察し、割れの有無を調査し、割れ発生のない最小内側曲げ半径(mm)を求めた。最小内側曲げ半径が2.0mm以下であれば、実用上十分な曲げ加工性を持っていると言える。」
「【表1】



(6) 刊行物6の記載
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、優れた加工性、耐食性および表面性状を有するフェライト系ステンレス鋼帯の製造方法に関するものである。」
「【0033】上記方法により得られた鋼板を供試材として、スケールきず、r値、耐食性を下記方法により調査した。
・スケールきず
仕上げ圧延後の熱延板を酸洗した後、目視により以下の基準で判定した。
無:製品として全く問題なし。
有:コイル全長の1/3以上にわたり手入れを必要とする。
・r値
JIS13号B試験片を用い15%引張歪みを与えたのち、常法による平均r値により測定した。
・耐食性
JISZ2371にしたがつて用意した試験片と溶液(5%NaCl)を用い、噴霧(240 分、35℃)一乾燥(120 分、50℃)一湿潤(120 分、50℃)を1サイクル(8時間)とする腐食試験を連続20サイクル実施後、画像解析により発銹面積率を求めた。なお、参考までに、市販SUS304鋼についての上記試験による発銹面積率は5?10%であった。」
「【0034】これらの試験結果を表2および表3に示す。本発明方法を適用した供試材は、いずれも熱延板の段階でも優れたr値および耐食性を示すとともに、スケールきずが抑制され優れた表面性状を示すことがわかる。さらに、本発明法を通常工程を経た冷延品に適用した場合にも優れた効果を発揮することがわかる。」
「【表2】


「【表3】





(7) 刊行物7の記載
「このリジングは18%Crステンレス鋼の熱延板,冷延板,BAやPAのままの材料のものでも観察される.また,それらの板を深絞り加工したときもPhoto.2のように壁面及びフランジ部に観察される.」(第857頁の左側欄第1行?第4行)
「また18%Crステンレス綱の場合,Fe-Cr系(0.05%C)状態図より950℃から1350℃の間で(α+γ)の2相領域が存在し,αとγの間でCr量の偏析が生じることは既に報告されている^(16)).」(第863頁の左側欄第10行?第13行)
「熱延は通常この(α+γ)2相領域内で行なわれることが多い.そこで熱延板を2相領域に加熱したのち冷却したところPhoto.7に示したように,Cr量が多くCが少ないαとCr量が少なくCが多いα_(M)組織が見られた.α_(M)組織のかたさがHv565と著しく高いことから,α_(M)は2相領域加熱時のγが変態してその結果マルテンサイトになったものであり,また変態を行わないα組織はフェライトであったものと思われる.」(第863頁の左側欄第14行?第22行)

(8) 刊行物8の記載
「このように,フェライト系ステンレス鋼のプレス成形性の改善には,リジングの発生抑制と深絞り性の両立が求められている。」(第1頁の右側欄第4行?第6行)
「したがって,フェライト系ステンレス鋼における耐リジング性と高r値の両立のためには,コロニーの形成を抑制し,圧延面に{111}成分を強く発達させる集合組織制御が重要になる。」(第2頁の左側欄第6行?第9行)
「SUS430におけるリジングの発生抑制の手法としては,フェライト(以下αと記す)+オーステナイト(以下γと記す)2相温度域で熱延終了後急冷するインライン処理^(12?15)),または、熱延板の(α+γ)温度域での熱処理^(16?18))により,α母相中にマルテンサイト相(以下α’と記す)を分散生成させ,冷間圧延を施し焼鈍する方法が知られている。」(第2頁の左側欄第10行?第16行)
「耐リジング性が改善されたプロセスは,いずれも熱延板に(α+γ)温度域で熱処理を施し,冷間圧延によりひずみを付与していることに特徴を有している。」(第8頁の左側欄第6行?右側欄第1行)
「すなわち,(α+α’)2相組織を冷間圧延すると,α相は,α’相に比べ軟質であるため,α’相に隣接するα相は大きな塑性変形を受ける。このひずみは,α’相の分布により不均一に導入され,ランダムな再結晶粒の核発生場所となり,バンド状組織を分断しコロニーの形成が抑制され,耐リジング性を改善したと考えられる^(13?17))。」(第8頁の右側欄第4行?第10行)
「Fig.14に,プロセスE材において耐リジング性が改善され,r値が向上した理由を模式的に示す。(α+γ)温度域での熱延板熱処理後,冷間圧延を施し,中間焼鈍を長時間実施することで,熱延板のバンド状組織が分断され,コロニーの形成を抑制し,炭化物が十分に析出した微細で等軸な金属組織が得られる。この組織に圧延・焼鈍を施すことにより,コロニーの形成がない{111}集合組織が発達し,耐リジング性の改善とr値の向上がなされたと考えられる。」(第9頁の右側欄第5行?第13行)


5 判断
(1) 本件特許発明1について
ア 甲1(10)発明を引用発明とした場合について
(ア) 本件特許発明1と、甲1(10)発明とを対比する。
成分組成に関し、甲1(10)発明においては、「質量%で、C:0.041%、Si:0.24%、Mn:0.65%、P:0.028%、S:0.004%、Cr:16.2%、Al:0.002%、N:0.048%、Ni:0.28%を含有」するのに対し、本件特許発明1においては、「質量%で、C: 0.01?0.05%、Si: 0.02?0.50%、Mn: 0.2?1.0%、P: 0.04%以下、S: 0.01%以下、Cr: 16.0?18.0%、Al: 0.001?0.10%、N: 0.01?0.06%を含有」するものであって、両発明は、C、Si、Mn、P、S、Cr、Al及びNの含有量において共通している。
そうすると、両発明の一致点と相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「質量%で、C:0.041%、Si:0.24%、Mn:0.65%、P:0.028%、S:0.004%、Cr:16.2%、Al:0.002%、N:0.048%を含有する、フェライト系ステンレス鋼。」
(相違点1)
成分組成に関し、甲1(10)発明においては、さらに「Ni:0.28%」を含有しているのに対し、本件特許発明1ではNiを含有しない点
(相違点2)
本件特許発明1においては「El≧25%、平均r値≧0.70かつ|Δr|≦0.20」であるのに対し、甲1(10)発明においては、「El」の値、「平均r値」及び|Δr|の値が不明である点
(相違点3)
本件特許発明1においては、「耐食性」に関し「(1)表面を#600エメリーペーパーにより研磨仕上げした後に端面部をシールした鋼板にJIS H 8502に規定された塩水噴霧サイクル試験を8サイクル行った場合の鋼板表面における発錆面積率が25%以下である」のに対し、甲1(10)発明においては、どの程度の「耐食性」を有しているかが不明である点

(イ) まず、相違点1について検討する。
甲1(10)発明は、Bを含有しないことに起因して刊行物1に記載の課題が解決されない比較例とされた比較例10に相当する鋼塊から製造されたフェライト系ステンレス鋼である。このような比較例である鋼において、Bとは別の成分であるNiに着目し、他の成分の含有量を維持しつつNiの含有量のみを変更しようとする積極的な動機付けは刊行物1?6において見いだすことはできない。
したがって、甲1(10)発明において、本件特許発明1と一致する成分の含有量を維持しながら、0.28%含まれるNiの量をゼロとすることは、当業者が容易になし得たことということはできない。

(ウ) よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1(10)発明と刊行物2?6に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 甲1(11)発明を引用発明とした場合について
(ア) 本件特許発明1と、甲1(11)発明とを対比する。
成分組成に関し、甲1(11)発明においては、「質量%で、C:0.043%、Si:0.26%、Mn:0.59%、P:0.025%、S:0.002%、Cr:17.8%、Al:0.001%、N:0.050%、B:0.0023%を含有」するのに対し、本件特許発明1においては、「質量%で、C: 0.01?0.05%、Si: 0.02?0.50%、Mn: 0.2?1.0%、P: 0.04%以下、S: 0.01%以下、Cr: 16.0?18.0%、Al: 0.001?0.10%、N: 0.01?0.06%を含有」するものであって、両発明は、C、Si、Mn、P、S、Cr、Al及びNの含有量において共通している。
そうすると、両発明の一致点と相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「質量%で、C:0.043%、Si:0.26%、Mn:0.59%、P:0.025%、S:0.002%、Cr:17.8%、Al:0.001%、N:0.050%を含有する、フェライト系ステンレス鋼。」
(相違点1)
成分組成に関し、甲1(11)発明においては、さらに「B:0.0023%」を含有しているのに対し、本件特許発明1ではBを含有しない点
(相違点2)
本件特許発明1においては「El≧25%、平均r値≧0.70かつ|Δr|≦0.20」であるのに対し、甲1(11)発明においては、「El」の値、「平均r値」及び|Δr|の値が不明である点
(相違点3)
本件特許発明1においては、「耐食性」に関し「(1)表面を#600エメリーペーパーにより研磨仕上げした後に端面部をシールした鋼板にJIS H 8502に規定された塩水噴霧サイクル試験を8サイクル行った場合の鋼板表面における発錆面積率が25%以下である」のに対し、甲1(11)発明においては、どの程度の「耐食性」を有しているかが不明である点

(イ) まず、相違点1について検討する。
甲1(11)発明は、Bの含有量が小さいことに起因して刊行物1に記載の課題が解決されない比較例とされた比較例11に相当する鋼塊から製造されたフェライト系ステンレス鋼である。このような比較例である鋼において、B以外の成分の含有量を維持しつつBの含有量をゼロに変更しようとする積極的な動機付けは刊行物1?6において見出すことはできない。
したがって、甲1(11)発明において、本件特許発明1と一致する成分の含有量を維持しながら、0.0023%含まれるBの量をゼロとすることは、当業者が容易になし得たことということはできない。
さらに、刊行物1においてBの量がゼロとなっている比較例10は、Bの含有量が小さいことによって比較例とされていることから、仮に、甲1(11)発明においてBの含有量を変更する発想に至ったとしても、Bの量をゼロとすることは、刊行物1において特許を受けようとして記載された発明の技術的意義を損なうものであるから、この点からも、当業者が容易になし得たことということはできない。

(ウ) よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1(11)発明と刊行物2?6に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 小括
前記ア及びイに示したとおり、本件特許発明1は、刊行物1に記載された発明と刊行物2?6に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないので、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
そして、念のため付記しておくと、この判断は、刊行物2?6に記載される事項が周知であるか否かに影響されるものではない。


(2) 本件特許発明2について
ア 甲1(10)発明を引用発明とした場合について
(ア) 本件特許発明2は、本件特許発明1に対し、さらに「質量%で、さらに、Cu:0.1?1.0%、Ni: 0.1?1.0%、Mo: 0.1?0.5%、Co: 0.01?0.5%のうちから選ばれる1種または2種以上を含む」という事項を追加するものである。
本件特許発明2と、甲1(10)発明とを対比する。
成分組成に関し、甲1(10)発明においては、「質量%で、C:0.041%、Si:0.24%、Mn:0.65%、P:0.028%、S:0.004%、Cr:16.2%、Al:0.002%、N:0.048%、Ni:0.28%を含有し、残部Feと不可避的不純物とからなる」のに対し、本件特許発明2においては、「質量%で、C: 0.01?0.05%、Si: 0.02?0.50%、Mn: 0.2?1.0%、P: 0.04%以下、S: 0.01%以下、Cr: 16.0?18.0%、Al: 0.001?0.10%、N: 0.01?0.06%を含有し」、「さらに、Cu:0.1?1.0%、Ni: 0.1?1.0%、Mo: 0.1?0.5%、Co: 0.01?0.5%のうちから選ばれる1種または2種以上を含」み、「残部がFeおよび不可避的不純物からな」るものであることから、甲1(10)発明の組成は、本件特許発明2が規定する組成の範囲内のものとなっている。
そうすると、両発明の一致点と相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「質量%で、C:0.041%、Si:0.24%、Mn:0.65%、P:0.028%、S:0.004%、Cr:16.2%、Al:0.002%、N:0.048%、Ni:0.28%を含有し、残部Feと不可避的不純物とからなる、フェライト系ステンレス鋼」
(相違点1)
本件特許発明2においては「El≧25%、平均r値≧0.70かつ|Δr|≦0.20」であるのに対し、甲1(10)発明においては、「El」の値、「平均r値」及び|Δr|の値が不明である点
(相違点2)
本件特許発明2においては、「耐食性」に関し「(1)表面を#600エメリーペーパーにより研磨仕上げした後に端面部をシールした鋼板にJIS H 8502に規定された塩水噴霧サイクル試験を8サイクル行った場合の鋼板表面における発錆面積率が25%以下である」のに対し、甲1(10)発明においては、どの程度の「耐食性」を有しているかが不明である点

(イ) 以下、上記各相違点について検討する。
まず、相違点1について検討する。
刊行物2に記載されたフェライト系鋼、及び刊行物3に記載されたフェライト系ステンレス鋼においては、「El」、「平均r値」及び「|Δr|」の数値が、本件特許発明2に特定される範囲内のものになっていると認められる。
ここで、鋼においては、組成や組織が変われば、鋼の機械的な特性や化学的な特性が大きく変わり得ることが技術常識であるので、ある組成及び組織を有する鋼に関する物性値を、組成や組織が異なる他の鋼の物性値と同一視することができないことは明らかである。
したがって、物性値としての「El」、「平均r値」及び「|Δr|」の数値が本件特許発明2の範囲内にあると認められるフェライト系鋼が刊行物2や刊行物3に記載のとおり公知であるとしても、それらの鋼とは組成及び組織が異なっている甲1(10)発明のフェライト系ステンレス鋼において「El」、「平均r値」及び「|Δr|」の数値を本件特許発明2の範囲内にすることが、刊行物2、3に開示されたとおりの技術的意義を有することになるとは限らず、ゆえに、同様の物性値を特定しようとする動機付けがあるということもできない。
よって、甲1(10)発明において相違点1に係る構成を想起することは当業者にとって容易であるとはいえない。

(ウ) 次に、相違点2について検討する。
刊行物4?6に記載されたフェライト系ステンレス鋼においては、「耐食性」に関し、本件特許発明2に特定される範囲内のものになっていると認められる。
しかしながら、前記(イ)のとおり、鋼においては、組成や組織が変われば、鋼の機械的な特性や化学的な特性が大きく変わり得ることが技術常識であるので、ある組成及び組織を有する鋼に関する物性値を、組成や組織が異なる他の鋼の物性値と同一視することができないことは明らかである。
したがって、前記(イ)と同様の理由により、「耐食性」に関し本件特許発明2の範囲内にあると認められるフェライト系ステンレス鋼が刊行物4?6に記載のとおり公知であるとしても、それらの鋼とは組成及び組織が異なっている甲1(10)発明のフェライト系ステンレス鋼において、「耐食性」を本件特許発明2の範囲内になるようにすることが当業者にとって容易であるとはいえない。

(エ) さらに、相違点1及び2に対し別の観点から検討を加える。
鋼に対し組成及び/又は組織の変更を施して、鋼におけるある一つの特性を変更させることについては、当業者にとって容易である可能性はあるが、その時に、鋼における他の特性がどのように変化するかを予測することは、通常、困難であることに鑑みると、仮に、甲1(10)発明のフェライト系ステンレス鋼において「El」の値、「平均r値」、「|Δr|」の値、及び「耐食性」のうちの何れか一つの事項(例えば「平均r値」)を本件特許発明2の範囲内になるようにすることが当業者にとって容易であったとしても、その際に、同時に、その他の三つの事項も本件特許発明2の範囲内になるようにし、更に、甲1(10)発明における他の事項(成分組成)についても本件特許発明2の範囲内になるように制御することが、当業者にとって容易であるとはいえないことは明らかである。よって、この点からみても、相違点1及び2に係る構成は、当業者が容易になし得たものとはいえない。

イ 小括
前記アに示したとおり、本件特許発明2は、刊行物1に記載された発明と刊行物2?6に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないので、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
そして、念のため付記しておくと、この判断は、刊行物2?6に記載される事項が周知であるか否かに影響されるものではない。

(3) 本件特許発明3について
ア 甲1(11)発明を引用発明とした場合について
(ア) 本件特許発明3は、本件特許発明1又は2に対し、さらに「質量%で、さらに、V: 0.01?0.25%、Ti: 0.001?0.028%、Nb: 0.001?0.10%、Mg: 0.0002?0.0050%、B: 0.0002?0.0050%、REM: 0.01?0.10%、Ca: 0.0002?0.0020%のうちから選ばれる1種または2種以上を含む」という事項を追加するものである。
本件特許発明3と、甲1(11)発明とを対比する。
成分組成に関し、甲1(11)発明においては「質量%で、C:0.043%、Si:0.26%、Mn:0.59%、P:0.025%、S:0.002%、Cr:17.8%、Al:0.001%、N:0.050%、B:0.0023%を含有し、残部Feと不可避的不純物とからなる」のに対し、本件特許発明3においては、「質量%で、C: 0.01?0.05%、Si: 0.02?0.50%、Mn: 0.2?1.0%、P: 0.04%以下、S: 0.01%以下、Cr: 16.0?18.0%、Al: 0.001?0.10%、N: 0.01?0.06%を含有し」、「さらに、V: 0.01?0.25%、Ti: 0.001?0.028%、Nb: 0.001?0.10%、Mg: 0.0002?0.0050%、B: 0.0002?0.0050%、REM: 0.01?0.10%、Ca: 0.0002?0.0020%のうちから選ばれる1種または2種以上を含」み、「残部がFeおよび不可避的不純物からな」るものであることから、甲1(11)発明の組成は、本件特許発明3が規定する組成の範囲内のものとなっている。
そうすると、両発明の一致点と相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「質量%で、C:0.043%、Si:0.26%、Mn:0.59%、P:0.025%、S:0.002%、Cr:17.8%、Al:0.001%、N:0.050%、B:0.0023%を含有し、残部Feと不可避的不純物とからなる、フェライト系ステンレス鋼」
(相違点1)
本件特許発明3においては「El≧25%、平均r値≧0.70かつ|Δr|≦0.20」であるのに対し、甲1(11)発明においては、「El」の値、「平均r値」及び|Δr|の値が不明である点
(相違点2)
本件特許発明3においては、「耐食性」に関し「(1)表面を#600エメリーペーパーにより研磨仕上げした後に端面部をシールした鋼板にJIS H 8502に規定された塩水噴霧サイクル試験を8サイクル行った場合の鋼板表面における発錆面積率が25%以下である」のに対し、甲1(11)発明においては、どの程度の「耐食性」を有しているかが不明である点


(イ) 以下、上記各相違点について検討するが、前記(2)と同様に、これら相違点に係る構成は、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(ウ) まず、相違点1について検討する。
刊行物2に記載されたフェライト系鋼、及び刊行物3に記載されたフェライト系ステンレス鋼においては、「El」、「平均r値」及び「|Δr|」の数値が、本件特許発明3に特定される範囲内のものになっていると認められる。
しかしながら、鋼においては、組成や組織が変われば、鋼の機械的な特性や化学的な特性が大きく変わり得ることが技術常識であるので、ある組成及び組織を有する鋼に関する物性値を、組成や組織が異なる他の鋼の物性値と同一視することができないことは明らかである。
したがって、物性値としての「El」、「平均r値」及び「|Δr|」の数値が本件特許発明3の範囲内にあると認められるフェライト系鋼が刊行物2や刊行物3に記載のとおり公知であるとしても、それらの鋼とは組成及び組織が異なっている甲1(11)発明のフェライト系ステンレス鋼において「El」、「平均r値」及び「|Δr|」の数値を本件特許発明3の範囲内にすることが刊行物2、3に開示されたとおりの技術的意義を有することになるとは限らず、ゆえに、同様の物性値を特定しようとする動機付けがあるということもできない。
よって、甲1(11)発明において相違点1に係る構成を想起することは当業者にとって容易であるとはいえない。

(エ) 次に、相違点2について検討する。
刊行物4?6に記載されたフェライト系ステンレス鋼においては、「耐食性」に関し、本件特許発明3に特定される範囲内のものになっていると認められる。
しかしながら、前記(ウ)のとおり、鋼においては、組成や組織が変われば、鋼の機械的な特性や化学的な特性が大きく変わり得ることが技術常識であるので、ある組成及び組織を有する鋼に関する物性値を、組成や組織が異なる他の鋼の物性値と同一視することができないことは明らかである。
したがって、前記(ウ)と同様の理由により、「耐食性」に関し本件特許発明3の範囲内にあるフェライト系ステンレス鋼が刊行物4?6に記載のとおり公知であるとしても、それらの鋼とは組成及び組織が異なっている甲1(11)発明のフェライト系ステンレス鋼において、「耐食性」を本件特許発明3の範囲内になるようにすることが当業者にとって容易であるとはいえない。

(オ) さらに、相違点1及び2に対し別の観点から検討を加える。
鋼に対し組成及び/又は組織の変更を施して、鋼におけるある一つの特性を変更させることについては、当業者にとって容易である可能性はあるが、その時に、鋼における他の特性がどのように変化するかを予測することは、通常、困難であることに鑑みると、仮に、甲1(11)発明のフェライト系ステンレス鋼において「El」の値、「平均r値」、「|Δr|」の値、及び「耐食性」のうちの何れか一つの事項(例えば「平均r値」)を本件特許発明3の範囲内になるようにすることが当業者にとって容易であったとしても、その際に、同時に、その他の三つの事項も本件特許発明3の範囲内になるようにし、更に、甲1(11)発明における他の事項(成分組成)についても本件特許発明3の範囲内になるように制御することが、当業者にとって容易であるとはいえないことは明らかである。よって、この点からみても、相違点1及び2に係る構成は、当業者が容易になし得たものとはいえない。

イ 小括
前記アに示したとおり、本件特許発明3は、刊行物1に記載された発明と刊行物2?6に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないので、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
そして、念のため付記しておくと、この判断は、刊行物2?6に記載される事項が周知であるか否かに影響されるものではない。


(4) 本件特許発明4について
ア 甲1(10)製法発明を引用発明とした場合について
(ア) 本件特許発明4は、本件特許発明1?3のいずれか一つのフェライト系ステンレス鋼の製造方法である。
本件特許発明4が、本件特許発明2のフェライト系ステンレス鋼の製造方法である場合について、甲1(10)製法発明と対比する。
前記(2)での検討も踏まえると、両発明の一致点と相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「質量%で、C:0.041%、Si:0.24%、Mn:0.65%、P:0.028%、S:0.004%、Cr:16.2%、Al:0.002%、N:0.048%、Ni:0.28%を含有し、残部Feと不可避的不純物とからなる、フェライト系ステンレス鋼の製造方法」
(相違点1)
本件特許発明4においては「El≧25%、平均r値≧0.70かつ|Δr|≦0.20」である「フェライト系ステンレス鋼の製造方法」であるのに対し、甲1(10)製法発明においては、得られる「フェライト系ステンレス鋼」の「El」の値、「平均r値」及び|Δr|の値が不明である点
(相違点2)
本件特許発明4においては、「耐食性」に関し「(1)表面を#600エメリーペーパーにより研磨仕上げした後に端面部をシールした鋼板にJIS H 8502に規定された塩水噴霧サイクル試験を8サイクル行った場合の鋼板表面における発錆面積率が25%以下である」「フェライト系ステンレス鋼の製造方法」であるのに対し、甲1(10)製法発明においては、得られる「フェライト系ステンレス鋼」が、どの程度の「耐食性」を有しているかが不明である点
(相違点3)
本件特許発明4においては、「鋼スラブに対して、熱間圧延を施し、次いで900?1000℃の温度範囲で5秒?15分間保持する焼鈍を行い熱延焼鈍板」とするのに対し、甲1(10)製法発明においては、「スラブに対し熱間圧延を施し、得られた熱延鋼板を950℃で連続焼鈍し酸洗して熱延焼鈍板を作成」するものであり、焼鈍の温度範囲において本件特許発明4と重複しているが、焼鈍の時間が不明である点。
(相違点4)
本件特許発明4においては、「冷間圧延を施した後、800?950℃の温度範囲で5秒?5分間保持する冷延板焼鈍を行う」のに対し、甲1(10)製法発明においては、「冷間圧延を施した後、900℃で連続焼鈍して冷延焼鈍板を得る」ものであり、焼鈍の温度範囲において本件特許発明4と重複しているが、焼鈍の時間が不明である点。

(イ) 以下、上記各相違点について検討するが、相違点1及び2に係る構成については、前記(2)と同様にして、当業者が容易になし得たとはいえないので、ここでは記載を省略する。

(ウ) 次に、相違点3について検討する。
刊行物7や刊行物8には、ステンレス鋼の製造において、熱延板を2相温度域で熱処理することに関する記載はあるものの、本件特許発明4に規定される具体的な組成を有するフェライト系ステンレス鋼に対し、「900?1000℃の温度範囲で5秒?15分間保持する」ことは、開示も示唆もされていない。

(エ) ところで、本件特許発明4において、熱延板焼鈍が「900?1000℃の温度範囲で5秒?15分間保持する」と設定されていることの技術的意義に関して、本件特許明細書の段落【0049】に、以下の記載がある。
「【0049】
900?1000℃の温度で5秒?15分間保持する熱延板焼鈍
熱延板焼鈍は本発明が優れた成形性を得るために極めて重要な工程である。熱延板焼鈍温度が900℃未満では十分な再結晶が生じないうえ、フェライト単相域となるため、二相域焼鈍によって発現する本発明の効果が得られない。しかし、熱延板焼鈍温度が1000℃を超えると、オーステナイト相の生成量が低下する。そのため、熱延板焼鈍後に生成するマルテンサイト相の量が減少し、フェライト相とマルテンサイト相を含む金属組織を冷間圧延することによる、マルテンサイト相近傍のフェライト相への圧延ひずみの集中による金属組織の異方性緩和効果を十分に得ることができず、所定の|Δr|を得ることができない。焼鈍時間が5秒未満の場合、所定の温度で焼鈍したとしてもオーステナイト相の生成とフェライト相の再結晶が十分に生じないため、所望の成形性が得られない。一方、焼鈍時間が15分を超えるとCr炭窒化物の一部が固溶してオーステナイト相中へのC濃化が助長され、熱延板焼鈍後にオーステナイト相が変態して生成するマルテンサイト相への過度なC濃化が生じる。このマルテンサイト相は冷延板焼鈍時に炭化物とフェライト相へと分解し、多量の炭化物を含むフェライト相へと変化する。これにより冷延板焼鈍後の金属組織は、熱延板焼鈍時にフェライト相であったため粒内および粒界上の炭化物が少ないフェライト粒と、熱延板焼鈍時にオーステナイト相であったため粒内および粒界上の炭化物が過度に多いフェライト粒の混粒組織となる。このような金属組織となった場合、炭化物が少ない粒と多い粒の間の硬度差に起因して、成形時に両者の粒の界面に変形ひずみが集中し、粒界上の炭化物を起点としたボイドの生成が助長され、延性が低下する。そのため、熱延板焼鈍は900?1000℃の温度で、5秒?15分間保持する。好ましくは、910?960℃の温度で15秒?3分間保持である。」
また、本件特許明細書の段落【0009】に、以下の記載がある。
「【0009】
課題を解決するために検討した結果、適切な成分のフェライト系ステンレス鋼に対して熱間圧延後の鋼板を冷間圧延する前に、フェライト相とオーステナイト相の二相となる温度域で焼鈍を行うことにより、十分な耐食性を有し、成形性に優れたフェライト系ステンレス鋼が得られることを見出した。」
さらに、本件特許明細書の段落【0058】?【0064】には、様々な条件の下で実際に鋼を製造して評価した結果に関し、以下のとおりの記載がある。
「【0058】
鋼成分ならびに製造方法のいずれもが本発明の範囲を満たすNo.1?14、20?30および40?52では、破断伸び25%以上、平均r値で0.70以上、|Δr|が0.20以下と優れた成形性が確認された。さらに耐食性に関しても塩水噴霧サイクル試験を8サイクル実施後の試験片表面の発錆面積率がいずれも25%以下と良好な特性が得られている。
【0059】
特にNiを0.4%含有した鋼DおよびAC、Cuを0.3%含有した鋼F 、Cuを0.4%含有した鋼AR、Moを0.3%含有した鋼Gおよび鋼AIに対応するNo.4、No.22、No.6、No.50、No.7および No.41では、塩水噴霧サイクル試験後の発錆面積率が10%以下となっており、耐食性が一層向上した。
【0060】
一方、Cr含有量が本発明の範囲を下回るNo.15では、所定の延性、平均r値および|Δr|は得られたものの、Cr含有量が不足したために所定の耐食性が得られなかった。
【0061】
Cr含有量が本発明の範囲を上回るNo.16では、十分な耐食性は得られたが、過剰にCrを含有したために熱延板焼鈍時にオーステナイト相が生成せず、所定の平均r値および|Δrを得ることができなかった。
【0062】
C量が本発明の範囲を上回るNo.17では、所定の平均r値ならびに|Δr|は得られたが、固溶C量が増加したために鋼板強度が著しく上昇し、所定の延性が得られなかった。
【0063】
一方、C量が本発明の範囲を下回るNo.18では、Cによるオーステナイト相の安定化が不十分であったために、熱延板焼鈍中に十分な量のオーステナイト相が生成せず、所定の平均r値および|Δr|を得ることができなかった。
【0064】
熱延板焼鈍温度がそれぞれ875℃あるいは871℃と低いNo.19あるいはNo.35では、熱延板焼鈍温度がフェライト単相温度となりオーステナイト相となったために、熱延板焼鈍後にマルテンサイト相が生成せず、マルテンサイトを含む鋼板を冷間圧延することによって得られる所定の金属組織の異方性緩和効果が得られず、所定の|Δr|が得られなかった。熱延板焼鈍温度がそれぞれ1014℃あるいは1011℃と高いNo.31あるいはNo.36では、焼鈍温度において生成するオーステナイト相の量が減少し、熱延板焼鈍後に生成するマルテンサイト相の量が減少したために、その後の冷間圧延による所定の金属組織の異方性緩和効果を得ることができず、所定の|Δr|が得られなかった。熱延板焼鈍時間が1秒と短いNo.32およびNo.37では、オーステナイト相の生成と十分な再結晶が生じなかったために、所定の延性、平均r値および|Δr|が得られなかった。・・・」

(オ) これらの記載からみて、本件特許発明4における熱焼板焼鈍の温度が900℃以上と設定されているのは、本件特許発明4に規定される具体的な組成を有するフェライト系ステンレス鋼が、フェライト相とオーステナイト相の二相となる温度域で熱処理されるようにするためであると認められる。
また、1000℃を超えないようにすることで、熱延板焼鈍後に生成するマルテンサイト相の量が減少しないようにし、冷間圧延時にマルテンサイト相近傍のフェライト相への圧延ひずみの集中による金属組織の異方性緩和効果が十分に得られるようにし、所定の|Δr|を得られるようにしていると認められる。
また、5秒以上とすることで、オーステナイト相の生成とフェライト相の再結晶が十分に生じるようにしていると認められる。
また、15分以内とすることで、焼鈍時間が長くなるとオーステナイト相中への炭素の濃化が助長され、これに起因して、粒内および粒界上の炭化物が少ないフェライト粒と粒内および粒界上の炭化物が過度に多いフェライト粒の混粒組織となってしまい、延性の低下が起こってしまうということを避けていると認められる。
そして、組成に関する要件と、「900?1000℃の温度範囲で5秒?15分間保持する」という熱延板焼鈍に関する要件とを同時に満たすことによって、破断延び(El)、平均r値、|Δr|及び耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼が得られることが、実験的に裏付けられている。

(カ) 本件特許発明4において、組成が具体的に特定された上で「900?1000℃の温度範囲で5秒?15分間保持する」との事項が特定されていることには、このような技術的意義が存在していると認められるところ、提出されたいずれの刊行物にもこのような内容は開示されていない。また、このような技術的意義が存在していることからみて、甲1(10)製法発明が950℃という温度で熱延板焼鈍を行っているからといって、その時間の設定を「5秒?15分間」とすることが単なる設計的事項であるということはできない。
したがって、甲1(10)製法発明において、焼鈍時間を「5秒?15分間」とすることは、刊行物1?8の記載を参照したとしても、当業者が容易になし得たものではない。

(キ) なお、異議申立人は、特許異議申立書の第23頁下から5行目?第24頁上から1行目において
「なお、甲1発明において、熱間圧延後の焼鈍温度である950℃に昇温する際には、例えば通常の昇温速度である平均10℃/秒程度で焼鈍すると、実質的に900?950℃の温度範囲に5秒以上保持されることは明らかであり、甲1発明において、熱間圧延後の焼鈍にて900?1000℃の温度範囲に5秒以上保持されていることは、当業者にとって自明な事項である。」
と述べている。
しかしながら、熱間圧延後の焼鈍の昇温速度が、通常、平均10℃/秒程度であることについて、根拠は何ら示されていない。
仮に、通常の平均昇温速度がこのような数値であったとしても、甲1(10)製法発明において、900℃?950℃の温度範囲を通過するときに10℃/秒であるかどうかは不明である。
更に仮に、甲1(10)製法発明において、900℃?950℃の温度範囲を通過するときに昇温速度が10℃/秒となっており、900?1000℃の温度範囲に5秒以上保持されていたとしても、15分以内に焼鈍が終了しているかどうかについては不明である。
したがって、異議申立人が述べている上記の内容は採用することができない。

(ク) よって、相違点4について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲1(10)製法発明と、刊行物1?8に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 甲1(11)製法発明を引用発明とした場合について
本件特許発明4が、本件特許発明3のフェライト系ステンレス鋼の製造方法である場合について、甲1(11)製法発明と対比したとしても、前記アに示したとおり、甲1(10)製法発明を引用発明として検討した場合と同様にして、本件特許発明4は、甲1(11)製法発明と、刊行物1?8に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 小括
前記ア及びイに示したとおり、本件特許発明4は、刊行物1に記載された発明と刊行物2?8に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないので、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
そして、念のため付記しておくと、この判断は、刊行物2?8に記載される事項が周知であるか否かに影響されるものではない。

6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-06-08 
出願番号 特願2015-547587(P2015-547587)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 陽一小谷内 章  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 ▲辻▼ 弘輔
板谷 一弘
登録日 2016-08-19 
登録番号 特許第5987996号(P5987996)
権利者 JFEスチール株式会社
発明の名称 フェライト系ステンレス鋼およびその製造方法  
代理人 井上 茂  
代理人 森 和弘  
代理人 きさらぎ国際特許業務法人  

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