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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H05K
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05K
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H05K
管理番号 1329134
異議申立番号 異議2017-700281  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-17 
確定日 2017-06-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第5995137号発明「磁性シート、コイル部品および磁性シートの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5995137号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5995137号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成24年6月15日に特許出願され、平成28年9月2日にその特許権の設定登録がなされ、その後、請求項1ないし3に係る特許に対して、特許異議申立人 中平 茉里により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明

特許第5995137号の請求項1ないし3の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
板状のフェライト焼結体と、
前記フェライト焼結体の両主面に貼付された保護シートとを備えた磁性シートであって、
前記磁性シートの側面の少なくとも一部に前記フェライト焼結体の破面が露出しているとともに、
前記フェライト焼結体の破面が露出した前記側面において、最表面のフェライト焼結体片の両主面が前記保護シートに接着され、
前記フェライト焼結体は、前記磁性シートの側面に露出した破面に、厚さ方向に垂直な方向に沿ったクラックを備えないことを特徴とする特徴とする磁性シート。
【請求項2】
前記フェライト焼結体は、互いに平行に形成された複数の分割線からなる第1の分割線群と、互いに平行に、かつ前記第1の分割線群の分割線と交差する方向に形成された複数の分割線からなる第2の分割線群に沿って、前記保護シートが貼付された状態で個片化されていることを特徴とする請求項1に記載の磁性シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁性シートと、前記磁性シートの主面に対向するように配置されたコイルとを備えたコイル部品。」

第3 申立理由の概要

1.申立理由1(新規性)
特許異議申立人は、証拠として下記の甲第1号証を提出し、本件発明1及び本件発明2は、甲第1号証に記載された発明と実質的に同一であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、したがって、請求項1及び2に係る特許は同項の規定に違反してなされたものであるから、取り消すべきものである旨主張している。

2.申立理由2(進歩性)
特許異議申立人は、証拠として下記の甲第1号証ないし甲第3号証を提出し、本件発明1及び本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、したがって、請求項1ないし3に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、取り消すべきものである旨主張している。

3.申立理由3(サポート要件、明確性要件)
特許異議申立人は、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであり、また、明確なものでなく、したがって、請求項1に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件、及び同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、取り消すべきものである旨主張している。

[証拠]
甲第1号証:特開2008-296431号公報
甲第2号証:特開2007-123575号公報
甲第3号証:特開2010-45120号公報

第4 甲第1号証ないし甲第3号証の記載

1.甲第1号証(特開2008-296431号公報)
甲第1号証には、「セラミックシート」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【0043】
次に、本発明の実施形態について、具体的な例を挙げて説明する。
[第1実施形態]
図1(a)は、本発明の一実施形態として例示するセラミックシートの斜視図、同図(b)は同セラミックシートの構造を示す分解図である。
【0044】
このセラミックシート1は、可撓性のある樹脂シート層3、セラミック材料によって形成されたセラミック層5、および可撓性のある樹脂シート層3を、この順序で積層した3層構造になっている。
【0045】
これらの内、樹脂シート層3は、本実施形態の場合、厚さ0.1mmのPETシートによって構成されている。
また、セラミック層5は、本実施形態の場合、軟磁性フェライト(例えば、Ni-Zn系フェライト)の焼結体によって構成されたもので、複数のセラミック小片5aが縦横に配列された構造になっている。
【0046】
より詳しく説明すると、これら複数のセラミック小片5aは、薄板状セラミック5b(図2(a)参照)の一方の面に、あらかじめ凹部5c(図2(b)参照)を形成しておき、この薄板状セラミック5bを樹脂シート層3の間に挟み込んでから(図2(c)参照)、凹部5cに沿って割ることによって形成されている(図2(d)参照)。
【0047】
本実施形態の場合、薄板状セラミック5bとしては、厚さ0.2mmの薄板状フェライト焼結体を利用し、薄板状セラミック5bの一方の面には、レーザー加工装置により、幅0.1mm、深さ0.1mm(薄板状セラミック5bの厚みの50%)の凹部5cを形成した。
【0048】
そして、この凹部5cが形成された薄板状セラミック5bの両面を、樹脂シート層3となるPETシートでラミネート加工することにより、3層構造の積層体とした。なお、樹脂シート層3と薄板状セラミック5bとの界面は、熱融着した状態になっている。」

(2)「【0102】
[第13実施形態]
図13に示すセラミックシート91は、基本的な構造が第1実施形態と同様のものであるが、外周部93の形状が任意の形状に切り出されており、また、内側にいくつかの孔95が形成された構造になっているものである。
【0103】
この外周部93や孔95の形状は、配設対象となる電子機器が備える電子部品の配置に合わせて設計されたものであり、例えば、凸部を逃がしたり、ねじ孔として利用したり、放熱口として利用したり、光透過部や監視窓として利用したりするためのものである。
【0104】
図13において、セラミックシート91の内部にあるセラミック層は、図中点線で示される位置で複数のセラミック小片に分割されているが、先に説明した各実施形態同様、セラミック層は樹脂シート層間に挟み込まれた構造になっているので、外周部93の形状を任意の形状に加工しても、外周部93にあるセラミック小片が脱落することはない。また、同様の理由から、様々な形状の孔95を設けても、孔95の周縁にあるセラミック小片が脱落することはない。」

・上記甲第1号証に記載の「セラミックシート」は、上記(1)の記載事項、及び図1によれば、薄板状セラミック5b(セラミック層5)の両面を、樹脂シート層3でラミネート加工した3層構造からなるものであり、樹脂シート層3と薄板状セラミック5b(セラミック層5)との界面は熱融着した状態である。
・上記(1)の記載事項、及び図1によれば、薄板状セラミック5b(セラミック層5)は、フェライト焼結体からなり、複数のセラミック小片5aが縦横に配列された構造である。
・上記(2)の記載事項、及び図13によれば、「セラミックシート」は、任意の形状に切り出された外周部93を有する。このとき、薄板状セラミック5b(セラミック層5)は樹脂シート層3間に挟み込まれた構造になっているので、外周部93の形状を任意の形状に加工しても外周部93にあるセラミック小片5aが脱落することはない。

したがって、特に図13に示される任意の形状に切り出された外周部93を有するものに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「フェライト焼結体からなる薄板状セラミックの両面を、樹脂シート層でラミネート加工した3層構造からなり、樹脂シート層と薄板状セラミックとの界面は熱融着した状態であるセラミックシートであって、
前記薄板状セラミックは、複数のセラミック小片が縦横に配列された構造であり、
当該セラミックシートは、任意の形状に切り出された外周部を有するが、前記薄板状セラミックは前記樹脂シート層間に挟み込まれた構造になっているので、当該外周部にある前記セラミック小片が脱落することはない、セラミックシート。」

2.甲第2号証(特開2007-123575号公報)
甲第2号証には、「磁性シート」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】
シート状に形成された磁性部材と、
前記磁性部材の表面に設けられた保護層とを備え、
前記保護層は、樹脂を主成分とし、前記磁性部材に接する樹脂が、外部に露出する樹脂に比べて粘度が低いことを特徴とする磁性シート。
・・・・・(中 略)・・・・・
【請求項7】
請求項1記載の磁性シートであって、更に、
前記磁性部材の背面に設けられ、当該磁性部材を固定する固定層を備えたことを特徴とする磁性シート。」

(2)「【0037】
1は磁性シート、2は磁性部材、3は両面テープ、4は樹脂層、5は低粘度の樹脂層、6は高粘度の樹脂層である。図1及び図2に示された磁性シート1は、フェライト系磁性体を主成分とした磁性部材2、および両面テープ3や低粘度の樹脂層5や高粘度の樹脂層6などが形成された磁性シート1であり、この磁性シート1は、ICカードやICタグなどの無線通信媒体に格納されてもよく、リーダーやリーダーライターなどの無線通信媒体処理装置に格納されてもよい。
【0038】
磁性シートを構成する各部の詳細について、図1及び図2を用いて説明する。まず、磁性部材2について説明する。磁性部材2は、シート状に形成されており、フェライトやパーマロイ、センダスト、珪素合板等の磁性材料で構成される。磁性部材2としては、軟磁性フェライトが好ましく、フェライト粉体を乾式プレス成形し、焼成することにより焼成体、高密度のフェライト焼成体とすることができ、軟磁性フェライトの密度が3.5g/cm^(3)以上であることが好ましい。更に軟磁性フェライトの磁性体の大きさが、結晶粒界以上であることが好ましい。また磁性部材2は、0.05mm?1mm程度で形成されるシート状(あるいは板状、膜状、層状)のものである。」

(3)「【0060】
工程5で、この粉砕した磁性部材2をプレス加工機10等により打抜き加工を行う。打ち抜き加工では、同時にスルーホール25を形成する。この打抜き加工の工程は、磁性部材2に樹脂を印刷した後でも可能である。
【0061】
工程6で、3.5Pa・sの低粘度のシリコーン系熱硬化性樹脂を、磁性部材2の全面にスクリーン印刷機によりスクリーン印刷を行う。樹脂層5は、低粘度なので、磁性部材2の全面に拡散すると共に、磁性部材2の側面まで覆い、5?50μmの膜厚の熱硬化性樹脂を、磁性部材2に形成する。低粘度の熱硬化性樹脂5を磁性部材2の上に形成することで、低粘度の樹脂層5が磁性部材2の切断面をコーティングする(側面を覆う)ことから、磁性シート1の金属系磁性粉末の欠落を防止する。また、磁性部材2は予めローラで、複数の磁性体固片11に粉砕されているので、低粘度の樹脂5がバインダーの役割を果たし磁性部材2及び磁性シート1に更に柔軟性をもたせることが可能となる。低粘度のシリコーン系熱硬化性樹脂をスクリーン印刷にて磁性部材2の上に印刷をおこなった後、恒温槽にて150℃で5分間で仮乾燥を行う。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0067】
なお、ブレイク(粉砕、工程4)、打抜き(工程5)、塗装(工程6)の工程の順番は、図6ないし図9に示すように、適宜変更することが出来る。図6ないし図9は、単層の場合における磁性シート及びアンテナ装置の工程図である。また、図10ないし図13に示すように、複数の磁性部材2を積層してもよい。図10ないし図13は、磁性部材2を積層した場合における磁性シート及びアンテナ装置の工程図である。」

特に図8に示される工程順序に着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第2号証には、次の技術事項が記載されている。
「シート状のフェライト焼成体からなる磁性部材と、前記磁性部材の表面に設けられ、当該磁性部材に接する側が外部に露出する側に比べて低粘度である樹脂層(保護層)と、前記磁性部材の背面に設けられた両面テープ(固定層)とを備えた磁性シートに対して、
プレス加工機等による打抜きによって所定の形状に加工すること。」

3.甲第3号証(特開2010-45120号公報)
甲第3号証には、「磁性シート原反」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】
焼結フェライト薄板の少なくとも一方の面に保護層が貼り合わされて構成され、所定のサイズを有し複数のシート片に打ち抜かれる磁性シート原反であって、
前記焼結フェライト薄板が分割されて湾曲可能とされるとともに、面内における磁気特性の偏差が3%以下であることを特徴とする磁性シート原反。」

(2)「【0019】
図1は、磁性シート原反1の基本的な断面構造を模式的に示すものである。本例の場合、磁性シート原反1は、焼結フェライト薄板2の片面に第1の保護層3を貼り合わせるとともに、もう一方の面に第2の保護層4を貼り合わせることにより構成されている。」

(3)「【0038】
前述の分割処理を行った磁性シート原反1は、例えばRFIDアンテナの形状仕様等に応じてプレス加工機等で打ち抜き加工を行い、アンテナに貼り付けて使用に供される。前述の分割処理を行えば、1枚の磁性シート原反1からアンテナ形状に応じて複数枚のシート片への打ち抜きを行った場合にも、打ち抜く場所の違いによるシート片間の特性のバラツキが極めて小さく、アンテナ特性のバラツキを低減することができることが確認されている。」

上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第3号証には、次の技術事項が記載されている。
「焼結フェライト薄板の片面に第1の保護層が貼り合わされるとともに、もう一方の面に第2の保護層が貼り合わされて構成された磁性シート原反に対して、
プレス加工機等で打ち抜き加工を行うことによって、所定の形状のシート片とすること。」

第5 当審の判断

1.申立理由1(新規性)について
1-1.本件発明1について
(1)対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比すると、
ア.甲1発明における「フェライト焼結体からなる薄板状セラミックの両面を、樹脂シート層でラミネート加工した3層構造からなり、・・・セラミックシートであって」によれば、
(a)甲1発明における「フェライト焼結体からなる薄板状セラミック」、「樹脂シート層」は、本件発明1でいう「板状のフェライト焼結体」、「保護シート」に相当し、
さらに、甲1発明における「セラミックシート」は、フェライト焼結体からなる薄板状セラミックを有するものであることから、本件発明1でいう「磁性シート」に相当するといえ、
(b)甲1発明においても、薄板状セラミックの両面を樹脂シート層でラミネート加工した3層構造からなることから、薄板状セラミックの両主面に樹脂シート層が貼付されたものであるとみることができる。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「板状のフェライト焼結体と、 前記フェライト焼結体の両主面に貼付された保護シートとを備えた磁性シート」である点で一致する。

イ.甲1発明における「当該セラミックシートは、任意の形状に切り出された外周部を有する・・」によれば、
甲1発明における、セラミックシートの「外周部」は、本件発明1でいう、磁性シートの「側面」に相当し、
甲1発明の「外周部」は、任意の形状に切り出されたものであることから、当該「外周部」と本件発明1でいう「破面」(なお、ここでいう「破面」とは、本件特許明細書の段落【0018】によれば、焼結体のせん断等によって形成されるものであり、焼結のままの面や切断・研磨加工によって得られた加工面とは区別されるものである)とは、「切り出し面」である点で共通するということができる。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「前記磁性シートの側面の少なくとも一部に前記フェライト焼結体の切り出し面が露出している」点で共通する。
ただし、切り出し面について、本件発明1では、「破面」である旨特定するのに対し、甲1発明では、そのような特定を有していない点で相違している。

よって、本件発明1と甲1発明とは、
「板状のフェライト焼結体と、
前記フェライト焼結体の両主面に貼付された保護シートとを備えた磁性シートであって、
前記磁性シートの側面の少なくとも一部に前記フェライト焼結体の切り出し面が露出していることを特徴とする特徴とする磁性シート。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
フェライト焼結体の切り出し面について、本件発明1では、「破面」である旨特定するのに対し、甲1発明では、そのような特定を有していない点。

[相違点2]
さらに本件発明1では、「破面」が露出した側面において、「最表面のフェライト焼結体片の両主面が保護シートに接着され」、当該「破面」に、「厚さ方向に垂直な方向に沿ったクラックを備えない」旨特定するのに対し、甲1発明では、そのような特定を有していない点。

したがって、本件発明1は、甲1発明と同一ではなく、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

1-2.本件発明2について
請求項2は、請求項1に従属する請求項であり、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

1-3.まとめ
以上のとおり、本件発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえず、したがって、請求項1及び2に係る特許は、同項の規定に違反してなされたものであるということはできない。

2.申立理由2(進歩性)について
2-1.本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明との一致点・相違点は、上記「1-1.(1)」に記載したとおりである。

(2)判断
[相違点1]について
甲第1号証においては、セラミックシートを任意の形状に切り出すための手段について具体的に記載されていないが、このようなセラミックシート(磁性シート)を任意の形状に切り出すための手段として、例えば甲2号証(上記「第4 2.」を参照)、甲第3号証(上記「第4 3.」を参照)、さらには本件特許明細書において先行技術文献として提示された特開2010-114824号公報(段落【0039】を参照)に記載のように、プレス加工機による打抜き、すなわち、せん断は周知の加工手段であり、甲1発明においても、かかる周知の加工手段を用い、相違点1に係る構成とすることは当業者であれば適宜なし得ることである。

[相違点2]について
甲1発明においても、「樹脂シート層と薄板状セラミックとの界面は熱融着した状態」であり、「薄板状セラミックは樹脂シート層間に挟み込まれた構造になっているので、外周部にあるセラミック小片が脱落することはない」ということから、上記「[相違点1]について」で検討したようにプレス加工機による打抜き加工を行うことによって外周部を「破面」とした場合にあっても、少なくとも当該外周部に存在する多数のセラミック小片の中にはその両主面が樹脂シート層に融着(接着)しているものも存在していると考えられ得る。
しかしながら、本件発明1は、「破面」に、「厚さ方向に垂直な方向に沿ったクラックを備えない」という発明特定事項を有するものである。ここでいう「厚さ方向に垂直な方向に沿ったクラック」とは、本件特許明細書の段落【0022】の記載によれば、「個片化のためのクラックのようにクラックの両端がフェライト焼結体の両主面に到達している厚さ方向のクラック以外のクラックである。すなわち、厳密に厚さ方向に垂直な方向(x方向)に延出するクラックだけでなく、クラックの一端が、前記厚さ方向のクラックの途中に接続している形態なども含む」ものであることから、本件発明1は、「破面」に、両端がフェライト焼結体の両主面に到達している厚さ方向のクラックのみが存在するものであると解されるが、このような発明特定事項については甲第2号証や甲第3号証に記載も示唆もなく〔特に、プレス加工機による打抜き加工の際の工夫等については何ら記載されていない。なお甲第2号証については、低粘度の樹脂層が磁性部材の切断面をコーティングする(側面を覆う)ことで金属系磁性粉末の欠落を防止するものであり(上記「第4 2.(3)」を参照)、側面に「破面」が露出しているものでもない〕、当該発明特定事項を導き出すことはできない。

よって、本件発明1は、甲1発明、甲第2号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2-2.本件発明2及び3について
請求項2及び3は、請求項1に従属する請求項であり、本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2は、甲1発明、甲第2号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明3は、甲1発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2-3.まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲1発明、甲第2号証及び甲第3号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、したがって、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということはできない。

3.申立理由3(サポート要件、明確性要件)について
特許異議申立人は、本件発明1は「フェライト焼結体(の破面)が露出した側面からフェライト片が遊離することを抑制する」ことを発明の課題としているが、請求項1には、かかる課題を解決するための具体的手段が何ら反映されていないから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであり(サポート要件違反)、また、課題解決のための手段が具体的にどのような手段であるのか明確でないから、本件発明1は、明確なものでない(明確性要件違反)旨主張している。

しかしながら、本件発明1は、「物の発明」に係るものであるところ、フェライト焼結体の破面が露出した側面からフェライト片が遊離することを抑制するという課題を解決するための具体的手段(構成)として、「前記フェライト焼結体の破面が露出した前記側面において、最表面のフェライト焼結体片の両主面が前記保護シートに接着され、前記フェライト焼結体は、前記磁性シートの側面に露出した破面に、厚さ方向に垂直な方向に沿ったクラックを備えない」ことが特定されており、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであるとはいえず、また、明確なものでないともいえないから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

よって、本件発明1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件、及び同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるということはできない。

第6 むすび

したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-06-14 
出願番号 特願2012-135386(P2012-135386)
審決分類 P 1 652・ 113- Y (H05K)
P 1 652・ 121- Y (H05K)
P 1 652・ 537- Y (H05K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 遠藤 邦喜  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 井上 信一
國分 直樹
登録日 2016-09-02 
登録番号 特許第5995137号(P5995137)
権利者 日立金属株式会社
発明の名称 磁性シート、コイル部品および磁性シートの製造方法  

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