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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01R
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01R
管理番号 1329406
審判番号 不服2016-8572  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-09 
確定日 2017-07-04 
事件の表示 特願2012-156776「ワッシャー及びワッシャーを備えた端子台、並びに端子ネジのネジ締め方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月 3日出願公開、特開2014- 22066、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年7月12日の出願であって、平成27年9月24日付けで拒絶理由が通知され、同年12月2日付けで手続補正がされ、平成28年3月10日付け(同年3月15日発送)で拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年6月9日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正がされ、その後、当審において平成29年3月17日付けで拒絶理由(当審拒絶理由)が通知され、同年5月1日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、平成29年5月1日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、本願発明1及び本願発明5は以下のとおりのものである。

「【請求項1】
円弧状の外周の周方向の一部に不連続部を有する、端子ネジが挿通される筒部から構成され、
前記筒部は、
前記端子ネジを締める方向(以下、ネジ締め方向という)に向かうほど径が大きくなるように湾曲するとともに、前記端子ネジの挿入側の端部に複数の切欠き部を有し、前記ネジ締め方向から視認される側の表面が視認可能な色を有する側面部を備え、
前記ネジ締め方向に押圧されることにより、前記不連続部が前記周方向に押し広げられるとともに、前記側面部を前記円弧状の外周全てにわたって径方向に延展可能な弾性を有する、
ワッシャー。」

「【請求項5】
円弧状の外周の周方向の一部に不連続部を有する、端子ネジが挿通される弾性を有する筒部から構成され、かつ前記筒部が、前記端子ネジを締める方向(以下、ネジ締め方向という)に向かうほど径が大きくなるように湾曲するとともに、前記端子ネジの挿入側の端部に複数の切欠き部を有し、前記ネジ締め方向から視認される側の表面が視認可能な色を有する側面部を備えるワッシャーを、前記端子ネジと端子台との間に介在させた状態で、
前記ネジ締め方向に前記ワッシャーを押圧することにより、前記不連続部を前記周方向に押し広げるとともに、前記側面部を前記円弧状の外周全てにわたって径方向に延展させる、
端子ネジのネジ締め方法。」

なお、本願発明2ないし4及び6の概要は以下のとおりである。
本願発明2ないし4は、本願発明1を減縮した発明であり、また、本願発明6は、本願発明5を減縮した発明である。

第3 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開平9-63663号公報)には、図面(特に、図38ないし図42、図45及び図46参照。)とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0047】実施の形態25.本発明の実施の形態25を図について説明する。図38に示すように、表示体5は、四角い平板状の表示体5に端子ねじ1が貫通する貫通穴5Gと、その貫通穴5Gから外辺へ連なる切断部5Fが設けられている。表示体5はばね性の材料で作られており、弾力性のある例えばゴム、金属、プラスチックなどが用いられる。四角い主辺5Bは平板であればよく、長方形、その他の多角形であってもよい。図39は表示体5が取付けられたねじ締め状態表示機構の要部側面を示す。図に示すように、端子ねじ1の頭部首下すなわちねじ頭2の下部はねじ頭に向かって拡径される傾斜状に構成されている。図40はねじ頭2側から見た端子ねじ1が緩んでいる状態を示す正面図である。図41は端子ねじ1を締めた状態を示す断面図で、ねじ頭2の下の傾斜部によって表示体5に設けた穴が押し広げられている。図42は端子ねじ1を締めた状態をねじ頭2側から見た正面図で、切断部5Fが大きく開口している。
【0048】このように、ねじの締結時にねじ頭2の下の傾斜部によって表示体5に設けた穴が押し広げられ、切断部5Fが大きく開口するが、切断部5Fより回転方向にある表示体5の角5Nが回転止めである側壁7Aに当たって表示体5の回転が止まるため、図40と図42で示したように、切断部5Fはねじの遊挿時にも締結時にもほぼ同じ位置にあり、切断部5Fが閉じているか開口しているかをほぼ同じ位置で確認できる。なお、図93で示した従来例では、表示体5の開口部5Fがねじの締結時にどの位置にあるか確定できない。なお、上記実施の形態では図42で切断部5Fより反回転方向側にある表示体の角も側壁7Aに当たる場合について示したが、少なくとも切断部5Fより回転方向にある表示体5の角5Nが回転止めである側壁7Aに当たればよく、同様の効果が得られる。」

(2)「【0050】実施の形態27.本発明の実施の形態27について説明する。図45は図40に示したねじ締め状態表示機構において、表示体5の表面全体に座金4の色と異なる色9を付したものである。図45は端子ねじ1を緩めた状態を示し、図46は端子ねじ1を締めた状態を示す。図46に示すように表示体5の表面に色9を付したことにより、図44に示す表示体5の切断部5Fに色9を付したねじ締め状態表示機構と比べ、さらに表示体5が見分けやすくなり、ねじ締め状態をさらに一見して識別でき、端子ねじ1が締められていることをより容易に確認できる。」

上記記載事項及び図38ないし図42、図45及び図46の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「外周の周方向の一部に切断部5Fを有する、端子ねじ1が貫通される貫通穴5Gが設けられた平板から構成され、
前記平板は、表面全体に座金4の色と異なる色9を付した表面を備え、
端子ねじ1が締められることにより、ねじ頭2の下の傾斜部によって前記貫通穴5Gが押し広げられ、前記切断部5Fが大きく開口する、表示体5。」

2 引用文献2について
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(実願昭50-49790号(実開昭51-131565号)のマイクロフィルム)には、図面(第1図ないし第4図)とともに次の事項が記載されている。

(1)「図において附号(1)は本考案に係るワツシヤを示し、該ワツシヤは適当な厚みの弾性金属板、例えば1ミリ程度の板厚の鋼板によつてリング状に形成されており、そして中央部にボルト挿通孔(2)を備えている。前記ワツシヤ(1)は此れの外周縁から内周縁にかけて徐々に盛り上る様に形成されており、且つワツシヤの内周縁即ち前記ボルト挿通孔(2)の周縁部に互いに適当な間隔をへだてた複数の放射状の切欠部(3)が設けられている。」(2ページ7ないし16行)

(2)「而して第3図の状態からナツト(C)を螺入すればワツシヤ(1)はその上面から圧縮されワツシヤ(1)の盛り上った内周縁が下方に押し下げられ、此れにより内周縁の内径が縮小されると共に内周縁の先端がボルト(B)のネジに係合する。
かくて、本考案に依ればナツトが設定締付けトルクで締付けられた時、前記ワツシヤ(1)の内周縁がボルト(B)のネジに係入する事によりナツトとボルトのネジギヤツプを埋めて相互のネジの噛合いを密接強固にすると共に、ワツシヤ自身の持つ弾性復元力がナツトを押し上ける方向に作用し、此れにより従来のスプリングワツシヤと同じ作用を行つてナツトの弛み防止を一層効果的に行う事が出来るものであり、」(3ページ6行ないし4ページ1行)

上記記載事項及び第1図ないし第4図の図示内容を総合すると、引用文献2には、「ボルト(B)が挿通されるリング状の金属板から構成され、前記リング状の金属板は、外周縁から内周縁にかけて徐々に盛り上る様に形成されるとともに、内周縁に複数の切欠部(3)を有するワツシヤ(1)。」との技術的事項(以下、「引用文献2に記載された技術的事項」という。)が記載されている。

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

引用発明における「切断部5F」は、本願発明1における「不連続部」に相当し、以下同様に、「端子ねじ1」は「端子ネジ」に、「貫通される」ことは「挿通される」ことに、「表面全体に座金4の色と異なる色9を付した」ことは「ネジ締め方向から視認される側の表面が視認可能な色を有する」ことに、「端子ねじ1が締められること」は「ネジ締め方向に押圧されること」に、「前記貫通穴5Gが押し広げられ、前記切断部5Fが大きく開口する」ことは「前記不連続部が前記周方向に押し広げられる」ことに、それぞれ相当する。

また、引用発明の「貫通穴5Gが設けられた平板」と本願発明1の「筒部」とは「部材」という限りで共通し、引用発明の「表面」と本願発明1の「側面部」とは「面部」という限りで共通し、引用発明の「表示体5」と本願発明1の「ワッシャー」とは「表示体」という限りで共通する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「外周の周方向の一部に不連続部を有する、端子ネジが挿通される部材から構成され、
前記部材は、ネジ締め方向から視認される側の表面が視認可能な色を有する面部を備え、
前記ネジ締め方向に押圧されることにより、前記不連続部が前記周方向に押し広げられる、
表示体。」

(相違点)
本願発明1は「円弧状の」「筒部から構成され、前記筒部は、前記端子ネジを締める方向(以下、ネジ締め方向という)に向かうほど径が大きくなるように湾曲するとともに、前記端子ネジの挿入側の端部に複数の切欠き部を有」「する側面部を備え」、ネジ締め方向に押圧されることにより、「前記側面部を前記円弧状の外周全てにわたって径方向に延展可能な弾性を有する、ワッシャー」であるのに対し、引用発明はかかる構成を備えていない表示体5である点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討する。

本願発明1と引用文献2に記載された技術的事項とを対比する。
引用文献2に記載された技術的事項における「ボルト(B)」は、本願発明1の「端子ネジ」に相当し、以下同様に、「リング状の金属板」は、「外周縁から内周縁にかけて徐々に盛り上る様に形成され」ているから「筒部」に、「外周縁から内周縁にかけて徐々に盛り上る様に形成され」ることは「端子ネジを締める方向(以下、ネジ締め方向という)に向かうほど径が大きくなるように湾曲する」ことに、「内周縁」は「端子ネジの挿入側の端部」に、「切欠部(3)」は「切欠き部」に、「ワツシヤ(1)」は「ワッシャー」に、それぞれ相当する。
また、引用文献2に記載された技術的事項における「リング状の金属板」は「外周縁から内周縁にかけて徐々に盛り上る様に形成され」ているから、側面部を備えることは明らかである。

そうすると、引用文献2に記載された技術的事項は、本願発明1の「端子ネジが挿通される筒部から構成され、前記筒部は、前記端子ネジを締める方向(以下、ネジ締め方向という)に向かうほど径が大きくなるように湾曲するとともに、前記端子ネジの挿入側の端部に複数の切欠き部を有する側面部を備えるワッシャー」との構成を備えているといえる。

しかしながら、引用文献2に記載された技術的事項は、「ナツトが設定締付けトルクで締付けられた時、前記ワツシヤ(1)の内周縁がボルト(B)のネジに係入する事によりナツトとボルトのネジギヤツプを埋めて相互のネジの噛合いを密接強固にする」との作用を奏するものである。
そうすると、引用発明は、「前記貫通穴5Gが押し広げられ、前記切断部5Fが大きく開口する」ことを想定したものであるから、引用発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用する動機付けはない。

また、上記相違点に係る本願発明1の「側面部を前記円弧状の外周全てにわたって径方向に延展可能な弾性を有する」という構成は、引用文献1及び引用文献2のいずれにも記載されていない。

そうしてみると、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項から、当業者が相違点に係る本願発明1の構成を容易に想到し得たとはいえない。

したがって、本願発明1は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明5について
本願発明5は、本願発明1の上記相違点に係る構成に対応する「円弧状の」「弾性を有する筒部から構成され、かつ前記筒部が、前記端子ネジを締める方向(以下、ネジ締め方向という)に向かうほど径が大きくなるように湾曲するとともに、前記端子ネジの挿入側の端部に複数の切欠き部を有」「する側面部を備え」、ネジ締め方向に前記ワッシャーを押圧することにより、「前記側面部を前記円弧状の外周全てにわたって径方向に延展させる」との構成を備えているから、本願発明1と同様の理由により、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

3 本願発明2ないし4及び6について
本願発明2ないし4は、本願発明1を減縮した発明であって、本願発明1の発明特定事項の全てを含むものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本願発明6は、本願発明5の発明特定事項の全てを含むものであるから、本願発明5と同様の理由により、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定の概要は、請求項1ないし6に係る発明は、上記引用文献1及び上記引用文献2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら、請求項1ないし6に係る発明は、平成29年5月1日付けの手続補正により、それぞれ本願発明1ないし6に補正された。
そして、本願発明1ないし6は、前述のとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1 特許法第36条第6項第1号について
当審では、請求項5の「前記側面部を前記円弧状の外周全てにわたって径方向に延展させる、」との記載は、側面部を塑性により径方向に延展させることを含んでいるから、発明の詳細な説明に記載されていないとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年5月1日付けの手続補正において、「端子ネジが挿通される弾性を有する筒部から構成され、」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

2 特許法第36条第6項第2号について
(1)当審では、請求項3の「前記金属部材が、」との記載が何を特定して

いるのか不明であるとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年5月1日付けの手続補正において、「前記側面部が、」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

(2)当審では、請求項6の「前記平板状ワッシャーを、」との記載が不明瞭であるとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年5月1日付けの手続補正において、「平板状ワッシャーを、」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし6は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-06-19 
出願番号 特願2012-156776(P2012-156776)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01R)
P 1 8・ 537- WY (H01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 竹下 晋司  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 中川 隆司
内田 博之
発明の名称 ワッシャー及びワッシャーを備えた端子台、並びに端子ネジのネジ締め方法  
代理人 河野 広明  

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