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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01N 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G01N |
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管理番号 | 1329418 |
審判番号 | 不服2016-12016 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-08-09 |
確定日 | 2017-07-04 |
事件の表示 | 特願2015-555137「外面に表面増感分光法要素を有する装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月 7日国際公開、WO2014/120129、平成28年 3月22日国内公表、特表2016-508601、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2013年(平成25年)1月29日を国際出願日とする出願であって、平成28年1月19日付けで拒絶理由が通知され、同年3月22日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月9日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年8月9日に拒絶査定不服審判の請求がされ、平成29年4月25日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年5月23日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 1 本願請求項1-2、13に係る発明は以下の引用文献Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2 本願請求項1-3、13に係る発明は以下の引用文献Aに基づいて、本願請求項4-5に係る発明は以下の引用文献A-Cに基づいて、本願請求項6-10、12、15に係る発明は以下の引用文献A-Eに基づいて、それぞれ、当業者であれば容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 A.国際公開第2012/033097号 B.国際公開第2012/054027号 C.米国特許出願公開第2012/0092660号明細書 D.特開昭63-212332号公報 E.特表2005-514179号公報 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は次のとおりである。 1 本願請求項1、7に記載された発明、及び、本願請求項1、7を直接的、間接的に引用する請求項1-15に記載された発明は明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 2 本願請求項1、3、13-14に係る発明は以下の引用文献1に基づいて、本願請求項9に係る発明は以下の引用文献1-2に基づいて、それぞれ、当業者であれば容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.国際公開第2012/33097号(原査定における引用文献A) 2.特開2003-057173号公報(当審において新たに引用した文献) 第4 本願発明 本願請求項1-15に係る発明(以下、それぞれ本願発明1-15という。)は、平成29年5月23日提出の手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-15に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】分光法を行うための装置であって、 生体へ挿入されることができる形状およびサイズを有する細長い基体であって、第1の 端部および第2の端部を有する、細長い基体と、 前記細長い基体の前記第1の端部と前記第2の端部との間で両端部以外の場所において 前記細長い基体の外面に配置された表面増感分光法(SES)要素の第1のグループとを 含む、装置。」 第5 引用文献、引用発明等 1 引用文献1記載の事項 当審拒絶理由に引用された引用文献1には、次の記載がある(下線は当審が付した)。 (引1a)「【0003】そこで、表面増強ラマン散乱(SERS)を測定する基板においては、現在、数十nm程度の大きさを持った銀や金等の貴金属の微粒子をガラス基板上に蓄積するため、蒸着法や溶液中で銀あるいは金のコロイド粒子を合成し、リジンやシアンで修飾したガラス基板上に固定する方法が提案されている(非特許文献1、2、3、特許文献1)が、基板の量産法としては蒸着法を採用しなければならない現状にある。」 (引1b)「【0010】前記量子結晶を形成する担体としては各種用途に応じて金属基板、金属粒子、金属針、キャピラリー内金属膜が選ばれる。金属基板は例えばプラズモン金属が銀の場合、基板として銅、真鍮、リン青銅からなる銀より電極電位が卑なる金属が選ばれ、試料滴下が可能な基板(図7)が採用され、試料を水溶液状態で滴下してSERS検査を行うために利用される。金属粒子は太陽電池の光入射側の光透過を行わせる電極構成素材として利用する場合に使用される。金属針は温熱療法において利用するためのもので、患部に直接挿入してレーザ照射により患部をプラズモン効果による発熱により治療を行わせるものである。キャピラリーは試料をコンタミを少なくし、かつ少量の試料を吸引するキャピラリーを利用する測定法で活用するために用いられるもので、キャピラリー内に化学鍍金又は埋め込みにより担体として金属膜又は金属片を形成し、そこに本発明の量子結晶を形成して用いることができる。」 (引1c)「実施例1【0022】…このようにして作成した3分凝集の表面プラズモン共鳴励起黄銅基板(図2)上で4,4‘-ビピリジンを10mM、1μM、100nMに純水で希釈して滴下し、株式会社パーキンエルマージャパン製造ラマンステイション400測定器を用い、785nmの波長のレーザ(分解能4.0cm-1、レーザ出力300mmW、スポットサイズ100μΦ)を励起光として用いて表面プラズモンの増強効果を測定した。100nMまでラマンスペクトルが確認できる(図1参照)。これは従来のポポニン博士が蒸着技術によって調製した基板を使用して確認した100μMのラマン散乱スペクトルに比して1000倍の増強効果が認められたということができ、真鍮基板上に形成された六方板状結晶中に銀ナノクラスターが量子ドットを形成している結果であると、推測することができる。」 (引1d)「実施例2【0023】常法により硝酸銀の1000ppm(銀重量換算)の銀錯体溶液を調製し、リン青銅版上に滴下して3分後滴下溶液を窒素ガスを噴霧して凝集を停止させ、各基板に純水及び4,4‘-ビピリジンを100nMに純水で希釈して滴下し、株式会社ラムダビジョン社製ラマン分光器を用い、785nmの波長のレーザ(レーザ出力80mmW、スポットサイズ50μΦ)を励起光として用いて表面プラズモンの増強効果を測定した。100nMまでラマンスペクトルが確認できる(図4(a)及び(b)参照)。」 (引1e)「実施例3【0024】被検出試料をローダミン6G(R6G)に代えた。アミノ酸を使用せず常法で調整したチオスルファト銀錯体水溶液1000ppmを用い、リン青銅板上に実施例1と同様にして測定基板を調製し、これにローダミン6G(R6G)水溶液を滴下して測定を行った結果、カイザー社製ラマン分光器で励起波長514nmのレーザを照射して1μMのラマンスペクトルを確認した(図5)。従来のポポニン博士が蒸着技術によって調製した基板を使用して確認したラマン散乱スペクトルでは100μMのラマンスペクトルを確認しているに過ぎないので100倍の増強効果が認められるということができる。」 (引1f)「実施例4【0025】抗ヒトIgEモノクロール抗体(抗体濃度1.23mg/ml)(ミクリ免疫研究所株式会社製Lot.No.214-01-002:溶液PBS:0.09%アジ化ナトリウムを含む)を純水で10倍希釈し、アミノ酸を添加しないチオ硫酸銀1000ppm水溶液に容量1対1で混合し、リン青銅板上に実施例1と同様にして滴下してSERS測定基板を調製した。そこにヒトIgE抗原(抗体濃度1.70mg/ml:溶液PBS:0.09%アジ化ナトリウムを含む)を純水で10倍希釈し、実施例1と同様に滴下して測定を行った。カイザー社製ラマン分光器で励起波長514nmのレーザを照射して抗体を混ぜて形成した測定基板のラマンスペクトルを確認した後(図6(a))、抗原を滴下してラマンスペクトルを確認した(図6(b))。両者を比較すると1350cm-1付近にピークが現われた結果、抗原抗体反応が検出できることを確認した。」 (引1g)「【0027】本発明で調製される金属錯体結晶は水溶液から調製されたおそらく世界で初めてのナノサイズの錯体結晶であり、金属が金、銀、銅または白金である場合、蒸着等の物理的方法で形成したナノドットに比して1000倍という表面プラズモン共鳴励起効果が得られるので、SERS検出用基板、太陽電池の光電変換素子、近接場光学顕微鏡素子、温熱療法用金属針など表面プラズモン共鳴を利用する素子として有用である。…基板は通常板状をなすが、粒子状、針状、キャピラリー状に形成し、この表面に金属錯体結晶を析出させ、金属ナノクラスターを内包する量子結晶を形成させるのが好ましい。」 ここで、(引1g)における「基板は通常板状をなすが、粒子状、針状、キャピラリー状に形成し」との記載は、通常板状をなしている「基板」を板状以外の形状に形成することを意味するものであって、引用文献1の明細書全体を通して「基板」との用語がSERSすなわち表面増強ラマン散乱検出用の基板として一貫して使用されていることを加味すると、当該記載の「針状」は「温熱療法用金属針」を指しているのではなく、「SERS検出用基板」を「針状」に形成することを開示していることは、文脈上、明らかである。 したがって、(引1a)および(引1g)の下線部の記載を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という)が記載されている。 なお、引用発明1の認定の根拠となった摘記事項を附記した。 「表面増強ラマン散乱(SERS)を測定する基板であって、(引1a) 基板を針状 に形成し、(引1g) この表面に金属錯体結晶を析出させ、金属ナノクラスターを内包する量子結晶を形成させた、(引1g) SERS検出用基板(引1g)。」 2 引用文献2記載の事項 当審拒絶理由に引用された引用文献2には、以下の記載がある(下線は当審が付した)。 (引2a)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、表面プラズモン共鳴(SPR)を利用した試料の分析方法及び分析装置に関し、特に、回折格子型のセンサチップ(表面プラズモン共鳴センサチップ)を用いた分析方法及び分析装置に関する。」 (引2b)「【0039】これらのスポット8,9A?9Eのうち、各スポット8には同一形状の回折格子5が同一方向に形成されている。センサチップ1の使用時(試料の分析に用いる際)には、図2に示すように各スポット8上には結合物質10が固定化されて、試料中の検出種(化学種,生化学種又は生物種等)と反応する反応領域となる。結合物質10は、抗原抗体反応、相補的DNA結合、リセプター/リガンド相互作用、酵素/基質相互作用等の相互作用によって特定の物質と特異的に結合しうる性質を備えた結合物質であり、検出すべき検出種に応じた結合物質10が選択される。試料中に複数の検出種が含まれる場合には、各検出種に応じた結合物質10がそれぞれ選択されて、それぞれ別々のスポット8に固定化される。なお、このとき、結合物質10がスポット8全体を完全に覆うように結合物質10を固定するのが好ましい。【0040】これに対し、スポット9A?9Eにはそれぞれ異なるピッチの回折格子7A?7Eが同一方向に形成されている。ここでは、回折格子7Aのピッチはスポット8の回折格子6と同ピッチであり、以下、回折格子7B,7C,7D,7Eの順にピッチが広くなるように形成されている。また、これらスポット9A?9Eは、本発明にかかる特定領域(標準領域)であり、上記のスポット8とは異なり結合物質10は固定化されていない。以下、これらスポット9A?9Eを標準スポット9A?9Eという。」 (引2c)「【0060】特に本実施形態では、複数の標準スポット9A?9Eの共鳴角度に基づき各スポット8の共鳴角度を補正し、且つ、同1条件下においてそれぞれ異なる共鳴角度を示すように各標準スポット9A?9Eを形成しているので、標準条件下で得られる共鳴角度と今回の条件下で得られる共鳴角度との対応関係が明確であり、高い精度で補正を行うことができる。」 第6 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明1とを対比すると、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「分光法を行なうための装置であって、 所定の形状およびサイズを有する細長い基体であって、第1の端部および第2の端部を有する、細長い基体と、 前記細長い基体の所定の場所において前記細長い基体の外面に配置された表面増感分光法(SES)要素 とを含む、装置。」 (相違点1)細長い基体の形状およびサイズについて、本願発明1は「生体へ挿入されることができる」形状およびサイズであるのに対して、引用発明1には、具体的な形状およびサイズに関する特定がない点。 (相違点2)表面増感分光法(SES)要素が配置される場所について、本願発明1は、「細長い基体の前記第1の端部と前記第2の端部との間で両端部以外の場所」であるのに対して、引用発明1には、具体的な場所に関する特定がない点。 (相違点3)表面増感分光法(SES)要素について、本願発明1は「表面増感分光法(SES)要素の第1のグループ」であるのに対して、引用発明1はグループを形成していることまでは特定していない点。 (2)相違点についての判断 相違点1に係る本願発明1の表面増感分光法(SES)要素を外面に配置した細長い基体が、「生体へ挿入されることができる」形状およびサイズを有するという構成は、上記引用文献1-2には記載されておらず、本願出願前において周知技術であるともいえない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1、及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。 2 本願発明2-15について 本願発明2-15は、本願発明1を直接又は間接的に限定した発明であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1、及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものではない。 第7 原査定についての判断 表面増感分光法(SES)要素を外面に配置した細長い要素が、「生体へ挿入されることができる」形状およびサイズを有することは、原査定における引用文献A-Eに記載されておらず、本願出願前における周知技術でもないので、本願発明1-15は、当業者であっても、原査定における引用文献A-Eに基づいて容易に発明できたものではない。 したがって、原査定を維持することはできない。 第8 当審拒絶理由について 1 特許法第36条第6項第2号について (1)当審では、請求項1の「前記細長い基体の前記第1の端部と前記第2の端部との間の場所」とは、細長い基体の第1の端部および第2の端部を含むのか、第1の端部および第2の端部を含まない部分であることに限定しているのかが明確でないとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年5月23日提出の手続補正書における補正で、「前記細長い基体の前記第1の端部と前記第2の端部との間で両端部以外の場所」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 (2)当審では、請求項1の「複数の表面増感分光法(SES)要素」との記載において、何が複数あるのかが明確でないとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年5月23日提出の手続補正書における補正で、「表面増感分光法(SES)要素の第1のグループ」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 (3)当審では、請求項7の「前記カバー層が、外部刺激を受けることによって、流体に溶解可能、光分解可能、及び除去可能の少なくとも1つである、請求項6に記載の装置。」と規定されていることについて、「外部刺激を受けることによって」と条件が付されているから、外部刺激がない場合は、カバーが流体に接していても溶解せず、カバーに光が当たっていても分解せず、除去可能でも無いと理解されるが、そのような外部刺激とはどのようなものか、出願時の技術常識を参酌しても不明であって、技術的に理解できないとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年5月23日提出の手続補正書における補正で、「前記カバー層が、液体に溶解可能、光分解可能、及び外部刺激を受けることによって除去可能の少なくとも1つである、請求項6に記載の装置。」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 第9 むすび 以上のとおり、原査定及び当審の拒絶理由を検討しても、その理由によって、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-06-20 |
出願番号 | 特願2015-555137(P2015-555137) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(G01N)
P 1 8・ 121- WY (G01N) P 1 8・ 537- WY (G01N) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 横尾 雅一 |
特許庁審判長 |
郡山 順 |
特許庁審判官 |
松岡 智也 信田 昌男 |
発明の名称 | 外面に表面増感分光法要素を有する装置 |
代理人 | 西山 清春 |
代理人 | 古谷 聡 |