ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B |
---|---|
管理番号 | 1329465 |
審判番号 | 不服2016-7018 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-05-12 |
確定日 | 2017-06-15 |
事件の表示 | 特願2014-246025「光学フィルム,映像源ユニット及び映像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月23日出願公開,特開2016-114617〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特願2014-246025号(以下,「本件出願」という。)は,平成26年12月4日の特許出願であって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。 平成27年10月 9日付け:拒絶理由通知書(同年同月20日発送) 平成27年12月11日差出:意見書 平成27年12月11日差出:手続補正書 平成28年 2月23日付け:拒絶査定(同年3月1日送達) (以下「原査定」という。) 平成28年 5月12日差出:審判請求書 平成28年 5月12日差出:手続補正書 (以下,この手続補正書による補正を,「本件補正」という。) 第2 補正の却下の決定 [結論] 本件補正を却下する。 [理由] 本件補正は,特許請求の範囲の全文の補正と,明細書の段落【0010】の補正からなる。ただし,事案に鑑みて,本件補正のうち,特許請求の範囲の請求項1についての補正について,以下,検討する。 1 補正の内容 (1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この記載に係る発明を,「本願発明」という。)。 「 面光源装置と, 前記面光源装置の光出射側に配置される光学フィルムと, 前記光学フィルムを挟んで前記面光源装置と反対側に配置される液晶パネルとを備え, 前記光学フィルムは, 基材層と, 前記基材層の一方の面に積層され,光を透過可能に前記基材層の層面に沿って配列される複数の光透過部,及び,隣り合う前記光透過部間に光を吸収可能に配列される光吸収部を有する光学機能層と,を備え, 前記光透過部は台形断面を有し,短い上底が前記面光源装置側,長い下底が前記液晶パネル側を向き,前記光吸収部は台形断面を有し,長い下底が前記面光源装置側,短い上底が前記液晶パネル側を向いており, 前記光吸収部はシロキサン結合による主骨格を有するシリコーン樹脂を含有し, 前記光透過部と光吸収部とは屈折率差が0.13以上である, 映像源ユニット。」 (2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この記載に係る発明を,「本件補正後発明」という。)。なお,下線は当合議体が付したものであり,補正箇所を示す。 「 面光源装置と, 前記面光源装置の光出射側に配置される光学フィルムと, 前記光学フィルムを挟んで前記面光源装置と反対側に配置される液晶パネルとを備え, 前記光学フィルムは, 基材層と, 前記基材層の一方の面に積層され,光を透過可能に前記基材層の層面に沿って配列される複数の光透過部,及び,隣り合う前記光透過部間に光を吸収可能に配列される光吸収部を有する光学機能層と,を備え, 前記光透過部は台形断面を有し,短い上底が前記面光源装置側,長い下底が前記液晶パネル側を向き,前記光吸収部は台形断面を有し,長い下底が前記面光源装置側,短い上底が前記液晶パネル側を向いており, 前記光吸収部はシロキサン結合による主骨格を有するシリコーン樹脂を含有し, 前記光透過部と光吸収部とは屈折率差が0.13以上0.22以下である, 映像源ユニット。」 (3) 補正の適否 請求項1についてした本件補正は,本願発明の「屈折率差」の範囲の上限について,願書に最初に添付した明細書の段落【0032】の記載に基づいて,「0.22以下」と限定するものである。 したがって,請求項1についてした本件補正は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすとともに,同条5項2号に掲げる事項を目的とするものである。 そこで,本件補正後発明が,同法同条6項で準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。 2 独立特許要件違反 (1) 引用例1の記載 本件出願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用された刊行物である特開2010-217871号公報(以下「引用例1」という。)には,以下の事項が記載されている。なお,下線は,当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 液晶表示装置の光源と液晶パネルとの間に設けられ,複数の層を有する光制御シートであって, 前記複数の層のうち少なくとも1層は,光を透過可能にシート面に沿って並列され,断面形状が台形であるプリズム部と,該プリズム部の間に光吸収性を有する材料が充填されて形成される光吸収部と,を具備する光学機能シート層であり, 前記複数の層のうち少なくとも1層は,断面形状台形である前記プリズム部の長い下底側の前記光学機能シート層の面に積層される透光性の基材フィルム層とされ, 前記基材フィルム層は,リタデーションReが15nm以下であることを特徴とする光制御シート。 …(省略)… 【請求項6】 前記光吸収部の断面形状が,前記基材フィルム層側に幅が狭い上底面を有する等脚台形,又は前記基材フィルム層側を頂点とする二等辺三角形であることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の光制御シート。 【請求項7】 前記光吸収部の屈折率はNbとされ,前記プリズム部を構成する材料の屈折率をNpとしたとき, Nb<Np なる関係が成立することを特徴とする請求項1?6のいずれか一項1項に記載の光制御シート。 【請求項8】 請求項1?7のいずれか一項に記載の光制御シートと, 前記光制御シートの前記基材フィルム層側に配置される液晶パネルと, 前記光制御シートの前記基材フィルム層側とは反対側に配置される光源と,を備えることを特徴とする液晶表示装置。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は,液晶ディスプレイ装置等の液晶表示装置において,光源からの光を制御して出射することができる光制御シート,及び該光制御シートを用いた液晶表示装置に関する。」 ウ 「【背景技術】 【0002】 例えば液晶ディスプレイ装置等では,光源からの光を,映像の情報が表わされる液晶パネル(以下,「LCD」と記載することがある。)を透過させて出射し,観察者に映像を提供する。このときLCDに入射する光源からの光は,できるだけLCDのパネル面法線に平行であることが好ましく,これにより観察者に提供する映像光の質を向上させることが可能となる。 【0003】 このためにいわゆるルーバーとよばれる光制御シートが用いられることがある。これはシート面に沿って所定の間隔を有して並列される矩形断面を有する光透過部と,該光透過部の間に光吸収可能に設けられる断面矩形の光吸収部とにより構成されている。これによれば,所定の角度を有して光制御シートに入射した光は光吸収部により吸収される。そして,シート面法線に平行,又はそれに近い光のみが光透過部を透過する。これにより,上記したような好ましい光をLCDに入射させることができる。 また,カーナビゲーションのディスプレイでは,夜間においてフロントガラスへ該ディスプレイの映像が映り込むことを防止するため,上方へ光を出射することを抑制するためにルーバーを用いる。 【0004】 ところが,このようなルーバータイプの光制御シートでは,光の方向を制御できるものの,吸収されてしまう光も多いので映像が暗くなってしまう場合があった。明るい映像を得るために光源への投入エネルギを大きくしたり,より明るい光源を適用したりする必要があった。 【0005】 これに対して,特許文献1に記載のような視野角制御シートが開示されている。これによれば,光透過部を台形状とし,その間を傾斜面を有する光吸収可能な楔形部としている。当該楔形部の傾斜面では屈折率差に基づく反射ができるように形成されており,入射した光を平行なものに近付けて出射することが可能である。従って出射光の輝度(明るさ)はルーバーの場合よりも大きくすることができる。」 エ 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 しかしながら,このような視野角制御シートを光源とLCDとの間に配置した場合に,色彩のムラが発生して不具合を生じることがあった。 【0008】 そこで本発明は,画面内の色彩ムラを抑制して質の良い映像を出射することができる光制御シート,及び該光制御シートを備える液晶表示装置を提供することを課題とする。」 オ 「【0024】 図1は1つの実施形態に係る光制御シート10の断面を示し,その層構成を模式的に表した図である。以下に示す図では,見易さのため,繰り返しとなる符号は一部省略することがある。」 (当合議体注:図1は,以下の図である。) カ 「【0025】 光制御シート10は,光学機能シート層11,基材フィルム層16を有している。各層は図1で示した断面を維持して紙面奥/手前方向に延在する。以下に各層について説明する。 【0026】 光学機能シート層11は,光制御シート10のシートの厚さ方向断面において略台形であるプリズム部12,12,…と,該プリズム部12,12,…の間に配置された光吸収部13,13,…とを備えている。図2に2つの光吸収部13,13及びこれに隣接するプリズム部12,12,12に着目した光学機能シート層11の拡大図を示した。図1,図2,及び適宜示した図を参照しつつ光学機能シート層11について説明する。」 (当合議体注:図2は,以下の図である。) キ 「【0027】 プリズム部12,12,…は一方のシート面側が上底,他方のシート面側が下底となるように配置された略等脚台形断面を有する要素である。また,プリズム部12,12,…は,屈折率がNpである光透過性樹脂で構成されている。 …(省略)… Npの大きさは特に限定されることはないが,適用材料の入手性の観点から1.4?1.6であることが好ましい。 【0028】 当該プリズム部12,12,…内を光が透過することにより液晶パネルに光を提供することができる。 【0029】 光吸収部13,13,…は,プリズム部12,12,…の間に配置される部位である。光吸収部13,13,…はプリズム部12,12,…の上底側を底辺とし,これに対向する頂点がプリズム部12,12,…の下底側となるような略二等辺三角形形状である。該光吸収部13,13,…は,屈折率がNbである物質が充填されたバインダー部14と,該バインダー部14に混入された光吸収粒子15,15,…とを備えている。 【0030】 バインダー部14に充填されるバインダー材の屈折率Nbの大きさは特に限定されることはないが,適用する材料の入手性の観点から1.4?1.6であることが好ましい。 …(省略)… 【0032】 ここで,本発明の光制御シート10における屈折率Npと屈折率Nbとの差は,特に限定されるものではないが,Np-Nbが0より大きいことが好ましい。これによりプリズム部12,12,…と光吸収部13,13,…との界面で適切に全反射がおこなわれるとともに,シート面法線に対して大きな角度を有する光を光吸収部13,13,…に入射させて吸収させることができる。」 ク 「【0041】 本実施形態では,光吸収部が略三角形である場合を示して説明したが光吸収部の形状はこれに限定されるものではない。例えば台形であってもよい。図4に,光吸収部が等脚台形である例における光制御シートのうち光学機能シート層11’’の光吸収部13’’,13’’及びこれに隣接するプリズム部12’’,12’’,12’’を示した。ここでは,図4のように光吸収部13’’,13’’が台形であり,このときには該台形における長い底辺(下底)をプリズム部12’’の上底側,短い底辺(上底)をプリズム部12’’の下底側に配置することができる。」 (当合議体注:図4は,以下の図である。) ケ 「【0060】 図8は,光制御シート10を備える映像表示装置のうち,該光制御シート10を具備する映像源ユニット1の部分に注目してその断面を示し,層構成を模式的に表した図である。本実施形態における映像表示装置は液晶表示装置であり,映像源ユニット1は,液晶ディスプレイパネルユニットである。図8では紙面右が観察者側となる。」 (当合議体注:図8は,以下の図である。) コ 「【0061】 映像源ユニット1は,バックライト2,プリズムシート3,反射型偏光シート4,光制御シート10,映像源20,及び光拡散シート30を備えている。 【0062】 バックライト2は,映像表示装置の光源である。ここには通常の液晶ディスプレイパネルユニットに用いられるバックライトを用いることができる。これには例えば,発光源を面内に略均等に配置して面状の光源とする形式や,縁(エッジ)に発光源を配置して反射面等を利用して最終的に面状に光を出射するエッジ入力型とする形式等を挙げることができる。 …(省略)… 【0065】 映像源20は,映像表示装置の映像が表される部位であり,偏光板21,23,及びこれに挟まれる液晶パネル22を備えている。」 サ 「【0078】 このような映像表示装置が作動し,光制御シート10に入光した光の光路について,説明する。図9に光路例を示した。バックライト2からプリズム部12の中央部付近に入射した光L1は,プリズム部12内を直進して通過し,液晶パネル側に出射される。」 (当合議体注:図9は,以下の図である。) シ 「【0079】 バックライト2からから所定の角度を有してプリズム部12の端部付近に入射した入射光L2,L3は,屈折率Npのプリズム部12と屈折率Nbの光吸収部13との屈折率差により斜面にて全反射され,シート面法線に平行な角度に近づいて液晶パネル側に出射される。 【0080】 また,光吸収部13の底辺から該光吸収部13に入射した光L4は,光吸収粒子15に吸収される。また,プリズム部12に大きな角度を有して入射した光L5は,プリズム部12と光吸収部13との屈折率差によっても全反射されることなく光吸収部13の内部に入光し,光吸収粒子15に吸収される。 【0081】 このようにしてバックライト2からの光をできるだけシート面法線に平行である角度に近い光を映像源に提供することが可能で,かつ,輝度の低下を抑制することができる光制御シートを提供することが可能となる。」 (2) 引用発明 引用例1には,請求項1,請求項6及び請求項7を引用して記載された請求項8に係る発明であって,光吸収部の断面形状の選択肢として等脚台形を採用してなる,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。 「【請求項1】 複数の層を有し, 前記複数の層のうち少なくとも1層は,光を透過可能にシート面に沿って並列され,断面形状が台形であるプリズム部と,該プリズム部の間に光吸収性を有する材料が充填されて形成される光吸収部と,を具備する光学機能シート層であり, 前記複数の層のうち少なくとも1層は,断面形状台形である前記プリズム部の長い下底側の前記光学機能シート層の面に積層される透光性の基材フィルム層とされ, 前記基材フィルム層は,リタデーションReが15nm以下であり, 【請求項6】 前記光吸収部の断面形状が,前記基材フィルム層側に幅が狭い上底面を有する等脚台形であり, 【請求項7】 前記光吸収部の屈折率はNbとされ,前記プリズム部を構成する材料の屈折率をNpとしたとき, Nb<Np なる関係が成立する光制御シートと, 前記光制御シートの前記基材フィルム層側に配置される液晶パネルと, 前記光制御シートの前記基材フィルム層側とは反対側に配置される光源と,を備える, 液晶表示装置。」 (3) 引用例2及び引用例3の記載事項 ア 引用例2の記載事項 本件出願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された刊行物である特表2007-536595号公報(以下「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている。 (ア)「【0035】 この実施形態のプロジェクションスクリーン1は,図5に示すように,前方透明板10と後方透明基板20と,その間に介在させた導波管アレー30を含む。単位導波管32(以下,導波管という)は,光源40側に位置した底辺はより小さく,前方透明板10に接触する上辺は大きく形成されている。即ち,導波管32は,イメージ光線(L)が投射されるスクリーンの前方側に向けて狭くなる構造をなしている。したがって,導波管32の側壁は傾きを有することになり,結果的に,導波管32は,円錐形切頭体又は多角形切頭体の形状を有し得る。本実施形態では,導波管は,ピラミッド切頭体を例示している。導波管32の間には空間が形成されるが,ここには吸光物質34が充填される。この吸光物質34は,スクリーンの外部から入射される光を吸収して,スクリーンの内部から投射されるイメージ光線がより鮮明に見えるようにすることができる。吸光物質34は,君主(Monarch)-カーボンブラックとベイシロン-白金触媒(Baysilone-Platinum Catalyst)とビニルシリコーン(Vinyl silicone)物質の混合物から形成される。」 (当合議体注:「Monarch」及び「Baysilone」は,ともに,商品名であり,「ビニルシリコーン」は,シロキサン結合による主骨格を有し,シリコン原子に結合する置換基の一部がビニル基である(他の置換基は,通常,メチル基である)シリコーン樹脂である。また,図5は,以下の図である。) (イ)「【0040】 また,導波管32の屈折率は1.4?1.6,光投射面の屈折率は1.0?1.2が,そして吸光物質34の屈折率は1.2?1.3である。導波管32の前面に拡散板を適用した場合は,導波管32の屈折率,光投射面の屈折率及び吸光物質34の屈折率は,それぞれ1.6,1.0及び1.2が好ましい。拡散板を適用しなかった場合は,導波管32の屈折率,投射面の屈折率及び吸光物質34の屈折率は,それぞれ1.6,1.1及び1.2が好ましい。」 イ 引用例3の記載事項 本件出願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用文献4として引用された刊行物である特開2012-33462号公報(以下「引用例3」という。)には,以下の事項が記載されている。 「【0053】 一般に光拡散性の樹脂組成物は,上述したように,バインダー樹脂(本発明の場合,未架橋あるいは硬化後のジメチルシリコーンゴム)と微粒子光拡散材それぞれの屈折率の差が大きいほど光拡散効率が高いとされている。例えば,25℃におけるナトリウムD線に対する屈折率では,ジメチルシリコーンゴムの屈折率は1.40?1.42である。そのため本発明に用いられるガラスビーズの屈折率は1.44以上が望ましい。この屈折率の差が大きくなる組み合わせを選択すると,光拡散効率の高い光拡散性シリコーンゴム組成物が得られる。即ち,一般的なガラスビーズは屈折率が1.51であり,好適である。」 (当合議体注:「ジメチルシリコーンゴム」は,シロキサン結合による主骨格を有し,シリコン原子に結合する置換基がメチル基であるシリコーン樹脂である。) (4) 対比 本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。 ア 面光源装置,光学フィルム及び液晶パネル 引用発明の液晶表示装置は,「前記光制御シートの前記基材フィルム層側に配置される液晶パネル」及び「前記光制御シートの前記基材フィルム層側とは反対側に配置される光源」を備える。 ここで,引用発明の「光源」は,液晶表示装置の光源であるから,技術的にみて,「面光源装置」である(引用例1の段落【0062】の記載からも確認できる事項である。)。また,液晶表示装置の表示の原理からみて,引用発明の「光制御シート」は「光源」の光出射側に配置されている(引用例1の段落【0078】の記載からも確認できる事項である。)。加えて,引用発明の「光源」,「光制御シート」及び「液晶パネル」の上記の位置関係からみて,引用発明の「液晶パネル」は,光制御シートを挟んで光源と反対側に配置されている。 そうしてみると,引用発明の「光源」,「光制御シート」及び「液晶パネル」は,それぞれ本件補正後発明の「面光源装置」,「光学フィルム」及び「液晶パネル」に相当する。また,引用発明の「光学フィルム」は,本件補正後発明の「光学フィルム」における,「前記面光源装置の光出射側に配置される」という構成を具備する。加えて,引用発明の「液晶パネル」は,本件補正後発明の「液晶パネル」における,「前記光学フィルムを挟んで前記面光源装置と反対側に配置される」という構成を具備する。 イ 基材層及び光学機能層 (ア)まず,引用発明の「基材フィルム層」と「光学機能シート層」は,「光学機能シート層の面に積層される透光性の基材フィルム層」という位置関係にある。 そうしてみると,引用発明の「基材フィルム層」及び「光学機能シート層」は,それぞれ本件補正後発明の「基材層」及び「光学機能層」に相当する。また,引用発明の「光学機能シート層」は,本件補正後発明の「光学機能層」における,「前記基材層の一方の面に積層され」という構成を具備する。 (イ)次に,引用発明の「基材フィルム層」と「光学機能シート層」は,ともに「光制御シート」の「前記複数の層のうち少なくとも1層」である。 そうしてみると,引用発明の「光制御シート」は,本件補正後発明の「光学フィルム」における,「基材層と」,「光学機能層と,を備え」という構成を具備する。 ウ 光透過部及び光吸収部 (ア)まず,引用発明の「プリズム部」は,「光を透過可能にシート面に沿って並列され」たものである。ここで,「並列」及び「配列」は,それぞれ「並びつらなること。並べつらねること。」(広辞苑6版)及び「ならべつらねること。順序よくならべること。また、そのならび。」(同)を意味する。また,引用発明の「プリズム部」と「基材フィルム層」は,「断面形状台形である前記プリズム部の長い下底側の前記光学機能シート層の面に積層される透光性の基材フィルム層」という位置関係にある。 そうしてみると,引用発明の「プリズム部」は,光を透過可能に基材フィルム層の層面に沿って配列される複数のものである。 (イ)次に,引用発明の「光吸収部」は,「該プリズム部の間に光吸収性を有する材料が充填されて形成される」ものである。また,前記(ア)で述べたとおり,引用発明の「プリズム部」は,光を透過可能に基材フィルム層の層面に沿って配列される複数のものである。 以上の位置関係を踏まえると,引用発明の「光吸収部」は,隣り合うプリズム部間に光を吸収可能に配列されるものである。 (ウ)以上(ア)及び(イ)からみて,引用発明の「プリズム部」及び「光吸収部」は,それぞれ,本件補正後発明の「光透過部」及び「光吸収部」に相当する。また,引用発明の「プリズム部」は,本件補正後発明の「光透過部」における,「光を透過可能に前記基材層の層面に沿って配列される複数の」という構成を具備する。また,引用発明の「光吸収部」は,本件補正後発明の「光吸収部」における,「隣り合う前記光透過部間に光を吸収可能に配列される」という構成を具備する。 (エ)さらに,以上(ア)?(ウ)及び前記イ(ア)からみて,引用発明の「光学機能シート層」は,本件補正後発明の「光学機能層」における,「前記基材層の一方の面に積層され,光を透過可能に前記基材層の層面に沿って配列される複数の光透過部,及び,隣り合う前記光透過部間に光を吸収可能に配列される光吸収部を有する」という構成を具備する。 エ 台形断面及び向き (ア)まず,引用発明の「プリズム部」は,「断面形状が台形である」。また,引用発明の「プリズム部」と「基材フィルム層」は,「前記プリズム部の長い下底側の前記光学機能シート層の面に積層される透光性の基材フィルム層」という位置関係にある。さらに,引用発明の「基材フィルム」,「液晶パネル」及び「光源」は,「前記光制御シートの前記基材フィルム層側に配置される液晶パネル」かつ「前記光制御シートの前記基材フィルム層側とは反対側に配置される光源」という位置関係にある。 そうしてみると,引用発明の「プリズム部」は,台形断面を有し,短い上底が光源側,長い下底が液晶パネル側を向いている。 (イ)次に,引用発明の「光吸収部」の断面形状は,「前記基材フィルム層側に幅が狭い上底面を有する等脚台形であ」る。さらに,引用発明の「基材フィルム」,「液晶パネル」及び「光源」の位置関係は,前記(ア)のとおりである。 そうしてみると,引用発明の「光吸収部」は,台形断面を有し,長い下底が光源側,短い上底が液晶パネル側を向いている。 (ウ)以上(ア)及び(イ)からみて,引用発明の「プリズム部」及び「光吸収部」は,本件補正後発明の「光透過部」及び「光吸収部」における,「前記光透過部は台形断面を有し,短い上底が前記面光源装置側,長い下底が前記液晶パネル側を向き,前記光吸収部は台形断面を有し,長い下底が前記面光源装置側,短い上底が前記液晶パネル側を向いており」という構成を具備する。 オ 映像源ユニット 引用発明の「液晶表示装置」は,「前記光制御シートの前記基材フィルム層側に配置される液晶パネルと,前記光制御シートの前記基材フィルム層側とは反対側に配置される光源と,を備える」。また,液晶表示装置における技術常識を考慮すると,引用発明の「光源」,「光制御シート」及び「液晶パネル」を備えてなるものは,「映像源ユニット」と称することができる(引用例1の段落【0060】からも確認できる事項である。以下,「液晶ディスプレイパネルユニット」という。)。 そうしてみると,引用発明の「液晶ディスプレイパネルユニット」は,本件補正後発明の「映像源ユニット」に相当する。 (5) 一致点及び相違点 ア 一致点 本件補正後発明と引用発明(の「液晶ディスプレイパネルユニット」)は,次の構成で一致する。 「 面光源装置と, 前記面光源装置の光出射側に配置される光学フィルムと, 前記光学フィルムを挟んで前記面光源装置と反対側に配置される液晶パネルとを備え, 前記光学フィルムは, 基材層と, 前記基材層の一方の面に積層され,光を透過可能に前記基材層の層面に沿って配列される複数の光透過部,及び,隣り合う前記光透過部間に光を吸収可能に配列される光吸収部を有する光学機能層と,を備え, 前記光透過部は台形断面を有し,短い上底が前記面光源装置側,長い下底が前記液晶パネル側を向き,前記光吸収部は台形断面を有し,長い下底が前記面光源装置側,短い上底が前記液晶パネル側を向いている, 映像源ユニット。」 イ 相違点 本件補正後発明と引用発明は,以下の点で相違する。 (相違点1) 本件補正後発明の「前記光吸収部はシロキサン結合による主骨格を有するシリコーン樹脂を含有し」ているのに対して,引用発明は,これが明らかではない点。 すなわち,引用発明の「光吸収部」は,「プリズム部の間に光吸収性を有する材料が充填されて形成される」ものであるとしても,「シロキサン結合による主骨格を有するシリコーン樹脂を含有し」ているものとは特定されていない点。 (相違点2) 本件補正後発明の「前記光透過部と光吸収部とは屈折率差が0.13以上0.22以下である」のに対して,引用発明は,これが明らかではない点。 すなわち,引用発明は,「前記プリズム部を構成する材料の屈折率」と「前記光吸収部の屈折率」とは屈折率差がある(前者の方が大きい)としても,「0.13以上0.22以下である」とは特定されていない点。 (6) 判断 相違点1及び相違点2について,まとめて判断する。 引用発明のプリズム部及び光吸収部の屈折率の差に関して,引用例1の段落【0032】には,「本発明の光制御シート10における屈折率Npと屈折率Nbとの差は,特に限定されるものではないが,Np-Nbが0より大きいことが好ましい。これによりプリズム部12,12,…と光吸収部13,13,…との界面で適切に全反射がおこなわれるとともに,シート面法線に対して大きな角度を有する光を光吸収部13,13,…に入射させて吸収させることができる。」と記載されている。また,この記載に接した当業者ならば,光学に関する技術常識に基づき,Np-Nbの値を小さくすれば吸収される光が多くなって光制御シートからの出射光の輝度が小さくなり,Np-Nbの値を大きくすれば全反射される光が多くなって光制御シートからの出射光の輝度が大きくなることを会得する(引用例1の段落【0004】及び【0005】の記載や,段落【0078】?【0081】の記載からも把握される事項である。)。 そうしてみると,引用発明を液晶表示装置として具体化するに際し,光制御シートからの出射光の輝度を大きくすることを重視して液晶表示装置を設計する当業者ならば,例えば,引用例2(前記(3)ア(イ)参照)に記載されているような周知技術を参考にして,Np-Nbの値を大きく設計する。ただし,引用例1の段落【0027】及び【0030】には,それぞれ,「プリズム部12,12,…は,屈折率がNpである光透過性樹脂で構成されている。…Npの大きさは特に限定されることはないが,適用材料の入手性の観点から1.4?1.6であることが好ましい。」及び「バインダー部14に充填されるバインダー材の屈折率Nbの大きさは特に限定されることはないが,適用する材料の入手性の観点から1.4?1.6であることが好ましい。」と記載されている。したがって,たとえNp-Nbの値を大きく設計する当業者といえども,材料の入手性の観点から,屈折率が1.4?1.6の範囲内で,Npが1.6に近い光透過性樹脂(プリズム部の材料)と,Nbが1.4に近いバインダー材(光吸収部の材料)を選択するといえる。 また,Nbが1.4に近いバインダー材を選択するに際して,例えば,引用例2(前記(3)ア(ア)参照)及び引用例3(前記(3)イ参照)に記載されているような周知技術を参考にして,屈折率が1.4に近い,シロキサン結合による主骨格を有するシリコーン樹脂を採用することは,当業者における随意にすぎない。 (当合議体注:通常のシリコーン樹脂の屈折率が1.4に近いことは,技術常識である。) そうしてみると,引用発明において,相違点1及び相違点2に係る構成を採用することは,当業者が容易に発明できた事項である。 (7) 発明の効果について 本件補正後発明の効果に関して,本件出願の明細書の段落【0013】には,「本発明によれば,光透過部と光吸収部との界面で多くの光を全反射して正面輝度を向上させることができる。」と記載されている。 しかしながら,このような事項は,前記(6)のように容易推考する当業者が当然期待する事項にすぎない。あるいは,引用例1の段落【0005】に記載されているような,引用発明の前提技術が奏する効果の延長線上の効果にすぎない。 (8) 請求人の主張について 請求人は,審判請求書において,概略,本件補正後発明は,光透過部と光吸収部との屈折率差を0.13以上0.22以下とすることにより,特に車内においてフロントガラスへの映り込みを防止することができるように構成されていると主張する。 しかしながら,特許請求の範囲には,主張の前提となる構成(例:カーナビゲーション装置の映像源ユニットであること)が記載されていない。また,請求人が主張するような事項は,発明の詳細な説明にも記載されていない。すなわち,光透過部と光吸収部との屈折率差を0.13以上0.22以下とすることにより,特に車内においてフロントガラスへの映り込みを防止することができるという実験結果はもちろん,定性的な記載も示唆もない。なお,本件出願の明細書の段落【0032】には,「材料の入手性の観点から当該屈折率差は0.22以下であることが好ましい。」と記載されている。 念のために,引用例1の記載を確認する。 引用例1には,「カーナビゲーションのディスプレイでは,夜間においてフロントガラスへ該ディスプレイの映像が映り込むことを防止するため,上方へ光を出射することを抑制するためにルーバーを用いる。」(段落【0003】)という,カーナビゲーションのディスプレイとしての用途が記載されている。しかしながら,引用発明の技術分野は,「液晶ディスプレイ装置等の液晶表示装置において,光源からの光を制御して出射することができる光制御シート,及び該光制御シートを用いた液晶表示装置」(段落【0001】)である。したがって,引用発明の用途は,カーナビゲーションのディスプレイに限らないと考えられる。そして,液晶表示装置の通常の用途ならば,夜間においてフロントガラスへディスプレイの映像が映り込むことを考慮することなく,出射光の輝度を大きくすることができる。 また,仮に,当業者がカーナビゲーションのディスプレイとしての用途を念頭に引用発明を具体化するとしても,当業者が,夜間におけるフロントガラスへの映像の映り込みの問題のみにとらわれるとは考えがたい。すなわち,光制御シートからの出射光の輝度が大きくなるように設計しなければ,昼間(フロントガラス越しに日差しが入る状況)におけるディスプレイの視認性が低下することになる。あるいは,バックライトの輝度(装置の消費電力)を大きく設計しなければならなくなる。したがって,仮に当業者がカーナビゲーションのディスプレイとしての用途を念頭に引用発明を具体化するとしても,屈折率差をどの程度とするかは,装置設計に際し何を重視するかという,設計上の問題にすぎない。 3 小括 本件補正後発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際に独立して特許を受けることができない。 よって,本件補正は,同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は却下されたので,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本願発明)は,前記「第2」1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,概略,本件出願の請求項1に係る発明は,本件出願の出願前に日本国又は外国において頒布された引用例1(原査定の拒絶の理由では「引用文献2」と表示)に記載された発明及び周知技術に基づいて,本件出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 3 引用例1?引用例3に記載の事項及び引用発明について 引用例1?引用例3に記載の事項及び引用発明については,前記「第2」2(1)?(3)に記載のとおりである。 4 対比及び判断 本願発明は,本件補正後発明から,屈折率差の上限値(0.22以下)の構成を除いたものである。 そうすると,本願発明の,発明の要旨に含まれる本件補正後発明が前記「第2」2(4)?(8)で述べたとおり,引用発明及び周知技術に基づいて,本件出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様に,引用発明及び周知技術に基づいて,本件出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。 第4 まとめ 以上のとおりであるから,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-04-13 |
結審通知日 | 2017-04-18 |
審決日 | 2017-05-02 |
出願番号 | 特願2014-246025(P2014-246025) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 池田 博一 |
特許庁審判長 |
鉄 豊郎 |
特許庁審判官 |
樋口 信宏 佐藤 秀樹 |
発明の名称 | 光学フィルム、映像源ユニット及び映像表示装置 |
代理人 | 山本 典輝 |