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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60W
管理番号 1329467
審判番号 不服2016-10943  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-20 
確定日 2017-06-15 
事件の表示 特願2014-227769号「運転者の挙動に応答するシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年6月18日出願公開、特開2015-110411号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)1月31日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2011年(平成23年)2月18日(US)米国)を国際出願日とする特願2013-554468号の一部を平成26年11月10日に新たな特許出願としたものであって、平成26年11月10日に上申書が提出され、平成27年10月15日付けで拒絶理由が通知され、平成27年12月17日に意見書が提出されたが、平成28年4月25日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成28年7月20日に拒絶査定不服審判が請求され、平成28年8月1日に拒絶査定不服審判の請求の理由を補正する手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 本願発明について
[1]本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面からみて、次のとおりのものである。

「【請求項1】
自動車の車両システムを制御する方法であって、
モニタリング情報を受信するステップと、
眠気を特徴付け、且つ前記モニタリング情報に基づく、運転者の身体状態指標を決定するステップと、
前記身体状態指標に基づき、前記身体状態指標の関数として変化する値である制御係数を決定するステップと、
前記制御係数を用いて、前記車両システムの特定の機能の作動を決定するために使用される制御パラメータを決定するステップと、
前記制御パラメータを用いて車両システムを動作するステップと、
を含むことを特徴とする方法。」

[2]引用例
1.引用例1
(1)引用例1の記載事項
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2009-101714号公報(以下、「引用例1」という。)には、「運転走行支援装置」に関して図面とともに以下の記載がある。

1a)「【0023】
図1には、本発明の実施の形態に係る運転走行支援装置10の機能ブロック図が示されている。同図に示すように、運転走行支援装置10は、運転者状態検出装置11と、運転者状態判定部12と、車両制御部13と、アクセル制御部14と、ブレーキ制御部15と、ステアリング制御部16と、車間距離制御部17と、車線維持制御部とを備えている。
【0024】
運転者状態検出部11は、運転者の覚醒状態や飲酒状態など運転者の状態を検出する。検出方法は公知の如何なる方法でも使用できる。本実施の形態においてはその方式は問わないが、例えば、覚醒状態については、運転者の眼の開度を計測し、これに基づいて覚醒状態を検出する方法や、その他に心拍数や体温から検出する方法がる。また、飲酒状態については、運転者の吐く息からセンサによって計測されるアルコール濃度に基づいて検出する方法などがある。
【0025】
運転者状態判定部12は、運転者状態検出部11により検出された運転者の覚醒状態や飲酒状態に基づいて、運転者が正常な運転ができる常態か否かなど、運転者の状態を判定する。
【0026】
アクセル制御部14は、アクセルペダルの踏力制御を変更して、アクセルの効き方を通常よりも重く又は軽くするように制御する。
【0027】
ブレーキ制御部15は、ブレーキペダルの踏力制御を変更して、ブレーキの効き方を通常よりも重く又は軽くするように制御する。
【0028】
ステアリング制御部16は、ステアリングのギア比を変更してステアリングの操舵性能を通常よりも重く又は軽くするように制御する。
【0029】
車間距離制御部17は、所謂ACC(Adaptive Cruise Control)であり、自車両と先行車両との距離を一定に保つように自動的にアクセル及びブレーキを制御する。
【0030】
車線維持制御部18は、所謂LKA(Lane Keeping Assist system)であり、自車両が車線を逸脱しそうになると自動的にステアリングを修正して、車線内走行を維持するよう制御する。
【0031】
車両制御部13は、運転者状態判定部12により判定された運転者の状態に基づいて、アクセル制御部14、ブレーキ制御部15、ステアリング制御部16、車間距離制御部17及び車線維持制御部18を制御する。」(段落【0023】ないし【0031】)

1b)「【0032】
次に、本発明の各実施の形態に係る運転走行支援装置10の作用の流れを図2?図4に示す各フローチャートに沿って説明する。
【0033】
<第1の実施の形態>
図2は、第1の実施の形態に係る車両用情報提示装置10の作用の流れを示す。
【0034】
まず、ステップ100では、運転者状態検出部11が、運転者の覚醒状態、飲酒状態を検出する。
【0035】
ステップ102では、運転者状態判定部12が、運転者状態検出部11により検出された運転者の覚醒状態、飲酒状態に基づいて、運転者が正常な運転ができるか否かを判定する。正常な運転ができないと判定された場合はステップ104に進み、正常な運転ができると判定された場合はステップ100に戻って上述の処理を繰り返す。
【0036】
ステップ104では、車両制御部13が車間距離制御部17が作動中か否かを判定し、作動中の場合はステップ106に進み、作動中でない場合はステップ110に進む。
【0037】
ステップ106では、運転者状態判定部12が、検出された覚醒状態及び飲酒状態に基づいて、車間距離制御部17による制動が必要か否かを判定する。
【0038】
車間距離制御部17による制動が必要と判定された場合は、車間距離制御部17を作動させたままステップ110に進む。この場合は、後述のアクセルやブレーキの制御と背反しないように車両制御を行う。また、先行車との衝突の危険があるなど緊急な減速を必要とされる場面においては、危険を回避するため介入制動を実施する。
【0039】
一方、車間距離制御部17による制動が不要と判定された場合は、ステップ108に進んで車間距離制御部17を解除の状態に変更した上でステップ110に進む。
【0040】
ステップ110では、車両制御部13が、アクセルの効き方が重くなるようにアクセル制御部14を制御する。この結果、加速時にアクセルペダルを踏み込む際に大きな力が必要になるため、運転者は自分の運転能力が低下していることに気付くことになる。
【0041】
ステップ112では、車両制御部13が、ブレーキの効き方が軽くなるようにブレーキ制御部15を制御する。この結果、減速時にブレーキペダルを踏み込む際に小さな力で減速されるため、車速を落とす方向にシフトされて安全性が高まる。
【0042】
ステップ114では、車両制御部13が、ステアリングの効き方が重くなるようにステアリング制御部16を制御する。この結果、操舵時にステアリングの操作に大きな力が必要になるため、運転者は自分の運転能力が低下していることに気付くことになる。
【0043】
以上の一連の処理を終了すると、ステップ100に戻って、上述の処理を繰り返して行う。
【0044】
以上のように、第1の実施の形態の運転走行支援装置10は、運転者が居眠りや飲酒により運転に不適切な状態のまま運転することを以下の観点から予防する。
(1)車速を落とす方向に制御をシフトすることによって、安全性を高める。
(2)運転し続けるためには、適切な運転者状態が要求されるため(重くなったアクセルを踏める、重くなったステアリングを操縦できる等)、運転者の状態を運転に適切な方向にシフトすることができる。
(3)車両の制御モードが切り替わることによって、アクセル、ブレーキ、ステアリングによる操縦性能が変化するため、その変化から運転者に自分の運転走行能力が低下していることを認識させることができる。
【0045】
即ち、正常な運転走行に適さない運転者状態が必ずしも事故につながるとは限らない。そのため、正常な運転走行ができない状態のまま運転を続けてしまい、事故を起こしてしまうことに繋がりかねない。
【0046】
このような理由から、本実施の形態に係る運転走行支援装置10は、事故に繋がるような危険な状態に陥る前に、運転者が運転に不適切な状態になったことに気付かせることができ、不適切な状態で運転し続けることによる事故を防ぐことが可能となる。」(段落【0032】ないし【0046】)

1c)「【0047】
<第2の実施の形態>
図3は、第2の実施の形態に係る車両用情報提示装置10の作用の流れを示す。図2のフローチャートと同一の処理については同一の番号で示し、詳細な処理は省略する。
【0048】
第1の実施の形態との相違点は、ステップ100で運転者状態検出部11が運転者の覚醒状態、飲酒状態を検出した後、ステップ202では、運転者状態判定部12が運転者の覚醒状態を判定する。この際、予め第1の所定値と第2の所定値(ただし、第1の所定値<第2の所定値)を定めておき、これらの所定値を基準にして覚醒状態を判定する。
【0049】
覚醒状態が第1の所定値未満のとき、即ち眠気がやや深いときは、第1の実施の形態と同様にステップ104からステップ114までの処理を行い、覚醒状態が第1の所定値異常のときはステップ204に進む。
【0050】
ステップ204では、運転者状態判定部12が、さらに運転者の覚醒状態を判定し、覚醒状態が第2の所定値未満のとき、即ち眠気が浅いときはステップ206に進み、覚醒状態が第2の所定値異常のとき、即ち眠気が殆どないときは何も行わずにステップ100に戻って上述の処理を繰り返す。
【0051】
ステップ206では、車両制御部13が、車線維持制御部18を作動させるように制御し、ステップ208では、車両制御部13が、ステアリングの効き方が軽くなるようにステアリング制御部16を制御する。この結果、安全性が向上し、浅い眠気のために若干低下した運転状態で運転することによる危険が回避される。
【0052】
以上の一連の処理を終了すると、ステップ100に戻って、上述の処理を繰り返して行う。
【0053】
このように、第2の実施の形態の運転走行支援装置10は、運転者が浅い居眠り状態で運転し続けることによる事故を防ぐことが可能となる。」(段落【0047】ないし【0053】)

(2)上記(1)及び図面から分かること
1d)上記(1)1a)段落【0024】の記載から、運転者の眼の開度または心拍数や体温を計測して取り入れ、これらに基づいて覚醒状態が決定されることが分かる。

1e)上記(1)1b)及び(1)1c)並びに図3のフローチャート記載から、覚醒状態が第1の所定値または第2の所定値より小さいか否かを判定し、判定した結果によって、(1)アクセルを重くする、ブレーキを軽くする、及びステアリングを重くする、(2)ステアリングを軽くする、(3)何も制御を行わない、から選択することが分かる。

1f)上記(1)1c)段落【0049】ないし【0051】の記載から、運転者の覚醒状態は、眠気と関連することが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載から、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「車両のアクセル制御部14、ブレーキ制御部15及びステアリング制御部16を制御する方法であって、
運転者の眼の開度または心拍数や体温を計測して取り入れる段階と、
眠気と関連し、かつ運転者の眼の開度または心拍数や体温に基づく、運転者の覚醒状態を決定する段階と、
覚醒状態が第1の所定値または第2の所定値より小さいか否かを決定する段階と、
覚醒状態が第1の所定値または第2の所定値より小さいか否かを決定した結果によって、
(1)アクセルを重くする、ブレーキを軽くする、及びステアリングを重くする、(2)ステアリングを軽くする、(3)何も制御を行わない、から選択して、車両のアクセル制御部14、ブレーキ制御部15またはステアリング制御部16を動作する段階を含む方法。」

2.引用例2
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平11-105579号公報(以下、「引用例2」という。)には、「車間制御装置」に関して図面とともに以下の記載がある。

(1)引用例2の記載事項
2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1] 先行車との車間距離が目標車間距離と一致するように車両を加減速させる車間制御を実行する車間制御装置において、
前記車間制御の非実行中に先行車との間に確保される車間距離を運転者の通常車間距離として記憶する通常車間記憶手段と、
前記通常車間距離に所定値を加算することで前記目標車間距離を演算する目標車間距離演算手段と、
を備えることを特徴とする車間制御装置。
【請求項2】 請求項1記載の車間制御装置において、
前記通常車間記憶手段が、運転環境に応じた複数の通常車間距離を記憶すると共に、
前記目標車間距離演算手段が、前記複数の通常車間距離のうち、前記車間制御時の運転環境に応じた通常車間距離に基づいて前記目標車間距離を演算することを特徴とする車間制御装置。
【請求項3】 請求項1記載の車間制御装置において、
前記車間制御時の運転環境に応じて前記所定値を演算する所定値演算手段を備えることを特徴とする車間制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項3】)

2b)「【0028】ECU10には、時計126、気温センサ128、および、覚醒度センサ130が接続されている。ECU10は、時計126の出力信号に基づいて時刻を認識し、また、気温センサ128の出力信号に基づいて、車両を取り巻く環境の気温を認識する。更に、ECU10は、覚醒度センサ130の出力信号に基づいて運転者の覚醒状態を検知する。尚、覚醒度センサ130は、例えば、運転者の眼球の動き、修正操舵の頻度、および、運転者の心拍数等に基づいて運転者の覚醒状態を検出する。」(段落【0028】)

2c)「【0044】ところで、運転者の通常車間距離Xdは、例えば走行中の道路が一般道であるか、或いは、高速道であるかに応じて変化する。また、先行車160との相対速度RVを消滅させるために必要な距離Xaは、例えば車両162の積載状態が変化することにより伸縮する。従って、車両の走行環境に関わらず、常に優れた利便性を確保するためには、通常車間距離Xdおよび所定値Xaが、車両の走行環境に応じて適宜設定されることが望ましい。」(段落【0044】)

2d)「【0060】ステップ200では、運転者の覚醒状態が検出される。本実施例の車間制御装置は、急制動の実行を運転者に委ねる装置である。運転者が非覚醒状態である場合は、急制動を要求する状況が生じた後、現実に急制動操作が実行されるまでに長い遅延が生じ易い。従って、ACC制御の実行中に運転者が非覚醒状態であると認識された場合は、目標車間距離X”を長めに確保することが好ましい。
【0061】ステップ202では、第1補正係数αが演算される。第1補正係数αは、運転者の覚醒状態を目標車間距離X”に反映させるための補正係数である。本ステップ202において、第1補正係数αは、運転者の覚醒度が高低いほど大きな値に設定される。ステップ204では、車両の積載量が検出される。車両が先行車に接近している場合に、両者間の相対速度RVを消滅させるためには、車両の積載量が多量であるほど長時間にわたって減速制御を実行する必要がある。従って、本実施例においては、車両の積載量が多量であるほど所定値Xaを長く確保することが適切である。
【0062】ステップ206では、走行中の道路のコーナRが検出される。車両の運転者は、走行中のコーナRが小さいほど先行車を見失い易い。運転者が先行車を見失い易い状況下では長い車間距離Xを確保しておくことが適切である。従って、本実施例においては、コーナRが長いほど所定値Xaを長く確保することが適切である。
【0063】ところで、レーダ118の能力によっては、コーナRが小さいほど、レーダ118が先行車を見逃し易くなる場合がある。このような状況下で、レーダ118が先行車を見失う頻度を下げるためには、コーナRが小さいほど車間距離Xを狭めることが適切である。従って、本実施例の車間制御装置において、レーダ118の捕獲性を優先する場合は、コーナRが小さいほど車間距離Xを短縮することも有効である。
【0064】ステップ208では、隣接車線を走行中の車両の数が検出される。隣接車線に多数の車両が存在する場合は、それらの車両の一部が自車線内にレーン変更してくる可能性を考慮する必要がある。隣接車線を走行中の車両が自車と先行車との間にレーン変更してくると、先行車(レーン変更車両)と自車との車間距離Xが急激に短くなることがある。従って、本実施例の車間制御装置においては、隣接車線を多数の車両が走行しているほど、車間距離Xを長く確保することが適切である。
【0065】ステップ210では、運転者のアイポイント高(視線高)が読み込まれる。ECU10は、車両に対応するアイポイント高が記憶されている。本ステップ210では、具体的には、その記憶値を読みだす処理が実行される。車両の運転者は、アイポイントが高いほど車間距離Xの変化を敏感に感知する。従って、ACC制御の実行中に確保すべき目標車間距離X”は、アイポイントが高いほど短く設定されることが適切である。
【0066】ステップ212では、車両のタイプが読み込まれる。ECU10には、本実施例の車間制御装置を搭載する車両のタイプ(ワンボックス、乗用車、ピックアップトラック等)が記憶されている。ワンボックス車のように運転者が車両の前端近傍に着座する車両においては、ボンネットの存在する車両に比して車間距離Xの変化を敏感に感知し易い。このように、車間距離Xの変化の認識し易さは、車両の形式に応じて変化する。従って、ACC制御の実行中に確保すべき目標車間距離X” は、車間距離Xの変化を敏感に感知し易い車両ほど、短く設定することが適切である。
【0067】ステップ214では、第2補正係数βが演算される。第2補正係数βは、上述した種々の因子の影響を所定値Xaに反映させるための補正係数である。本実施例において、第2補正係数βは、車両の積載量が多量であるほど大きく、走行路のコーナRが小さいほど大きく、隣接車線上に多量の車両が存在するほど大きく、アイポイント高が低いほど大きく、かつ、車両のタイプが車間距離Xの変化を検知し難いタイプであるほど大きく設定される。
【0068】ステップ216では、上記ステップ196で演算された通常車間距離Xd、すなわち、現在の走行環境に対応した通常車間距離Xdが読み込まれる。ステップ218では、次式に従って所定値Xaが演算される。尚、次式に示す“k”は定数である。
Xa=k+α・Xd+β ・・・(1)
上記ステップ218の処理が終了すると、今回のルーチンが終了される。上記(1)式によれば、通常車間距離Xdが長いほど所定値Xaを大きな値とすることができると共に、種々の状況に応じて適切に所定値Xaを伸縮させることができる。尚、定数k、第1補正係数αおよび第2補正係数βは、所定値Xaが、定常走行中の先行車とACC制御中の車両との間に発生する最大の相対速度RVを消滅させるのに必要な距離となるように設定されている。
【0069】上記図7に示すルーチンが終了すると、次に、図6に示すステップ220の処理が実行される。ステップ220では、上記ステップ196で演算された通常車間距離Xd、および、上記ステップ198で演算された所定値Xaを次式に代入することにより目標車間距離X”が演算される。
【0070】
X”=Xd+Xa・・・(2)
上記ステップ220の処理が終了すると、今回のルーチンが終了される。上記(2)式によれば、現在の走行環境に応じた通常車間距離Xdに、現在の走行環境下で先行車との相対速度RVを消滅させるのに必要な距離Xaを加算した値を目標車間距離X”とすることができる。上記の目標車間距離X”によれば、先行車が定常走行を継続する限り、ACC制御の実行中に先行車と自車との車間距離Xが目標車間距離X”に比して短くなることがない。このため、本実施例の車間制御装置によれば、運転者の減速操作を有効に代行し、優れた利便性を実現することができる。」(段落【0060】ないし【0070】)

(2)上記(1)及び図面から分かること
2e)上記(1)2b)から、覚醒状態は、運転者の眼球の動き、修正舵角の頻度、および、運転者の心拍数等に基づいて決定されるものであることが分かる。

2f)上記(1)2d)段落【0061】の記載「第1補正係数αは、運転者の覚醒度が高低いほど大きな値に設定される。」の記載から、第1補正係数αは、運転者の覚醒状態の高低に関連して求められたものであることが分かる。

2g)上記(1)2d)段落【0068】の記載における式(1)及び段落【0070】の記載における式(2)の記載から、目標車間距離X”は、第1補正係数αに基づいて求めた車間距離の所定値Xaを、通常車間距離であるXdに加えて求めたものであることが分かる。

(3)引用例2技術
上記(1)及び(2)並びに図面の記載から、引用例2には次の技術(以下、「引用例2技術」という。)が記載されている。

「運転者の眼球の動き、修正舵角の頻度、および、運転者の心拍数等に基づいて検出した運転者の覚醒状態の高低に関連して第1補正係数αを設定し、第1補正係数αにより求めた車間距離の所定値Xaを、通常車間距離であるXdに加えたものである目標車間距離X”を用いて車間制御装置を動作する技術。」

3.引用例3
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平9-216567号公報(以下、「引用例3」という。)には、「車両操舵装置」に関して図面とともに以下の記載がある。

(1)引用例3の記載事項
3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 車両の操舵系に付加する転舵方向のトルクを発生する電動機と、車両の目標進行方向を設定する目標進行方向設定手段と、車両の実際の進行方向を検出する実進行方向検出手段と、前記目標進行方向設定手段と前記実進行方向検出手段との信号に基づいてその偏差を減少させる向きのトルクを発生するように前記電動機を制御する制御手段と、運転者の覚醒度を判別する覚醒度判別手段とを有し、
前記覚醒度判別手段の信号を前記電動機のトルク制御のパラメータに加味し、覚醒度が低いほど前記偏差を減少させる向きのトルク指令値を増大させるようにしてなることを特徴とする車両操舵装置。
【請求項2】 車両の操舵系に付加する転舵方向のトルクを発生する電動機と、車両の目標進行方向を設定する目標進行方向設定手段と、該目標進行方向設定手段により設定された進路上で発生する運動状態量を予測する運動状態量予測手段と、車両の実際の運動状態量を検出する実運動状態量検出手段と、前記運動状態量予測手段と前記実運動状態量検出手段との信号に基づいてその偏差を減少させる向きのトルクを発生するように前記電動機を制御する制御手段と、運転者の覚醒度を判別する覚醒度判別手段とを有し、
前記覚醒度判別手段の信号を前記電動機のトルク制御のパラメータに加味し、覚醒度が低いほど前記偏差を減少させる向きのトルク指令値を増大させるようにしてなることを特徴とする車両操舵装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項2】)

3b)「【0014】次に覚醒度判断手段について説明する。覚醒度の低下時には、微小時間の居眠りによる車両の横ずれを、目覚めた瞬間にあわてて操舵して修正する動作を繰り返す傾向がある。この際、操舵トルク(またはラック軸推力)がその前後に比較して突然に増大するので(図5)、この操舵トルク(またはラック軸推力)の変化量およびその変化の発生頻度を監視することにより、覚醒度を判断することができる。具体的に説明すると、修正操舵周波数帯域に於ける予め設定されたしきい値を超える振幅の操舵トルク(またはラック軸推力)の単位時間当たりの出現回数を計数し、予め設定された覚醒度判断マップを参照してこの出現率から覚醒度を判断する。この際、通常修正動作による振幅か居眠り時の修正かを判別するしきい値は、ある所定区間の平均操舵トルク(またはラック軸推力)並びに車速を参照して求める(図6参照)。
【0015】このようにして、覚醒度の低下に応じて大きくなる覚醒度係数K1を求め、この覚醒度係数K1を目標付加トルク決定手段7に掛けることにより、覚醒度が低くなるほど偏差に対する目標付加トルクのゲインが高まってより小さな偏差で修正操舵トルクが作用することとなり(即ち自動操舵の度合いが高まり)、車線逸脱回避性能が高まる。そして覚醒度が高くなるほど偏差に対する目標付加トルクのゲインが減少し、手動操舵への依存度が高まるので、運転者の意識的な操舵と干渉せずに済むようになる(図7参照)。なお、この時の目標付加トルク指令値T_(0)は、次式に示すように、偏差er、覚醒度係数K1、及び車速V_(S) の関数となる。
T_(0) =f_(1) (K1,er,V_(S) )
【0016】覚醒度が低い領域では、操舵トルクの変化に加え、ステアリングホイールの保舵力に振動的なトルク変動を加え、運転者の覚醒を促すこともできる。この場合も、振動トルクT_(V) は、偏差er、覚醒度係数K1、及び車速V_(S) の関数となる。 T_(V) =f_(2) (K1,er,V_(S) )
【0017】またステアリングホイールに付加する振動の振幅は、偏差並びに覚醒度に応じて設定するものとする(図8参照)。
【0018】以上のようにして設定して最終的に電動機6に与えるトルク指令値T_(C)は、付加トルクT_(0) 、補助トルクT_(A) 、振動トルクT_(V) の総和となる(図9参照)。」

(2)上記(1)及び図面から分かること
3c)上記(1)3b)段落【0014】の記載から、操舵トルクの変化量およびその変化の発生頻度に基づいて覚醒度を検出することが分かる。

3d)上記(1)3b)段落【0015】の記載から、覚醒度の低下に応じて大きくなる覚醒度係数K1を求め、覚醒度係数K1を目標付加トルク決定手段7に掛けることにより、覚醒度が低くなるほど偏差に対する目標付加トルクのゲインを高めて小さな偏差で修正舵角トルクが作用することにより、車線逸脱回避性能を高めることが分かる。

3e)上記(1)3b)段落【0016】及び【0017】の記載から、覚醒度が低い領域では、操舵トルクの変化に加え、ステアリングホイールの保舵力に覚醒度係数K1に基づいた振幅の振動的トルクT_(V)を加えて運転者の覚醒を促すことが分かる。

(3)引用例3技術
上記(1)及び(2)並びに図面の記載から、引用例3には次の技術(以下、「引用例3技術」という。)が記載されている。

「操舵トルクの変化量およびその変化の発生頻度に基づいて覚醒度を検出し、覚醒度の低下に応じて大きくなる覚醒度係数K1を求め、覚醒度係数K1を目標付加トルク決定手段に掛けることにより、覚醒度が低くなるほど偏差に対する目標付加トルクのゲインを高めて小さな偏差で修正舵角トルクが作用することにより、車線逸脱回避性能を高めるとともに、覚醒度が低い領域では、操舵トルクの変化に加え、ステアリングホイールの保舵力に覚醒度係数K1に基づいた振動トルクT_(V)を加えて運転者の覚醒を促すように車両操舵装置を制御する技術。」

[3]本願発明と引用発明との対比・判断
引用発明における「車両」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「自動車」に相当し、以下同様に、「アクセル制御部14、ブレーキ制御部15及びステアリング制御部16」は「車両システム」に、「運転者の眼の開度または心拍数や体温」は「モニタリング情報」に、「計測して取り入れる」は「受信する」に、「段階」は「ステップ」に、「眠気と関連し」は「眠気を特徴付け」に、「かつ」は「且つ」に、「覚醒状態」は「身体状態指標」に、
「(1)アクセルを重くする、ブレーキを軽くする、及びステアリングを重くする、(2)ステアリングを軽くする、(3)何も制御を行わない、から選択」するは、「車両システムの特定の機能の作動を決定する」に、
「車両のアクセル制御部14、ブレーキ制御部15またはステアリング制御部16を動作する」は「車両システムを動作する」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明における「覚醒状態が第1の所定値または第2の所定値より小さいか否かを決定する段階と、覚醒状態が第1の所定値または第2の所定値より小さいか否かを決定した結果によって、
(1)アクセルを重くする、ブレーキを軽くする、及びステアリングを重くする、(2)ステアリングを軽くする、(3)何も制御を行わない、から選択して、車両のアクセル制御部14、ブレーキ制御部15またはステアリング制御部16を動作する段階」と、
本願発明における「身体状態指標に基づき、身体状態指標の関数として変化する値である制御係数を決定するステップと、
制御係数を用いて、車両システムの特定の機能の作動を決定するために使用される制御パラメータを決定するステップと、
制御パラメータを用いて車両システムを動作するステップ」とは、「身体状態指標に基づき、車両システムの特定の機能の作動を決定し、車両システムを動作するステップ」という限りにおいて一致する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「自動車の車両システムを制御する方法であって、
モニタリング情報を受信するステップと、
眠気を特徴付け、且つ前記モニタリング情報に基づく、運転者の身体状態指標を決定するステップと、
身体状態指標に基づき、車両システムの特定の機能の作動を決定し、車両システムを動作するステップと、
を含む方法。」

[相違点]
「身体状態指標に基づき、車両システムの特定の機能の作動を決定し、車両システムを動作するステップ」が、
本願発明においては、「身体状態指標に基づき、身体状態指標の関数として変化する値である制御係数を決定するステップと、
制御係数を用いて、車両システムの特定の機能の作動を決定するために使用される制御パラメータを決定するステップと、
制御パラメータを用いて車両システムを動作するステップ」であるのに対して、
引用発明においては、「覚醒状態が第1の所定値または第2の所定値より小さいか否かを判定した結果を決定する段階と、
覚醒状態が第1の所定値または第2の所定値より小さいか否かを判定した結果によって、(1)アクセルを重くする、ブレーキを軽くする、及びステアリングを重くする、(2)ステアリングを軽くする、(3)何も制御を行わない、から選択して、車両のアクセル制御部14、ブレーキ制御部15またはステアリング制御部16を動作する段階」である点(以下、「相違点」という。)。

以下、相違点について検討する。

[相違点について](検討その1)
引用例1の上記[2]1.1c)及び図3のフローチャートの記載によれば、覚醒状態が第1の所定値または第2の所定値より小さいか否かは、車両のアクセル制御部14、ブレーキ制御部15またはステアリング制御部16の動作に反映されるのであり、覚醒状態の値に対して、第1の所定値または第2の所定値をしきい値として、YかNか(論理で表すと1か0か)が判定される(図3のフローチャートの202、204のステップを参照)から、
引用発明における「覚醒状態が第1の所定値または第2の所定値より小さいか否か」(すなわち、YかNか(論理で表すと1か0か))は、本願発明における「身体状態指標に基づき、前記身体状態指標の関数として変化する値である制御係数」に相当するといえる。
さらに、車両システムの特定の機能の作動を決定するために、何らかの制御パラメータが使用されることは技術常識(例えば、制御パラメータとして、引用例2の記載(上記[2]2.(1)2d)を参照。)における車間距離を制御するための「目標車間距離X”」、または、引用例3の記載(上記[2]3.(1)3b)及び図1のブロック図を参照。)における操舵トルクを制御するための「目標付加トルクのゲイン」を参照。)(以下、「技術常識」という。)であるから、
引用発明において上記技術常識を適用し、「覚醒状態が第1の所定値または第2の所定値より小さいか否か」(制御係数)によって、「(1)アクセルを重くする、ブレーキを軽くする、及びステアリングを重くする、(2)ステアリングを軽くする、(3)何も制御を行わない、から選択」(車両システムの特定の機能の作動を決定)する際に、「車両のアクセル制御部14、ブレーキ制御部15またはステアリング制御部16」(車両システム)を動作するために使用される制御パラメータを決定する段階(ステップ)を設け、さらに、決定した制御パラメータを用いて、「車両のアクセル制御部14、ブレーキ制御部15またはステアリング制御部16」(車両システム)を動作する段階(ステップ)を設けることにより上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

そして、本願発明は、引用発明及び技術常識から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

[相違点について](検討その2)
仮に、上記[相違点について](検討その1)における、引用発明における「覚醒状態が第1の所定値または第2の所定値より小さいか否か」は、本願発明における「身体状態指標に基づき、前記身体状態指標の関数として変化する値である制御係数」に相当するものではないとした場合、以下検討を進める。

上記引用例2技術は、「運転者の眼球の動き、修正舵角の頻度、および、運転者の心拍数等(モニタリング情報)に基づいて検出した運転者の覚醒状態(身体状態指標)の高低に関連して第1補正係数α(制御係数)を設定し、第1補正係数α(制御係数)により求めた車間距離の所定値Xaを、通常車間距離であるXdに加えたものである目標車間距離X”(制御パラメータ)を用いて車間制御装置(車両システム)を動作する技術。」(括弧内は、本願発明における対応する用語を表す。)であり、
上記引用例3技術は、「操舵トルクの変化量およびその変化の発生頻度(モニタリング情報)に基づいて覚醒度(身体状態指標)を検出し、覚醒度(身体状態指標)の低下に応じて大きくなる覚醒度係数K1(制御係数)を求め、覚醒度係数K1(制御係数)を目標付加トルク決定手段に掛けることにより、覚醒度が低くなるほど偏差に対する目標付加トルクのゲイン(制御パラメータ)を高めて小さな偏差で修正舵角トルクが作用することにより、車線逸脱回避性能を高めるとともに、覚醒度が低い領域では、操舵トルクの変化に加え、ステアリングホイールの保舵力に覚醒度係数K1(制御係数)に基づいた振動トルクT_(V)(制御パラメータ)を加えて運転者の覚醒を促す(特定の機能の作動を決定する)ように車両操舵装置(車両システム)を制御する技術。」(括弧内は、本願発明における対応する用語を表す。)であって、
引用例2技術における「運転者の覚醒状態」及び引用例3技術における「覚醒度」は、それらの用語の意味から、眠気を特徴付けるものであり、
引用例2技術における「運転者の覚醒状態の高低に関連して第1補正係数αを設定」すること、及び引用例3技術における「覚醒度の低下に応じて大きくなる覚醒度係数K1を求め」ることによれば、引用例2技術の「第1補正係数α」は「運転者の覚醒状態」の高低に関連するものであり、特に、引用例3技術の「覚醒度係数K1」は「覚醒度」の低下に応じて大きくなるものであるから、「覚醒度」の関数として変化するものといえる。
そして、引用例2技術においては、第1補正係数αを設定することにより所定値Xaを求め、通常車間距離Xdに加えて目標車間距離X”とするのであるから、第1補正係数αを用いて求めた所定値Xaを通常車間距離Xdに加えて目標車間距離X”を求めることにより車間制御装置における特定の機能(運転者の覚醒度に応じた車間制御を行う機能)の作動の決定を行っているといえる。
また、引用例3技術においては、覚醒度係数K1を目標付加トルク決定手段に掛けることにより覚醒度が低くなるほど偏差に対する目標付加トルクのゲインを高めることによる車両操舵装置の特定の機能(運転者の覚醒度に応じた車線逸脱回避を行う機能)の作動の決定を行っているといえる。
さらに、引用例3技術においては、覚醒度が低い領域では、操舵トルクの変化に加え、ステアリングホイールの保舵力に覚醒度係数K1に基づいた振動トルクT_(V)を加えることにより車両操舵装置の特定の機能(運転者の覚醒を促す機能)の作動の決定を行っているといえる。
そうすると、上記引用例2技術及び引用例3技術から、本願発明の用語に倣って整理すると、以下の周知技術(以下、「周知技術」という。)を導き出すことができる。
「車両システムを制御する装置において、眠気を特徴付け、且つモニタリング情報に基づく、運転者の身体状態指標を決定するステップ、
身体状態指標に基づき、身体状態指標の関数として変化する値である制御係数を決定するステップ、
制御係数を用いて車両システムの特定の機能の作動を決定するために使用される制御パラメータを決定するステップと、
制御パラメータを用いて車両システムを動作するステップを備えること。」
してみると、引用発明において、運転者の身体の状態等から検出した眠気を特徴付ける身体状態指標に基づいて車両システムの特定の機能の作動を決定するという共通な機能を有する上記周知技術を適用して、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明は、引用発明及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

第3 むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び技術常識、または、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-14 
結審通知日 2017-04-18 
審決日 2017-05-01 
出願番号 特願2014-227769(P2014-227769)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 和人  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 松下 聡
三島木 英宏
発明の名称 運転者の挙動に応答するシステムおよび方法  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 志賀 正武  
代理人 佐伯 義文  
代理人 鈴木 三義  
代理人 寺本 光生  

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